JP4541959B2 - 潤滑油の付着量の調整方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属塑性加工、鍛造、圧延する際に工具面やロール面等の加工面に使用される潤滑油の付着量を調整するための方法に関する。
周知の如く、金属塑性加工現場では、加工面を油膜により潤滑し、焼付けや溶着を防止し、連続加工を可能にしている。前記油膜の厚みは、潤滑の観点からは、加工面の表面粗さや荷重等で変わるものの5μm程度を超えれば十分であるが、安全を見過ぎ過剰の厚みを与えているのが現状である。ここで、油膜の厚みが過剰な場合、加工製品の表面に油分が残るので、加工製品が高温に曝されるといわゆる油色残りの問題や、加工装置に油分が堆積することによる装置の汚れ問題を起こす。逆に、油膜の厚みが薄ければ、色残りや汚れ問題は低減するが、潤滑性不足をきたし、焼付けや溶着の原因となる。
ところで、潤滑する方式から見ると、自動車のギヤーのように潤滑される部品が常に多量の潤滑油に接している方式、いわゆる湿式潤滑方式では、過剰の油膜は問題にならない。しかし、スプレー、ミスト、油滴の滴下、ロールコート、油の跳ね上げ等のいわゆる乾式潤滑方式の場合、過剰でなく、かつ、過少でもない最適な油膜厚さが必要になる。
水平面を潤滑する場合は、潤滑性の粘度が高ければ油膜は厚くなり、粘度が低いと油膜は薄くなる。しかし、工具面やロール面の様に水平ではない面上では、潤滑油の粘度が高いと、潤滑油の塗布直後は厚く付着するが、すぐに垂流れ、油膜が薄くなる。そこで、垂流れを起こさないようにするため、潤滑油の粘度を高くし、少々の不具合には目をつぶっている場合が多々ある。また、水平面でない加工面では、潤滑油は高粘度にするよりむしろ速乾性ペンキのように乾燥の速い溶剤を混合した方が垂流れは少なくなり、次々に飛来するスプレー粒子で重ね塗りが可能となる。その結果、スプレー前の粘度は低いが、スプレー後の油膜は厚くなる。
従来、潤滑性能や防錆性能が高く、且つ金型寿命を伸ばす為のプレス加工用潤滑剤としては、特許文献1が知られている。しかし、この技術は、水平でない加工面への潤滑剤有効成分の付着効率を調整するものではない。
特開平9−255975号公報
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、水平でない加工面への潤滑剤有効成分の付着効率を調整し、もって潤滑油の付着量を適切に設定しえる潤滑油の付着量の調整方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、以下のような考察に基づいて本発明を究明するに至った。
スプレー時、加工面に付着した油滴粒子は粘度の低い基油(溶剤)を含んでいるため、初期は粘度が低い。しかし、油滴は高温の加工面に接触した後、溶剤部分が揮発し粘度が高くなる。ところで、加工面が水平でない場合、加工面からの垂流れが減少し、その結果、厚い粘凋な、又は固形油膜が形成される。即ち、揮発性が高い溶剤(又は引火点の低い溶剤)は、油膜形成が速く、垂流れが少ないので、付着効率を増やせる。一方、加工面が水平な場合は、垂流れが起こらないので、揮発性の低い,即ち粘度の高い加工油の方が付着量(油膜)は厚くなる。
また、付着効率だけを考えると、加工面が水平でない場合は、引火点の低い潤滑油の方が望ましい。しかし、火災の観点から、灯油より引火しにくい潤滑油であることが望まれる。ここで、灯油の引火点は45℃程度であり、潤滑油にとっては50℃以上が実用的である。同じ火災の観点からは、高引火点潤滑油が優れているが、250℃以上であるとかなり揮発しにくく、液体が加工面を覆うだけで、固形油膜が形成されにくく、液体が加工面から垂流れ、その結果、薄い油膜しか加工面には残らない。即ち、垂直面の多い加工面では、かならずしも粘度の高い油膜が付着量を多くするわけではない。
本発明の潤滑油の付着量の調整方法は、金属塑性加工、鍛造、圧延する際に加工面に使用される,溶剤及び軽質基油を含む潤滑油の付着量を調整するための方法において、少なくとも3種類の試作油の引火点と付着量より、引火点と付着量の関係を示す近似式:Y=aX+bX+c(但し、Y:付着量、X:引火点、a,b,c:定数)を求める工程と、実機で必要な潤滑油の付着量を前記近似式に代入し、実機に必要な潤滑油の引火点を求める工程と、前記引火点となるように前記潤滑油の溶剤と軽質基油の混合比を調整し、潤滑油の配合を決定する工程とを具備することを特徴とする。ここで、少なくとも3種類の試作油は、夫々揮発性が異なる。
本発明によれば、水平でない加工面への潤滑剤有効成分の付着効率を調整し、もって潤滑油の付着量を適切に設定しえる潤滑油の付着量の調整方法を得ることができる。
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、「引火点」とは、液体の液面上に約3%の可燃ガスが生成したとき、裸火に引火する温度を意味する。ここで、引火点が低い(低い温度で3%のガスが出る状態にある)液体は、揮発性が高い。即ち、引火点が低い液体の場合は、揮発性が高くなる。逆に、引火点が高い(高い温度で3%のガスが出る状態にある)液体は、揮発性が低い。
本発明において、潤滑油に含まれる溶剤、軽質基油にとっては引火点(又は揮発性)が重要であり、溶剤、軽質基油の引火点は50℃〜250℃の範囲であるが、火災の危険という観点から自動車用燃料である軽油の引火点:70℃以上、付着量の観点も考慮すると70℃以上160℃以下が好ましい。また、前記溶剤、軽質基油は、人体の安全性を勘案すると、毒性の少ない石油系でかつ低硫黄の溶剤、好ましくは1ppm以下の硫黄分がよい。
本発明において、加工面への試料の付着量は、例えば図1に示す付着試験機を用いて行う。
図中の符番1は試験台を示す。この試験台1上には、電源・温度調節装置2、及びヒータ3を内蔵した試験片用架台4が夫々配置されている。前記試験片用架台4の側部には、試験片支持金具5を介して試験片(例えば鉄板)6が支持されている。前記試験片付近の試験片用架台4には第1の熱電対7aが埋め込まれ、前記試験片6には第2の熱電対7bが密着して配置されている。前記試験片6の真横には、試験片6に加工油8を噴霧するためのスプレー9が配置されている。
(実施例)
以下に、本発明の具体的な実施例について、金属塑性加工油の配合を例にとって説明するが、本発明はこの配合に限定されるものではなく、鍛造、圧延等の用途に使われる潤滑剤に広く活用できる。
(1)まず、攪拌機を備えた加熱可能なステンレス製釜に、溶剤・軽質基油、脂分、シリコーン油、植物油、有機モリブデン等を下記表1に示す質量比率で投入した。次に、投入後、投入した材料を30℃で30分間攪拌し、外観が淡黄色の塑性加工油を製造した。また、4種類の試料(試作油)a〜dの引火点及び付着量を測定した。ここで、付着量を測定する試験片としては、10cm角、1mm厚さの鉄板(SPCC)を用いた。また、試料の引火点の測定はJIS−K−2265に沿って、試料a,試料bはペンスキーマルテン法で、試料c、試料dではクリーブランド・オーブン法で測定した。その結果は、表1に示すとおりである。
Figure 0004541959
鉄板への加工油の塗布、付着量の計測は、上述した図1の装置を用いて行った。まず、電源・温度調節装置2を所定の温度に設定し、ヒータ3で試験片用架台4を加熱した。ここで、第1の熱電対7aが設定温度に達したら、試験片支持金具5に鉄板6を置き、第2の熱電対7bを鉄板6に密着させた。この後、鉄板6の温度が所定温度に達したとき、スプレー9から所定の量の加工油8が試験片6に噴霧された。ここで、噴霧条件は、エアー圧0.3MPa、液圧500mmHOとした。その後、鉄板6を取り出し、空気中で垂直に約30分立てて放冷し、鉄板6から垂れ流れる油分を絞り捨てた。つづいて、付着物の乗った鉄板6を200℃で30分間オーブンに置いた後、取り出して空冷し、デシケーターで一晩放冷した。その後、付着物の付いた鉄板6の重量を0.1mg単位まで計測し、空試験と鉄板重量変化から付着物量を算出した。その結果は、上記表1に示すとおりである。
表1より、試料の引火点が低くなると付着量が増えることが明らかである。この傾向は、鉄板温度が300℃、250℃ともに同じである。即ち、噴霧された油滴の揮発性が高いと、鉄板に付着する量が多くなることを示している。また、250℃での付着量より300℃での付着量が多いのも、高温のための揮発性が高いことと一致する。ここで、付着の増加のメカニズムとしては、まず油滴が加工面に接して加熱され、軽質分が揮発して粘度の高い液体層または半固形膜が形成され、その上に次の油滴が付着し、溶剤が揮発して油膜が増えると考えられる。付着量(Y)と引火点(X)との関係式:Y=aX+bX+c(但し、a,b,cは定数)に、表1のX,Yの値を代入して関係式を求めると、次のようになる。
300℃:Y=0.0004X−0.418X+100 …(1)
250℃:Y=0.0016X−0.803X+113 …(2)
図2は、引火点と付着量との関係を示す特性図である。図2において、曲線(a)は引火点が45℃、90℃、159℃、240℃の場合の鉄板温度300℃付着量をプロットして繋げた曲線を示す。曲線(b)は引火点が45℃、90℃、159℃、240℃の場合の鉄板温度250℃付着量をプロットして繋げた曲線を示す。また、曲線(c),(d)は,夫々曲線(a),(b)に対応するもので、上記表1の(引火点X,付着量Y)のプロットをシミュレーションして得られた上記式(1)、式(2)の曲線を表す。
(2)次に、例えば鉄板温度300℃における必要な付着量として、Y=60mgを上記式(1)に代入すると、0.0004X−0.418X+100=0となり、X=109℃となる。即ち、109℃の引火点の組成物を作ればよいことがわかる。
(3)次に、上記表1の試料bと試料cの引火点(夫々90℃、159℃)から推定し、約65%の溶剤B,約23%の軽質基油Aと添加剤を混合した組成物が約109℃の引火点を有すると推定でき、また付着量60mgを与えるものと考えられる。ここで、より正確を期するには、その組成物の引火点と付着量を測定する。
上記実施例によれば、4種類の試料の引火点と付着量より、引火点と付着量の関係を示す近似式:Y=aX+bX+cを求めた後、実機で必要な潤滑油の付着量を前記近似式に代入し、実機に必要な潤滑油の引火点を求め、更に前記引火点となるように前記潤滑油の溶剤と軽質基油の混合比を調整して潤滑油の配合を決定することにより、適切な油膜厚さを与えることが可能な潤滑油の組成を決定できる。
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記実施例では、4種類の試料を用いた場合について述べたが、これに限らず、少なくとも3種類の試料を用いることにより上記二次式を決定でき、適切な油膜厚さを与えることが可能な潤滑油の組成を決定することができる。また、上記実施例では、4種類の試料の引火点及び付着量を測定して近似式を求めた後、実機で必要な潤滑油の引火点を求めた場合について述べたが、これとは逆に、実機で必要な潤滑油の引火点を求めた後上記近似式を求めてもよい。
図1は、本発明に係る潤滑油の付着量の調整方法に使用される付着試験機の概略的な説明図である。 図2は、図1の付着試験機により得られた引火点と付着量との関係を示す特性図である。
符号の説明
1…試験台、2…電源・温度調節装置、3…ヒータ、4…試験片用架台、5…試験片支持金具、6…試験片(鉄板)、7a,7b…熱電対、8…加工油、9…スプレー。

Claims (1)

  1. 金属塑性加工、鍛造、圧延する際に加工面に使用される,溶剤及び軽質基油を含む潤滑油の付着量を調整するための方法において、
    少なくとも3種類の試作油の引火点と付着量より、引火点と付着量の関係を示す近似式:Y=aX+bX+c(但し、Y:付着量、X:引火点、a,b,c:定数)を求める工程と、実機で必要な潤滑油の付着量を前記近似式に代入し、実機に必要な潤滑油の引火点を求める工程と、前記引火点となるように前記潤滑油の溶剤と軽質基油の混合比を調整し、潤滑油の配合を決定する工程とを具備することを特徴とする潤滑油の付着量の調整方法。
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