JP4560169B2 - 拡散接合スパッタリングターゲット組立て体及びその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、固相拡散接合されたスパッタリングターゲット組立て体及びその製造方法、特に薄膜形成用スパッタリング装置に使用されるカソードを構成する高純度ターゲット材とその支持部材であるバッキングプレート材とを固相拡散接合により一体化させたターゲット組立て体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スパッタリングターゲットは、半導体を始めとする各種薄膜デバイスの製造に際し、薄膜を基板上に形成するスパッタリング源となるものである。その形状は半導体の場合殆どが円盤状の板である。スパッタリングターゲットは通常、ターゲット材を支持し、また、冷却する目的でバッキングプレートと呼ばれる支持部材と一体化されたターゲット組立て体状態で使用される。スパッタリング装置にターゲット組立て体が取り付けられ、パワーが負荷されると、ターゲット表面は負荷熱の為に温度上昇を生じるが、例えばバッキングプレート裏面に冷却水を接触させることにより、バッキングプレート側を冷却して熱を除去し、ターゲット表面の温度上昇を押さえている。バッキングプレート材としては、無酸素銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属及び合金が用いられている。
【0003】
従来、ターゲット材とバッキングプレート材との接合は、InやSn合金等の低融点ロウ材を使用して行うことが主体であったが、スループットの向上を目的としたハイパワーの負荷時には、バッキングプレート側の冷却にも拘わらず接合界面の温度上昇は避けられず、温度上昇に伴う接合強度の低下ひいてはロウ材の融解によるターゲット材の剥離等のトラブルが発生していた。その為、スパッタリングターゲット材によってはロウ材を使用しない一体化接合方法への移行が進みつつある。
【0004】
例えば、特開平1−283367号(特許第2831356号)公報には、「接合用材料を介することなく直接圧接して一体化する」技術が記載されており、実施例として爆発圧接法、シーム溶接法が示され、更に、良好な接合強度が得られたとして、熱間ロール圧延法、拡散接合法により圧接した場合の結果が示されている。この中の拡散接合法を、Ti(ターゲット材)/Al(バッキングプレート材)の組み合わせに適用して接合テストを実施して見たところ、接合温度500℃の条件下で得られたターゲットは、12〜13kg/mm2の接合強度を有し、Alバルクでの破断面であったが、450℃の条件下で且つ実用的な負荷圧力及び時間で得られたターゲットは、接合強度が5〜8kg/mm2となり、その強度低下が著しく、破断面は接合界面そのものであり、接合健全性に乏しいという結果が得られた。
【0005】
また、他の直接接合法として、特開平6−65733号公報に、「支持部材とターゲット部材を予熱する工程とそれらを重ね合わせる工程、それに加圧負荷する工程と拡散接合を行う工程とからなる」技術が記載されており、その実施例として鍛造接合を行っている。しかし、接合条件としての記載を見る限り、500℃で24時間という長時間であり、その接合強度も10kg/mm2以下と低めである。
【0006】
更に、他の直接接合法として、特開平9−143704号公報に、「チタンターゲット材とアルミニウムバッキングプレート材とを接触させ、300〜450℃、圧力50〜200MPaの条件下での静水圧プレスにより拡散接合を行う」技術が記載されている。この公報は、低温条件での接合を可能ならしめるという条件を開示しているものの、低温度に於ける過大なる荷重及び長い接合時間は避けられず、実施例に於いても400℃で140MPa且つ5時間の接合条件で接合体を得ている。更に他の実施例には、450℃、120MPaの条件下では接合強度91MPa(9.3kg/mm2)、450℃、45MPaの条件下では接合強度35MPa(3.6kg/mm2)を得たと記載されている。しかし、これらの実施例で示されているように、450℃で負荷圧力が120MPaと非常に大きな荷重を加えて接合しても、せいぜい91MPa(9.3kg/mm2)の接合強度しか得られていない。また、この温度では、これ以上の荷重を負荷するとターゲット形状が変形してしまう。
【0007】
他に、荷重の低減又は接合温度の低温下を目的とするインサート材を用いた接合方法として、特開平6−108246号公報及び6−172993号公報に、「ターゲット材とインサート材とバッキングプレート材とがそれぞれ固相拡散接合界面を有するターゲット組立て体」を得る方法が開示されている。前者では、Ag、Cu、Ni等からなるインサート材を用いて、200〜600℃の温度、0.1〜20kg/mm2の負荷荷重で固相拡散接合すると、所望の組立て体が得られるとし、実施例に於いては、100μmのAg箔をインサート材として用いて、温度250℃、負荷荷重8kg/mm2の条件で、Tiターゲット材と無酸素銅製バッキングプレートとを接合して組立て体を得ている。また、後者では、同じインサート材を用いて、150〜300℃の温度、1.0〜20kg/mm2の負荷荷重で所望の組立て体が得られるとし、実施例に於いては、100μmのAg箔をインサート材として用いて、温度250℃、負荷荷重8kg/mm2の条件で、Al合金製ターゲットと無酸素銅製バッキングプレートとを接合して組立て体を得ている。その結果、両者とも接合強度6kg/mm2(せん断強度)の組立て体を得たとしている。しかし、この方法を用いてTi(ターゲット材)とAl(バッキングプレート材)との接合テストを行ってみたところ、450℃、3kg/mm2の条件下では接合強度の測定が不可能な程低い強度を有するターゲット組立て体が得られたに過ぎなかった。
【0008】
ところで、スパッタリングターゲットの製造工程では、溶解工程を経る材料は通常塑性加工が施され、その後、組織制御の為の熱処理が施される。高純度チタンターゲットの場合も例外ではなく、特に平均結晶粒径の制御を目的として450℃〜600℃の熱処理が施され、再結晶組織状態でターゲットとして供せられる。組織制御熱処理温度が高い場合には、その後の拡散接合時に接合温度及び時間の影響を受けて結晶粒が成長する可能性は少ないが、組織制御された結晶粒が微細である場合には、拡散接合時に結晶粒が成長してしまう可能性が高く、制御された結晶組織の維持が難しくなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、ターゲット材とバッキングプレート材との接合に関して種々の公知技術があるものの、Ti(ターゲット材)とAl(バッキングプレート材)との拡散接合の場合、充分な接合強度即ち接合健全性を得る為には、その界面において充分な原子の拡散が生じていることが必要である。これにより、10kg/mm2以上の接合強度を得ることができるからである。しかし、ターゲット材/バッキングプレート材組立て体では、拡散接合時には、接合荷重の低減によりターゲット材及びバッキングプレート材の変形を抑制することが望ましく、また、拡散接合後には、ターゲット材の結晶組織、結晶配向性が維持され且つバッキングプレート材の強度が確保されていることが望まれている。従って、これらの要件を同時に達成可能な新たな接合方法が求められている。
【0010】
上記した従来技術はそれぞれ、部分的には有用であるものの、上記したような問題点もある、すなわち、特開平1−283367号(特許第2831356号)は接合温度を低温化した場合(450℃)には目的物の接合強度が急激に低下すると言う問題があり、特開平6−108246号及び6−172993号に示されるインサート材の挿入では目的物の強度そのものが低いと言う問題があり、特開平9−143704号は大荷重の負荷により材料変形が生じると言う問題があると共に目的物の接合強度が高くならないという問題もある。また、特開平6−65733号は大荷重の負荷をかけてバッキングプレート材を変形させ、ターゲット材とバッキングプレート材とを直接圧接するものであるが、接合強度が低いという問題がある。
【0011】
また、上記従来技術では、強度のみ示されているだけで、界面における拡散が接合にどの程度寄与しているかについては具体的に触れられておらず、単に高温で接合している。一般に、接合健全性を示す(界面での拡散による)破断面位置の変化を生じさせるには、より高温で拡散接合を行うのが望ましいのであり、従来技術でもほとんどの場合、このような観点から高温で行っているに過ぎない。
しかしながら、より有用なターゲットであるためには、上記したように、拡散接合後でも、ターゲット材の結晶組織、結晶配向性が維持され且つバッキングプレート材の強度が確保されていなければならない。このような特性を満足させるためには、接合温度の低温化が必要となるという相反する接合条件についての検討が求められる。バッキングプレート材としてのAl系材料の場合、400℃以上での高温強度は50MPa以下であることから、この材料の変形を抑制するには負荷荷重が低くなければならないという問題もある。
【0012】
本発明は、拡散接合後でも、ターゲット材の結晶組織、結晶配向性が維持され且つバッキングプレート材の強度が確保されている特性を有するスパッタリングターゲット組立て体、及びターゲット材とバッキングプレート材とを、低温でかつ低い負荷荷重で拡散接合し、ターゲット材及びバッキングプレート材の変形を生じせしめることなくスパッタリングターゲットを製造する方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、直接接合法において、ターゲット材として、組織制御工程が未実施である塑性加工状態のターゲット材を用いた場合は、真空中、低温、低い接合荷重、及び短い接合時間と言う条件でも、接合界面での固相拡散が充分に生じ、良好な固相拡散接合するということを見出し、本発明を完成するに至った。ここで、「固相拡散接合」とは、ターゲット材とバッキングプレート材とを溶融することなく固相状態に維持したまま、低温、低荷重で界面に拡散を生じせしめて、ターゲット材に悪影響を与えることなく接合する方法をいう。
【0014】
本発明のスパッタリングターゲット組立て体は、高純度チタンからなり、組織制御熱処理されていないスパッタリングターゲット材が、該ターゲットの支持部材であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバッキングプレート材と拡散接合されてなる固相拡散接合界面を有するものである。ここで、高純度チタンとは、通常、99.995〜99.9999%純度のものをいう。
【0015】
また、本発明のスパッタリングターゲット組立て体の製造方法は、高純度チタンからなるスパッタリングターゲット材と、該ターゲットの支持部材であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバッキングプレート材とを接合する工程において、
(1)塑性加工後の該ターゲット材の組織制御熱処理工程と、
(2)該ターゲット材とバッキングプレート材とを固相拡散接合する工程と
を同時に行い、固相拡散接合界面を有するスパッタリングターゲット組立て体を得ることからなる。
【0016】
上記固相拡散接合工程において、スパッタリングターゲット材とバッキングプレート材とを、0.1Pa以下の真空雰囲気中、400℃〜500℃の接合温度、25MPa〜50MPaの接合時負荷圧力(荷重)及び2時間以内の接合時間で固相拡散接合する。接合温度が400℃未満であると得られるターゲット組立て体の接合強度が10kg/mm2より低くなり不具合であり、500℃を超えると接合中に変形が生じ不具合である。また、接合時負荷圧力が50MPaを超えるとバッキングプレート材の変形が起こり、25MPa未満であると、所望の拡散接合が起こり難くなる場合がある。このような緩い接合条件下でも、破断面位置が界面そのものでなく、また、接合強度が10kg/mm2以上と言う強固に拡散接合されたスパッタリングターゲット組立て体が得られる。
【0017】
本発明では、組織制御熱処理工程を施さない、塑性加工状態のターゲット材を接合工程に供することが重要である。このようなターゲット材を用いた結果、その面と直接接するAl等のバッキングプレート材との拡散が、より低温度、低荷重、短時間でも容易に生じて、充分な接合強度を有するターゲットが得られる。
これは、塑性加工状態のターゲット材は大きな内部歪を含む為、Al中への拡散開始温度が実質的に低下することに起因する。この作用は、塑性加工度に依存して再結晶温度が低下することと原理的には同じである。従って、低温度、低荷重、短時間の条件でもターゲット材とバッキングプレート材との界面における拡散が充分に進行し、これらを直接、強固に接合することが可能となる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
組織制御熱処理済みの及び該熱処理をしていない塑性加工状態のチタン(Ti、純度:99.995%)ターゲット材(300mmφの円盤状の板)並びに同寸法のアルミニウム製バッキングプレートをアセトンにより超音波脱脂洗浄した。洗浄後の各ターゲット材とバッキングプレート材とを表1に示す条件で固相拡散接合した。接合条件のうち、真空度(0.01Pa)、接合時間(2時間)及び負荷荷重(25MPa)を一定にし、ターゲット材とバッキングプレート材との接合テストを実施し、熱処理工程の有無による接合温度(400、450及び500℃)と接合強度との関係を調べた。得られた結果を表1に示す。さらに、破断モードについてもも表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1から明らかなように、本発明のように未熱処理ターゲット材を用いた場合には、何れの場合にも界面で充分な拡散が生じたことを示すAl母材での破断であり、強度も10kg/mm2以上と言う結果を得た。これに対し、熱処理済みターゲット材を用いた場合、低温での接合強度は低いかあるいは測定不能であり、接合強度を高くするには接合温度を高くしなければならないが、この場合、バッキングプレート材が変形するという問題が生じる。
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、高純度チタンターゲットとAl系バッキングプレートとの拡散接合に際し、大きな内部歪を含む組織制御熱処理が未実施であるターゲット材を供して行うので、次の効果が得られる。
1.ロウ材等の不要物を一切用いない為、製品製造時にそれらの溶け出し等による悪影響が全くない。
2.ターゲット材が大きな内部歪を含む為、界面での拡散開始温度が低下し、低荷重、低温、短時間で高い接合強度が得られる。
3.低温での接合が可能である為、Al系バッキングプレート材の強度低下を抑制できる。
4.低温での接合が可能である為、接合時のAl系バッキングプレート材自体の塑性変形を抑制できる。
5.組織制御熱処理工程と接合工程とを同時に行う為、工程を削減できる。
6.目的とする結晶組織と必要な接合強度とを同時に達成可能である。
Claims (3)
- 高純度チタンからなり、組織制御熱処理されていないスパッタリングターゲット材が、0.1Pa以下の真空雰囲気中、該ターゲットの支持部材であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバッキングプレート材と拡散接合することにより、前記スパッタリングターゲット材が組織制御処理されるとともに、前記スパッタリングターゲット材と前記バッキングプレート材との間に、接合強度が10kg/mm2以上である固相拡散接合界面を有することを特徴とするスパッタリングターゲット組立て体。
- 高純度チタンからなり、組織制御熱処理されていないスパッタリングターゲット材を、0.1Pa以下の真空雰囲気中、該ターゲットの支持部材であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるバッキングプレート材と拡散接合することにより、前記スパッタリングターゲット材を組織制御処理するとともに、前記スパッタリングターゲット材と前記バッキングプレート材とを、接合強度が10kg/mm2以上の固相拡散接合界面を介して接合してスパッタリングターゲット組立て体を得ることを特徴とするスパッタリングターゲット組立て体の製造方法。
- 前記スパッタリングターゲット材と前記バッキングプレート材とを洗浄した後、400℃〜500℃の接合温度、25MPa〜50MPaの接合時負荷圧力及び2時間以内の接合時間で固相拡散接合することを特徴とする請求項2記載のスパッタリングターゲット組立て体の製造方法。
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