JP4568944B2 - エポキシ樹脂組成物及び半導体装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲン系難燃剤、アンチモン化合物を含まず、難燃性、高温保管特性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及び半導体装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の電子部品は、主にエポキシ樹脂組成物で封止されている。これらのエポキシ樹脂組成物中には、難燃性を付与するためにハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物が配合されている。ところが、環境・衛生の点からハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物を使用しないで、難燃性に優れたエポキシ樹脂組成物の開発が要求されている。
又、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を含むエポキシ樹脂組成物で封止された半導体装置を高温下で保管した場合、これらの難燃剤成分から熱分解したハロゲン化物が遊離し、半導体素子の接合部を腐食し、半導体装置の信頼性を損なうことが知られており、難燃剤としてハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物を使用しなくても難燃グレードがUL−94のV−0を達成できるエポキシ樹脂組成物が要求されている。
このように、半導体装置を高温下(例えば、185℃等)に保管した後の半導体素子の接合部(ボンディングパッド部)の耐腐食性のことを高温保管特性といい、この高温保管特性を改善する手法としては、五酸化二アンチモンを使用する方法(特開昭55−146950号公報)や、酸化アンチモンと有機ホスフィンとを組み合わせる方法(特開昭61−53321号公報)等が提案され、効果が確認されているが、最近の半導体装置に対する高温保管特性の高い要求レベルに対して、エポキシ樹脂組成物の種類によっては不満足なものもある。
又、難燃剤としてほう酸亜鉛が提案されており、多量に添加することにより難燃グレードV−0を達成でき、高温保管特性も問題ないが、添加量が多いことにより耐湿信頼性、成形性、耐半田クラック性が低下するという問題がある。
前記欠点を改良した技術として、特定の金属水酸化物と特定の金属酸化物の併用、或いは特定の金属水酸化物と特定の金属酸化物の複合化金属水酸化物を用いることにより、難燃性と耐湿信頼性を解決する提案がされているが(特開平10−251486号公報、特開平11−11945号公報等)、十分な難燃性を発現させるためには、多量の添加を必要とし、そのため成形性、耐半田クラック性の低下を引きおこす問題がある。
又、近年成形性の点からマルチ成形が増え、成形サイクルも短くなってきており、ほう酸亜鉛を用いたものでは、硬化性が低下して成形サイクルの短縮がうまくできないといった問題も発生しはじめてきた。硬化性向上の手段としては、硬化促進剤の配合量の増加等が挙げられるが、流動性低下(粘度の上昇)によって充填不良やワイヤー断線といった問題が起こってしまう。
即ち、難燃性を維持し、成形性、速硬化性、高温保管特性、耐湿信頼性及び耐半田クラック性に優れ、ハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物を使用しないエポキシ樹脂組成物が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物を含まず成形性、速硬化性、難燃性、高温保管特性、耐湿信頼性及び耐半田クラック性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いて半導体素子を封止してなる半導体装置を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、ハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物を含まず成形性、速硬化性、難燃性、高温保管特性、耐湿信頼性及び耐半田クラック性を向上させるべく鋭意検討した結果、特定の難燃剤と特定の化合物を硬化促進剤として用いたエポキシ樹脂組成物が極めて優れた特性を示すことを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)テトラ置換ホスホニウム化合物、(D)無機充填材、(E)一般式(1)で示される金属水酸化物固溶体、及び(F)一般式(2)で示されるほう酸亜鉛を必須成分とし、
Mg1-xM2+ x(OH)2 (1)
(式中M2+は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群から選ばれた少なくとも1種の二価金属イオンを示し、xは0.01≦x≦0.5の数を示す)
pZnO・qB2O3・rH2O (2)
(式中p、q、rは正数)
より好ましくは、テトラ置換ホスホニウム化合物が、一般式(3)で示される化合物、一般式(4)で示される化合物、(G)テトラ置換ホスホニウム(X)と1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)及び1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)の共役塩基との分子会合体であって、該共役塩基が前記フェノール性水酸基を1分子内に2個以上有する化合物(Y)から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物からなるもの、の中から選択される1種以上で、一般式(1)で示される金属水酸化物固溶体のM2+がZn2+又はNi2+で、ほう酸亜鉛が2ZnO・3B2O3・3.5H2Oであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置である。
【化3】
(式中のR1〜R4は炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基の中から選択される同一もしくは異なる基)
【0005】
【化4】
(ここで、R5はアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を言い、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(フェニレン骨格、ジフェニレン骨格等を有する)等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。
【0007】
本発明に用いるフェノール樹脂としては、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を言い、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(フェニレン骨格、ジフェニレン骨格等を有する)、ナフトールアラルキル樹脂等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。これらの内では特に、フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂等が好ましい。
これらの配合量としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数の比が0.8〜1.3が好ましい。
【0008】
本発明に用いる硬化促進剤は、テトラ置換ホスホニウム化合物であり、潜伏性を有するものである。この硬化促進剤は、比較的低温域においては触媒活性を示さないので、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が進むことがない。即ち、各成分の加熱混練時に、一部の架橋反応が速やかに進むことがなく所定の流動性を保持し、又、同じ理由からエポキシ樹脂組成物の常温保存特性にも優れる。しかも成形時の高温域では従来の硬化促進剤よりも強い触媒活性を示し、エポキシ樹脂組成物を高度に硬化させる。
本発明のテトラ置換ホスホニウム化合物としては、一般式(3)で示されるテトラフェニルホスホニウム・テトラ置換ボレート、一般式(4)で示される化合物、(G)テトラ置換ホスホニウム(X)と1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)及び1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)の共役塩基との分子会合体であって、該共役塩基が前記フェノール性水酸基を1分子内に2個以上有する化合物(Y)から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物からなるもの、の中から選択される1種以上が好ましい。
【0009】
一般式(3)で示されるテトラフェニルホスホニウム・テトラ置換ボレート化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラエチルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラブチルボレート等が挙げられ、これらの中では、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラブチルボレートが好ましい。
一般式(4)で示される化合物としては、R5がアルキル基、フェニル基、又はナフチル基であるものが好ましく、特に、R5がナフチル基であるものが好ましい。
【0010】
本発明の分子会合体は、テトラ置換ホスホニウム(X)と1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)及び1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)の共役塩基との分子会合体であって、該共役塩基は、前記フェノール性水酸基を1分子内に2個以上有する化合物(Y)から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物である。
本発明の分子会合体の構成成分の一つであるテトラ置換ホスホニウム(X)の置換基としては、何ら限定されず、置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、置換又は無置換のアリール基やアルキル基を置換基に有するテトラ置換ホスホニウムイオンが、熱や加水分解に対して安定であり好ましい。具体的には、テトラフェニルホスホニウム、テトラトリルホスホニウム、テトラエチルフェニルホスホニウム、テトラメトキシフェニルホスホニウム、テトラナフチルホスホニウム、テトラベンジルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、n−ブチルトリフェニルホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム、トリメチルフェニルホスホニウム、メチルジエチルフェニルホスホニウム、メチルジアリルフェニルホスホニウム、テトラ−n−ブチルホスホニウム等を例示できる。
【0011】
本発明の分子会合体の構成成分である、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(通称テトラメチルビスフェノールF)、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)−(4−ヒドロキシフェニル)メタン及びこれらの内ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)−(4−ヒドロキシフェニル)メタンの3種の混合物(例えば、本州化学工業(株)・製、ビスフェノールF−D)等のビスフェノール類、1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール等のジヒドロキシベンゼン類、1,2,4−ベンゼントリオール等のトリヒドロキシベンゼン類、1,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類の各種異性体、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール等のビフェノール類の各種異性体等の化合物が挙げられる。
更に、他の構成成分である共役塩基は、上記の化合物(Y)から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物である。
【0012】
本発明の分子会合体は、前述のようにホスホニウム−フェノキシド型の塩を構造中に有するが、従来の技術におけるホスホニウム−有機酸アニオン塩型の化合物と異なる点は、本発明の分子会合体では水素結合による高次構造がイオン結合を取り囲んでいる点である。従来の技術における塩では、イオン結合の強さのみにより反応性を制御しているのに対し、本発明の分子会合体では、常温ではアニオンの高次構造による囲い込みが活性点の保護を行う一方、成形の段階においては、この高次構造が崩れることで活性点がむき出しになり、反応性を発現する、いわゆる潜伏性が付与されている。
【0013】
本発明の分子会合体の製造方法としては、何ら限定されないが、代表的な2方法を挙げることができる。
1つ目は、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート(Z)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)とを、高温下で反応させた後、更に沸点60℃以上の溶媒中で熱反応させる方法である。
2つ目は、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)と、無機塩基又は有機塩基と、テトラ置換ホスホニウムハライドとを反応させる方法である。用いるテトラ置換ホスホニウムハライドの置換基については、何ら限定されることはなく、置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、置換又は無置換のアリール基やアルキル基を置換基に有するテトラ置換ホスホニウムイオンが、熱や加水分解に対して安定であり好ましい。具体的には、テトラフェニルホスホニウム、テトラトリルホスホニウム、テトラエチルフェニルホスホニウム、テトラメトキシフェニルホスホニウム、テトラナフチルホスホニウム、テトラベンジルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、n−ブチルトリフェニルホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム、トリメチルフェニルホスホニウム、メチルジエチルフェニルホスホニウム、メチルジアリルフェニルホスホニウム、テトラ−n−ブチルホスホニウム等を例示できる。ハライドとしてはクロライドやブロマイドを例示でき、テトラ置換ホスホニウムハライドの価格や吸湿等の特性、及び入手のし易さから選択すれば良く、いずれを用いても差し支えない。
【0014】
又、本発明のテトラ置換ホスホニウム化合物の特性を損なわない範囲で、他の硬化促進剤を併用しても良い。併用できるものとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリフェニルホスフィン、2−メチルイミダゾール等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。
本発明の硬化促進剤の配合量としては、全エポキシ樹脂と全フェノール樹脂の合計量100重量部あたり1.0〜2.5重量部が好ましく、通常70〜150℃で混合することができる。配合量が1.0重量部未満だと、加熱成形時に充分な硬化性が得られないおそれがあり、一方、2.5重量部を越えると、硬化が速すぎて成形時に流動性の低下による充填不良等を生じるおそれがあるので好ましくない。
【0015】
本発明に用いる無機充填材としては、一般に封止材料に使用されているものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、窒化珪素等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。無機充填材の配合量としては、金属水酸化物固溶体及びほう酸亜鉛と前記の無機充填材との合計量が、成形性と耐半田クラック性のバランスから、全エポキシ樹脂組成物中に60〜95重量%であることが好ましい。60重量%未満だと、吸水率の上昇に伴う耐半田クラック性が低下し、95重量%を越えると、ワイヤースィープ及びパッドシフト等の成形性の問題が生じ、好ましくない。
【0016】
本発明に用いる一般式(1)で示される金属水酸化物固溶体は、難燃剤として作用し、その難燃機構としては、燃焼時に金属水酸化物固溶体が脱水を開始し、吸熱することによって燃焼反応を阻害し、又、硬化した樹脂成分の炭化が促進して硬化物表面に酸素を遮断する難燃層を形成すると考えられる。
更に、本発明の金属水酸化物固溶体は、吸熱開始温度を適度に下げ、難燃性能を向上する効果がある。吸熱開始温度が低いと成形性、信頼性に悪影響を及ぼし、又、吸熱開始温度が樹脂成分の分解温度より高いと難燃性が低下するが、本発明の金属水酸化物固溶体の吸熱開始温度は、300〜350℃近辺で適度な値である。これらの内で特に好ましいM2+としては、Ni2+、Zn2+である。
本発明の金属水酸化物固溶体の配合量としては、全エポキシ樹脂組成物中に1〜15重量%が好ましく、更に好ましくは1〜10重量%である。1重量%未満だと難燃性が不足し、15重量%を越えると耐半田クラック性、成形性が低下するので好ましくない。本発明の金属水酸化物固溶体の平均粒径としては、0.5〜30μmが好ましく、更に好ましくは0.5〜10μmである。
【0017】
本発明に用いる一般式(2)で示されるほう酸亜鉛は、金属水酸化物固溶体と同様に、難燃剤として作用する。一般式(2)で示されるほう酸亜鉛は、難燃性と耐湿信頼性との兼ね合いから2ZnO・3B2O3・3.5H2Oや4ZnO・B2O3・H2O等が挙げられ、特に、2ZnO・3B2O3・3.5H2Oが高い難燃性を示す。ほう酸亜鉛の配合量としては、全エポキシ樹脂組成物中に1〜20重量%が好ましく、更に好ましくは1〜10重量%である。1重量%未満だと難燃性が不足し、20重量%を越えると耐湿信頼性、成形性が低下するので好ましくない。平均粒径としては1〜30μmが好ましく、更に好ましくは5〜20μmである。
【0018】
金属水酸化物固溶体及びほう酸亜鉛は、各々単独でも難燃性を付与する性質があるが、十分な難燃性を発現させるには、多量の配合量が必要となる。しかし多量に配合すると、成形性及び強度の低下、吸水率の増加を引き起こす傾向にあり、耐半田クラック性が低下する。これらの諸物性の低下を防ぐためにも配合量は極力少なくする必要がある。
本発明者は、金属水酸化物固溶体とほう酸亜鉛とを併用することにより、その相乗効果として更に難燃性が向上し、配合量を低減できることを見いだした。
各々の難燃剤とも燃焼時の吸熱作用があり、更に金属水酸化物固溶体は、硬化した樹脂成分の炭化を促進させ、ほう酸亜鉛はガラス状被膜形成による炭化層の強度を向上させる作用がある。理由は定かでないが、両者を併用することにより、互いの能力を補い合い、その相乗効果として高い難燃性を得ることができる。
その結果として、配合量を少なくしても難燃性を維持し、成形性及び強度の低下、吸水率の増加等を防ぐことができる。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(F)成分を必須成分とするが、これ以外に必要に応じてシランカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤、及びシリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤等の種々の添加剤を適宜配合しても差し支えない。
又、本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(F)成分、及びその他の添加剤等をミキサー等を用いて充分に均一に混合した後、更に熱ロール又はニーダー等で溶融混練し、冷却後粉砕して得られる。
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造するには、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来からの成形方法で硬化成形すればよい。
【0020】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、実施例、及び比較例で用いたエポキシ樹脂、フェノール樹脂の略号及び構造を、以下にまとめて示す。
エポキシ樹脂(E−1):式(E−1)で示されるエポキシ樹脂(エポキシ当量265g/eq)
【化5】
【0021】
エポキシ樹脂(E−2):式(E−2)で示される構造を主成分とするエポキシ樹脂(エポキシ当量190g/eq)
【化6】
【0022】
フェノール樹脂(H−1):式(H−1)で示されるフェノール樹脂(水酸基当量104g/eq)
【化7】
【0023】
フェノール樹脂(H−2):式(H−2)で示されるフェノール樹脂(水酸基当量165g/eq)
【化8】
【0024】
[分子会合体の合成例]
(合成例1)
本州化学工業(株)・製ビスフェノールF−D[ビス(モノヒドロキシフェニル)メタンの異性体混合物の商品名。化合物(Y)に相当。]300g(1.5モル)と、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート(Z)329g(0.5モル)とを3Lセパラブルフラスコに仕込み、200℃で3時間反応させた。この反応でのベンゼン留出量は、理論生成量の97重量%(即ちベンゼン留出率97%)であった。この反応による粗生成物を微粉砕し、セパラブルフラスコに仕込み、2−プロパノールを粗生成物の仕込み重量の3倍量加え、内温82.4℃(2−プロパノールの沸点温度)で1.5時間攪拌した。その後、2−プロパノールの大部分を除去し、更に加熱減圧下で低沸点分を除去した。得られた生成物を化合物G1とした。又、溶媒を重メタノールとして、G1の1H−NMRでの測定を行った。4.8ppm付近及び3.3ppm付近のピークは溶媒のピークで、6.4〜7.1ppm付近のピーク群は、原料であるビスフェノールF[(X)1モルに対するモル数(a)]及びこのビスフェノールFから1個の水素を除いたフェノキシド型の共役塩基[(X)1モルに対するモル数(b)]のフェニルプロトン、7.6〜8.0ppm付近のピーク群は、テトラフェニルホスホニウム基のフェニルプロトンと帰属され、それらの面積比から、モル比が(a+b)/(X)=2.2/1であると計算された。
【0025】
(合成例2)
5Lのセパラブルフラスコに、本州化学工業(株)・製ビスフェノールF−D(化合物(Y)に相当)300g(1.5モル)、北興化学工業(株)・製テトラフェニルホスホニウムブロマイド314g(0.75モル)、メタノール3000gを仕込み、完全に溶解させた。そこに水酸化ナトリウムを30g含有するメタノール/水混合溶液を攪拌しながら滴下した。得られた溶液を多量の水中に滴下する再沈作業を行い、目的物を固形物として得た。濾過して固形物を取り出し、乾燥させて得られた生成物を化合物G2とした。又、溶媒を重メタノールとして、G2の1H−NMRでの測定を行った。4.8ppm付近及び3.3ppm付近のピークは溶媒のピークで、6.4〜7.1ppm付近のピーク群は、原料であるビスフェノールF[(X)1モルに対するモル数(a)]及びこのビスフェノールFから1個の水素を除いたフェノキシド型の共役塩基[(X)1モルに対するモル数(b)]のフェニルプロトン、7.6〜8.0ppm付近のピーク群は、テトラフェニルホスホニウム基のフェニルプロトンと帰属され、それらの面積比から、モル比が(a+b)/(X)=2/1であると計算された。
【0026】
[エポキシ樹脂組成物の製造例]
配合割合は重量部とする。
(実施例1)
エポキシ樹脂(E−1) 13.3重量部
フェノール樹脂(H−1) 5.2重量部
テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート(以下、TPPKとい
う) 0.25重量部
溶融球状シリカ 67.95重量部
金属水酸化物固溶体(Mg0.8Zn0.2(OH)2、平均粒径1μm)
6.0重量部
ほう酸亜鉛(2ZnO・3B2O3・3.5H2O、平均粒径10μm)
6.0重量部
エポキシシランカップリング剤 0.5重量部
カーボンブラック 0.3重量部
カルナバワックス 0.5重量部
を常温でスーパーミキサーを用いて混合し、70〜100℃でロール混練し、冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0027】
評価方法
スパイラルフロー:EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、金型温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で測定した。
ショアD硬度:金型温度180℃、注入圧力100kg/cm2、硬化時間50秒で成形し、型開き10秒後に測定したショアD硬度の値を硬化性とする。ショアD硬度は硬化性の指標であり、数値が大きい方が硬化性が良好である。
難燃性:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で試験片(127mm×12.7mm×3.2mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間処理した後、UL−94垂直法に準じて難燃性を判定した。
熱時強度:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で試験片(80mm×10mm×4mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間処理した後、240℃での曲げ強度をJIS K 6911に準じて測定した。単位はN/mm2。
吸水率:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で試験円盤(直径50mm、厚さ4mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間処理した後、150℃で16時間乾燥処理を行い、85℃、相対湿度85%で168時間処理を行ったものについて、初期重量に対する増加重量の百分率を求めた。単位は%。
耐半田クラック性:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で80pQFP(2mm厚、チップサイズ9.0mm×9.0mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間処理した後、85℃、相対湿度85%で96時間の処理を行い、IRリフロー処理(240℃、10秒)を行った。超音波探傷機を用いて、パッケージ内部の剥離、クラック等の不良を観察した。6個のパッケージ中の不良パッケージ数を示す。
高温保管特性:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で16pDIP(チップサイズ3.0mm×3.5mm)を成形し、アフターベークとして175℃、8時間処理した後、高温保管試験(185℃、1000時間)を行い、配線間の電気抵抗値が初期値に対し20%増加したパッケージを不良と判定した。15個のパッケージ中の不良率を百分率で示す。単位は%。
耐湿性:低圧トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、圧力70kg/cm2、硬化時間120秒で16pDIP(チップサイズ3.0mm×3.5mm)を成形した。その後プレッシャークッカー試験(125℃、2.4kg/cm2)を行い、回路のオープン不良を50時間ごとに測定したときの不良発生時間を測定した。単位は時間。
25℃保存性:25℃で7日間保存した後、スパイラルフローを測定し、調整直後のスパイラルフローに対する百分率として表した。単位は%。
【0028】
(実施例2〜11、比較例1〜6)
表1、表2の配合に従い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得て、実施例1と同様にして評価した。結果を表1、表2に示す。
実施例3〜7、実施例11、比較例3、比較例5に用いた硬化促進剤は、式(5)で示される化合物である
比較例2、比較例6に用いた硬化促進剤は、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下、DBUという)である。
比較例1に用いた臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、365g/eq.である。
【化9】
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【発明の効果】
本発明に従うと、ハロゲン系難燃剤、及びアンチモン化合物を含まず、成形性、速硬化性、流動性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られ、これを用いた半導体装置は難燃性、高温保管特性、耐湿信頼性及び耐半田クラック性に優れる。
Claims (6)
- (A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)テトラ置換ホスホニウム化合物、(D)無機充填材、(E)一般式(1)で示される金属水酸化物固溶体、及び(F)一般式(2)で示されるほう酸亜鉛を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、(D)無機充填材が、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、又は窒化珪素であり、(C)テトラ置換ホスホニウム化合物が、一般式(3)で示される化合物、一般式(4)で示される化合物、(G)テトラ置換ホスホニウム(X)と1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)及び1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)の共役塩基との分子会合体であって、該共役塩基が前記フェノール性水酸基を1分子内に2個以上有する化合物(Y)から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物からなるもの、の中から選択される1種以上であり、テトラ置換ホスホニウム(X)がテトラフェニルホスホニウム、テトラトリルホスホニウム、テトラエチルフェニルホスホニウム、テトラメトキシフェニルホスホニウム、テトラナフチルホスホニウム、テトラベンジルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、n−ブチルトリフェニルホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム、トリメチルフェニルホスホニウム、メチルジエチルフェニルホスホニウム、メチルジアリルフェニルホスホニウム、又はテトラ−n−ブチルホスホニウムであり、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)がビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,6−ジヒドロキシナフタレン、又は2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノールである半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
Mg1−xM2+ x(OH)2 (1)
(式中M2+は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群から選ばれた少なくとも1種の二価金属イオンを示し、xは0.01≦x≦0.5の数を示す)
pZnO・qB2O3・rH2O (2)
(式中p、q、rは正数)
- 一般式(1)で示される金属水酸化物固溶体のM2+がZn2+、又はNi2+である請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
- ほう酸亜鉛が、2ZnO・3B2O3・3.5H2Oである請求項1又は2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
- 分子会合体が、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート(Z)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)とを、高温下で反応させた後、更に沸点60℃以上の溶媒中で熱反応させて得られるものである請求項1〜3いずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
- 分子会合体が、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(Y)と、無機塩基又は有機塩基と、テトラ置換ホスホニウムハライドとを反応させて得られるものである請求項1〜3いずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。
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