JP4535266B2 - Dnaコンピュータ技術による核酸の定量検出方法 - Google Patents
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Description
DNAコンピュータは、生体高分子からなるコンピュータなので生体由来のサンプルと親和性がある。陶山らは数学的問題だけでなく、遺伝子発現解析のようなゲノム情報解析を行う一般的な計算パラダイムを提案し、数学的問題とゲノム情報解析を同一のハードウェアで解くことができるDNAコンピュータの開発に成功した。またShapiroらは遺伝子発現解析と治療薬の放出を同時に行うことができる自律型DNAコンピュータを発表した。
1標的核酸および該標的核酸の一部と同じ配列を有し、かつ濃度が既知の対照核酸を、それぞれDCN配列を有する核酸にエンコードする工程と、
2)前記標的核酸および対照核酸からエンコードされたDCN配列を有する核酸を、それぞれ増幅する工程と、
3)前記増幅されたDCN配列を有する核酸を、それぞれ定量的に検出する工程と、
4)前記1)の工程の検出値を式(前記標的核酸の検出値)/(前記対照核酸の検出値)によって補正値を得る工程と;
5)前記補正値を使用して定量値を得る工程と、
を含む方法を提供する。
1)標的核酸および該標的核酸の一部と同じ配列を有し、かつ濃度が既知の対照核酸をDCN配列を有する核酸にエンコードする工程と、
2)前記標的核酸および対照核酸からエンコードされたDCN配列を有する核酸を、それぞれ増幅する工程と、
3)前記増幅されたDCN配列を有する核酸を混合し、該DCN配列を有する核酸に相補的な配列を有するプローブに対して競合的にハイブリダイゼーションさせて、それぞれのハイブリダイズした量を定量的に検出する工程と、
4)前記3)の工程の検出値を式(前記標的核酸の検出値)/(前記対照核酸の検出値)によって補正値を得る工程と;
5)前記補正値を使用して定量値を得る工程と、
を含む方法を提供する。
1)前記標的核酸中の部分配列に相補的な上流プローブ配列を有する標識されたアンカー核酸分子と、前記標的核酸の部分配列に相補的な配列を有する下流プローブ配列およびDCN配列を有するアダプター核酸分子を前記試料と混合して、前記標的核酸または対照核酸に前記下流プローブ部分および前記上流プローブ部分をハイブリダイズさせる工程と、
2)前記標的核酸または対照核酸にハイブリダイズした下流プローブ部分および上流プローブ部分をそれぞれ連結させて、アダプター核酸分子およびアンカー核酸分子の連結分子を生成させる工程と、
3)前記連結分子を回収して、DCN配列を有する核酸を得る工程。
DNAコンピュータ技術による標的核酸の定量的な検出は、ステップ1からステップ4の4つのステップからなる(図1)。
・エンコーディング特性の結果に基づいて、より定量性の高い遺伝子発現解析を可能とするエンコーディング方法を実装する。
・本研究で実装した方法は定量測定を可能とすることを、標的遺伝子特異的配列を持つ濃度既知の合成DNAの混合物を使って示す。
・本研究で実装した方法は定量測定を可能とすることを、酵母のcDNAを使って示す。また、内部標準を利用し絶対定量が可能であることを示す。
使用した試薬などは各実験の方法で説明する。
DNAコンピュータによる遺伝子発現解析はステップ1からステップ4の4つのステップからなる。各ステップについてその方法を説明する。使用した試薬などは各実験の方法で説明する。
本研究では、平成14年度に三島、早川らによって開発された標的核酸同定配列群ならびに一様な増幅が可能なDCN配列群を利用した。このDCN配列群の一部をDNAコンピュータDCN配列(SD、D1、D2、ED)とした。アダプター核酸分子は標的核酸同定配列(30塩基長)の下流15塩基長およびDNAコンピュータDCN配列を4個タンデムに組み合わせたものである(図2)。標的核酸同定配列(30塩基長)の上流15塩基長は標的核酸同定配列に対応したDCN配列を回収するためのアンカーとして使われる。
検体用
標的遺伝子の量に依存したDCN配列を回収するために以下の操作を行った。アダプター核酸分子とビオチン修飾されたアンカー核酸分子は標的遺伝子特異的配列が鋳型となりライゲーション反応により結合する。次に、ライゲーション反応の鋳型となったcDNAを標的核酸同定配列から離すために、30塩基長の標的核酸同定配列を持つ合成DNAを過剰に加え、図3のように鎖交換を行う。ストレプトアビジンで被覆されたビーズを加え、アンカーとビーズを結合させ、磁石に吸着させる。洗浄を行うことで、DCN配列の内、ライゲーション反応でアンカーに結合したもののみを回収する。
対照用の操作は検体用の操作とほぼ同じだが、対照用で用いる標的遺伝子特異的配列をもつ濃度一定の合成DNAは30塩基長という短い配列なので、アンカーとビーズの結合に対する立体障害とはならない。したがって、対照用では検体用で行った鎖交換は行わない。
回収された一本鎖DCN配列をPCR増幅する。検体用、対照用両方とも同一操作を行う。エンコーディングにより得られたアダプター核酸分子をビオチン修飾したSD配列とEDに相補な配列(rED)をプライマーとしてPCR増幅する。PCR産物はSD配列にビオチンが修飾されていることを利用し、ストレプトアビジン被覆ビーズで回収することができる。アルカリ変性による洗浄によりDCN配列の相補鎖は除去される。以上の操作により増幅された一本鎖DCN配列のみを得ることができる。
PCR増幅されたDCN配列を蛍光標識された相補鎖に変換する。検体用では増幅された一本鎖DCN配列(D2=1)に相補な蛍光標識(Cy5)された配列(rD2=1)とDCN配列(D1=1〜100)に相補な配列(rD1=1〜100)を混ぜライゲーション反応を行う。それぞれのDCN配列の量に応じて蛍光標識されたrD1rD2配列が生じる。また、対照用ではCy3に蛍光標識された配列を使用する。ライゲーション産物を95℃のインキュベーションで熱変性させ、rD1rD2配列を回収する。
変換された配列をDNAキャピラリアレイで検出する。DCN配列(D1=1〜100)がDNAキャピラリアレイの基盤上に固定されている。ステップ3で作成したDCN配列に相補な蛍光標識された配列rD1rD2の両方(検体用、対照用)を同一のチューブに混ぜハイブリダイゼーションをする。DNAキャピラリアレイの洗浄後、蛍光強度の検出を行う。
標的核酸同定配列・アダプター核酸分子
PCR増幅する場合に使用するプライマーが標的核酸同定配列と干渉しないことを確認した。GenBankから得られた酵母(S. cerevisiae)の全ORF配列に対して上記方法により設計した配列を使った。図8のプライマーサイト付アンカー用プライマー(r5)及びアダプター核酸分子用プライマー(rD1)は標的核酸同定配列とは別に設計されたものであるが、定量的PCRの測定に妨げとはならないことを標的核酸同定配列およびその相補鎖それぞれ100種類に対してSmith-Watermanアルゴリズム法で検定した(図20)。
DNAコンピュータ技術を利用した遺伝子発現解析法ステップ1におけるエンコーディング量の測定実験には図8のようにプライマーサイト付アンカー、アダプター核酸分子、標的遺伝子特異的配列を用いた。インキュベーションにはMJ ResearchのThermal Cyclerを用いた。InvitrogenあるいはQiagen社でDNAの化学合成時にアダプター核酸分子の標的核酸同定配列側5'末端にリン酸修飾を行った。プライマーサイト付アンカー100種類の濃度がそれぞれ200 pM、アダプター核酸分子100種類の濃度がそれぞれ200 pM、そして、標的遺伝子特異的配列の合成DNA(Target)100種類の濃度が4 pMの状態でライゲーション反応を行った。同様に、Target 100種類の濃度が80 pMの状態でライゲーションを行った。それぞれ60℃で3分間インキュベートし、一秒当たり0.1℃の速度で45℃に下げ、アニーリングを行った。その後、20 U/50μlの割合でTaq ligase(New England Biolab)を加え、1× ligation bufferで45℃10時間反応させ、4℃にて反応を停止させた。
エンコーディング量の測定は図8のような方法で、ライゲーション反応によりDNAが連結されたときだけPCR増幅がなされるような仕組みを利用した。プライマーサイト付アンカー用プライマー(r5)及びアダプター核酸分子用プライマー(rD1)をそれぞれ0.2μMとした。KOD-plus(TOYOBO)に添付されている試薬を使用し、dNTPsを0.2 mM、MgSO4を1 mM、1× PCR buffer、1× SYBER GREEN Iとし、KOD polymerase 1 U、25μlの反応溶液で定量的PCRを行った。94℃2分インキュベート後、94℃15秒、68℃6秒の2工程法で40サイクルとした。標準曲線として、あらかじめPCR増幅したサンプルをAgilent Bio Analyzer 2100で濃度定量を行い、サンプルに対応した希釈系列(80 fM、8 fM、0.8 fM、0.08 fM)を用意した。また、全希釈系列に共通なプライマー(r5配列とSDに相補な配列)を用いてサンプルに対応した希釈系列の誤差の補正も行った。MJ Research社のDNA Engine Opticon2を使用しSYBER GREEN Iの蛍光強度を測定し、機器付属のソフトウエアからC(t)値(蛍光強度0.1を閾値としたPCRサイクル)を得た。クロスポイント法でエンコーディング量すなわちライゲーション反応で結合した量の測定をした。同一サンプルを2回測定し、その平均値をサンプルの測定値とした。独立サンプルを3回測定した。ネガティブコントロールには、Taq ligase無しでライゲーション反応をさせたサンプルを使用した。
標的核酸同定配列・アダプター核酸分子
PCR増幅する場合に使用するプライマーが標的核酸同定配列と干渉しないことを確認した場合と同じアダプター核酸分子を使用した。ステップ2の増幅(図5)で使用するSD配列とEDに相補な配列(rED配列)は標的核酸同定配列とは別に設計されたものであるが、定量的PCRの測定に妨げとはならないことを標的核酸同定配列100種類に対してSmith-Watermanアルゴリズム法でしらべた。最大スコア値はSDとrEDとも11であった。
cDNAは、長い塩基配列でビーズの結合効率に影響が出るので鎖交換を行うが、標的遺伝子特異的配列を持つ合成DNAは30塩基長と短い配列であり、全て長さが揃っているので、鎖交換を行わない。
Invitrogen、QiagenもしくはFASMAC社により合成されたビオチン修飾されたアンカー核酸分子100種類をそれぞれ6 fmol、アダプター核酸分子100種類をそれぞれ6 fmol、標的遺伝子特異配列を持つ合成DNA(target、30塩基)100種類をそれぞれ一定濃度の6 amolとして測定した。反応溶液は18μlで60℃3分のインキュベーション後、1秒あたり0.1℃の速さで45℃にした。Taq ligaseを12 U加え、30μlの1× Taq ligation bufffer中で45℃10時間反応させた。また、同様のプロトコルで、100種類の遺伝子の内、遺伝子の組み合わせで変化させたtarget DNAの濃度を測定した。6 amol (50種類)、60 amol (20種類)、600 amol (6種類)の昇順と降順で測定した。
100μgのビーズ(Dynabeads M-280)をライゲーション反応産物に加え、100μlの1× B&W buffer(1 M NaCl、 pH 8.0 TE buffer)溶液中で30分反応させた。途中、10分に1回混合操作を行った。その後、100μlの1× B&W bufferで3回洗浄を行い、40μlのSolutionA(0.1 M NaOH、 0.05 M NaCl)で2回洗浄を行い、100μlの1× B&W bufferで2回洗浄を行った。洗浄操作は全て室温で行った。
ライゲーション反応
ビオチン修飾されたアンカーとアダプター核酸分子をそれぞれ6 fmol、および標的遺伝子特異的配列をもつ合成DNA(Target(30塩基長))(それぞれ6 amol)を反応溶液18μl中で60℃3分のインキュベーション後、1秒あたり0.1℃の速さで45℃にした。Taq ligaseを12 U加え、30μlの1× Taq ligation bufffer中で45℃10時間反応させた。
検体用と同じプロトコルを実施した。
検体用、対照用両方とも同じ操作を行った。
PCR反応はビーズ処理されたサンプルの半量を用いた。プライマーとしてビオチン修飾したSD配列を100 pmol、EDの相補鎖配列を100 pmol用いた。さらに、dNTPsが0.2 mM、MgSO4が1 mM、KOD polymeraseが1 Uとなるように調整された100 μlの1× PCR buffer中でPCRを行った。反応は94℃2分のインキュベーション後、94℃15秒、64℃30秒、72℃30秒のサイクルを20回行い、72℃で30秒インキュベーション後、10℃にした。
PCR産物全量に500μgのストレプトアビジンで被覆されたビーズを加え、140μlの1× B&W buffer中で15分反応させ、5分に1回混ぜる操作をした。その後、140μlの1x B&W bufferで洗浄を行い、140μlのSolutionA(0.1 M NaOH、 0.05 M NaCl)でアルカリ変性による洗浄を行い、140μlのNAD+が含まれていない1× ligation buffer(NAD+(-)ligation buffer)で2回洗浄を行った。洗浄操作は全て室温で行った。
ライゲーション反応
検体用には、ビーズ処理したサンプル全量を、増幅されたDCN配列(D2=1)に相補な蛍光標識(Cy5)された配列(rD2=1)が10 pmol、DCN配列(D1=1〜100)に相補な配列(rD1=1〜100)がそれぞれ2 pmol、Taq ligase 40 Uが入った100μlの溶液中で50℃10分反応させた。途中、3分に一回混合操作を行った。対照用には、Cy3の蛍光標識されたrD2=1の配列を10 pmol使い、他は検体用と同一のプロトコルで反応させた。
ライゲーション反応したサンプル全量に対して、140μlの1× NAD+(-)ligation bufferで2回洗浄を行い、50μlの滅菌水に溶かした。95℃で1分インキュベーションの後、上清を回収した。
ハイブリダイゼーション反応
ビーズ処理して回収した上清を検体用から24μl、対照用から12μlそれぞれ取り出して混合し、50μlの溶液(5× SSC、0.2% SDS)に調整した。これをDNAキャピラリアレイに対して50℃30分のハイブリダイゼーションをさせた。ハイブリダイゼーション後、50℃にした0.1% SDS、0.1× SSCを含んだ溶液で15分洗浄した後、室温の滅菌水で2分間の洗浄を2回行った。その後、GenePix 4000Aで検出した。蛍光強度は付属のソフトウエアを使って測定した。
cDNAサンプル
東京理科大学村上研究室(ゲノム創薬研究センター・構造ゲノム科学)の郡司渉氏より提供していただいたガラクトース培地培養の酵母(Saccharomyces cerevisiae)mRNAからcDNAを作成した。SuperScript(商標) III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitorgen)を使い製品添付プロとコールに従い、dTプライマー5μM、dNTPs混合液1 mMの反応溶液10μl中で65℃5分インキュベーションした後、氷上インキュベーションを行った。その後、全量を5 mMのMgCl2、10 mMのDTT、RNaseOUT 40 U、SuperScript III RT 200 Uの反応溶液(20μl)中で50℃50分インキュベーションした。85℃で5分インキュベーションすることにより反応停止操作を行った後、氷温とした。2 UのE.coli RNase Hで37℃20分間インキュベーションを行い、得られたcDNAを-20℃で使用するまで保存した。
発現が認められなかった遺伝子の特異的配列を内部標準として用いた。標的遺伝子特異的配列の合成DNAはそれぞれの入力量(100 amol、10 amol、1 amol)で異なる3つの配列(合計9配列)を使った。
GeneChipによる酵母の発現量測定データは酵母mRNAのサンプルと同様、東京理科大学村上研究室(ゲノム創薬研究センター・構造ゲノム科学)郡司渉氏より提供していただいた。DNAコンピュータ技術を利用した定量的遺伝子発現解析法で使用した酵母から得られたTotal RNAを使い、GeneChip標準のプロトコルに従って実験が行われた。
DNAコンピュータ技術を利用した定量的遺伝子発現解析法で使用したcDNAと同じサンプルを用いた。平成14年度に三島らによって開発されたプライマーを用いた。これはGenBankから得られた酵母(S。 cerevisiae)の全ORF配列に対して述べたのと同じ方法で設計されたものである。KOD-plus(TOYOBO)添付の標準プロトコルに従った。標準曲線には、あらかじめPCR増幅したサンプルをAgilent Bio Analyzer 2100で濃度定量を行い、サンプルに対応した希釈系列を用いた。MJ Research社のDNA Engine Opticon2を使用しSYBER GREEN Iの蛍光強度を測定し、機器付属のソフトウエアを使ってcDNAの量を測定した。
ライゲーション反応
Invitrogen、QiagenもしくはFASMAC社によりカスタムDNA合成されたアダプター核酸分子とビオチン修飾されたアンカーをそれぞれ6 fmol使用した。これらとTotal RNA 1μgから作成されたcDNAを、30μlの1× Taq ligation bufffer中で60℃3分間インキュベーションした。1秒あたり0.1℃の速さで45℃にし、Taq ligaseを12 U加え、45℃10時間反応させた。
標的核酸同定配列と同じ30塩基長の配列を100種類混合させた合成DNAをそれぞれ100 fmol加え、60℃で3分インキュベーションした後、1秒あたり0.1℃の速さで20℃にした。
合成オリゴDNAを入力分子とした定量的遺伝子発現解析方法で行ったのと同じプロトコルを実施した。
合成オリゴDNAを入力分子とした定量的遺伝子発現解析方法で行ったのと同じプロトコルを実施した。
合成オリゴDNAを入力分子とした定量的遺伝子発現解析方法で行ったのと同じプロトコルを実施した。
合成オリゴDNAを入力分子とした定量的遺伝子発現解析方法で行ったのと同じプロトコルを実施した。
ハイブリダイゼーション反応
回収した上清を検体用、対照用、両方とも18μlずつ含んだ50μlの溶液(5× SSC、0.2% SDS)に調整した。これを用いてDNAキャピラリアレイに50℃30分のハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後、50℃にした0.1% SDS、0.1× SSCを含んだ溶液で15分洗浄した後、室温の滅菌水で2分間の洗浄を2回行った。その後、GenePix 4000Aで検出した。蛍光強度は付属のソフトウエア(GenePix pro 5.0)を使って測定した。
結果
DNAコンピュータ技術に基づいた遺伝子発現解析では、標的核酸同定配列の融解温度が揃えてあるので、同じ濃度のTargetに対しエンコーディング量はその同定配列によらず一定であると考えられていた。しかし、図9のように、個々の標的核酸同定配列毎のエンコーディング量は異なる結果となった。一方、図10のようにエンコーディング量は、Target濃度に比例し、その係数はほぼ一定であった。つまり、標的核酸同定配列に依存せずにTargetの量に比例してエンコードはなされることが分かった。
標的核酸同定配列毎にエンコーディング効率が異なる原因として、プライマーサイト付きアンカー核酸分子とアダプター核酸分子のライゲーション部位の塩基依存性やスタッキングの自由エネルギーとの関係に注目し、調べたが明確な相関は見られなかった。また、同様の目的で
プライマーサイト付きアンカーの二次構造の影響に注目し、二次構造予測を行ったが、エンコーディング効率との明確な相関を得ることが出来なかった。
結果
前章のエンコーディング特性の実験よりステップ1のエンコーディングに関わる標的核酸同定配列毎の反応効率の違いを補正する方法が得られた。エンコードされた対照を用いることの有効性を確かめるために、標的遺伝子特異的配列を持つ濃度既知の合成DNAを用いた検証実験を行った。図12はステップ1(エンコーディング)を行っていない対照を使った従来法の結果である。図13はエンコーディングを考慮した対照を使った結果である。結果から明らかなように、エンコーディングを経た対照を使うことにより、標的核酸同定配列に依存しない結果が得られることが分かった。
結果、標的核酸同定配列によらず、遺伝子特異的配列を持つ合成DNAの入力量に応じて測定値が高くなっている結果が得られた。本研究以前の定量を目指したDNAコンピュータ技術を利用した遺伝子発現解析法では、同一遺伝子での発現量の比較は可能であった。しかし、標的核酸同定配列毎のライゲーション反応の違いなどの要因で絶対定量のための遺伝子に共通した内部標準を設定することが困難であったため、遺伝子毎の絶対量の比較をすることができなかった。しかし、本研究により遺伝子の種類によらず合成DNAの入力量を反映する結果を得たことから、cDNAなどの実際の検体に対して全遺伝子に共通した内部標準を構築でき、この内部標準を基準として全ての遺伝子の発現量を絶対定量できると考えられる。
結果
合成DNAで可能であった定量が、実際の検体であるcDNAにも適用できるかを調べるため、同一の酵母から得られたcDNAを定量的PCR、GeneChip、DNAコンピュータ技術を利用した方法でそれぞれ定量した。定量的PCR、GeneChip、DNAコンピュータ技術を利用した方法で定量した。定量的PCRとGeneChipの定量の相関(図16)と比較して、定量的PCRとDNAコンピュータ技術を利用した方法での定量の相関(図17)やGeneChipとDNAコンピュータ技術を利用した方法での定量の相関(図18)はいずれも同等の相関を持っていた。以上の結果より、DNAコンピュータ技術を利用した定量的遺伝子発現解析法は定量的PCRやGeneChipと同等の精度を持った定量方法であることが分かった。
cDNAの自己二次構造
遺伝子発現解析の検体となるcDNAは遺伝子特異的配列だけの合成DNAよりはるかに長い。したがって、標的核酸同定配列は安定な二次構造を形成し難いように設計されていても、長いcDNAが形成する構造がアダプター核酸分子とcDNAのハイブリダイゼーションを阻害し、エンコードのライゲーション反応およびビーズとの結合に影響を及ぼすことが危惧された。しかし、DNAコンピュータ技術を利用した定量的遺伝子発現解析結果は定量的PCRの結果と相関していたことから、実験を行ったステップ1のエンコーディングのプロトコルで、cDNAの二次構造の影響はほぼ無視できると考えられる。
定量的PCR法では個々のサンプルに対応した希釈系列を作成し標準曲線を作らなければならない。そのため、マイクロアレイ規模の量の絶対定量を行うときには非常に労力の必要な作業となる。また、個々に希釈系列を作るため、それぞれの希釈誤差が定量性に影響する。このため大規模の定量的PCRを行いそれぞれの遺伝子を比較するためには、希釈系列の補正も行う必要があるといえる。一方、DNAコンピュータ技術を利用した定量的遺伝子発現解析法ではどの遺伝子に対しても同じ内部標準を適用できるため、定量的PCRの様な補正が必要なくなり、より簡便になると同時に正確性も確保されると考えられる。
標的核酸同定配列毎に生じるエンコーディング量のバラツキを補正することに成功し、マイクロアレイ規模の絶対定量がDNAコンピュータ技術を利用した遺伝子発現解析法により可能となった。
Claims (7)
- 試料中の複数種類の標的核酸を定量する方法であって、
1)前記複数種類の標的核酸のそれぞれの配列の一部と同じ配列を有しかつ濃度が既知の対照核酸と、前記複数種類の標的核酸とを、それぞれDCN配列を有する核酸にエンコードする工程と、
2)前記複数種類の標的核酸および対照核酸からエンコードされたDCN配列を有する核酸を、それぞれ増幅する工程と、
3)前記増幅されたDCN配列を有する核酸を、それぞれ定量的に検出する工程と、
4)前記3)の工程の検出値から式(前記標的核酸の検出値)/(前記対照核酸の検出値)によって補正値を得る工程と;
5)前記補正値を使用して定量値を得る工程と、
を含む方法。 - 試料中の複数種類の標的核酸を定量する方法であって、
1)前記複数種類の標的核酸のそれぞれの配列の一部と同じ配列を有しかつ濃度が既知の対照核酸と、前記複数種類の標的核酸とを、DCN配列を有する核酸にエンコードする工程と、
2)前記複数種類の標的核酸および対照核酸からエンコードされたDCN配列を有する核酸を、それぞれ増幅する工程と、
3)前記増幅されたDCN配列を有する核酸を混合し、該DCN配列を有する核酸に相補的な配列を有するプローブに対して競合的にハイブリダイゼーションさせて、それぞれのハイブリダイズした量を定量的に検出する工程と、
4)前記3)の工程の検出値から式(前記標的核酸の検出値)/(前記対照核酸の検出値)によって補正値を得る工程と;
5)前記補正値を使用して定量値を得る工程と、
を含む方法。 - 請求項1または2に記載の方法であって、前記工程2)の後に増幅されたDCN配列を有する核酸をデコードする工程をさらに含み、前記工程3)の検出は、デコードされた配列を検出することによって行われる方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記エンコードする工程は、以下の工程によって行われる方法:
1)前記標的核酸中の部分配列に相補的な上流プローブ配列を有する標識されたアンカー核酸分子と、前記標的核酸の部分配列に相補的な配列を有する下流プローブ配列およびDCN配列を有するアダプター核酸分子を前記試料と混合して、前記標的核酸または対照核酸に前記下流プローブ部分および前記上流プローブ部分をハイブリダイズさせる工程と、
2)前記標的核酸または対照核酸にハイブリダイズした下流プローブ部分および上流プローブ部分をそれぞれ連結させて、アダプター核酸分子およびアンカー核酸分子の連結分子を生成させる工程と、
3)前記連結分子を回収して、DCN配列を有する核酸を得る工程。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、前記対照核酸として複数の濃度の対照核酸を使用して、該複数の対照核酸について補正値を得ることを特徴とする方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、前記検出工程は、蛍光標識を検出することによって行われることを特徴とする方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、前記増幅されたDCN配列の検出は、DNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションによって行われる方法。
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