JP4560605B2 - 化学反応制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロリアクターを用いて化学反応を制御する化学反応制御方法に関するものであり、より詳細には、例えば、セラミックスやガラス等の基板上に形成したマイクロチャネルを有するマイクロリアクターを作製して、そのマイクロチャネル内に、互いに溶解する液体を流通させて界面形成することにより、マイクロチャネル内の化学反応を制御する化学反応制御方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、化学産業等では、化学反応を制御するために様々な手法が提案されている。具体的には、例えば、試薬の混合、流体供給、熱除去/熱供給、触媒効率等を制御することにより化学反応を制御することが提案されている。そして化学反応を制御することで、例えば、安全性の向上や、反応生成物の収率および/または純度の向上、有用な中間生成物の単離等が可能になる。
【0003】
上記のような化学反応を制御する制御する手法として、例えば、マイクロリアクターを用いる手法がある。上記マイクロリアクターとしては、具体的には、例えば、特許文献1に開示されているマイクロリアクターがある。該マイクロリアクターは、ガラスやセラミックス等で形成された基板上に、10〜10000μmの幅(内径)を有するとともに、10μm〜1mの長さを有している。そして、該マイクロリアクターの内部に、2つの反応性流体が接する界面領域で化学反応を起こすようになっている。
【0004】
このマイクロリアクターを利用することによって、マイクロチャネルを通過する反応流体の単位体積当たりの表面積および単位体積当たりの界面の表面積を、一般的な系に比べて、大きくすることができる。これにより、例えば、界面を利用した化学反応を効率化が期待でき、触媒反応を含む流体化学反応の制御を向上させることができるとともに、反応生成物の収率と純度の向上を図ることができる。
【0005】
【特許文献1】
特表2001−521816号公報(公表日;2001年11月13日)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記特許文献1では、マイクロリアクターの内径を規定しているだけであり、該内径を規定しただけでは、反応を制御することは不十分である。特に、マイクロリアクターの特徴である単位体積あたりの比表面積・界面積の大きさを触媒反応に利用する、あるいは熱交換の容易さを利用した温度の精密な制御により反応を促進することはできても、任意に反応の進行を抑える、つまり反応を制御する技術については、全く手段がないのが現状である。従って、特定の反応の進行を随意にコントロールすることは現時点では不可能である。このことはマイクロリアクターを多段階の複雑な合成反応に利用する場合、つまり、起こしたい反応のみを引き起こし、他の反応は制御して選択性を向上させる必要があるような場合においては致命的となる。そこで、さらに、より効率的かつ簡便に反応を任意に制御することができる化学反応制御方法が求められている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特定の構造を有するマイクロチャネル内に、相溶する液体を流通させて連続界面を形成し、その界面における溶媒の混合を制御するものである。これにより、溶媒のクラスター構造を制御して、反応剤の化学構造に起因する反応速度を制御することができる。
【0008】
具体的には、本願発明者等は、マイクロチャネル内部を流通する液体が層流を形成していることに着目して、例えば、九十九折のような折り返し部を有するマイクロチャネル内に、互いに溶解する(相溶する)少なくとも2種類の溶液を流通させて、折り返し部における、それら溶液の流速を制御することにより、折り返し部での2次流れによる上記溶液の混合を制御する方法、つまり、溶液のクラスター構造を制御する方法を見出した。そして、これに基づいて、反応剤の分子の極性に応じて、溶液のクラスター構造を制御することにより、反応速度を制御する化学反応制御方法を導き出すに至った。すなわち、本発明は、マイクロチャネル内の層流および2次流れを利用して、溶液の混合によるクラスター構造の制御、ならびに、化学反応を制御する化学反応制御方法を提供するものである。
【0009】
具体的には、本発明の化学反応制御方法は、上記の課題を解決するために、折り返し部を有するマイクロチャネルに、互いに化学反応する物質を含み、かつ、相溶する少なくとも2つの溶液を流通させることによって化学反応を制御する化学反応制御方法であって、上記溶液の、折り返し部における流速を制御することを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、上記流通する少なくとも2つの溶液の、上記折り返し部における流速を制御することにより、該折り返し部における上記溶液の混合割合を制御することができる。これにより、良好に化学反応を制御することができる。上記折り返し部における、溶液の流速を制御する方法としては、具体的には、例えば、上記溶液を流す流速を制御する方法や、折り返し部の形状を変化させる方法等挙げられる。また、例えば、折り返し部の直前のマイクロチャネルの口径を制御することによって流速を制御してもよい。
【0011】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記マイクロチャネルを流通させる上記少なくとも2つの溶液の流速を制御することがより好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、上記マイクロチャネルを流通させる上記少なくとも2つの溶液の流速を制御することにより、より簡単に上記折り返し部における流速を制御することができる。
【0013】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、水または極性有機溶媒を含むことがより好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、水または極性有機溶媒を含むことにより、溶液同士を好適に混合させることができる。
【0015】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、極性有機溶媒または無極性有機溶媒を含むことがより好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、極性有機溶媒または無極性有機溶媒を含むことにより、2つの溶液の界面で反応を進行させることができる。
【0017】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液によって生じる界面をマイクロチャネル内で複数形成することがより好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、上記相溶する少なくとも2つの溶液からなる相を複数形成することにより、界面を増やすことができる。これにより、界面における反応をより一層進行させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1ないし図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
本発明にかかる化学反応制御方法は、折り返し部を有するマイクロチャネルに、相溶する少なくとも2つの溶液を流通させて化学反応させる化学反応制御方法であって、上記流通する少なくとも2つの溶液の、上記マイクロチャネルの折り返し部における速度を制御する方法である。
【0021】
つまり、例えば、セラミックスまたはガラス基板上に形成したマイクロチャネルに、相溶する少なくとも2種類の溶液を流通させて連続界面を形成し、この界面を制御することにより、例えば、有機金属錯体や酵素等による触媒反応を行うと同時に抽出・分離・回収を行うことができる。
【0022】
マイクロリアクターのマイクロチャネル内を流通する液体は、レイノルズ数が小さいために層流となる。このために、例えば、直線のマイクロチャネルに溶液を流通させる場合には、該溶液の混合は、ブラウン運動等の自己拡散により支配されることとなる。
【0023】
本実施の形態では、折り返し部を有するマイクロチャネルを用いることにより、化学反応を制御している。マイクロチャネルの折り返し部では、流通される溶液に、慣性力によって、溶液の流れる方向に対して直交する方向への2次流れが生じることとなる。このため、上記折り返し部において、界面が湾曲することとなり、その結果、マイクロチャネルを流れる溶液同士が混合されることとなる。
そして、この折り返し部における界面の湾曲の度合い、つまり、界面において起こる溶液の混合は、該折り返し部を流れる上記溶液の流速によって異なる。具体的には、上記マイクロチャネルの折り返し部を流れる、少なくとも2種類の溶液の速度(流速)が速ければ速いほど、該折り返し部での界面の湾曲が顕著に現れる。つまり、該折り返し部において、溶液の混合が促進されることとなる。一方、上記折り返し部を流れる上記溶液の速度が遅ければ遅いほど、該折り返し部での界面の湾曲は少なくなる。つまり、該折り返し部において、溶液の混合はあまり促進されない。なお、上記折り返し部を流れる溶液の流速を制御するには、例えば、マイクロチャネルの断面積を設定する、マイクロチャネルを流す溶液の流速を変える等の方法があるが特に限定されるものではない。
【0024】
また、上記折り返し部における溶液の流速を制御することにより、上記マイクロチャネル内を流れる溶液のクラスター構造を変化させることができる。つまり、マイクロチャネルの内径は、非常に小さくなっており、溶液のクラスター構造が制限された状態で、該溶液は流れている。そして、折り返し部では、界面が湾曲することにより、さらに、溶液のクラスター構造は制限されることとなる。従って、折り返し部における上記溶液の流速を制御することによって、溶液のクラスター構造が異なる状態を作り出すことができる。
【0025】
つまり、折り返し部における溶液の流速を制御することにより、マイクロチャネル内を流れる溶液のクラスター構造および溶液同士の混合割合を変化させることができる。これにより、化学反応の反応率や生成する化合物の構造等を制御することができる。
【0026】
以下に上記について、図2および図3を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明では、図1に示すように、曲率半径が50μmである折り返し部を2個有しており、流路の幅が200μmであり、一辺200μmの正方形の断面形状であるマイクロチャネルを用いた場合について説明する。また、マイクロチャネルに流す溶液は2種類の溶液としている。具体的には、直線部が3つ(第1直線部、第2直線部、第3直線部)存在し、かつ、半円形の折り返し部2個(第1折り返し部、第2折り返し部)によって、それぞれの直線部が接続された形状である。そして、1本の流路が形成されている。なお、上記2つの折り返し部は、溶液の流れる方向から見て、互いに反対側に折れ曲がっている。
【0027】
上記マイクロリアクターの第1直線部(図2のa点〜c点参照)に2つの溶液を流通させた場合、2つの溶液は層流を形成することとなる。
【0028】
そして、2つの溶液が第1折り返し部を流通するとき、該溶液は、慣性力を受けることとなる。この慣性力によって、流路を流れる溶液は2次流れとなり、溶液の界面は、外側(流路の外側)に湾曲することとなる。
【0029】
このとき、上記第1折り返し部(図2のc点〜e点参照)を通過する溶液の流速が遅い場合(この場合、流速25mm/s)には、図2に示すように、界面が湾曲する度合いが低く、溶液同士の混合は少ない。そして、第2直線部(図2のe点〜g点参照)では、第1折り返し部を通過した溶液は、該第1折り返し部によって湾曲された界面の状態で層流となって流れることとなる。次に、溶液が第2折り返し部(図2のg点〜i点参照)を通過するとき、溶液は慣性力を受けることとなり、溶液の界面は外側に湾曲することとなる。ここで、第2の折り返し部は、溶液の流れる方向から見て、第1折り返し部と反対方向に折れ曲がっている。従って、溶液の界面は、第1折り返し部によって湾曲した方向と逆方向の力を受ける。これにより、第2折り返し部を通過した溶液の界面は、第1直線部を流れる溶液の界面とほぼ同じ状態となる。そして、この状態で第3直線部(図2のi点〜k点参照)を層流の状態で流れることとなる。すなわち、折り返し部を流れる溶液の流速が遅い場合には、該溶液が受ける慣性力が小さいために、界面の湾曲が小さい。従って、上記溶液同士の混合があまり行われない。
【0030】
つまり、マイクロチャネルの形状や溶液の流通速度等を調節して、折り返し部を流れる溶液の流速が遅くなるように制御することにより、界面を維持した状態で溶液を流通させることができる。このように、折り返し部を流れる溶液の流速を遅くすることで、例えば、低濃度の両親媒性物質溶液と疎水性物質溶液との反応を好適に行うことができる。
【0031】
一方、上記第1折り返し部を通過する溶液の流速が速い場合(この場合、流速250mm/s)には、図3に示すように、溶液の界面は、著しく湾曲することとなる。従って、界面付近での溶液の混合が促進させることとなる。そして、第2直線部(図3のe点〜g点参照)では、第1折り返し部(図3のc点〜e点参照)を通過した溶液は、該第1折り返し部によって湾曲された界面の状態で層流となって流れることとなる。次に、溶液が第2折り返し部(図3のg点〜i点参照)を通過するとき、上記界面は、第1折り返し部によって湾曲した方向と逆の方向に慣性力を受けることとなる。従って、溶液の界面は、上記第1折り返し部において著しく湾曲しているため、第2折り返し部において受ける慣性力によって、元の状態に戻ることはなく、2つの突出部を有する形状となる。つまり、第2折り返し部を通過することにより、溶液の界面がさらに広くなる。これにより、さらに溶液の混合が促進される。
【0032】
つまり、マイクロチャネルの形状や溶液の流通速度等を調節して、折り返し部を流れる溶液の流速が速くなるように制御することにより、溶液の混合を促進させることができる。このように、折り返し部を流れる溶液の流速を速くすることで、例えば、イオン性物質と疎水性物質との反応を好適に行うことができる。
【0033】
ところで、一般に溶質は、溶媒和された状態で溶液中に存在している。この溶媒和の状態における安定性は、溶質の種類や構造によって異なる。例えば、イオン性の物質は、一般に水単独で溶解させたほうが安定である。一方、例えば、疎水基を有するイオン性物質等の両親媒性物質は、水と有機溶媒とが混和した状態で存在するほうが安定である。
【0034】
本実施の形態では、マイクロチャネル内で、溶液のクラスター構造を制御することにより、溶液の状態、つまり、溶質分子の分布を制御している。具体的には、例えば、イオン性物質と疎水性物質とを、それぞれ、水と有機溶媒とに溶解させて、これら2つの溶液を反応させる場合において、折り返し部における流速が、比較的速い場合には、2液の混合が促進されることになり反応が進行することになる、一方、上記折り返し部における流速が、比較的遅い場合には、2液の混合が促進されなくなる。これにより、互いの分子の出会う確立が減少することとなり反応が遅くなる。
【0035】
また、例えば、希薄溶液で両親媒性物質と疎水性物質とを反応させる場合、換言すると、低濃度の両親媒性物質溶液と疎水性物質溶液とを反応させる場合には、折り返し部における流速が、比較的速いと反応の進行が遅くなる。一方、上記折り返し部における流速を比較的遅くすると、界面近傍で徐々にクラスター構造が変化することとなり、界面近傍に両親媒性物質が局在化するために、反応効率が上がる。
【0036】
このように、マイクロチャネルの折り返し部を流れる溶液の流速を制御することにより、反応効率を上げることができる。この折り返し部を流す溶液の流速については、マイクロチャネルの構造によって変化するので、特に限定されるものではない。しかし、イオン性物質と疎水性物質とを反応させる場合には、折り返し部における流速を比較的速くすることがより好ましい。また、両親媒性物質と疎水性物質とを反応させる場合には、折り返し部における流速を比較的遅くすることがより好ましい。
【0037】
上記イオン性物質としては、具体的には、例えば、システイン、エタノールアミン、グリシン、セリン、グルタミン酸等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0038】
また、上記イオン性物質を溶解する溶媒としては、例えば、水、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられるが、上記イオン性物質を溶解出来るものであれば特に限定されるものではない。
【0039】
また、本実施の形態において、イオン性物質を溶解した溶液(イオン性物質溶解溶液)の濃度としては、反応を好適に進行させる濃度であれば特に限定されるものではないが、0.1〜5ミリモル/lの範囲内がより好ましい。
【0040】
上記疎水性物質としては、具体的には、例えば、N−4−マレイミドブチリルオキシコハク酸イミド、N−フルオレニルメトキシカルボニルアラニン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、塩化ベンゾイル、フルオレセインイソチオシアネート等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0041】
また、上記疎水性物質を溶解する溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、上記疎水性物質を溶解出来るものであれば特に限定されるものではない。
【0042】
また、本実施の形態において、疎水性物質を溶解した溶液(疎水性物質溶解溶液)の濃度としては、反応を好適に進行させる濃度であれば特に限定されるものではないが、0.1〜5ミリモル/lの範囲内がより好ましい。
【0043】
上記両親媒性物質としては、具体的には、例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、ナフチルアミン、フェニルエチルアミン等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0044】
また、上記両親媒性物質を溶解する溶媒としては、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、上記両親媒性物質を溶解出来るものであれば特に限定されるものではない。
【0045】
また、本実施の形態において、両親媒性物質を溶解した溶液(両親媒性物質溶解溶液)の濃度としては、反応を好適に進行させる濃度であれば特に限定されるものではないが、0.1〜5ミリモル/lの範囲内がより好ましい。
【0046】
ここで、本実施の形態において、用いられるマイクロリアクターについて説明する。マイクロリアクターは、折り返し部を有するマイクロチャネルを備えている。
【0047】
上記マイクロチャネルの長さは、反応の種類、反応条件、溶液の濃度、溶液の流通速度等によって適宜設計すればよく、特に限定されるものではないが、10μm〜1mの範囲内がより好ましい。また、上記マイクロチャネルの内径としては、10〜10000μmの範囲内がより好ましい。また、マイクロチャネルの断面形状(溶液の流れる方向に対して垂直ね面の形状)としては、特に限定されるものではなく、例えば、円形、半円形、4角形等が挙げられる。なお、上記断面形状は、マイクロチャネルの製造方法によって異なる。また、上記マイクロチャネルの製造方法については、公知の方法によって製造すればよく、特に限定されるものではない。
【0048】
本実施の形態にかかるマイクロチャネルは、折り返し部を有している。上記折り返し部とは、マイクロチャネル内を流れる溶液の方向が変化する部分である。
換言すると、マイクロチャネル内を層流として流れている溶液が、慣性力によって、2次流れが生じる部分を示している。上記折り返し部における折れ曲がり角度、すなわち、上記マイクロチャネルを流れる溶液の方向が変化する角度としては、折り返し部前後を流れる溶液の角度、すなわち、折り返し部を通過していない溶液の流れる方向と折り返し部を通過した後の溶液の流れる方向とが90°以上離れていることがより好ましく、90〜180°の範囲内で離れていることがさらに好ましい。つまり、マイクロチャネルが、折り返し部において、90°以上折れ曲がっていることがより好ましく、90〜180°の範囲内で折れ曲がっていることがさらに好ましい。上記折れ曲がり角度が90°よりも小さい場合には、マイクロチャネルを流れる溶液同士が混合されない場合がある。なお、上記「折り返し角度が180°」とは、折り返し部前後における溶液の流れる方向が、互いに反対(正反対)であることを示している。
【0049】
また、上記折り返し部の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、矩形状でもよく、半円形であってもよい。また、上記折り返し部が半円形形状である場合には、折り返し部の曲率半径は、500μm以下がより好ましい。
【0050】
また、上記折り返し部の数としては、特に限定されるものではなく、反応条件等によって適宜設定すればよい。
【0051】
また、本実施の形態では、さらに反応を進行させるために、相溶する少なくとも2つの溶液からなる相を複数形成するようになっていてもよい。つまり、上記相溶する少なくとも2つの溶液によって生じる界面をマイクロチャネル内で複数形成するようになっていてもよい。具体的には、例えば、マイクロチャネルに、溶液の入り口を複数設けておき、上記複数の入り口から、マイクロチャネル内を流れる溶液が複数の層を形成する層流となるように該溶液を流してもよい。
【0052】
つまり、例えば、溶液Aと溶液Bとを反応させる際に、マイクロチャネル断面において、ABAや、ABABとなるように溶液を流しても良い。このように、反応させる溶液の界面を複数にすることにより、さらに反応を進行させることができる。
【0053】
なお、上記の説明において「反応」とは、化学反応のみを示すものではなく、例えば、抽出や分離等も含むものである。
【0054】
また、本実施の形態において、マイクロチャネルとは、溶液の流路を示している。従って、折り返し部はマイクロチャネルに含まれるものである。
【0055】
また、上記折り返し部における、溶液の流速を制御する方法としては、具体的には、例えば、上記溶液を流す流速を制御する方法や、折り返し部の形状を変化させる方法等挙げられる。また、例えば、折り返し部の直前のマイクロチャネルの口径を制御することによって流速を制御してもよい。さらに、上記マイクロリアクターを流す溶液の相対速度(相対流速)を制御することによっても、折り返し部における流速を変化させることができる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
縦約3cm、横約7cmのセラミックス基板上に、マイクロドリルを用いた機械加工法により、図1に示す、幅40μm、深さ400μmの断面形状を有するチャネルを作製し、該セラミックス基板とガラス基板とを接着することにより、マイクロチャネルを有するマイクロリアクターを作製した。なお、上記マイクロチャネルは、折り返し角度が90°である折り返し部を16個備えている。また、該マイクロチャネルの全長は約40cmであった。
【0058】
そして、作製したマクロリアクターのマイクロチャネルに、1モル/lの水酸化ナトリウム水溶液に溶解させたフェニルアラニンの1モル/l溶液と、1モル/l溶液の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させたN−4−マレイミドブチリルオキシコハク酸イミドの溶液とを、流通させることにより、フェニルアラニンのアミノ基とコハク酸イミド活性エステル部との縮合反応を行った。この反応液をマイクロリアクターの出口にて回収した後、液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、反応率を求めた。なお、上記マイクロチャネル内を流通させる流速と反応率との関係を、表1および図4に示す。また、反応時間と反応率との関係を図5に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0004560605
【0060】
これらの結果から分かるように、反応時間が短い、換言すると、流速が速い場合には、反応は殆ど進まないが、流速を遅くして反応時間を長くした場合には、高反応率が得られることが分かる。つまり、本実施例では、溶液を流す流速を0.3m/分以下に制御することにより、高反応率を得ることが出来ることが分かる。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1と同様に作製したマイクロリアクターのマイクロチャネルに、1モル/lの水酸化ナトリウム水溶液に溶解させたトリプトファンの1モル/l溶液と、1モル/l溶液の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させたN−4−マレイミドブチリルオキシコハク酸イミドの溶液とを、流通させることにより、トリプトファンのアミノ基とコハク酸イミド活性エステル部との縮合反応を行った。この反応液をマイクロリアクターの出口にて回収した後、液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、反応率を求めた。なお、上記マイクロチャネル内を流通させる流速と反応率との関係を、表2に示す。
【0062】
【表2】
Figure 0004560605
【0063】
これらの結果から分かるように、反応時間が短い、換言すると、流速が速い場合には、反応は殆ど進まないが、流速を遅くして反応時間を長くした場合には、高反応率が得られることが分かる。つまり、本実施例では、溶液を流す流速を0.3m/分以下に制御することにより、高反応率を得ることが出来ることが分かる
〔実施例3〕
実施例1と同様に作製したマイクロリアクターのマイクロチャネルに、1モル/lの水酸化ナトリウム水溶液に溶解させたL−システインの1モル/l溶液と、1モル/l溶液の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させたN−4−マレイミドブチリルオキシフェニルアラニンの溶液とを、流通させることにより、システインの有するメルカプチドイオンがN−4−マレイミドブチリルオキシフェニルアラニンのマレイミド部に付加する付加反応を行った。この反応液をマイクロリアクターの出口にて回収した後、液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、反応率を求めた。なお、上記マイクロチャネル内を流通させる流速と反応率との関係を、表3および図6に示す。また、反応時間と反応率との関係を図7に示す。
【0064】
【表3】
Figure 0004560605
【0065】
これらの結果から分かるように、反応時間が長い、換言すると、流速が遅い場合には、反応は殆ど進まないが、流速を速くして反応時間を短くした場合には、高反応率が得られることが分かる。つまり、本実施例では、溶液を流す流速を1.5m/分以上に制御することにより、高反応率を得ることが出来ることが分かる。
【0066】
〔実施例4〕
実施例1と同様に作製したマイクロリアクターのマイクロチャネルに、1モル/lの水に溶解させたエタノールアミンの1モル/l溶液と、1モル/l溶液の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させたN−フルオレニルメトキシカルボニルアラニン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの溶液とを、流通させることにより、N−フルオレニルメトキシカルボニルアラニンとエタノールアミンとの縮合反応を行った。この反応液をマイクロリアクターの出口にて回収した後、液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、反応率を求めた。なお、上記マイクロチャネル内を流通させる流速と反応率との関係を、表4に示す。
【0067】
【表4】
Figure 0004560605
【0068】
これらの結果から分かるように、反応時間が長い、換言すると、流速が遅い場合には、反応は殆ど進まないが、流速を速くして反応時間を短くした場合には、高反応率が得られることが分かる。つまり、本実施例では、溶液を流す流速を1.5m/分以上に制御することにより、高反応率を得ることが出来ることが分かる。
【0069】
【発明の効果】
本発明の化学反応制御方法は、以上のように、上記溶液の、マイクロチャネルの折り返し部における流速を制御する構成である。
【0070】
これにより、良好に化学反応を制御することができるという効果を奏する。
【0071】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記マイクロチャネルを流通させる上記少なくとも2つの溶液の流速を制御することがより好ましい。それゆえ、より簡単に上記折り返し部における流速を制御することができる。
【0072】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、水または極性有機溶媒を含むことがより好ましい。それゆえ、溶液同士を好適に混合させることができる。
【0073】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、極性有機溶媒または無極性有機溶媒を含むことがより好ましい。それゆえ、2つの溶液の界面で反応を進行させることができる。
【0074】
本発明にかかる化学反応制御方法は、上記相溶する少なくとも2つの溶液によって生じる界面をマイクロチャネル内で複数形成することがより好ましい。これにより、界面における反応をより一層進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマイクロリアクターの概略の構成を説明する平面図である。
【図2】上記マイクロリアクターのマイクロチャネルを流れる2つの溶液の流速が遅い場合における界面の状態を示すグラフである。
【図3】上記マイクロリアクターのマイクロチャネルを流れる2つの溶液の流速が速い場合における界面の状態を示すグラフである。
【図4】実施例1における、マイクロチャネル内を流れる液体の流速と反応率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1における、マイクロチャネル内における反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例3における、マイクロチャネル内を流れる液体の流速と反応率との関係を示すグラフである。
【図7】実施例3における、マイクロチャネル内における反応時間と反応率との関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 折り返し部を有するマイクロチャネルに、互いに化学反応する物質を含み、かつ、相溶する少なくとも2つの溶液を流通させることによって化学反応を制御する化学反応制御方法であって、
    上記溶液の、折り返し部における流速を制御し、
    上記折り返し部の折り返し角度が180°であり、
    上記少なくとも2つの溶液のうち、一方がフェニルアラニンまたはトリプトファンを含み、他方が、N−4−マレイミドブチリルオキシコハク酸イミドを含み、
    上記折り返し部における上記少なくとも2つの溶液の流速を、0.3m/分以下に制御することを特徴とする化学反応制御方法。
  2. 折り返し部を有するマイクロチャネルに、互いに化学反応する物質を含み、かつ、相溶する少なくとも2つの溶液を流通させることによって化学反応を制御する化学反応制御方法であって、
    上記溶液の、折り返し部における流速を制御し、
    上記折り返し部の折り返し角度が180°であり、
    上記少なくとも2つの溶液のうち、一方がシステインを含み、他方がN−4−マレイミドブチリルオキシフェニルアラニンを含む、もしくは、一方が、エタノールアミンを含み、他方が、N−フルオレニルメトキシカルボニルアラニン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含み、
    上記折り返し部における上記少なくとも2つの溶液の流速を、1.5m/分以上に制御することを特徴とする化学反応制御方法。
  3. 上記マイクロチャネルを流通させる上記少なくとも2つの溶液の流速を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の化学反応制御方法。
  4. 上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、水または極性有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の化学反応制御方法。
  5. 上記相溶する少なくとも2つの溶液のそれぞれが、極性有機溶媒または無極性有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の化学反応制御方法。
  6. 上記相溶する少なくとも2つの溶液によって生じる界面をマイクロチャネル内で複数形成することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の化学反応制御方法。
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