JP4551563B2 - ヒアルロン酸ゲルの製造方法及び医用材料 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、新規な流動性又は、流動性及び透明性を有するヒアルロン酸ゲルの製造方法、及び、得られるヒアルロン酸ゲルを含有する生体適合性の良好な医用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒアルロン酸(以下、HAと略す)は、β−D−N−アセチルグルコサミンとβ−D−グルクロン酸が交互に結合した直鎖状の高分子多糖である。HAは哺乳動物の結合組織に分布するほか、ニワトリのとさか、連鎖球菌の夾膜などにも存在が知られている。ニワトリのとさか、臍帯等が抽出材料として用いられているほか、連鎖球菌の培養物からも精製物が調製されている。
天然のHAは、分子量について多分散性であるが、種及び臓器特異性をもたず、生体に移植または注入した場合であっても優れた生体適合性を示すことが知られている。しかしながら、生体にHAの溶液を適用する場合に生体内滞留時間が比較的短いことなどから、その用途を医用材料へと展開するにあたりHAを多種多様な化学修飾剤で架橋して滞留性を向上させる試みがなされてきた。
【0003】
(I)関節について見てみると、関節液は生体関節において関節軟骨へ栄養を供給するとともに、他に類を見ない優れた潤滑機能とショックアブソーバー機能を有している。その優れた粘弾性機能は関節液中の主成分の一つであるHAに大きく支配されることが明らかになっている。
一般に、変形性関節症,慢性関節リウマチ等の各種関節症の患者関節液中のHA濃度および分子量の分析結果から、正常関節液に比較し、濃度、分子量において低下傾向が認められており、このことが関節液の潤滑作用、関節軟骨表面保護作用の低下に起因する運動機能障害あるいは疼痛症状の発生等と密接な関係があるものと考えられている。
【0004】
これら関節疾患のうち変形性膝関節症に有効な手段として、近年、高分子量HA溶液を疾患関節部位へ注入する方法が広く採用されてきており(Artz:生化学工業製、平均分子量90万;Hyalgan:Fidia製、平均分子量<50万]、これらに使用されている高純度に精製されたHAは鶏冠由来である。かかる鶏冠由来のHAは元来生体に存在する物質であるため非常に安全である上、かつ有効な治療効果が得られてはいるものの、通常はその効果を得るには数回〜10回もの頻回投与を必要とする。
【0005】
このような分子量100万以下のHAを用いたウサギ膝関節腔投与後の関節腔内における貯留性試験では、1日〜3日で関節腔から消失する結果となっていることからも頻回投与の必要性が窺える[ブラッド・コアギュレーション・アンド・フィブリノリシス(Blood Coagulation and Fibrinolysis,vo12,173,1991)]。
【0006】
一方、生体内に存在するHAの分子量は、本来数百万〜1千万にも及ぶといわれており、生体内により近い高分子量のHAの方が一層の効果が期待できるとの考えの下、化学架橋剤処理することにより誘導された架橋HAが膝関節治療剤として開発されている[Hylan:Biomatrix製]。
【0007】
この架橋HAは上記ウサギ関節腔投与による貯留性試験では20日〜30日もの長期間貯留するといわれている。そのため3回投与で十分な効果が得られたとの臨床試験結果も得られており、現在、関節症治療剤として実用に供されている「ジャーナル・オブ・リウマトロジー(Journal of Rheumatology vol.20,16,1993]。
【0008】
(II)次に塞栓について見てみると、塞栓形成による治療は、脈管性疾患、動脈瘤および静脈瘤の奇形のような各種の疾患を処理するのに有効であることが知られている。また、動脈が腫瘍に栄養を供給する流路を閉塞することで腫瘍を治療するのにも有効である。
【0009】
塞栓形成法を実施するいくつかの方法が提案されている。例えば、一端にバルーンを取り付けたカテーテルを用いるバルーン塞栓形成法が開発されている(W.Takiら、Surg.Neurol,Vol.12,363,1979)。その他、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)モノマーを重合触媒とともにカテーテルを通じバルーンに導入する方法も知られている(W.Takiら、Surg.Neurol.,Vol.13,140,1980)。
【0010】
癌の動脈塞栓療法として、シスプラチン含有キチン(田原等、癌と化学療法、21巻、13号、2225頁、1994年)、シスプラチン担持ポリ(ベンジル1−グルタメート)ミクロスフェア(Li Cら,Parm.Res.,Vol.11(12),1792,1994)、SMANCSとリピオドール懸濁液に塞栓材としてゼラチンスポンジ(中村等、癌と化学療法、22巻、11号、1390頁、1996年)を用いた例などが報告されている。また、化学療法剤の持続注入と組み合わせるのに適した化学塞栓療法材として、ポリ(DL−乳酸)ミクロスフェアの報告もあり(Flandroy Pら,J Control Release,Vol.44(2/3),153,1997)、本療法の繰り返し実施には数日間で生分解する必要性が記載されている。
【0011】
バルーン塞栓形成法は、バルーンがしぼんでしまうため閉塞期間が短く、十分な効果が得られにくいこと、HEMAのようなモノマーを重合する方法では、重合がカテーテル内で起こる可能性があること等問題も多い。また、化学塞栓療法に用いられる塞栓材は、多くが合成材料であり生分解性に乏しく、生体適合性の面で不安が残る。ポリ(DL−乳酸)ミクロスフェアについても、繰り返し投与を考えると生分解性のみで安全性が完全に保証されるものでもない。
HAは優れた生体適合性を有することから安全性には問題がないものの、HA溶液を投与しただけでは塞栓は形成されず、また局部での滞留性、貯留性の向上が望まれていた。
(III)軟質組織について考えてみると、軟質組織の修復又は膨張のために種々の材料を注入しようという考え方は、皮下注射針の発明後急速に発展してきた。多くの物質が軟質組織や皮膚の矯正のために人体に注入されてきた。そのなかで、液状シリコンの注入が広くおこなわれてきたが、その長期的残留による皮膚潰瘍のような副作用のため最近では、あまり使用されなくなっている。また、コラーゲンの注入が行われてきた。用いられるコラーゲンとしては、架橋剤で化学架橋されたもの、繊維状のコラーゲン等さまざまである。架橋された固体コラーゲンの注入には、切開手術が必要であり、整形性や柔軟性にも問題がある。米国特許3949073号に繊維状に整形されたコラーゲンについて記載されている。
【0012】
しかし、その液状成分が吸収されていくために体積減少があり、補充が必要となる。また、注入可能なこのようなタイプのコラーゲンは、免疫物質のような汚染物質の除去が難しく、コスト高となり、諸物性も最適であるとは言えない。
HAを軟質組織注入剤として用いる試みもなされている(Ann.Plast.Surg.,Vol.38,308,1997)。HAの溶液を用いると体内での吸収が早いことから、軟質組織内での滞留性、貯留性の向上のために、HAを化学的に架橋することがさまざま試みられている(米国特許第4582865号明細書、特公平6−37575号公報、特開平7−97401号公報、特開昭60−130601号公報)。
【0013】
そして、例えばハイランBゲルは、フィラフォーム(Hylaform)としてヨーロッパで市販されている(The Chemistry Biology and Medical Application of Hyaluronan and its Derivatives Vol.72,p278,PORTLAND PRESS)。
【0014】
(IV)次に眼球後部特に硝子体と接する網膜について考えると、網膜は眼内空間の後部境界を形成し、水晶体及び毛様体は全部境界を形成している。網膜は二層から成り、硝子体液に直接接触している受容器層は感光性細胞を有し、脈絡膜に隣接する層は色素上皮細胞から成る。受容器層に流体が侵入すると網膜の二層が分離し、網膜剥離が生ずる。
【0015】
網膜剥離の治療は、例えば光凝固、冷凍凝固等により剥離網膜を色素上皮層及び脈絡膜と接触させる方法により網膜を閉鎖する。接触させる際には、内向きバックルを外側から強膜及び脈絡膜に押しつけたり、硝子体液の容量を高める物質を注入し硝子体液によって網膜に圧力を加えたりする方法が用いられる。
【0016】
後者の場合、十分に再吸収されない出血が起きた後、あるいは網膜剥離に併発する膜の内方向への成長後のような硝子体液を完全にあるいは部分的に手術により取り除く必要がある症例に対し代用硝子体として種々の物質が試みられてきた。
このような代用硝子体は、眼球の形態を保持し、ある程度の期間硝子体腔内で網膜を色素上皮に押しつけながら網膜を復位させることを目的とする。
【0017】
代用硝子体としては、生理食塩水、グリセリン、動物硝子体、空気、種々のガス、ポリビニルアルコール、コラーゲンゲル、シリコンオイル、HA、及びパーフルオロカーボン等が挙げられるが、現在汎用されている物には空気、6フッ化硫黄等のガス、シリコンオイル、パーフルオロオクタンやパーフルオロデカリン等のパーフルオロカーボン液がある。
代用硝子体として用いられる種々のガスは膨張性のガスであり、そのままであるいは空気と混合して用いられ、その有用性については確立されている[American Journal of Ophthalmology,Vol.98,180,1984]。
しかしながら、ガスの膨張による眼圧上昇や瞳孔ブロック等の合併症、また角膜内皮への接触による角膜混濁等が引き起こされることがあり、さらに術後の患者はうつむき姿勢を長期間とる必要があることから、患者への負担も大きい。
【0018】
シリコンオイルは、ほとんど吸収されない点を利用してガスよりもさらに長期間眼内空間を保持し、網膜の付着を促進する有効な物質であるが[Retina,Vol.7,180,1987]、網膜の押しつけ効果を得た後に抜き去ることを前提として用いられる。また、白内障、緑内障や眼組織に対する毒性作用等の重大な問題をかかえていると言われている[眼科,Vol.27,1081,1985]。
パーフルオロカーボン液を代用硝子体として用いた場合には、増殖性硝子体網膜症、白内障、及び低眼圧等の合併症が認められ、シリコンオイルまたはガス以上の安全性及び有効性に疑問が残るとされている[あたらしい眼科,Vol.12,1053,1995]。
【0019】
HAは、Balazs[Mod.Probl.Ophthalmol.,Vol.10,3,1972]が眼科領域での適用を報告して以来多くの検討がなされ、現在では眼科手術とくに眼内レンズ挿入術に汎用されている。
HAは通常生体に存在する物質であり、毒性あるいは免疫反応が生ずる可能性はない。しかしながら、硝子体腔内に注入されると分解されることなく房水に溶解して前房、隅角線維柱網を通して眼外に排出され、眼内空間の保持効果の持続時間が重い網膜剥離の症例の治療には不十分である。
【0020】
HAを用いた硝子体注入物には、例えば、特開平5−184663号公報に記載されているように、分子量90万以上好ましくは160万〜200万のHAを1.5質量%以上好ましくは2〜2.5質量%を含むものがあるが、眼内空間での貯留性が悪く[日本眼科紀要,Vol.38,927,1987)]、また1質量%を越えるこれらの分子量のHA溶液を硝子体内へ注入することは、シリンジへの荷重が大きくなり実用的とはいえない。
【0021】
以上の例のように、HAの生体内貯留性を向上することが種々の用途に必要とされており、HAを多種多様な化学修飾剤で架橋することが行われてきた(米国特許第4582865号明細書、特開昭60−13060号公報、特開昭63−28166号公報、特公平6−37575号公報、特公平6−69481号公報、特開平7−97401号公報、特開平9−59303号公報)。また、光架橋性HA誘導体に紫外線を照射することにより製造された光架橋性HAゲルが知られている(特開平8−143604号)。
【0022】
しかしながら、このような架橋HAはもはや本質的にHAそのものではなく、架橋剤を除去するための操作、架橋剤の残留を完全に否定することが難しいことも考慮すると、生体内に適用される物質に望まれる特性のうち、無毒性、無抗原性を無条件に保証することはできない 我々は、架橋剤等を使用しないでHA単独からなる難水溶性HAゲルを簡便な方法で製造することを初めて見出した(PCT/JP98/03536号)。しかしながら、それらは、シート状、フィルム状、破砕状、スポンジ状、又は塊状等であり、いずれも流動性がなかった。
【0023】
そこで、難水溶性でかつ流動性を有するHAを含む材料が種々の医療用途で有用であると考え、難水溶性粒状HAゲル又は破砕した難水容性HAゲルを水溶液に懸濁したHAゲルスラリーについて提案した。このHAゲルスラリーは流動性を有し注射器等に封入し容易に押し出し使用することが可能である。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
HA自体が本来持っている優れた生体適合性の特長を最大限生かすためには、化学的架橋剤や化学修飾剤を使用しない難水溶性で流動性を有するHAゲルが要望されるが、それらはいまだ開発されておらず、水溶液に難水溶性HAゲル破砕物を懸濁したHAゲルスラリーが提案されているにすぎなかった。
【0025】
また、このHAゲルスラリーを得るためには、難水溶性HAゲルを主に超音波あるいはミキサー等を用いて破砕する操作が必要であり、製造工程が増えるという課題があった。
また、一般的には透明性を有する方が、品質管理の面からも有利であった。一方、眼科領域特に代用硝子体としてのHAゲルの使用については、操作性の面から流動性が要求され、さらに効果の面から透明性が要求される。そして屈折率が硝子体の屈折率(1.3345〜1.3348;眼科診療プラクティス,Vol.22,pp234,1996,文光堂,東京)に近いものほど好ましい。しかしこれらの性能を満たすHAゲルは開発されていなかった。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、架橋剤等を使用しないでHA単独で形成される難水溶性HAゲルそれ自体に、HA溶液のような流動性を保持させると難水溶性で透明なHAゲルが調製可能となり、HAゲルの用途がさらに広がると考え、この点に関して鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
【0027】
即ち、本発明は、下記の要旨を有するものである。
1.無機塩を含むヒアルロン酸の水溶液をpH3.5以下に調整し、該水溶液を凍結し、次いで解凍し、中性水溶液に難溶性であり注射器より容易に吐出可能な流動性を有するヒアルロン酸単独で形成されたヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
2.前記ヒアルロン酸ゲルが、中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下である上記1記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
3.前記ヒアルロン酸ゲルが、ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む上記1記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
4.前記ヒアルロン酸ゲルが、透明である上記1〜3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
5.上記1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造され、次の(a)、(b)の要件を満たすヒアルロン酸単独で形成された流動性又は、流動性及び透明性を有するヒアルロン酸ゲルを含有する医用材料。
(a)中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下である、(b)ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む。
6.上記1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造され、中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下であり、ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む流動性又は、流動性及び透明性を有するヒアルロン酸ゲルと、ゲル化されていないヒアルロン酸を含む医用材料。
7.医用材料が関節症治療用注入剤である上記5又は6記載の医用材料。
8.医用材料が塞栓形成材である上記5又は6記載の医用材料。
9.医用材料が軟質組織注入剤である上記5又は6記載の医用材料。
10.医用材料が代用硝子体である上記5又は6記載の医用材料。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるHAは、動物組織から抽出したものでも、また発酵法で製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。
【0029】
発酵法で使用する菌株は自然界から分離されるストレプトコッカス属等のHA生産能を有する微生物、又は特開昭63−123392号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−100(微工研菌寄第9027号)特開平2−234689号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM−300(微工研菌寄第2319号)のような高収率で安定にHAを生産する変異株が望ましい。上記の変異株を用いて培養、精製されたものが用いられる。
【0030】
本発明に用いられるHAの分子量は、約1×105〜約1×107ダルトンの範囲内のものが好ましい。また、上記範囲内の分子量をもつものであれば、より高分子量のものから加水分解処理等をして得た低分子量のものでも同様に好ましく使用できる。
尚、本発明でいうHAは、そのアルカリ金属塩、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムの塩をも包含する概念で使用される。
【0031】
本発明でいうHA単独で形成されたゲルとは、HA以外に化学的架橋剤や化学的修飾剤等は使用しないこと、また、カチオン性の高分子と複合体化しないことでゲルを形成させることであり、自己架橋したゲルを意味するものである。
本発明でいうHAゲルとは、三次元網目構造をもつ高分子及びその膨潤体である。三次元網目構造はHAの架橋構造によって形成されている。
本発明でいう難溶性とは、中性水溶液による37℃での溶解性を測定した場合12時間での溶解率が50%以下、好ましくは30%以下であり、されに好ましくは10%以下であることをいう。
【0032】
本発明でいうHAゲルは、HAの促進酸加水分解反応条件下でHAゲルを処理することで分解、可溶化することができる。可溶化されたHAが架橋構造を保持している場合、分岐点を有するHAとして高分子溶液論的に直鎖状のHAと区別することができる。
本発明でいうHAの促進酸加水分解反応条件としては、水溶液のpH1.5、温度60℃が適当である。HAのグリコシド結合の加水分解による主鎖切断反応が、中性の水溶液中と比較して、酸性やアルカリ性の水溶液中で著しく促進される。更に酸加水分解反応は、反応温度が高い方が促進される。
【0033】
本発明ではGPC−MALLS法を用い、GPCで分離された分子量フラクションの分子量と分岐度をオンラインで連続的に測定した。本発明では、同一溶出体積のフラクションの可溶化されたHAの分子量と対照となる直鎖状HAの分子量を比較して分岐度を計算する溶出体積法を使って分岐度の測定を行った。分岐度は可溶化されたHAの高分子鎖1個当たりに存在する分岐点の数であり、可溶化されたHAの分子量に対してプロットされる。このGPC−MALLS法を用いた溶出体積法による分岐度測定についてはPCT/JP98/03536号に述べられている。 可溶化されたHAは、GPC溶媒で希釈して濃度を調製し、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後測定に供した。
【0034】
本発明でいうHAゲル中に、HAの促進酸加水分解条件下でも安定に存在する架橋構造がある場合、可溶化されたHAに分岐構造が高分子溶液論的に確認される。本発明でいうHAゲルの分岐度は0.5以上である。
【0035】
本発明でいう注射器より容易に吐出可能とは、内径約1cmの2.5〜3ml用ディスポーザブル注射筒(以下、注射器という)に本発明のHAゲルを充填し、外径約0.8mmのゲージ21Gのディスポーザブル注射針を装着して25℃付近の室温で0.1ml/秒の速さで吐出した場合の力が50N以下であることをいう。
【0036】
また、本発明でいう透明であるとは、本発明のHAゲルを層長10mmの分光光度計用セルに入れ、340nm〜800nmの範囲の可視光に対する透過率を水の透過率を100%として測定した場合、透過率が50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上であることをいう。
【0037】
HAの水溶液のpHを調整するために使用する酸は、pH3.5以下に調整できる酸であれば、いずれの酸も使用することができる。酸の使用量を低減するために、好ましくは強酸、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等を使用することが望ましい。
【0038】
本発明のHA水溶液に添加する無機塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等の1価の金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩等の2価の金属塩等が使用可能である。使用する金属塩は、pH3.5以下の条件で水溶性であることが好ましい。
【0039】
金属塩は、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、種々の形で使用できる。添加する無機塩の濃度としては、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.2〜2.0質量%である。
0.1質量%未満では、固体状になりやすく、流動性を有するHAゲルの調製には好ましくない。また、10質量%を越えるとゲル形成に長時間を要し、実用的でないため好ましくない。
【0040】
HAの水溶液のpHは、HAのカルボキシル基が充分な割合でプロトン化するpHに調整する。調整されるpHはHA塩の対イオンの種類、HAの分子量、水溶液濃度、凍結及び解凍の条件、並びに生成するゲルの強さ等の諸特性により適宜決められるが、本発明では、pH3.5以下、好ましくはpH2.5以下に調整することである。
凍結、解凍はHAの調整された酸性水溶液を、任意の容器に入れた後、所定の温度で凍結させ、凍結が終わった後、所定の温度で解凍させる操作を少なくとも1回行う。
凍結、解凍の温度と時間は、容器の大きさ、水溶液量、HAの分子量、水溶液濃度、水溶液のpH、含有金属塩の濃度、種類等の諸特性により凍結、解凍する温度と時間の範囲内で適宜決められる。一般には、氷点以下の凍結温度、氷点以上の解凍温度が好ましい。
凍結、解凍時間を短く出来ることから、更に好ましくは−5℃以下の凍結温度、5℃以上の解凍温度が選ばれる。また、時間は、その温度で凍結、解凍が終了する時間以上であれば特に制限されない。
【0041】
HAの調整された酸性水溶液を凍結し、次いで解凍する操作の繰り返し回数は、使用するHAの分子量、水溶液濃度、水溶液のpH、含有金属塩の濃度・種類、凍結及び解凍の温度と時間、並びに生成するゲルの強さ等の諸特性により適宜決められる。通常は1回以上繰り返すことが好ましい。
また、凍結、解凍の操作を繰り返すごとに、その凍結、解凍の温度及び時間を変えても構わない。
【0042】
HAの調整された酸性溶液の凍結解凍により得られたHAゲルは、HAの酸加水分解を避けるために、酸性に調整するために用いた酸等の成分を除く必要がある。酸や無機塩等の成分を除くためには、通常は水性溶媒による洗浄か透析をする。用いる水性溶媒としてはHAゲルの機能を損なわないものであれば特に制限はないが、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液等が用いられる。好ましくは、生理食塩水、リン酸緩衝液等が用いられる。
また、洗浄・透析方法は、特に制限はないが、透析法を用いるのが好ましい。透析法としては透析膜、限外ろ過膜による方法等が好適に用いられる。これらの条件は、液量、回数を含めて、除きたい成分を目標の濃度以下にできる条件であればよい。透析されたゲルは目的に応じてpH調整され使用される。
【0043】
本発明のHAゲル調製にあたり、試薬、水、容器等に注意を払うことで無菌かつエンドトキシンフリーのものを得ることが出来る。
かくして調製されたHAゲルはゲル自体が流動性を有する状態であり、また懸濁状態ではなく均一で、透明な状態にすることが可能である。そして、注射筒やバッグ等に充填され使用することが出来る。また、流動性ゲルを形成させる際に、薬学的または生理学的に活性な物質を添加して、これらを含有するHAゲルを形成させることもできる 例えば、塞栓形成促進の目的で添加され、血液凝固カスケードにおいてフィブリノーゲンをフィブリンに変換することで血液を凝固させるトロンビン、腫瘍動脈閉塞の目的で使用する各種の抗腫瘍剤等があげられ、何ら制限されるものではない。
【0044】
本発明のHAゲルは、生体内での滞留性、貯留性がHA溶液に比べ著しく向上し、また、架橋剤を使用していないため安全性及び生体適合性に優れたものであることから、医用材料として関節症治療用注入剤、塞栓形成材、軟質組織注入剤、代用硝子体等に適用できる。
【0045】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
尚、以下に述べる注射器は内径約1cmの2.5〜3ml用ディスポーザブル注射筒を用い、注射針は外径約0.8mmのゲージ21Gのディスポーザブル注射針を用いた。本発明では、テルモ株式会社製2.5ml用シリンジ(ピストン押し部直径約12mm)を用い、注射針はテルモ株式会社製ゲージ21Gのものを注射器に装着した。
【0046】
【実施例】
実施例1
HAナトリウム(極限粘度からの換算分子量:2×106ダルトン)を1.0質量%の塩化ナトリウム溶液に溶解し、1.0質量%のHA水溶液を調製した。この水溶液のpHを1N硝酸でpH1.5に調整し、HA酸性水溶液を得た。
このHA酸性水溶液50mlを金属製容器に入れ、−20℃に設定した冷凍庫に入れた。120時間後に取り出し、25℃で解凍し流動性のHAゲルを得た。
次にこれを蒸留水で充分透析し、過剰の酸及び塩化ナトリウムを除いた。続いてpH7の25mMリン酸を含む緩衝生理食塩水で充分に透析中和した。注射器に入れた本HAゲルは、25℃付近の室温で注射針から容易に押し出すことができた。
【0047】
実施例2
HAナトリウム(極限粘度からの換算分子量:2×106ダルトン)を0.5質量%の塩化ナトリウム溶液に溶解し、0.5質量%のHA水溶液を調製した。この水溶液のpHを1N硝酸でpH1.5に調整し、HA酸性水溶液を得た。
このHA酸性水溶液50mlを金属製容器に入れ、−20℃に設定した冷凍庫に入れた。50時間後に取り出し、25℃で解凍し流動性のHAゲルを得た。
次にこれを蒸留水で充分透析し、過剰の酸及び塩化ナトリウムを除いた。続いてpH7の25mMリン酸を含む緩衝生理食塩水で充分に透析中和した。注射器に入れた本HAゲルは、25℃付近の室温で注射針から容易に押し出すことができた。
【0048】
実施例3
HAナトリウム(極限粘度からの換算分子量:2×106ダルトン)を1.0質量%の塩化マグネシウム溶液に溶解し、1.0質量%のHA水溶液を調製した。この水溶液のpHを1N硝酸でpH1.5に調整し、HA酸性水溶液を得た。このHA酸性水溶液50mlを金属製容器に入れ、−20℃に設定した冷凍庫に入れた。120時間後に取り出し、25℃で解凍し流動性のHAゲルを得た。
次にこれを蒸留水で充分透析し、過剰の酸及び塩化マグネシウムを除いた。続いてpH7の25mMリン酸を含む緩衝生理食塩水で充分に透析中和した。注射器に入れた本HAゲルは、25℃付近の室温で注射針から容易に押し出すことができた。
【0049】
実施例4
トロンビン含有流動性HAゲルの調製 実施例2で得られた流動性HAゲルに、100mg当たり0.5NIH単位に相当する量のトロンビン溶液を添加しトロンビン含有流動性HAゲルを調製した。
【0050】
比較例1(凍結乾燥HA)
実施例1において1.0質量%HA溶液をpH調整しないこと以外は実施例1と同じ条件で凍結・解凍を行ったが、ゲル化は起こらなかった。この溶液を凍結乾燥して溶解性試験の対照に供した。
【0051】
参考例1(HAゲルスラリー)
HAナトリウム(極限粘度からの換算分子量:2×106ダルトン)を蒸留水に溶解し、1.0質量%のHA水溶液を調製した。この水溶液のpHを1N硝酸でpH1.5に調整し、HA酸性水溶液を得た。
このHA酸性水溶液50mlを金属製容器に入れ、−20℃に設定した冷凍庫に入れた。120時間後に取り出し、25℃で解凍しHAゲルを得た。
次にこれを蒸留水で充分透析し、過剰の酸及び塩化ナトリウムを除いた。続いてpH7の25mMリン酸を含む緩衝生理食塩水で充分に透析中和した後、再度蒸留水で充分透析し凍結乾燥によりシート状のHAゲルを得た。
HAゲル100mgを10mlの25mMリン酸を含む緩衝生理食塩水に入れ、マイクロホモジナイザー(Polytoron,Kinematica AG製)にて破砕し、HAゲルスラリーを得た。このHAゲルスラリーを透明性試験に用いた。尚、注射器に入れた本HAゲルスラリーは、25℃付近の室温で注射針から容易に押し出すことができた。
【0052】
実施例4
注射器からの吐出試験 テルモ株式会社製2.5ml用シリンジ(ピストン押し部直径約12mm)に本発明のHAゲルを充填し、テルモ株式会社製ゲージ21Gの注射針を装着して0.1ml/秒の速さで吐出した場合の力を島津製作所製テンシロンEZ Test−20Nを用いて測定した。その結果を次頁の表1に示す。
尚、対照として1質量%のHAリン酸緩衝生理食塩水溶液を用いた。1質量%のHA溶液は生化学工業株式会社製のアルツのように、すでに医薬品として関節に適用されている。
【0053】
【表1】
表1より、得られた流動性HAゲルは注射器からの容易な吐出が可能であることが示された。
【0054】
実施例5
溶解試験 生理食塩水に50mMの濃度でリン酸緩衝成分を添加し、pH7の50mMリン酸緩衝生理食塩水を調製した。実施例1〜3で得られた流動性HAゲル及び比較1の凍結乾燥HAをHA乾物量換算で100mgとり、50mlのリン酸緩衝生理食塩水に浸漬し緩やかに37℃で攪拌し、経時的にサンプリングした。リン酸緩衝生理食塩水中に溶解するHA量をカルバゾール−硫酸法により定量し、溶解率を算出した。その結果を次頁の表2に示す。
【0055】
【表2】
表2より、対照試料が溶解しやすいのに比較して、得られた流動性HAゲルは難溶性であることが示された。
【0056】
実施例6
分岐度測定 実施例1〜3で得られたHAゲルをpH1.5の塩酸水溶液15mlに浸漬し、60℃で6時間加水分解し、ゲルを完全に可溶化させた。これをGPC溶媒で2倍に希釈して濃度を0.05質量%に調整し、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、0.1mlを注入してGPC−MALLSで測定した結果、分岐度はいずれも0.5以上であった。
【0057】
実施例7
透明性試験 実施例1〜3で得られた流動性HAゲル及び参考例1で得られたHAゲルスラリーを層長10mmの分光光度計用セルに入れ、340nm〜800nmの範囲の可視光に対する透過率を水の透過率を100%としてベックマン製DU−64分光光度針を用いて測定した。その結果を表3に示す。尚、対照として1質量%のHAリン酸緩衝生理食塩水溶液を用いた。
【0058】
【表3】
表3より、実施例1〜3で得られた流動性HAゲルは透明であることが示された。
【0059】
実施例8
ウサギ関節腔内における貯留性比較 体重2.5〜3.0kg成熟した健常なニュージーランドホワイト系の雄性ウサギの両膝関節部周辺を電気バリカンで剪毛し消毒後、実施例1で得られた流動性HAゲルまたはHA(極限粘度値からの換算分子量:2×106ダルトン)1%生理食塩水溶液を左膝関節腔に0.1ml/kg体重の用量で投与した。対照として生理食塩水を同一個体の右膝関節腔内へ0.1ml/kg体重の用量で投与した。投与後隔日ごとに両膝関節液を回収し、関節液中のHA濃度をGPCで定量した。
尚、残存率は次式で算出したが、内在性HA量とは生理食塩水を投与直後に関節腔より採取した関節液中のHA量を示す。
残存率(%)=(回収量−内在性HA量)/投与量×100 その結果を表4に示す。
【0060】
【表4】
表4より、流動性HAゲルは、生体内での貯留性がHA溶液比べ、著しく向上していることがわかった。
【0061】
実施例9
ブラジキニン疼痛抑制作用 体重10kg前後の雌性ビーグル犬の後足膝関節腔内にあらかじめ実施例2で得られた流動性HAゲル(0.3ml/kg体重)、HA溶液(極限粘度値からの換算分子量:2×106ダルトン、1%生理食塩水溶液を0.3ml/kg体重)または対照としての生理食塩水0.3ml/kg体重を投与し、投与2日,4日,7日後に発痛物質であるブラジキニン生理食塩水溶液(BK:0.2μg/mlを0.05ml/kg体重)を投与し、1〜2分間,3〜4分間,5〜6分間の疼痛足への体重負荷率を指標として疼痛抑制作用を測定した。
その結果を表5に示す。尚、体重負荷率を次式に示す。
【0062】
【表5】
表5より、HA溶液が7日後には対照と同じレベルに低下したのに比較し、流動性HAゲルは7日後においても疼痛抑制効果を持続していた。
【0063】
実施例10
血液凝固試験 実施例1で得られた流動性HAゲルにヒト全血を添加し、37℃に加温することで5分以内に凝塊が形成された。
一方、実施例4で得られたトロンビン含有流動性HAゲルにヒト全血を添加し、37℃に加温することで2分以内に強い凝塊が形成された。
【0064】
実施例11
塞栓形成試験 実施例4で得られたトロンビン含有流動性HAゲルを注射器に吸引し、約2.5kgのウサギ(ニュージーランドホワイト種)の耳介動脈に約0.1ml投与した。注入したゲルは、速やかに凝塊を形成し、肉眼で閉塞状態を確認できた。
1ヶ月後まで形態観察を続けたが変化は認められず、最終観察後の剖検による塞栓の組織学的検討では十分な閉塞状態であった。
尚、比較として行った0.5質量%及び1.0質量%のHA溶液では、塞栓が形成されなかった。
【0065】
実施例12
モルモットへの投与試験350〜400gの雌ハートレイ系モルモットを20匹を麻酔し、実施例1〜3で得られた流動性HAゲル及びHAナトリウム(極限粘度値からの換算分子量:2×106ダルトン)の0.5質量%の生理食塩水溶液をその皮内に注射した。
皮肉投与量は0.05mlとし、動物あたり10部位の注入を行った。0,1,2,3及び4週後に各1匹ずつ各部位の組織をサンプリングした。固定し包埋した組織の切片を作り、ヘマトキシリン−エオシン染色及びアルシアンブルー染色を行った。また、顕微鏡で組織反応の観察を行った。
その結果、実施例1〜3の試料では、4週後でも投与直後の皮膚の状態を保持し、皮膚組織中にHAが存在していた。一方、HAの0.5質量%の生理食塩水溶液では4週目ですべてHAが吸収されていた。また、いずれも細胞浸出物は認められず、炎症反応がなかったことが示唆された。
【0066】
実施例13
屈折率測定 実施例1及び実施例2で得られた流動性HAゲルにつき、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製)を用いて20℃における屈折率を測定した。
実施例1及び実施例2の流動性HAゲルの屈折率はそれぞれ1.335及び1.334であり、硝子体の屈折率に近いものであった。
【0067】
実施例14
家兎における網膜剥離に対する効果 体重2.5〜3.0kgの白色家兎(ニュージーランドホワイト種)15羽(15眼)について麻酔した。0.5%インドメタシン及び5%塩酸フェニレフリンの点眼により散瞳させ、2%塩酸リドカインを球後麻酔に用いた。
洗眼及び眼周辺の消毒を行った後、家兎を手術用顕微鏡下に置き固定した。制御糸をかけ、結膜を切開した。強膜を切開し、灌流タップを挿入し前置糸で固定した。さらに硝子体切除刀及びライトガイドを穿入するための強膜切開を行い、硝子体切除刀及びライトガイドを穿入した。
硝子体切除刀により硝子体を吸引しながら切除した後、硝子体刀を抜き先端を湾曲させた21G針を挿入した。21G針を上耳側の網膜下に穿入して滅菌空気約0.1mlを注入し、部分的に網膜を剥離させた。剥離後再度硝子体切除刀を穿入し、剥離網膜を一部切開し、裂孔を作製した。
灌流液と空気の交換の後、実施例1及び実施例2で得られた流動性HAゲルを硝子体腔内に注入し、空気と交換して網膜を復位させた。レーザー眼内光凝固装置のプローブを硝子体腔内に挿入して眼内凝固を行った後、8−0ナイロン糸にて強膜創を縫合した。制御糸をはずし、結膜創を縫合した。
その結果、実施例1、2で得られた流動性HAゲルは、4週間後において、検眼鏡的には再剥離等の異常所見は認められず、光凝固部位の瘢痕化の状態も良好であった。スリットランプによる検査においても、硝子体混濁や炎症性反応は認められなかった。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、HA単独で形成された難水溶性で流動性又は、流動性及び透明性を有するHAゲルを提供することができる。かかる本発明のHAゲルは、架橋剤等を使用していないため生体内に存在する本来のHAの構造を維持しており、安全性及び生体適合性に優れたものであり、透明性により品質管理の面でも有利である。
従って、関節症治療用注入剤,塞栓形成材,軟質組織注入剤,代用硝子体等の医用材料として有用である。
Claims (10)
- 無機塩を含むヒアルロン酸の水溶液をpH3.5以下に調整し、該水溶液を凍結し、次いで解凍し、中性水溶液に難溶性であり注射器より容易に吐出可能な流動性を有するヒアルロン酸単独で形成されたヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
- 前記ヒアルロン酸ゲルが、中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下である請求項1記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
- 前記ヒアルロン酸ゲルが、ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む請求項1記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
- 前記ヒアルロン酸ゲルが、透明である請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸ゲルを製造する方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造され、次の(a)、(b)の要件を満たすヒアルロン酸単独で形成された流動性又は、流動性及び透明性を有するヒアルロン酸ゲルを含有する医用材料。
(a)中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下である、(b)ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造され、中性の37℃の水溶液中で12時間での溶解率が50%以下であり、ヒアルロン酸の促進酸加水分解条件下でヒアルロン酸ゲルを処理することで可溶化されたヒアルロン酸が分岐構造を有し、該可溶化されたヒアルロン酸中に、分岐度が0.5以上の分子量フラクションを部分的に含む流動性又は、流動性及び透明性を有するヒアルロン酸ゲルと、ゲル化されていないヒアルロン酸を含む医用材料。
- 医用材料が関節症治療用注入剤である請求項5又は6記載の医用材料。
- 医用材料が塞栓形成材である請求項5又は6記載の医用材料。
- 医用材料が軟質組織注入剤である請求項5又は6記載の医用材料。
- 医用材料が代用硝子体である請求項5又は6記載の医用材料。
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