本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、背景輝度や、視標の輝度・大きさなどを容易に調整でき、短時間で正確に視野の計測が行える他覚式の視野計を提供するにある。
本発明の視野計は、表示手段と、視標制御手段と、赤外光照射手段と、撮像手段と、ケースと、瞳孔検出手段と、視野計測手段とを備える。前記視標制御手段は、被験者の視線を固定させるための固視標および被験者の瞳孔に光刺激を与えるための光刺激視標を前記表示手段の所定の複数の位置に表示する。前記赤外光照射手段は、被験者の眼球に対して赤外光を照射する。前記撮像手段は、前記赤外光照射手段から照射された赤外光を利用して被験者の眼球を撮像する。前記ケースは、前記表示手段と前記赤外光照射手段と前記撮像手段とを内部に収納し、被験者が前記表示手段に表示された前記固視標および前記光刺激視標を外側から見るためののぞき孔を有する。前記瞳孔検出手段は、前記撮像手段が撮像した画像を基に被験者の瞳孔径を検出する。前記視野計測手段は、被験者に前記固視標を注視させた状態で前記視標制御手段が前記光刺激視標を表示した時に前記瞳孔検出手段が検出した被験者の瞳孔径の変化をもとに視野を計測する。
また前記表示手段は、画面の背景の輝度および前記光刺激視標の輝度を個別に調整可能なディスプレイ装置からなる。従って、本発明の視野計は、画面の背景の輝度や光刺激視標の輝度を容易に調整することができ、背景の輝度および視標の輝度を最適な値に設定できる。もちろん、視標の大きさや提示時間なども容易に変更することができるので、被験者に応じて最適な視標を提示することができる。従って、本発明の視野計は、短時間で正確に視野の計測を行うことができる。
第1の発明の特徴は、前記表示手段の位置を、前記のぞき孔に対して、上下方向および/または、左右方向および/または、前後方向に調整可能な表示位置調節手段を設ける。そのような表示位置調節手段を設けることで、被験者の眼の位置や視力に合わせて、前記表示手段を最適な位置に移動させることができる。
第2の発明の特徴は、前記撮像手段の撮像位置および撮像方向を調整可能な撮像装置調節手段を設ける。撮像装置調節手段を設けることで、被験者の瞳孔にあわせて撮像手段の位置および角度を調整することができる。この場合、さらに好ましくは、前記瞳孔検出手段の検出結果をもとに、被験者の瞳孔径が最大となるように前記撮像装置調節手段を介して前記撮像手段の撮像位置および撮像方向を調整する撮像装置制御手段を設ける。撮像装置制御手段を設けることで、前記撮像手段を最適な位置および向きに自動で調節することができる。
好ましくは、被験者の操作に応じて操作信号を前記視野計測手段に出力する操作スイッチを設け、前記視野計測手段は、被験者の瞳孔径の変化、および前記操作スイッチからの操作信号の入力をもとに、視野を計測する。この場合、他覚的な視野の検査に加えて、自覚的な視野の検査も行うことができ、計測結果の信頼性を向上させることができる。
好ましくは、前記ケースの内面の放射率は略1(すなわち反射率が0)である。この場合、ケースの内部で表示手段から照射された光は、ケースの内側面で殆ど吸収され、瞳孔の不要な位置に光刺激が与えられるのを防止でき、計測精度を向上させることができる。
光刺激視標に関しては、パルス状に瞬間的に光る刺激を用いるのが一般的である。好ましくは、前記視標制御手段は、パルス状の前記光刺激視標を、少なくとも2回連続して前記表示手段に表示する。パルス状の光刺激視標を少なくとも2回連続して表示することで、パルス状の光刺激を1回表示するのに対して同じ光の量でも、瞳孔径の変化を大きくすることができ、その結果、視野を計測し易くなる。
ところで、瞳孔径の大きさは、光刺激がない場合でも揺らぐことがあり、瞳孔径の変化が光刺激視標によるものなのか否かの判断が難しい場合がある。そのような場合、前記視標制御手段は、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を前記表示手段に表示するのが好ましい。光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を表示することにより、瞳孔径の変化が光刺激視標により生じている場合は、瞳孔径も光の周期に同期して周期的に変化する。従って、瞳孔径の変化が光刺激視標によるものなのか否かの判断を容易にすることができ、計測結果の信頼性を向上させることができる。
光の強弱が周期的に変化する光刺激視標は、光のパルス列や、光の強弱が正弦波状に変化する視標とすることができる。
この場合、前記視標制御手段は、前記光刺激視標の光の強弱の周期を変更する機能や、前記光刺激視標の大きさを変更する機能を備えるのが好ましい。そのような機能を備えることで、被験者に応じて最適な視標を提示することができる。
さらに、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を表示した場合、前記視野計測手段は、瞳孔径の振動幅、または振幅から、前記瞳孔径の変化の大きさを計算する機能を備えるのも好ましい。瞳孔径が、光の強弱と共に周期的に変化する場合、瞳孔径の極小値と極大値とを容易に求めることができる。従って、瞳孔径の極小値と極大値との差、すなわち瞳孔径の振動幅(或いは、その半分の値の振幅)を、瞳孔径の変化の大きさと規定することで、瞳孔径の変化の大きさを容易に求めることができる。振動幅が複数個得られる場合は、それらの平均値を瞳孔径の変化の大きさと規定してもよい。この場合、データのばらつきを抑えることができる。
そのようにして得られた瞳孔径の変化の大きさを用いて、前記視野計測手段は、前記瞳孔径の変化の大きさと、前記光刺激視標の光の強さとの比を求め、その比に基づいて、被験者の視野の感度を計測するのも好ましい。すなわち、強い光に対して瞳孔径の変化が小さい時は視野の感度が低下していると判断し、上記比に基づいて、視野の感度を計測する。
前記視野計測手段は、前記光刺激視標の光の強弱の周期と、被験者の瞳孔径の変化の周期との同期性を求める機能を備えるのも好ましい。この場合、計測結果の信頼性の判断材料の一つに、上記同期性を用いることができる。
また、前記視野計測手段は、前記被験者の瞳孔径の変化をもとに、前記光刺激視標が表示された位置が被験者の正常視野領域か否かを判断する機能を備えるのも好ましい。この場合、光刺激視標が表示された位置が被験者の正常視野領域か否かを自動で判別できる。
また、好ましくは、前記視標制御手段は、前記光刺激視標の色を変更する機能を備える。この場合、網膜細胞のうち、色に反応する錐体細胞の検査を行うこともできる。
以下、本発明を添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本実施形態の視野計の構成を示す図である。この視野計は液晶ディスプレイ1と、赤外光発光ダイオード2と、CCDカメラ3と、ハーフミラー4と、画像処理装置5と、コンピュータ6と、操作スイッチ7とを備える。図2に示すように、液晶ディスプレイ1、赤外光発光ダイオード2、CCDカメラ3、及びハーフミラー4は、箱形のケース8の内部に収納される。ケース8は、被験者がケース8の内部に設置された液晶ディスプレイ1を見るためののぞき孔10を一側面に有し、その一側面には、被験者の顎を載せる顎載せ台9が取り付けられている。
液晶ディスプレイ1(表示手段)は、被験者の視線を固定させるための固視標Fおよび被験者の瞳孔に光刺激を与えるための光刺激視標Lを表示する。液晶ディスプレイ1の表示はコンピュータ6によって制御される。一例として、液晶ディスプレイ1は、サイズが19インチで、解像度がSXGA(1280×1024ドット)、最大輝度が400cd/m2、コントラスト比が450:1、表示色が約1677万色、視野角が上下左右共に160度、応答速度が12msである。液晶ディスプレイ1と、のぞき孔10の間の距離は、約29cmであり、水平方向において±26度、垂直方向において±21度の角度範囲で視野を計測できるようになっている。表示手段として液晶ディスプレイ1を用いることによって、画面の背景の輝度と光刺激視標の輝度とを個別に調整することができる。従って、背景輝度と光刺激視標の輝度とに所望の輝度差を持たせ、被験者の瞳孔Pに十分な光刺激を与えて瞳孔対光反射を発生しやすくできる。また背景輝度を必要以上に暗くする必要がないため、被験者が背景の暗さに暗順応する時間(暗順応時間)が短くて済み、視野検査に要する時間を短縮することができる。もちろん、視標の大きさや形状、動きも自由に設定できるので、患者に応じた最適な視標を容易に表示できる。なお、背景輝度は3.18×10-1〜3.18cd/m2(1〜10asb(1(asb)=1/π(cd/m2)))程度の値に設定するのが好ましい。光刺激視標の輝度は286〜382cd/m2(900〜1200asb)程度の値に設定するのが望ましい。
赤外光発光ダイオード2(赤外光照射手段)は、被験者の視野を妨げないように被験者Sの眼球Eに対して斜め上側の位置と斜め下側の位置とにそれぞれ設置される。赤外光発光ダイオード2は、波長が約850nmの赤外光を被験者の眼球Eに照射する。
CCDカメラ3(撮像手段)は、分解能が約40万画素であり、赤外光に対しても感度を有しているので、自然光の光量が少ない暗い環境下においても赤外光発光ダイオード2の赤外光を利用して被験者の眼球Eを撮像することができる。なお、人間の網膜は赤外線を感知しないので、赤外光発光ダイオード2からの赤外光によって瞳孔対光反射が生じることはない。
ハーフミラー4は一般にホットミラーと呼ばれるもので、波長が約850±50nmの赤外光は反射すると共に波長が450〜650nmの可視光は透過するような特性を有するフィルタを硝子板の表面にコーティングして形成される。ハーフミラー4は、被験者の眼球Eと液晶ディスプレイ1との間の光路、例えば眼球Eの直前に、法線方向が光路に対して約45度の角度で傾斜するようにして配置されている。液晶ディスプレイ1からの光はハーフミラー4を透過して被験者の眼球Eに入射するので、被験者はハーフミラー4を通して液晶ディスプレイ1の画面を見ることができる。また、赤外発光ダイオード2から照射されて被験者の眼球Eで反射された光は、ハーフミラー4で全反射して、ハーフミラー4の上方に配置されたCCDカメラ3に入射される。
画像処理装置5(瞳孔検出手段)は、CCDカメラ3で撮像された画像を処理し、眼球Eの画像から瞳孔部分を抽出することによって、瞳孔径を計測し、瞳孔径の計測結果をコンピュータ6に出力する。
コンピュータ6は、画像処理装置5および液晶ディスプレイ1と接続され、液晶ディスプレイ1の表示を制御し前記固視標および前記光刺激視標を液晶ディスプレイ1の所定の複数の位置に表示する機能(視標制御手段)と、被験者に前記固視標を注視させた状態で前記光刺激視標を表示した時に画像処理装置5が検出した被験者の瞳孔径の変化をもとに視野を計測する機能(視野計測手段)とを備える。それらの機能は、ソフトウェア(プログラム)によって実現されている。また、コンピュータ6は、操作スイッチ7とも接続されており、操作スイッチ7から、被験者の操作に応じて操作信号を受け取ることができる。
ケース8の内面および、液晶ディスプレイ1の表示画面、赤外光発光ダイオード2の発光面、CCDカメラ3の受光面、およびハーフミラー4を除くケース8内部の全ての部位には、放射率が約1.0の黒体塗料が塗布されている。液晶ディスプレイ1からの照射光を黒体塗料が吸収することによって、光が他の部位に反射されて被験者の眼球の不要な部位に入射し、正確な視野計測が行えなくなるのを防止している。なお、黒体塗料を塗布する代わりに、反射率の低い反射防止塗料を塗布しても良い。
図2および図3に示すように、液晶ディスプレイ1は、液晶ディスプレイ1の位置を、のぞき孔10に対して、上下方向および/または、左右方向および/または、前後方向に調整可能な表示位置調節機構11(表示位置調節手段)の上に設置されている。表示位置調節機構11は、ステッピングモータ12Aにより駆動され、のぞき孔10に対して左右方向(X軸方向)に移動可能なX軸テーブル11Aと、X軸テーブル11Aの上に設置され、ステッピングモータ12Bにより駆動され、のぞき孔10に対して前後方向(Y軸方向)に移動可能なY軸テーブル11Bと、Y軸テーブル11B上に設置され、ステッピングモータ12Cにより駆動され、のぞき孔10に対して上下方向(Z軸方向)に移動可能なZ軸テーブル11Cとで構成されている。液晶ディスプレイ1はZ軸テーブル11C上に設置されている。X軸テーブル11AおよびZ軸テーブル11Cの位置を調節することで、被験者Sが顎載せ台9に顎を載せた状態で、被験者Sの右目又は左目の中心位置に液晶ディスプレイ1の中心位置を合わせることができる。これにより、小さい画面の液晶ディスプレイ1で視野計測を行うことができる。また被験者Sが近視や遠視の場合でも、Y軸テーブル11Bを前後方向に移動させることで、被験者Sのピントが合う位置まで液晶ディスプレイ1を移動させることができる。従って、被験者Sはメガネやコンタクトレンズを装着せずに視野検査を行うことができ、より正確に視野を計測することが可能となる。
図4Aおよび図4Bに示すように、CCDカメラ3は、ハーフミラー4の上側に略水平に配置された取付板13に、前後方向に移動可能で、かつ、X軸周りに回転自在に取り付けられる。そして、図示しないサーボモータなどの撮像装置調節手段により、CCDカメラ3を前後方向に移動させ且つX軸周りに回転させることで、被験者の瞳孔Pの位置とCCDカメラ3の中心とが一致するように、CCDカメラ3の撮像位置および撮像方向を調整することができる。また、CCDカメラ3をX軸周りに回転させることで、ハーフミラーに映る眼球Eの角度を調整することができる。従って、眼球を下側から見上げるような角度にCCDカメラ3の撮像角度を調整することで、瞳孔Pに睫毛が重ならないように瞳孔を撮像することができ、睫毛により瞳孔径の検出精度が低下するのを防止できる。なお、コンピュータ6は、サーボモータなどの前記撮像装置調節手段を制御して、被験者の瞳孔径が最大となるようにCCDカメラ3の撮像位置および撮像方向を調整する撮像装置制御機能(撮像装置制御手段)を有するのが好ましい。この場合、CCDカメラ3の位置および撮像方向を自動で最適な位置および撮像方向に調節することができる。
次に、本発明の視野計による視野の測定原理について説明する。図5は、液晶ディスプレイ1の画面を示しており、画面の中央に固視標Fが表示されている。被験者は片目で固視標Fを注視するように指示され、コンピュータ6は、被験者が片目で固視標を注視している間に、画面の所定の複数の位置に光刺激視標Lをランダムに順次表示する。なお、図5において、“●”は現在表示中の光刺激視標Lの一例を示し、“○”は光刺激視標Lの別の位置の例を示している。
CCDカメラ3は、発光ダイオード2の赤外光を利用して、光刺激視標Lを表示した時の眼球Eの画像を撮像する。図6Aは、撮像された画像の一例を示す。
画像処理装置5は、図6Bに示すように、撮像された画像から瞳孔Pを抽出し、瞳孔径Dを検出する。
ところで、瞳孔の大きさは瞳孔括約筋と瞳孔散大筋とで調節され、瞳孔括約筋は副交感神経系に、瞳孔散大筋は交感神経系にそれぞれ支配されている。従って、正常視野領域内の任意の位置で眼球Eに光刺激を与えると、この情報が副交感神経系に伝達されて反射的に瞳孔括約筋を収縮させ、その後光刺激が無くなると散瞳する。この神経伝達は脳幹反射であるため、被験者の意思によって制御することは通常不可能であり、光刺激に対して無意識に発生する。これを瞳孔対光反射と言い、瞳孔対光反射は光刺激が強いほど、反応が大きくなる。換言すれば大きな反応が得られた光刺激視標の表示位置は網膜の感度が高く、反応が小さい表示位置は網膜の感度が低いと考えられる。
図7は瞳孔対光反射による瞳孔径の変化の一例を示す。コンピュータ6が任意の位置に光刺激視標を0.1秒間提示すると、約0.2〜0.3秒の遅延時間(潜時)dtの後に縮瞳が開始する。瞳孔径は、縮瞳の開始後、時間taの経過後に最大短縮点(極小値)に至る。瞳孔径は、極小値に達した後は徐々に散瞳する。図7において、曲線C1、C2は、異なる視野領域の2点に光刺激を与えた時の瞳孔径の変化であり、曲線C1に比べて曲線C2の方が光刺激に対する瞳孔径の変化の幅が小さくなっている(すなわち、D1>D2)。この曲線C2のように瞳孔径の変化が小さい場合、光刺激視標を提示した位置の視神経に何らかの異常があり、視野の感度が低下していると考えられる。
コンピュータ6(視野計測手段)は、画像処理装置5が検出した瞳孔径の変化をもとに、最大縮瞳量、縮瞳率(初期瞳孔の大きさに対する最大縮瞳量の割合)や、縮瞳速度、散瞳速度などを求める。
以上の原理を用いて実際に緑内障の患者の視野を測定した計測結果の一例を、図8〜図11Bを用いて説明する。この計測においては、画面の中央に固視標Fを表示し、被験者に片目で固視標Fを注視するように指示し、被験者が固視標Fを注視している間に、図8に示すように、被験者の視野を左斜めに走る線上の所定の複数の位置M0〜M20に白色パルスの光刺激視標Lをランダムに表示させ、画像処理装置5が計測した瞳孔径Dから、コンピュータ6が縮瞳率を求めた。なお、液晶ディスプレイ1の背景輝度は約0.5cd/m2、光刺激視標の輝度は約300cd/m2、光刺激視標の大きさは2.0deg、光刺激視標の提示時間は約0.2秒とした。
図9Aは、被験者の右眼の上方の視野の計測結果である。すなわち、図8のM0〜M10の位置に光刺激視標を表示した時の縮瞳率と光刺激視標の表示位置(照射角)との関係をグラフに示したものである。なお、実線は測定結果を示し、破線は、正常な人の縮瞳率を示している。図9Aを見ると、被験者の縮瞳率は、正常な人の縮瞳率よりも全ての照射角において同等以上である。従って、被験者の右眼の上方の視野は、正常と判断できる。
一方、図9Bは、被験者の右眼の下方の視野の計測結果である。すなわち、図8のM0、M11〜M20の位置に光刺激視標Lを表示した時の縮瞳率と光刺激視標の表示位置(照射角)との関係をグラフに示したものである。図9A同様に、実線は測定結果を示し、破線は正常な人の縮瞳率を示している。図9Bを見ると、被験者の鼻側の領域(すなわちM11〜M15)、および耳側の一部の領域(M17,M20)では、被験者の縮瞳率は正常な人の縮瞳率よりも低下している。すなわち、それらの領域では、被験者の視野の感度が低下していると考えられる。
なお、図10は、同一被験者に同時期に行った静的視野計(自覚式視野計)の測定結果である。この静的視野計を用いた検査では、被験者は、光刺激視標が見えた時に操作スイッチを押すように指示され、光刺激視標を表示した時に被験者が操作スイッチを押すとその点は被験者の正常視野領域と判断し、光刺激視標を表示しても被験者が操作スイッチを押さない場合はその点は異常視野領域と判断し、正常視野領域の領域を白色、異常視野領域の領域を黒色で表したグレースケールで被験者の視野を表現した。図10を見ると、図9Aおよび図9Bの測定結果と同様に、被験者の上側の領域は被験者の正常視野領域であり、被験者の下側の領域の一部は、被験者の異常視野領域であることがわかる。
本発明では操作スイッチ7を用いることで、上述の静的視野計を用いた検査と同等の検査を行うことも可能であり、自覚的な検査と他覚的な検査を併用することによって、得られた結果の信頼性を向上させることが可能である。
ところで、図11Aは、本視野計による被験者の左目の下方の視野の他覚的な計測結果であり、図11Bは、静的視野計による被験者の左目の視野の自覚的な計測結果である。図11Aを見ると、被験者の耳側(M13の位置の付近)の領域では縮瞳率が低下しており、被験者の視野の感度が低下していると思われる。しかしながら、図11Bを見ると、被験者の耳側の下方の領域は白色であり、正常視野領域と判定されている。つまり、自覚式の検査では正常視野領域と判定されているが、他覚式の検査では視野の感度が低下しているという結果が出ている。これは、他覚式の検査が、被験者に自覚症状が出る前の初期段階の症状をいち早く捉えているためと考えられる。このように、他覚式の視野計は、症状をいち早く捉え症状の進行を止めることができると期待される。
なお、上記計測例では、コンピュータ6(視野計測手段)は、被験者の視野を計る指標として、瞳孔径の変化から縮瞳率を求めたが、コンピュータ6(視野計測手段)は、縮瞳率を求めるだけでなく、光刺激視標が表示された位置が被験者の正常視野領域か否かを判断する機能を備えていてもよい。例えば、コンピュータ6は、縮瞳率と所定の閾値とを比較して、縮瞳率が閾値より大きければ正常視野領域と判定し、小さければ異常視野領域と判定する。この場合、閾値は、例えば被験者の年齢や性別に応じて変化させるのが好ましい。或いは、被験者の視野をいくつかの領域(例えば、第1象限〜第4象限)に分割し、視野の感度が低下している密度が多い領域を異常視野領域と判定するようにしてもよい。
また、コンピュータ6(視標制御手段)は、光刺激視標の色を変更する機能を備えていてもよい。色波長によって網膜の感度が異なることから、光刺激視標の色を変更することによって、特定の網膜領域の検査が可能となる。すなわち、一般に網膜細胞は白黒に反応する杆体細胞と色に反応する錐体細胞とに分けられ、有色の光刺激視標を表示することによって、錐体系の反応の検査を行うことが可能となる。
なお、上記検査では、光刺激視標を、被験者の視野を左斜めに走る線上のみに表示したが、光刺激視標を表示する位置は上記の例に限定されるものではない。
ところで、縮瞳率は加齢と共に低下する傾向があり、被験者によっては、パルス状の光刺激を与えても瞳孔対光反射が小さい場合がある。このような場合は、パルス状の光刺激視標を、潜時の間に、少なくとも2回連続して表示するのが好ましい。図12Aに0.2秒のパルス状の光刺激L1を表示した時の瞳孔径の変化(曲線C3)を示し、図12Bに0.1秒のパルス状の光刺激L2,L3を0.1秒間隔で続けて2回表示した時の瞳孔径の変化(曲線C4)を示す。図12Aと図12Bとを比較すると、図12Aおよび図12B共に光刺激を与えている総時間は0.2秒で同じであるものの、瞳孔径の変化の大きさは図12Bの方が大きくなっている。このように、パルス状の光刺激視標を、少なくとも2回連続して表示することで、大きな瞳孔対光反射を得ることが期待できる。
また、光刺激を与えない定常状態においても瞳孔の大きさが揺らいでいることがあり、瞳孔径の変化が光刺激によるものなのか否かの判断が困難になる場合がある。そのような場合、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を液晶ディスプレイに表示するのが好ましい。図13は、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標として光のパルス列L4を、周期2秒で5回連続して視野の中心方向に提示した時の瞳孔径の変化の一例である。図13を見ると、光刺激視標の提示前でも瞳孔径が揺らいでいるが、5回のパルス列L4を提示すると、それに同期して瞳孔径の変化(曲線C5)も5回生じている。このように、被験者の視野が正常な場合、光の強弱を周期的に変化させることによって、誘発される瞳孔径の変化も周期性を持つようになる。従って、図13のような周期性を伴った瞳孔径の変化を観察すると、それは光刺激によって誘発されたものである可能性が非常に高いと考えられる。なお、図13は、視野の中心方向に光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を提示した時の一例であったが、視野の様々な領域に光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を提示しても全く同様のことがいえる。従って、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を液晶ディスプレイ1の所定の複数の位置に表示し、その時の瞳孔径の変化を計測することで、被験者の視野を計測することができる。
光刺激視標の光の強弱の周期と瞳孔径の変化の周期との同期性の判断は、光刺激Pの変化の数と、瞳孔径の変化の数(極小値と極大値の繰り返しの数)との対応がとれているか否かで判断することができる。あるいは、瞳孔径のデータ列に自己相関分析を適用してその周期性を調べることによって同期性を判断してもよい。
また、コンピュータ6(視野計測手段)が、自己相関分析などを用いて光の強弱の周期と瞳孔径の変化の周期との同期性を求め、測定者(医師など)に求めた同期性を知らせる機能を持つのも好ましい。この場合、測定者は、光刺激視標の光の強弱の周期と瞳孔径の変化の周期との同期性を見て、測定結果の信頼性を判断することができる。
瞳孔径が周期的に変化した場合、瞳孔径の極小値と極大値とを容易に求めることができる。従って、コンピュータ6(視野計測手段)は、瞳孔径の極小値と極大値との差、すなわち瞳孔径の振動幅を、瞳孔径の変化の大きさと規定するのが好ましい。振動幅の半分の値である振幅を、瞳孔径の変化の大きさと規定しても良い。また、図13のように極小値と極大値との差が複数得られた場合は、それらの平均値を、その光刺激視標の提示位置での瞳孔径の変化の大きさとしてもよい。その場合、瞳孔径のばらつきを抑えることができる。
そのようにして得られた瞳孔径の変化の大きさを用いて、コンピュータ6(視野計測手段)は、瞳孔径の変化の大きさと光刺激視標の光の強さとの比を求め、その比に基づいて、被験者の視野の感度を計測するのが好ましい。ごく微少な網膜領域が不全であるもののその周辺部は正常である場合、光刺激の網膜への照射範囲が網膜の不全領域と正常領域に跨っていれば、瞳孔反応は生起することもあり得る。そのような場合、不全領域と正常領域の大きさの比によって瞳孔反応の大きさは異なると考えられ、瞳孔反応の大きさを計測することによって、視野の感度を求めることができると考えられる。瞳孔反応の大きさは光刺激の強さに依存し、光刺激が強いほど瞳孔反応は大きくなる。そこで、コンピュータ6は、瞳孔径の変化の大きさと光刺激視標の光の強さとの比(瞳孔反応の大きさ/光刺激の大きさ)を求めることで、被験者の視野の感度を計測できる。すなわち、上記比の値が小さければ、強い光に対して瞳孔反応が小さいということであり、網膜の感度が低下しているといえる。
また、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標を表示する場合、コンピュータ6(視標制御手段)は、光の強弱の周期を変える機能を有するのが好ましい。図14に、光のパルス列L5を、周期1秒で提示した例を示す。周期2秒で光のパルス列を提示した図13と、周期1秒で提示した図14とを比較すると、図14の瞳孔径の変化の大きさは、図13の変化の大きさよりも小さく、周期性の特徴が不鮮明になっている。十分に散瞳する前に次の光刺激が提示されるほど周期は短くなり、瞳孔反応の大きさの変化は小さくなる。従って、瞳孔径の変化の大きさの可読性を向上させるためには、周期は短すぎないほうがよい。一方、周期が長い場合は、検査時間が長くなり、被験者の負担は大きくなる。そのため、コンピュータ6が光の強弱の周期を変える機能を有し、瞳孔径の変化の周期性が明瞭なときは、検査に要する時間が短くなるように光の強弱の周期を短くし、周期性が不明瞭なときは、波形の視認性を向上させるために光刺激提示の周期を長くするのが好ましい。
なお、図13、図14では、一定周期で光の強弱を変化させたが、光の強弱は厳密に一定周期である必要はない。瞳孔径Dの変化をリアルタイムに計測し、瞳孔反応の周期に応じて光の強弱の周期を変化させ、最適なタイミングで光刺激視標を提示させることで、瞳孔径の変化をより大きくすることができる。
図13では、光の強弱が周期的に変化する光刺激視標として、光のパルス列L4を示したが、光のパルス列の代わりに、図15に示すように、光の刺激が正弦波状に変化する視標L6を用いてもよい。図15を見ると、光の刺激が正弦波状に変化する視標L6を提示すると、瞳孔径の変化(曲線C7)は、やや正弦波よりもずれているものの、光刺激に対応して変化しており、図15のような周期性を伴った瞳孔径の変化を観察すると、それは光刺激によって誘発されたものである可能性が非常に高いと考えられる。このように、光のパルス列の代わりに光の刺激が正弦波状に変化する視標L6を用いても、瞳孔径の変化が光刺激によるものなのか否かの判断を容易にすることができる。
なお、図15において、瞳孔径はオフセット成分(DC値)が減少傾向にある。このようなトレンドを持つ瞳孔径の変化時においては、単発の光刺激では、瞳孔径の変化がトレンドによるものなのか、光刺激によるものなのかが、著しく不鮮明になっていた。しかしながら、図15においては、瞳孔径が周期的に変化するので、この変化が光刺激によるものであり、該当する網膜領域が正常であると容易に判断できる。
また、コンピュータ6(視標制御手段)は、光刺激視標の大きさを変える機能を有するのも好ましい。一般に、光刺激視標が大きくなれば、瞳孔対光反射の大きさは大きくなり、波形の可読性が向上する。しかしながら、視標が大きければ、網膜への刺激領域が大きいため、精密な計測ができなくなる。一方、視標の視野角が小さくなれば波形の可読性が低下するが、精密な計測ができ、より早期に緑内障などの診断が期待できる。すなわち、波形の可読性と精密な計測はトレードオフの関係にある。そのため、コンピュータ6が光刺激視標の大きさを変える機能を有し、精密に検査したい視野方向に関しては視標を小さくし、データの可読性を向上させたい時は、大きくすればよい。視標を小さくした場合は、波形の可読性を向上させるために、光刺激視標の繰り返し回数を大きくしたり、背景輝度を小さくして瞳孔の変化を大きくするのが好ましい。
なお、上述のように光刺激視標の光の強弱や周期、大きさなどを容易に変更できるのは、本実施形態の視野計が表示装置として液晶ディスプレイ1を使用しているからである、ということを忘れてはならない。
本実施形態では表示装置として液晶ディスプレイ1を用いていたが、液晶ディスプレイ1の代わりに、CRTや、PDP、ELD、FEDなどのディスプレイ装置を用いても良い。
また、ゴーグル型のケースの内部に小型の液晶ディスプレイを内蔵したヘッドマウント型の視野計を構成することもできる。
上記のように、本発明の技術的思想に反することなしに、広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は、請求の範囲において限定した以外は、その特定の実施形態に制約されるものではない。