JP4519518B2 - 蓄電デバイスの残存容量演算装置 - Google Patents

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Description

本発明は、二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスの残存容量を演算する蓄電デバイスの残存容量演算装置に関する。
近年、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタといった蓄電デバイスの小型軽量化・高エネルギー密度化が進み、携帯型の情報通信機器から電気自動車やハイブリッド自動車等の電源として活発に利用されている。
このような蓄電デバイスを有効に活用するには、その残存容量を正確に把握することが重要であり、従来から、蓄電デバイスの充放電電流を積算して残存容量を求める技術や、開放電圧に基づいて残存容量を求める技術が知られている。一般的には、前者は、突入電流等の負荷変動に強い反面、誤差が累積し易い(特に、高負荷継続時には誤差が大きくなる)という欠点があり、また、後者は、開放電圧を正確に推定できる限り有効性が高い反面、短時間で負荷が大きく変動した場合に演算値が変動しやすいという欠点がある。従って、従来より両者を組合わせて残存容量を求める技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、電気自動車の車両停止時の電池電圧から求めた開放電圧により停止時残存容量を求めると共に、電池の放電電流の積算値に基づいて放電電気容量を検出し、この放電電気容量と停止時残存容量とから満充電容量を算出し、この満充電容量と放電電気容量とから残存容量を求める技術が開示されている。
また、特許文献2には、リチウムイオン電池のような電池容量と電池電圧とに直線的な比例関係があるものにおいて、任意の時間のあいだ放電または充電したときの電流積算量と、放電または充電前の電圧、放電または充電後の電圧より、残存容量を求める技術が開示されている。
更に、特許文献3には、電池の充放電電流を積分して求めた残存容量と、電池の開放端子電圧に基づいて推定した残存容量との差の変化率に基づいて、残存容量の演算方法を補正する技術が開示されている。
特開平6−242193号公報 特開平8−179018号公報 特開平11−223665号公報
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、電気自動車の走行中の電池の残存容量に対する精度が保障されておらず、また、車両停止時の電池電圧から開放電圧を求めているが、電気自動車においては、モータが停止していてもインバータ等の負荷には電流が流れていることから、必ずしも正確な開放電圧を検出できるとは限らない。従って、特許文献1の技術は、適用範囲が限定されてしまい、例えば、充放電が連続するハイブリッド車等には、適用が困難である。
同様に、特許文献2に開示の技術においても、充放電前や充放電後の電圧を、開回路電圧(開放電圧)として扱っているが、前述した理由により必ずしも正確な開放電圧を検出できるとは限らず、また、放電時の精度向上を主としているため、充電時の精度が余り考慮されておらず、充放電が連続するハイブリッド車等への適用は困難である。
また、特許文献3に開示の技術は、電流積算による残存容量演算値と、開放電圧に基づく残存容量推定値との差が所定値より大きくなった場合にのみ、残存容量演算値の更新を行っているため、更新の瞬間に残存容量演算値が大きく段状に変化する可能性が高い。更に、特許文献3に開示の技術では、残存容量の演算におけるバッテリ温度の影響については考慮されておらず、ハイブリッド車等に適用した場合、残存容量演算値が更新の度に急激に変化するばかりでなく、エアコンの使用等によるバッテリを取巻く車内環境の急激な温度変化が生じた場合、演算精度が低下する。
一般に、バッテリのセル温度等を計測する場合には、温度センサをセル内部に組付けることは困難であるため、温度センサをセル表面に貼付けて設置しており、厳密には、セル表面温度を測定していることになる。従って、セル温度を正しく検出するためには、セル表面温度とセル内部温度とバランスするように、バッテリの環境条件が安定していることが前提となる。
すなわち、セル表面温度は、バッテリを取巻く環境の影響を受け易く、エアコンの使用等により環境温度が急変すると、セル表面温度も急変する。一方、電解液を含むセル内部の温度は、環境温度(セル表面温度)が変化しても直ぐには変化せず、セル表面温度とセル内部温度とが一致するためには或る程度の時間を要する。従って、その間、温度センサによって計測した温度を用いて残存容量を演算すると、セル内部温度を適正に把握することができず、残存容量の精度が低下してしまう。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、蓄電デバイスの表面に温度センサを設置して残存容量を演算する際に、電流積算による残存容量と開放電圧に基づく残存容量との双方の利点を生かして精度高く残存容量を求め、且つ蓄電デバイスを取巻く環境の温度が急変しても精度低下を防止することのできる蓄電デバイスの残存容量演算装置を提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明による蓄電デバイスの残存容量演算装置は、蓄電デバイスの表面に温度センサを設置し、温度に依存して変化する残存容量を演算する蓄電デバイスの残存容量演算装置において、上記蓄電デバイスを取巻く環境の温度変化に応じて、上記温度センサによって測定した温度と上記蓄電デバイスの表面温度に対する内部温度の遅れを考慮して算出した温度との何れか一方を、上記蓄電デバイスの温度として選択する温度選択手段と、上記蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて第1の残存容量を演算する第1の演算手段と、上記蓄電デバイスの充放電電流と温度とに基づいて内部インピーダンスを算出し、算出した内部インピーダンスから推定した開放電圧に基づいて第2の残存容量を演算する第2の演算手段と、上記第1の残存容量と上記第2の残存容量とを上記蓄電デバイスの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成し、上記蓄電デバイスの残存容量を演算する第3の演算手段とを備えたことを特徴とする。
その際、温度センサによって測定した温度の単位時間当たりの変化量が基準値以上のとき、蓄電デバイスの表面温度に対する内部温度の遅れを考慮して算出した温度を、蓄電デバイスの温度として選択することが望ましく、また、蓄電デバイスの熱伝導率を表現した関数により蓄電デバイスの内部温度を推定し、推定した内部温度に遅れをもって収束する収束関数で与えられる温度を、蓄電デバイスの温度として選択することが望ましい。
また、第1の残存容量を、蓄電デバイスの温度に依存して変化する電流容量に対する充放電電流の割合を積算して演算する場合には、蓄電デバイスを取巻く環境の温度変化に応じて選択した温度を蓄電デバイスの温度とすることで、環境温度の急変時にも精度低下を防止することができる。
本発明による蓄電デバイスの残存容量演算装置は、蓄電デバイスの表面に温度センサを設置して残存容量を演算する際に、電流積算による残存容量と開放電圧に基づく残存容量との双方の利点を生かして精度高く残存容量を求めることができ、しかも、蓄電デバイスを取巻く環境の温度が急変しても精度低下を防止することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図11は本発明の実施の一形態に係わり、図1はハイブリッド車への適用例を示すシステム構成図、図2はバッテリ残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図、図3は等価回路モデルを示す回路図、図4はバッテリ残存容量演算処理のフローチャート、図5は電流容量テーブルの説明図、図6はインピーダンステーブルの説明図、図7は残存容量テーブルの説明図、図8はウェイトテーブルの説明図、図9は電流の移動平均処理無しの場合の残存容量を示す説明図、図10は電流の移動平均処理有りの場合の残存容量を示す説明図、図11は実車走行時の残存容量演算結果を示す説明図である。
図1は、本発明をエンジンとモータとを併用して走行するハイブリッド車両(HEV)に適用した例を示し、同図において、符号1は、HEVの電源ユニットである。この電源ユニット1には、蓄電デバイスとして例えば複数のセルを封止した電池パックを複数個直列に接続して構成されるバッテリ2と、バッテリ2の残存容量の演算、バッテリ2の冷却や充電の制御、異常検出及び異常検出時の保護動作等のエネルギーマネージメントを行う演算ユニット(演算ECU)3とが1つの筐体内にパッケージされている。
尚、本形態においては、蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例に取って説明するが、本発明による残存容量の演算手法は、電気化学キャパシタやその他の二次電池にも適用可能である。
演算ECU3は、マイクロコンピュータ等から構成され、電圧センサ4で測定したバッテリ2の端子電圧V、電流センサ5で測定したバッテリ2の充放電電流I、バッテリ2のセル表面に貼付けられた温度センサ6による温度(セル表面温度)Tc、或いは、セル内部の温度を推定した推定温度Tc’に基いて、所定時間t毎に充電状態(State of charge;SOC)すなわち残存容量SOC(t)を演算する。演算に使用する温度Tとしては、通常、セル表面に貼付けられた温度センサ6によって計測した温度Tcを用い、バッテリ2を取巻く環境温度が急変したときには、セル表面温度に対するセル内部温度の遅れを考慮し、セル内部の推定温度Tc’に所定の時間で収束する温度を用いる。
すなわち、一般に、バッテリのセル温度を計測する場合には、温度センサをセル内部に組付けることは困難であるため、温度センサをセル表面に貼付けて設置しており、厳密には、セル表面温度を測定していることになる。このセル表面温度は、バッテリを取巻く環境の影響を受け易く、車内エアコンの使用等により環境温度が急変すると、セル表面温度も急変する。一方、電解液を含むセル内部の温度は、環境温度(セル表面温度)が変化しても直ぐには変化せず、セル表面温度とセル内部温度とが一致するためには或る程度の時間を要する。従って、その間、温度センサ6によって計測した温度を用いて残存容量SOCを演算すると、セル内部温度を適正に把握することができず、残存容量SOCの精度が低下する。
このため、バッテリの環境温度が安定しており、セル表面温度がセル内部温度と一致している状態では、温度センサ6によって計測した温度Tcを、残存容量SOCを演算する際の温度Tとして用い、バッテリの環境温度が急変したときには、セル表面温度に対するセル内部温度の遅れを考慮してセル内部の推定温度Tc’に所定の時間で収束する温度を、残存容量SOCを演算する際の温度Tとして用いることで、セル内部温度を適正に把握し、残存容量SOCの精度低下を防止する。
演算ECU3で演算した残存容量SOC(t)は、例えばCAN(Controller Area Network)通信等を介してHEV制御用電子制御ユニット(HEV制御用ECU)10に出力され、車両制御用の基本データ、バッテリ残量や警告用の表示用データ等として使用される。尚、残存容量SOC(t)は、周期的な演算における1演算周期前のデータ(後述する電流積算による残存容量演算の際のベース値)SOC(t-1)としても使用される。
HEV制御用ECU10は、同様にマイクロコンピュータ等から構成され、運転者からの指令に基づいて、HEVの運転、その他、必要な制御を行う。すなわち、HEV制御用ECU10は、電源ユニット1からの信号や図示しないセンサ・スイッチ類からの信号により、車両の状態を検出し、バッテリ2の直流電力を交流電力に変換してモータ15を駆動するインバータ20を初めとして、モータ15に連結されるエンジン30や図示しない自動変速機等を、専用の制御ユニットを介して或いは直接的に制御する。
次に、演算ECU3における残存容量SOCの演算について説明する。残存容量SOCは、図2に示す推定アルゴリズムに従って実行され、温度選択手段としての機能により選択した温度、すなわち、温度センサ6よって測定した温度、或いはバッテリ2の内部温度の遅れを考慮して算出した温度を用い、第1〜3の演算手段としての機能により、電流積算に基づく第1の残存容量としての残存容量SOCcと、バッテリ開放電圧Voの推定値に基づく第2の残存容量としての残存容量SOCvとを並行して演算し、それぞれを重み付けして合成した残存容量SOCを、バッテリ2の残存容量として出力する。
電流Iの積算による残存容量SOCcと、開放電圧Voの推定による残存容量SOCvとは、それぞれに一長一短があり、電流積算による残存容量SOCcは、誤差が累積し易く、特に高負荷継続時の誤差が大きい反面、突入電流等の負荷変動に強い。一方、開放電圧推定による残存容量SOCvは、通常の使用時において、略正確な値を求めることが可能であるが、負荷が短時間で大きく変動したときに値が振動する可能性がある。
従って、本SOC推定アルゴリズムでは、電流Iを積算して求めた残存容量SOCc(t)と、バッテリ開放電圧Voの推定値から求めた残存容量SOCv(t)とを、バッテリ2の使用状況に応じて随時変化させるウェイト(重み係数)wにより重み付けして合成することにより、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出すようにしている。ウェイトwは、w=0〜1の間で変化させ、合成後の最終的な残存容量SOC(t)は、以下の(1)式で与えられる。
SOC(t)=w・SOCc(t)+(1−w)・SOCv(t)…(1)
ウェイトwは、現在のバッテリの使用状況を的確に表すことのできるパラメータを用いて決定する必要があり、そのパラメータとしては、単位時間当たりの電流の変化率や残存容量SOCc,SOCvの間の偏差等を用いることが可能である。単位時間当たりの電流変化率は、バッテリの負荷変動を直接的に反映しているが、単なる電流変化率では、スパイク的に発生する電流の急激な変化の影響を受けてしまう。
従って、本形態においては、瞬間的に発止する電流の変化の影響を防止するため、所定のサンプリング数の単純平均、移動平均、加重平均等の処理を施した電流変化率を用いるようにしており、特に、電流の遅れを考慮した場合、バッテリの充放電状態の変化に対して、過去の履歴を過剰となることなく適切に反映することのできる移動平均を用いてウェイトwを決定するようにしている。
この電流Iの移動平均値に基づいてウェイトwを決定することにより、電流Iの移動平均値が大きいときには、電流積算のウェイトを高くして開放電圧推定のウェイトを下げ、負荷変動の影響を電流積算によって正確に反映すると共に、開放電圧推定時の振動を防止することができる。逆に、電流Iの移動平均値が小さいときには、電流積算のウェイトを下げ、開放電圧推定のウェイトを高くすることにより、電流積算時の誤差の累積による影響を回避し、開放電圧の推定により正確な残存容量を算出することができる。
すなわち、電流Iの移動平均は、電流の高周波成分に対するローパスフィルタとなり、この移動平均のフィルタリングにより、走行中の負荷変動で発生する電流のスパイク成分を、遅れ成分を助長することなく除去することができる。これにより、バッテリ状態をより的確に把握することができ、残存容量SOCc,SOCv双方の欠点を打消して互いの利点を最大限に引き出し、残存容量の推定精度を大幅に向上することができる。
更に、本SOC推定アルゴリズムの特徴として、電池理論に基づいてバッテリ内部状況を電気化学的に把握し、バッテリ開放電圧Voに基づく残存容量SOCvの演算精度の向上を図っている。以下、本推定アルゴリズムによる残存容量SOCc,SOCvの演算について詳述する。
先ず、電流積算による残存容量SOCcは、以下の(2)式に示すように、ウェイトwを用いて合成した残存容量SOCをベース値として、所定時間毎に電流Iを積算して求められる。
SOCc(t)=SOC(t-1)−∫[(100ηI/Ah)+SD]dt/3600…(2)
但し、η :電流効率
Ah:電流容量(温度による変数)
SD :自己放電率
(2)式における電流効率η及び自己放電率SDは、それぞれ定数と見なすことができるが(例えば、η=1、SD=0)、電流容量Ahは、温度に依存して変化する。従って、この電流積算による残存容量SOCcの算出に際しては、温度によるセル容量の変動を関数化して算出した電流容量Ahを用いている。
また、(2)式による残存容量SOCc(t)の演算は、具体的には演算ECU3における離散時間処理によって実行され、1演算周期前の合成残存容量SOC(t-1)を、電流積算のベース値として入力している(図2のブロック図における遅延演算子Z-1)。従って、誤差が累積したり、発散することがなく、万一、初期値が真値と大きく異なっていても、所定の時間経過後(例えば、数分後)には、真値に収束させることができる。
一方、開放電圧Voの推定に基づく残存容量SOCvを求めるには、先ず、図3に示す等価回路モデルを用いてバッテリの内部インピーダンスZを求める。この等価回路は、抵抗分R1〜R3、容量分C1,CPE1,CPE2(但し、CPE1,CPE2は二重層容量分)の各パラメータを、直列及び並列に組合わせた等価回路モデルであり、交流インピーダンス法における周知のCole-Coleプロットをカーブフィッティングすることにより、各パラメータを決定する。
これらのパラメータから求められるインピーダンスZは、バッテリの温度や電気化学的な反応速度、充放電電流の周波数成分によって大きく変化する。従って、インピーダンスZを決定するパラメータとして、前述の単位時間当たりの電流Iの移動平均値を周波数成分の置き換えとして採用し、電流Iの移動平均値と温度Tとを条件とするインピーダンス測定を行ってデータを蓄積した後、温度Tと単位時間当たりの電流Iの移動平均値とに基づいてインピーダンスZのテーブル(後述する図6のインピーダンステーブル)を作成する。そして、このテーブルを利用してインピーダンスZを求め、このインピーダンスZと、実測した端子電圧Vと電流Iとから、以下の(3)式を用いて開放電圧Voの推定値を求める。
V=Vo−I・Z…(3)
尚、前述したように、電流Iの移動平均値は、ウェイトwを決定するパラメータとしても用いられ、ウェイトw、インピーダンスZの演算を容易としているが、詳細には、低温になる程、バッテリの内部インピーダンスが増加して電流変化率が小さくなるため、後述するように、ウェイトw、インピーダンスZは、直接的には、電流Iの移動平均値を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtを用いて決定する。
開放電圧Voの推定後は、バッテリ内の電気化学的な関係に基づいて残存容量SOCvを演算する。具体的には、平衡状態での電極電位とイオンの活量との関係を記述した周知のネルンストの式を適用し、開放電圧Voと残存容量SOCvとの関係を表すと、以下の(4)式を得ることができる。
Vo=E+[(Rg・T/Ne・F)×lnSOCv/(100−SOCv)]+Y…(4)
但し、E :標準電極電位(本形態のリチウムイオン電池では、E=3.745)
Rg:気体定数(8.314J/mol−K)
T :温度(絶対温度K)
Ne:イオン価数(本形態のリチウムイオン電池では、Ne=1)
F :ファラデー定数(96485C/mol)
尚、(4)式におけるYは補正項であり、常温における電圧−SOC特性をSOCの関数で表現したものである。SOCv=Xとすると、以下の(5)式に示すように、SOCの三次関数で表すことができる。
Y=−10-63+9・10-52+0.013X−0.7311…(5)
以上の(4)式により、残存容量SOCvには、開放電圧Voのみならず温度Tとの間にも強い相関性があることがわかる。この場合、開放電圧Voと温度Tとをパラメータとして、直接、(4)式を用いて残存容量SOCvを算出することも可能であるが、実際には、使用する電池特有の充放電特性や使用条件等に対する考慮が必要となる。
従って、以上の(4)式の関係から実際の電池の状態を把握する場合には、常温でのSOC−Vo特性を基準として、各温度域での充放電試験或いはシミュレーションを行い、実測データを蓄積する。そして、蓄積した実測データから開放電圧Voと温度Tとをパラメータする残存容量SOCvのテーブル(後述する図7の残存容量テーブル)を作成しておき、このテーブルを利用して残存容量SOCvを求める。
次に、以上のSOC推定アルゴリズムを用い、温度センサ6による計測値とバッテリ内部温度とのずれを考慮した残存容量SOCc,SOCvの演算及び合成処理について、図4のフローチャートを用いて説明する。
図4のフローチャートは、電源ユニット1の演算ECU3におけるバッテリ残存容量推定の基本的な処理を示すものであり、同図においては、説明の都合上、電流積算による残存容量SOCcの演算に続いて開放電圧Voの推定による残存容量SOCvの演算を行うようにしているが、実際には、残存容量SOCc,SOCvの演算は、並行して実行される。
図4のバッテリ残存容量推定処理は、所定時間毎(例えば、0.1sec毎)に実行され、先ず、ステップS1において、バッテリ2の端子電圧V、電流I、温度Tcのセンサによる測定値、及び、前回の演算処理時に合成した残存容量SOC(t-1)のデータ入力の有無を調べる。尚、端子電圧Vは複数の電池パックの平均値、電流Iは複数の電池パックの電流の総和を取り、それぞれ、例えば0.1sec毎にデータを取得するものとする。また、温度Tcは、例えば10sec毎に取得するものとする。
その結果、ステップS1において新たなデータ入力がない場合には、そのまま本処理を抜け、新たなデータ入力がある場合、ステップS1からステップS2へ進んで、温度センサ6によって計測したセンサ温度(セル表面温度)Tcの単位時間当たりの温度変化量が基準値以上か否かを調べる。基準値は、車内エアコンの使用等によってバッテリの環境温度が急変し、セル表面温度と実際のセル内部の温度との間にずれが生じて残存容量の演算精度が悪化する温度変化量の閾値である。
そして、単位時間当たりの温度変化量が基準値より小さい場合、すなわち、バッテリの環境温度が安定してセル表面温度がセル内部温度とバランスしている場合には、ステップS2からステップS6へ進む。従って、ステップS2からステップS6へ進んだ場合には、以降の処理において、温度センサ6で計測した温度Tcがセル温度Tとして選択され、残存容量SOCが演算される。
一方、単位時間当たりの温度変化量が基準値以上の場合には、ステップS2からステップS3へ進み、温度センサ6で計測した温度Tcを関数F1を用いて補正する。関数F1は、セル単体における熱伝導率を表現した関数であり、環境温度の急変によるセル表面とセル内部との間に生じる温度差を、単位時間当たりの温度変化量に基づいて計算し、温度センサ6で測定したセンサ温度Tcを補正してセル内部温度Tc’として推定する。この場合、より精密には、単位時間当たりの充放電量を算出し、セル発熱量を加味した関数とすることが望ましい。
ステップS3に続くステップS4では、温度センサ6で測定した現在のセンサ温度(セル表面温度)Tcと補正した温度(セル内部の推定温度)Tc’との差が前回と同じ値であるか否かを調べる。これは、以下の収束関数F2による処理の途上で、差が所定範囲内に収束してセル表面温度とセル内部の推定温度とが一致したと見做せる状態に達したか否かを判断するためであり、当初は、差が前回と同じ値でないため、ステップS4からステップS5へ進み、収束関数F2を用いて温度差を時間毎に縮め、ステップS6へ進む。
収束関数F2は、セル表面温度に対するセル内部温度の遅れを考慮して、温度センサ6の計測値(セル表面温度)Tcを演算周期毎に書換えてセル内部の推定温度Tc’に収束させる関数であり、予め単位時間当たりのセル表面の温度変化量と充放電量とをパラメータとして、セル表面温度の変化に対するセル内部温度の追従速度を実験或いはシミュレーション等により求めておき、例えば、一次遅れ系の関数として、遅れ要素のパラメータを決定する。そして、収束関数が収束するまでの間、環境温度の急変に対して遅れをもって変化するセル内部の温度を収束関数の値で代表し、ステップS6以降の処理で用いる温度Tとする。また、収束関数が収束してセル表面温度とセル内部の推定温度との差が前回と同じ値になったときには、ステップS4からステップS6へ進む。
ステップS6では、バッテリ電流容量を、図5に示す電流容量テーブルを参照して演算する。この電流容量テーブルは、温度Tをパラメータとして、所定の基準とする定格容量(例えば、1つの電池パック内の所定セル数を基準単位とした場合の定格電流容量)に対する容量比Ah’を格納したものであり、常温(25°C)における容量比Ah’(=1.00)に対し、低温になる程、電流容量が減少するため、容量比Ah’の値が大きくなる。この電流容量テーブルから参照した容量比Ah’を用い、計測対象毎の温度Tにおける電流容量Ahを算出する。
次に、ステップS7へ進み、電流容量テーブルから求めた電流容量Ah、電流Iの入力値、1演算周期前の合成残存容量SOC(t-1)を用い、前述の(2)式に従って、電流積算による残存容量SOCc(t)を算出する。更に、ステップS8において、電流Iを移動平均して単位時間当りの電流変化率ΔI/Δtを取得する。この移動平均は、例えば、電流Iのサンプリングを0.1sec毎、電流積算の演算周期を0.5sec毎とした場合、5個のデータを移動平均する。
続くステップS9では、バッテリ等価回路のインピーダンスZを、図6に示すインピーダンステーブルを参照して演算し、得られたインピーダンスZからバッテリ2の開放電圧Voを推定する。このインピーダンステーブルは、電流変化率ΔI/Δt(単位時間当たりの電流Iの移動平均値)を温度補正した補正後電流変化率KΔI/Δtと温度Tとをパラメータとして、等価回路のインピーダンスZを格納したものであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが同じ場合には、温度Tが低くなる程、インピーダンスZが増加し、同じ温度では、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、インピーダンスZが増加する傾向を有している。
その後、ステップS10へ進み、電圧−SOC特性の演算を行い、残存容量SOCvを算出する。すなわち、温度Tと推定した開放電圧Voとをパラメータとして、図7に示す残存容量テーブルを参照し、残存容量SOCvを算出する。この残存容量テーブルは、前述したように、ネルンストの式に基づいてバッテリ内の電気化学的な状態を把握して作成したテーブルであり、概略的には、温度T及び開放電圧Voが低くなる程、残存容量SOCvが小さくなり、温度T及び開放電圧Voが高くなる程、残存容量SOCvが大きくなる傾向を有している。
尚、図6,7においては、通常の条件下で使用される範囲のデータを示し、他の範囲のデータは記載を省略してある。
その後、ステップS11へ進み、図8に示すウェイトテーブルを参照してウェイトwを算出する。ウェイトテーブルは、補正後電流変化率KΔI/Δtをパラメータとする一次元テーブルであり、概略的には、補正後電流変化率KΔI/Δtが小さくなる程、すなわち、バッテリ負荷変動が小さい程、ウェイトwの値を小さくして電流積算による残存容量SOCcの重みを小さくする傾向を有している。そして、ステップS12において、前述の(1)式に従って、電流積算による残存容量SOCcと開放電圧Voの推定による残存容量SOCvとをウェイトwを用いて重み付けして最終的な残存容量SOC(t)を合成して算出し、1サイクルの本演算処理を終了する。
尚、本形態においては、実際に残存容量の演算を行なう前のステップS2〜S5において、温度センサ6によって測定したセンサ温度(セル表面温度)とセル表面温度に対するセル内部温度の遅れを考慮して算出した温度とを選択するようにしているが、バッテリの電流容量Ahは、通常の車内の温度変化では、比較的、容量変化が少ないことから、特に温度変化の影響が大きい内部インピーダンスZ及び開放電圧Voの精度を維持するため、ステップS7での電流積算による残存容量SOCcの算出後に、ステップS2〜S5の処理を行なうようにしても良い。
ここで、残存容量の演算における電流の移動平均処理の有無の影響を比較すると、電流の移動平均処理を行うことなく残存容量SOCvを算出した場合には、図9に示すように、電流のスパイク成分の影響を受けて局所的な残存容量SOCvの急激な変化が発生し、最終的な合成残存容量SOCの精度を低下させる原因となる。これに対し、電流の移動平均処理を行って残存容量SOCvを算出した場合には、図10に示すように、残存容量SOCvから電流のスパイク成分の影響が除去され、比較的負荷変動が小さい条件下での残存容量を正確に把握することが可能となる。
実走行時の残存容量の演算結果は、図11に示され、比較的アップダウンの多い走行条件でセル温度が略45°Cの状態において、電流積算による残存容量SOCcと合成後の残存容量SOCの変化が示されている。図11に示されるように、経過時間1500sec付近までのバッテリの充放電が繰返される状態においては、電流積算による残存容量SOCcの演算結果が合成後の残存容量SOCに良好に反映されている。また、経過時間1500sec以後、バッテリへの充電量が増加傾向にある状態において、電流積算による残存容量SOCcの上昇が鈍化して誤差が拡大する傾向にあるが、開放電圧の推定による残存容量SOCv(図示せず)が合成後の残存容量SOCに重みを増して反映され、充電量の増加に応じて合成後の残存容量SOCが上昇し、精度良く残存容量の変化を捉えている。
以上のように、電流積算による残存容量SOCcと開放電圧の推定値に基づく残存容量SOCvとを、バッテリの使用状況に応じて設定したウェイトwを用いて重み付け合成して双方の利点を生かした高精度な残存容量を得ることができる。しかも、その際に、蓄電デバイスの表面に設置した温度センサで計測した温度と蓄電デバイスの表面温度に対する内部温度の遅れを考慮して算出した温度とを、蓄電デバイスを取巻く環境の温度変化に応じて選択することから、環境温度の急変による精度低下を防止することができ、常に、高精度の残存容量を得ることができる。
ハイブリッド車への適用例を示すシステム構成図 バッテリ残存容量の推定アルゴリズムを示すブロック図 等価回路モデルを示す回路図 バッテリ残存容量演算処理のフローチャート 電流容量テーブルの説明図 インピーダンステーブルの説明図 残存容量テーブルの説明図 ウェイトテーブルの説明図 電流の移動平均処理無しの場合の残存容量を示す説明図 電流の移動平均処理有りの場合の残存容量を示す説明図 実車走行時の残存容量演算結果を示す説明図
符号の説明
1 電源ユニット
2 バッテリ
3 演算ユニット(温度選択手段、第1,第2,第3の演算手段)
I 充放電電流
SOC 残存容量
SOCc 残存容量(第1の残存容量)
SOCv 残存容量(第2の残存容量)
Tc センサ温度(温度センサによって測定した温度)
Tc’ 推定温度(推定した内部温度)
V 端子電圧
Vo 開放電圧
Z インピーダンス
w ウェイト
代理人 弁理士 伊 藤 進

Claims (4)

  1. 蓄電デバイスの表面に温度センサを設置し、温度に依存して変化する残存容量を演算する蓄電デバイスの残存容量演算装置において、
    上記蓄電デバイスを取巻く環境の温度変化に応じて、上記温度センサによって測定した温度と上記蓄電デバイスの表面温度に対する内部温度の遅れを考慮して算出した温度との何れか一方を、上記蓄電デバイスの温度として選択する温度選択手段と、
    上記蓄電デバイスの充放電電流の積算値に基づいて第1の残存容量を演算する第1の演算手段と、
    上記蓄電デバイスの充放電電流と温度とに基づいて内部インピーダンスを算出し、算出した内部インピーダンスから推定した開放電圧に基づいて第2の残存容量を演算する第2の演算手段と、
    上記第1の残存容量と上記第2の残存容量とを上記蓄電デバイスの使用状況に応じて設定したウェイトを用いて重み付け合成し、上記蓄電デバイスの残存容量を演算する第3の演算手段とを備えたことを特徴とする蓄電デバイスの残存容量演算装置。
  2. 上記温度選択手段は、
    上記温度センサによって測定した温度の単位時間当たりの変化量が基準値以上のとき、上記蓄電デバイスの表面温度に対する内部温度の遅れを考慮して算出した温度を、上記蓄電デバイスの温度として選択することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置。
  3. 上記温度選択手段は、
    上記温度センサによって測定した温度の単位時間当たりの変化量が基準値以上のとき、上記蓄電デバイスの熱伝導率を表現した関数により上記蓄電デバイスの内部温度を推定し、推定した内部温度に遅れをもって収束する収束関数で与えられる温度を、上記蓄電デバイスの温度として選択することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置。
  4. 上記第1の演算手段は、
    上記蓄電デバイスの温度に依存して変化する電流容量に対する充放電電流の割合を積算して上記第1の残存容量を演算することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイスの残存容量演算装置。
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