JP4568413B2 - 振動子対応音響模擬装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ソーナーシステムにおける水中音響の模擬信号を発生させることのできる音響模擬装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図5は従来の水中航走体のソーナーシステムの概略を示す要部概念図、図6は図5の水中航走体のソーナーシステムにおける振動子の配列状態を説明するための要部平面図である。
【0003】
図5に示すように、水中音響は、受波器01に設けられた複数の振動子02を介して、水中の圧力波から電気信号へ変換される。振動子02は、水中へ音響信号を出力したり水中の音響信号を受け取って電気信号に変換したりする電気音響変換器としての機能を果たす。このような振動子02は、例えば、図6に示すように平面的に縦横に配列されている。
【0004】
振動子02により電気信号に変換された水中音響は、受信機03により増幅され、ビーム合成される。ビーム合成とは、各振動子02の出力に対し位相シフト及び重み付けを施すことにより、指向特性を持った信号を形成することである。受信機03によりビーム合成された水中音響は、信号処理器04に入力され、信号処理器04において、例えばフィルタリング等の様々な信号処理が行われる。
【0005】
従来、このようなソーナーシステムに対し、水中音響を模擬してソーナーシステムの応答性を評価する場合、矢印104で示すように受信機03によるビーム合成に対応した模擬信号を信号処理器04に入力していた。
【0006】
従来の模擬信号を生成するための計算アルゴリズムは[数1]式のとおりである。
【数1】
ここで、
Y(t) :残響の模擬信号波形
Ai :水中の空間をM個の等時間、等ドップラーで区切られたi番目のエリアに対する散乱の振幅、ビームパターン、音波伝搬の効果を含む
残響の平均振幅
M :水中をエリアで区切った時のエリアの数
Ci :平均値0、単位標準偏差のガウス分布の複素乱数
X(t) :ソーナー送信パルスの複素波形
γi :i番目のエリア中心から反射する音波のドップラシフト
τi :i番目のエリア中心から反射する音波の時間遅れ
F1 :送信パルスの搬送波周波数
F2 :受信残響の搬送波周波数
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近年、ソーナーシステムの新しい技術として、振動子に入力される水中音響に対して任意の指向性を持つ音響信号を生成するアダプティブビームフォーミング(ABFと略される)が開発されている。
ABFとは、基盤目状に配置される各振動子に入力する音響受信信号に対し、状況に応じて重み付け、移相シフトを行い、その後各振動子の信号を互いに加算することで、必要とする任意の指向性を有するビームを形成することである。この処理は、信号処理装置のビーム形成回路で行われる。
【0008】
しかし、図5に示したような従来の模擬装置においては、ビームに対応した模擬信号を信号処理器04へ入力しているため、上述のような新しいソーナーシステムであるアダプティブビームフォーミングに対応する水中音響を模擬することはできなかった。
【0009】
模擬できなかった理由は以下のとおりである。すなわち、ABFの性能を評価するためには、各振動子に入力される信号同士の相関性が重要となるが、従来においては振動子間の相関性を模擬計算するアルゴリズムはなく、ビーム形成が固定されていたため、予めビーム特性を入れた模擬信号を入力するだけで十分であった。その際、ビーム形成回路をバイパスしてビーム形成回路の出力としての模擬音響を信号処理器04に入力していた。
【0010】
しかし、ABFを評価するためには、ビーム形成回路をバイパスすることはできず、図5に矢印103で示すように振動子02の出力に対応して、模擬信号を受信機03に入力することができるような、振動子に対応したビーム形成回路の入力としての模擬音響が必要となった。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、本発明の振動子対応音響模擬装置は、振動子に対応した体積残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな体積残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均体積残響振幅演算装置と、体積残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で体積残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均体積残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して体積残響を模擬計算し体積残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えている。
【0012】
また、本発明の振動子対応音響模擬装置は、振動子に対応した海面・海底残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな海面・海底残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均海面・海底残響振幅演算装置と、海面・海底残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で海面・海底残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均海面・海底残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して海面・海底残響を模擬計算し海面・海底残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えている。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の全体構成を示す系統図、図2は図1の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の振動子相関演算装置のアルゴリズムを説明するための説明図、図3は本発明の第2の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の全体構成を示す系統図、図4は図3の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の振動子相関演算装置のアルゴリズムを説明するための説明図である。
【0014】
まず図1及び図2において、振動子対応音響模擬装置は、各振動子に入力されるランダムな体積残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均体積残響振幅演算装置05と、体積残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置06と、振動子相関演算装置06の出力を受け各振動子間で体積残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置07と、平均体積残響振幅演算装置05の出力と乱数発生装置07の出力とを合成し体積残響を模擬計算する残響発生装置08とを備える。
【0015】
平均体積残響振幅演算装置05の計算アルゴリズムは、図2を参照して、[数2]式のとおりである。
【数2】
AMPJK=|BT(θ,φ)・BRL(θ,φ)|・PLOSS・SV・VJK・SL
ここで、
AMPJK:等時間J及び等ドップラーKで区切られるエリア09からの散乱振幅
|BT(θ,φ)・BRL(θ,φ)|:エリア09に対する振動子L10の送受信の平均指向性損失
PLOSS :エリア09に対する音波の伝搬損失
SV:単位体積当たりの体積散乱強度
VJK:エリア09の体積
SL:送受波器01のソースレベル
【0016】
振動子相関演算装置06のアルゴリズムは、図2を参照して、以下のとおりである。
エリア09からの反射波で、振動子L10と振動子M14に入力する信号の相互相関係数は、微小体積11からの反射波VL(t)12とVM(t)13とから[数3]式で与えられる。
【数3】
RLM={<VL(t)・VM(t)*>}/√{<VL(t)2><VM(t)2>}
【0017】
振動子02の相関係数は、[数4]式の相関マトリックスとして定義される。
【数4】
ここで、LLは振動子の数である。
【0018】
乱数発生装置07のアルゴリズムは、図2を参照して、以下のとおりである。
各振動子間の残響と同じ相互相関性をもつ乱数発生を[数5]式で行う。
【数5】
dJK=AJKc
ここで、
dJK:各振動子間で残響と同じ相関特性を持つLL次の乱数(ベクトル)
c:LL次の独立な単位標準偏差のガウス乱数(ベクトル)
AJK:[数6]式
【数6】
ここで、
u:EJK V の固有ベクトル
λn:EJK V の固有値
【0019】
残響発生装置08のアルゴリズムは、図2を参照して、[数7]式のとおりである。
【数7】
ここで、
YL(t) :振動子Lでの体積残響の模擬信号波形
AMPJK :平均体積残響振幅演算装置05の出力
M :水中をエリアで区切った時のエリアの数
dJK(L) :乱数発生装置07の出力(ベクトル)
X(t) :ソーナー送信パルスの複素波形
γi :エリア09の中心から反射する音波のドップラシフト
τi :エリア09の中心から反射する音波の時間遅れ
F1 :送信パルスの搬送波周波数
F2 :受信残響の搬送波周波数
【0020】
図1の振動子対応音響模擬信号によれば、平均体積残響振幅演算装置05において、残響の統計的平均の振幅を計算し、振動子相関演算装置06において各振動子間の相関マトリックスを計算し、振動子相関演算装置06の出力を受け乱数発生装置07において、体積残響と同じ相関性を持つ乱数を計算し、平均体積残響振幅演算装置05の出力と乱数発生装置07の出力とを残響発生装置08において合成することにより、各振動子ごとの体積残響を発生することができ、従来の技術では評価できなかったアダプティブビームフォーミングの機能を持つソーナーシステムに対する模擬信号を発生することができる。
【0021】
図3及び図4において、振動子対応音響模擬装置は、各振動子に入力されるランダムな海面・海底残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均海面・海底残響振幅演算装置15と、海面・海底残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置16と、振動子相関演算装置16の出力を受け各振動子間で体積残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置07と、平均海面・海底残響振幅演算装置15の出力と乱数発生装置07の出力とを合成し海面・海底残響を模擬計算する残響発生装置08とを備えている。
【0022】
平均海面・海底残響振幅演算装置15のアルゴリズムは、図4を参照して、[数8]式のとおりである。
【数8】
AMPJK=|BT(θ,φ)・BRL(θ,φ)|・PLOSS・SS・ABJK・SL
ここで、
AMPJK:等時間J及び等ドップラーKで区切られるエリア17からの散乱振幅
|BT(θ,φ)・BRL(θ,φ)|:エリア17に対する振動子L18の送受信の平均指向性損失
PLOSS:エリア17に対する音波の伝搬損失
SS :単位面積当たりの海面・海底散乱強度
ABJK :エリア17の面積
SL :送受波器01のソースレベル
【0023】
振動子相関演算装置16のアルゴリズムは、図4を参照して、以下のとおりである。
エリア17からの反射波で、振動子L18と振動子M22に入力する信号の相互相関係数は、微小面積19からの反射波VL(t)20とVM(t)21とから[数9]式で与えられる。
【数9】
RLM={<VL(t)・VM(t)*>}/√{<VL(t)2><VM(t)2>}
【0024】
振動子02の相関係数は、[数10]式の相関マトリックスとして定義される。
【数10】
ここで、LLは振動子の数である。
【0025】
乱数発生装置07のアルゴリズム、残響発生装置08のアルゴリズムは、それぞれ図1の場合における乱数発生装置07のアルゴリズム、残響発生装置08のアルゴリズムと同じである。
【0026】
図3の振動子対応音響模擬装置によれば、平均海面・海底残響振幅演算装置15において、海面・海底残響の統計的平均の振幅を計算し、振動子相関演算装置16において、各振動子間の相関マトリックスを計算し、振動子相関演算装置16の出力を受け乱数発生装置07で、海面、海底残響と同じ相関性を持つ乱数を計算し、平均海面・海底残響振幅演算装置15の出力と乱数発生装置07の出力とを残響発生装置08において合成することにより、各振動子ごとの海面・海底残響を発生することができ、従来の技術で評価できなかったアダプティブビームフォーミングの機能を持つソーナーシステムに対する模擬信号を発生することができる。
【0027】
【発明の効果】
本発明の振動子対応音響模擬装置によれば以下のような効果が得られる。
(1)振動子に対応した体積残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな体積残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均体積残響振幅演算装置と、体積残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で体積残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均体積残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して体積残響を模擬計算し体積残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えているので、平均体積残響振幅演算装置において、残響の統計的平均の振幅を計算し、振動子相関演算装置において各振動子間の相関マトリックスを計算し、振動子相関演算装置の出力を受け乱数発生装置において、体積残響と同じ相関性を持つ乱数を計算し、平均体積残響振幅演算装置の出力と乱数発生装置の出力とを残響発生装置において合成することにより、各振動子ごとの体積残響を発生することができ、従来の技術では評価できなかったアダプティブビームフォーミングの機能を持つソーナーシステムに対する模擬信号を発生することができる(請求項1)。
(2)振動子に対応した海面・海底残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな海面・海底残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均海面・海底残響振幅演算装置と、海面・海底残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で海面・海底残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均海面・海底残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して海面・海底残響を模擬計算し海面・海底残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えているので、平均海面・海底残響振幅演算装置において、海面・海底残響の統計的平均の振幅を計算し、振動子相関演算装置において、各振動子間の相関マトリックスを計算し、振動子相関演算装置の出力を受け乱数発生装置で、海面、海底残響と同じ相関性を持つ乱数を計算し、平均海面・海底残響振幅演算装置の出力と乱数発生装置の出力とを残響発生装置において合成することにより、各振動子ごとの海面・海底残響を発生することができ、従来の技術で評価できなかったアダプティブビームフォーミングの機能を持つソーナーシステムに対する模擬信号を発生することができる(請求項2)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の全体構成を示す系統図である。
【図2】図1の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の振動子相関演算装置のアルゴリズムを説明するための説明図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の全体構成を示す系統図である。
【図4】図3の実施の形態に係る振動子対応音響模擬装置の振動子相関演算装置のアルゴリズムを説明するための説明図である。
【図5】従来の水中航走体のソーナーシステムの概略を示す要部概念図である。
【図6】図5の水中航走体のソーナーシステムにおける振動子の配列状態を説明するための要部平面図である。
【符号の説明】
01 受波器
02 振動子
03 受信器
04 信号処理器
05 平均体積残響振幅演算装置
06 振動子相関演算装置
07 乱数発生装置
08 残響発生装置
09 エリア
10 振動子L
11 微小体積
12 振動子Lでの体積残響の模擬信号波VL(t)を示す矢印
13 振動子Mでの体積残響の模擬信号波VM(t)を示す矢印
14 振動子M
15 平均海面・海底残響振幅演算装置
16 振動子相関演算装置
17 エリア
18 振動子L
19 微小面積
20 微小面積19からの反射波VL(t)を示す矢印
21 微小面積19からの反射波VM(t)を示す矢印
22 振動子M
103 模擬信号の入力を示す矢印
104 模擬信号の入力を示す矢印
Claims (2)
- 振動子に対応した体積残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな体積残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均体積残響振幅演算装置と、体積残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で体積残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均体積残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して体積残響を模擬計算し体積残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えたことを特徴とする、振動子対応音響模擬装置。
- 振動子に対応した海面・海底残響を発生するために各振動子に入力されるランダムな海面・海底残響信号に対する統計的に平均のドップラー周波数ごとの振幅を模擬計算する平均海面・海底残響振幅演算装置と、海面・海底残響の各振動子間の相関特性を計算する振動子相関演算装置と、当該振動子相関演算装置の出力を受け各振動子間で海面・海底残響と同じ相関性を持つ乱数を発生させる乱数発生装置と、上記平均海面・海底残響振幅演算装置の出力と上記乱数発生装置の出力とを合成して海面・海底残響を模擬計算し海面・海底残響模擬信号を発生する残響発生装置とを備えたことを特徴とする、振動子対応音響模擬装置。
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