JP4541834B2 - プラズマディスプレイパネル - Google Patents

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Description

この発明は、プラズマディスプレイパネルの構成に関する。
従来の面放電方式交流型プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、放電空間を挟んで対向される二枚のガラス基板の間に、行方向に延び列方向に並設された複数の行電極対と、列方向に延び行方向に並設されて行電極対との交差する部分の放電空間にマトリックス状に単位発光領域(放電セル)を構成する複数の列電極と、これらの電極を被覆する誘電体層と、各単位発光領域ごとに赤,緑,青に色分けされて形成された蛍光体層と、各単位発光領域を区画する隔壁が形成され、放電空間内に所要の圧力の放電ガスが封入された構成を備えている。
そして、誘電体層の単位発光領域に対向する面には、MgO等によって形成されて誘電体層の保護機能と単位発光領域内への2次電子放出機能を有する保護層によって被覆されている。
このような構成のPDPは、その製造工程において、二枚のガラス基板が重ね合わされてその間に形成される放電空間が封止された後、排気によって放電空間が真空にされ、この後、放電空間内に所要の圧力を有する放電ガスが封入されることによって製造される。
ここで、放電空間内に封入される放電ガスの圧力は、大気圧よりも低くなるように設定されている。
このため、通常、PDPの製造が行われる平地(大気圧:約760torr)においては、放電空間を挟むガラス基板が大気圧によって内側方向に押圧されて、隔壁との間に隙間が形成されることがなく、PDPの駆動時にガラス基板の振動によって可聴域における異音が発生することはない。
しかしながら、例えば標高の高い高地においては、大気圧と放電空間内の放電ガスの圧力差が小さくなり、放電ガスの圧力によってガラス基板が膨らんで隔壁との間に隙間が出来、このため、PDPの駆動時にガラス基板の振動によって可聴域における異音が発生するという問題が生じてくる。
従来、このようなガラス基板の振動による異音の発生を防止するために、放電空間内の非表示領域部分に吸音材を配置して、ガラス基板の共振振動を吸収するようにしたPDPが提案されている(特許文献1参照)が、ガラス基板の振動そのものの発生を防止するものではなく、異音の発生防止効果はあまり期待することが出来ない。
特開2003−187712号公報
この発明は、上記のような従来のPDPにおける問題点を解決することをその解決課題の一つとしている。
この発明(請求項1に記載の発明)によるプラズマディスプレイパネルは、上記課題を解決するために、放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板のうちの何れかの基板に形成された複数の行電極対およびこの行電極対との交差部分の放電空間に単位発光領域を構成する列電極と、行電極対または列電極を被覆する誘電体層と、この誘電体層を被覆する保護層とを備え、放電空間内に放電ガスが封入されているプラズマディスプレイパネルにおいて、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う粒子径を有する酸化マグネシウム結晶体が、前記保護層の単位発光領域に面する部分に形成された結晶酸化マグネシウム層を有し、前記放電空間内に封入される放電ガスが、大気圧に対して80torr以上低い値を維持する圧力に設定されていることを特徴としている。
この発明によるPDPは、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間に、行方向に延びる行電極対と、列方向に延びて行電極対との交差部分の放電空間に放電セルを形成する列電極が設けられ、行電極対を被覆する誘電体層の表面が保護層によって被覆され、この保護層が、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う酸化マグネシウム結晶体を含む結晶酸化マグネシウム層を有しており、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間の放電空間内に、標高によって異なる大気圧に対して高地における大気圧よりも80torr以上低い値を維持する圧力の放電ガスが封入されているPDPをその最良の実施形態としている。
この実施形態におけるPDPは、放電空間内に封入される放電ガスの圧力が、高地において大気圧が低い場合でもこの大気圧よりも80torr以上低い値を維持する圧力に設定されていることによって、大気圧の低下によってガラス基板が膨らむのが防止され、これによって、PDPの駆動時にパネルから振動による可聴域における異音の発生を防止することが出来るようになる。
そして、このとき、誘電体層の保護層を構成する結晶酸化マグネシウム層が、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う酸化マグネシウム結晶体を含んでいることによって、放電空間内に封入されている放電ガスの圧力が低い場合でも、保護層が良好な耐スパッタ性を維持でき、その寿命が短くなるのが防止される。
図1ないし3は、この発明によるPDPの実施形態の一実施例を示しており、図1はこの実施例におけるPDPを模式的に示す正面図、図2は図1のV−V線における断面図、図3は図1のW−W線における断面図である。
この図1ないし3に示されるPDPは、表示面である前面ガラス基板1の背面に、複数の行電極対(X,Y)が、前面ガラス基板1の行方向(図1の左右方向)に延びるように平行に配列されている。
行電極Xは、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Xaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Xaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Xbとによって構成されている。
行電極Yも同様に、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Yaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Yaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Ybとによって構成されている。
この行電極XとYは、前面ガラス基板1の列方向(図1の上下方向)に交互に配列されており、バス電極XbとYbに沿って並列されたそれぞれの透明電極XaとYaが、互いに対となる相手の行電極側に延びて、透明電極XaとYaの幅広部の頂辺が、それぞれ所要の幅の放電ギャップgを介して互いに対向されている。
前面ガラス基板1の背面には、列方向において隣接する行電極対(X,Y)の互いに背中合わせになったバス電極XbとYbの間に、このバス電極Xb,Ybに沿って行方向に延びる黒色または暗色の光吸収層(遮光層)2が形成されている。
さらに、前面ガラス基板1の背面には、行電極対(X,Y)を被覆するように誘電体層3が形成されており、この誘電体層3の背面には、互いに隣接する行電極対(X,Y)の背中合わせに隣り合うバス電極XbおよびYbに対向する位置およびこの隣り合うバス電極XbとYbの間の領域部分に対向する位置に、誘電体層3の背面側に突出する嵩上げ誘電体層3Aが、バス電極Xb,Ybと平行に延びるように形成されている。
この誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面側には、蒸着法またはスパッタリングによって形成された薄膜の酸化マグネシウム層(以下、薄膜酸化マグネシウム層という)4が形成されていて、誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面の全面を被覆している。
そして、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面側には、後述するような立方体の結晶構造を有する酸化マグネシウム結晶体を含む酸化マグネシウム層(以下、結晶酸化マグネシウム層という)5が形成されている。
この薄膜酸化マグネシウム層4と結晶酸化マグネシウム層5とによって、誘電体層3の保護機能と後述する放電セルC内への2次電子放出機能を有する保護層が構成されている。
この結晶酸化マグネシウム層5は、薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面または一部、例えば、後述する放電セルに面する部分に形成されている(図示の例では、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面に形成されている例が示されている)。
一方、前面ガラス基板1と平行に配置された背面ガラス基板6の表示側の面上には、列電極Dが、各行電極対(X,Y)の互いに対になった透明電極XaおよびYaに対向する位置において行電極対(X,Y)と直交する方向(列方向)に延びるように、互いに所定の間隔を開けて平行に配列されている。
背面ガラス基板6の表示側の面上には、さらに、列電極Dを被覆する白色の列電極保護層(誘電体層)7が形成され、この列電極保護層7上に、隔壁8が形成されている。
この隔壁8は、各行電極対(X,Y)のバス電極XbとYbに対向する位置において行方向に延び列方向に並設された複数の横壁8Aと、隣接する列電極Dの間の中間位置において列方向に延び行方向に並設された複数の縦壁8Bとによって略格子形状を有するように成形されている。
そして、この隔壁8の横壁8Aに、行方向に延びる隙間SLが形成されている。
この格子形状を有する隔壁8によって、前面ガラス基板1と背面ガラス基板6の間の放電空間Sが、各行電極対(X,Y)において互いに対になっている透明電極XaとYaに対向する部分に形成される放電セルC毎に、それぞれ方形に区画されている。
放電空間Sに面する隔壁8の横壁8Aおよび縦壁8Bの側面と列電極保護層7の表面には、これらの五つの面を全て覆うように蛍光体層9が形成されており、この蛍光体層9の色は、各放電セルC毎に赤,緑,青の三原色が行方向に順に並ぶように配列されている。
嵩上げ誘電体層3Aは、この嵩上げ誘電体層3Aを被覆している結晶酸化マグネシウム層5(または、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の放電セルCに対向する部分にのみ形成されている場合には、薄膜酸化マグネシウム層4)が隔壁8の横壁8Aの表示側の面に当接される(図2参照)ことによって、放電セルCと横壁8Aに形成された隙間SLの間をそれぞれ閉じているが、縦壁8Bの表示側の面には当接されておらず(図3参照)、その間に隙間rが形成されて、行方向において隣接する放電セルC間がこの隙間rを介して互いに連通されている。
放電空間S内には、キセノンガスを含む放電ガスが封入されている。
この放電ガスの放電空間Sへの封入圧力は、大気圧に対して80torr以上低い値を維持する圧力に設定される。
例えば、この放電ガスの放電空間Sへの封入圧力は、500torr以下に設定される。
上記結晶酸化マグネシウム層5は、前述したような酸化マグネシウム結晶体が、スプレ法や静電塗布法などの方法によって誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aを被覆している薄膜酸化マグネシウム層4の背面側の表面に付着されることによって形成される。
なお、この実施例においては、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成される例について説明が行われるが、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、この結晶酸化マグネシウム層5の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成されるようにしても良い。
図4は、誘電体層3の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に、酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成されている状態を示している。
また、図5は、誘電体層3の背面に酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、薄膜酸化マグネシウム層4が形成されている状態を示している。
上記PDPの単結晶酸化マグネシウム層5は、下記の材料および方法によって形成されている。
すなわち、結晶酸化マグネシウム層5の形成材料となる電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL発光を行う酸化マグネシウム結晶体とは、例えば、マグネシウムを加熱して発生するマグネシウム蒸気を気相酸化して得られるマグネシウムの単結晶体(以下、このマグネシウムの単結晶体を気相法酸化マグネシウム単結晶体という)を含み、この気相法酸化マグネシウム単結晶体には、例えば、図6のSEM写真像に示されるような、立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体と、図7のSEM写真像に示されるような、立方体の結晶体が互いに嵌り込んだ構造(すなわち、立方体の多重結晶構造)を有する酸化マグネシウム単結晶体が含まれる。
この気相法酸化マグネシウム単結晶体は、後述するように、放電遅れの減少などの放電特性の改善に寄与する。
そして、この気相法酸化マグネシウム単結晶体は、他の方法によって得られる酸化マグネシウムと比較すると、高純度であるとともに微粒子が得られ、さらに、粒子の凝集が少ないなどの特徴を備えている。
この実施例においては、BET法によって測定した平均粒径が500オングストローム以上(好ましくは、2000オングストローム以上)の気相法酸化マグネシウム単結晶体が用いられる。
なお、気相法酸化マグネシウム単結晶体の合成については、『材料』昭和62年11月号,第36巻第410号の第1157〜1161頁の『気相法によるマグネシア粉末の合成とその性質』等に記載されている。
この結晶酸化マグネシウム層5は、前述したように、気相法酸化マグネシウム単結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されることにより形成される。
上記のPDPは、画像形成のためのリセット放電およびアドレス放電,維持放電が放電セルC内において行われる。
そして、リセット放電が放電セルC内において発生される際に、この放電セルC内に結晶酸化マグネシウム層5が形成されていることによってリセット放電によるプライミング効果が長く持続し、これによって、列方向において互いに隣接している放電セルC間が前述したように隔壁8の横壁8Aと嵩上げ誘電体層3Aとによって閉じられている場合でも、このリセット放電の次に行われるアドレス放電の放電確率が向上される。
上記PDPは、図8および9に示されるように、結晶酸化マグネシウム層5が、前述したような気相法酸化マグネシウム単結晶体によって形成されていることにより、放電によって発生する電子線の照射によって、結晶酸化マグネシウム層5に含まれる粒径の大きな気相法酸化マグネシウム単結晶体から、300〜400nmにピークを有するCL発光に加えて、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm,235nm付近)にピークを有するCL発光が励起される。
この235nmにピークを有するCL発光は、図10に示されるように、通常の蒸着法によって形成される酸化マグネシウム層(この実施例における薄膜酸化マグネシウム層4)からは励起されず、300〜400nmにピークを有するCL発光のみが励起される。
また、図8および9から分かるように、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm,235nm付近)にピークを有するCL発光は、気相法酸化マグネシウム単結晶体の粒径が大きくなるほどそのピーク強度が大きくなる。
この波長域200〜300nmにピークを有するCL発光の存在によって、放電特性の改善(放電遅れの減少,放電確率の向上)がさらに図られるものと推測される。
すなわち、この結晶酸化マグネシウム層5による放電特性の改善(放電遅れの減少,放電確率の向上)は、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL発光を行う気相法酸化マグネシウム単結晶体が、そのピーク波長に対応したエネルギ準位を有し、そのエネルギ準位によって電子を長時間(数msec以上)トラップすることができ、この電子が電界によって取り出されることで、放電開始に必要な初期電子が得られことによって為されるものと推測される。
そして、この気相法酸化マグネシウム単結晶体による放電特性の改善効果(放電遅れの減少,放電確率の向上)が、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL発光の強度が大きくなるほど大きくなるのは、CL発光強度と気相法酸化マグネシウム単結晶体の粒径との間にも相関関係があるためである。
すなわち、大きな粒径の気相法酸化マグネシウム単結晶体を形成しようとする場合には、マグネシウム蒸気を発生させる際の加熱温度を高くする必要があるため、マグネシウムと酸素が反応する火炎の長さが長くなり、この火炎と周囲との温度差が大きくなることによって、粒径の大きい気相法酸化マグネシウム単結晶体ほど上述したようなCL発光のピーク波長(例えば、230〜250nm内,235nm付近)に対応したエネルギ準位が多数形成されるものと考えられる。
また、立方体の多重結晶構造の気相法酸化マグネシウム単結晶体については、結晶面欠陥を多く含んでいて、その面欠陥エネルギ準位の存在が放電確率の改善に寄与しているとも推測される。
なお、結晶酸化マグネシウム層5を形成する気相法酸化マグネシウム単結晶体の粒子径(DBET)は、窒素吸着法によってBET比表面積(s)が測定され、この値から次式によって算出される。
BET=A/s×ρ
A:形状計数(A=6)
ρ:マグネシウムの真密度
図11は、CL発光強度と放電遅れとの相関関係を示すグラフである。
この図11から、結晶酸化マグネシウム層5から励起される235nmのCL発光によって、PDPでの放電遅れが短縮されることが分かり、さらに、この235nmのCL発光強度が強いほどこの放電遅れが短縮される(放電確率が向上する)ことが分かる。
図12は、上記のようにPDPが薄膜酸化マグネシウム層4と結晶酸化マグネシウム層5の二層構造を備えている場合(グラフa)と、従来のPDPのように蒸着法によって形成された酸化マグネシウム層のみが形成されている場合(グラフb)の放電遅れ特性を比較したものである。
この図12から分かるように、PDPが薄膜酸化マグネシウム層4と結晶酸化マグネシウム層5の二層構造を備えていることによって、放電遅れ特性が、従来の蒸着法によって形成された薄膜酸化マグネシウム層のみを備えているPDPに比べて、著しく改善されていることが分かる。
結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体には、BET法によって測定されたその平均粒径が500オングストローム以上のものが使用され、好ましくは、2000〜4000オングストロームのものが使用される。
この結晶酸化マグネシウム層5は、前述したように、必ずしも薄膜酸化マグネシウム層4の全面を覆うように形成する必要はなく、例えば行電極X,Yの透明電極Xa,Yaに対向する部分や逆に透明電極Xa,Yaに対向する部分以外の部分などように、部分的にパターン化して形成するようにしても良い。
この結晶酸化マグネシウム層5を部分的に形成する場合には、結晶酸化マグネシウム層5の薄膜酸化マグネシウム層4に対する面積比は、例えば、0.1〜85パーセントに設定される。
放電空間S内に封入される放電ガスの圧力は、前述したように、大気圧に対して80torr以上低い値を維持する圧力、例えば、500torr以下に設定される。
ここで、前述したような従来のPDPの高地における大気圧の低下によって駆動時にガラス基板が振動して異音が発生するという問題点の解決については、放電空間S内に封入される放電ガスの封入圧力を小さくして、高地においても放電空間Sの内外で大きな圧力差が維持されるようにすることが提案されるが、保護層3として蒸着MgO層(この実施例における薄膜酸化マグネシウム層4)のみを備えた従来のPDPにおいては、放電空間内の放電ガスの圧力が小さくなると、発生する異音レベルは低下するが、保護層の耐スパッタ性が低下して、放電空間内で発生される放電による保護層のスパッタ損耗が顕著になり、放電開始電圧(Vf)と放電維持最小電圧(Vsm)の変動が大きくなってしまうという新たな問題が発生する。
図13と14は、蒸着MgO層(この実施例における薄膜酸化マグネシウム層4)のみを備えたPDPと、この実施例の結晶酸化マグネシウム層5のように立方体の結晶構造を有する酸化マグネシウム結晶体を含む酸化マグネシウム層(結晶酸化マグネシウム層)を備えたPDPをそれぞれ駆動した際の、駆動時間の経過に伴う放電開始電圧(Vf)の電圧変動(ΔVf)と、放電維持最小電圧(Vsm)の電圧変動(ΔVsm)をそれぞれ示すグラフである。
なお、この図13および14において、蒸着MgO層のみのPDPについては200V,180kHzによって駆動を行い、結晶酸化マグネシウム層を備えたPDPについては、195V,90kHzによって駆動を行って180kHzで換算した結果が示されている。
この図13および14から、蒸着MgO層のみのPDPに対して、結晶酸化マグネシウム層を備えたPDPは、その駆動時間の経過に伴う放電開始電圧(Vf)の電圧変動(ΔVf)および放電維持最小電圧(Vsm)の電圧変動(ΔVsm)がともに小さく、耐スパッタ性が向上していることが分かる。
図15は、PDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差(パネル内外差圧)を変化させてPDPを駆動した際の、PDPから発生する異音レベルの測定結果を示している。
この図15から、PDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差が80torr以上ある場合には、PDPから発生する異音レベルが25dB以下になることが分かる。
この異音レベルが25dB以下の場合には、視聴者は静寂な環境下でもほとんど異音を感じることが無く、このことから、PDPの放電空間内の放電ガス圧力を大気圧との圧力差が80torr以上になるように設定することによって、PDPからの駆動時における可聴域での異音の発生を防止することが出来るようになる。
図16は、標高による大気圧の変化を示すグラフであり、図中、グラフcが大気圧を示し、グラフdが大気圧から80torr低い圧力、すなわち、駆動時におけるPDPからの可聴域での異音の発生を防止することが出来る放電空間内の放電ガスの圧力の標高による変化(異音発生境界)を示している。
この図16から、例えば標高が2000m以上の高地においても、駆動時にPDPから可聴域での異音が発生することがないように、放電空間内に封入される放電ガスの圧力を設定することが出来る。
例えば、非駆動時におけるPDPの放電空間内の放電ガス圧力を500torrに設定した場合には、PDPの駆動によって、パネル内部の温度が約30℃上昇して放電空間内の放電ガス圧力が約50torr上昇し、約550torrとなる(さらに詳しくは、パネル内部の温度が25℃から52.4℃に上昇した場合に、放電ガス圧力は46torr上昇する)。
平地での大気圧は約760torrであるため、平地においてPDPを駆動する場合には、PDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差は約(760−550=)210torrとなり、図15から、PDPから発生する異音レベルが25db以下に抑制されることが分かる。
しかしながら、例えば標高2000mの高地では、大気圧が約600torrになり、駆動時におけるPDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差は、約(600−550=)50torrとなって、図15から、PDPから発生する異音レベルが30db以上になり、問題となる異音レベルになる。
したがって、この図15および16から、製造時にPDPの放電空間内に封入される放電ガスの圧力を、500torr以下で、標高2000m以上の高地(例えば、メキシコシティ等)においてPDPが駆動された場合でも、PDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差が80torr以上に維持されるように設定することによって、高地での駆動時にも、常にPDPから可聴域における異音が発生するのを防止することが出来るようになる。
例えば、標高2000mの高地において異音レベルを30dB以下にするためには、大気圧が600torr,パネル駆動による内圧上昇が50torrであるとすると、PDPの放電空間内の放電ガス圧力と大気圧との圧力差を80torr以上に維持するために、平地でのPDPの非駆動時における放電ガスの封入圧力を470torr以下に設定するのが望ましい。
さらに、標高が約2300mの高地(例えば、メキシコシティ)でのPDPの駆動時の異音レベルを30dB以下にするためには、平地においてPDPの非駆動時における放電ガスの封入圧力を450torr以下に設定するのが望ましい。
そして、この実施例におけるPDPは、誘電体層3を被覆する保護層が結晶酸化マグネシウム層5を備えていることによって、放電空間内の放電ガスの圧力が小さくなった場合でも、十分な耐スパッタ性を維持することが出来、従来のPDPにおいて生じていたような保護層の寿命が短縮されるといった問題の発生を回避することが出来る。
なお、上記においては、この発明を、前面ガラス基板に行電極対を形成して誘電体層によって被覆し背面ガラス基板側に蛍光体層と列電極を形成した反射型交流PDPに適用した例について説明を行ったが、この発明は、前面ガラス基板側に行電極対と列電極を形成して誘電体層によって被覆し、背面ガラス基板側に蛍光体層を形成した反射型交流PDPや、前面ガラス基板側に蛍光体層を形成し背面ガラス基板側に行電極対および列電極を形成して誘電体層によって被覆した透過型交流PDP,放電空間の行電極対と列電極の交差部分に放電セルが形成される三電極型交流PDP,放電空間の行電極と列電極の交差部分に放電セルが形成される二電極型交流PDPなどの種々の形式のPDPに適用することが出来る。
また、上記においては、結晶酸化マグネシウム層5をスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着させることにより形成する例について説明を行ったが、結晶酸化マグネシウム層5は、酸化マグネシウム結晶体を含有するペーストを、スクリーン印刷法またはオフセット印刷法,ディスペンサ法,インクジェット法,ロールコート法などの方法によって塗布することによって形成するようにしても良く、または、酸化マグネシウム結晶体を含有するペーストを支持フィルム上に塗布した後に乾燥させることによってフィルム状にし、これを薄膜酸化マグネシウム層上にラミネートするようにしても良い。
また、上記においては、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4に積層して形成された二層構造のPDPについて説明を行ったが、図17に示されるように、誘電体層3上に単結晶酸化マグネシウム層5のみを単層で形成するようにしても良い。
この発明の実施形態の実施例を示す正面図である。 図1のV−V線における断面図である。 図1のW−W線における断面図である。 同実施例において薄膜マグネシウム層上に結晶マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。 同実施例において結晶マグネシウム層上に薄膜マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。 立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。 立方体の多重結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。 同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径とCL発光の波長との関係を示すグラフである。 同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径と235nmのCL発光の強度との関係を示すグラフである。 蒸着法による酸化マグネシウム層からのCL発光の波長の状態を示すグラフである。 酸化マグネシウム単結晶体からの235nmのCL発光のピーク強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。 保護層が蒸着法による酸化マグネシウム層のみによって構成されている場合と結晶マグネシウム層と蒸着法による薄膜マグネシウム層の二層構造になっている場合との放電遅れ特性の比較を示す図である。 駆動時間の経過による放電開始電圧変動の比較を示すグラフである。 駆動時間の経過による放電維持最小電圧変動の比較を示すグラフである。 パネル内外差圧と異音レベルの相関を示すグラフである。 同実施例において放電ガス圧力の設定方法を示すグラフである。 同実施例において結晶マグネシウム層が単層で形成されている状態を示す断面図である。
符号の説明
1 …前面ガラス基板(前面基板)
3 …誘電体層
4 …薄膜酸化マグネシウム層
5 …結晶酸化マグネシウム層
6 …背面ガラス基板(背面基板)
7 …列電極保護層(誘電体層)
8 …隔壁
C …放電セル(単位発光領域)
X,Y …行電極
D …列電極

Claims (12)

  1. 放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板のうちの何れかの基板に形成された複数の行電極対およびこの行電極対との交差部分の放電空間に単位発光領域を構成する列電極と、行電極対または列電極を被覆する誘電体層と、この誘電体層を被覆する保護層とを備え、放電空間内に放電ガスが封入されているプラズマディスプレイパネルにおいて、
    電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う粒子径を有する酸化マグネシウム結晶体が、前記保護層の単位発光領域に面する部分に形成された結晶酸化マグネシウム層を有し、
    前記放電空間内に封入される放電ガスが、大気圧に対して80torr以上低い値を維持する圧力に設定されている
    ことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
  2. 前記放電ガスの圧力が500torr以下に設定されている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  3. 前記放電ガスの圧力が470torr以下に設定されている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  4. 前記放電ガスの圧力が450torr以下に設定されている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  5. 前記酸化マグネシウム結晶体が、気相酸化法によって生成された酸化マグネシウム単結晶体である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  6. 前記酸化マグネシウム結晶体が、230ないし250nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  7. 前記酸化マグネシウム結晶体が、500オングストローム以上の粒径を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  8. 前記酸化マグネシウム結晶体が、2000オングストローム以上の粒径を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  9. 前記酸化マグネシウム結晶体が、立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  10. 前記酸化マグネシウム結晶体が、立方体の多重結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  11. 前記保護層が、結晶酸化マグネシウム層と蒸着またはスパッタリングによって形成される薄膜酸化マグネシウム層とによる積層構造を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  12. 前記保護層が、結晶酸化マグネシウム層による単層構造を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
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