JP4558485B2 - Notch由来新規ポリペプチドおよびそれを用いたバイオマーカー並びに試薬 - Google Patents
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Description
このように、Notchは、細胞分化における細胞間情報伝達に極めて重要であるが、前記脳神経系の分化の他に、細胞の腫瘍化、アポトーシス、アルツハイマー病等にも関係していることが最近明らかになり注目を集めている(例えば、大河内等「アルツハイマー病とプレセニリンの生物学」分子精神医学Vol.1 No.3 2001、影山等「Notchによる神経分化制御」タンパク質酵素核酸Vol.45 No.3 2000、Brian et.al.,「A carboxy−terminal deletion mutant of Notch laccelerates lymphoid oncogenesis in E2A−PBX1 transgenic mice」Blood Vol.96 No.5 2000 Sep.1 p1906−1913)。したがって、Notchシグナル伝達の検出は、細胞分化、細胞の腫瘍化、アポトーシス、アルツハイマー病等の研究や診断に極めて重要な技術であり、その早期確立が求められている。
本発明者等は、Notchの一連のタンパク質分解過程で、S3部位での切断の際、細胞膜中に残されたポリペプチドが、細胞外に放出されるという仮説を立て、その検討を行うことにした。すなわち、細胞膜中の残されたポリペプチドが細胞外に放出されるとすれば、これがNotchシグナル伝達のマーカーになり得るからである。本発明者等によるNotchシグナル伝達の一連の研究の結果、S3の分解箇所とは別の部位(膜貫通部分内にある)で第4番目の切断が生じ、この切断により生じたポリペプチドが細胞外に放出することを突き止め、本発明に至った。
すなわち、本発明の新規ポリペプチドは、Notchタンパク質由来の新規ポリペプチドであり、前記Notchタンパク質の一連のタンパク質分解において、細胞外タンパク質分解に続き膜内タンパク質分解によりNICD(Notch intracellular cytoplasmic domain)が核内に移行する際に、細胞外に放出されるポリペプチドである。このポリペプチドは、抗体等で検出できることから、Notchシグナル伝達を検出するためのマーカーとして使用できる。また、Notchシグナル伝達は、細胞分化、細胞の腫瘍化、アルツハイマー病、アポトーシス等に関連しているため、本発明の新規ポリペプチドは、これらの検出用マーカーとしても使用できる。また、後述するように、本発明の新規ポリペプチドにおいて、C末端が異なる複数種類のポリペプチドがある。なお、以下において、本発明の新規ポリペプチドを、「Notch−β(Nβ)」とも言う。また、前記膜内のタンパク質分解は、細胞膜に限定されず、その他の細胞のオルガネラ膜も含まれる。
図2(A)および(B)は、本発明の新規ポリペプチド(Nβ)の生成の一例を示す電気泳動の写真である。
図3(A)は、本発明の新規ポリペプチド群の質量分析チャートであり、図3(B)は新規のNotchタンパク質切断部位(S4)の主要な部位およびアルツハイマー病アミロイドβ(hβAPP)タンパク質前駆体の主要な切断部位を、それぞれ示す。
図4(A)は、本発明の本体である新規ポリペプチドのアミノ酸配列の例を示す図である。図4(B)はNotch−1〜4およびhβAPPの膜内アミノ酸配列を比較したものである。
図5(A)および(B)は、本発明の新規ポリペプチド(Nβ)の細胞外放出におけるプレセニリン(PS)の機能阻害の影響の一例を示す電気泳動の写真である。
図6(A)は、Nβ放出におけるアルツハイマー病原性プレセニリン突然変異体の影響の一例を示す質量分析チャートの一例である。図6(B)は、アルツハイマー病原性プレセニリン突然変異体の影響により分泌量が相対的増加するNβ種を示したものである。図6(C)は、分泌量の相対的増加を半定量したものである。
図7は、本発明の新規ポリペプチド(Nβ)の細胞外放出の一例およびその放出ペプチドのC末端がアルツハイマー病原性プレセニリン突然変異体により変化することを説明する図である。
図8(A)は、Notch−1およびβAPPの膜貫通部分での切断の機構を示したものである。図8(B)は、F−NEXT V1744GおよびF−NEXT V1744L変異体を具体的にシェーマで示したものである。図8(C)は、V1744を変異させたことによる、NICD産生の阻害の一例を示す電気泳動の写真である。図8(D)は、対応する細胞培養上清中のF−Nβの分泌の一例を示す電気泳動の写真である。図8(E)は、細胞内でのS3/S4切断の効率を測定したものである。
図9(A)は、野生型F−NEXT、図9(B)は、F−NEXT V1744G突然変異体、図9(C)は、F−NEXT V1744L突然変異体から放出されたF−Nβペプチドの質量分析チャートである。
図10(A)は、作成したS4切断部位突然変異体を具体的にシェーマで示したものである。図10(B)および(C)は、野生型F−NEXT、F−NEXT G1730−1733変異体およびL1730−1733変異体から放出されたF−Nβの分子量の一例を示す電気泳動の写真である。図10(D)は、細胞内でのS3/S4切断の効率を測定したものである。
図11(A)は、F−NEXT G1730−1733突然変異体、図11(B)は、F−NEXT L1730−1733突然変異体から放出されたF−Nβペプチドの質量分析チャートである。
本発明のポリペプチドは、Notchシグナル伝達に比例して細胞外に放出される。しかも、この細胞外への放出の直前におこるタンパク質分解である新規タンパク質分解は、プレセニリン依存的であり、プレセニリン機能が阻害されれば、本発明のポリペプチドの放出も減少する。
本発明の新規ポリペプチドは、Notchタンパク質において、S3切断部位でのタンパク質分解と同時若しくはこれと前後しておこり、S3切断部位よりN末端側の細胞膜貫通部分でのタンパク質分解(S4切断)により、生じて放出される。
本発明の新規ポリペプチド(Nβ)のアミノ酸配列は、配列番号1から18のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。配列番号1から18において、配列番号1から9までが、マウスの配列であり、配列番号10から18までがヒトの配列である。また、配列番号1から18のアミノ酸配列は、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であってもよい。このようなアミノ酸配列からなるポリペプチドも、Notchタンパク質由来であり、前記Notchタンパク質の一連のタンパク質分解において、細胞外タンパク質分解に続き細胞膜内タンパク質分解によりNICDが核内に移行する際に、細胞外に放出されるポリペプチドである。そして、このポリペプチドも、Notchシグナルに比例して細胞外に放出され、プレセニリン依存的に細胞外への放出される。なお、本発明の新規ポリペプチドは、生物から得られたものであってもよく、また人工的に合成したものであってもよい。また、前記生物の種類も限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、ショウジョウバエ、線虫等であってもよい。また、本発明の新規ポリペプチドの由来となる組織や細胞の種類も限定されず、即ち、未分化、分化を問わない体細胞および組織であり、例えば神経、骨髄、癌細胞および組織等であってもよい。
本発明のバイオマーカーは、前記本発明の新規ポリペプチドを含むものであり、Notchシグナル伝達、細胞分化、腫瘍、アポトーシスおよびアルツハイマー病等の検出に使用できる。なお、本発明のバイオマーカーは、その他の成分を含有していても良く、また前記新規ポリペプチドそのもの(単独)であってもよい。このバイオマーカーは、前記新規ポリペプチドを認識可能な抗体を含む試薬で検出できる。前記新規ポリペプチドを認識可能な抗体は、通常の方法で作成でき、モノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体であってもよい。前記試薬は、前記新規ポリペプチドを認識可能な抗体の他に、この抗体を抗原とする標識化抗体若しくは前記新規ポリペプチドを認識可能な標識化抗体を含んでいてもよい。前記標識化は、例えば、蛍光物質、酵素(その基質が酵素反応で発色するもの等)、放射性物質、アガロースなどの担体等で行うことができる。
本発明の遺伝子は、前記本発明の新規ポリペプチドをコードする遺伝子であり、DNA若しくはRNAである。また、本発明のベクターは、前記遺伝子を組み込んだものであり、本発明の形質転換体は、前記ベクターを用いた形質転換体である。
つぎに、本発明の新規ポリペプチドが細胞外放出される一例を、図7の左側に示す。なお、同図右側は、アルツハイマー病におけるアミロイドベータ(Aβ)の細胞外放出の一例を示している。同図左側に示すように、NEXT(Notch Extracellular Truncation)のアミノ末端は、TACE(TNFβ−Converting Enzyme)による細胞外切断により生成される。S2部位で切断されたNEXTは、さらに、S3部位の切断により、NICDが核内に移行し、これと同時若しくは前後して、S4部位の切断(本発明者等が初めて見出した第4のNotchのタンパク質分解部位)により、Nβ(本発明の新規ポリペプチド)が、細胞外に放出される。
つぎに、本発明の新規ポリペプチド(Nβ)のC末端のアミノ酸配列の例を、図4(B)に示す。同図には、マウスの4種類のNotch(mNotch−1〜4)、ヒトの4種類のNotch(hNotch−1〜4)およびhβAPPにおける、それぞれのNβ若しくは細胞外放出フラグメントのC末端周辺の配列を示している。図示のように、主要なS4切断部位は、推定膜貫通ドメイン(TM)領域において、数アミノ酸残基ほどN末端側に位置する(図において、左側の三角矢印で示す)。図示のように、主要な切断部位周辺のアミノ酸配列は、mNotch−1〜4の間で保存されていなかったが、S3切断部位であるバリン1743は保存されていた(図において、右側の三角矢印で示す)。このように、S4切断部位は、S3と異なり多様性があるのが特徴である。この多様性は、S4セクレターゼの切断配列認識機構が特殊であることを反映していると推察される。
(試薬)
γ−セクレターゼ(γ−Secretase)阻害剤である、[(2R,4R,5S)−2−Benzyl−5−(Boc−amino)−4−hydroxy−6−phenyl−hexanoyl]−Leu−Phe−NH2は、Bachem社から購入した。
(プラスミド)
C末端に6回連続するc−myc配列を付加したNotchΔE−M1727V(NΔE)およびNICDをコードするcDNAを、プラスミドpcDNA3 hygroに挿入したものは、Schroeter等の方法により調製した(Schroeter,E.H.,Kisslinger,J.A.,Kopan,R.(1998).Notch−1 signalling requires ligand−induced proteolytic release of intracellular domain.Nature.393,382−386.)。なお、前記cDNAは、R.Kopan博士から提供されたものを使用した。N末端にFLAG配列を付加したNEXT、即ちFLAG−NEXT(F−NEXT)は、2段階の部位特異的突然変異誘発(2−stepsite−directed mutagenesis)により調製した。第一段階では、F−NEXT M1727V(F−NEXT M1727V)を、部位特的突然変異誘発キット(ExSite PCR−Based Site−Directed Mutagenesis Kit、Stratagene社)を用いて製造した。その際、NΔEを鋳型として使用し、また、下記の2つのプライマー1、2(配列番号19、20)を調製した。
第二段階では、F−NEXTを、部位特異的突然変異誘発キット(Quick Change Site−Directed Mutagenesis Kit、Stratagene社)を使用して、部位特異的突然変異誘発により調製した。その際、F−NEXT M1727Vを鋳型として使用し、また、下記の2つのプライマー3、4(配列番号21,22)を調製した。
これらの変異体について、塩基配列を決定(シーケンス)し、突然変異誘発が成功したことを確認した。
(抗体)
ポリクローナル抗体(L652)は、ヒトNotch−1のV1722からG1743の間のアミノ酸配列(S2部位からS3部位の間の配列)のポリペプチドに対する抗体である。この抗体(L652)は、次のようにして作製した。まず、抗原となる前記ポリペプチドを準備した。このポリペプチドは、疎水性アミノ酸を多く含んでいることが特徴である。このため、アルツハイマー病アミロイドβタンパク質に対する抗体作成時に利用したのと同じ方法で抗体を作成した。即ち、キャリアタンパク質と結合させずに直接水溶し、同容積のリン酸バッファー(2倍濃度)を加え、アジュバントと共に乳化し、この乳化物をウサギに注射した(Wild−Bode,C.,Yamazaki,T.,Capell,A.,Leimer,U.,Steiner,H.,Ihara,Y.,Haass,C.(1997).Intracellular generation and accumulation of amyloid beta−peptide terminating at amino acid 42.J Biol Chem 272,16085−16088)。抗c−mycモノクローナル抗体(9E10)および抗FLAGモノクローナル抗体をアガロースに共有結合させた試薬(M2−アガロース)は、市販品を使用した。
(培養細胞および細胞株)
ヒト胎児腎臓293細胞(K293細胞)、N2a細胞およびCOS細胞を、10%ウシ胎仔血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、200μg/mlゼオシン(zeocin;PS1発現を選択するため)および100μg/mlハイクロマイシン(hygromycin;NΔEおよびF−NEXT発現を選択するため)を添加したDMEM培地にて培養した。K293細胞はPS1野生型、PS1 L286VおよびPS1 D385Nを安定に発現する(Okochi et al,2000,Kulic et al,2000,Wolfe et al,1999)。NΔEおよびF−NEXTの細胞への導入は、商品名Lipofectamine 2000(Invitrogen社)を用いて行った。
(パルス−チェイス実験)
NΔEを発現する細胞から、NΔEのN末端フラグメント(NTF:Nβ)が放出されるかを判断するために、NΔEおよびNICDを安定的に導入したK293細胞を、10cmディッシュ中で、コンフルエントな状態まで培養した。そして、その細胞を、MEMビタミン溶液(Gibco社)と非標識アミノ酸を添加したイーグルとの平衡塩溶液中に300μCiの[3H]アミノ酸(トリチウム化アミノ酸混合液;tritiated amino acid mixture,Amersham社)を加えた培養液中で、代謝的にパルスラベルを2時間行い、その後、10%FCS/DMEMで6時間チェイスした。Nβが放出されるかどうか判断するため、F−NEXTを発現する細胞を、最初に、メチオニン非含有培地で40分間メチオニン飢餓状態で培養し、ついで、メチオニン非含有DMEMにおいて、400μCiの[35S]アミノ酸混合液(Redivue Promix,Amersham社)で1時間パルスラベルをし、つづいて、過剰量の非標識メチオニンを添加した10%FCS/DMEMを含むチェイス培地で、種々の時間、チェイスした。
(免疫沈降/SDS−PAGE)
チェイス期間の終了後、培地を集めて直ちに氷上においた。ついで、3000×gで遠心分離を行い、細胞残屑を排除した。次に、プロテアーゼ阻害剤カクテル(1:1000;Sigma社)および0.025%のアジ化ナトリウムを加えた。その試料を、L652またはM2−アガロース(Sigma社)を用いて、一晩免疫沈降を行い、ついで、0.1%SDS、0.5%deoxycholic acidおよび1%TritonX−100を含むRIPAバッファーで三回洗浄した。そのあとに、トリス−トリシン10〜20%勾配ゲル(Invitrogen社)を使用してSDS−PAGEを行った。細胞は、氷冷PBS中でかき集め、1500×gの遠心分離によって分離収集し、10倍濃度の前記RIPA100μlで溶解した。そして、プロテアーゼ阻害混合液(1:500;Sigma社)を含む900μlのPBSを、前記溶解した細胞に加えた。不溶画分は、15000×gの遠心分離で分離し、その上清を免疫沈降に使用した。免疫沈降用の試料は、プロテインAセファロース(protein A sepharose;Sigma社)で前処理し、9E10またはM2−アガロースで免疫沈降した。次に、洗浄したタンパク質試料を、8%若しくはトリス−トリシンSDS−PAGEにて分離した。ゲルを固定した後、増幅蛍光写真撮影法試薬(Amplify Fluorographic Reagent、Amersham社)中で振とうし、ついで乾燥し、最後にオートラジオグラフィーを行った。
(免疫沈降/MALDI−TOF/MS解析)
F−NEXTおよびその派生物を安定に発現する細胞をコンフルエントな状態まで20cmディッシュで培養した後、培養培地を新しい10%FCS/DMEMと取り替えた。CO2インキュベーター中で3時間培養した後、培養上清を集めてすぐに氷上におき、そして、遠心分離で細胞残屑を除去した。プロテアーゼ阻害混合液(1:1000)および0.025%アジ化ナトリウムを添加した後、その培地を、M2−アガロースを使用して、4時間、4℃で免疫沈降した。そして、試料を、0.1%n−octylglucoside、140mM NaCl、10mM Tris(pH8.0)および0.025%アジ化ナトリウムを含むMS洗浄バッファーを使用して、10分間、4℃で3回洗浄した。そして、さらにもう一回、0.025%アジ化ナトリウムを含む10mM Tris(pH8.0)で洗浄した。その結果得られた沈殿に結合したペプチドを、α−cyano−4hydroxy cinnamic acidで飽和したTFA/アセトニトリル/水(TFA:アセトニトリル:水=1:20:20)で溶出した。可溶化した試料を、ステンレスプレート上で乾燥させ、MALDI−TOF/MS解析にかけた。MSピークは、アンギオテンシン(Sigma社)およびインシュリンβ鎖(Sigma社)で較正した。
図1(A)に、NΔE、NICDおよびF−NEXTの構成を示す。図示のように、F−NEXTでは、NEXTのN末端にシグナルペプチドとそれに続くFLAG配列および2つのメチオニンが挿入されている。F−NEXTでは1727番目のアミノ酸残基に変異を加えていないが、NΔE(マウスNotch−1(mNotch−1))中では、図中の逆三角で示すように、メチオニン1727をバリンへ人為的に変異させてある(Schroeter,E.H.,Kisslinger,J.A.,Kopan,R.(1998).Notch−1 signalling requires ligand−induced proteolytic release of intracellular domain.Nature.393,382−386.)。三角矢印は、S3タンパク質分解部位を示す。
NΔEおよびF−NEXTを安定に発現する細胞を、1時間[35S]でパルスラベルし、図1(B)に示す時間チェイスした。その結果得た細胞の溶解物を9E10で免疫沈降し、8%SDS−PAGEで解析した。図1(B)の上パネルに示すように、2時間チェイスした後、NΔE(パネル中央)およびF−NEXT(パネル右)においてタンパク質分解が観察され、NΔEおよびF−NEXTのバンドよりも速く移動するNICDバンドの生成が認められた。NICD生成効率は、NΔEまたはF−NEXTを発現させた場合で違いがなかった。
つぎに、前記培養上清を、M2−アガロースで免疫沈降し、8%SDS−PAGEで解析した。図1(B)の下パネルに示すように、約4kDaのF−Nβ(本発明の新規ポリペプチド群の集合体)のバンドが、F−NEXTを安定に発現する細胞を2時間チェイスした培地からのみ同定された。このことは、NICD生成時にその反対側のアミノ末端フラグメントが細胞外に分泌されているという全く新しい知見を示す。
F−NEXTを発現する細胞を、[35S]で1時間パルスラベルし、図1(c)に示した時間チェイスした。培地および溶解物中のF−Nβを、上記の実験手法により調べた。図1(C)に示すように、F−Nβ(本発明の新規ポリペプチド群の集合体)の蓄積が、培地中ではチェイス時間の延長に応じて観察されたが、細胞溶解物中では殆ど検出できなかった。なお、電気泳動ゲルの写真撮影の露光時間を長くすると、培地中と同じ分子量のF−Nβバンドが溶解物中でも検出できた(図示せず)。
図1(B)および(C)に示した結果は、F−NEXT M1727V変異体を使用した場合、または発現細胞としてCHO、COS、N2aを用いた場合に再現できた(図示省略)。
NΔEまたはNICDを安定に発現するK293細胞を、[3H]で2時間パルスラベルし、6時間チェイスした。チェイス培地および細胞溶解物を抗NΔE抗体であるL652で免疫沈降し、その試料をトリス−トリシンSDS−PAGEで分離した。図2(A)に示すように、分子量3〜4kDaのNΔEのNTFバンド(三角矢印)は、NΔEを発現する細胞の培養上清からは検出されたが、NICDを発現する細胞の培養上清および細胞溶解物中には認められなかった。このことから、このバンドはFLAGタグされていない野生型のNβであると考えられた。
上記と同じ培地および溶解物を、抗c−myc抗体(9E10)を使用して、免疫沈降した。図2(B)の下パネルに示すように、約100kDaのNΔEおよびNICDのバンドが、溶解物中では検出されたが(三角矢印)、培地中では検出されなかった。この結果は、NΔEおよびNICDがほぼ同じ速度で各細胞に発現していることを示している。
図3(B)に、マウスNotch−1(mNotch−1)およびヒトβAPP(hβAPP)の膜内切断の概略を示す。mNotch−1は、膜内切断により、NICDとNβを生じる。この実施例では、Nβの分泌およびそのC末端に新規のタンパク質切断部位を確認した。一方、hβAPPは、膜内切断により、細胞内フラグメントCTFγ50(Sastre,M.,Steiner,H.,Fuchs,K.,Capell,A.,Multhaup,G.,Condron,M.M.,Teplow,D.B.,Haass,C.(2001).Presenilin−dependent gamma−secretase processing of beta−amyloid precursor protein at a site corresponding to the S3 cleavage of Notch.EMBO Rep.2,835−841.)と、数種類のAβフラグメントを生じる。
F−NEXTを安定に発現する細胞の培養上清を、M2−アガロースで免疫沈降し、上記の実験手法により、Nβの分子量をMALDI−TOF/MSを使用して解析した。その結果を、図3(A)グラフ(大)に示す。図示のように、分子量4000を中心に、多数のピークが観察されたが、4500より多い分子量の顕著なピークは確認されなかった。分子量3000から4500のピークの詳細を図3(A)のグラフ(小)に示す。同じ主要なピークは、CHO、COSおよびN2aを宿主細胞として使用した場合でも確認された(図示せず)。また、これらのピークは、F−NEXT M1727V変異体を感染させた場合でも確認された(図示せず)。
図4(A)に図3(A)グラフ (小)に示したMALDI−TOF/MSのピークに一致するNβのアミノ酸配列を示す。主要なNβのC末端は、アラニン1731である。太文字は、主要ピークのアミノ酸配列を示す。図示のように、S3切断部位に一致する5060付近の分子量のピークは、確認されなかった。この結果から、Nβは細胞外に放出され、その放出の直前に起こるタンパク質の分解部位はこれまで報告された3つのタンパク質分解部位(S1、S2、S3)とは異なる、新規の第4のタンパク質分解部位(S4)であると結論できる。
図4(B)はヒト(h)とマウス(m)のNotch−1〜4タンパク質膜貫通部分のアミノ酸配列を列挙したものである。S1、S2、S3切断がNotch−1〜4に共通した現象であり、また、種によらない共通したシグナル伝達機構であることから、S4切断もすべてのNotch関連タンパク質に共通する現象であると推測できる。図示のようにS4部位はS3部位と同じように部分的に保存されていることから、このS4切断が、Notch−1〜4タンパク質に共通する現象であると推察できる。
PS1野生型およびプレセニリン機能を人工的に消失させた突然変異体(PS1 dominant negative mutant)であるPS1 D385Nを発現する細胞に、F−NEXTを安定的に感染させた。そして、これらのPS1派生物とF−NEXTとを同時に発現する細胞から放出されるNβのレベルを、[35S]で1時間パルスし、ついで、2時間チェイスした培養上清および細胞溶解物を解析することにより調べた。まず、チェイス培地をM2−アガロースで免疫沈降し、Nβ放出を検出した。図5(a)の上パネルに示すように、PS1 D385N発現細胞からのNβの放出が、PS1野生型発現細胞と比較して著しく減少した。即ち、プレセニリン機能を人工的に消失させた突然変異体発現細胞ではS4切断効率が著しく減少することが確認できた。また、同時に採取した細胞溶解物を、9E10を使用して免疫沈降した。図5(A)の下パネルに示すように、2時間のチェイス期間後のNICDバンドが、PS1 D385N発現細胞ではほとんど見ることができなかった。即ち、プレセニリン機能を人工的に消失させた突然変異体発現細胞では、S3切断効率が著しく減少するという報告を同時に再現することができた。
つぎに、F−NEXTを安定に発現する細胞を、プレセニリンの活性中心に結合するγ−セクレターゼ阻害剤(L685,458)を加えた場合と、加えない場合とで、1時間ラベルし、2時間チェイスした。すなわち、1μMのL685,458を、メチオニン飢餓状態にする2時間前に培養培地に加えると同時に、パルス−チェイス期間中、使用する各培地に同濃度のL685,458を含ませた。チェイス培地をM2−アガロースで免疫沈降し、Nβ放出を検出した。図5(B)の上パネルに示すように、γ−セクレターゼ阻害剤により、Nβの細胞から放出が著しく減少した。また、それに相当する溶解物を9E10で免疫沈降した。図5(b)下パネルに示すように、2時間のチェイス期間後のNICDバンドが、S3切断阻害によって、ほとんど確認できなかった。これらの結果から、Nβの細胞外への放出はプレセニリン依存性タンパク質分解の働きによるものであり、プレセニリンの機能が阻害されると、S4切断およびそれに引き続くNβの放出も阻害されるといえる。
これまでFADに関連するPSの突然変異が分析された結果、すべての例でAβ42分泌の増加が確認されている。この実施例では、PS依存的S4タンパク質分解も、FAD関連PS突然変異に関係していることを確認した。
野性型(wt)PS1若しくはFAD関連PS1突然変異であるPS1 C92S、PS1 L166PおよびPS1 L286Vを発現するK293細胞に、F−NEXTを安定的に感染させた。そして、MALDI−TOF/MSにより、F−NβのC末端の変化を確認するために、PS1派生物およびF−NEXTを発現する細胞の培養上清を分析した。図6(A)に示すように、NβのC末端タンパク質分解パターンの特徴的変化が、野性型PS1に比較してFAD突然変異PS1発現細胞で確認できた。特に、Aβ42生成が極めて増加しているPS1 L166P突然変異では、F−Nβペプチドを長くする傾向が見られ、F−Nβ1731より2および4アミノ酸残基長いF−Nβ種(F−Nβ1733、1735)の生成の増加が確認できた(図6(B)参照)。また、図6(A)に示すように、PS1 C92Sでは、F−Nβ1734のレベルが増加し、PS1 L286Vでは、F−Nβ1735のレベルが増加し、かつF−Nβ1734のレベルが減少した。これらの結果から、FAD突然変異により、S4切断部位のパターンは影響を受け、C末端側にペプチド長が伸びる傾向があることが確認された。Aβ42と同様に、アグレッシブなPS1 L166P突然変異が、F−Nβのペプチド長に最も影響を与える。なお、PS1 L166Pは、成人初期のFADを引き起こすことが知られている。これらの効果は、K293細胞に限られず、Neuro2a細胞においても、FAD関連PS突然変異の同様の効果が確認できた(データ図示せず)。以上のことから、全てのFAD突然変異は、F−NβのC末端に対し、影響を及ぼすといえる(図6(C)参照)。
膜内での二箇所の切断のうち、Notch−βペプチドを産生するS4部位でのタンパク質分解と、シグナル伝達量を規定するNICDを産生するS3切断との関係について検討を行うために、この実施例では、S3部位でのタンパク質分解を阻害する突然変異体を作成し、人工的にS3部位での切断効率を減少させた場合でも、S4での切断効率は変化しないことを確認した。
Notch−1のS3切断部位のC末端側にあるV1744を変異させると、S3での切断が部分的に阻害されることが報告されている(Schroeter et al.,Nature,1998)。このことから、まず、S3部位での切断を阻害した場合における、S4切断活性の変化について検討を行った。膜内タンパク質分解による生成物を効率よく認識するために、NEXT類縁体のN末端側にFLAGタグを、そしてC末端側にmycタグをつけ、ついで、前記類縁体を発現するプラスミド(F−NEXT;Okochi,2002)のバリン1744をグリシンまたはロイシンに変異させた(以下、F−NEXT V1744GおよびF−NEXT V1744Lという)(図8(B))。S3切断部位の突然変異を持つあるいは持たないF−NEXT発現コンストラクトを、野生型PS1またはγ−セクレターゼ機能を欠いたPS1 D385Nを恒常的に過剰発現させたK293細胞に安定的に感染させた。そしてそれらの細胞を35Sメチオニンでのメタボリック・ラベル実験を行い、その細胞沈査中およびそれに対応する細胞培養上清中の放射線標識された新規のF−NβおよびNICDを、免疫沈降法および電気泳動による分離後の放射線量測定を組み合わせて検出した(IP−autoradiography)。
前記細胞沈査に30分間パルス刺激を与え、抗c−myc抗体(9E10)でIP−autoradiographyを行ったところ、F−NEXTの発現が認められた。さらにその細胞を2時間チェイスしたところ、F−NEXTの分解によるNICD生成が認められたが、V1744GおよびV1744L変異体では有意に阻害されていた(図8(C)の上パネル)。この結果は、今までの報告と同一であった。プロテアゾーム阻害薬であるラクタシスチンを加えることでNICDの分解を阻害した場合においても、V1744G変異体発現細胞およびV1744L変異体発現細胞における2時間チェイス後の放射線標識されたNICD量は、有意に少なかった。このF−NEXTによる膜内タンパク質分解およびNICD生成は、PS1 D385N発現細胞では完全に消失した(図8(C)の下パネル)。これらのことより、図8(C)の上パネルで認められたタンパク質分解が、PS/γ−セクレターゼにより生じたといえる。
つぎに、2時間チェイス後の細胞培養上清を、抗FLAG抗体(M2)を用いて解析した。F−NEXT V1744G変異体発現細胞およびF−NEXT V1744L変異体発現細胞から分泌されたF−Nβは、野生型F−NEXT発現細胞からのそれとほぼ同じレベルであった(図8(D))。また、PS1 D385N変異体発現細胞からはF−Nβの生成は認められなかった。以上のことから、PS/γ−セクレターゼが、この切断に影響を及ぼすといえる。
これらの結果をさらに強固にするために、S3およびS4切断の効率を算出した。細胞沈査中のF−NEXT類縁体に対するNICDの割合、および細胞沈査中のF−NEXT類縁体に対する細胞培養上清中のF−Nβの量比を測定した。その結果、野生型に比較してV1744G変異体およびV1744L変異体は、共にS3切断活性を低下させるが、S4切断活性には影響を及ぼさないことが確認された(図8(E))。
アルツハイマー病の原因となるPS1の突然変異体では、S4切断の正確さの変化と共にS3切断の活性の減少が起こる。S3切断がS4切断の前提条件であるならば、PS1の突然変異体によるS3切断効率の減少がS4切断の正確さに影響を及ぼすと考えた。そこで、この実施例では、S3切断部位の突然変異体を作成し、人工的にS3での切断効率を減少させた場合においても、S4での切断の正確さが変化しないことを確認した。
PSの家族性アルツハイマー病(FAD)型変異体が、PS/γ−セクレターゼによるタンパク質分解の正確さに影響を及ぼし、さらに延長型AβであるAβ42の産生を増大させることが、FAD発症の原因となっていると考えられている。同様に、PSのFAD変異体は、PS/γ−セクレターゼによるNotchの切断の正確さに影響を及ぼし、延長型F−Nβの産生を増大させる。さらに、いくつかのPS変異体が、S3切断効率を減少させることが報告されている。そこで、S3切断効率を減少させるS3変異体のS4切断の正確さへの影響について検討を行った。野生型F−NEXT発現細胞、F−NEXT V1744G変異体発現細胞またはF−NEXT V1744L変異体発現細胞の細胞培養上清中のF−Nβを、M2−アガロースを用いて免疫沈降し、MALDI−TOF/MSで解析した。この結果、図9(B)および(C)に示したとおり、F−NEXT V1744G変異体およびV1744L変異体では、野生型と同じく、アラニン1731とアラニン1732との間が主な切断部位であって、幾つかに分散する副次的なS4切断のパターンにはなんら影響を及ぼさなかった。すなわち、S3切断を減少させる変異は、S4切断部位の正確さに何ら影響を及ぼさないことが確認された。このことより、FAD型のPS変異が、間接的にS4切断の正確さに影響を与えていると考えられた。
S4切断部位変異体が、前述のS3の人工的点突然変異体と同様の効果を発揮するのではないかと考え、S4切断部位周辺の4つのアラニン残基をグリシン残基またはロイシン残基に変異させたF−NEXT G1730−1733変異体およびL1730−1733変異体(図10(A))を作成し、S4切断効率の減少のS3切断効率への影響について検討を行った。その結果、S4切断部位変異体のうちS4切断活性を阻害したL1730−1733変異体では、S3切断効率が減少した。この結果は、Notch−1の膜内タンパク質分解において、S4切断に依存的なS3タンパク質分解によりNICDが産生されるタンパク質分解経路が存在することを示している。
つぎに、S4切断についてもS4切断部位変異体が同様の効果を発揮するのではないかと考えた。図10(A)中の三角矢印で示すように、NotchのS4切断部位は4つの連続するアラニン残基のちょうど中間に位置する。この4つのアラニン残基をグリシン残基またはロイシン残基に変異させたF−NEXT G1730−1733およびL1730−1733を作成した。S3変異体の場合と同様に、パルス−チェイス実験を行った。2時間チェイス後の細胞培養上清中の放射線標識されたF−Nβについて検討を行った。野生型およびS4変異型F−NEXTを発現させた細胞から、F−Nβの分泌が観察された(図10(B))。しかしながら、新規のF−Nβ産生量は、野生型に比較してF−NEXT G1730−1733変異体では殆ど変化がなかったが、F−NEXT L1730−1733変異体では減少しているように見えた(図10(B))。
つぎに、対応する細胞沈査中に含まれるF−NEXTからの放射線標識されたNICD生成について検討を行った。その結果、G1730−1733変異体発現細胞では、野生型F−NEXT発現細胞と同程度のNICD生成が認められたのに対し、L1730−1733変異体発現細胞でのNICD生成は、野生型に比較して減少した(図10(C)の上パネル)。このことから、L1730−1733変異体では、S3切断が阻害されていることが考えられた。
この結果を立証するために図8(E)と同様の方法でS4/S3効率を計算した。その結果、S4変異体のうち、S4活性にほとんど影響を与えなかったG1730−1733変異体は、S3切断活性に何の影響も与えなかった(図10(D))。ところが、S4活性を阻害したL1730−1733変異体は、S3切断効率を減少させることが確認された(図10(D))。また、PS/γ−セクレターゼ機構は、S3/S4のどちらの部位でも切断し、膜貫通部分の細胞膜近傍での切断であるS3切断とそのほぼ中央部分での切断であるS4切断との間の中間分解物が見つかっていないことから、S3部位とS4部位とが、ほぼ同時に切断されることが考えられた。これらのことから、Notch−1の膜内タンパク質分解において、S4切断に依存的なS3タンパク質分解によりNICDが産生されるタンパク質分解経路が存在すると考えられる。
続いて、F−Nβ G1730−1733およびF−Nβ L1730−1733のC末端を決定した。F−NEXT G1730−1733から放出されるF−Nβ量は、野生型F−NEXT発現細胞からのそれとほぼ同等であった(図10(B))が、図11(A)の逆三角で示すように、G1730−1733変異体のS4切断部位は、グリシン1731とグリシン1732の間ではなかった。この変異体の主なS4切断部位は、4つ連続するグリシン残基のC末端側に移動し、フェニルアラニン1734とバリン1735の間、バリン1735とロイシン1736の間、フェニルアラニン1738とバリン1739の間に位置していた。すなわち、S4切断は、グリシン残基の前後で起こらず、副次的な切断部位が、4つのグリシンのN末端側に分布し、F−NEXT G1730−1733から放出されるF−Nβの分子量は増加した(図10(B))。また、F−NEXT L1730−1733変異体の主要なS4切断部位は、図11(B)の逆三角で示すように、野生型F−NEXTと同様のトポロジーの4つの連続するロイシン残基の中間、すなわちロイシン1731とロイシン1732の間であり、副次的な切断部位は、殆ど認められなかった。また、F−NEXT L1730−1733変異体から放出されるF−Nβの分子量は減少した(図10(B))。
Claims (4)
- Notchタンパク質の細胞外タンパク質分解に続き膜内タンパク質分解によりNICD(Notch intracellular cytoplasmic domain)が核内に移行する際に細胞外に放出されるポリペプチドのアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、アミノ酸配列が配列表の配列番号1,6−8,13,及び15−17からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、家族性アルツハイマー病に関連するプレセニリンの突然変異を検出するためのポリペプチド。
- 請求項1記載のポリペプチドを特異的に認識可能な抗体。
- モノクローナル抗体である、請求項2記載の抗体。
- Notchシグナル伝達を検出する試薬であって、請求項2または3記載の抗体を含む試薬。
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