本発明はシリコーンゴムに関し、特にシリコーンゴムの引き裂き強度の向上に有効な技術である。
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、電気特性、耐候性、衛生性等に優れることから、自動車、電気、電子、OA機器、食品、医療等の各分野で広く使用されている。
シリコーンゴムは、上記の如く優れた特性を有するものの、一般の有機ゴムに比べて、強度面で不足するとの指摘があった。そのため、シリコーンゴムの引っ張り強度や引き裂き強度の向上が種々図られてきたが、特に引き裂き強度に関しては、強度向上が困難であり、中々向上が図られていないのが現状である。
シリコーンゴムの成形方法としては、シリコーンゴムコンパウンドに所要の加硫剤を必要量配合し、その後に、加熱加圧成形または押し出し加熱成形する方法が、一般的に採用されている。しかし、かかる成形法で得られるシリコーンゴム成形品は、引き裂き強度が十分ではないため、例えば、複雑な形状をした成形品の成形においては、裂けや割れ等の不良が発生し易い。また、磨耗、引っ掻き等が懸念される用途では、簡単に裂けてしまうため使用に耐えない等の問題点が指摘されている。
シリコーンゴムに高い引き裂き強度を付与するためには、表面処理された煙霧質シリカ等の無機補強剤の添加、架橋密度に疎密をつけるシリコーンポリマーの組み合わせ、樹脂等の有機補強剤を添加する等の種々の方法が提案されてきた。例えば、特許文献1には、シリコーンゴム組成物のシロキサン成分として、オルガノポリシルアルキレンシロキサンを配合することで、引張強度、引き裂き強度の双方が向上することが開示されている。
特開平5−247349号公報
現在市販の高強度タイプのシリコーンゴムにおいては、その引き裂き強度は約30〜40N/mm程度で、使用分野においては、引き裂き強度が未だ十分でないとの指摘がある。これまで以上の引き裂き強度の向上が求められているのが現状である。
これまでの引き裂き強度の向上技術は、前記の如く、シリコーンゴムの組成物の面からの取り組みが主体で行われてきている。かかる組成物の面からのアプローチでは、シリコーンゴムを原料ゴムの状態から種々の配合剤を加えて製造する場合には有効に適用できるが、市販のシリコーンゴムコンパウンドに加硫剤を添加することでシリコーンゴムを製造する場合には適用することは難しい。
そこで、本発明者は、組成物の面からの引き裂き強度の向上を図るのではなく、市販のシリコーンゴムコンパウンドを用いてシリコーンゴムを製造する立場から、かかる引き裂き強度の向上を図れるようにする技術が必要であると考えた。
一方、本発明者は、長年の知見から、シリコーンゴムの機械的強度の向上には、架橋度合の制御が極めて重要であることを実際的体験を通して十分に認識していた。そこで、現状を打破すべく、シリコーンゴムコンパウンドに加硫剤を加える点に着目して、すなわち、架橋技術の制御と言う観点から、シリコーンゴムの引き裂き強度の向上が図れないかと、これまでにはない新たな発想のもとでの技術開発を試みた。
本発明の目的は、組成変更を行うことなく、シリコーンゴムの引き裂き強度の向上を図ることにある。
本発明者は、これまでのシリコーンゴムにおける加硫方法を詳細に見直し、その都度実験を行うことで、加硫方法の再検討を行った。その結果、加硫剤を複数回に分けて加え、加硫剤を加える毎に加硫させることで、引き裂き強度の向上が図れることを初めて見出した。
本発明は、正にかかる実験事実に裏付けされた新規な知見に基づきなされたもので、同一組成のシリコーンゴムでも、加硫方法を変えることで、その引き裂き強度の向上を図ることができる技術である。組成物の成分に拘泥することなく、加硫方法の変更で引き裂き強度の向上が図れるため、市販のシリコーンゴムコンパウンドを使用する立場で、極めて現場対応が行い易く、本発明は極めて有意義な発明である。
すなわち、本発明のシリコーンゴムの製造方法は、未加硫シリコーンゴムに加硫剤を加えて部分的に加硫させる前加硫工程と、前記前加硫工程で得られた部分加硫シリコーンゴムに加硫剤を加えて加硫させる後加硫工程とを有することを特徴とする。ここでいう部分的な加硫ないし部分加硫とは、二本ロールでロール作業(混練)が可能な程度の加硫状態とされる。かかる加硫状態は、部分的な加硫状態を有しているが、形態が固定されずに流動性を有し、さらなる混練が可能な状態までの加硫とも言える。
また、かかる構成において、前記前加硫工程での加硫剤の添加量は、前記未加硫シリコーンゴム100重量部に対して、0.001重量部以上、1.0重量部以下に設定されていることを特徴とする。
また、上記いずれかの構成のシリコーンゴムの製造方法において、前記未加硫シリコーンゴムがメチルフェニルシリコーンゴムであることを特徴とする。
また、上記いずれかの構成において、前記加硫剤は、過酸化物系加硫剤であることを特徴とする。
また、上記いずれかの構成において、前記前加硫工程で加える加硫剤と、前記後加硫工程で加える加硫剤とは、異なる加硫剤であることを特徴とする。
また、本発明の未加硫シリコーンゴムを加硫してなるシリコーンゴム組成物は、前記いずれかのシリコーンゴムの製造方法により製造されることを特徴とする。
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
本発明を適用することで、組成物の変更を行うことなく、シリコーンゴムの引き裂き強度の向上を図ることができる。
かかる引き裂き強度の向上は、シリコーンゴムの組成物の成分に拘泥することなく、加硫方法で対応することができるため、未加硫のシリコーンゴムコンパウンドの市販品を購入して加硫シリコーンゴムを製造する現場で、容易に対応することができる。
本発明のシリコーンゴムの製造方法で製造されたシリコーンゴムは、その引き裂き強度が、これまでのシリコーンゴムより高いため、これまでは難しいとされてきた防振ゴム等の分野にシリコーンゴムの適用を図ることができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明のシリコーンゴムの製造方法の一実施例の工程手順を示すフロー図である。図2は、これまでのシリコーンゴムの製造方法における工程手順を示すフロー図である。
本発明のシリコーンゴムの製造方法は、図1に示すように、ステップS100で未加硫のシリコーンゴムを準備する。使用する未加硫シリコーンゴムとしては、簡単には、市販のシリコーンゴムコンパウンドを使用すればよい。現在は、種々の組成のシリコーンゴムコンパウンドが市販され、適用製品に合わせて適宜選択することができる。
また、本発明は、例えば、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等に適用することができる。
また、市販のシリコーンゴムコンパウンドを使用することなく、当初から原料ゴムに配合剤を適宜混練する等して、独自に未加硫のシリコーンゴムコンパウンドを製造してもよいことはもちろんである。
ステップS200の前加硫工程では、ステップS100で準備した未加硫シリコーンゴムに、加硫剤を添加して加硫を行う。このステップS200の前加硫工程は、図1に示すように、ステップS210で示す加硫剤を添加する工程、ステップS220で示す混合する工程、ステップS230で示す加熱等処理する工程とから構成されている。
すなわち、ステップS210で、ステップS100で準備した未加硫シリコーンゴムに、加硫剤を添加する。添加する加硫剤は、例えば、メーカサイドからの指示に合わせた加硫剤を使用すればよい。複数種の指定があれば、用途等に合わせて適宜選択して使用すればよい。加硫剤としては、例えば、2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、P−メチルベンゾイルパーオキサイド等に代表される過酸化物系等の加硫剤を使用することができる。
一般に、市販の未加硫のシリコーンゴムコンパウンドには、標準仕様として、加硫剤の種類、添加量、使用温度、加硫時間等がメーカーから指定されているので、加硫剤の選択に際しては、かかる標準仕様を参考にして選択すればよい。
一方、標準仕様に記載の加硫剤の添加量は、加硫剤を添加して加硫させる工程を1回の工程として行う従来方法を前提とした使用量が記載されているため、かかる標準使用量をそのままステップS210で採用することはできない。
本発明者の検討では、未加硫のシリコーンゴム100重量部に対して、0.001重量部以上、1.0重量部以下の割合で、上記加硫剤を添加すればよいことが確認された。0.001重量部未満では、製造されたシリコーンゴム組成物の引き裂き強度の向上が十分でない場合もあり、一方、1.0重量部を超えると後加硫工程での加硫作業が行い難くなる。より好ましい範囲としては、0.005重量部以上、0.5重量部以下である。かかる範囲では、引き裂き強度の向上が十分に確保され、且つ後加硫工程での混合等の作業性の容易さを十分に確保することができる。
このようにして、ステップS210で未加硫シリコーンゴムに加硫剤を上記添加量の範囲で添加し、その後、ステップS220で、これらが均一になるように混合する。混合に際しては、例えば、ロール機、バンバリーミキサ、ニーダ等を使用すればよい。
ステップS220での混合後、ステップS230で加熱等の処理を行う。使用した加硫剤に合わせて所要温度に加熱したり、必要に応じて、加熱することなく室温で処理してもよい。かかる加熱等の処理は、未加硫シリコーンゴムと加硫剤との混合物を、バンバリーミキサ、あるいはニーダ内に入れた状態で行う。勿論、ハンバリーミキサ、ニーダ等から一旦取り出して、別途オーブンを用いて加熱等の処理を施してもよい。
加熱温度は、前記の如く、メーカーからの指定に合わせた標準加熱温度、標準加硫時間を参考にして、ステップS210での使用量に合わせて適宜勘案して設定する。
ステップS220の工程が終了した時点での混合物は、加硫が部分的に行われている状況と推察される。かかる混合物の状態は、加硫が最終的に終了したシリコーンゴムの状態とは異なり、例えば、加熱状態で混練機にかけてもロールに十分に巻きつく程には粘性を有してはおらず、パサパサした状態が残っている。イメージ的には、略ゲル状と表現することもできる。
このようにしてステップS200の前加硫工程で部分的に加硫した状態のシリコーンゴム混合物を、図1に示すように、ステップS300の後加硫工程で、再度加硫剤を添加してシリコーンゴムに必要な加硫を行う。後加硫工程S300は、図1に示すように、加硫剤添加工程のステップS310、混合工程のステップS320、加熱等処理工程のステップS330から構成される。
すなわち、ステップS310では、前加硫工程で未加硫シリコーンゴムに加硫剤を添加して、部分的な加硫状態が得られた部分加硫シリコーンゴムに、加硫剤を再度添加する。かかる加硫剤としては、ステップS200の前加硫工程で使用したと同じ加硫剤を使用すればよい。しかし、場合によっては、異なる加硫剤を使用することもできる。
かかる加硫剤の再添加における添加量は、本発明者の検討では、未加硫シリコーンゴム100重量部に対して、上記加硫剤を0.05重量部以上、1.5重量部以下の割合で添加すればよいことが確認された。0.05重量部未満では、シリコーンゴムに求められる最終的な加硫状態が十分に得られず、引き裂き強度の向上に繋がらない。一方、1.5重量部を超えるとシリコーンゴムが必要以上に硬くなり過ぎる。より好ましくは、0.1重量部以上、1.0重量部以下である。かかる範囲であれば、必要以上に硬くすることなく十分なシリコーンゴムの柔らかさを確保した状態で、且つ、十分な引き裂き強度の確保ができる。
尚、後加硫工程における加硫剤の添加量は、未加硫シリコーンゴム100重量部に対して規定する場合を示したが、部分加硫シリコーンゴム100重量部に対して規定するようにしてもよい。
このようにしてステップS310で所要量の加硫剤が添加された部分加硫シリコーンゴムは、ステップS320で、ほぼ均一に混合される。この混合は、例えば、ロール機、バンバリーミキサ、ニーダ等を使用して行う。
ステップS320での混合後、ステップS330で加熱等処理を行い、加硫剤添加に合わせた加硫を行う。かかる加熱等の処理としては、使用する加硫剤に合わせて、加熱して加硫した。
かかる加熱等の処理は、ステップS320で得られた混合物を、所要の成形型に入れた状態で行う。
ステップS300の後加硫工程の終了後は、必要に応じて図1に示すように、ステップS400のエージング工程で、成形型から所要の形状に形成されたシリコーンゴム成形品を取り出し、再度、所要温度に加熱することでエージングを行う。エージングは、例えば、200℃、4時間等、オーブンで行う。この時、エージング条件は、エージングするシリコーンゴムに合せて適宜設定すればよい。必要に応じてエージング処理を行うことによって、特性の安定化が図ることができるのである。
上記のように、本発明に係るシリコーンゴムの製造方法では、加硫剤を一度に添加して加硫を行わせるのではなく、複数回に分けて加硫剤を添加し、加硫剤を添加する毎に加熱等の処理を施して、最終的に加硫を完成させるようにしている。すなわち、加硫を完成させるのに必要な加硫剤を一度に添加するのではなく、加硫を完成させるのに必要な加硫剤量の一部を添加して部分的な加硫を生じせしめ、さらにその後に再度加硫剤を添加し、加硫することで、形態を固定して製品として完成させるものである。
シリコーンゴムの引き裂き強度については、微視的には、シリコーンゴムの構造内に、架橋の疎の部分と密の部分とがあることで、シリコーンゴムに所要のテンションがかかった場合でも、架橋の疎の部分でテンションの緩和を行うため、引き裂き強度が向上されるものと推察される。
そこで、本発明の如く、加硫剤を分けて添加し、添加毎に加熱処理等を施して加硫を施す手法を採用すると、加硫剤を一度に添加して加硫を行わせる場合に比べて、加硫剤再添加前後の再練りによって、部分的に架橋された部位にねじれが生じ、緊張した部分と、弛緩した部分が形成され、疎密構造と合せて二重の分散・緩和が働いて引き裂き強度が向上するのではないかと考えられられる。本発明の有効性の詳細な機序については、今後の研究を待たなければならないが、現段階では、本発明者は上記のように推察している。
本発明におけるかかる特徴的な加硫手順が分かり易いように、図2には、従来の加硫手法を示した。従来の加硫手順は、図2に示すように、ステップS100で、未加硫シリコーンゴムを準備する。ステップS100で準備した未加硫シリコーンゴムは、ステップS500で加硫が施される。
ステップS500の加硫工程は、図2に示すように、加硫を完成させるのに必要な加硫剤を添加するステップS510と、添加して加硫剤を未加硫シリコーンゴムと均一に混合するステップS520と、未加硫シリコーンゴムと加硫剤との混合物に加熱等の処理を施すステップS530とから構成されている。未加硫シリコーンゴムと加硫剤との混合物は、成形型に入れた状態で、一次加硫と称される加熱等の処理が施される。
その後、成形型からシリコーンゴム成形品が取り出され、図2のステップS400に示すように、必要に応じて別途オーブン等で所要温度、時間でエージング処理が施されて製品となる。かかるステップS400に示すエージング工程は、前記一次加硫に対して、二次加硫と呼ばれている。図1にも、一次加硫、二次加硫に対応する工程を示した。
本発明の構成では、図1の手順に示すように、図2に示す従来方法における一次加硫の前に、部分加硫の工程を設けたものと見做すこともできる。本発明では、従来方法とは異なり、加硫剤を添加して処理する加硫工程を、複数回に分けて行っている。
以上の説明の本発明に係わるシリコーンゴムの製造方法により製造したシリコーンゴムは、組成が同一のシリコーンゴムであっても、従来構成のシリコーンゴムの製造方法を適用して製造したシリコーンゴムと比べて、引き裂き強度が向上している。
また、本発明のシリコーンゴムの製造方法で製造されたシリコーンゴムに関しては、引き裂き強度試験において、特異な引き裂き現象が確認された。
通常の加硫済みシリコーンゴム製品に切れ目を入れて引き裂くと、切れ目に沿って簡単に破断する。一方、引張強度の向上が図られた市販の高強度シリコーンゴム製品の場合には、一旦切れ目に沿って僅かに裂けが進行するが、その後切れ目に対して左右いずれかの直角方向に裂け目が変化する、所謂ノッティティアーという切れ方をする。
しかし、本発明の製造方法により製造された引き裂き強度が向上したシリコーンゴム製品では、切れ目に対して左右の両方向に裂けが進行する現象が確認された。左右両方向に裂けることにより歪み応力が、左右いずれかの方向に裂ける場合よりも緩和されるため、結果として引き裂き強度が飛躍的に増大しているものと推察される。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
例えば、図1に示す場合には、前加硫工程の後に、成形型に入れて加熱処理等する後加硫工程を1工程設けた場合を示したが、ここで、前加硫工程を複数回繰り返すこととしても良い。すなわち、ステップS210からステップS230を複数回繰り返し、しかる後に後加硫工程に移ることとするものである。このとき、この複数の前加硫工程における加硫剤の合計の添加量は、本発明の前加硫工程での加硫剤の添加量の範囲を越えない範囲で適宜設定する。
また、上記前加硫工程においては、未加硫シリコーンゴムを使用して説明したが、一般に入手できる、加硫剤添加済みのシリコーンゴムコンパウンドをこの未加硫シリコーンゴムに代えて使用することもできる。その場合、例えば、この加硫剤添加済みシリコーンゴムに、別途加硫剤なしのシリコーンゴムを合せて混練するなどして、未加硫シリコーンゴムに対する加硫剤の分量を調整するなどすることにより、本発明を適用することができる。
また、図1に示すように上記説明では、前加硫工程において、加硫剤の混合と、混合後の加熱等処理工程とを別の工程に分けた場合を示したが、かかる混合、加熱等処理は、一つの工程として、すなわち混合しながら加熱等処理するようにしてもよい。すなわち、かかる場合には、図1に示すステップS220とステップS230とが、単一工程として示されることとなる。
前記実施の形態の説明では、図1に示すように、後加硫工程の後にエージング工程を設けた場合を例示したが、本発明の適用に際しては、かかるエージング工程を設けなくても構わない。
次に、上記実施の形態で説明した本発明に係わるシリコーンゴムの製造方法、及びその製造方法により製造されたシリコーンゴムについて、その引き裂き強度の向上が図れることについて、下記実施例に基づき検証する。
実施例1では、未加硫シリコーンゴムとして、GE−東芝シリコーン社製のシリコーンゴムコンパウンドTSE260−7Uを用いて、図1に示すフローに従って、シリコーンゴムの製造を行った。
前加硫工程では、図1に示すように、ステップS210に対応して、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に、過酸化物系の加硫剤として2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02重量部添加した。ステップS220に対応して、これらの混合物をロール混合機の2本ロールで均一に混合した。ステップS230に対応して、均一混合したものを、170℃のギアオーブンで20分間加熱して部分加硫を行った。
このようにして前加硫工程が終了して得られた部分加硫シリコーンゴムに対して、後加硫工程を適用した。図1に示すように、後加硫工程のステップS310に対応して、室温まで冷却した前加硫工程が終了して得られた部分加硫シリコーンゴムに、加硫剤を添加した。加硫剤は、前加硫工程で使用したと同一の2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを使用した。添加量は、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して、0.1重量部となるように設定した。
その後、ステップS320に対応して、混合物をロール混合機の2本ロールで均一に混合した。さらにステップS330に対応して、均一混合したものを、170℃、圧力9.8MPaの条件で10分間プレスし、厚さ2mmのシリコーンゴム製のシートを作成した。このようにして後加硫工程を終了した。
実施例1における前加硫工程、後加硫工程における加硫剤等の使用条件は、他の実施例の場合と併せて図3に一覧にして示した。尚、図3では、加硫剤の「2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン」を「「2,5−ジメチル」と、「p−メチルベンゾイルパーオキサイド」を「p−メチルベンゾ」と、それぞれ略記して示している。また、使用する加硫剤の添加量は、前加硫時、後加硫時ともに、未加硫シリコーンゴムコンパウンド100重量部に対しての割合である。
後加硫工程終了後は、ステップS400に対応して、後加硫工程を経て作成されたシートを、200℃で4時間加熱してエージング処理した。かかるエージング処理後のシートの物性を、硬さ、伸び、引張強さ、引裂強さの4項目について測定し、その結果を図4に示した。硬さの測定は、JIS K6253に従って行った。伸びおよび引張り強さの試験は、JIS K6521に従って行った。引裂強さの試験は、JIS K6252 切り込み無しアングル形試験にて行った。
実施例2では、未加硫シリコーンゴムとして、実施例1と同様に、GE−東芝シリコーン社製のシリコーンゴムコンパウンドTSE260−7Uを用いて、前加硫工程を行った。シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.03重量部添加し、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、150℃のギアオーブンで60分間加熱して部分加硫させた。
実施例2では、上記の如く、前加硫工程においては、加硫剤の添加量は若干異なるものの実施例1と同様の加硫剤を用いて、実施例1の場合と異なる加硫時間、加硫温度で加硫を行った。
前加硫工程終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、再度、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して0.15重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートを作成した。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。
実施例3では、未加硫シリコーンゴムとして、実施例1と同様に、GE−東芝シリコーン社製のシリコーンゴムコンパウンドTSE260−7Uを用いて、前加硫工程を行った。シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して、加硫剤としてp−メチルベンゾイルパーオキサイド0.01重量部を添加し、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、100℃のギアオーブンで30分間加熱して部分加硫させた。
前加硫工程終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して0.15重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートを作成した。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。実施例3では、前加硫工程と後加硫工程で、異なる加硫剤を使用した。
実施例4では、未加硫シリコーンゴムとして、実施例1と同様に、GE−東芝シリコーン社製のシリコーンゴムコンパウンドTSE260−7Uを用いて、前加硫工程を行った。シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02重量部を添加し、ニーダにて均一に混合し、170℃で20分間加熱して部分加硫させた。実施例4では、上記実施例1〜3の場合とは異なり、前加硫における加熱をニーダで行っている。
前加硫工程終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、再度、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して0.15重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートを作成した。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。
(比較例1)
物性比較のため、未加硫シリコーンゴムとして上記実施例1と同じGE−東芝シリコーン社製のシリコーンゴムコンパウンドTSE260−7Uを用いて、メーカーカタログ記載の従来法の加硫条件で加硫し、得られたシリコーンゴムシートの物性を図4に比較例1として示した。
2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを50%含有する加硫剤のTC−8(GE−東芝シリコーン社製)を0.6重量部添加における加硫条件は、シリコーンゴムコンパウンドTSE260−7U100重量部に対して、2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを50%含有する加硫剤のTC−8(GE−東芝シリコーン社製)を0.6重量部添加し、2本ロールのロール混合機を用いて均一に混合した。その後、170℃、圧力9.8MPaの条件で10分間プレスし、厚さ2mmのシリコーンゴム製のシートを作成した。さらに、作成されたシリコーンゴムシートを、200℃で4時間加熱して、エージング処理を行い、実施例1〜4の場合と同様にして物性を測定し、図4に示した。
図4の実施例1〜4と比較例1とを比較すると、引張強さは従来法と略同程度であるものの、引裂強さ(引き裂き強度に同じ)に関しては、本発明を適用した実施例1〜4の場合の方が、約1.4倍〜約1.6倍にも向上していることが分かり、本発明の有効性が確認できる。
(比較例2)
物性比較のため、比較例1において加硫剤のTC−8を0.3重量部添加とするほかは比較例1と同様にしてシリコーンゴムシートを得た。得られたシリコーンゴムシートの物性を図4に比較例2として示した。本比較例は加硫剤量を半減した場合の影響を比較した。
実施例5では、未加硫シリコーンゴムとして、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U(信越化学社製)を使用した。前加硫工程では、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U100重量部に対して、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.35重量部添加し、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、150℃のギアオーブンで20分間加熱して部分加硫させた。
前加硫終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、再度、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U100重量部に対して0.5重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートとした。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。
実施例6では、未加硫シリコーンゴムとして、実施例5と同様に、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U(信越化学社製)を使用した。前加硫工程では、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U100重量部に対して、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを0.1重量部添加し、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、170℃のギアオーブンで20分間加熱して部分加硫させた。
実施例6では、上記の如く、前加硫工程においては、加硫剤の添加量は若干異なるものの実施例5と同様の加硫剤を用い、実施例5の場合と異なる加硫温度で加硫を行った。
前加硫工程終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、再度、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U100重量部に対して0.5重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートとした。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。
(比較例3)
物性比較のため未加硫シリコーンゴムとして上記実施例5、6と同じシリコーンゴムコンパウンドKE5560U(信越化学社製)を使用して、メーカーカタログ記載の従来法の加硫条件で加硫し、得られたシリコーンゴムシートの物性を図4に比較例3として示した。
比較例3における加硫条件は、シリコーンゴムコンパウンドKE5560U100重量部に対して、2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを25%含有する加硫剤のC−8(信越化学社製)を2重量部添加し、2本ロールのロール混合機を用いて均一に混合した。その後、170℃、圧力9.8MPaの条件で10分間プレスし、厚さ2mmのシリコーンゴム製のシートを作成した。さらに、作成されたシリコーンゴムシートを、200℃で4時間加熱して、エージング処理を行い、実施例5、6の場合と同様にして物性を測定し、その結果を図4に示した。
図4の実施例5、6と比較例3とを比較すると、引張強さは従来法により製造した比較例3の方が僅かに優れているものの、引裂強さ(引き裂き強度に同じ)は、本発明を適用した実施例5、6の場合が約1.4倍〜約1.7倍に向上していることが分かり、本発明の有効性が確認される。
実施例7では、未加硫シリコーンゴムとして、シリコーンゴムコンパウンドSH75U(東レダウコーニングシリコーン社製)を用いて、前加硫工程を行った。シリコーンゴムコンパウンドSH75U100重量部に対して、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.3重量部を添加し、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃で20分間加熱した。
前加硫工程終了後の部分加硫シリコーンゴムを冷却後、再度、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、シリコーンゴムコンパウンドSH75U100重量部に対して0.15重量部の割合で加え、ロール混合機の2本ロールを用いて均一に混合し、温度170℃、圧力9.8MPaの条件下で10分間プレスして後加硫を施し、厚さ2mmのシートを作成した。その後温度200℃で4時間エージング処理をした。かかるシートの物性を、図4に示す。
(比較例4)
物性比較のため未加硫シリコーンゴムとして上記実施例7と同じシリコーンゴムコンパウンドSH75Uを使用して、メーカーカタログ記載の従来法の加硫条件で加硫し、得られたシリコーンゴムシートの物性を図4に比較例4として示した。
比較例4における加硫条件は、シリコーンゴムコンパウンドSH75U100重量部に対して、2,5−ジメチル−2、5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを50%含有する加硫剤のRC−4(東レダウコーニングシリコーン社製)を1.2重量部添加し、2本ロールのロール混合機を用いて均一に混合した。その後、170℃、圧力9.8MPaの条件で10分間プレスし、厚さ2mmのシリコーンゴム製のシートを作成した。さらに、作成されたシリコーンゴムシートを、200℃の温度で4時間加熱してエージング処理を行った。エージング処理後のシートに対して、実施例7の場合と同様にして物性を測定し、その結果を図4に示した。
図4の実施例7と比較例4とを比較すると、引張強さ、引裂強さ(引き裂き強度に同じ)ともに比較例4の場合よりも向上し、特に、引裂強さに関しては、約1.5倍に向上していることが分かる。
以上の結果から、本発明の有効性が上記実施例からも確認される。
本発明は、シリコーンゴムの引き裂き強度の向上技術の分野で有効に利用することができる。
本発明に係わるシリコーンゴムの製造方法の工程手順を示すフロー図である。
従来のシリコーンゴムの製造方法における工程手順を示すフロー図である。
本発明を適用した各実施例の加硫条件を一覧に示したものである。
本発明を適用した各実施例と、従来法の比較例との物性比較を一覧に示したものである。
符号の説明
S100、S200、S210、S220、S230 ステップ
S300、S310、S320、S330、S400 ステップ
S510、S520、S530 ステップ