JP4512061B2 - サドル構造のゴムブーツ拡径治具 - Google Patents

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Description

本発明は、マルチケーブルを使用したサドル構造の出口部を封止するゴムブーツの拡径治具に関する。
斜張橋やエクストラドーズド橋において、主桁に両端部を固定されるケーブルの中間部を主塔部分で保持するサドル構造が知られている。最近、このサドル構造に使用するケーブルにマルチケーブルを使用することが提案されている。マルチケーブルは、複数の素線ケーブルを被覆管内に収納して一本にまとめたものであり、サドル構造に適用した場合、サドル構造の出口部の構造を簡素化させることができる。このようなサドル構造としては、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。
図8は、特許文献1に記載されたサドル構造と同様の構成を有するサドル構造の概略構成図である。サドル構造100は、コンクリートで構成される主塔200内に埋設される外管110と、この外管110の内部に配置される内管120とを主たる構成要素とする。内管120の内部には緊張された状態のマルチケーブル130が挿通されるとともに、グラウト140が充填されており、このマルチケーブル130はグラウト140を介して内管120と一体になっている。また、内管120の端部にスライドパイプ150がネジ嵌合され、さらに、スライドパイプ150の端部にゴムブーツ160が装着されている。
上記のゴムブーツ160は、細径部と太径部とを有しており、太径部はスライドパイプ150側に、細径部はマルチケーブル130側に配置され、スライドパイプ150の端部とマルチケーブル130との隙間を封止している。このとき、ゴムブーツとマルチケーブルとの間の密着性を向上させて、サドル構造からのグラウトの漏れを防止するために、ゴムブーツの細径部および太径部の内径は、装着対象であるマルチケーブルおよびスライドパイプの外径とほぼ同じか、若干のマイナス公差を有するように製造されている。
特開2003−55911号公報
しかし、上記のようなゴムブーツをサドル構造の所定位置に装着する作業が困難であった。
そもそも、ゴムブーツをスライドパイプに装着するには、ゴムブーツを予めスライドパイプの外周に配置して、ケーブルの緊張後にゴムブーツを所定の位置に移動させなければならない。これは、サドル構造の構造上、マルチケーブルを緊張して主桁に定着した後に、ケーブルの両端部からゴムブーツを嵌め込むことができないためである。このゴムブーツは、比較的硬度が高く、このゴムブーツをマルチケーブルに配置する際、マルチケーブルに装着すること自体が困難である。しかも、ケーブルの外周面に沿ってゴムブーツを移動させるときに、ケーブルの外周面にゴムブーツが摺れて、マルチケーブルやゴムブーツが損傷したりしてサドル構造の出口部を確実に封止することができない虞がある。
一方、ゴムブーツの代わりに熱収縮チューブをサドル構造の出口部の封止に使用することも提案されている。熱収縮チューブは、装着対象に対する密着性が高く、サドル構造の内部からグラウトが漏れ難い。しかし、熱収縮チューブを使用した場合、チューブをガスバーナー等で加熱する作業を行なわなければならず、この作業が煩雑であった。また、加熱作業による熱がケーブルに伝導してケーブルの耐久性が劣化するなどの悪影響を及ぼすことがあり、慎重に作業を行なう必要があった。しかも、熱収縮チューブでは、チューブの取り付け後に橋梁に振動が生じてケーブルが微少な移動をした場合、このケーブルの移動に追従する柔軟性が十分でなく、サドル構造の出口部を封止しておけない虞がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その主目的は、サドル構造の出口部を効果的に封止するために、簡単、且つ、確実にサドル構造の出口部にゴムブーツを装着させる治具を提供することにある。
本発明は、ゴムブーツを拡径した状態で、ゴムブーツの内部にマルチケーブルを挿通できるようにするとともに、ゴムブーツを所定位置に装着した後、容易にゴムブーツから取り外すことができる構成とすることで上記の目的を達成する。
本発明ゴムブーツ拡径治具は、内部拡径部材と、外部筒状部材と、連結支持部材と、可動連結部材とを備える。内部拡径部材は、少なくとも2つ以上の分割片からなり、マルチケーブルが挿通されるサドル構造の出口部を封止する筒状のゴムブーツをゴムブーツの内部から径方向外方に拡径する。外部筒状部材は、内部拡径部材の外周で、さらにゴムブーツの外周に配置される。連結支持部材は、内部拡径部材の一端側を外部筒状部材に保持する。可動連結部材は、内部拡径部材の他端側を外部筒状部材に保持するとともに、内部拡径部材の外部筒状部材に対する相対的位置を変化させる。そして、このゴムブーツ拡径治具は、外部筒状部材と内部拡径部材との連結を解除することにより外部筒状部材の内部から内部拡径部材を取り外し可能に構成したことを特徴とする。
上記構成を有する本発明ゴムブーツ拡径治具によりゴムブーツを拡径した場合、内周側から順に、内部拡径部材、ゴムブーツ、外部筒状部材が配置されることになる。即ち、内部拡径部材の内部の空間にマルチケーブルを挿通させることができる。また、この拡径治具により拡径したゴムブーツにマルチケーブルを挿通させた後、マルチケーブルとゴムブーツとの間から内部拡径部材を引き抜くように取り外すことができる。もちろん、外部筒状部材は、ゴムブーツの外周にあるので取り外し自在である。以下、各構成部材を説明する。
<内部拡径部材>
本発明ゴムブーツ拡径治具の内部拡径部材は、2つ以上の分割片から構成されていることによりゴムブーツを径方向外方に均等に拡径することができる。好ましくは、3〜5つの分割片をゴムブーツの内部の周方向に均等に配置する。このようになすことで、拡径したゴムブーツの開口形状をほぼ円形にすることができるので、ゴムブーツ内にマルチケーブルを円滑に挿通させることができる。
各分割片は、ゴムブーツを内部から拡径することができる形状であれば特に限定されない。好ましくは、ゴムブーツを長手方向の全長に亘って拡径することができる形状である。例えば、ゴムブーツの長手方向に沿った長方形状の板状部材が好適に利用可能である。より好ましくは、内部拡径部材の各分割片を、断面円弧状の板状部材とすると、分割片の角部がゴムブーツやマルチケーブルに食い込んでこれらが損傷することを低減できる。また、分割片の長手方向の長さは、後述する外部筒状部材と連結する必要があるため、ゴムブーツの両開口端から突出する長さとすると良い。
上述した板状部材のように、分割片が角部を有する形状の場合、分割片の角部を丸めることが好ましい。具体的には、分割片として板状部材を使用する場合、板状部材の角、特にマルチケーブル側の面に存在する角を丸めることで、マルチケーブルの外周面を損傷する可能性を低下させることができる。さらに、板状部材の角と角とを繋ぐ稜線を丸めることが好ましい。前記稜線を丸めることによっても、マルチケーブルの外周面を損傷する可能性を低下させることができる。
また、分割片のうち、少なくともマルチケーブルの側に配される面(内面)にマルチケーブルの外周面を損傷しないように表面処理を施すことが好ましい。この表面処理としては、例えば、エポキシ塗装などが挙げられる。表面処理により、分割片を取り外すときなどに、マルチケーブルの外周面を損傷させる可能性を低くすることができる。その他、表面処理によっては、分割片とマルチケーブルとの間の摩擦抵抗を低減させることができる。摩擦抵抗を低減させることにより、ゴムブーツとマルチケーブルとの間から分割片を取り外し易くなる。
<外部筒状部材>
外部筒状部材は、その内部に内部拡径部材を配置可能な筒状の部材である。この外部筒状部材の内径は、内部拡径部材の内部にマルチケーブルを円滑に挿通可能な位置に内部拡径部材を移動させることができる大きさである。
また、外部筒状部材は、ゴムブーツの外周から取り外し可能なように、2つ以上の分割片から構成することが好ましい。例えば、円筒状の外部筒状部材を長手方向に半分に分割することが、最も製造が簡単で、ゴムブーツの外周面から取り外し易い構成である。このような分割片は、例えば、留め金、代表的には、キャッチクリップなどにより互いに係合させると良い。その他、分割片を係合して筒状にしたときに、タイラップ(トーマスアンドベッツ社の登録商標)のような結束バンドで分割しないようにしても良い。この場合、外部筒状部材をゴムブーツの外周から取り外すときは、結束バンドを緩めることにより分割すれば良い。また、各分割片をヒンジなどで連結して一体に形成すると、外部筒状部材を取り外すときなどに、分割片の一つを落としてしまったりすることをなくすることができる。
その他、外部筒状部材の好ましい構成として、後述する可動連結部材に締付軸を使用する場合、外部筒状部材の一端側にスリットを設けることが挙げられる。このスリットは、締付軸を外部筒状部材の内部から外部に向かって貫通させる構成である。スリットの効果については、可動連結部材の項目で詳述する。
<可動連結部材>
可動連結部材は、外部筒状部材と内部拡径部材を連結するとともに、外部筒状部材に対する内部拡径部材の相対的位置を変化させてゴムブーツを拡径することができる構成であれば良い。また、可動連結部材による外部筒状部材と内部拡径部材との連結を必要に応じて解除することができる構成とする。この様な構成として、例えば、締付軸を使用することが挙げられる。締付軸を使用する場合、締付軸を締め付けることにより内部拡径部材を外部筒状部材の径方向に移動させることができる。この移動によりゴムブーツを拡径することができる。
締付軸を使用した可動連結部材の代表的な構成としては、後述する実施例のように、外部筒状部材にスリットを設けるとともに、さらネジと蝶ナットを使用した構成が挙げられる。具体的には、さらネジの頭部を内部拡径部材(内部分割片)に固定するとともに、外部筒状部材のスリットを通して外部筒状部材の外周方向に突出させ、この突出部に蝶ナットを螺合させる。そして、蝶ナットを回転させることにより、さらネジを外部筒状部材の径方向外方に送り出し、このさらネジの送り出しに伴って内部拡径部材を外部筒状部材の径方向外方に移動させる。この移動によりゴムブーツを拡径できる。上記のように、さらネジ、蝶ナットおよびスリットを使用した可動連結部材によれば、さらネジをスリットの開口端方向に引き抜くように取り外しできる。さらネジが取り外された場合、外部筒状部材と内部分割片(内部拡径部材)との連結が解除されるとともに、さらネジが固定される内部分割片も、マルチケーブルとゴムブーツとの間から引き抜くように取り外すことができる。なお、蝶ナットを逆回転させることにより、内部拡径部材を外部筒状部材の径方向内方に移動させることができる。この移動により、ゴムブーツの拡径度合いを緩めることができるので、スリットから内部拡径部材を引き抜きやすくなる。
<連結支持部材>
連結支持部材は、外部筒状部材と内部拡径部材とを連結する部材である。但し、この連結は、必要に応じて解除することができるように形成する。例えば、連結支持部材として、外部筒状部材に固定されて内部拡径部材の一端側が外部筒状部材の径方向内方へ移動することを規制する爪状の部材とすることが挙げられる。爪状の部材は、外部筒状部材の内部に突出するように構成すると、内部拡径部材を外部筒状部材に引っ掛けるように固定することができる。このようになすことにより、内部拡径部材を径方向内方と爪状の部材の設けられている方向以外に容易に移動させることができるので、必要に応じて外部筒状部材と内部拡径部材との連結を解除することができる。爪状の部材としては、具体的には、板状の部材の一端を折り曲げた断面L字状とすると、製造が容易で、外部筒状部材に固定しやすく好ましい。その他、断面[状に形成して、[状の上部片を外部筒状部材にネジ留めなどにより固定し、[状の下部片で内部拡径部材を保持することが挙げられる。断面[状の連結支持部材の場合、連結支持部材自体を外部筒状部材から取り外すことができるので、内部拡径部材と外部筒状部材との連結を容易に解除することができる。
また、上記爪状の部材を、外部筒状部材の径方向に移動可能なように構成することが好ましい。このような構成とするには、例えば、後述する変形例に示すようにネジとナットを使用すると良い。
本発明サドル構造のゴムブーツ拡径治具によれば、ゴムブーツ拡径治具の内部拡径部材によりゴムブーツを拡径した状態で、内部拡径部材の内部(ゴムブーツの内部)にマルチケーブルを挿通させることができる。また、内部拡径部材の内部にマルチケーブルを挿通した状態で、外部筒状部材と内部拡径部材との連結を解除することで、ゴムブーツとマルチケーブルとの間から内部拡径部材を取り除くことができる。従って、本発明サドル構造のゴムブーツ拡径治具を使用することにより、装着対象に対してマイナス公差を有するゴムブーツを簡単、且つ確実に装着対象に装着することができる。
<実施例1>
本例では、本発明ゴムブーツ拡径治具を斜張橋やエクストラドーズド橋などのサドル構造の構築に使用した場合を例として説明を行なう。これらの橋梁は、地面にほぼ平行に延びる主桁と、主桁にほぼ垂直に延びる主塔と、主塔から主桁に伸びる斜材ケーブル(マルチケーブル)により構成される。まず初めに、サドル構造の全体構成を、次いで、ゴムブーツ拡径治具について説明する。最後に、ゴムブーツ拡径治具を使用したサドル構造へのゴムブーツの取り付け方法を説明する。
(サドル構造の全体構成)
図1は、マルチケーブルを用いたサドル構造の出口部の部分拡大図である。サドル構造100は、橋梁の主塔200に埋設した外管110と、外管110の内部に配置された内管120とを主たる構成要素とし、内管120の内部に挿通したマルチケーブル130で橋梁の主桁を吊り下げるように構成したものである。
サドル構造100の外管110は、その両端部が主塔の対向する側壁に開口するようにコンクリート製の主塔200に埋設される。外管110の外周には、外管110の長手方向に沿って主塔200を補強する補強筋111が配置される。また、主塔200の側壁のうち、外管110の開口端部近傍には支圧板121が配置されている。
内管120は、外管110の内部に配置され、外管110から突出するように主塔200の対向する側壁に開口している。また、内管120と外管110との間には隙間が形成され、この隙間にグラウト排出ホース141が挿入されている。さらに、内管120の端部に形成される直管部の外周面にはリングナット122がネジ嵌合されており、このリングナット122は上述した支圧板121を押圧している。
マルチケーブル130は、内管120内に挿通され、両端部が図示しない主桁に固定されている。マルチケーブル130と内管120との間にはグラウト140が充填され、マルチケーブル130と内管120とがグラウト140を介して一体となっている。内管120内に配置されるマルチケーブル130の一部は、グラウト140との付着性を向上させるために被覆が剥がれており、素線ケーブル131が露出した状態である。また、内管端部(内管直管部)において、マルチケーブル130と内管120との隙間からグラウト140が漏れないように、直管部にスライドパイプ150がネジ嵌合され、さらにスライドパイプ150の端部にゴムブーツ30が装着されている。スライドパイプ150には、グラウト注入口142が設けられている。
ここで、内管120の直管部の両端部に設けたゴムブーツ30は、グラウト140が硬化するまでグラウト140を内管120内に保持して、内管120の外側に漏れることを防止するものである。詳細には、図2に示すように、ゴムブーツ30は、細径部31と太径部32とからなり、細径部31の中心軸と太径部32の中心軸とがずれた状態にある筒状部材である。ゴムブーツ30の太径部32はスライドパイプ150の端部を覆うように、細径部31はマルチケーブル130の外周を覆うように配置される(図1および図2を参照)。装着前の太径部32の内径は、スライドパイプ150の外径よりも小さく、細径部31の内径は、マルチケーブル130の外径よりも小さい。このゴムブーツ30により、スライドパイプ150の端部におけるスライドパイプ150とマルチケーブル130との隙間を封止することができ、内管120の両端部からグラウト140が漏れることを防止することができる。なお、使用するゴムブーツの形状は、図2のものに限定されず、サドル構造の出口部の構造に応じて適宜選択すれば良い。例えば、細径部と太径部の中心軸が一致したものでも良いし、径の一様な円筒状のものでも良い。
以上のような構成を有するサドル構造において、ゴムブーツを所定位置に装着させるためのゴムブーツ拡径治具を以下に説明する。
(ゴムブーツ拡径治具の全体構成)
図3(A)〜(D)は、ゴムブーツ拡径治具によりゴムブーツを拡径した状態を示す図である。図に示すように、ゴムブーツ拡径治具1は、外部筒状部材10と内部拡径部材20とを備えている。内部拡径部材20の一端側は、外部筒状部材10に固定されるフック14(爪状の連結支持部材)により外部筒状部材10に係止されている。また、内部拡径部材20の他端側は、内部拡径部材20に固定されるさらネジ16sと、さらネジ16sに螺合された蝶ナット16nにより外部筒状部材10に係止されている。このさらネジ16sと蝶ナット16nとが連結支持部材に相当する。このとき、ゴムブーツ30の太径部は、フック14側に配置され、細径部は、可動連結部材16側に配置される。そして、可動連結部材16の蝶ナット16nを回転させて、内部拡径部材20に固定されるさらネジ16sを外部筒状部材10の外周方向に送り出すことで、内部拡径部材20を外部筒状部材10に対して相対的に移動させる。このようになすことにより、内部拡径部材20でゴムブーツ30の内部からゴムブーツ30を拡径することができるとともに、後述するように、内部拡径部材10の内部にゴムブーツ30を圧接することなくマルチケーブルを挿通させることができる。以下、各構成部材を詳細に説明する。
[外部筒状部材]
外部筒状部材10は、第1外部分割片11と第2外部分割片12とからなる円筒状の部材である。第1外部分割片11と第2外部分割片12の外観形状はほぼ同一であり、各々を軸方向から見たときに半円弧状の端面を有する。
第1外部分割片11の外周面には、周方向の一方の端部に所定の間隔を空けてキャッチクリップ13の本体部13aが2つ設けられており、他方の端部にも同様にキャッチクリップ13の本体部13aが2つ設けられている。また、第2外部分割片12には、第1外部分割片11のキャッチクリップ13の本体部13aに対応する位置にキャッチクリップ13の留め金部13bが設けられており、これら本体部13aと留め金部13bとの係合により外部筒状部材10が分割しないように係合されている。
外部筒状部材10の長手方向の一端側には、周方向に均等な位置にさらネジ16sの軸を配置可能な4つのスリット15が設けられている。スリット15は、さらネジ16sの軸を挿通可能で、蝶ナット16nの下面が引っ掛かる程度の幅を有している。従って、さらネジ16sに螺合させた蝶ナット16nの下面が外部筒状部材10の外周面に当て止めされることで、外部筒状部材10と内部拡径部材20とが連結される。さらに、さらネジ16sの軸をスリット15の開口方向にスライドさせることにより、さらネジ16sの軸をスリット15の開口端方向に引き抜くことができるので、外部筒状部材10と内部拡径部材20との連結を容易に解除することができる。
一方、外部筒状部材10の他端側には、前記スリット15に対応する位置に断面L字状のフック14が設けられている。フック14は、一端が外部筒状部材10に溶接により固定され、他端側が外部筒状部材10の径方向内方に突出するとともに、その先端部が外部筒状部材10の長手方向内方に折れ曲がっている。このフック14の屈曲部分に内部拡径部材20が引っ掛かることによって、内部拡径部材20の一端が外部筒状部材10の径方向内方に移動することが規制される。
[内部拡径部材]
図4は、内部拡径部材の外観を示す図である。内部拡径部材20は、板状の4つの内部分割片21からなる。各分割片21は、同じ形状を有する断面円弧状の部材である。内部分割片21には、以下の処理を施して、ゴムブーツ30の取り付け作業中にマルチケーブルの外周面が損傷しないようにした。
1.分割片21の4つの角cをグラインダーにより面取りした。
2.分割片21の隣接する角部cを繋ぐ稜線のうち、長手方向の稜線rをグラインダーにより面取りした。
3.上記1.および2.以外の角部を糸面取りした。
4.分割片21のうち、後述する第1貫通孔21hおよび第2貫通孔22h以外の部分にエポキシ塗装を施した。
内部分割片21の一端側外周面には、さらネジを係止する断面[状の係止部22が設けられている。係止部22には、さらネジの軸の径よりも大きく、さらネジの頭部の径よりも小さな孔径を有する第2貫通孔22hが設けられている。また、分割片21の本体には、係止部22の第2貫通孔22hと同軸状にさらネジの頭部の径よりも大きな孔径を有する第1貫通孔21hが設けられている。
このような構成により、内部拡径部材20の内周側からさらネジ16sを挿入すると、さらネジ16sの軸部が第1貫通孔21hと第2貫通孔22hに貫通され、さらネジ16sの頭部が第2貫通孔22hに引っ掛かった状態になる(図3(C)を合わせて参照)。そして、さらネジ16sの軸を外部筒状部材10のスリット15に貫通させ、このさらネジ16sの軸に蝶ナット16nを螺合させることで、内部拡径部材20を外部筒状部材20に連結させる。このとき、蝶ナット16nの下面が外部筒状部材10に外周面に当接されるので、蝶ナット16nを回転させることで、外部筒状部材10の径方向に対する内部拡径部材20の位置関係を移動自在に構成することができる。また、本構成では、さらネジ16sが係止部22に引っ掛かっているので、さらネジ16sを外部筒状部材10のスリット15の方向に引き抜きことにより、さらネジ16sと一体になって内部分割片21を外部筒状部材10から引き抜くことができる。即ち、内部拡径部材20と外部筒状部材10との連結の解除と、内部拡径部材20の取り外しが同時に行なわれることになる。
(ゴムブーツの装着方法)
以上、説明したゴムブーツ拡径治具によりサドル構造の出口部にゴムブーツを装着する手順は、以下に示す通りである。
[1] ゴムブーツの内部に内部分割片を配置する。
このとき、内部分割片の係止部が設けられている側が、ゴムブーツの細径部に配置されるようにする(図3の(D)を参照)。
[2] 外部分割片を係合して予め筒状にした外部筒状部材のフックに内部分割片の一端を係止させる。
4つの内部分割片をフックに係止させるときに、若干ゴムブーツの太径部を広げるようにしなければならないが、この作業は手作業で十分行なうことができる。
[3] 外部筒状部材のスリットに、内部分割片に取り付けられたさらネジの軸を貫通させ、この軸に蝶ナットを螺合させる。
本例のゴムブーツ拡径治具では、内部分割片をフックに引っ掛けた時点で、内部分割片のさらネジが、外部筒状部材のスリットの位置に配置されるようになっている。従って、さらネジの軸に蝶ナットを螺合させることは容易である。
[4] 蝶ナットを回転させることで、内部分割片の他端を外部筒状部材の径方向外方に移動させて、ゴムブーツを拡径する。
ゴムブーツを拡径するときは、4つの蝶ナットを順番に少しずつ回転させ、ゴムブーツが周方向に均等に拡径されるようにする。
[5] ゴムブーツ拡径治具を用いて拡径したゴムブーツにマルチケーブルを挿通させる。
ゴムブーツにマルチケーブルを挿通させるときは、ゴムブーツの太径部がサドル構造の出口部におけるスライドパイプ側に配置されるようにする。ここで、ゴムブーツにマルチケーブルを挿通させる時期は、マルチケーブルの両端部を主桁に固定する前である。
[6] マルチケーブルを緊張した後、拡径したゴムブーツを所定位置に移動させる(図5(A)を参照)。
所定位置とは、ゴムブーツ30の太径部がスライトパイプ150の端部を、細径部がマルチケーブル130の外周を覆うような位置である。
[7] 所定位置へのゴムブーツ30の移動が完了したら、蝶ナット16nをある程度弛めて、さらネジ16sを外部筒状部材10に設けられたスリット15の開口端の方向に引き抜く(図5(B)を参照)。
蝶ナット16nを弛めることにより、蝶ナット16nが外部筒状部材10に圧接される力を減少させることができるので、さらネジ16sをスリット15から取り外し易くなる。また、さらネジ16sの引き抜きに伴って内部分割片21が外部筒状部材10から引き抜かれる。
[8] キャッチクリップによる外部分割片11,12の係合を解除して外部筒状部材10をゴムブーツ30の外周から取り除く(図6(C)を参照)。
以上、[1]〜[8]の手順により、サドル構造出口部にマイナス公差を有するゴムブーツを所定位置に容易に取り付けることができる。もちろん、本発明ゴムブーツ拡径治具は、再使用可能である。
<変形例1−1>
本例では、連結支持部材(実施例1ではフック)の位置でも内部拡径部材を外部筒状部材の径方向に移動可能に構成したゴムブーツ拡径治具を説明する。本例の拡径治具は、連結支持部材の構成以外は、実施例1と同一であるため、以下に実施例1との相違点についてのみ説明する。
図7(A)〜(C)に示すように、本変形例の連結支持部材50は、[状フック52と、蝶ネジ51からなる。この連結支持部材50は、実施例1のフックの位置に設けられ、内部分割片21を支持している。具体的には、[状フック52は、上片521と、下片522と、上片521と下片522とを繋ぐ垂直片523からなる断面[状状の部材であり、下片522の部分で内部分割片21を支持している。一方、上片521にはネジ孔521hが設けられており、このネジ孔521hに蝶ネジ51が螺合されている。ここで、[状フック52は、ゴムブーツ30の弾性力により内部分割片21を介して図の下方に向かって引っ張られるので、[状フック52に螺合させた蝶ネジ51の先端は、外部筒状部材10の外周面に当接する。即ち、蝶ネジ51を回転させることにより、[状フック52を外部筒状部材10の径方向に移動させることができる。そして、[状フック52の移動に伴って、内部分割片21(内部拡径部材20)も外部筒状部材10の径方向に移動させることができる。
本変形例の構成によれば、ゴムブーツの長手方向両端部の径を自在に変化させることができるので、種々の寸法を有するゴムブーツの拡径を行なうことができる。
本発明は、サドル構造の出口部を封止するゴムブーツを拡径することに好適に利用可能である。
図1は、実施例1に示したサドル構造出口部の概略拡大図である。 図2は、ゴムブーツの外観図である。 図3は、実施例1のゴムブーツ拡径治具を示す図であって、(A)は、外観構成図を、(B)は、ゴムブーツ拡径治具のA矢視図、(C)はゴムブーツ拡径治具のB矢視図、(D)は、X-X断面図である。 図4は、実施例1の内部拡径部材を示す図であって、(A)は4つの内部分割片からなる内部拡径部材の配置図、(B)は内部分割片の正面図である。 図5は、実施例1のゴムブーツ取り付け手順を示す図であって、(A)は、ゴムブーツを所定位置に配置した状態を示す図であり、(B)は、(A)の状態から内部拡径部材を取り除いた状態を示す図である。 図6は、実施例1のゴムブーツ取り付け手順を示す図であって、(C)は、図5(B)の状態から外部筒状部材を取り除いた状態を示す図である。 図7は、変形例1−1のゴムブーツ拡径治具を示す図であって、(A)は、外観構成図、(B)は、ゴムブーツ拡径治具のC矢視図であり、(C)は、Y-Y断面図である。 図8は、サドル構造の概略構成図である。
符号の説明
1,2 ゴムブーツ拡径治具
30 ゴムブーツ 31 細径部 32 太径部
10 外部筒状部材 11 第1外部分割片 12 第2外部分割片
20 内部拡径部材 21 内部分割片 21h 第1貫通孔
22 係止部 22h 第2貫通孔
13 キャッチクリップ 13a 本体部 13b 留め金部
14 フック 15 スリット
16 可動支持部材 16s さらネジ 16n 蝶ナット
50 連結支持部材 51 蝶ネジ
52 [状フック 521 上片 522 下片 523 垂直片 521h ネジ孔
100 サドル構造 200 主塔
110 外管 111 補強筋 120 内管 121 支圧板 122 リングナット
130 マルチケーブル 131 素線ケーブル
140 グラウト 141 グラウト排出ホース 142 グラウト注入口
150 スライドパイプ 160 ゴムブーツ

Claims (8)

  1. 少なくとも2つ以上の分割片からなり、マルチケーブルが挿通されるサドル構造の出口部を封止する筒状のゴムブーツをゴムブーツの内部から径方向外方に拡径する内部拡径部材と、
    内部拡径部材の外周で、さらにゴムブーツの外周に配置される外部筒状部材と、
    内部拡径部材の一端側を外部筒状部材に保持する連結支持部材と、
    内部拡径部材の他端側を外部筒状部材に保持するとともに、内部拡径部材の外部筒状部材に対する相対的位置を変化させる可動連結部材とを備え、
    外部筒状部材と内部拡径部材との連結を解除することにより外部筒状部材の内部から内部拡径部材を取り外し可能に構成したことを特徴とするサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  2. 可動連結部材は、外部筒状部材と内部拡径部材とを連結する締付軸であり、この締付軸の締め付けにより、内部拡径部材を外部筒状部材の径方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  3. 外部筒状部材の端部にはスリットが設けられており、締付軸がスリットの開口端から取り外し可能なように設けられていることを特徴とする請求項2に記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  4. 連結支持部材は、外部筒状部材に固定されて内部拡径部材の一端側が外部筒状部材の径方向内方へ移動することを規制する爪状の部材であり、この爪状の部材が外部筒状部材の内部に突出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  5. 爪状の部材が、外部筒状部材の径方向に移動可能なように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  6. 内部拡径部材の各分割片の角部を丸めたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  7. 内部拡径部材の各分割片のうち、少なくとも内面にマルチケーブルの外周面を損傷しないように表面処理を施したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
  8. 外部筒状部材は、2つ以上の分割片からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のサドル構造のゴムブーツ拡径治具。
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