JP4524725B2 - 金属被覆繊維体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維体に設けた金属被覆の密着性に優れると共に耐腐食性に優れた金属被覆繊維体に関する。詳しくは、例えば、ナイロン繊維体やポリエステル繊維体などの合成繊維や天然繊維などの表面に金属被覆をコーテングした金属被覆繊維体において、金属被覆が優れた密着強度を有すると共に塩素や硫黄、酸素に対して優れた耐腐蝕性を有する金属被覆繊維体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナイロン繊維やポリエステル繊維などの高分子材料からなる合成繊維表面に金属薄膜をコーテングした導電性繊維ないし導電性糸が従来から知られており、金属コーテング膜の密着性を高めるために種々の方法が試みられている。例えば、硫化銅をコーテングする場合に、銅イオン捕捉基を有する染料で高分子材料を前処理し、これに銅イオンを結合させた後に硫化する方法(特公平01-37513号)や、アルカリ処理して粗面化した繊維表面に銅イオン捕捉基を付着させた後にこれに硫化銅を結合させる方法(特開平06-298973号)などが知られている。また、アラミド繊維などのように金属メッキを施し難いものについては、ポリビニルピロリドン(PVP)を利用して金属イオンを付着させ、これを還元して金属メッキを形成する方法(特表平06-506267号)などが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記PVPを利用するメッキ方法は繊維の種類が限られるので一般的ではない。また、銅イオン捕捉基を導入するコーテング方法は金属被覆が銅やその化合物に限られ、しかも金属被覆の付着強度が必ずしも十分ではないと云う問題がある。なお、繊維をアルカリ処理して粗面化すれば概ね金属被覆の付着強度を高めることができるが、粗面化の程度と金属被覆の状態が適切でないと十分な効果が得られない。しかも、金属被覆繊維を衣類等に使用する場合には洗濯や摩耗などの過酷な使用条件に耐える必要がある。さらに導電性の観点からは、金属被覆の部分的剥離によっても断線状態を招くので、金属被覆は信頼性の高い密着強度を有することが求められる。本発明は、従来の金属被覆繊維におけるこのような問題を解決したものであり、優れた被覆強度と耐腐蝕性を有する金属被覆繊維体を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決する手段】
本発明は、金属被覆を有する繊維体において、繊維体表面に設けた導電性金属被覆を下地とし、その表面にさらに耐腐食性金属被覆を設けることによって導電性と共に耐腐食性を高めたものであり、好ましくは、金属被覆を設けた後に所定温度範囲の加熱処理を施すことにより、金属被覆の付着強度(被覆強度)を大幅に向上すると共に繊維体の伸縮率を格段に低減したものである。
【0005】
本発明は以下の構成からなる金属被覆繊維体に関する。
〔1〕繊維体に導電性金属被覆とその表面に耐腐食性金属被覆が積層されており、この導電性金属被覆と耐腐食性金属被覆の少なくとも何れか一方の被覆を設けた後に、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体。
〔2〕繊維体がポリエステル繊維体、ナイロン繊維体またはアクリル繊維体などの合成繊維体の単繊維体、またはこれら2種以上の成分からなる複合繊維体であり、ポリエステル繊維からなる繊維体について170〜240℃に加熱処理し、ナイロン繊維からなる繊維体について110〜180℃に加熱処理し、アクリル繊維からなる繊維体について150〜200℃に加熱処理し、昇温後の温度を5〜200分保持してなる上記[1]に記載する金属被覆繊維体。
〔3〕金属被覆が剥離強度試験において4等級以上の剥離強度を有する上記[1]または上記[2]に記載する金属被覆繊維体。
〔4〕耐腐食性金属被覆の表面にパラフィン層、ワックス層が設けられている上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する金属被覆繊維体。
〔5〕導電性金属が銀、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらの混合物ないし合金の少なくとも1種であり、耐腐食性金属が金、白金、パラジウム、オスミウム、ロジウムの少なくとも1種である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する金属被覆繊維体。
【0006】
【発明の実施の態様】
以下、本発明を実施態様に基づいて詳細に説明する。
本発明の金属被覆繊維体は、繊維体に導電性金属被覆とその表面に耐腐食性金属被覆が積層されており、この導電性金属被覆と耐腐食性金属被覆の少なくとも何れか一方の被覆を設けた後に、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体である。導電性金属被覆を下地とし、その表面に塩素、硫黄、酸素による腐蝕に対して耐久性のある金属被覆を設けることによって、高い導電性を有すると共に耐腐食性に優れた金属被覆繊維を得ることができる。なお、ここで繊維体とは、短繊維(ステープル)、長繊維(フィラメント)、これらの繊維からなる各種の加工糸(フィラメント糸、紡績糸など)を云い、これらを広く含めて繊維体と云う。
【0007】
本発明に用いる繊維体としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン、ナイロンなどの高分子材料を主成分とした合成繊維、木綿などの天然繊維、レーヨンなどのセルロース系繊維、これらの有機繊維のほかにガラスファイバーなどの無機繊維、またはこれらの複合繊維体などが挙げられる。これらの繊維体は二種以上を混紡したものでも良く、合成繊維と天然繊維を混紡したものでも良い。このうち、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維などの合成繊維を用いたものについて本発明は特に有用である。
【0008】
なお、ポリエステルの長繊維は従来から金属被覆を施すのが難しいが、本発明によれば密着強度の大きい金属被覆繊維体を得ることができる。これらの繊維は単繊維の太さが0.1〜15d(デニール)のものが適当である。この繊維径が0.1dより細いと繊維の強度が不足するので好ましくなく、また、15dより太いと金属被覆を施した際に繊維体が硬くなり可撓性が失われるので適当ではない。
【0009】
繊維体に設ける金属被覆のうち、下地となる導電性金属被覆は、例えば、銀、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、およびこれらの混合物や合金などの少なくとも1種を用いることができる。なお、被覆方法ないし手段は限定されない。電解メッキや化学(無電解)メッキ、あるいは真空蒸着などを利用することができる。
【0010】
導電性金属被覆の表面に設ける耐腐食性金属被覆としては、金、白金、パラジウム、オスミウム、ロジウムの少なくとも1種を用いることができる。これらの貴金属被覆を表面に設けることにより、塩素、硫黄、酸素による腐蝕に対して優れた耐久性を得ることができる。耐腐食性金属被覆の層厚は1nm〜500nmが適当である。被覆がこれより薄いと耐腐食性が低下する。また、下地の導線性金属被覆が銀、ニッケル、スズなどの白色系金属である場合、耐腐食性金属被覆として金を用いるときには層厚が500nmより厚いと黄色が強くなり、下地によって得られる白色度を低下させる。金の被覆厚が500nm未満であれば概ね白色度(L値)50以上の導電性繊維体を得ることができる。白色度はハンターの式に基づくLab法によって測定される。なお、白金、パラジウム、オスミウムは黄色化しないので500nmより厚くても良い。因みに、パラジウム、オスミウムなどは高価であるので、経済性の点からは金、白金が好ましい。
【0011】
導線性金属被覆および耐腐蝕性金属被覆の何れもおのおの異なる金属元素等を用いることによって各被覆層を複数層に形成しても良い。例えば、繊維体表面に薄いニッケル下地層を設け、その表面に銀メッキを設けることによって二層構造の導電性金属被覆層を形成し、さらにその表面に金または白金の耐腐食性金属被覆層を形成する。なお、この耐腐食性金属被覆層は金および白金を二層に形成したものでも良い。このように、導電性金属被覆、耐腐蝕性金属被覆を複数層に形成することにより銀、ニッケル、銅等の導電性金属被覆に対する耐腐食性が高まり、化学的な安定性が向上するので電子材料等に必要な長期の使用に対しての信頼性を高めることができる。
【0012】
本発明の金属被覆繊維体は、好ましくは金属被覆表面がオレンジピールを有することによって密着強度に優れた繊維体を得ることができる。オレンジピール(orange peel)とはオレンジの皮に似た肌の粗い、表面粗さが概ね0.01〜1μmの表面状態を云い、ユズ肌ないし梨地肌と称されている。金属被覆表面がオレンジピールを有するとは金属被覆表面がオレンジピールの状態であることを云う。導電性金属被覆および耐腐蝕性金属被覆の層厚は通常概ね数百ナノメータ(nm)以下であるので、金属被覆がオレンジピールを有するものは被覆の裏側まで粗面状態になっており、繊維体の表面がこの粗面状態の導電性金属被覆の裏面に入り込んでアンカー効果を発揮するので金属被覆の被覆強度が大きい。
【0013】
本発明の金属被覆繊維体は、好ましくは繊維体の結晶化温度以上および融解温度未満の温度範囲で加熱処理したものである。この加熱処理によって繊維体の組織を整え、具体的には、例えば繊維体の再結晶化を進め、金属被覆の被覆強度を格段に高めると共に加熱による収縮を大幅に抑制することができる。加熱処理は導電性金属被覆および耐腐食性金属被覆の少なくとも何れか一方を設けた後に行えば良い。
【0014】
一般に、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリル等の合成繊維を加熱すると、加熱温度に応じてガラス転移、結晶化、融解(溶融)と次第に状態が変化し、多くの場合にはガラス転移によって軟化し、続いて結晶化の段階で大きく収縮する。金属被覆繊維体をその繊維体の結晶化温度以上に加熱すると、繊維体が軟化し、その表面が繊維体と金属被覆との接触面の微細な凹凸に入り込み、アンカー効果によって金属被覆と繊維体との密着性を高め、大きな被覆強度を得ることができる。
【0015】
加熱温度は、具体的には、例えば、ポリエステル繊維については170〜240℃、ナイロン繊維については110〜180℃、アクリル繊維については150〜200℃が適当である。この加熱処理においては、繊維体が十分に軟化するように昇温後の温度を5〜200分程度保持するのが好ましい。なお、加熱温度が繊維体の融解温度を上回ると繊維体全体が溶融して結晶性が低下すると共に繊維体を破壊して金属被覆を保持できなくなるので好ましくない。
【0016】
繊維体を軟化した後に冷却する過程で繊維体の組織が整えられる。例えば、加熱により繊維の分子配列が揃って結晶化し、金属被覆に密着した状態で繊維体が収縮し、徐冷工程で金属被覆が繊維体との一体性を保って収縮することにより被覆強度が向上する。この冷却工程において、金属被覆繊維体の冷却速度が適切でないと十分な被覆強度が得られない。すなわち、合成繊維は金属よりも線膨張係数が大きく、例えば、ポリエステル繊維やアクリル繊維などの線膨張係数は銀や銅などの約2倍であり、冷却収縮する度合いが大きい。このため、冷却速度が早過ぎると繊維体の収縮に対して金属被覆の収縮が追従できず、繊維体と金属被覆の接触面が部分的に剥離する虞があるので、加熱後は徐冷するのが好ましい。
【0017】
加熱処理手段は加熱炉、熱風炉などの他に赤外線による加熱でも良い。また、メッキ槽内での加圧水蒸気による加熱処理でも良い。加熱処理雰囲気は空気中でも良いが、金属被覆の酸化による変色を防止するには、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理するのが好ましい。
【0018】
また、本発明の金属被覆繊維体はこのような加熱冷却処理によって優れた被覆強度と共に非伸縮性を有する。一般に合成繊維は結晶化温度以上に加熱されると結晶構造が変化するので10%以上の熱収縮を生じることが多いが、本発明の金属被覆繊維体は加熱処理して繊維体の結晶構造を整えているので、その後に加熱しても結晶構造が変化し難く、熱収縮を殆ど生じない。むしろ場合によっては僅かな伸びを示す傾向を有するようになる。
【0019】
具体的には、例えば、繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下において、荷重を加えないときの伸縮率が±4%以下、好ましくは±3%以下の金属被覆繊維体を得ることができる。また、加熱荷重下においても、例えば、上記温度下において、繊維体のデニール値の100分の1に相当するg荷重を加えたときの伸縮率が±2%以下、好ましくは伸縮率±1.5%以下、さらに好ましくは伸縮率±1%以下の金属被覆繊維体を得ることができる。なお、繊維体のデニール値の100分の1に相当するg荷重とは、例えば100デニールの繊維体について1gの荷重を加えることを云う。
【0020】
また、本発明の金属被覆繊維体は、以上の加熱冷却処理を行うことにより、規格(JIS L 0849)に基づく剥離強度試験において4等級以上の剥離強度(単に4等級以上の強度と云う)を有することができる。因みに、上記規格試験(JIS L 0849)は繊維体や布の染色堅ろう度を示す試験であり、染色布に白色布を重ね、所定荷重下で規定回数擦り合わせた場合に生じる白色布の汚染度によって染色の付着性が判定される。汚染度の高い順(付着性の低い順)に1等級から5等級までの基準が定められており、5等級の汚染度が最も低く、従って染色の密着性が最も高い。上記加熱処理を施した金属被覆繊維体について、この剥離試験における白色布の汚染度によって金属被覆の付着強度(被覆強度)を同様に判定することができる。加熱処理前は3等級以下の被覆強度を有する金属被覆繊維体について、本発明の加熱徐冷処理を行うことによって4等級以上の高い被覆強度を有するものを得ることができる。
【0021】
さらに、本発明によれば導電性に優れた金属被覆繊維体を得ることができる。
具体的には、例えば、繊維体1cmについて1デニール当たりの電気抵抗が10000Ω/cm・デニール以下、好ましくは1000Ω/cm・デニール以下、さらに好ましくは100Ω/cm・デニール以下の導電性繊維体を得ることができる。なお、金属被覆量を低減することによって電気抵抗が1万Ω/cm・デニール以上の繊維体とすることもできる。
【0022】
本発明の金属被覆繊維体は耐腐食性金属被覆の表面にさらに表面処理を施したものを含む。表面処理としては、パラフィンやワックスによる防錆処理ないしオイル処理(オイリング)などを施すことができる。なお、この防錆処理によって白色度の経時的な低下や密着性(剥離強度)の低下を防止することができる。また、オイル処理を施すことにより繊維体表面の滑り性が向上する。このオイル処理は繊維体を織機や編機によって加工する際にその滑りを良くするので金属被覆の密着性の保護にもなる。金属被覆繊維体は実際に使用する際に、摩擦、剪断力、曲げ等の物理的な力を受け、その強さや頻度によって金属被覆の剥離や欠落が生じる。それらの度合いは直接的には金属被覆と繊維体との密着強度に基づくが、上記表面処理を施すことによって摩擦や剪断力などが緩衝され、その結果として金属被覆の剥離が防止される。また、金属表面は一般に一部が酸化して水酸基を有しているので、表面処理によって酸化を防止し防錆するのが好ましい。表面処理剤の使用量は金属の種類や加熱冷却処理の条件等にもよるが、概ね0.1〜20wt%の範囲が有効である。
【0023】
本発明の金属被覆繊維体は短繊維や長繊維、あるいは紡績糸や加工糸など各種の糸にして用いられる。また、金属被覆繊維を単独に用いる他に、合成繊維や天然繊維、あるいは合成繊維と天然繊維の混合繊維に混紡した混合繊維として用いることができる。この混合繊維における金属被覆繊維体の含有量は用途にもよるが、通常、0.1〜50%以上が適当であり、この混合量に応じて、混合繊維体1cmについて1デニール当たりの電気抵抗が10000Ω/cm・デニール以下、好ましくは1000Ω/cm・デニール以下の混合導電性繊維体を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の金属被覆繊維体は織布または不織布などの布地材料や編物材料などとして用いることができる。この場合、銀やスズ、ニッケルなどを用いたものは高い白色度を有するので染色した際に発色性に優れ、テキスタイルや衣料品の布材に適する。さらに、銀などをコーテングしたものは抗菌繊維体および抗菌衣料として利用することができる。具体的な用途としては、抗菌性の靴下、下着、上着、白衣、寝具、シーツ、ナプキン、手袋、シャツ、ズボン、絨毯、マット、あるいは作業衣などが挙げられる。
【0025】
また、本発明の金属被覆繊維体は布地材料等に限らず、その導電性を利用して電磁波シールド材、無塵服や手袋、靴、カバー、作業衣など静電防止材料、あるいは電極や電線の軽量化を図る代替材料などに用いることができる。さらに、導電性有機材料への表面被覆による複合導電材料や繊維体強化プラスチックの導電性補強材などに用いることができる。
【0026】
〔製造方法〕
本発明の金属被覆繊維体は、上記有機繊維体などの繊維体(原糸)の表面に電解メッキあるいは化学メッキなどによって金属被覆を設け、上記温度範囲で加熱処理し、冷却することによって得られる。なお、この金属被覆を設ける際に、予め繊維体表面をアルカリ等によってエッチング処理し、粗面化すれば被覆されるメッキ金属がこの繊維体表面の粗面に入り込んでアンカー効果を発揮するので更に好ましい。
【0027】
繊維体(原糸)に金属被覆を設ける際、図1および図2に示す製造(メッキ)装置を利用すると良い。この製造装置は、図示するように、メッキ槽10、メッキ液の貯槽20、メッキ槽10と貯槽20を連通する送液管31と32、送液管に介在した送液ポンプ40を有する。メッキ槽10の上面は蓋13によって閉じられている。このメッキ槽10の内部には原糸をチーズ巻の状態にした巻糸体50を装着するための固定軸11が設けられている。固定軸11は中空の管材によって形成されており、その管壁に多数の通液孔12が設けられている。固定軸11はメッキ槽10の底部に立設されており、頂部は栓16によって塞がれている。なお、固定軸11は巻糸体50を容易に装着できるように、また巻糸体50の巻芯51の径が異なる場合でも対応できるように、着脱自在に槽底に取り付けられている。この固定軸11に連通して給液用の送液管31が接続されている。この送液管31を通じて送液ポンプ40によって貯槽20からメッキ液が固定軸11に送られ、固定軸11の管壁に設けた多数の通液孔12からメッキ液が槽内に供給される。また、メッキ槽11の上側と下側の側部にはおのおの貯槽20に至る排液用の送液管32が接続されており、これら送液管31、32によってメッキ液の循環路が形成されている。送液管31、32には適宜な箇所に開閉弁33が設けられている。
【0028】
一方、原糸は透水性の中空な巻芯51にチーズ巻の状態に巻着された巻糸体50を形成されており、固定軸11がこの巻芯51を貫くように、巻糸体50が固定軸11に差し込まれてメッキ槽11に装着される。巻糸体50は必要に応じて上下複数段に装着することができる。巻糸体50が装着された固定軸11の頭部には固定板14が設けられており、この固定板14を固定軸11の軸頭にネジ込むことによって巻糸体50を上下に押圧し、固定板14および巻糸体相互の隙間をなくしてメッキ液がこれらの隙間から漏れ出すのを防止している。さらに、上下の巻糸体50の間、および下側の巻糸体50とメッキ槽底部との間にはスペーサ15が介設されており、これらの部分の液漏れを防止している。
【0029】
上記装置構成において、巻糸体50をメッキ槽10の固定軸11に差し込んで装着し、送液管31を通じて固定軸11にメッキ液を通液する。メッキ液は固定軸11から通液孔12を通じて巻糸体50に向かって流れ、透水性の巻芯51を通過して巻糸体内部に浸透し、この巻糸体内部を経てメッキ槽10に流れ出す液流を形成する。この液流下で無電解メッキを行う。メッキ液はメッキ槽10から流れ出す液量とメッキ槽に供給される液量が一致するように循環される。具体的には、例えば、ポリエステル長繊維体などをチーズ巻きにした巻糸体50をメッキ槽10に装入し、脱脂液を循環させて繊維体表面を脱脂処理した後に水洗し、さらに、アルカリ液を通じてエッチング処理を行い、水洗する。次いで、濃塩酸ないし硫酸の溶液を通じて中和処理した後に、スズ系あるいはパラジウム系の一種または二種の混合溶液によって活性化処理する。この後、銀等のメッキ液を通じて無電解メッキを行い、メッキ後、水洗する。なお、アルカリ処理に代えて塩化第一スズ溶液等によって処理しても良い。
【0030】
このような製造装置ないし製造方法によれば、メッキ液は固定軸を通じて巻糸体の内側から供給され、巻糸体の外部に向かって流れるので、繊維体間の間隙がメッキ液によって外側に押し広がられた状態となり、繊維体間の細部にまでメッキ液が浸透するので、チーズ巻きの状態でも繊維体の表面に金属メッキが均一に形成される。
【0031】
金属被覆(メッキ)を施した後にこの繊維体を乾燥し、上記温度範囲の加熱冷却処理を施す。この加熱処理はメッキ槽内に加圧水蒸気を導入して行っても良い。
またはメッキ槽から巻糸体を取り出して、電気炉などに移して加熱処理しても良い。なお、加熱処理雰囲気は空気中でも良いが、金属被覆の酸化による変色を防止するためには窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で加熱処理を行うと良い。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。
【0033】
〔実施例1〕
図示するメッキ装置を用い、表1に示す高分子材料からなる繊維体(150デニール)を巻取軸にワインデングして巻糸体とし、これをメッキ槽に入れて以下の(イ)脱脂処理、(ロ)アルカリ処理・中和処理および(ハ)活性化処理を行った後に、(ニ)表1に示す第一層金属(導電性金属被覆)について無電解メッキを施し、(ホ)この第一層金属の表面に第二層金属(耐腐食性金属被覆)を無電解メッキによって積層した。(ヘ)次いで、繊維体の結晶化温度以上および融解温度未満の温度範囲で加熱処理した。なお各処理は薬液を加圧循環して行った。
【0034】
〔イ〕脱脂処理:脱脂液(エースクリーンA-220:奥野製薬工業社製品)の5wt%溶液を55℃でメッキ槽に5分間循環させた後、イオン交換水を通じて十分に洗浄した。
〔ロ〕アルカリ処理:脱脂処理後に20wt%水酸化ナトリウム溶液を70℃でメッキ槽に20分間循環させ、さらにイオン交換水を通じて十分に洗浄した後に5wt%濃塩酸溶液を室温でメッキ槽に2分間循環させた。
〔ハ〕活性化処理:アルカリ処理後に濃塩酸溶液と塩化パラジウム混合溶液(キャタリストC:輿野製薬工業社製品)をメッキ槽に室温で3分間循環させた後にイオン交換水を通じて十分に洗浄した。さらに10wt%硫酸溶液をメッキ槽に45℃で3分間循環させて活性化した。
〔ニ〕第一層メッキ工程:上記前処理によって繊維体表面に触媒を付着させた後に、表1〜表3に示す銀、ニッケル、銅の第一層金属(導電性金属被覆)について、各々のメッキ液をメッキ槽に循環させて金属被覆を形成した。
〔ホ〕第二層メッキ工程:第一層金属の表面に表1〜表3に示す第二層金属(耐腐食性金属被覆)を無電解メッキによって積層した。
〔ヘ〕加熱処理:金属被覆繊維体を電気炉に装入し、繊維体の結晶化温度以上および融解温度未満の温度範囲で加熱処理した。
【0035】
これらの金属被覆繊維体について被覆の密着(剥離)強度を測定した。この結果を表1に示した。また金属被覆後に加熱処理を施さないものについて同様の試験結果を比較例として表1に示した。この密着強度は繊維体や布の染色堅ろう度を示す規格試験(JIS L 0849)に準じた剥離強度試験に基づいて測定した。強度は付着性の低い順に1等級から5等級までの基準に従って評価した。また、導電性を測定した。導電性は繊維体を10回摩擦した後に繊維体中央部10cm間の電気抵抗を測定し、繊維体1cmについて、1デニール当たりの抵抗値(Ω/cm・デニール)を求めた。この結果を表1に示した。なお、本実施例の繊維体は15デニールのものであるが、繊維体の太さはこれに限らない。
【0036】
また、これらの金属被覆繊維体について白色度を測定した。これらの結果を総合評価と共に表1に示した。さらに、塩素漂白試験を行い腐蝕の有無を調べた。塩素漂白試験は塩素水溶液(商品名ハイター50%を含む水溶液)100ccの中に試料の銀被覆繊維を室温下で10分間浸し、発生する気泡を観察し、3段階評価を行った。この結果を表1に示す。
【0037】
〔実施例2〕
金属被覆のメッキ方法を電解メッキに代えたほかは実施例1と同様にして金属被覆繊維体を製造した。この金属被覆繊維体について実施例1と同様の試験を行った。この結果を表2に示した。
【0038】
〔実施例3〕
金属被覆のメッキ方法をゾルゲル法による被覆形成に代えたほかは実施例1と同様にして金属被覆繊維体を製造した。この金属被覆繊維体について実施例1と同様の試験を行った。この結果を表3に示した。
【0039】
表1〜表3に示すように、本発明の好ましい範囲に属する金属被覆繊維体は何れも塩素腐蝕に対して優れた耐食性を有しており、また電気抵抗が低く優れた導電性を有している。さらに被覆強度も高く、銀やニッケル被覆においては白色度も高い。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【発明の効果】
本発明の金属被覆繊維体は耐腐食性に優れると共に被覆強度が大きい。具体的には、塩素漂白試験において優れた塩素腐蝕性を有している。さらに、被覆の剥離強度試験において4等級以上の基準強度を有することができる。また、加熱下でも伸縮率が小さく、外力に対する耐久性に優れる。従って、金属被覆の密着性や耐久性が十分でないために従来は適用できなかった分野にも本発明の金属被覆繊維体を用いることできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 メッキ装置の概略を示す概念図
【図2】 巻糸体の巻装状態を示す説明図
【符号の説明】
10−メッキ槽、11−固定軸、12−通液孔、13−蓋、14−固定板、15−スペーサ、16−栓、20−貯槽、31,32−送液管、33−開閉弁、40−送液ポンプ、50−巻糸体、51−透水性巻芯。
Claims (5)
- 繊維体に導電性金属被覆とその表面に耐腐食性金属被覆が積層されており、この導電性金属被覆と耐腐食性金属被覆の少なくとも何れか一方の被覆を設けた後に、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体。
- 繊維体がポリエステル繊維体、ナイロン繊維体またはアクリル繊維体などの合成繊維体の単繊維体、またはこれら2種以上の成分からなる複合繊維体であり、ポリエステル繊維からなる繊維体について170〜240℃に加熱処理し、ナイロン繊維からなる繊維体について110〜180℃に加熱処理し、アクリル繊維からなる繊維体について150〜200℃に加熱処理し、昇温後の温度を5〜200分保持してなる請求項1に記載する金属被覆繊維体。
- 金属被覆が剥離強度試験において4等級以上の剥離強度を有する請求項1または請求項2に記載する金属被覆繊維体。
- 耐腐食性金属被覆の表面にパラフィン層、ワックス層が設けられている請求項1〜請求項3の何れかに記載する金属被覆繊維体。
- 導電性金属が銀、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらの混合物ないし合金の少なくとも1種であり、耐腐食性金属が金、白金、パラジウム、オスミウム、ロジウムの少なくとも1種である請求項1〜請求項4の何れかに記載する金属被覆繊維体。
Priority Applications (6)
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