JP4502892B2 - 被削性に優れたピニオン用高周波焼入れ用鋼及びその製造方法、並びに曲げ疲労特性に優れたピニオン - Google Patents

被削性に優れたピニオン用高周波焼入れ用鋼及びその製造方法、並びに曲げ疲労特性に優れたピニオン Download PDF

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Description

本発明は、被削性に優れたピニオン用高周波焼入れ用鋼及びその製造方法、並びに曲げ疲労特性に優れたピニオンに関するものである。
高周波焼入れを行って得られる各種歯車類の中で、自動車のステアリング装置を構成する自動車部品:ピニオンは、近年の自動車エンジンの高出力化や環境規制対応に伴い、高強度化の指向が強くなっている。しかし、浸炭処理を施す場合と比べて表層の炭素濃度が低いため、同等の硬さは確保できるが耐摩耗性に劣る場合が多い。このため、鋼材の更なる高炭素化が要望されているが、高炭素化すると、被削性の低下や靭性劣化による疲労寿命の低下を招く等の問題が生じ得る。上記被削性を改善すべくSを積極的に添加した場合には、疲労寿命が低下するといった問題もある。
ピニオンは、稼動時にステアリング装置内のラック(歯を刻んだ丸棒)上を回転するが、この時ピニオンには非常に高い負荷がかかるため、歯元損傷等の疲労破壊を確実に防止する必要があり、高い曲げ疲労特性を発揮することが要求されている。特にピニオンは、安全上重要な鋼部品でもあることから、上記高い曲げ疲労特性を確実に発揮させる必要がある。
よって、該ピニオンの製造に供する鋼素材の特性として、高周波熱処理後に高強度を示し、高い曲げ疲労特性を確実に発揮すると共に、製造過程において優れた被削性を発揮することが求められる。
高周波焼入れ用鋼の疲労特性を高めた技術として、例えば特許文献1には、伸長MnSの生成を抑制し、MnSの粒状化・微細化を図ると共に、フェライト分率を規制し、フェライト粒を微細化する旨が示されている。フェライト粒が粗大であると、高周波焼入れ後、フェライト部分が低炭素マルテンサイトとなり硬さムラを生じ、疲労特性の低下を招くからである。しかし該技術で考慮しているのは、ドライブシャフト等の様な棒状部材における捻り疲労特性のみであって、上記ピニオンの様に歯先に高負荷の加わる場合を想定した曲げ疲労特性については検討されていない。
特許文献2にも、高周波焼入れ用鋼の疲労特性を高めた技術が示されている。該技術は、線状または棒状圧延材の軸心を通る縦断面において、該軸心と平行でかつ該軸心から1/4・D(Dは圧延材の直径を表す)離れた仮想線を中心線として含む被検面積100mm中に存在する、酸化物系と硫化物系からなる直径10μm以上の複合介在物を20個以下とすることによって、高周波焼入れ用鋼の曲げ疲労強度と転動疲労強度を高めることが示されている。
しかし、上記ピニオンといった特に高度の曲げ疲労特性の要求される場合については更なる改善が必要であると考えられる。また、高精度の要求されるピニオンの様な鋼部品を製造するには、優れた被削性と上記疲労特性を兼備させることが必要となる。
特許文献3には、被削性、疲労特性、及び冷間鍛造性を改善した機械構造用鋼材が開示されている。該技術では、回転曲げ疲労試験機による試験結果が示されているが、高周波焼入れを行なわない場合の結果であり、高周波焼入れを行なった場合に、高強度が確保されかつ良好な曲げ疲労特性が発揮されるとは言い難い。即ち、上記ピニオンの様な高周波熱処理後の曲げ疲労特性を高めることについて検討されたものでない。
特開2002−69566号公報 特開平11−1749号公報 特開2004−52099号公報
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、曲げ疲労特性に優れたピニオンを効率良く得るための被削性に優れたピニオン用高周波焼入れ用鋼及びその製造方法、並びに、該鋼を用い、高周波焼入れを施して得られる曲げ疲労特性に優れたピニオンを提供することにある。
本発明に係るピニオン用高周波焼入れ用鋼とは、
C:0.3〜0.60%(質量%の意味、以下同じ)、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.2〜2.0%、
Cr:0.50〜2.0%、
S :0.010〜0.08%、
B :0.0005〜0.005%、
Al:0.001〜0.1%、
Ti:0.005〜0.05%、
P :0.025%以下(0%を含まない)、
N :0.007%以下(0%を含まない)、
Total 酸素:15ppm以下(0%を含まない)
を含むと共に、
Te:0.0005〜0.02%、
Ca:0.0005〜0.02%、
Zr:0.01〜0.50%、
Mg:0.0001〜0.0055%、
Y :0.001〜0.1%、及び
REM:0.001〜0.15%よりなる群から選択される1種以上を含有し、
残部が鉄及び不可避的不純物からなるものであって、
MnS含有介在物の平均アスペクト比が10以下であり、かつ
下記条件で高周波焼入れを行なったときに、下記曲げ疲労特性を示すところに特徴を有している。
<高周波熱処理条件>
高周波熱処理機にて、下記条件で試験片の中心部が硬化するまで焼入れ後、150℃×1時間で焼戻す。
試験片:D:12mm、D:10mm、R:16mm
α=2.0のキリカキ付き回転曲げ試験片
周波数:20kHz
出力:6.0kV
送り速度:5.0mm/sec
焼入れ温度:850℃
ソリュブル液使用
<曲げ疲労特性>
・曲げ疲労試験条件:回転曲げ応力280MPa
(ノッチ底径の平滑な試験片での応力)
・曲げ疲労寿命:1.0×10回以上
特に、前記Ca:0.0005〜0.02%と前記Mg:0.0001〜0.0055%を併せて含むものは、前記MnS含有介在物の平均アスペクト比が3以下とより小さく、高周波熱処理後の曲げ疲労特性に優れるので好ましい。
本発明は、曲げ疲労特性に優れたピニオンも規定するものであって、該ピニオンは、前記成分組成を有する鋼材を用い、高周波焼入れを施して得られるものであって、MnS含有介在物の平均アスペクト比が10以下であると共に、下記曲げ疲労特性を示すところに特徴を有している。
<曲げ疲労特性>
・曲げ疲労試験片:D:12mm、D:10mm、R:16mm
α=2.0のキリカキ付き回転曲げ試験片
・曲げ疲労試験条件:回転曲げ応力280MPa
(ノッチ底径の平滑な試験片での応力)
・曲げ疲労寿命:1.0×10回以上
また本発明は、前記ピニオン用高周波焼入れ用鋼の製造方法も規定するものであって、該方法は、溶鋼の溶存酸素量を20ppm以下に低減してからTe、Ca、Zr、Mg、Y、及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素を添加して、前記成分組成に調整したのち鋳造を行うと共に、熱間圧延に際して鋼材を900℃以上に加熱するところに特徴を有している。
尚、上記アスペクト比は、後述する実施例に示す通り、圧延材のD/4(D:圧延材の直径)部の圧延方向断面にて、合計0.64mmをSEM観察(分解能:1μm)し、面積(長径×短径)が5μm以上のMnS含有介在物を対象に、長径/短径の平均値を算出して求めたものである。
本発明によれば、高い曲げ疲労特性を示し、歯元損傷等の疲労破壊の確実に抑制された信頼性の高いピニオンを実現できる。また、該特性を発揮するピニオンを得るための鋼材として、被削性が高められ、かつ高周波焼入れ後に優れた曲げ疲労特性を発揮する鋼材を実現できる。
本発明者は、高周波焼入れ後に優れた曲げ疲労特性を示し、信頼性の高いピニオンを実現すると共に、該ピニオン製造における機械加工時に、優れた被削性を示す鋼材を得るべく鋭意研究を行なった。その結果、被削性を確保すべく所定量のSを含有させることを前提に、上記曲げ疲労特性を高めるには、
(a)規定量のCr、Ti及びBを必須とし、かつ
(b)MnS含有介在物のアスペクト比を10以下とすること
が重要であることを見出した。
まず上記(a)の通り、規定量のCr、Ti及びBを必須とする。棒状鋼部品の場合、疲労特性は、鋼部品表面の硬度確保よりも、鋼部品内部に残留応力を如何に発生させるかがポイントとなる。これに対し、ピニオンの様な歯車の場合、該歯車の疲労特性(曲げ疲労特性)は硬度によるところが非常に大きい。そこで本発明では、これらの元素を含有させることで、歯元部の強度を、被削性等の製造過程で必要なその他の特性を損なわない範囲で高めて、曲げ疲労特性を確実に向上させることとした。
上記効果を十分に発揮させるには、Crを0.50%以上含有させる必要がある。しかし、Cr量が過剰になると、効果が飽和する上、圧延のままでは切断性や被削性といった機械加工性が劣化し、生産性や精度が低下するので2.0%以下に抑える。好ましくは1.0%以下である。
Bは、鋼に焼入れ性を付与すると共に焼入れ材の粒界強度を向上させることによって、上記疲労強度と衝撃強度を向上させる。該効果を発揮させるには、Bを0.0005%以上含有させる。好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.002%以上である。しかしB量が過剰となってもその効果は飽和し、溶製時に疵が発生する要因となるので0.005%以下に抑える。好ましくは0.003%以下である。
Tiは、固溶NをTiNとして固定し、固溶Bによる高い焼入れ性を付与するのに必要な元素である。また固溶Nによるその他の悪影響の無害化にも有用である。更には、脱酸作用を有する元素でもある。よって0.005%以上、好ましくは0.010%以上含有させる。しかしTi量が過剰になると、TiCによる析出硬化が顕著になり、被削性が著しく劣化する。よって、Ti量の上限を0.05%とする。好ましくは0.030%以下である。
更に本発明では、上記(b)の通り、MnS含有介在物のアスペクト比(MnS含有介在物の長径/短径)を10以下とする。被削性を高めるべくSを添加すると、後述する実施例、及び鋼中S量と曲げ疲労寿命の関係を示した図1に示す通り、S量の増加に伴い曲げ疲労特性が低下する傾向にある。しかし切削して高精度のピニオンを形成するにはSの添加が不可欠であり、一定量のS量を含有させることを前提に、曲げ疲労特性を向上させる必要がある。
本発明者は、上記の通り規定量のCr、Ti及びBを必須とすると共に、MnS含有介在物のアスペクト比を10以下とすれば、優れた被削性と曲げ疲労特性の両立を実現できることを見出した。図2は、S量を0.015%含む鋼材と、S量を0.060%含むものであってMnS含有介在物のアスペクト比を変化させた鋼材を、後述する実施例に示す通り、高周波熱処理を施し、その後に曲げ疲労寿命を測定した結果を整理したものである。この図2から、被削性を高めるべくS量を0.060%と多く含有させる場合であっても、MnS含有介在物のアスペクト比を低減することで、S量:0.015%の鋼材並みの曲げ疲労特性を確保できることがわかる。
上記アスペクト比は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下であるものがよい。
尚、上記MnS含有介在物としては、MnSの他、該MnSと後述するTe、Ca、Zr、Mg、Y及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素の酸化物との複合化合物が挙げられる。
本発明は、特に上記Cr、Ti及びBの含有量とMnS含有介在物のアスペクト比を制御することによって、ピニオンにおける曲げ疲労特性を高めると共に、該ピニオン製造時に要求される被削性の両立を達成できたものであるが、該作用効果を確実に発揮させるには、その他の成分を下記の通り制御する必要がある。
〈C:0.3〜0.60%〉
Cは、高周波焼入れ後の強度確保に必要な元素であり、本発明では0.3%以上含有させる。好ましくは0.4%以上である。一方、C量が過剰になると、必要以上に硬度が上昇し被削性が劣化する。また脆くなり疲労特性も確保し難くなるので0.60%以下に抑える。好ましくは0.55%以下、より好ましくは0.50%以下に抑える。
〈Si:0.01〜1.0%〉
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であると共に、鋼に必要な強度、焼入れ性を与え、焼戻し軟化抵抗を向上させるのに有効な元素であるが、0.01%未満ではその効果が不十分である。一方、1.0%を超えると硬さの上昇を招き被削性が劣化する。好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.15%以下である。
〈Mn:0.2〜2.0%〉
Mnは、高周波焼入れ性の向上に有効な元素であり、該効果を発揮させるには、Mnを0.2%以上含有させる必要がある。しかしMn量が過剰になると、硬質のベイナイト組織が多量に形成されて被削性を劣化させるので、2.0%以下に抑える。好ましくは0.5%以下である。
〈S:0.010〜0.08%〉
Sは、鋼中でMnSを形成し、これによる被削性の向上を図るのに有用な元素である。該効果を十分に発揮させるには、Sを0.010%以上含有させる必要がある。好ましくは0.015%以上である。しかしS量が過剰になると、曲げ疲労特性の劣化を招くので0.08%以下に抑える。好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.030%以下である。
〈Al:0.001〜0.1%〉
Alは、脱酸剤として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定し、固溶Bを確保するのに有用である。該効果を十分発揮させるには、Alを0.001%以上、好ましくは0.01%以上含有させる。しかしAl量が過剰になると、硬質のAlが過度に生成し、被削性を劣化させる。よってAl量は0.1%以下、好ましくは0.04%以下とする。
〈P:0.025%以下(0%を含まない)〉
Pは、切削時に生じる切屑を折れ易くして切屑処理性の改善に寄与する元素である。しかし、高周波焼入れ・焼戻し後の部品の結晶粒界を脆化させて、最終製品の疲労強度を劣化させるので、可能な限り低減させるのがよく、本発明では0.025%以下に抑える。好ましくは0.015%以下である。
〈N:0.007%以下(0%を含まない)〉
Nは、Bと結合して、固溶Bによる焼入れ性付与の効果を抑制するため、極力少ない方が好ましい。上記の通りTiを添加して固溶Nを固定し、固溶Bの上記効果を確保するが、N量が多いとその分Tiも多量に添加する必要がありコストが上昇する。また、硬質であるTiNが増加し、被削性にも悪影響を及ぼす。よって、N量は0.007%以下に抑える。好ましくは0.005%以下である。
〈Te:0.0005〜0.02%、
Ca:0.0005〜0.02%、
Zr:0.01〜0.50%、
Mg:0.0001〜0.0055%、
Y :0.001〜0.1%、及び
REM(希土類元素):0.001〜0.15%
よりなる群から選択される1種以上〉
これらの元素を添加すると、各々酸化物を形成してMnSの生成核となると共に、MnSが例えば(Mn,Ca)Sや(Mn,Mg)S等に組成改質される。そして、この様な改質により、熱間圧延時に上記MnS含有介在物の延伸性が改善され、粒状のMnS含有介在物が微細分散するため、上記の通りアスペクト比を10以下とすることができ、高周波焼入れ後の曲げ疲労寿命を向上させることができる。
上記効果を確実に発揮させるには、Teを添加する場合は0.0005%以上(好ましくは0.0050%以上)、Caの場合は0.0005%以上(好ましくは0.0015%以上)、Zrの場合は0.01%以上(好ましくは0.05%以上)、Mgの場合は0.0001%以上(好ましくは0.0005%以上)、Yの場合は0.001%以上(好ましくは0.002%以上)、REMの場合は0.001%以上(好ましくは0.002%以上)含有させる。
しかしこれらの元素が過剰に存在しても、上記効果は飽和し、CaO、MgO等の粗大酸化物やそのクラスターが形成されたり、ZrN等の硬質析出物が多量に生成して被削性の劣化を招く。よって、Teは0.02%以下(好ましくは0.01%以下)、Caは0.02%以下(好ましくは0.0050%以下)、Zrは0.50%以下(好ましくは0.15%以下)、Mgは0.0055%以下(好ましくは0.0030%以下)、Yは0.1%以下(好ましくは0.05%以下)、REMは0.15%以下(好ましくは0.05%以下)とする。
尚、本発明でいうREM(希土類元素)とは、原子番号57〜71番の元素を指す。
〈Total 酸素:15ppm以下(0%を含まない)〉
MnS含有介在物のアスペクト比を小さくするには、上記の通りTe、Ca、Zr、Mg、Y、及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素の添加が有効であるが、アスペクト比の低減を実現させるには、MnS中に上記Te等を固溶または化合させる必要がある。しかし鋼材溶製時の溶鋼中溶存酸素濃度が高いと、上記元素のほとんどが酸化物となりMnS中へ固溶または化合し難くなるため、上述した介在物の改質が不十分となる。よって、上記元素の添加に際し、予め溶存酸素濃度を30ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下に抑える必要がある。この際、溶存酸素濃度と鋼材のTotal酸素量には相関があり、Total 酸素が15ppm以下、より好ましくは10ppm以下であれば、溶存酸素濃度が上記範囲内に低減されており、MnS中に上記元素を固溶または化合させてMnS含有介在物のアスペクト比を小さくすることができる。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄及び不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。
上記の通りMnS含有介在物のアスペクト比を制御するには、鋳造前に、上述の通り溶存酸素濃度を30ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下としてから(具体的な方法としてはAl脱酸)、上記Te、Ca、Zr、Mg、Y、及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素を添加し、上記成分組成に調整したのち鋳造する必要がある。また、圧延時の加熱温度の制御も重要であり、900℃以上、好ましくは1000℃以上(加熱炉から出てきた鋼材の温度を放射温度計で測定した温度)に加熱してから圧延する必要がある。
本発明のピニオンは、上記鋼材を用いて、熱間圧延後、熱間鍛造してから機械加工(切削)を施して歯車とし、その後、高周波熱処理を行って得ることができる。その後、必要に応じて焼戻し、ショットピーニングや仕上げ研磨を施してもよい。
高周波熱処理の条件は、ピニオン(鋼部品)の大きさにもよるが、例えば高周波焼入機で出力:150kW、周波数:200kHz、移動速度:1.15mm/secの条件で、歯底での焼入れ深さ:0.5〜1.5mmとなるよう焼入れ(水冷却)を行い、その後、適宜焼戻しを行うことが挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1,2に記載の成分組成からなる供試鋼を溶製して得た鋼材を、表1,2に示す温度で加熱してから熱間圧延を行い、圧延材(直径:35mm)を得た。尚、溶製時は、後述する表2のJ3以外は、鋳造前にAlを添加して溶鋼の溶存酸素量を20ppm以下に低減してから、Te、Ca、Zr、Mg、Y、及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素を添加した。またJ3については、溶製時に、溶存酸素を十分下げずにMg、Caを添加した。
上記表1,2に示す加熱温度は、加熱炉から出した時点で鋼片の温度を放射温度計で測定したものである。
そして、上記圧延材を用いて、MnS含有介在物のアスペクト比を次の様に測定した。即ち、圧延材のD/4(D:圧延材の直径)部の圧延方向断面にて、測定視野:0.16mmをSEM観察(分解能1μm)し、長径×短径が5μm以上のMnS含有介在物を対象に、アスペクト比(長径/短径)を測定し、合計4視野(0.64mm)で平均値を求めた。
また曲げ疲労特性は、次の様にして評価した。即ち、上記圧延材から小野式ミニ回転曲げ試験片(図3に示す試験片)を作成し、中心部が硬化するまで高周波焼入れ(IHQ)を行い、その後150℃×1時間で焼き戻した。
そして該試験片を用いて小野式回転曲げ試験を行なった。該試験では、曲げ応力:280MPaを負荷した状態で回転させ、破損までの回転数(曲げ疲労寿命)を測定し、曲げ疲労寿命が1.0×10回以上のものを曲げ疲労特性に優れると評価した。これらの結果を表1,2に併記する。
被削性は、後述する表1,2のA1、C1、C2及びI3の鋼材を用いて下記条件で切削試験を行い、A1のドリル摩耗量を1.0とした場合のドリル摩耗指数を求めた。その結果、C1では1.5、C2では2.0、またI3では3.0であった。
<切削試験条件>
・工具:SKH9,10mmφストレートドリル
・切削速度:15m/min
・送り:0.33mm/rev
・乾式
・被削材:焼ならし処理(850℃×2hr→AC)
・測定項目:穴深さ30mm×4切削時の摩耗量
Figure 0004502892
Figure 0004502892
表1、2より次の様に考察できる(尚、下記記号は、表1、2中の記号を示す)。
A1〜A7は、成分組成が本発明の規定範囲内にある鋼材を用い、製造条件を変えて鋼部品を製造した例である。この中でA6,A7は、推奨される温度で加熱せずに圧延を行ったため、MnS含有介在物のアスペクト比が高くなり、曲げ疲労特性に劣る結果となった。
B1〜B4は、C量の影響を確認した例であるが、B4の結果から、C量が過剰であると優れた曲げ疲労特性を確保することができないことがわかる。これは過剰のCにより鋼材が脆くなったためと推察される。
C1,C2は、Si量を比較的高めにした例であるが、優れた曲げ疲労特性を示すことがわかる。
またD1,D2は、Mn量を比較的高めにした例であるが、この場合も優れた曲げ疲労特性を確保できることがわかる。
E1,E2は、P量が少し高い例であるが、規定の範囲内であれば、優れた曲げ疲労特性を確保できることがわかる。
F1〜F6は、S量の影響を確認した例である。これらの例から、S量が過剰であるとMnSのアスペクト比を小さくしても、優れた曲げ疲労特性の確保が困難となることがわかる。
G1〜G4は、Cr量の影響を確認した例である。G1の結果から、Cr量が不足すると曲げ疲労寿命が短くなることがわかる。これは焼入れ性が不十分であるためと推察される。
H1,H2は、Al量の比較的少ない例と比較的多い例であるが、この場合も優れた曲げ疲労特性を確保できることがわかる。
I1〜I6は、Ti量、B量の影響を確認した例であるが、I2,I6の結果から、Ti量が少なすぎる場合には、Bの粒界強化機構が働かず疲労寿命が短くなっている。I3はTi量が過剰であるため、必要以上に硬度が増して、上述の通り被削性に劣っている。I4はB量が少なすぎるため、疲労寿命が短くなっている。またI5から、B量が過剰の場合には、溶製時に疵が生じやすくなった。
J1〜J3は、トータル酸素量の影響を確認したものである。J3の様にトータル酸素量が高いと、MnSのアスペクト比が高くなり優れた曲げ疲労特性を確保できない。これは、トータル酸素が高いことが溶製時の溶存酸素濃度の高いことを意味しており、溶存酸素濃度が高いと、MnS含有介在物の球状化のために添加したMg、Caがほとんど酸化物となり、有効に作用しなかったためと推察される。
K1〜K6は、Te等の介在物形態制御元素の影響を調べた例であるが、K1の様にTe等の介在物形態制御元素を添加しない場合には、加熱温度等の他の因子を制御してもMnS含有介在物のアスペクト比が大きくなることがわかる。またK2〜K6から、Mg以外のZr、Y、REM、Ca、Teといった元素を添加した場合でも、Mgと同様の効果が得られることがわかる。
鋼中S量と曲げ疲労寿命の関係を示したグラフである。 MnS含有介在物のアスペクト比と曲げ疲労寿命の関係をS量別に示したグラフである。 実施例で用いた回転曲げ試験片を模式的に示した側面図である。

Claims (4)

  1. C:0.3〜0.60%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.01〜1.0%、
    Mn:0.2〜2.0%、
    Cr:0.50〜2.0%、
    S :0.010〜0.08%、
    B :0.0005〜0.005%、
    Al:0.001〜0.1%、
    Ti:0.005〜0.05%、
    P :0.025%以下(0%を含まない)、
    N :0.007%以下(0%を含まない)、
    Total 酸素:15ppm以下(0%を含まない)
    を含むと共に、
    Te:0.0005〜0.02%、
    Ca:0.0005〜0.02%、
    Zr:0.01〜0.50%、
    Mg:0.0001〜0.0055%、
    Y :0.001〜0.1%、及び
    REM:0.001〜0.15%よりなる群から選択される1種以上を含有し、
    残部が鉄及び不可避的不純物からなるものであって、
    圧延材のD/4(D:圧延材の直径)部の圧延方向断面にて、合計0.64mm 2 をSEM観察(分解能:1μm)し、面積(長径×短径)が5μm 2 以上のMnS含有介在物を対象に、長径/短径の平均値を算出して求めたMnS含有介在物の平均アスペクト比が10以下であり、かつ
    下記条件で高周波熱処理を行ったときに、下記曲げ疲労特性を示すことを特徴とする被削性に優れたピニオン用高周波焼入れ用鋼。
    <高周波熱処理条件>
    高周波熱処理機にて、下記条件で試験片の中心部が硬化するまで焼入れ後、150℃×1時間で焼戻す。
    試験片:D0:12mm、D:10mm、R:16mm
    α=2.0のキリカキ付き回転曲げ試験片
    周波数:20kHz
    出力:6.0kV
    送り速度:5.0mm/sec
    焼入れ温度:850℃
    ソリュブル液使用
    <曲げ疲労特性>
    ・曲げ疲労試験条件:回転曲げ応力280MPa
    ・曲げ疲労寿命:1.0×105回以上
  2. 前記Caを0.0005〜0.02%、及び前記Mgを0.0001〜0.0055%含み、前記MnS含有介在物の平均アスペクト比が3以下である請求項1に記載のピニオン用高周波焼入れ用鋼。
  3. 前記請求項1又は2に記載の成分組成を有する鋼材を用い、高周波焼入れを施して得られるものであって、
    圧延材のD/4(D:圧延材の直径)部の圧延方向断面にて、合計0.64mm 2 をSEM観察(分解能:1μm)し、面積(長径×短径)が5μm 2 以上のMnS含有介在物を対象に、長径/短径の平均値を算出して求めたMnS含有介在物の平均アスペクト比が10以下であると共に、
    下記曲げ疲労特性を示すことを特徴とする曲げ疲労特性に優れたピニオン。
    <曲げ疲労特性>
    ・曲げ疲労試験片:D0:12mm、D:10mm、R:16mm
    α=2.0のキリカキ付き回転曲げ試験片
    ・曲げ疲労試験条件:回転曲げ応力280MPa
    ・曲げ疲労寿命:1.0×105回以上
  4. 前記請求項1または2に記載のピニオン用高周波焼入れ用鋼を製造する方法であって、溶鋼の溶存酸素量を20ppm以下に低減してからTe、Ca、Zr、Mg、Y、及びREMよりなる群から選択される1種以上の元素を添加して、前記請求項1又は2に記載の成分組成に調整したのち鋳造を行うと共に、熱間圧延に際して鋼材を900℃以上に加熱することを特徴とするピニオン用高周波焼入れ用鋼の製造方法。
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