JP4542212B2 - 低アウトガス性ビニルエステル系塗料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低アウトガス性ビニルエステル系塗料に関し、特に高集積度半導体デバイス製造用クリーンルーム、液晶製造用クリーンルームなどの建造物の構成部材に使用することができる低アウトガスのビニルエステル系塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体デバイスの集積度の高度化に伴い、クリーンルームでは、作業雰囲気中に浮遊する微細粒子のみでなく、その構成部材から放出されるガス状汚染物質(アウトガス)の低減が重要となっている。このガス状汚染物質としては、例えば、各種の有機系ガスや酸・アルカリ性ガス、金属元素などが挙げられ、例えば、有機系ガスがシリコンウェハー上に吸着しSiCを生成し、デバイスの回路製造に悪影響を与えるので、その室内濃度を0.3〜0.4μg/m3 程度に制御することも必要とされる。
【0003】
これらガスの発生原因の一つには、クリーンルームや建造物の構成材料があり、最近、その発生を制御する試みが行われつつある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、すでに「低アウトガス性塗料(特願平10−99661号)」として、前述の技術に関する発明の出願を行った。これは塗膜自体からのアウトガスの放出が極めて小さいエポキシ樹脂系塗料及びその配合成分に関するものである。しかし、エポキシ樹脂系塗料は硫酸や硝酸、リン酸、過酸化水素等に対する耐薬品性が弱い欠点がある。クリーンルーム内では前記のような薬品を日常的に使用する場所もあることから、低アウトガス性であり、しかも耐薬品性に優れた塗料の開発が要求されていた。
【0005】
そこで、この耐薬品性の優れた塗料について検討するなか、ビニルエステル系塗料に注目した。ビニルエステル系塗料は基剤(ビニルエステル樹脂(別名エポキシアクリレート)が主成分)と硬化剤を反応させ硬化・成膜させるが、基剤中には粘度調整とビニルエステル樹脂を架橋する目的で40%程度のスチレン(C8 H8 )が、添加されている。このうち約10%は未反応物として、空気中に放散する。さらに、表1に示すように多量の溶剤が通常、使用されている。
【0006】
【表1】
【0007】
なお、これらの材料の配合の一例としては、基剤:硬化剤:促進剤:着色剤:ワックス=100:1〜4:0.3〜2.5:0〜10:0〜5がある。
【0008】
そこで、本発明ではビニルエステル系塗料の塗膜からのアウトガスの低減を実現するために、表1に示す主な成分について、以下の検討を実施した。▲1▼基剤中のスチレンモノマーの含有量を5〜10%に低減する。アウトガス抑制の観点からはゼロにすることが理想であるが、ゼロにすると反応性が低くなり、架橋密度も疎になるため、塗膜強度や耐薬品性も低くなる。このため適用範囲が極めて限定される。▲2▼硬化剤中のジメチルフタレートは、硬化樹脂中に未反応のまま残り、空気中に徐々に放出され、少量でもシリコンウエハーに吸着され易く、したがって悪影響を及ぼす。▲3▼着色剤およびワックス中に含まれるスチレンモノマー等の溶剤もアウトガスの発生源となるが、元来、塗膜を形成する際の添加量が基剤に対して10%以下と少ないため、影響は少ない。
【0009】
そこで、本発明者等は、▲1▼のスチレンモノマーの含有量を低減するために、それの代替としてアクリルモノマーを用い、▲2▼のジメチルフタレートに代えてジブチルフマレートを用いることにより、アウトガス発生速度を1/100以下にすることができることを見出した。したがって、本発明が解決しようとする課題は、半導体・液晶製造用クリーンルーム等の建造物等の構成材料として低アウトガス性能に優れたビニルエステル系塗料を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決すべくなされたものであり、下記構成のそれぞれの発明である。
(1) 塗膜からのアウトガスの放出が極めて少ない低アウトガス性ビニルエステル系塗料であって、該塗料が、主として、ビスフェノールA型エポキシアクリレートを含む基剤及び有機過酸化物を含む硬化剤からなり、そして前記硬化剤が前記基剤中のビニル基と反応するジブチルフマレートで希釈されていることを特徴とする、前記低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
(2) 塗膜からのアウトガスの放出が極めて少ない低アウトガス性ビニルエステル系塗料であって、該塗料が、主として、反応性希釈剤によって希釈されたビスフェノールA型エポキシアクリレートからなる基剤及び有機過酸化物からなる硬化剤からなり、そして前記基剤中に含まれる反応性希釈剤のうち、その反応性希釈剤の重量に基づいて90〜95重量%がアクリルモノマーであり、かつ前記硬化剤が前記基剤中のビニル基と反応するジブチルフマレートで希釈されていることを特徴とする、前記低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
(3) 硬化剤に促進剤が併用されて、低温〜常温硬化性となっていることを特徴とする前項1又は2に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
(4) 着色剤及びパラフィン系ワックスからなる空気遮断剤が添加されている前項3に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
(5) 塗料を構成する前記の基剤、硬化剤、促進剤、着色剤及び空気遮断剤の重量構成比が100:1〜4:0.3〜2.5:0〜10:0〜5であることを特徴とする前項4に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
【0011】
本発明の低アウトガス性ビニルエステル系塗料は、塗膜からのアウトガスの放出が極めて少なく、また有機過酸化物の希釈剤がジブチルフマレートであるので、硬化塗膜から放出されにくいばかりでなくスチレンモノマー等のビニル基と反応して硬化樹脂中に取り込まれ、揮発しにくいという作用効果を奏する。更に基剤中に含まれる反応性希釈剤の主成分であるアクリルモノマーは、スチレンモノマーより沸点が高いため、低揮発性なので、低アウトガス性である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、これらの記載によって限定されるものではない。本発明の低アウトガス性ビニルエステル系塗料は、主として基剤、硬化剤、促進剤、着色剤及びワックスからなり、これらの構成比は、100:1〜4:0.5〜2.5:0〜10:0〜5であることが好ましい。
本発明において、基剤としては、低揮発性ビニルエステル樹脂(別名エポキシアクリレート)又はBPA型ビニルエステル樹脂が用いられ、低揮発性の基剤中には粘度調整やビニルエステル樹脂を架橋するためのアクリルモノマー及びスチレンモノマーが40〜60%含まれる。
これらの割合は、アクリルモノマー95〜90%、スチレンモノマー5〜10%が低アウトガス性を得るために好ましい。
このスチレンモノマーは、アウトガス抑制の観点からはゼロにすることが理想であるが、ゼロにすると反応性が低くなり、架橋密度も疎になるため、塗膜強度や耐薬品性も低くなる。このため適用範囲が極めて限定される。したがってスチレンモノマーの含有量を5〜10%に低減するのが好ましい。このスチレンモノマーの代替には、例えば、アクリルモノマーを使用する。アクリルモノマーは沸点がスチレンモノマーよりも高く、揮発性が低い。
【0013】
本発明に用いられる硬化剤中のジブチルフマレートは、分解性が激しい有機過酸化物を希釈して、衝撃や摩擦に対する安全性を図る希釈剤であり、汎用の希釈剤ジメチルフタレートと異なり、スチレンモノマー等のビニル基と反応するので、硬化塗膜中に取り込まれ、揮発しにくい。したがってシリコンウエハーに吸着する等の悪影響がほとんどない。
【0014】
本発明に用いられる硬化剤は、ビニルエステル樹脂用の通常の有機過酸化物でよく、例えば、ハイドロパーオキシド系、ジアシルパーオキシド系、ケトンパーオキシド系、混合硬化剤系等が挙げられる。
これらのうち、特に好ましくは、ナフテン酸コバルトなどと併用の常温硬化型のケトンパーオキシド系であり、ジブチルフマレートで希釈されているものが好ましい。
【0015】
本発明で用いられる促進剤は常温硬化用に使用されるものでも良いが、アンモニア発生源となる芳香族第3級アミン系単独は好ましくない。硬化剤(有機過酸化物)と組み合わせからコバルトの有機酸塩が好ましい。
本発明では、更に着色剤およびワックスが添加される。
この二つの添加剤中にはアウトガス発生源のスチレンモノマーが含まれているが、塗料中での増加量は数%以下であるため、脱ガスへ及ぼす影響は少ない。一例として、ビニルエステル樹脂100に対して両者を最大添加(着色剤:10%、ワックス:5%)した場合の塗料中のスチレンモノマー増加量は5%程度である。
表2に、各種従来品(BPA型,ノボラツク型,特殊変性型)及び本発明品の配合組成(基剤、硬化剤、促進剤及び添加剤)をまとめて記載した。
【0016】
【表2】
【0017】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
次に本発明塗料の配合例について詳述する。
「本発明の低アウトガス性ビニルエステル系塗料の配合例」:
基剤及び硬化剤からなる低アウトガス性ビニルエステル系塗料の配合例を以下に示す。
以上の配合組成を表3に記載した。
【0018】
【表3】
【0019】
次に、前記本発明の低アウトガス性塗料であるビニルエステル系塗料と、従来のビニルエステル系塗料の各塗膜からのアウトガス放出量の比較試験を行った結果について説明する。
(a)試験体の作製、(b)アウトガス測定のための試験体への空気流通方法及びその計測方法は、以下のごとくして行った。
【0020】
(a)10cm×10cmの薄い板状のステンレス板の両面に、前記「本発明の低アウトガス性ビニルエステル系塗料の配合例」に記載の本発明の低アウトガス性ビニルエステル塗料、及び比較例として従来品(硬化剤の希釈剤としてジメチルフタレートを使用)のビニルエステル系塗料を、各々厚さ0.5mmに刷毛にて塗布した。
【0021】
(b)アウトガス測定のための試験体への空気流通方法及びその計測方法
アウトガスの計測は有機系ガスについて行った。
それぞれの塗料を塗布した試験体を入れたデシケータ内に、その一端から清浄化された空気を連続的に流入させ、かつ同時にその他端から試験体表面に接触した前記空気を連続的に導出させ、その導出空気を有機ガス吸着用のテナックス管に導入し、それからの導出空気をガスクロマトグラフ分析によって経時的に計測した。
その結果、本発明低アウトガス性ビニルエステル塗料は、従来品に比較して有機系ガスの塗膜からの放出が大幅に低減されることが判った。
【0022】
表4に従来品(硬化剤の希釈剤にジメチルフタレート使用)と本発明実施例品の低アウトガス性ビニルエステル塗料のアウトガス発生速度(全有機系炭素量μgC/m2・h)を示す。
本発明実施例品は従来品に比べて、発生速度を1/100以下にすることができる。
また、図1及び図2に示すガスクロマトグラフ質量分析装置の分析結果(シリコンウエハーの粉砕物を吸着剤として使用)から、本発明実施例品(図1)は、従来品(図2)に比較して、シリコンウエハー上への有機物質の吸着も大幅に減少していることが確認できる。
さらに、表5に示した耐薬品性試験結果(JIS A5705に準じて実施)から、本発明品は従来品と同様に耐薬品性に優れていることが確認できる。
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の低アウトガス性ビニルエステル系塗料を使用することにより、塗膜からのアウトガス放出量が極めて少ないという優れた効果を奏するものであり、また有機過酸化物の安定化を図る希釈剤のジブチルフマレートはスチレンモノマー等のビニル基と反応して硬化樹脂中に取り込まれ、硬化塗膜から放出されにくいという作用効果を奏する。
さらに基剤中に含まれる反応性希釈剤の主成分のアクリルモノマーは、スチレンモノマーより沸点が高く、低揮発性であるため、低アウトガス性である。
したがって、クリーンルーム用塗料、例えばコンクリート用塗り床材や鉄骨用塗料などのほか、特殊な建造物用の塗料などに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例塗料の硬化塗膜からのアウトガス成分を示すガスクロマトグラフである。
【図2】従来品塗料の硬化塗膜からのアウトガス成分を示すガスクロマトグラフである。
Claims (5)
- 塗膜からのアウトガスの放出が極めて少ない低アウトガス性ビニルエステル系塗料であって、該塗料が、主として、ビスフェノールA型エポキシアクリレートを含む基剤及び有機過酸化物を含む硬化剤からなり、そして前記硬化剤が前記基剤中のビニル基と反応するジブチルフマレートで希釈されていることを特徴とする、前記低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
- 塗膜からのアウトガスの放出が極めて少ない低アウトガス性ビニルエステル系塗料であって、該塗料が、主として、反応性希釈剤によって希釈されたビスフェノールA型エポキシアクリレートからなる基剤及び有機過酸化物からなる硬化剤からなり、そして前記基剤中に含まれる反応性希釈剤のうち、その反応性希釈剤の重量に基づいて90〜95重量%がアクリルモノマーであり、かつ前記硬化剤が前記基剤中のビニル基と反応するジブチルフマレートで希釈されていることを特徴とする、前記低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
- 硬化剤に促進剤が併用されて、低温〜常温硬化性となっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
- 着色剤及びパラフィン系ワックスからなる空気遮断剤が添加されている請求項3に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
- 塗料を構成する前記の基剤、硬化剤、促進剤、着色剤及び空気遮断剤の重量構成比が100:1〜4:0.3〜2.5:0〜10:0〜5であることを特徴とする、請求項4に記載の低アウトガス性ビニルエステル系塗料。
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