JP4575584B2 - 表皮材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は表皮材の製造方法に関し、更に詳細には、樹脂製の表皮材の表面を超音波カッタで溶融切開して未貫通の溝部を形成するに際して、形成直後の溝部の形状を安定化させ得る表皮材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インストルメントパネルに代表されるソフトタイプの車両用内装部材は、例えばPP射出成形品である基材とPVC真空成形品である表皮材との間に、ウレタンフォーム等の発泡材を介在させた三層構造になっている。またハードタイプの車両用内装部材としては、ポリプロピレン(PP)や熱可塑性ポリオレフィン(TPO)を材質とする表皮材の単層構造や、該表皮材にエアバッグドアの補強を目的としたTPO材を裏打ちした多層構造のものが知られている。そして前記の如き樹脂材質からなる車両用内装部材には、衝突時の安全手段としてエアバッグ装置が内蔵されるケースが多い。この場合は、前記エアバッグ装置の作動に際しエアバッグが瞬時に膨張し、車両用内装部材の一部を構成する前記表皮材の表面を開裂して飛び出ることで乗員の安全を確保する。従って前記表皮材の表面には、エアバッグ作動に際してエアバッグ装置のドアを開放するために、該ドアの輪郭に従った開裂予定線が予め形成されている。
【0003】
この開裂予定線は、表皮材の表面を切開して得られる非貫通の溝部であって、エアバッグの膨張により内部からの力が加わることで該予定線に沿って容易に開裂し、該エアバッグの膨出を許容するというものである。なおエアバッグ用ドアの開裂予定線の外にも、例えばインストルメントパネルに空調用吹出口を開設するに際して、その部位を除去することで吹出口となし得るように、該吹出口の輪郭形状に沿って前記溝部を形成しておくこともある。
【0004】
前述した所要長の溝部を表皮材の表面に非貫通で形成するには、一般に図7および図8に示す超音波カッタが使用される。すなわちインストルメントパネルの如き車両用内装部材の一部を構成する表皮材10を支持台12に載置し、超音波カッタ14の刃先14aを該表皮材10に押し当てて矢印方向へ移動させることで、所要長で断面がV字状をなす溝部16が切開される。ここで前記超音波カッタ14は、超音波振動子をカッタ本体に内蔵し、この超音波振動子が発生する超音波振動をカッタ刃先に伝達することで、表皮材10の樹脂表面を溶融させつつ所要深さまで切開するものである。なお図示例では、表皮材10に対して超音波カッタ14を移動させるようにしてあるが、逆に超音波カッタ14に対して表皮材10を移動させるようにしてもよい。
【0005】
【発明が解決すべき課題】
このように樹脂製の表皮材10と超音波カッタ14とを相対移動させ、この超音波カッタ14により該表皮材10の表面を溶融切開させることで所要長の溝部16を形成するに際し、該溝部16の深さによっては次の如き不都合を生ずることが判っている。例えば、厚み3.5ミリのポリプロピレン製表皮材10に超音波カッタ14で残厚0.8ミリ(溝部の谷底から表皮材の裏面までの厚み)の溝部16を切開する場合、図9の(1)に示す如く、該表皮材10に前記カッタ14で溶融させられた樹脂10aは矢印方向へ押し広げられる。そして超音波カッタ14が通過した後は、該カッタ14により加えられていた圧力が解除されるため、図9の(2)に示すように溶融樹脂10aは逆方向へ反発し、溝部16の内部へ流下して再溶着するに至る。
【0006】
このため表皮材10に切開されて長手方向に連続する溝部16は、その部位によってエアバッグ装置が作動した際の開裂強度に相違を生じさせ、場合によってはエアバッグの展開性能にバラツキが生ずる難点が指摘される。また表皮材10へ溝部16を形成した後は、例えばレーザー光により加工量が適切であったかを測定することになるが、該溝部16に前記樹脂10aの再溶着を生じていると、正確な加工量測定をなし得ず、従って性能保証をなし得ないことにもなってしまう。
【0007】
【発明の目的】
本発明は、前述した課題を好適に解決するために提案されたものであって、樹脂製の表皮材の表面を超音波カッタで溶融切開して未貫通の溝部を形成するに際して、形成直後における溶融樹脂の不都合な再溶融を防止して、該溝部の形状を安定化させ得る表皮材の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【発明を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本発明に係る表皮材の製造方法は、車両用内装部材に用いられる樹脂製の表皮材と超音波カッタとを相対移動させ、前記超音波カッタにより前記表皮材の表面を溶融することで溝部を形成し、
前記溝部の形成直後に、回転自在に支持された円板状のトレース部材を、樹脂が溶融状態にある前記溝部に圧接した状態で該溝部に沿ってトレースすることで、前記トレース部材における溝部へ突入した部分の形状を該溝部に付与することを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に本発明に係る表皮材の製造方法について、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。なお図7〜図9で述べた部材と同一または同等部材については、同じ参照符号で指示する。また実施例の表皮材としては、インストルメントパネルに代表される車両用内装部材の全部または一部となるものを想定しているが、先に述べたソフトタイプおよびハードタイプの何れであってもよい。
【0010】
図1は、本発明に係る表皮材の製造方法を実施する装置の概略側面図であって、所要寸法の表皮材10は矩形状の平坦な載置面を構成する支持台18に載置されている。この支持台18の上方には、例えばステッピングモータにより座標面上をX方向、Y方向およびそれらの合成方向に任意に駆動される超音波カッタ14が配設されて、そのカッタ先端14aを前記表皮材10に接離自在とさせている。すなわち図示しない制御部からの制御指令により、前記超音波カッタ14は表皮材10に強制的に押し当てられた後、所要の溝部形成パターンに従って該超音波カッタ14に所要の座標運動が与えられる。これにタイミングを合わせて超音波カッタ14の超音波振動源(図示せず)への通電がなされ、表皮材10を構成する樹脂を溶融させることで、例えばV溝状の溝部16が切開される。
【0011】
図1に示すように、超音波カッタ14における後方側、すなわち該カッタ14が進行する軌跡の直後に、断面が前記溝部16に略合致する形状を有するトレース部材20が配設され、このトレース部材20は切開された直後の該溝部16を圧接的にトレース(追従)移動し得るようになっている。前記トレース部材20は基本的に円板状の回転体であって、前記超音波カッタ14の後方側に並列的に取付けた支持フォーク22の下端部に軸ピン24を介して自由回転自在に枢支されている。またトレース部材20が回転体であるから、該トレース部材20の断面形状を、図1のII−II線断面図である図2の(1)に示す如くV字形としたり、図2の(2)に示す如く台形状としたりすることができる。
【0012】
従って、超音波カッタ14により表皮材10の表面を溶融させて溝部16を形成した直後に、前記トレース部材20により該溝部16を圧接的にトレースすることで溶融状態となった樹脂は外方へ押し付けられ、その結果として形成直後の溝部16の形状の安定化が図られる。
【0013】
また図1に示すように、空気吹付け管26が前記支持フォーク22の後方側にステー25を介して取付けられ、この吹付け管26の開口部を前記トレース部材20と溝部16との当接部位に指向させている。従って、超音波カッタ14により表皮材10の表面に溝部16を溶融形成した後に、前記トレース部材20が該溝部16をトレースした部位を空気吹付けすることで早期冷却がなされ、これによっても形成直後の溝部16の形状の安定化が一層図られる。なお空気吹付け管26の開口部を、前記トレース部材20の後方側に指向させることで、吹付け空気により該トレース部材20を直接冷却するようにしてもよい。
【0014】
図3は、トレース部材20として円板状の回転体を使用した場合の変形例を示すものであって、この変形例では円板状トレース部材20の外周に所要間隔で凹部28が形成されている。図示例では、90度間隔で計4つの凹部28が設けられている。従って超音波カッタ14により表皮材10に溝部16を形成した直後に、該溝部16にトレース部材20を押し当ててトレースすることで該トレース部材20は回転し、図4に示すように溝部16には所要間隔で段部30が形成されることになる。このように溝部16に段部30を所要の間隔で設けることによって、前記開裂予定線での開裂強度を上げる方向に変化させることができる。
【0015】
図5は、トレース部材20として円板状の回転体を使用した場合の更に別の変形例を示すものであって、この変形例では円板状トレース部材20の外周に所要ピッチで山形部32が連続的に形成されている。従って超音波カッタ14により表皮材10に溝部16を形成した直後に、該溝部16にこのトレース部材20を押し当ててトレースすることで、図6に示すように溝部16には所要ピッチで山形段部34が形成されることになる。この場合に、図5における円Aで囲んだ部位の拡大図に示す如く、表皮材10に形成される山形段部34における谷部の最奥部と、該表皮材10の表面との間の厚み(残厚)tは、通常の一定残厚になる溝部16の場合よりも薄肉に設定しても、この残厚tが生じるのは局部的に留まるため、表皮材10の表面に及ぼす外観的な影響は殆ど無視し得る程度となる。すなわち前記溝部16に山形段部32を所要ピッチで設けることで、所要強度の開裂予定線を確保しつつも、溝部形成後の表皮材10の外表面に艶むらやシボ消え等の意匠上の難点が生ずる畏れを回避し得る。
【0016】
このように実施例に係る表皮材の製造方法は、超音波カッタ14により表皮材10の表面を溶融させて溝部16を形成した直後に、トレース部材20により該溝部16を圧接的にトレースするものである。これにより前記溶融状態となった樹脂は外方側へ押し付けられ、従って形成直後の溝部16の形状の安定化が図られる。またこの場合に、例えば空気吹付け管26からの空気を、前記トレース部材20が溝部16をトレースしている部位に吹付けて冷却することで、該溝部16の形状の安定化がより良好に実現される。
【0017】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本発明に係る表皮材の製造方法によれば、樹脂製の表皮材の表面を超音波カッタで溶融切開して未貫通の溝部を形成するに際し、形成直後における溶融樹脂の不都合な再溶融を防止して、該溝部の形状を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る表皮材の製造方法を実施する装置の概略側面図である。
【図2】図1に示す溝部形成装置のII−II線断面図であって、(1)はV字形断面とした例であり、(2)は台形状断面とした例である。
【図3】トレース部材として円板状の回転体を使用した場合の変形例を示す概略側面図であって、該トレース部材の外周に所要間隔で凹部を形成した状態を示している。
【図4】図3に示すトレース部材を使用することで、溝部に所要間隔で段部を形成した状態を示す概略斜視図である。
【図5】トレース部材として円板状の回転体を使用した場合の変形例を示す概略側面図であって、該トレース部材の外周に所要ピッチで山形部を形成した状態を示している。
【図6】図5に示すトレース部材を使用することで、溝部に所要ピッチの山形段部を形成した状態を示す概略斜視図である。
【図7】表皮材に超音波カッタを押し当てて表面に溝部を形成している状態を示す側面図である。
【図8】図7の正面図である。
【図9】表皮材に超音波カッタで溝部を切開した場合の説明図であって、(1)は該カッタで溶融させられた樹脂が溝部の矢印方向へ押し広げられた状態を示し、(2)はカッタ通過後の圧力解除によって、溶融樹脂が逆方向へ反発して溝部の内部で再溶着する状態を示している。
【符号の説明】
10 表皮材
14 超音波カッタ
16 溝部
20 トレース部材
28 凹部
30 段部
32 山形部
34 山形段部
Claims (5)
- 車両用内装部材に用いられる樹脂製の表皮材(10)と超音波カッタ(14)とを相対移動させ、前記超音波カッタ(14)により前記表皮材(10)の表面を溶融することで溝部(16)を形成し、
前記溝部(16)の形成直後に、回転自在に支持された円板状のトレース部材(20)を、樹脂が溶融状態にある前記溝部(16)に圧接した状態で該溝部(16)に沿ってトレースすることで、前記トレース部材(20)における溝部(16)へ突入した部分の形状を該溝部(16)に付与する
ことを特徴とする表皮材の製造方法。 - 前記トレース部材(20)に空気の吹付けがなされる請求項1記載の表皮材の製造方法。
- 前記トレース部材(20)と溝部(16)との当接部位に空気の吹付けがなされる請求項1記載の表皮材の製造方法。
- 前記トレース部材(20)の外周に所要間隔で形成された凹部(28)により、前記トレース部材(20)のトレースに際して前記溝部(16)に前記凹部(28)の間隔毎に段部(30)を形成する請求項1〜3の何れか一項に記載の表皮材の製造方法。
- 前記トレース部材(20)の外周に連続的に形成された山形部(32)により、前記トレース部材(20)のトレースに際して前記溝部(16)に前記山形部(32)のピッチで山形段部(34)を形成する請求項1〜3の何れか一項に記載の表皮材の製造方法。
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