ところで、前述の抵抗加熱の場合、加熱温度は通電する電力に依存し、主として輻射熱を利用して成形体に熱エネルギーを供給しているため、その昇温速度は工業的に要求されるほど速くはない。このため、所望の温度に到達するまでに、これよりも低い温度に長時間晒されることになる。また、真空雰囲気の場合には、不活性ガスが存在する場合に期待できる伝導熱による温度の均一化が全く期待できず、炉内の温度制御が非常に難しい。そのため、成形体の温度にばらつきが生ずる可能性が高い。
希土類焼結磁石の焼結では、焼結温度で液相となる低融点相(副相)が溶融し、主としてNd2Fe14B化合物からなる主相粒子の表面を濡らし、成形体内の空隙を外部に排除することによって高密度化(緻密化)が実現される。同時に、焼結温度では、固相同士(粒子同士)が反応することにより、主相結晶粒の粒成長が起こる。主相結晶粒の粒成長は、相対的に大きな主相粒子が、周囲の小さな粒子を吸収する形で進行する。さらに、焼結反応が進んでくると、小さな粒子を吸収した大きな主相粒子同士が反応して、より大きな粒子が生成する。
ここで、結晶粒の大きさは、希土類焼結磁石の特性、特に保磁力に対して大きな影響を及ぼし、結晶粒のサイズが大きいと保磁力低下の要因となることから、焼結に際しては主相結晶粒の粒成長をなるべく抑えることが要求される。すなわち、希土類焼結磁石の焼結では、成形体を構成する原料合金の微粉末のサイズをできる限り維持したまま高密度化が進むことが望ましい。
高密度化と粒成長の抑制という双方の目的を達成するためには、焼結時の温度と時間のパターンの制御が非常に重要となる。例えば、短時間のうちに液相が主相粒子の表面を十分に濡らすようにすることができれば、液相移動による高密度化に要する時間を短縮し、主相の粒成長を抑制することができる。液相が自由に移動できる温度と、粒成長する温度とは重複するので、制御が必要な温度と時間は、単なる焼結炉内の温度ではなく、成形体の実際の温度であることは言うまでもない。
このような焼結反応から考えた場合、前述の抵抗加熱では粒成長を制御した焼結温度制御をすることは難しい。抵抗加熱では、輻射熱を利用しているために、温度の制御、特に急速な昇温、降温が困難であり、また、成形体の周囲と内部とで温度差が生じ易い。その結果、高密度化と粒成長の抑制を同時に達成することが困難であるという問題がある。また、抵抗加熱では、前記の通り、所望の温度に到達するまでに、これよりも低い温度に長時間晒されることになるため、異相が発生し易いという問題もある。主相粒子の粒成長や密度の低下、異相の発生は、いずれも得られる希土類焼結磁石の磁気特性の劣化の原因となり、その制御抑制が必要である。
また、希土類焼結磁石の焼結に際しては、脱バインダー処理も重要な工程となる。原料合金微粉の成形体には、粉砕や成形を円滑に行うためにステアリン酸亜鉛等の潤滑剤が添加されているが、それらを焼結体中に炭化物や酸化物として残存させないように、真空中、若しくはArフロー中等で分解させ、成形体外に除去する必要がある。焼結の際に潤滑剤が残存すると、得られる希土類焼結磁石中の炭素量や酸素量が増え、特性劣化の要因となる。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、脱バインダー処理を確実に行うことができ、しかも、焼結時間を短縮し、高密度化と粒成長の抑制を同時に達成することができ、異相の形成も抑制することが可能な希土類焼結磁石の製造方法を提供し、それにより、保磁力等の磁気特性に優れた希土類焼結磁石を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、本発明の希土類焼結磁石は、希土類元素、遷移金属元素及びホウ素を含む原料合金微粉を成形した成形体が、抵抗加熱による脱バインダー処理の後、高周波誘導加熱により焼結されてなり、酸素含有量が2500ppm以下であり、焼結前の原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rの比率R/rが1.7以下であることを特徴とする。また、本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、希土類元素、遷移金属元素及びホウ素を含む原料合金微粉を成形した成形体を焼結し、希土類焼結磁石を製造するに際し、前記原料合金微粉に含まれる酸素量を2500ppm以下とし、成形体を抵抗加熱により脱バインダー処理した後、焼結前の原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rの比率R/rが1.7以下となるように高周波誘導加熱による焼結を行うことを特徴とする。
希土類焼結磁石の製造に際しては、原料合金微粉を成形体とし、これを焼結して焼結体とするが、前記成形体には、粉砕の段階で加えられた潤滑剤が含まれている。そこで、本発明では、焼結に先立って、抵抗加熱により脱バインダー処理を行う。脱バインダー処理に抵抗加熱を採用することで、時間の短縮と温度の均一性が図られ、有機物を分解し得る温度に安定して維持することができ、潤滑剤が速やかに成形体外に除去される。その結果、炭素(炭化物)や酸素(酸化物)として残存することが抑制される。バインダーを成形体外に除去する前に温度が高くなると、活性なNdは、例えばNdC(炭化物)、Nd2O3(酸化物)等の化合物が生成してしまう。また、低温長時間を維持しておいても、バインダーは分解せず、成形体外に除去されない。
また、本発明では、焼結を高周波誘導加熱により行うが、高周波誘導加熱では、電磁誘導により導体に渦電流を発生させ、そのジュール熱で加熱する。本発明では、成形体を構成する原料合金微粉に電流を発生させることで、ジュール熱により成形体が直接加熱されることになる。したがって、輻射熱を利用する抵抗加熱に比べて遙かに急速な昇温、降温が可能である。また、昇温中における成形体内での温度分布についても、均一性の高い状態が実現される。
本発明では、焼結に高周波誘導加熱を採用し、前記高周波誘導加熱の特徴を活かすことにより、成形体の温度制御を容易なものとし、焼結パターンを任意に制御する。それにより、高密度化の促進と、粒成長の抑制、異相の抑制が同時に実現される。
なお、希土類焼結磁石の焼結に高周波誘導加熱を利用する場合、酸素量に留意することが好ましい。例えば、原料合金微粉に含まれる酸素量が多いと、抵抗が大きくなり、電磁誘導作用により発生する電流値が低下する。電流値の低下は、発熱時間の長時間化等を招き、高周波誘導加熱の利点が損なわれる。焼結に高周波誘導加熱を利用する場合、例えば原料合金微粉に含まれる酸素量を2500ppm以下とする。これにより、円滑に高周波誘導加熱が行われ、前記の利点が最大限に発現される。
本発明の希土類焼結磁石は、抵抗加熱による脱バインダー処理の後、高周波誘導加熱により焼結されているので、炭素や酸素の残存が抑制されるとともに、高密度化と結晶粒成長の抑制、異相の発生の抑制が同時に実現される。したがって、本発明によれば、保磁力の高い磁気特性に優れた希土類焼結磁石を提供することが可能である。
また、本発明の製造方法によれば、脱バインダー処理に抵抗加熱を採用するとともに、焼結に高周波誘導加熱を採用しているので、脱バインダーが効率的に行われるとともに、焼結の際には成形体の温度制御が容易なものとなり、焼結パターンを任意に制御することが可能である。したがって、焼結時間を短縮し、高密度化した焼結体を粒成長せずに得ることができ、また、炭素や酸素の残存も少ないので、得られる希土類焼結磁石の焼結状態を理想状態に近づけることができる。
以下、本発明を適用した希土類焼結磁石及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明の希土類焼結磁石は、希土類元素、遷移金属元素及びホウ素を主成分とするものである。磁石組成は、目的に応じて任意に選択すればよい。
例えば、R−T−B(R=Yを含む希土類元素の1種または2種以上、T=FeまたはFe及びCoを必須とする遷移金属元素の1種または2種以上、B=ホウ素)系希土類焼結磁石とする場合、磁気特性に優れた希土類焼結磁石を得るためには、焼結後の磁石組成において、希土類元素Rが27.0〜32.0重量%、ホウ素Bが0.5〜2.0重量%、残部が実質的に遷移金属元素T(例えばFe)となるような配合組成とすることが好ましい。希土類元素Rの量が27.0重量%未満であると、軟磁性であるα−Fe等が析出し、保磁力が低下する。逆に、希土類元素Rが32.0重量%を越えると、Rリッチ相の量が多くなって耐蝕性が劣化するとともに、主相であるR2T14B結晶粒の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。また、ホウ素Bが0.5重量%未満の場合には、高い保磁力を得ることができない。逆に、ホウ素Bが2.0重量%を越えると、残留磁束密度が低下する傾向がある。
ここで、希土類元素Rは、Yを含む希土類元素、すなわちY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuから選ばれる1種、または2種以上である。中でも、NdやPrは、磁気特性のバランスが良いこと、資源的に豊富で比較的安価であることから、主成分をNdやPrとすることが好ましい。また、Dy2Fe14BやTb2Fe14B化合物は、異方性磁界が大きく、保磁力Hcjを向上させる上で有効である。
さらに、本発明の希土類焼結磁石は、添加元素Mを加えて、R−T−B−M系希土類焼結磁石とすることも可能である。この場合、添加元素Mとしては、Al、Cr、Mn、Mg、Si、Cu、C、Nb、Sn、W、V、Zr、Ti、Mo等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を選択して添加することができる。例えば、高融点金属であるNb、Zr、W等の添加は、結晶粒成長を抑制する効果がある。勿論、これら組成に限らず、希土類焼結磁石の組成として従来公知の組成全般に適用可能であることは言うまでもない。
また、本発明の希土類焼結磁石では、酸素の含有量を2500ppm以下とすることが好ましい。これは、後述の高周波誘導加熱を行うこととも関連するが、酸素含有量が2500ppmを越えると、希土類元素が酸化物として存在する量が増加し、主相及び副相に存在すべき磁気的に有効な希土類元素が減少して保磁力が低下するという問題が生ずる。さらに、生成した酸化物は非磁性であり、焼結体の磁化の低下も招く。酸素量と酸化物の生成量の関係は、化合物の化学量論比に従って直線的関係を有するが、近年の磁石応用製品において高性能希土類磁石に要求される保磁力や磁化を満足させるためには、2500ppm以下であることが要求される。
さらに、本発明の希土類焼結磁石は、炭素(C)の含有量が1500ppm以下、窒素(N)の含有量が200〜1500ppmであることが好ましい。炭素の含有量が1500ppmを越えると、炭素は希土類元素の一部と炭化物を形成し、磁気的に有効な希土類元素が減少して保磁力が低下する。また、窒素量を前記範囲とすることによって、優れた耐蝕性と高い磁気特性を両立させることができる。
本発明の希土類焼結磁石は、粉末冶金法により製造されるものであり、特に、高周波誘導加熱によって焼結されてなるものである。以下、希土類焼結磁石の粉末冶金法による製造方法について説明する。
図1は、粉末冶金法による希土類焼結磁石の製造プロセスの一例を示すものである。この製造プロセスは、基本的には、合金化工程1、粗粉砕工程2、微粉砕工程3、磁場中成形工程4、脱バインダー工程5、焼結工程6、時効工程7、加工工程8、及び表面処理工程9とにより構成される。なお、酸化防止のために、焼結後までの各工程は、ほとんどの工程を真空中、あるいは不活性ガス雰囲気中(窒素雰囲気中、Ar雰囲気中等)で行う。
合金化工程1では、原料となる金属、あるいは合金を磁石組成に応じて配合し、不活性ガス、例えばAr雰囲気中で溶解し、鋳造することにより合金化する。鋳造法としては、溶融した高温の液体金属を回転ロール上に供給し、合金薄板を連続的に鋳造するストリップキャスト法(連続鋳造法)が生産性等の観点から好適である。原料金属(合金)としては、純希土類元素、希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。インゴットとして鋳造した場合には、凝固偏析を解消すること等を目的に、必要に応じて溶体化処理を行ってもよい。溶体化処理の条件としては、例えば真空またはAr雰囲気下、700〜1200℃領域で1時間以上保持する。
粗粉砕工程2では、先に鋳造した原料合金の薄板、あるいはインゴット等を、粒径数百μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いることができる。粗粉砕性を向上させるために、水素を吸蔵させて脆化させた後、粗粉砕を行うことが効果的である。
前述の粗粉砕工程2が終了した後、通常、粗粉砕した原料合金粉に粉砕助剤を添加する。粉砕助剤としては、例えば脂肪酸系化合物等を使用することができるが、特に、脂肪酸アミドを粉砕助剤として用いることで、良好な磁気特性、特に高配向度で高い磁化を有する希土類焼結磁石を得ることができる。粉砕助剤の添加量としては、0.03〜0.4重量%とすることが好ましい。粉砕助剤の添加量が0.03重量%未満であると、潤滑剤の磁気特性に与える効果が十分に得られず、0.4重量%以下の添加量であれば、焼結後の残留炭素の量を効果的に低減することができ、希土類焼結磁石の磁気特性を向上させる上で有効である。
粗粉砕工程2の後、微粉砕工程3を行うが、この微粉砕工程3は、例えば気流式粉砕機等を使用して行われる。微粉砕の際の条件は、用いる気流式粉砕機に応じて適宜設定すればよく、原料合金粉を平均粒径が1〜10μm程度、例えば3〜6μmとなるまで微粉砕する。気流式粉砕機としては、ジェットミル等が好適である。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉体の粒子を加速し、粉体の粒子同士の衝突や、衝突板あるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。ジェットミルは、一般的に、流動層を利用するジェットミル、渦流を利用するジェットミル、衝突板を用いるジェットミル等に分類される。これらのジェットミルのうちでは、流動層を利用するジェットミル、及び渦流を利用するジェットミルが好ましく、特に流動層を利用するジェットミルが好ましい。例えば原料合金粉と粉砕助剤とは比重が大きく異なるが、流動層中及び渦流中では比重の違いに殆ど関係なく良好に粉砕及び混合が行なわれ、特に流動層中では比重の違いは殆ど問題とならないからである。
微粉砕工程3の後、磁場中成形工程4において、原料合金微粉を磁場中にて成形する。具体的には、微粉砕工程3にて得られた原料合金微粉を電磁石を配置した金型内に充填し、磁場印加によって結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。磁場中成形は、成形圧力と磁界方向が平行な縦磁場成形、成形圧力と磁界方向が直交する横磁場成形のいずれであってもよい。さらに、磁界印加手段として、パルス電源と空芯コイルも採用することができる。この磁場中成形は、例えば700〜1300kA/mの磁場中で、100〜200MPa前後の圧力で行えばよい。
次に、前記磁場中成形工程により形成された成形体を焼結するが、焼結に先立って、脱バインダー工程5において脱バインダー処理を行う。この脱バインダー処理は、粉砕工程において添加され成形体に含まれる潤滑剤を成形体外に除去するための工程であり、脱バインダー処理を行うことで、焼結後に炭化物、酸化物等として残存する炭素や酸素の残存量を減らすことができる。また、焼結工程6において誘導加熱により焼結を行う場合、酸素による電気抵抗の増加が問題になるが、この脱バインダー処理により潤滑剤を除去しておけば、電気抵抗の増加を最小限に抑えることもできる。
本発明では、この脱バインダー工程を抵抗加熱により行う。脱バインダー処理では、例えば200℃〜500℃程度の有機物を分解し得る温度に成形体を保持し、成形体に含まれる潤滑剤等の有機物を分解、除去するが、抵抗加熱の採用は、時間短縮と温度の均一性をもたらし、脱バインダーの効率向上が図られる。
ここで、後述の焼結工程6を高周波誘導加熱により行うことを考慮すると、脱バインダー処理も高周波誘導加熱により行うことも考えられる。しかしながら、脱バインダー処理を高周波誘導加熱により行おうとすると、次のような不都合がある。すなわち、コイル高周波による導体への誘導電流は、コイル周辺で大きく、コイルから離れるほど大きくなる。この傾向は低温側で顕著であり、例えば炭素鋼の場合、周波数1000Hzとすると、20℃では浸透深さが約0.8cm、1200℃では約16.2cmとなる。前記脱バインダー処理においては、有機物の分解温度に保持する必要があり、前記の通り、200℃〜500℃に保持する必要がある。したがって、浸透深さはそれほど大きくなく、表皮部分の誘導電流が流れる部分で発生するジュール熱が内部に伝達されるのを待つ必要がある。そのため、誘導加熱における工程の短時間化の利点が失われてしまう。また、前記脱バインダー処理温度では、誘導加熱により安定に温度を維持するのは難しく、効率的な加熱は難しい。これらのことから、脱バインダーに誘導加熱を適用すると、炭素や酸素が残り易く、最終的に得られる希土類焼結磁石の特性劣化の原因となる。
次に、焼結工程6において、焼結を実施する。すなわち、原料合金微粉を磁場中成形後、成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結する。
本発明では、この焼結工程6において、成形体の焼結を高周波誘導加熱により行う。図2は、高周波誘導加熱の原理を示すものである。例えば、高周波電源11に接続されたコイル12の中に導電体13が置かれた場合、コイル12に交流電流が流れると、導電体13には交流磁界が生じ、その磁界により電流(渦電流)Iが流れる。これを電磁誘導作用と呼んでいる。このとき流れる渦電流と導電体13の電気抵抗によりジュール熱が発生し、導電体13が加熱される。高周波誘導加熱の場合、輻射熱による抵抗加熱と異なり、成形体を構成する原料合金微粉が直接加熱され、短時間での昇温、降温が実現される。
高周波誘電加熱自体は、例えば特開2000−328104号公報や、特開2001−279302号公報、特開平6−247772号公報等にも開示されるように周知の技術であるが、希土類焼結磁石の焼結に適用された例は無く、本発明が初めてである。本発明では、これまで適用されたことのない希土類焼結磁石の焼結工程に、前記高周波誘導加熱を適用することで、結晶粒の焼結時の成長の抑制と、焼結反応の促進による高密度化を達成している。
前記焼結工程6において、原料合金微粉を成形した成形体を高周波誘導加熱により焼結する場合、原料合金微粉に含まれる酸素量に留意する必要がある。例えばNdFeB系合金は、極めて酸化され易く、酸素雰囲気を制御して粉砕を行っても、通常は酸素量が2500ppmを越えるレベルとなる。この酸素量は、先の潤滑剤に由来する酸素量よりも遙かに多い量である。
原料合金微粉の酸素量が多いと、圧粉体である成形体の粒子自体、あるいは粒子間の電気抵抗が高くなり、高周波誘導加熱の利点が失われてしまうことになる。例えば、原料合金微粉において発生する熱は、原料合金粉末に流れる渦電流をI、電気抵抗をRとしたときに、I2Rに比例し、流れる電流値が大きいことが有利である。原料合金微粉に含まれる酸素量が多すぎると、原料合金微粉の電気抵抗が高くなり、渦電流の電流値が減少する。このような場合、誘導加熱が円滑に行われず、例えば昇温に長時間を要することになる。
したがって、本発明においては、脱バインダー処理を抵抗加熱で行うことにより潤滑剤の残存をできる限り抑えることに加えて、原料合金微粉に含まれる酸素量を2500ppm以下に抑えることが好ましい。原料合金微粉に含まれる酸素量を抑えるには、例えば、前記微粉砕工程3において、ジェットミルによる粉砕時の酸素量の増加を抑制する必要がある。そのためには、例えばジェットミルで粉砕する際に、不活性ガス雰囲気中で行い、その条件を厳しく管理することが必要である。また、微粉砕工程3に限らず、粗粉砕工程2等、焼結前の工程における雰囲気中の酸素量管理を厳しくし、前記酸素量とすることが要求される。
高周波誘導加熱による焼結条件は、焼結する成形体の大きさ、原料合金微粉の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。焼結条件を適正なものとすることにより、結晶粒の粒成長の抑制と、焼結反応の促進による高密度化を実現することができる。ここで、焼結条件の一つの指標として、焼結前の原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rの比率R/r(粒成長比率)を挙げることができる。具体的には、この比率R/rが1.7以下となるように焼結条件を設定すれば良い。前記比率R/rが1.7を越えるということは、粒成長が進んでいることを意味し、希土類焼結磁石の保磁力が低下するおそれがある。なお、焼結前の原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rは、同じ単位を持つものであり、例えば、本発明の実施例においては、r、Rともに単位はμmである。
焼結後、時効工程7において、得られた焼結体に時効処理を施すことが好ましい。この時効処理は、得られる希土類焼結磁石の保磁力Hcjを制御する上で重要な工程であり、例えば不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で時効処理を施す。時効処理としては、2段時効処理が好ましく、1段目の時効処理工程では、800℃前後の温度で1〜3時間保持する。次いで、室温〜200℃の範囲内にまで急冷する第1急冷工程を設ける。2段目の時効処理工程では、550℃前後の温度で1〜3時間保持する。次いで、室温まで急冷する第2急冷工程を設ける。600℃近傍の熱処理で保磁力Hcjが大きく増加するため、時効処理を一段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
前記時効工程7の後、加工工程8及び表面処理工程9を行う。加工工程8は、所望の形状に機械的に成形する工程である。表面処理工程9は、得られた希土類焼結磁石の酸化を抑えるために行う工程であり、例えばメッキ被膜や樹脂被膜を希土類焼結磁石の表面に形成する。
次に、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
希土類焼結磁石の作製
原料となる金属あるいは合金を所定の組成となるように配合し、アルミナ坩堝中で高周波溶解により溶製された合金を、ストリップキャスト法により1mm以下の厚さの薄板状合金とした。
薄板状合金は、十分に排気された炉内において、室温付近で水素を吸蔵させて脆化させ、そのまま昇温させ、Arフロー若しくは排気によって脱水素を行った。脆化した薄板合金を、窒素雰囲気中で機械的粉砕により数百μmまで粗粉砕し、さらに窒素気流中のジェットミルにより、平均粒径4μmまで微粉砕した。
粉砕した原料合金微粉を、酸素を遮断したまま成形工程に供した。成形工程では、磁場成形機を用い、磁界によって得られた原料合金微粉の粒子の結晶方向が配向された圧粉体(成形体)を得た。この成形工程においても、雰囲気中の酸素の量は厳しく制御し、500ppm以下とした。また、サンプル形状(成形体の形状)は、20mm(磁界方向)×15mm×13mm(圧縮方向)とした。
さらに、酸素を遮断したまま、成形体を焼結装置に移行し、脱バインダ処理の後、焼結を行った。焼結の後、時効処理を行った。時効処理は、2段時効処理とし、1段目は900℃、1時間、2段目は530℃、1時間とした。
評価
作製した各希土類焼結磁石について、保磁力及び結晶粒径を測定した。保磁力の測定は、B−Hトレーサーを用いて行った。結晶粒径は、表面を研磨後、偏光顕微鏡で写真を撮影し、平均粒径を求めた。
加熱方法についての比較検討
先ず、表1に示す組成及び条件で、抵抗加熱により脱バインダー工程を行った後、焼結工程を高周波誘導加熱により行い、試料1を作製した。使用した誘導加熱装置の概略構成を図3に示す。誘導加熱装置は、真空チャンバ21内に載置台22を有し、この上に載置した成形体23を高周波誘導加熱する。成形体23の周囲には、断熱材24で覆われたコイル25が設置され、コイル25はRF発振器26に接続されている。また、真空チャンバ21内には、抵抗加熱を行う抵抗体27が併せて設置されている。これらコイル25や抵抗体27は、それぞれ独立に上下動可能であり、必要に応じていずれか一方を成形体に近づけて加熱を行う。真空チャンバ21には、内部の真空度を制御するためのロータリーポンプ28、バルブ29、及び真空ゲージ30が設けられている。使用した誘導加熱装置は、2MHz、4kWの高周波発振機である。
焼結に際しては、先に作製された成形体を、真空雰囲気(10-4Pa以下)に調整された真空チャンバ21内に配置した。真空度を確認した後、抵抗体(Moヒータ)27を成形体23の周囲に配置し、抵抗体27への通電により昇温し、300℃で40分間、保持した。次いで、抵抗体27を成形体23の周囲から移動させ、誘導加熱用のコイル25を成形体23の周囲に配置し、1050℃で45分間、保持した。その後、誘導加熱を停止し、Arガスを導入して冷却した。
同様の方法により、脱バインダー処理時間を30分に変え、試料2を作製した。また、比較のため、脱バインダー処理と焼結の両者を誘導加熱により行い、試料3を作製し、さらに、抵抗加熱により焼結を行い、試料4,5を作製した。各試料における加熱方法(脱バインダー+焼結)、組成、原料合金微粉の酸素量(成形用粉体の酸素量)、原料合金微粉の平均粒径(微粉砕粒径)、脱バインダー条件、焼結条件を表1に示す。なお、焼結条件における温度の測定は、成形体の表面を基準としている。
また、作製した試料1〜5の焼結体結晶粒径、原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rの比率R/r(粒成長比率)、焼結体酸素量、焼結体炭素量、保磁力、焼結体密度を表2に示す。
これら表から明らかなように、粒成長が抑えられて高い保磁力を有するとともに、高い密度を有する希土類焼結磁石を得るには、焼結を誘導加熱で行うことが有利であることがわかる。ただし、脱バインダー処理まで誘導加熱を行った試料3では、脱バインダーが不十分であるため、焼結体炭素量が若干多く、保磁力の低下も見られる。
一方、抵抗加熱による試料4では、焼結時間が長いため、密度は高くなっているが、粒成長が進んで保磁力が低くなっている。抵抗加熱による試料5では、焼結時間を短くしたため、粒成長による保磁力の低下はある程度抑えられているが、焼結反応が不十分で、密度が著しく低下している。
酸素量に関する検討
使用する原料合金微粉の酸素量を変えて高周波誘導加熱による焼結を試みた。各試料における加熱方法(脱バインダー+焼結)、組成、原料合金微粉の酸素量(成形用粉体の酸素量)、原料合金微粉の平均粒径(微粉砕粒径)、脱バインダー条件、焼結条件を表3に示す。
また、作製した試料6〜9の焼結体結晶粒径、原料合金微粉の平均粒径rと焼結後の焼結体の結晶粒径Rの比率R/r(粒成長比率)、焼結体酸素量、焼結体炭素量、保磁力、焼結体密度を表4に示す。
酸素量5100ppmの試料4では、安定な昇温ができなかった。得られた試料の保磁力を考慮すると、酸素量は、原料合金微粉及び焼結体において2500ppmであることが好ましいことがわかる。この範囲であれば、粒成長比率が1.7を下回っており、良好な焼結が行われていると言える。
1 合金化工程、2 粗粉砕工程、3 微粉砕工程、4 磁場中成形工程、5 焼結工程、6 時効工程、7 加工工程、8 表面処理工程、11 交流電源、12 コイル、13 導電体、21 真空チャンバ、22 載置台、23 成形体、24 断熱材、25 コイル、26 RF発振器、27 抵抗体、28 ロータリーポンプ、29 バルブ、30 真空ゲージ