しかしながら、電気的な方法でコンプライアンスを実現しようとする場合、センシングデータに基づいて、コンピュータが演算を行い、その演算結果に基づいてアクチュエータやモータを制御しなければならないので、高精度なセンサ、データを高速サンプリングするための高速A/Dコンバータ、演算を短時間に行うための高速CPU、複雑な制御を実行するための複雑なプログラム等が必要となる。また、アクチュエータやモータにも広いダイナミックレンジにおいて高速でそして精密な制御が可能なものが必要となる。このため、高コスト化、消費電力の増大、ハードウェアの占有容積の増大、信頼性の低下といったデメリットが顕在化する。ロボットの実用化には、低コスト化、低消費電力化、小型化、高信頼性の確保といった事項が重要であり、このようなデメリットがあることは好ましくない。また、コンプライアンスを電気的な制御によって実現する場合、指先が対象物に接触した瞬間に発生するチャタリング現象を抑える工夫が必要となるが、そのためにさらに複雑な構成や制御が必要となるという問題もあった。
また、機械的な機構によってコンプライアンスを実現しようとする場合、それは弾性部材を用いて実現することになるが、限られたスペース(例えば手先の関節部分)内において、弾性部材に十分な変位量を確保することが困難であるという問題がある。特にある程度の大きな力に対して、満足のゆくコンプライアンスを得ようとする場合、大きなバネ定数を持ち、且つ大きな変位が可能なコンプライアンス機構となるが、このような機構を限られたスペースにおいて如何にして実現するのかが問題となる。
また、弾性部材を利用して機械的にコンプライアンスを実現する場合、関節に大きな負荷が加わった際に、弾性部材の変位があるレベルを超え、弾性部材としての性質(つまりバネとしての機能)が失われてしまう問題が発生する。
また、機械的にコンプライアンスを実現する場合であっても、電気的な制御が併用される場合が多く、また負荷の程度をセンシングする必要があるので、歪ゲージによって弾性部材の変位量を計測する必要があるが、省スペース化との両立もあり、効果的に弾性部材の歪を計測することは困難であった。
そこで本発明は、ロボットの関節機構において、機械的な方式で効果的にコンプライアンスを得ることができ、それを省スペースに収めることができる技術を提供することを目的とする。また本発明は、大きな変位量を確保することができ、また大きな負荷に対応することができる構成を提供することを他の目的とする。また本発明は、効果的に負荷の程度を検出することができる構成を提供することを他の目的とする。
本発明のロボット関節機構は、関節基部と、この関節基部に設けられた関節軸と、この関節軸を軸とした回転動作を行う回動部材と、前記関節軸の軸回りを回転する回転駆動体と、この回転駆動体に回転力を与える駆動手段と、前記回転駆動体内に収められ、前記回転駆動体の回転力を前記回動部材に伝える弾性部材とを備え、前記弾性部材は、一部が切断されたリング形状を有し、前記リング形状の弾性部材は、その一方の面上に配置された第1の平板部材と、その他方の面上に配置された第2の平板部材とを備え、前記第1の平板部材は、前記回転駆動体に対して拘束され、前記第2の平板部材は、前記回動部材に対して拘束され、前記第1および第2の平板部材は、互いに上下に重ならない部分を有し、前記第1および第2の平板部材のそれぞれは、前記リング形状の弾性部材の一端および他端に固定され、それ以外の部分で前記弾性部材から浮いている構造であることを特徴とする。
上記の発明において、関節基部というのは、回動部材を関節によって支えるベース部分のことをいう。例えば、人間の手先に模した構造であれば、関節基部が掌に相当する構造体であり、指が回動部材となる。また、関節軸というのは、関節の動きを可能にする回転軸のことをいう。
回転駆動体というのは、ギアリング(歯車)やプーリのような、適当な駆動機構から伝達される駆動力によって回転し、駆動力を発生する部材のことをいう。代表的な回転駆動体としては、平歯車が挙げられるが、歯車の種類はそれに限定されず、はすば歯車(ヘリカルギヤ)等の他の歯車構造を利用することもできる。また、回転駆動体として、ワイヤ、ベルト、チェーン等によって駆動されるプーリを採用することもできる。
回転駆動体に回転力を与える駆動手段というのは、例えば回転駆動体がギアリングであれば、それに噛み合うウォーム、それに噛み合う駆動用のギアリングが挙げられ、例えば回転駆動体がプーリであれば、それを駆動するプーリ機構を挙げることができる。弾性部材は、回転駆動体の内部に収められた状態において、回転駆動体の回転力を回動部材に伝達する。例えば、負荷が弱ければ、弾性部材が変形せずに力の伝達が行われ、負荷がある程度大きければ、弾性部材が変形しつつ力の伝達が行われる。弾性体としては、板バネを利用したもの、トーションバネを利用したもの、コイルバネや渦巻バネを利用したもの等を挙げることができる。
上記の発明によれば、駆動手段からの駆動力が回転駆動体に伝達され、回転駆動体が関節軸の回りを回転しようとすると、その回転力が弾性部材を介して、回動部材に伝わり、回動部材が関節軸を軸中心とした回転動作を行おうとする。この際、回動部材を動かす駆動力が弾性部材を介して伝わるので、回動部材の動きにコンプライアンスを与えることができる。例えば、掌部に関節を介して可動可能に連結された指部を動かす場合、掌に対する指部の動きが、弾性部材を介したものとなるので、負荷の状況によっては、その駆動力が弾性部材に吸収され、指部の動きにコンプライアンスを与えることができる。
また上記の発明によれば、回動部材に力が加わった際に、その力が弾性部材を介して回転駆動体に加わるので、回動部材に加わる力を弾性部材によって吸収することができる。例えば、回動部材に衝撃が加わった際に、その衝撃を弾性部材によって緩和し、その衝撃がそのまま回転駆動体に加わらないようにすることができる。この機能により、例えばロボットの手先に加わる衝撃が、関節さらに手の骨格構造に直接加わることを防止することができる。また本発明によれば、弾性部材を回転駆動体内に収めた構造となるので、上述したようなコンプライアンスを得ることができる構造を省スペースで実現することができる。
以下、本発明の原理を説明する。図1は、本発明の原理を説明する概念図である。図1(A)には、図示しない関節基部に軸支された関節軸101、関節軸101を軸とした回転動作を行う回動部材102(例えば指)、関節軸101の軸回りを回転し、回動部材102に駆動力を伝えるウォームホイール103(回転駆動体)、このウォームホイール103に回転力を与える駆動手段であるウォーム104、ウォームホイール103内に収められ、その回転力を回動部材102に伝える一対のバネ(弾性部材)105が示されている。この構成においては、ウォームホイール103の内部に張り出した凸部106の部分において、一対のバネ105の一端が回転駆動体103に固定され、他端が回動部材102に接触している。また、回転駆動体103の外周には、ギアの歯が形成され、それがウォーム104のスクリュー状のネジ山に噛み合う構造となっている。また、回転駆動体103の一部に開口107が形成され、そこから回動部材102が外部に延出している。
この構成において、回動部材102によって物体108に力を加える場合を説明する。まず、ウォームギア104が回転し、その駆動力がウォームホイール103に伝わり、ウォームホイール103が、矢印109の向きに回転するとする(図1(B))。この場合、バネ105の片側は、この回転に従って縮み、圧縮されてゆく。このバネ105の圧縮に対する反発力は、回動部材102を押し、回動部材102を矢印111の方向に回転させようとする駆動力となる。つまり、ウォームホイール103の回転力が、バネ105を介して回動部材102に伝達される。
ここで、物体108の質量に対してバネ105のバネ力(反発力)が小さい場合を想定する。この場合、図1(B)の状態において、バネ105から伝達される力では、回動部材102は回転せず、その力はバネ105の変形として吸収される。そして、ウォームホイール103がある程度回転し、開口107の端部110が回動部材102に接触した段階(図1(C))に至って、ウォームホイール103の回転力が回動部材102に直に伝わる。この図1(C)に示す段階に至り、ウォーム104の駆動力が、ウォームホイール103を介して、回動部材102に直接伝達され、回動部材102が物体108を押して回転する状態となる。
この動作原理によれば、バネ105を介した回動部材102への力の伝達は、バネ105の弾性によって緩和され、それによりコンプライアンスを伴った力の伝達となる。すなわち、ウォームホイール103がある程度回転するまでは、ウォームホイール103の回転力が弾性体であるバネ105を介して回動部材102に伝わり、ある段階から、ウォームホイール103から回動部材102に直に力が伝わる。こうして、回動部材102を用いて物体108に力を加える際に、いきなり強い力が瞬間的に伝達されるのではなく、力がある上昇曲線を描いて物体108に加わる柔軟性(コンプライアンス)を機械的に実現することができる。
図1の概念図に示すように、本発明においては、回動部材102に、ウォームホイール103から駆動力を伝えるバネ(弾性部材)105が、回転駆動体であるウォームホイール103内に収納されている。このため、上述したような機械的なコンプライアンスを実現しつつ、機構全体の占有スペースを小さくすることができる。また、機構の要であるバネ105が、ギアリングによって保護された構造となるので、高い信頼性および耐久性を得ることができる。
またこのコンプライアンスは、回動部材102が力を受けた際にも発現する。例えば、回動部材102に外部から力が加わると、それがまずバネ105に伝わり、その力によってバネ105が縮み、ある程度バネ105が縮んだ段階で端部110に回動部材102が接触し、回動部材102からウォームホイール103に直に力が伝わる。この場合も、回動部材102が力を受けた最初の段階は、バネ105の弾性によって力が受け止められるので、いきなり強い力が瞬間的にウォームホイール103に伝わらない柔軟性を得ることができる。また、バネ105の変形の範囲内において、回動部材102が弾性を伴った変位を行うので、柔軟性を有した回動部材102の動きを実現することができる。
本発明において、弾性部材とは別に、回転駆動体の動きを回動部材に伝達する伝達手段を備え、この伝達手段の伝達機能は、弾性部材の変形量(または回動部材の回転駆動体に対する相対的な変位量)が所定の値になった段階で発現する構成とすることは好ましい。この態様によれば、駆動手段からの駆動力を受けて回転駆動体が回転し、その回転力が回動部材に伝わり、回動部材が関節軸回りの回転動作を行う際に、回転駆動体の回転し始めの段階では、その変位量が小さいので、伝達手段は機能せず、回転駆動体から回動部材への力の伝達は、弾性部材を介して行われる(この際、コンプライアンスが得られる)。そして、回転駆動体がある程度動いた段階(弾性部材がある程度変形した段階)で、伝達手段が機能し始め、伝達手段を介して、回転駆動体から回動部材への駆動力の伝達が行われる。
すなわち図1に示す概念図の例でいうと、ウォーム104が回転することで、ウォームホイール(回転駆動体)103が回転し始めると、図1(B)に示すように、最初は、その回転力がバネ(弾性部材)105を介して回動部材102に伝わる。そして、ウォームホイール(回転駆動体)103がある程度回転し、開口107の端部110が回動部材102に接触した段階で、この接触部分が伝達手段として機能し始め、ウォームホイール(回転駆動体)103から回動部材102に駆動力が伝わり、駆動力の伝達が行われる。
また、回動部材102に力が加わった際は、最初の段階でバネ(弾性部材)105を介して回動部材102からウォームホイール(回転駆動体)103に力が加わるが、回動部材102がある程度動いた段階(バネ(弾性部材)105がある程度変形した時点)で、開口107の端部110が回動部材102に接触し、この接触部分が伝達手段として機能し始めることで、この伝達手段を介して回動部材102からウォームホイール103への力の伝達が行われる。
この伝達機能を利用した動作によれば、弾性部材がある程度変形した段階で伝達手段による回転駆動体と回動部材間との間の直接の力の伝達が行われるようになるので、その時点以降は、弾性部材は変形しない。したがって、弾性部材の変形限界を超えることによる弾性部材の破壊や弾性機能の低下を招くことが防止される。また、弾性部材の変形がある程度進んだ段階から先は、回転駆動体が直接回動部材を回転させるので、弾性部材の変形量に制限されずに、回動部材先端の変位量を大きく確保することができる。つまり、動作の変位量を大きく確保することができる。また、弾性部材の変形の上限が制限されるので、弾性部材の限界を超えた大きな負荷に対応することができる。
上述したような、回転駆動体の変位量が所定の値になった段階で伝達機能を発現する伝達手段として、回転駆動体に設けられたストッパ用突起と、回動部材に設けられたストッパ用突起を係止する係止部とを備え、ストッパ用突起は、弾性部材の変形量が所定の値になった段階で、係止部に接触し、この接触部分によって回転駆動体の回転力が回動部材に伝達される態様を挙げることができる。この態様によれば、回転駆動体が回転し、回動部材を動かす場合において、回転駆動体の回転初期段階においては、ストッパ用突起が係止されず、弾性部材の変位量(または回動部材の回転駆動体に対する相対的な変位量)があるレベルに達した段階で、ストッパ用突起が係止部で係止され、この係止部分を介して回転駆動体の回転力が回動部材に伝達される。また逆に、外部から回動部材に力が加わる場合、回動部材の回転初期段階においては、ストッパ用突起に対する係止は行われず、回動部材の回転変位量があるレベルに達した段階で、係止部にストッパ用突起が係止され、その後は、この係止部分を介して回動部材を回転させようとする力が回転駆動体に伝達される。係止部は、ストッパ用突起が接触し、ストッパ用突起の動きが回動部材に直接伝わる構造であればよい。係止部としては、後述するスリット等のガイド構造、ストッパ用突起が引っ掛かる段差構造やストッパ用突起を受け入れる凹型構造を挙げることができる。
上記の係止部を備えた構造として、回動部材に設けられ、ストッパ用突起をガイドするガイド部を挙げることができる。この場合、係止部はガイド部の端部に形成される。この態様において、回転駆動体が回転すると、ストッパ用突起は、まずガイド部に沿って動き、弾性部材の変形量が所定の値になった段階で、ガイド部の端部(つまり係止部)に接触する。そして、この段階以降は、この接触部分によって回転駆動体の回転力が回動部材に伝達される。また逆に、外部から回動部材に力が加わる場合、回動部材の回転初期段階においては、ストッパ用突起に対してガイド部が相対的に動き、回動部材の回転変位量があるレベルに達した段階で、ガイド部の端部にストッパ用突起が接触し、その後は、この接触部分を介して回動部材を回転させようとする力が回転駆動体に伝達される。なお、ガイド部としては、スリット(長孔)、溝、軌道、ガイドする経路に沿った壁部や凸部を利用することができる。
本発明において、回転駆動体は、ウォームホイールであり、駆動手段がウォームである構成とすることは好ましい。この態様によれば、関節の駆動が、ウォームギアを用いたギア機構により行われるので、回動部材から駆動手段への力の伝達が防止され、過負荷や強い力が加わった際の回動部材の逆動作が防止される構造を得ることができる。
本発明において、弾性部材として、一部が切断されたリング形状(略C字型)を採用することは好ましい。この場合、リング形状に切断された部分に形成される一方の端部と他方の端部との間で変形が起こり、弾性が発現する。この態様によれば、リング形状に丸めた部材が示す弾性変形機能を利用することで、省スペース化と弾性部材のたわみ量の確保とを追求することができる。すなわち、弾性変位量を大きく確保するためには、弾性部材にある程度の長さが必要となるが、この態様においては、弾性部材を、関節軸に巻きつくような形状のリング形状とし、それを回転駆動体内に収めることで、全体を小型化しながら、効果的に関節軸回りの角度変位に対応した変形量と大きなバネ定数を確保することができる。
上述したリング形状の弾性部材の外周に歪ゲージを配置し、弾性部材に生じる歪を検出する構成とすることは好ましい。リング形状の弾性部材には、負荷に対応した歪みが効果的に発生するので、その歪量を歪ゲージで計測することで、関節軸に加わるトルクを高精度に検出することができる。このトルク計測値は、駆動力の源であるモータやアクチュエータの制御等に利用することができる。
上述したリング形状の弾性部材として、その一方の面上に配置された第1の平板部材と、その他方の面上に配置された第2の平板部材とを備え、前記第1の平板部材は、前記回転駆動体に対して拘束され、前記第2の平板部材は、前記回動部材に対して拘束され、前記第1および第2の平板部材は、互いに上下に重ならない部分を有し、前記第1および第2の平板部材は、それぞれ前記リング形状(一部が切断された略C字型)の弾性部材の一端および他端に固定され、それ以外の部分で前記弾性部材から浮いている構造を採用することは好ましい。
誇張して考えた場合、一部が切断されたリング形状の弾性部材の変形は、回転駆動体内において、その略C字型の形状が開いたり閉じたりする動きとしてイメージすることができる。この変形においては、リング形状の弾性部材の厚み方向への変形が生じずに、略C字型の形状が開いたり閉じたりする動きのみが生じることが理想的である。しかしながら、実際には、厚み方向への変形力も働き、一部が切断されたリング形状が捩れるように歪み、両端部が厚み方向に上下に分かれるような変形も生じる。この変形の程度が大きくなると、歪みゲージを用いた負荷の程度の計測誤差が大きくなり、また弾性が失われて復元が困難な状態となり易い。
上記の態様は、一部が切断されたリング形状(略C字型)の弾性部材の両面に、第1および第2の平板部材を配置することで、この不都合の発生を抑えようとするものである。すなわち、第1の平板部材と第2の平板部材によって上面および下面の重ならない部分が押さえられる(覆われる)ので、弾性部材の捻れ変形がある程度抑えられる。また、全面を押さえない(例えば半分の面積を平板部材で覆う)ので、捻れ変形が多少許容されて、コンプライアンスの発現に好ましい変形を生じ易くすることができる。
本発明の適用対象となるロボットとしては、自律動作可能なロボットを挙げることができる。特に本発明は、人間に代わって、あるいは人間を補助して各種の作業を行うことが可能なロボットに好適である。このようなロボットは、人間の手が持つ機能になるべく近い機能を備えていることが望ましいので、本発明を適用するのに適している。なお、ロボットは、必ずしも移動可能でなければならいということはない。また、移動ロボットとしては、2足歩行型の人型ロボット以外に、動物や恐竜などを模した2足歩行型ロボット、3足以上の脚部を移動手段とした移動ロボット(例えば、4足歩行型の動物型ロボットあるいは昆虫型ロボット)、脚部の代わりに車輪や無限軌道による移動手段を備えた移動ロボット、あるいは脚部と車輪や無限軌道とを組み合わせた移動手段を備えた移動ロボット等を挙げることができる。
本発明によれば、ロボットの関節機構において、関節軸回りを回転する回動部材(例えば指)に回転力を与える回転駆動体の内部に弾性部材を配置し、この弾性部材を介して回転駆動体から回動部材に駆動力が伝達されるようにすることで、機械的な方式で効果的なコンプライアンスを得ることができ、さらにその機構を省スペースに収めることができる。また、弾性部材とは別に、回転駆動体の動きを回動部材に伝達する伝達手段を備え、この伝達手段の伝達機能は、弾性部材の変形量が所定の値になった段階で発現する構成とすることで、コンプライアンス機能を得ながら、同時に大きな変位量を確保でき、また大きな負荷に対応することができる。さらに、弾性部材に歪みゲージを貼り付けることで、効果的に負荷の程度を検出することができる。
(1) 第1の実施形態
(1−1)第1の実施形態の構成
(全体の構成)
本実施形態は、本発明をロボットの手先部分(人間でいう手首から先の部分)における指の駆動機構に適用した例である。図2は、本実施形態のロボットの手先部分の概要を示す斜視図である。図2に示す構成において、手先部分201は、ベース部202、ベース部202に回転動作可能に連結された回動部材である第1指部203および第2指部204を備え、さらに第2指部204に連結された第3指部205を備えている。ベース部202は、図示しない手首関節を介して図示しない腕部(図示する構造では左腕部)に連結される。この構造において、ベース部202は、第1指部203および第2指部204に対して関節基部として機能し、第2指部204は、指としての機能に加えて第3指部205の関節基部としても機能する。
(第1指部の構成)
ベース部202には、第1指部関節206を介して、第1指部203が可動可能に連結されている。第1関節部206は、(1)ベース部202に設けられ、関節軸の軸孔217が形成されている上下一対の平板部(フランジ部)202aおよび202bと、(2)これら平板部の間に軸孔215を軸孔217に合わせた状態で配置された第1指部203側の平板部(フランジ部)203aおよび203bと、(3)平板部203aと203bとの間に配置されたウォームホイール207およびスペーサ222と、(4)軸孔215、軸孔217、軸孔216およびスペーサ222の軸孔を遊嵌状態で貫通し、関節軸として機能する連結ピン218とを備えている。
回転駆動体として機能するウォームホイール207は、一方が開放され、他方が円環形状底板(中心の抜けた円板形状)によって部分的に塞がれている円筒容器構造を有し、その内部にウォームホイール207の中心軸に一致し、上下に貫通する軸孔216を備えた内側円筒部材213を備えている。内側円筒部材213の外径は、ウォームホイール207の内径より小さく、ウォームホイール207の内周面と内側円筒部材213の外周面との間には、円環空間(ドーナツ形状あるいはトロイダル形状の空間)が形成され、そこに弾性部材である歪リング208が収められる。ウォームホイール207の外周207aには、ウォーム収納部209内に配置された図示しないウォームと噛み合う歯(ギアの歯)が形成され、また、その縁部分に、第1指部203の案内ガイド用スリット(長穴)220に遊嵌するストッパ用突起219を備えている。ストッパ用突起219は、正面から見ると、両側に段差がある凸型であり、下側の段側面が案内ガイドスリット220の端部に係止し、上側の段側面が平板部202aのストッパ部202cおよび202dに係止する(図5参照)。また、ストッパ用突起219は、図5に示すように平板部202aの円弧状の外周部分に沿って移動する。案内ガイド用スリット220は、ウォームホイール207の回転(連結ピン218の軸周りの回転)に際してのストッパ用突起219の移動経路に沿って形成され、第1指部203に対するウォームホイール207の相対的な移動範囲(回転範囲)を規制するガイドとして機能する。すなわち、ストッパ用突起219が、案内ガイドスリット220内に沿って動ける範囲において、第1指部203は、ウォームホイール207に対して、連結ピン218の軸周りの回転が可能となる。
図3は、歪リング208の外観を示す上面図(A)と、(A)に示す状態をA−A’で切った断面図(B)である。なお、図3(A)のA−Bで切った断面が後述する図4(A)に示されている。歪リング208は、本発明の弾性部材の一例であり、上方から見ると、一部が切断されたリング形状(略C字型の形状あるいは閉じていないリング形状))を有し、またリング形状を構成する湾曲した部分の垂直断面が略矩形形状を有する。この例では、歪リング208の材質は鉄であり、一方の面(図3(B)の上面)の端部近くには、歪リング208を第1指部203に係合させるための突起210が配置され、他方の面(図3(B)の下面)のもう一方の端部近くには、歪リング208をウォームホイール207に係合させるための突起212が配置されている。この例では、突起212が配置された部分と突起210が配置された部分の間で変位が発生し、弾性が発現する。
本実施形態における歪リング208の材料としては、鉄以外の金属、樹脂材料、ゴム材料、それらの複合材料を利用することもできる。これらの材料の選択は、必要とするバネ定数に合わせて選択すればよい。
図2において、ベース部202のウォーム収納部209内には、ウォームホイール207に駆動力を与えるウォーム(図2には図示せず)が配置されており、組み付け状態において、このウォームの歯とウォームホイール207の外周207a上の歯とが噛み合う。ウォーム収納部209内のウォームは、ベース部202内に収められたサーボモータ(図示せず)によって駆動され、軸223をウォーム軸として回転する。
次に、図1(A)に示すベース部202への第1指部203の組み付け手順(組み立て工程)について、図2および図4を用いて説明する。図4は、図2をX軸方向から見た側断面図であり、(A)は分解状態を示し、(B)は組み立て状態を示す。
まず、歪リング208をウォームホイール207内に収納する。この際、ウォームホイール207内の底面に形成された支持孔224(図4(A)参照)に突起212を差し込む。次に、軸孔215と軸孔216との位置を合わせた状態で、歪リング208を収納したウォームホイール207を、平板部203aと203bとの間に位置させ、ストッパ用突起219を案内ガイドスリット220に差し込む。またこの時、同時に歪リング208の突起210を支持孔211に差し込む。次いで、スペーサ222をウォームホイール207の下面と平板部203bとの間に差し込み、両者の軸孔の位置を合わせ、さらにウォームホイール207の周囲207aに形成されたギア歯をウォーム収納部209内に配置されたウォーム225(図4(B)参照)に噛み合わせる。この状態において、連結ピン218を軸孔217および軸孔216に貫通させ、ベース部202に対する第1指部203の軸支状態を得る。
こうして、図2、図5および図6に示す手先の構造を得る。図5は、図2におけるZ軸方向から見た上面図であり、図6は、図2におけるX軸方向から見た側面図である。この構造においては、ベース部202に第1指部203が第1指部関節206によって連結され、連結ピン218の部分を関節軸として、第1指部203がベース部202に対して回転動作を行う。
この構造においては、図2および図3に示すように、ウォームホイール207内に歪リング208が収められ、その上面の突起210(図2参照)が第1指部203の支持孔211に遊嵌され(回転可能な状態で嵌め込まれ)、その下面の突起212がウォームホイール207底面の支持孔224(図3(A)参照)に遊嵌される。こうして、第1指部関節206が組み上げられた状態において、ウォームホイール207と第1指部203とが、歪リング208を介して係合した状態となる。
この状態において、歪リング208は、突起210と突起212との間に力が加わることで変形し、弾性体としての機能を発現する。例えば、歪リング208がウォームホイール207内に収められた状態において、第1指部203の先端に力が加わり、第1指部203が連結ピン218部分の関節軸を軸として回転しようとする場合を考える。この場合、突起212によって歪リング208がウォームホイール207に位置決めされ、またウォームホイール207が図示しないウォームによって固定され回転できない状態にあるので、第1指部203の回転が開始すると、それにしたがって、突起212の部分が固定された状態で、支持孔211に遊嵌された突起210の部分が相対的に移動する。この結果、突起210と突起212との相対的な位置関係が変化し、それに伴って略C字型の歪リングが、そのC字形状が閉じたり開いたりするような変形を行う。この変形に対して歪リング208が弾性を示し、弾性部材(バネ部材)としての機能を発現する。すなわち、そのC字形状を閉じようとする力が働けば、それに反発し元に戻ろうとする力が生じ、そのC字形状を開こうとする力が働けば、やはりそれに反発し元に戻ろうとする力が生じる。この反発力によって、第1指部を動かそうとする動きに対する反発力(弾性を伴った抵抗力)が発生する。例えば、第1指部203をその回転運動方向に押した場合、その押す力に反発する反発力を示しつつ、第1指部203が動くことになる。
(他の部分の構成)
以上が、図2に示す第1指部203を中心とした構成の詳細であるが、次に手先部分201が備える第2指部204および第3指部205について簡単に説明する。
図2、図5および図6に示す構成において、第2指部204は、関節軸235を軸として、ベース部202に対して可動する。この可動は、モータ収納部231に収納されたモータ232により、ウォーム収納部233内のウォームが駆動され、それがウォームホイール234に伝わることで行われる。図示されていないが、ウォームホイール234は、ウォームホイール207と同様の構造であり、その内部に図示しない歪リングを納め、ウォームホイール234の回転が、ベース部202にコンプライアンスを伴って伝達される構造となっている。
第3指部205は、関節軸236を軸として、第2指部204に対して可動する。この可動は、モータ収納部231に収納されたモータ239により、図示しないウォームが駆動され、それが図示しないウォームホイールに伝わることで行われる。この関節機構においても、図示されていないが、ウォームホイールは、ウォームホイール207と同様の構造で、その内部に歪リングを納め、ウォームホイールの回転が、第3指部205にコンプライアンスを伴って伝達される構造となっている。なお、符号238が、案内ガイドスリット220に対応する案内ガイドスリットである。
(1−2)実施形態の動作
以下、図2に示すロボットの手先構造における第1指部203の動作の一例を具体的に説明する。図7は、第1指部203の動作の過程の一例を説明する概念図である。図7は、図2をそのZ軸方向から見た状態を示すもので、図7(A)は、無負荷状態、図7(B)は、物体701に接触し物体701を矢印702の方向(掌の内側方向)へ押そうと動作を開始した状態、図7(C)は、(B)の状態から進んで物体701を矢印703の方向に押している状態を示す。
ここでは、第1指部203をベース部202に対して動かしていない状態(図7(A))を初期状態とし、そこから第1指部203を動かして、第1指部203から僅かに離れた位置に存在する物体701に触れ、それを動かす場合の例を説明する。なお、この例においては、第1指部203をベース部202に対して動かしていない初期状態において、ウォームホイール207のストッパ用突起219が、案内ガイドスリット220内の中央に遊嵌した状態にある設定構造になっているとする(図7(A))。また、物体701を押した際に、歪リング208が変形し、その押す力は歪リング208に完全に吸収される設定(物体701の質量と歪リング208のバネ定数の関係)であるとする。
まず、図7(A)の状態において、ウォーム225を図示しないサーボモータにより回転させ、ウォームホイール207を関節軸である連結ピン218を軸とした反時計回り(図7の視点あるいは図2のZ軸方向からの視点から見た場合)に回転させる。このウォームホイール207の反時計回りの回転は、図2の突起212を介して歪リング208に伝わり、さらに支持孔211に遊嵌された突起210を介して第1指部203に伝わる。この結果、第1指部203は、関節軸である連結ピン218を軸とした反時計回りに回転し、この回転によって第1指部203の先端部は矢印702の方向に動く。
第1指部203が動き始めた状態において、第1指部203の先端は、物体701に接触しておらず、第1指部203に負荷は加わっていない。このため、歪リング208にも負荷は加わらず、歪リング208は変形せず、歪リング208は、ウォームホイール207と共に回転する。すなわち、ウォームホイール207が回転すると、その回転力が歪リング208を介して素直に第1指部203に伝達され、第1指部203が連結ピン218を軸とした回転を行う。また、この際、ストッパ用突起219の案内ガイドスリット220内における位置関係は変化しない。
図7(A)に示す状態から第1指部203が矢印702の方向に動き、第1指部203の先端が物体701に接触すると、第1指部203に負荷が加わる(図7(B))。この負荷は、歪リング208に加わり、それにより、その歪リング208には、そのC形状を閉じようとする力が加わる。すなわち、ウォームホイール207の駆動が引き続き行われている状態において、第1指部203の先端が物体701に接触すると、歪リング208に力が加わり、歪リング208は変形し始める。ここでは、歪リング208が変形している間は、物体701が動かない場合を想定しているから、引き続きウォームホイール207が回転することで、突起212の部分212a(図7参照)が突起210の部分に対して相対的に動き、歪リング208は、そのC形状を閉じようとする変形を起こす。
なお、歪リング208のバネ定数と負荷との関係によっては、指先に負荷が加わった状態において、第1指部203の指先を矢印702の方向に動かそうとすると、歪リング208が変形しつつ、第1指部203の指先が動く場合も当然ある。また、負荷が小さく、それが歪リング208の変形を招かない程度のものであれば、歪リング208の変形は生じず、ウォームホイール207の回転に応じた第1指部203の動きを得ることができる。この場合、歪リング208の弾性機能は働かない。
さて、図7(B)に示すように、指先に負荷が加わり、歪リング208が変形し始めると、第1指部203は動かず、歪リング208の変形によってウォームホイール207の回転量が吸収される。そして、ウォームホイール207の回転にしたがって、ストッパ用突起219が案内ガイドスリット220内において相対的に移動する。勿論、負荷が軽く、歪リング208の変形を伴う第1指部203の動きが見られる場合も、ウォームホイール207が回転する程には、第1指部203が動かないので、その程度は小さいが、ストッパ用突起219が案内ガイドスリット220内において相対的に移動する。
図7(B)に示す状態から、ウォームホイール207がさらに回転すると、相対的にストッパ用突起219が案内ガイドスリット220内を更に動き、歪リング208の変形量が増大し、それに応じて、その反発力が増大する。この反発力により、第1指部203から物体701に対して、徐々に力が加わるコンプライアンスを伴った動作が実現される。
そして、さらにウォームホイール207が回転すると、図7(C)に示すように、案内ガイドスリット220の端部にストッパ用突起219の下側の段側面が接触し、それ以上歪リング208が変形できなくなる。そして、それ以降は、ウォームホイール207の回転力がストッパ用突起219から案内ガイド220の端部に直接伝わり、それにより第1指部203が連結ピン218を軸とした回転を行い、物体701を矢印702の方向に押すことになる。この際、ウォームホイール207の回転力が第1指部203に直接伝わるので、第1指部203の動きは、ウォームホイール207の回転量に線形に比例したものとなる。
こうして、第1指部203を利用して物体701を動かす際に、物体701に弾性を伴った力が加わり、歪リング208が所定量の変形を行った段階で、ウォームホイール207の駆動力が直接物体701に伝わる動作を実現することができる。つまり、力を加える対象にコンプライアンスを伴った作用を及ぼしつつ、力を加えることができる。
この動作によれば、ストッパ用突起219が、案内ガイドスリット220内に沿って動ける範囲において、ウォーム収納部209内のウォームが回転すると、それに噛み合ったウォームホイール207が回転し、その回転力が突起212を介して、歪リング208に伝わり、さらに突起210を介して、第1指部203に伝わる。そして、負荷がある程度大きい場合、歪リング208が負荷に応じて変形し、それにより歪リング208の弾性を介してウォームホイール207から第1指部203に対して駆動力が伝わる。そして、歪リング208が所定量変形し、ストッパ用突起219の下側の段側面が、案内ガイドスリット220の端部に接触する状態になると、ウォームホイール207の回転がストッパ用突起219を介して、第1指部203に直に伝わり、ウォームホイール207の回転に連動して第1指部203が動くようになる。したがって、第1指部203を利用して何かを掴もうとする場合、対象物に瞬間的に掴もうとする力が加わるのではなく、ある程度ソフトな接触が行われ、最終的に把握力が直に伝わるコンプライアンスを伴った把握動作を実現することができる。このような力の伝わり方は、物体に対してなじみの良い把握状態を実現する場合にも有効となる。
図2に示す構造は、第1指部203に外部から力が加わった際に、その力を柔軟に受け止める機能、つまりコンプライアンスを伴って力を受ける機能もある。以下、図7(A)に示す状態において、第1指部203の先端に物体701が載せられ、指先に負荷が加わった状態を考える。この場合、まず歪リング208が変形してその重みを柔軟に受け止め、歪リング208が所定量の変形を起こした段階で、物体701の重みがウォームホイール207に直接加わる。つまり、ストッパ用突起219が、案内ガイドスリット220内に沿って動ける範囲においては、歪リング208の弾性を介して、第1指部203からウォームホイール207に対して、力の伝達が行われる。この状態では、第1指部203に加わった力は、歪リング208によってその一部または全部が吸収されるので、ウォームホイール207に柔軟性を伴った状態で力が伝達される。
そして、歪リング208がある程度変形し、ストッパ用突起219の下側の段側面が、案内ガイドスリット220の端部に接触すると、第1指部203の動きがウォームホイール207に直接伝わるようになる。こうして、第1指部203に力が加わった場合に、まず弾性的に第1指部203がその力を受け止め、しかる後にその力を直接ウォームホイール207が受け止める機構が実現される。このような仕組みにより、第1指部203が衝撃を受けた際に、それがベース部202に直接伝達されない緩衝機能を得ることができる。
このような緩衝機能は、瞬間的にウォームホイール207に負荷が加わることによるウォームホイール207やウォーム225の歯の破損や変形の防止、第1指部203を構成する構造体へ加わる衝撃の緩和、ベース部202や図示しない腕部構造に加わる衝撃の緩和、さらには物体701へ反作用として伝わる衝撃の緩和に効果的なものとなる。また、歪リング208の変形量の上限を制限することができるので、歪リング208を弾性体として機能する範囲内で変形させることができ、歪リング208の機能不全を防ぐことができる。このことは、関節機構の耐久性や信頼性を高める上で有用となる。
以上が第1指部203の動作の一例であるが、第2指部204、第3指部205も第1指部203と同様なコンプライアンスを伴った可動を行う。このため、ベース部202、第1指部203、第2指部204および第3指部205を利用しての物を掴もうとする動作(つまり手先部分201の把握動作)は、コンプライアンスを伴ったものとなる。また、各指部の動きがコンプライアンスを有しているので、物を掴む際になじみ性が発現し、物をしっかりと掴むことができる。また、指が可動方向への衝撃を受けた際に、その衝撃が吸収される緩衝機能を得ることができる。
また、負荷が加わらない状態で第1指部203を動かした場合、ストッパ用突起219が案内ガイドスリット220に対する相対的な移動を起こさないが、この場合は、ある程度の動作が行われた段階で、ストッパ用突起219の上側の段側面が、図5に示す平板部202aのストッパ部202cまたは202dに接触し、それ以上のベース部202に対する第1指部203の動きが規制される。
このように、本実施形態の構成によれば、複雑なモータ駆動制御等を必要とせず、簡単な機械的な構造によって、力を及ぼす相手(対象物)に対して、柔軟に力を及ぼす(あるいは及ぼされる)ことができる機構をシンプルでコンパクトに実現することができる。このような機構は、人間が操作することを想定して設計された機器や重機の操作、介護や救助作業、人間に代わっての(あるいは人間と共同しての)各種の作業、物を掴んだり引っ張ったりする作業等にとって有効なものとなる。
なお、以上の説明において、ウォーム225(図7参照)を駆動する図示しないサーボモータの制御によるコンプライアンスの実現に関しては、特に言及していないが、ある程度のサーボモータの制御を組み合わせてコンプライアンスを実現してもよい。
また、図7においては、連結ピン218を軸として第1指部203が反時計回りに回転する場合の動作を例に挙げ説明を加えたが、逆に、第1指部203の下方に物体701が存在し、ウォームホイール207が時計回りに回転することで、連結ピン218を軸として第1指部203が時計回り動く場合であっても、同様なコンプライアンスを伴った動作を実現することができる。この場合、負荷が加わった際における歪リングの変形は、図7の場合とは逆の略C字型が開くような変形となる。また、ストッパ用突起219の案内ガイド220内における相対的な移動も図7に示す場合と逆の動きとなる。
また、弾性を備えた材料でストッパ用突起219を構成する、ストッパ用突起219の構造を、弾性を備えた構造とする、案内ガイド220の端部に弾性体を配置する、といった工夫を施すことで、ストッパ用突起219から案内ガイド220端部への力の伝達にコンプライアンスを与えることもできる。
(1−3)実施形態の優位性
上述したような、コンプライアンスを伴った指部の動作や、衝撃を受けた際の緩衝機能を、ベース202内に収めたサーボモータの制御だけで行うことは、CPUの演算速度の制限、消費電力の制限、そしてセンサ系や制御系を収めるスペースの制限等があることから、困難なこととなる。これに対して、図2に示すような歪リング208を用いる構成では、歪リング208が、ウォームホイール207内に収められた構造であるので、通常のウォームホイールを用いた関節構造と機構の専有容積は同じであり、機構の小型化を追求することができる。また、複雑な制御系を必要とせず、さらに機械的に受動的な動作をするので、電気制御のような応答遅延やチャタリングの問題がない、という優位性を得ることができる。また、コンプライアンス機構の要である歪リング208がウォームホイール207によって保護される構造となるので、高い信頼性および耐久性を得ることができる。
なお、電気的な制御と組み合わせた場合であっても、コンプライアンスを伴った動作がサーボモータの制御に100%依存しないので、制御を複雑なものとする必要がなく、あるいは制御の負担が低減され、制御装置や制御ソフトウェアを簡略化することができる。そのために、100%電子制御の場合に比較して、低消費電力化することができる。
よく知られているように、微妙なコンプライアンスを有した動きを、フィードバック技術を用いたサーボモータの制御のみによって実現することは、その動きが緩慢であっても大きな消費電力を要する。これに対して、本実施形態の歪リング(弾性部材)を用いた機械的な方法でコンプライアンスを実現(あるいは負担)する方法は、電子制御の負担を軽減することができ、制御系が消費する電力を低減することができる。このことは、実用に際してバッテリーで稼働することが必須である人型ロボット等において非常に有利となる。
(2) 第2の実施形態
図2に示す第1の実施形態において、歪リング208の外周に歪ゲージを配置し、歪リングの変形の程度を定量的に計測できるようにしてもよい。この場合、歪リング208の変形の程度から、第1指部203に加わっている負荷の値を定量的に知ることができる。この歪ゲージの出力は、ウォーム225(図4または図7参照)を駆動するサーボモータの制御、さらにはその他関節部分を駆動するサーボモータの制御に利用することができる。歪ゲージとしては、歪みや変形によって金属や半導体の抵抗値が変化するタイプのものを利用することができる。
(3) 第3の実施形態
以下、図2に示す構成において、歪リングの好ましくない変形を抑え、コンプライアンス特性を得るのに適した変形を生じさせることができるように工夫した歪リングの例を説明する。図8は、本実施形態におけるロボットの手先部分の概要を示す斜視図であり、図9は、本実施形態における歪リングを示す斜視図(A)、側面図(B)、側面図(C)、側面図(D)、上面図(E)、および下面図(F)である。図9において、側面図(B)は斜視図(A)をZ軸方向から見た状態を示し、側面図(C)は斜視図(A)をY軸方向から見た状態を示し、側面図(D)は斜視図(A)を−Y軸方向から見た状態を示し、上面図(E)は斜視図(A)をX軸方向から見た状態を示し、下面図(F)は斜視図(A)を−X軸方向から見た状態を示す。なお、図8において、図2と同じ符号が付与してある部分は、図2に関して説明した部分と同じである。
図8に示す構成は、図2に示す構成において、歪リング部分とそれを収納するウォームホイールの構造、さらに歪リングの第1指部への係合構造に改良を加えたものである。図9に示すように、歪リング800は、その上面に上側拘束板902を備えている。この上側拘束板902は、上方から見て略C字型の歪リング800の片面の半分を覆い、歪リング800の2つの先端部の一方の部分903において、歪リング本体901と一体となり、他の部分では、歪リング本体901とスリット(割)905により分離されている。このため、上側拘束板902は、符号903の部分を支点として、他端がフリーな状態で歪リング本体901に対して固定されている。また、この符号903の部分に、歪リング800を第1指部203に係合させるための貫通構造の係合孔804が形成され、さらに上側拘束板902の上面には、上側拘束板902の変形を防止するための変形防止用突起906が固定配置されている。
上記の面と反対側の歪リング800の下面は、上側拘束板902と同じ構造の下側拘束板907が配置されている。下側拘束板907は、上側拘束板902と重ならない位置関係に配置されている。この構造によれば、図9(A)および(D)に示されるように、歪リング800の上面と下面において、水平方向(図中Z軸延在方向)に上側拘束板902と下側拘束板907とがずれて互い違いに配置された構造となる。
図8に示すように、歪リング800は、ウォームホイール207の内部に収められた状態において、ウォームホイール207の底面に形成された係合孔806および807に係合する。すなわち、係合孔803と係合孔806との位置を合わせた状態において、係合ピン801bを両孔に貫通させ、また図8では見えていない変形防止用突起908が係合孔807に嵌め込まれる。また、歪リング800は、ウォームホイール207の内部に収められた状態において、第1指部203の平板部(フランジ部)203aに形成された係合孔802および803に係合する。すなわち、係合孔804と係合孔802との位置を合わせた状態において、係合ピン801aを係合孔802と係合孔804に貫通させ、また変形防止用突起906を係合孔803に嵌め込む。この構造によれば、上側拘束板902は、第1指部203の平板部(フランジ部)203aに2箇所で拘束され、その変形が規制される。また、下側拘束板907は、ウォームホイール207の底面部分に2箇所で拘束され、その変形が規制される。
以上述べたように、図8および図9に示す構成において、リング形状の弾性部材(符号800)は、その一方の面上に配置された第1の平板部材(符号902)と、その他方の面上に配置された第2の平板部材(符号907)とを備え、第1の平板部材(符号902)は、ギアリングであるウォームホイール207に拘束され、第2の平板部材(符号907)は、回動部材である第1指部203に拘束され、第1および第2の平板部材(符号902および907)は、上下に互い違いに配置されて互いに上下に重ならない部分を有し、第1および第2の平板部材(符号902および907)は、それぞれリング形状の弾性部材(符号800)の一端および他端に固定され、それ以外の部分で弾性部材(符号800)から浮いている構造を備えている。
ベース部202から歪リング800を介して、第1指部203に力が加わる仕組み、さらにベース部202に対する第1指部203の動きは、第1の実施形態の場合と同じである。本実施形態が第1の実施形態の場合と異なるのは、第1指部203の動きに対応して発生する歪リング800の変形において、効果的な力の伝達に好ましくない影響を与える歪リングの変形(歪リングの捻れるような変形)が抑えられる点にある。
例えば、ベース部202内の図示しないモータを回転させ、ウォームホイール207に回転力を伝達させて、負荷の加わった第1指部203を動かそうとする場合において、第1の実施形態の場合と同様に、最初の段階では第1指部203は動かずに歪リング800が弾性変形するとする。この際、図9のY−Z平面内における変形のみが生じるのが理想であるが、実際には、図9のX軸方向における変形を生じさせようとする力も働く。このX軸方向における変形を生じさせようとする力は、歪リング本体901を捻り変形させる要因となる。この捻り変形は、歪リングの弾性変形の範囲を狭め、また歪ゲージによる正確な歪み量の計測を阻害する要因となる。しかしながら、このX軸方向の変形を完全に押さえ込もうとすると、本来必要であるY−Z平面内における変形も抑えられてしまう不都合が発生する。
しかしながら、本実施形態においては、歪リング本体901の上面の半分は、変形が規制された上側拘束板902によって面で押さえられ、またこの上面の半分と上下に重ならない下面の半分は、やはり変形が規制された下側拘束板907によって面で押さえられるので、上述した歪リング本体901の捻り変形が抑制される。また、上下それぞれの面の半分は、拘束板によって押さえられていないので、上述したX軸方向の変形が多少許容される。さらに、各拘束板は、歪リング本体901の端部に固定され、それ以外の部分では歪リング本体901からスリット(例えば符号905)によって分離され浮いているので、歪リング本体901は、拘束板によって面で押さえられつつ、そのY−Z平面内における変形がある程度許容される。このため、歪リング本体901のX軸方向の変形を押さえつつ、Y−Z平面内における変形が生じさせることができ、歪リング800の理想的な変形を追求することができる。
(4)第4の実施形態
弾性部材の他の例を説明する。ここでは、弾性部材としてトーションバー(捻り棒)を採用する例を説明する。図10は、弾性部材を収めたウォームホイール部分の他の構成を示す斜視図(A)および断面図(B)である。
図10に示す構造は、図2に示すウォームホイール207の内部構造を改造し、トーションバーによって、ウォームホイールから第1指部203(図2参照)に力が伝達されるようにしたものである。すなわち、図10に示す構成においては、ウォームホイール207の内側が円柱状凹型にくりぬかれ、その内面255に円柱部材251が遊嵌されている。円柱部材251の底部中心には、トーションバー253の上端が固定され、トーションバー253の下端は、ウォームホイール207の底面上側の中心に固定されている。つまり、円柱部材251は、ウォームホイール207内に対して、トーションバー253を介して固定されている。
円柱部材251の上面252の縁近くには、突起257が固定配置されている。この突起257は、図2における突起210と同じ役割を果たす部材であり、組み立て時に図2に示す支持孔211に遊嵌される。ウォームホイール207の内側には、張り出し部207bが設けられ、その上面と円柱部材251の下面との間に歪みゲージ258が掛け渡されている。つまり、歪みゲージ258の一端が張り出し部207bの上面に固定され、他端が円柱部材251の下面に固定されている。円柱部材207の下面には嵌め込み軸254が一体化され、組み立て時において、この嵌め込み軸が、図2の平板部(フランジ部)202bに形成された関節軸の軸孔217に遊嵌される。なお、ウォームホイール207と平板部202bとの間にスペーサ222を挟む点は、第1の実施形態の場合と同じである。
また、図2の場合と同様に、ウォームホイール207の外周207aには、ウォームと噛み合う歯(ギアの歯)が形成され、またウォームホイール207の縁部分には、第1指部203の案内ガイド用スリット(長穴)220に遊嵌するストッパ用突起219を備えている。
図2に示す構造において、図10に示すウォームホイール207を採用しても、第1の実施形態の場合と同様のコンプライアンス機能を得ることができる。すなわち、ウォームホイール207にウォームから回転力が伝達されると、それはトーションバー253を介して、円柱部材251に伝わり、突起257を回転させようとする。組み立て状態において、突起257は、支持孔211に遊嵌しているので、この回転力が第1指部203を回転させようとする力となる。ここで、第1指部203に負荷が加わっていると、その負荷の大きさに応じて、トーションバー253が弾性的に捻れ、捻りバネとして機能する。この弾性によってコンプライアンスが発生する。
そして負荷を受けた状態で、なおもウォームホイール207が回転し、トーションバー253の捻れがある程度の大きさになると、ストッパ用突起219の下側の段側面が第1指部203の案内ガイド用スリット(長穴)220の端部に達し、それ以上はトーションバー253の捻れが進まなくなる。そして、その後は、ストッパ用突起219から、第1指部203に力が伝わることで、ウォームホイール207の回転力が直接第1指部203に伝達されるようになる。
また、トーションバー253の捻れは、ウォームホイール207に対する円柱部材251の相対的な回転に対応するので、歪みゲージ258の出力から、トーションバー253の捻れ具合を検出することができる。そして、この歪みゲージ258の出力から、負荷の程度を検出することができる。
本実施形態においては、弾性部材としてトーションバーを採用したが、その代わりに捻りコイルバネや渦巻バネを採用することもできる。また、トーションバー253の捻れを直接検出する構成としてもよい。
(5) 第5の実施形態
図2に示す案内ガイド用スリット220の形状は、ストッパ用突起219をガイドする形状に限定されるものではない。例えば、案内ガイド用スリット220の形状をもっと幅広な開口形状としてもよい。この場合もこの開口形状の端部でストッパ用突起が係止され、ウォームホイール207に対する第1指部203の可動範囲が規制される機能を得ることができる。なお、動作の内容は、第1の実施形態で説明した場合と同じである。
(6)第6の実施形態
以下、本発明を利用した移動ロボットの一例として2足歩行型の人型ロボットの例を説明する。本実施形態において説明する移動ロボットは、自律制御型の2足歩行可能な人型ロボットである。この移動ロボットは、工事現場等における作業や介護作業といった人間がこれまで行ってきた作業を行うことを目的としている移動ロボットの一例である。
図11は、本実施形態の移動ロボットの全体の概略を示す正面図であり、図12は、左側面図であり、図13は、背面図である。図11〜図13に示す移動ロボット150は、上半身胴体部151と下半身胴体部152が連結された構造を備えている。上半身胴体部151は人体の胸郭部分に相当し、下半身胴体部152は腰部分に相当する。上半身胴体部151と下半身胴体部152とは、腰関節部153によって連結され、上半身胴体部151は、下半身胴体部152に対して捻り回転(Yaw軸回転)および前後回転(Pitch軸回転)が行えるようになっている。なお、Yaw軸回転というのは、人体でいうと、直立した状態における鉛直軸回りの回転のことをいう。またPitch軸回転というのは、人体でいうと、人体を左右水平方向に貫く軸回りの回転のことをいう。ちなみに、人体の体を前後に貫く軸回りの回転のことをロール軸回転という。
下半身胴体部152には、右股関節154を介して右脚部155が、左股関節156を介して左脚部157が連結されている。また、上半身胴体部151には、右肩関節158を介して右腕部159が連結され、左肩関節160を介して左腕部161が連結され、首162を介して頭部163が連結されている。また、下半身胴体部152の内部には、動力源となるバッテリーが格納されている。
そして、右腕部159の先端には、右腕の手先部分164を備え、左腕部161の先端には、左腕の手先部分201を備えている。この左腕の手先部分201の詳細は、図2に示した構造を有している。また、右腕の手先部分164も左右の対称性が逆なだけで左腕の手先部分201と同様な構造を備えている。
人型ロボット150は、人間に代わって各種の作業を行うことを目的としているので、その手先がコンプライアンスを伴った動作を行えることは好ましい。例えば、物を掴んだり、手先にロープ等を引っかけて物を引き上げたりする際においても、コンプライアンスを伴った力の加え加減を実現できる。このコンプライアンスを伴った手先の動作は、人間が扱うことを想定して設計された各種のレバー操作等においても有効なものとなる。例えば、災害現場等での重機操作等において、円滑な重機の操作を行う上で有効に機能する。このように、本発明をロボットの手先に適用することで、人間に近い柔軟性を有した動きをする手先を得ることができる。また本発明を利用した場合、この柔軟性の発現が、複雑な制御技術によるものでないという点も、低消費電力、低コスト、高信頼性を追求する上で優位となる。なお、ここでは、ロボットの手先部の関節に、本発明を適用した例を説明したが、他の関節部分に本発明の構成を適用することもできる。
101…関節軸、102…回動部材、103…ウォームホイール(回転駆動体)、104…ウォーム、105…バネ(弾性部材)、106…凸部、107…開口、108…物体、109…ウォームホイールの回転方向、201…手先部分、202…ベース部(関節基部)、202a…平板部(フランジ部)、202b…平板部(フランジ部)、203…第1指部、204…第2指部、205…第3指部、206…第1指部関節、207…ウォームホイール、207a…ウォームホイールの外周、207b…ウォームホイール内側の張り出し部、208…歪リング、209…ウォーム収納部、210…突起、211…支持孔、212…突起、213…内側円筒部材、215…軸孔、216…軸孔、217…軸孔、218…連結ピン、219…ストッパ用突起、220…案内ガイド用スリット(長穴)、222…スペーサ、223…軸(ウォーム軸)、224…支持孔、225…ウォーム、231…モータ収納部、232…モータ、233…ウォーム収納部、234…ウォームホイール、235…関節軸、236…関節軸、238…案内ガイドスリット、239…モータ、251…円柱部材、252…円柱部材の上面、253…トーションバー、254…嵌め込み軸、255…ウォームホイールの内面、257…突起、258…歪みゲージ、701…物体(指先に負荷を与える物体)、800…歪リング、801a…係合ピン、801b…係合ピン、802…係合孔、803…係合孔、804…係合孔、806…係合孔、807…係合孔、901…歪リング本体、902…上側拘束板、903…歪リング先端部の一方の部分、906…変形防止用突起、907…下側拘束板、908…変形防止用突起。