JP4482713B2 - 装飾用ダイヤモンド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は装飾用ダイヤモンドに関し、特にダイヤモンドを観察する人がより美しいと感じる新規なブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドを装飾に用いるためカットをして、輝いたダイヤモンドおよび装身具を得るために、58面体を持つブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドおよび装身具を得ている。
【0003】
ダイヤモンドを評価するための要素 4Cと呼ばれているものは、
1.カラット(重さ)
2.カラー(色)
3.カット(プロポーション、シンメトリー及びポリッシュ)
4.クラリティー(内包物の質と量)である。
【0004】
カラット(重さ)に関しては、従来ダイヤモンドの価値は、その大きさに応じて決められその目安として、その重さが評価の基準とされてきた。カラー(色)は、原石によって決まってくるもので、無色透明のもの程希少価値が高く良い物とされている。GIA(Gemological Institute of Americaの略)評価で、D,E,Fグレードとなるのは無色透明のダイヤモンドであり、ちなみに、わずか黄色っぽく見えるものは、Kグレードなどとなる。カットは輝きを導き出すためのものである。クラリティーは内包する不純物や傷であり、原石によって決まってくる。
【0005】
これらのうちカラーとクラリティーは原石によって決まるものであり、人が唯一手を加えることのできるものはカットである。カットによって輝き(ブリリアンシーやシンチレーション)が決まってくるので、できるだけ輝きを増すカットが検討されてきた。
【0006】
その輝きを増すカットとして数学者トルコフスキーが提唱しGIAシステムと呼ばれているものがあり、GIAシステムで理想的だとされているものは、パビリオン角40.75度、クラウン角34.50度、テーブル径がガードル径対比53%である。そのカットは、本来美しさを基準として評価を受けるべきものが、一方では原石からの歩留まり率も重要視されて決定されていた。
【0007】
装飾用ダイヤモンドの輝きを増すカットについて本発明者等は検討を行い、ブリリアントカットをしたダイヤモンドをテーブル面上から観察したときに、
クラウン面に入射してクラウン面から出射する光と、
テーブル面に入射してクラウン面から出射する光と、
クラウン面に入射してテーブル面から出射する光とが
同時に観察できるカットとして、
パビリオン角pを45°以下で37.5°以上とするとともに、
クラウン角cを
−3.5×p+163.6≧c≧−3.8333×p+174.232
を満足する範囲にあるものを、特願2000−255039(平成12年8月25日出願)と特願2001−49636(平成13年2月26日出願)において提案している。その中心値はパビリオン角pが38.5°、クラウン角cが27.92°である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
装飾用ダイヤモンドの輝きは、外部からダイヤモンド内に光が入射してその入射した光がダイヤモンド内で反射して観察者に検知される。ダイヤモンドの輝きの大きさは、その反射光の量によって決まる。反射光の量は通常物理的反射光量で評価されている。
【0009】
しかし、人間の知覚は物理的反射光量によって決まるものではない。ダイヤモンドを観察した人が美しいと感じるためには、人の感じる光の量、すなわち生理的あるいは心理的な視知覚反射光の量が多いものである必要がある。
【0010】
また、装飾用ダイヤモンドを観察する際には通常ダイヤモンドのテーブル面やクラウン面から出てくる光を観察する。そこでテーブル面やクラウン面から出てくる反射光が多い場合にダイヤモンドが輝いていると評価される。
【0011】
一方、ブリリアントカットされたダイヤモンドは加工上の理由からクラウン部とパビリオン部との境界の周囲にガードル部と呼ばれる円筒面が付けられているが、ガードルの高さhは通常できるだけ小さくするようにしている。ガードル高さと視知覚反射光の量との関連についてはまだ検討されたことがなかった。
【0012】
そこで、本発明の目的とするところは、ダイヤモンドをテーブル面上及びクラウン面上から観察した際に、極めて明るく感じるとともに、パターン数の多いブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドを提供するものである。
【0013】
また、本発明の他の目的とするところは、視知覚反射光の量を増した装飾用ダイヤモンドを提供するものである。
【0014】
本発明で更に他の目的とするところは、上記のようにブリリアントカットされたダイヤモンドに適した観察方法をも提供するものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は発明者等が上記の特許出願をもとにして、視知覚反射光の量を増すことの検討を通じてなされたものである。
【0016】
すなわち本発明による装飾用ダイヤモンドは、ダイヤモンドを正面からすなわちテーブル面方向から観察したときに最も美しく感じることができるブリリアントカットを施したものである。そのために、ダイヤモンドの反射光量の評価のために、観察する人が知覚できる光量として「視知覚反射光の量」の概念を導入して、それを用いてカットしたダイヤモンドを評価している。更に、ダイヤモンドをテーブル面の方向から観察したときに、ダイヤモンドへの入射光のうち観察する人に遮られてしまう入射光を除いて、残りの入射光による反射光を用いて反射光量(「有効視知覚反射光の量」と呼ぶ)を評価している。このような実際的な観察に適した装飾用ダイヤモンドを本発明では提供しているのである。これは、ダイヤモンドを単なる反射体として扱い物理的反射光量全体で光量を評価するような従来から用いられていた評価とは全く違うものである。
【0017】
本発明の装飾用ダイヤモンドは、
上部にクラウン部とその下にパビリオン部とを有するブリリアントカットしたダイヤモンドにおいて、
ガードル高さhがガードル半径の0.026〜0.3であって、
パビリオン角pが37.5°〜41°であり、
クラウン角cが
c>−2.8667×p+134.233と、
p<1/4×{(sin−1(1/n)+sin−1(1/n・sinc))×180/π+180−2c}
(ここで、nはダイヤモンドの屈折率、πは円周率であり、パビリオン角pとクラウン角cとは度(°)で表している。)
とを満足する範囲となっているブリリアントカットであることを特徴とする。
【0018】
本発明の装飾用ダイヤモンドのガードル高さhがガードル半径の0.030〜0.15であることがより好ましい。
【0019】
本発明でダイヤモンドのテーブル直径がガードル直径の0.45〜0.60であることが好ましい。
【0020】
本発明による装飾用ダイヤモンドの観察方法は、
上部にクラウン部とその下にパビリオン部とを有しており、
ガードル高さhがガードル半径の0.026〜0.3であって、
パビリオン角pが37.5°〜41°であり、
クラウン角cが
c>−2.8667×p+134.233と、
p<1/4×{(sin-1(1/n)+sin-1(1/n・sinc))×180/π+180−2c}
(ここで、nはダイヤモンドの屈折率、πは円周率であり、パビリオン角pとクラウン角cとは度(°)で表している。)
とを満足する範囲となっているブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドを用いて、
そのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面に入射して、そのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面から出てくる光を、
そのダイヤモンドのテーブル面中央に立てたテーブル面垂線に対して20°未満の視線角度でテーブル面上方から、観察することを特徴とする。
【0021】
本発明による前記観察方法において、
そのダイヤモンドのテーブル面中央に立てたテーブル面垂線に対して10°〜50°の角度範囲でそのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面に入射して、そのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面から出てくる光を、
観察することが好ましい。
【0022】
更に本発明よる前記観察方法において、
そのダイヤモンドのテーブル面中央に立てたテーブル面垂線に対して20°〜45°の角度範囲でそのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面に入射して、そのダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面から出てくる光を、
観察することがより好ましいものである。
【0023】
また本発明の観察方法において、用いるブリリアントカット装飾用ダイヤモンドはガードル高さhがガードル半径の0.030〜0.15であることがより好ましい。そのダイヤモンドのテーブル直径がガードル直径の0.45〜0.60であることが好ましい。
【0024】
本発明における装飾用ダイヤモンドはブリリアントカット(ラウンドブリリアントカット)に適用されるものであり、ブリリアントカットは一般的に、
ほぼ円筒形をしたガードルと、
ガードル上部に、ガードル円筒から上を向いて形成されたほぼ円錐台形をしたクラウン部と、
その円錐台形の頂面を形成している正八角形のテーブル面と、
ガードル下部にガードル円筒から下に向いて形成されたほぼ円錐形をしたパビリオン部とを有するもので、
前記クラウン部は、8個のクラウンメインファセットと、8個のスターファセットと、16個のアッパーガードルファセットとを有し、
前記パビリオン部は、8個のパビリオンメインファセットと16個のロワーガードルファセットとを有している。
【0025】
そしてブリリアントカット(ラウンドブリリアントカット)をしたダイヤモンドにおいて、
テーブル面中心と円錐形パビリオン部の頂点とを通る直線を中心軸、
その中心軸とテーブル面の各八角形頂点とを通る平面を第一の平面、
中心軸を通り、隣り合う2つの第一の平面が挟む角を2等分する平面を第二の平面としたときに、
ブリリアントカットのクラウン部各ファセットはそれぞれ次のように表現することができる。各クラウンメインファセットは、正八角形テーブル面の1つの頂点と、その頂点を持つ第一の平面がガードル円筒上部円周と交わる点とを、対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点のそれぞれを隣にある第二の平面それぞれの上に持って、隣にあるクラウンメインファセットと1つの頂点を共有しており、
各スターファセットは、正八角形テーブル面の1辺と、その辺の両端点それぞれを1頂点とする2個のクラウンメインファセットが共有している頂点とによって形成される三角形であり、
各アッパーガードルファセットは、クラウンメインファセットそれぞれが持つ辺のうちガードル円筒の上部円周と交わっている1辺と、その辺の他端を通る第二の平面がガードル円筒の上部円周と交わる点とで形成される平面である。
【0026】
通常のブリリアントカットのパビリオン部各ファセットはそれぞれ次のように表現することができる。各パビリオンメインファセットは、第一の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点と、パビリオン円錐形頂点とを対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点のそれぞれを隣にある第二の平面それぞれの上に持って、隣にあるパビリオンメインファセットそれぞれと1つの辺と1つの頂点とを共有しており、
各ロワーガードルファセットは、パビリオンメインファセットが持つ辺のうちガードル円筒の下部円周と交わっている1辺と、その辺の他端を通る第二の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点とで形成される平面である。
【0027】
本発明は変形したブリリアントカットにも適用できる。変形したブリリアントカットは、上記通常のブリリアントカットにおけるクラウン部あるいはパビリオン部の一方を中心軸の回りに22.5°回転させたものである。そこで、変形したブリリアントカットしたダイヤモンドで、クラウン部は通常のブリリアントカットの場合と同じとすると、そのパビリオン部各ファセットはそれぞれ次のように表現することができる。
各パビリオンメインファセットは、第二の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点と、パビリオン円錐形頂点とを対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点のそれぞれを隣にある第一の平面それぞれの上に持って、隣にあるパビリオンメインファセットそれぞれと1つの辺と1つの頂点とを共有しており、
各ロワーガードルファセットは、パビリオンメインファセットが持つ辺のうちガードル円筒の下部円周と交わっている1辺と、その辺の他端を通る第一の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点とで形成される平面である。
【0028】
【発明の実施の形態】
ラウンドブリリアントカットダイヤモンドの構造
本発明によるダイヤモンド1の外観図を図1に、その断面図を図2に示していて、図1(A)は平面図、図1(B)は正面図、図1(C)は底面図である。ここで上面は正八角形のテーブル面11であり、ガードル12は円筒をしており、ガードル上部にガードル円筒から上を向いて形成された略円錐台形をしたクラウン部があり、正八角形テーブル面が円錐台の頂面を形成している。ガードル12よりも下部にガードル円筒から下を向いて形成された略円錐形をしたパビリオン部があり、その頂点にキューレット13と呼ばれている部分がある。クラウン部の外周には通常8個のクラウンメインファセット(ベーゼルファセット)14があり、テーブル外辺とクラウンメインファセットとの間に8個のスターファセット15が形成されているとともに、ガードル12とクラウンメインファセット14との間に16個のアッパーガードルファセット16が形成されている。また、パビリオン部の外周には通常8個のパビリオンメインファセット17が形成されているとともに、ガードルとパビリオンメインファセットとの間に16個のロワーガードルファセット18が形成されている。ガードル12の外周はテーブル面と垂直な円筒面となっている。
【0029】
テーブル面中心と円錐形パビリオン部の頂点とを通る直線を中心軸(後の説明においてz軸と呼ぶことがある)、
その中心軸とテーブル面の各八角形頂点とを通る平面を第一の平面、
中心軸を通り、隣り合う2つの第一の平面が挟む角を2等分する平面を第二の平面と呼ぶ。
【0030】
説明上の理由から図1,図2に示すようにダイヤモンド内に座標軸(右手系)を取って、そのz軸をテーブル面中央から上に向かってテーブル面に垂直に立て、その原点Oをガードル中央に置いている。なお、図2ではy軸は原点Oから紙面の裏側に向いているので示されていない。
【0031】
第一の平面はzx面と、zx面をz軸の周りに45°ずつ回転させて得られる面で、図1では21として示している。第二の平面は第一の平面をz軸の周りに22.5°回転させて得られる面で、図1では22として示している。
【0032】
図1(A)を参照して、各クラウンメインファセット14は、正八角形テーブル面11の1つの頂点(例えば図1(A)のA)と、その頂点Aを通る第一の平面21(例えばzx面)がガードル円筒上部円周と交わる点Bとを、対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点C,Dのそれぞれを隣にある第二の平面22それぞれの上に持って、隣にあるクラウンメインファセット14と1つの頂点C又はDを共有している。各スターファセット15は、正八角形テーブル面11の1辺AA′と、その辺の両端点AとA′それぞれを1頂点とする2個のクラウンメインファセット14が共有している頂点Cとによって形成される三角形AA′Cである。各アッパーガードルファセット16は、クラウンメインファセット14それぞれが持つ辺のうちガードル円筒12の上部円周と交わっている1辺(例えばCB)と、その辺の他端Cを通る第二の平面22がガードル円筒12の上部円周と交わる点Eとで形成される平面である。
【0033】
図1(C)を参照して、各パビリオンメインファセット17は、第一の平面21(例えばzx面)がガードル円筒12の下部円周と交わる点Fと、パビリオン円錐形頂点Gとを対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点H,Iのそれぞれを隣にある第二の平面22それぞれの上に持って、隣にあるパビリオンメインファセット17それぞれと1つの辺GH又はGIと1つの頂点H又はIとを共有している。各ロワーガードルファセット18は、パビリオンメインファセット17が持つ辺のうちガードル円筒12の下部円周と交わっている1辺(例えばFH)と、その辺の他端Hを通る第二の平面22がガードル円筒12の下部円周と交わる点Jとで形成される平面である。なお、ここではキューレット13を除いて考えるものとする。
【0034】
クラウンメインファセット14それぞれと、パビリオンメインファセット17それぞれとは、隣り合う2つの第二の平面22で挟まれている。隣り合う2つのアッパーガードルファセット16の共通辺CEと、隣り合う2つのロワーガードルファセット18の共通辺HJとが第二の平面22上にある。隣り合う2つの第一の平面21によって、各スターファセット15と、辺CEを共有する2つのアッパーガードルファセット16と、辺HJを共有する2つのロワーガードルファセット18とが挟まれている。これら2つのアッパーガードルファセット16とこれら2つのロワーガードルファセット18とはガードル12を挟んでほぼ対向する位置にある。
【0035】
また第一の平面21それぞれが、各クラウンメインファセット14の中央と、各パビリオンメインファセット17の中央を分断している。そのために、各クラウンメインファセット14と各パビリオンメインファセット17とはガードル12を挟んでほぼ対向している。
【0036】
以下の説明において、ガードル直径あるいはガードル半径を単位として、それとの対比でダイヤモンドの各部の寸法を表す。ガードル高さhはガードルのz軸方向の寸法であって、ガードル半径対比で表す。
【0037】
図2に示す断面図で、図1と同じ部分は同じ参照符号を用いて示している。ここで、クラウン部のクラウンメインファセット(ベーゼルファセット)14がガードル水平断面(xy面)となす角度、すなわちクラウン角をcと示し、パビリオン部のパビリオンメインファセット17がガードル水平断面(xy面)となす角度、すなわちパビリオン角をpと示している。本明細書では、クラウン部にあるクラウンメインファセット(ベーゼルファセット)、スターファセット、アッパーガードルファセットをまとめてクラウン面、パビリオン部にあるパビリオンメインファセット、ロワーガードルファセットをまとめてパビリオン面と呼ぶことがある。
【0038】
ガードル高さh、テーブル直径Del、スターファセット先端までの距離fx、パビリオン部のロワーガードルファセット頂点までの距離Gdは、図1に示している。テーブル直径Delは、図1(A)に示すようにz軸からテーブル11の正八角形頂点までの距離の2倍である。スターファセット先端までの距離fxは、クラウン部にあるスターファセットとベーゼルファセットとアッパーガードルファセットとの交点までのダイヤモンド中心軸(z軸)を通るyz面からの距離を表すのに用いられており、z軸からその先端までの距離のzx面への投影である。パビリオン部ロワーガードルファセット頂点までの距離Gdはパビリオン部のロワーガードルファセットのキューレット側頂点181までのzx面上でのz軸からの距離を表しており、中心軸(z軸)からその頂点181までの距離にcos22.5°を乗じた値である。
【0039】
ダイヤモンドの大きさ(サイズ)を規定するのに、テーブル直径あるいは寸法(対ガードル直径の比率)の他に、クラウン高さ、パビリオン深さ、トータル深さが用いられることもあるが、これらはテーブル直径とパビリオン角pとクラウン角cが決まれば決まるものなので本明細書では言及しない。
【0040】
光路の検討のやり方
本明細書で光路の検討は以下に示すやり方で行った。
(1)ダイヤモンドはz軸を回転軸として45°毎に対称で、且つ45°の分割要素はその中央で面(例えばzx面)対称として、入出射光路の始点はこの要素の半分、22.5°の範囲で考察した。例えば、或る点から或る角度で入射する光の行方(出射点)とその光路をみるには、この22.5°範囲の点からの入射光を追う。この光路の対称性から全体の光路を推定した。
【0041】
(2)光路追跡の場合、光線を始点座標(Xi,Yi,Zi)と方位(l,m,n)をもつベクトルで表し、ダイヤモンドの各面を面内にある既知の点座標(a,b,c)と法線方位(u,v,w)をもつベクトルで表した。このカットをしたダイヤモンドの面は45°の範囲でテーブル面、クラウンメインファセット(ベーゼルファセット)、アッパーガードルファセット2面,スターファセット、パビリオンメインファセット、ロワーガードルファセット2面の計8面とその45°ずつ7回転した面になる。
【0042】
(3)光路、出射角、出射点、反射・屈折の判定(光線と面との交わり角)の計算はベクトル計算で行う。
【0043】
即ち、反射・屈折・出射点はこれらの直線と面の交点(連立式の解)として求められる。
直線の式:(x−Xi)/l=(y−Yi)/m=(z−Zi)/n
平面の式:u(x−a)+v(y−b)+w(z−c)=0
交点はこれらの連立方程式の解として求められ、各面との交点を逐次吟味して条件に合う正しい解を出した。
【0044】
入射・屈折時の光路の方向変化は屈折率と、入射光と面方位ベクトルの合成ベクトルで(入射後のベクトルが)求められる。反射の場合も合成ベクトルの形は異なるが、同様に求められる。屈折・反射後の光線はこの交点を始点とした直線で表現される。
【0045】
面と光線のなす角は面の法線ベクトルと光線の方位ベクトルのスカラ−積で求められ、この角度が臨界角よりも小さければ屈折して出射するし、大きければ反射していく。反射した場合は改めて反射後の光線と次に交わる面との交点を求めて、同じ計算をした。
【0046】
(4)これらの光路の計算は視線(観測側から光源までを辿る)にも光線(光源から観測点までを辿る)にも適宜適用した。即ち、出射側から光源までの光路を辿ることと、光源側から出射点まで光路を辿る計算方法は同じ原理に従って行った。
【0047】
(5)また、光のスペクトルの分離出射は、同一点から同時に入射した白色光が、例えば3回目の屈折面で比較的波長の短い青側の光が全反射して比較的波長の長い赤側の光が臨界角以内で出射する入射条件・光路を選び出した。また、全反射して残った青色の光の行方は、上記方法で光路を求めた。
【0048】
視知覚反射光の量の導入
以下の検討において視知覚(反射)光の量は次のようにして求めた。
視知覚光の量に関して、フェヒナーの法則とスチーブンスの法則がある(松田隆夫著培風館発行「視知覚」2000年版10〜12ページ)。フェヒナーの法則では視知覚光の量を物理的光量の対数としている。スチーブンスの法則では光源を点光源と見なして、物理的光量の平方根を視知覚光の量としている。フェヒナー及びスチーブンスのどちらの法則に基づくにしても定量的には異なるが、多くの結論は同じでおおむね誤りはないと思われる。ここではスチーブンスの法則に基づき、視知覚光の量を求めて、それが反射光の時には視知覚反射光の量として、ダイヤモンドの輝きを評価することにした。
【0049】
以下の検討において視知覚反射光の量は、ダイヤモンドの反射光パターンのうち30メッシュ以上の大きさを持ったパターン毎に物理的反射光量10を単位として、その平方根を求めて、その値を全パターンについて和を求めることにした。
【0050】
なお、物理的反射光量を求める際に、ダイヤモンドの半径を100等分したメッシュに切って、メッシュ毎の光量密度を求めた。ダイヤモンドは半径数mm程度なので、各メッシュは数百μm2となる。人が視覚できる大きさを勘案して30メッシュ以上の大きさをしたパターンのみについて光の量を計算した。
【0051】
またブリリアントカットしたダイヤモンドをテーブル面上から観察すると45°毎に回転対称であって、その45°の範囲内で22.5°毎に面対称となっているので、中心軸(z軸)を通る22.5°毎の面で切られた切片毎に光量を求めればよいことになる。
【0052】
すなわち、
視知覚反射光の量=Σ{(切片内の30メッシュ以上のパターン毎についての物理的反射光量)/10}1/2
とした。なお、ここでΣは1切片内のパターンの和である。
【0053】
視知覚反射光の量と物理的反射光量との比較
本発明のブリリアントカットをしたダイヤモンドと、従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドについて、図2に示すようにテーブル面上z軸方向から観察して物理的反射光量、視知覚反射光の量、反射光パターン数を調べた。この観察はz軸に対して視線角度を0°から27.92°まで傾けていって行った。その傾けた視線は図2のzx面内で行った。視線を更にxy面内でz軸の回りに回して、反射光の量の検討を行ったが、本明細書では省略した。ここで用いたダイヤモンド試料の形状は、本発明品としてパビリオン角p:38.5°、クラウン角c:27.92°、テーブル径Del:0.55、スターファセット先端距離fx:0.75、ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.026であり、従来品としてはパビリオン角p:40.75°、クラウン角c:34.5°、テーブル径Del:0.53、スターファセット先端距離fx:0.7、ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.314、ガードル高さh:0.02である。視線角度を変えたときの本発明品と従来品との物理的反射光量合計をグラフにして図3に示す。また、視線角度を変化させたときの本発明品と従来品との各面からの物理的反射光量をグラフにして図4に示す。図5には、視線角度を変えたときの本発明品と従来品との視知覚反射光の量の合計のグラフを示す。また図6には、視線角度を変化させたときの本発明品と従来品との各面からの視知覚反射光の量のグラフを示す。図7に、視線角度を変えたときの本発明品と従来品との反射光パターン数合計のグラフを示す。また、図8に視線角度を変化させたときの本発明品と従来品との各面からの反射光パターン数のグラフを示す。更に、図9には視線角度を変化させたときの本発明品と従来品とのパターン当たり反射光の量をグラフで示している。
【0054】
ブリリアントカットをしたダイヤモンドをテーブル面上z軸方向真上から(視線角度0°で)観察したときの物理的反射光量の合計は図3のグラフに示すように、本発明品よりも従来品のほうが少し多い。図2で定義している視線角度を大きくしていくと、図3に示すように視線角度が25°前後で本発明品と従来品の物理的反射光量がほぼ同じとなる。ダイヤモンドのガードルよりも上の各面すなわちテーブル面とクラウン面(ベーゼルファセット、アッパーガードルファセット、スターファセット)からの物理的反射光量を図4のグラフに示している。従来品ではベーゼルファセットからの物理的反射光量が特に多い。本発明品においてもベーゼルファセットからの反射光量は多いが、本発明品ではテーブル面からの反射光量が従来品でのテーブル面からの反射光量よりも多くなっている。
【0055】
本発明品と従来品とを同様に観察したときの反射光の量を視知覚反射光の量で比較したものを図5と図6とに示している。視知覚反射光の量の各面からの合計を図5に示しており、視線角度15°未満で観察した場合、本発明品では従来品よりも30%程度明るくなっており、視線角度15°〜25°では本発明品と従来品の視知覚反射光の量はほぼ同じである。図5を図3と比べてみて明らかなように、本発明品は物理的反射光量では従来品よりも弱いが、視知覚反射光の量では遙かに明るくなっているので、観察者に知覚される光の量が多く、観察者に本発明のダイヤモンドは従来品よりも強く輝いて知覚されることを示している。視線角度を15°よりも大きくしていくと、本発明品と従来品との視知覚反射光の量はほぼ同じになるので、本発明のダイヤモンドはテーブル面上z軸の近辺から観察するのがよい。図6にあるように、ベーゼルファセットからの視知覚反射光の量が最も多く、次にテーブル面、それに次いでガードルファセットとなっている。
【0056】
反射光パターン数で本発明品と従来品とを比較したものが図7と図8であり、図7は反射光パターン数合計を、図8は各面からの反射光パターン数を視線角度との関連で示している。図7から判るように、本発明品のパターン数は従来品よりも60〜70%多く、図8からはベーゼルファセットのパターン数が増えていることが明らかである。
【0057】
反射光パターン当たりの反射光の量を視線角度との関連で求めてグラフに示したのが図9である。ダイヤモンドのテーブル面真上付近から観察したとき(視線角度の小さいとき)は、本発明品のパターン当たりの反射光の量は従来品に比べて小さくなっている。このことを図7と合わせて考えると本発明品は微細なパターン数が多いと言うことを意味している。しかし、視線角度が15°以上になると、本発明品のパターン当たり視知覚反射光の量は従来品のものと同じ程度になっている。
【0058】
本発明品と従来品の反射光パターン数合計を示す図7にある視線角度0°、10°、20°、27.92°のダイヤモンドについて、反射光パターンを入射光の入射角度で分けて対z軸の入射角度の間隔10°毎のパターン頻度をそれぞれ図10,図11,図12,図13に示す。これらの図で横軸は10°間隔であり、そこに示している数字はそれぞれの中間値、例えば5とは入射角度が0°〜10°の範囲を意味している。視線角度0°での観察を示す図10では、25のところすなわち20°〜30°の角度範囲の入射角度でダイヤモンドに入ってきた光によるパターンがほとんどであって、50°以上の入射角度でダイヤモンドに入射した光によるパターンはない。しかし、従来品では0°から70°までの入射角度範囲に広く分布している。視線角度10°の図11によれば、本発明品でも入射角度が0°から80°までに分布するようになるが、ほとんどのパターンは入射角度が10°から40°までの入射光で形成される。視線角度20°の図12では、本発明品で入射角度10°から50°までの入射光でパターンがほとんど形成されていて、視線角度27.92°の図13ではパターンを形成する入射光の分布が更に広がっており、次第に従来品の分布に似てくる。
【0059】
以上の本発明のダイヤモンドと従来品との比較から次のことが明らかとなった。
(a)物理的反射光量では、従来品が少し勝っているが、視知覚反射光の量では、本発明品が極めて優れている。クラウンメインファセット(ベーゼルファセット)の視知覚反射光の量が特に多い。
(b)本発明品の反射光パターン数は、従来品よりも多い。またパターン当たりの反射光の量は本発明品では従来品よりも少なくなっているので、本発明品のパターンは細かいものが多く存在していることを意味している。
(c)視線角度20°で本発明品を観察したときにはz軸に対する入射角度が10°〜50°の入射光による反射光パターンが主に観察され、視線角度10°においては10°〜40°の範囲の入射光によって反射光パターンが主に形成されている。後で説明するように、z軸に対する入射角度が小さな入射光は正面から観察する人に遮られてダイヤモンドに入射しないので、z軸に対して20〜45°の角度範囲で入射した光による反射光の量で評価する。
(d)上記特徴は視線角度が20度未満、特に15°未満で際だっている。すなわちテーブル面の真上からダイヤモンドを観察する際に知覚することができる。
【0060】
ガードル高さと視知覚反射光の量の関係
ガードル高さhと視知覚反射光の量の関係を調べた。パビリオン角pが38.5°、クラウン角cが27.92°であるブリリアントカットをしたダイヤモンドのガードル高さhを0.025から0.3まで変えたものをテーブル面上のz軸方向から観察したときの視知覚反射光の量を求めた。その結果を図14にグラフにして示している。図14で横軸はガードル高さhで、ダイヤモンドのガードル半径を基準にして示している。縦軸は視知覚反射光の量である。同図で、実線で示したグラフはz軸方向からの観察、破線で示したグラフはz軸から10°の角度(以下「視線角度」という)からの観察、一点破線で示したグラフはz軸から20°の角度(視線角度20°)からの観察である。また同図で左下部に示している「従来0」「従来10」「従来20」とラベルの付いているドットは、パビリオン角pが40.75°、クラウン角cが34.5°をした従来から用いられていたブリリアントカットを施したダイヤモンドでガードル高さhをガードル半径の0.02としたものをそれぞれz軸方向、z軸から10°の角度の方向、z軸から20°の方向から観察したときの視知覚反射光の量である。
【0061】
図14から明らかなように、従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドに比較して本発明のブリリアントカットをしたダイヤモンドは視知覚反射光の量が極めて大きくなっている。また、本発明のブリリアントカットでは、ガードル高さhを増していくに従い視知覚反射光の量が多くなっている。視線角度0°で視知覚反射光の量が最も大きく、視線を傾けていくに従い小さくなっているが、視線角度20°であっても従来のブリリアントカットの最大よりも大きくなっている。視線角度0°においてはh:0.2で最大となり、それ以上では少し減少している。しかし、視線角度0°のグラフはh:0.3であってもその視知覚反射光の量は視線角度10°の場合よりも大きい。この結果から、ガードル高さhを増すことは、視知覚反射光の量を増す上で有効であることが判る。ガードル高さhが0.3までは視知覚反射光の量が大きい。
【0062】
図15にダイヤモンドのz軸方向から反射光を観察したときに、ダイヤモンドの各面に出てくる光の光路を示している。図15(A)では、パビリオン角p:38.5°、クラウン角c:27.92°をしているブリリアントカットしたダイヤモンドのz軸方向に出てくる反射光の光路を示している。テーブル面に出てくる光はクラウン面から入射したものである。テーブル面の外周近くから出てくる光はクラウン面のガードルに近いところから入射した光である。ガードル円筒面から入射した光もテーブル面の外周近くに出てくる。
【0063】
z軸方向に出射してくる反射光のうちガードル円筒面から入射した光の比率を求めてグラフに表したものが図16である。ガードル半径を100等分したときに、ガードル面(ガードル円筒の断面)は約31000個のメッシュとなる。その各メッシュ当たり、1本の光線が出てくるとして、それを単位として図16の縦軸はガードル円筒面からの入射光線数を示している。同図の横軸は対ガードル半径比で表したガードル高さhである。
【0064】
図16では、視線角度をパラメータとしてガードル高さhを0.026から0.2まで変えた場合のガードル円筒面からの入射光線数を示している。いずれの視線角度においても、ガードル高さhが大きくなるに従いガードル円筒面から入射する光線の量が増えている。視線角度0°ではガードル円筒面からの入射光線数は少ない。しかし、視線角度10°ではガードル高さh:0.15で976本がガードル円筒面から入射していて、全光線の約3%となる。また、視線角度20°ではガードル高さh:0.15で1734本がガードル円筒面から入射していて、全光線の約5.5%となる。
【0065】
ガードル円筒面から入射した光のほとんどは上に述べたようにテーブル周辺に観察される。しかし、装飾用ダイヤモンドは台座の中にダイヤモンドのガードル部分まで埋め込まれて用いられることが多い。台座中に埋め込まれたダイヤモンドは、ガードル円筒面が台座で覆われてしまう。そのために、ガードル円筒面から入射してくる光がなくなり、テーブル面の周辺が暗くなる。ガードル高さを大きくすると、ガードル円筒面から入射してくる光線の比率が多くなるので、ダイヤモンドを台座中に埋め込んでガードル円筒面から入射してくる光線を遮断するとテーブル面の周辺に生じる暗部が大きくなってしまう。ガードル円筒面から入射する光線の全光線に対する比率を約5%以下、好ましくは3%以下にするのがよい。ダイヤモンドの観察はテーブル面の真上からだけでなく、少し傾けて観察することもある。ガードル高さhが0.15以下のダイヤモンドを台座中に埋め込んだときに台座によって光が遮断されて暗くなる比率を約5%まで許容されるものとすると、観察するときのダイヤモンドの傾き、すなわち視線角度を約20°未満とすればよい。この暗くなる比率を3%以下まで許容されるものとすると、視線角度を10°以下とすればよい。
【0066】
ガードル高さhの下限を検討する。クラウン部にあるアッパーガードルファセット16はガードル円筒面12と円弧で交わっている。アッパーガードルファセット16の円弧は下に凸となっている。またパビリオン部にあるロワーガードルファセット18はガードル円筒面12と円弧で交わっている。ロワーガードルファセット18の円弧は上に凸となっていて、ガードル円筒面上でアッパーガードルファセット16の円弧と対向している。ガードル円筒面の一部を拡大してアッパーガードルファセット16の円弧とロワーガードルファセット18の円弧の対向している様子を図17に模式図で示している。ガードル高さhを小さくしていくと、アッパーガードルファセット16の円弧とロワーガードルファセット18の円弧とが交差して、ダイヤモンドを上から見たときのガードル外周が欠けていき、円でなくなる。アッパーガードルファセットの円弧とロワーガードルファセットの円弧とが接するときのガードル高さhを「最小ガードル高さ」とすると、最小ガードル高さは表1にあるようにパビリオン角pとクラウン角cとで決まる。しかし、ガードル高さhが対ガードル半径比で0.026以上ある時は、アッパーガードルファセットとロワーガードルファセットの両円弧が少し交差するが、それらで形成される交線は極めて短いものなので無視することができる。この表から判るようにガードル高さhの好ましい値は対ガードル半径比で0.030以上である。
【0067】
以上の説明からガードル高さhは対ガードル半径比で0.026〜0.3、より好ましくは0.030〜0.15である。
【0068】
【表1】
【0069】
ガードル高さhとパビリオン角pとの関連について調べた。ガードル高さhをガードル半径対比で0.026、0.05,0.10、0.15としてパビリオン角pを38.25°から39.5°まで増やして検討した。それらのダイヤモンドをテーブル面の上方から観察したときの視線角度を0°、10°、20°として視知覚反射光の量を求めた結果を図18に示している。この図から、ガードル高さhを大きくしていくと視知覚反射光の量が多くなり、パビリオン角pを大きくすると視知覚反射光の量が減少する傾向にあることが判る。しかし視線角度を0°から10°に、10°から20°に上げると、この傾向が小さくなる。このことからも本発明によるブリリアントカットを施したダイヤモンドは視線角度20°未満で観察したときに、その特徴が知覚されることが判る。
【0070】
パビリオン角とクラウン角との視知覚反射光の量への関係
次に、パビリオン角pとクラウン角cとを変えたときの視知覚反射光の量を検討した。その予備検討として、パビリオン角pとクラウン角cを変えて、ダイヤモンドのz軸方向から反射光を観察したときの光路の変化を調べた。その光路を図15に模式的に示している。
【0071】
この図でテーブル面右半分から上方に出ている太い実線は、左側クラウン面から入射してダイヤモンド内で反射してテーブル面右半分から出射している光路の存在している範囲を示している。2本の太い実線で示した光路の間に同様な光路を取る光線の存在していることを意味している。右側クラウン面から上方に出ている太い破線は、左側クラウン面から入射してダイヤモンド内で反射して右側クラウン面から出射している光路の存在する範囲を示しており、それら2本の太い破線で示した光路の間に同様な光路を取る光線が存在していることを意味している。また、右側クラウン面から上方に出ている細い実線はテーブル面左端から入射してダイヤモンド内で反射して右側クラウン面から出射している光路の存在する範囲を示しており、それら細い実線で示した光路の間に同様な光路を取る光線が存在していることを意味している。図15(D)ではクラウン面に入射してクラウン面から出射する光は少ないので太い破線での光路を示していない。
【0072】
図15(A)は、パビリオン角p:38.5°、クラウン角c:27.92°をしたブリリアントカットを施したダイヤモンドをテーブル面上z軸方向から観察したときの光路を示している。右側テーブル面からz軸方向に出てくる反射光は左側クラウン面から入射した光である。右側クラウン面のガードルに近い部分からz軸方向に出てくる反射光は左側クラウン面の中央部分から入射した光である。右側クラウン面のテーブル外周に近い部分からz軸方向に出てくる反射光は左側クラウン面上で左側テーブルの外周に近い部分から入射した光である。
【0073】
パビリオン角pを38.5°にしたままで、クラウン角cを3°大きくして30.92°としたダイヤモンドの反射光の光路を図15(B)に示している。右側クラウン面のガードルに近い部分からz軸方向に出ている反射光は左側クラウン面の中央部分から入射した光であることは変わらないが、その入射角度が大きくなっている。また入射光の面積が小さくなっている。そのために反射光が弱くなっていることが考えられる。クラウン角cを更に大きくした場合は図示していないが、クラウン角cを更に大きくすると、入射角度が更に大きくなって、クラウン角c:31.395°で臨界となって、クラウン面から入射してクラウン面から出る光がなくなる。
【0074】
パビリオン角pを38.5°のままとして、クラウン角cを上と反対に2°小さくして25.92°としたダイヤモンドの反射光の光路を図15(C)に示している。右側テーブル面からz軸方向に出てくる反射光は左側クラウン面から入射した光ではあるが、テーブルの中央から出る光がなくなりその部分が暗くなっている。
【0075】
比較のためにパビリオン角p:40.75°、クラウン角c:34.5°の従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドでz軸方向への反射光の光路を図15(D)に示している。右側テーブル面から出ている反射光は左側テーブル面のテーブル外周に近いところから左側クラウン面へかけての部分から入射した光である。右側クラウン面から出ている反射光は左側テーブル面の中央に近いところに入射した光である。
【0076】
本発明のカットを施したダイヤモンドではクラウン面、すなわちベーゼルファセットが明るく輝いている様子が図15からも判る。しかし、本発明のカットを施したダイヤモンドでクラウン角cを大きくしていくと、図15(B)にあるようにクラウン面すなわちベーゼルファセットが暗くなっていき、入射角が臨界以上となるクラウン角度になるとベーゼルファセットの光が極めて弱くなるので、クラウン角cをその臨界となる値よりも小さくしておく必要がある。入射角が臨界になるのはパビリオン角p=1/4×{(sin−1(1/n)+sin−1(1/n・sinc))×180/π+180−2c}(ここで、nはダイヤモンドの屈折率、πは円周率であり、パビリオン角pとクラウン角cとは度(°)で表している。)のときなので、クラウン角cとパビリオン角pとはp<1/4×{(sin−1(1/n)+sin−1(1/n・sinc))×180/π+180−2c}を満足する範囲でなければならない。
【0077】
パビリオン角pとクラウン角cとの有効な範囲を調べるために、パビリオン角pを38°、38.5°、39°、39.5°として、その各々においてクラウン角cを25.3〜34.3°、23.42〜42°、21.5〜30.5°、19.5〜29.5°の間で変化させて、z軸方向から観察したときの視知覚反射光の量とパターン数を調べた。クラウン面(ガードル円筒面を含めて)とテーブル面に入射したすべての入射光による反射光の視知覚反射光の量とパターン数のクラウン角cとの関係をパビリオン角pを、パラメータとして、示したものがそれぞれ図19と図20である。上の範囲のパビリオン角、クラウン角をしているダイヤモンドでは視知覚反射光の量はいずれも588よりも大きくなっており、従来のブリリアントカット(パビリオン角p:40.75°、クラウン角c:34.5°)をしているダイヤモンドでは507なので、本発明品は従来のダイヤモンドよりも視知覚反射光の量が大である。また本発明品のパターン数は、従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドでは192なので、いずれのパビリオン角、クラウン角においても多くなっている。
【0078】
有効視知覚反射光の量の導入
ダイヤモンドをテーブル面方向から観察した場合、観察者の真後ろから来る光は観察者に遮られてダイヤモンドに入射しない。また、z軸に対して45°以上の角度でダイヤモンドに入射する光は図10,図11に関連して説明したように、反射光パターンの形成すなわちダイヤモンドの輝きにはあまり効果がない。ダイヤモンドをテーブル面の上方(z軸方向)から観察する場合に、z軸に対して20〜45°の角度範囲でダイヤモンドのクラウン面とテーブル面に入射してくる光による視知覚反射光の量がダイヤモンドの輝きにとって有効なものなので、それを有効視知覚反射光の量とする。
【0079】
有効視知覚反射光の量をパビリオン角p:37.5°、38°、38.5°、39°、39.5°、40°及び41°について、その各々においてクラウン角cを変化させて調べた結果を図21に示している。従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドでは有効視知覚反射光の量は約250である。パビリオン角p:37.5°のときクラウン角c:31°で最大となり、クラウン角c:27°から34°の範囲で約300あるいはそれ以上の有効視知覚反射光の量を持つ。パビリオン角p:38°のときクラウン角c:28.3°で最大になり、クラウン角cが25.3°となっても320以上あるが、クラウン角cが31.3°まで大きくなると有効視知覚反射光の量はかなり小さくなる。これはクラウン角cが32.6°前後で、図15(B)に関連して述べたクラウン面に出射する反射光でクラウン面から入射する光の入射光が臨界となるためであると考えられる。更にクラウン角が大きくなると有効視知覚反射光の量は一時的に大きくなることはあるが、それ以上のクラウン角では小さくなり、クラウン角c34.3°では211となって従来のダイヤモンドよりも輝きが小さくなる。
【0080】
パビリオン角p:38.5°のとき、クラウン角c:27.92°で有効視知覚反射光の量が最大となる。その値からクラウン角cが更に大きくなると、反射光の量は小さくなり、クラウン角c:30.92°で極小となる。クラウン角cが31.4°程度でクラウン面から入射する光の入射角が臨界となるためと考えられる。クラウン角が27.92°よりも小さくなると反射光の量も減ってクラウン角25°以下では300前後となる。クラウン角cが23°以上では従来品よりも有効視知覚反射光の量が大きくなる。
【0081】
パビリオン角p:39°のとき、クラウン角c:26°で有効視知覚反射光の量が最大となる。クラウン角cがその値よりも大きくなると有効視知覚反射光の量が減って行き、クラウン角c30.5°では有効視知覚反射光の量が約300となる。クラウン角c30.2°程度で、クラウン面から入射する光の入射角が臨界となるものと考えられる。反対にクラウン角が26°から小さくなっていくと有効視知覚反射光の量が減って、クラウン角c23°でほぼ300となり、クラウン角cがそれよりも小さくなると更に有効視知覚反射光の量が減少する。クラウン角cが22.5°以上で、従来のダイヤモンドよりも有効視知覚反射光の量が多い。
【0082】
パビリオン角p:39.5°では有効視知覚反射光の量は全般的に小さくなり、クラウン角c:25°近傍で最大となるがその値は380程度である。クラウン角cがそれよりも大きくなると反射光の量が減少し、またクラウン角cがそれよりも小さくなったときも反射光の量が減少し、クラウン角c:約20°で従来のダイヤモンドよりも反射光の量が小さくなるので、反射光の量を従来のものの値250よりも十分に余裕を持って270以上とするにはクラウン角は21°以上必要である。。しかし、パビリオン角p:40°における有効視知覚反射光の量はパビリオン角p:39.5°におけるものとほぼ同じで、その最大となるクラウン角cの値はパビリオン角p:39.5°におけるものよりも低い角度なっているのでクラウン角cを少し小さくすればパビリオン角p:40°においても有効視知覚反射光の量が大きく強い輝きが観察される。また、パビリオン角p:41°における有効視知覚反射光の量は、クラウン角が小さくなってもそれほど低下しない。そこでパビリオン角pは41°までは好ましいものであることが判る。
【0083】
逆にパビリオン角pが37.5°未満になると、クラウンメインファセット(ベーゼルファセット)の上部すなわちテーブル外周に近い部分に入射した光がキューレットに近いところからダイヤモンドの裏に漏れてしまう。ダイヤモンドのテーブル上z軸方向から観察したときに、ベーゼルファセット上部やスターファセットが暗くなることがある。そこでパビリオン角pは37.5°以上必要である。
【0084】
有効視知覚反射光の量の観点からすると、パビリオン角pが38°、39.5°それぞれにおいて、クラウン角cは25.3°、21°以上でなければならない。パビリオン角p:38°でクラウン角c:25.3°の点と、有効視知覚反射光の量にとって最も厳しいパビリオン角p:39.5°においてクラウン角c:21°の点とを結ぶ直線はc=−2.8667×p+134.233である。この直線よりもクラウン角cが大きくて、既に述べた入射角が臨界以下となる関係式p<1/4×{(sin-1(1/n)+sin-1(1/n・sinc))×180/π+180−2c}及びパビリオン角pが37.5°〜41°の条件を纏めてグラフにして図22に示す。パビリオン角pとクラウン角cが図22に示された4本の直線で囲まれた領域にあるときに有効視知覚反射光の量が大きくなって、輝きの大きなダイヤモンドを得ることができる。
【0085】
テーブル直径と有効視知覚反射光の量との関係
テーブル直径Delが有効視知覚反射光の量に及ぼす影響を調べた。パビリオン角pを38.5°として、テーブル直径Delをガードル直径対比で0.45、0.5,0.55としたダイヤモンドについて、そのクラウン角cをそれぞれ24.92〜30.92°と変えて、全視知覚反射光の量と、全パターン数と、有効視知覚反射光の量とを求めて、それぞれを図23,図24,図25に示した。テーブル直径がガードル直径対比で0.5,0.55とすると、0.45のものよりも全視知覚反射光の量、全パターン数、有効視知覚反射光の量ともに多くなっている。テーブル直径はガードル直径対比で0.45以上あることが必要である。テーブル直径0.5と0.55のものを比較して、テーブル直径0.55としても全視知覚反射光の量、有効視知覚反射光の量共にあまり増えていない。むしろ、テーブル直径を0.5から0.55に大きくするとパターン数が減少する傾向にある。そこで、テーブル直径は大きくても0.60とするのがよいと考えられる。これは本発明のダイヤモンドは、テーブルよりもベーゼルファセットの輝きが強いので、テーブル直径を比較的小さくする方がベーゼルファセットが大きくなるので好ましい。
【0086】
変形したブリリアントカットへの適用
以上本発明による装飾用ダイヤモンドを通常のブリリアントカットについて説明してきた。通常のブリリアントカットは図1,図2に示すようにガードル12を挟んで上下にアッパーガードルファセット16と2個のロワーガードルファセット18とが、またベーゼルファセット14とパビリオンメインファセット17とが対向しているものである。通常のブリリアントカットではベーゼルファセット14に入った光がパビリオンメインファセット17に当たりそこで反射して、反対側にあるパビリオンメインファセット17に当たりそこで反射して、ベーゼルファセット14あるいはテーブル面11から出射してくるものである。
【0087】
本発明の装飾用ダイヤモンドは変形したブリリアントカットにも適用することができる。変形したブリリアントカットとは、図1に示す通常のブリリアントカットにおけるクラウン部あるいはパビリオン部の一方をz軸の回りに22.5°回転させたもので、図26に示すものである。図26は図1に対応して変形したブリリアントカットをしたダイヤモンド1′を示しており、図26(A)はその平面図、図26(B)はその正面図、図26(C)はその底面図である。
【0088】
変形したブリリアントカットをしたダイヤモンド1′においても、通常のブリリアントカットをしたダイヤモンド1と同様に、
ほぼ円筒形をしたガードル12と、
ガードル上部に、ガードル円筒12から上を向いて形成されたほぼ円錐台形をしたクラウン部と、
その円錐台形の頂面を形成している正八角形のテーブル面11と、
ガードル下部にガードル円筒から下に向いて形成されたほぼ円錐形をしたパビリオン部とを有する。
【0089】
変形したブリリアントカットダイヤモンドを描いている図26で、図1と同様に、
テーブル面中心と円錐形パビリオン部の頂点とを通る直線を中心軸(z軸)、
中心軸とテーブル面の各正八角形の頂点とを通る平面を第一の平面21、
中心軸を通り、隣り合う2つの第一の平面21が挟む角を2等分する平面を第二の平面22と呼ぶ。
【0090】
変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドのクラウン部は、図1に示した通常のブリリアントカットダイヤモンドと同じであり、8個のクラウンメインファセット14と、8個のスターファセット15と、16個のアッパーガードルファセット16とを有している。また、パビリオン部は、8個のパビリオンメインファセット17′と16個のロワーガードルファセット18′とを有している。
【0091】
各クラウンメインファセット14は、正八角形テーブル面11の1つの頂点(例えば図26(A)のA)と、その頂点Aを通る第一の平面21(例えばzx面)がガードル円筒上部円周と交わる点Bとを、対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点C,Dのそれぞれを隣にある第二の平面22それぞれの上に持って、隣にあるクラウンメインファセット14と1つの頂点C又はDを共有している。各スターファセット15は、正八角形テーブル面11の1辺AA′と、その辺の両端点AとA′それぞれを1頂点とする2個のクラウンメインファセット14が共有している頂点Cとによって形成される三角形AA′Cである。各アッパーガードルファセット16は、クラウンメインファセット14それぞれが持つ辺のうちガードル円筒12の上部円周と交わっている1辺(例えばCB)と、その辺の他端Cを通る第二の平面22がガードル円筒12の上部円周と交わる点Eとで形成される平面である。
【0092】
図26(C)を参照して、各パビリオンメインファセット17′は、第二の平面22がガードル円筒12の下部円周と交わる点F′と、パビリオン円錐形頂点Gとを対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点H′,I′のそれぞれを隣にある第一の平面21それぞれの上に持って、隣にあるパビリオンメインファセット17′それぞれと1つの辺GH′又はGI′と1つの頂点H′又はI′とを共有している。各ロワーガードルファセット18′は、パビリオンメインファセット17′が持つ辺のうちガードル円筒の下部円周と交わっている1辺(例えばF′H′)と、その辺の他端H′を通る第一の平面21がガードル円筒12の下部円周と交わる点J′とで形成される平面である。なおここではキューレット13を除いて考えるものとする。
【0093】
変形したブリリアントカットをしたダイヤモンド1′では、図26にあるようにガードル12を挟んで上下にあるアッパーガードルファセット16とロワーガードルファセット18′とは対向しているが、22.5°回っているために、ベーゼルファセット14に対向した位置にはロワーガードルファセット18′が来ており、パビリオンメインファセット17′が来ていない。そのためにベーゼルファセット14に入った光がロワーガードルファセット18′で反射されて、その反射した光が反対側にあるロワーガードルファセット18′に当たり、そこで反射して、クラウン部にあるベーゼルファセット14あるいはテーブル面11から出射している。
【0094】
変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドでパビリオン角:pを37.5°、38°、39°、40°及び41°のものそれぞれでクラウン角を変えたものについて、有効視知覚反射光の量を測定した結果を図27に示す。図22に示された4本の直線で囲まれた領域(パビリオン角p:37.5°でクラウン角c:26.7〜33.8°、p:38°でc:25.3〜32.6°の範囲、p:39°でc:22.6〜30.2°の範囲、p:40°でc:19.5〜27.7°の範囲、p:41°でc:16.7〜25.3°の範囲)にあるパビリオン角pとクラウン角cを持つ変形したブリリアントカットダイヤモンドの有効視知覚反射光の量は、図27から、従来のカットをしたダイヤモンドの有効視知覚反射光の量(約250)よりも大きいことが判る。各パビリオン角pにおける有効視知覚反射光の量の最大値をプロットしたものを図28に示している。図28には、テーブル径Del:0.5、スターファセット先端距離fx:0.7,ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.05のカットをした変形したブリリアントカットダイヤモンドの有効視知覚反射光の量の最大値も同様にプロットして示している。図27,図28から変形したブリリアントカットダイヤモンドは、本発明のパビリオン角とクラウン角範囲において、大きな有効視知覚反射光の量を持つことが判る。また、テーブル径とスターファセット先端距離を少し小さくしてもその光の量は余り変化がないことも判る。
【0095】
次に図29に、有効視知覚反射光の量が最大となる変形したブリリアントカットダイヤモンドのパビリオン角pとクラウン角cを、テーブル径Del:0.5、スターファセット先端距離fx:0.7,ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.05とテーブル径Del:0.55、スターファセット先端距離fx:0.75,ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.05の場合について示した。テーブル径Delを0.55から0.5に変えてもほぼ同じパビリオン角pとクラウン角cで有効視知覚反射光の量の最大値を持つことが判る。
【0096】
本発明による変形したブリリアントカットダイヤモンド(テーブル径Del:0.55、スターファセット先端距離fx:0.75,ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.05、パビリオン角p:40°、クラウン角c:23°)をz軸方向真上から(視線角度0°で)観察したときの反射光パターンを入射光の入射角度で分けて対z軸の入射角度の間隔10°毎のパターン頻度を図30に示している。60°以上の大きな入射角度の光によるパターンがなく、ほとんどのパターンは入射角度10〜50°や20〜45°の間に現れている。10°以下の入射角度に1個のピークが現れているが、この部分は観察する人の陰に隠れてしまうので、実質的には現れてこない。
【0097】
本発明による変形したブリリアントカットダイヤモンドでテーブル径Delが0.5のもの(fx:0.7,Gd:0.2,h:0.05、p:40°)と0.55のもの(fx:0.75,Gd:0.2,h:0.05、p:40°)について、クラウン角cを変化させて全パターン数、全視知覚反射光の量及び有効視知覚反射光の量を測定した結果をそれぞれ図31,図32,図33に示している。これらのグラフは通常のブリリアントカットダイヤモンドにおける図24,図23,図25にそれぞれ対応していると共に、その値は同じレベルにある。以上のことから本発明のブリリアントカットをしたダイヤモンドは変形したブリリアントカットダイヤモンドにも適用できることが判る。
【0098】
ダイヤモンドの観察
以上の説明から明らかなように本発明によるブリリアントカットを施した装飾用ダイヤモンドを観察する場合、ダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面に入射してテーブル面及びクラウン面から出てくる光を、ダイヤモンドのテーブル面に立てた垂線(z軸)に対して20°未満の角度範囲でテーブル面の上方から観察するとそのダイヤモンドの特徴を最も良く知覚することができる。ダイヤモンドのテーブル面及びクラウン面に入射する光はテーブル面に立てた垂線に対して0°から90°に分布しておればよいが、そのなかでも10°から50°の角度範囲にダイヤモンドに入射してくる光が分布しているのが望ましく、特に20°から45°の角度範囲に分布しているのがよい。
【0099】
肉眼による観察の場合について上記では説明しているが、ダイヤモンドからの反射光パターンをデジタルカメラで撮影し、あるいはCCDカメラで撮像した信号をCRTなどの上で画像にして、人が観察することもできる。
【0100】
本発明のブリリアントカットをしたダイヤモンドと、従来のブリリアントカットをしたダイヤモンドとを、同じ条件で、例えばテーブル面に立てた垂線に対して20°〜45°の角度範囲で一様にテーブル面及びクラウン面に入射してくる光のもとで、テーブル面に立てた垂線に対して20°未満の角度範囲の視線角度でテーブル面上方から同時に観察して、それら2個のダイヤモンドの比較を行って、本発明のダイヤモンドの特徴を把握することもできる。これら2個のダイヤモンドを双対物レンズを持った顕微鏡で、同一条件で、同一視野に入れて観察することもできる。また、同一条件でこれら2個のダイヤモンドをデジタルカメラで撮影して比較することもできる。
【0101】
本発明によるブリリアントカットをしたダイヤモンドは、以上説明したように、従来品と比較して、視知覚反射光の量が多く良く輝いて見える。反射光パターン数において、従来品よりも多い。これらの特徴は、視線角度が20°未満、特に15°未満で際だっている。図1に示したブリリアントカットを施したダイヤモンド1と図26に示した変形したブリリアントカットを施したダイヤモンド1′ともに、これらの特徴を持っているが、ダイヤモンド1とダイヤモンド1′とを比較して観察すると、それらの間に少しの差が認められ、装飾品としての目新しさを観察者に印象づけるものである。
【0102】
図34,図35,図36それぞれは、本発明のダイヤモンド1,本発明の変形したダイヤモンド1′及び従来のダイヤモンドを上面から観察したときに見える反射光パターンを拡大して示す図である。図34のダイヤモンド1の反射光パターンでは、パビリオンメインファセットの輪郭線がテーブル面からベーゼルファセットにかけてはっきりと出ている。図35に示すダイヤモンド1′の反射光パターンでは、パビリオンメインファセットがテーブル面からスターファセットにかけて現れているが、テーブル面周辺に近いところでパビリオンメインファセットの輪郭線に多重反射したパターンが重なっており、その部分ではパビリオンメインファセットの輪郭線が明瞭となっていない。このようにダイヤモンド1の反射光パターンでは輪郭線がはっきりと見えて、そのパターンがガラス片のような強く冷めた印象を与える。それと比較して、変形したダイヤモンド1′の反射光パターンでは各パターン先端がたわめられたように見えて柔らかい印象を与える。また、変形したダイヤモンド1′の反射光パターンでは多重反射のパターンが重なっているために、反射光パターンに深さあるいは立体感を持っている。図34から36の反射光パターンを比較すると、他の特徴も観察されるが、これらは観察する人に異なる特徴的印象を与えるのでここでは説明を差し控える。
【0103】
ダイヤモンド1′をダイヤモンド1と比較したとき、ダイヤモンド1′はz軸に対して見る角度を大きくして観察しても光の量が極端に小さくならないと言う傾向がある。
【0104】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、本発明のブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドは、そのテーブル面に立てた垂線付近から観察したときに従来のものよりも強く輝いて見える。その反射光のパターンも多く細かいので、極めて輝きが強く観察される。また入射角度10°〜50°、特に20°〜45°の入射光によって主に反射光パターンが形成されるので、ダイヤモンド正面にいる観察者が入射光を遮ることが無く反射光パターンを観察することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による装飾用ダイヤモンドを示し、図1(A)はその平面図、図1(B)はその正面図、図1(C)はその底面図である。
【図2】 図1の装飾用ダイヤモンドのzx面における説明断面図である。
【図3】 本発明と従来のダイヤモンドの物理的反射光量を視線角度との関係で示すグラフである。
【図4】 本発明と従来のダイヤモンドの面毎の物理的反射光量を視線角度との関係で示すグラフである。
【図5】 本発明と従来のダイヤモンドの視知覚反射光の量を視線角度との関係で示すグラフである。
【図6】 本発明と従来のダイヤモンドの面毎の視知覚反射光の量を視線角度との関係で示すグラフである。
【図7】 本発明と従来のダイヤモンドの反射光パターン数を視線角度との関係で示すグラフである。
【図8】 本発明と従来のダイヤモンドの面毎の反射光パターン数を視線角度との関係で示すグラフである。
【図9】 本発明と従来のダイヤモンドのパターン当たり反射光の量を視線角度との関係で示すグラフである。
【図10】 本発明と従来のダイヤモンドの視線角度0°におけるパターン頻度を入射角度(対z軸)との関係で示すグラフである。
【図11】 本発明と従来のダイヤモンドの視線角度10°におけるパターン頻度を入射角度(対z軸)との関係で示すグラフである。
【図12】 本発明と従来のダイヤモンドの視線角度20°におけるパターン頻度を入射角度(対z軸)との関係で示すグラフである。
【図13】 本発明と従来のダイヤモンドの視線角度27.92°におけるパターン頻度を入射角度(対z軸)との関係で示すグラフである。
【図14】 視線角度0°、10°、20°での視知覚反射光の量をガードル高さhとの関係で示すグラフである。
【図15】 装飾用ダイヤモンドからz軸方向に出てくる反射光の光路を示す図で、図15(A),(B)及び(C)は本発明品でクラウン角を変えた場合、図15(D)は従来品の場合を示す。
【図16】 本発明のダイヤモンドを視線角度0°、10°、20°から観察したときのガードル入射光線数をガードル高さhとの関係で示すグラフである。
【図17】 本発明によるダイヤモンドのガードル(円筒面)の一部を拡大して示す正面図である。
【図18】 ガードル高さhを0.026から0.15まで変えた本発明のダイヤモンドの視知覚反射光の量をパビリオン角pとの関係で示すグラフである。
【図19】 本発明のダイヤモンド(パビリオン角p:38°、38.5°、39°、39.5°)の全視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図20】 本発明のダイヤモンド(パビリオン角p:38°、38.5°、39°、39.5°)の全パターン数をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図21】 本発明のダイヤモンド(パビリオン角p:37.5°、38°、38.5°、39°、39.5°、40°、41°)の有効視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図22】 有効視知覚反射光の量の大きくなるパビリオン角pとクラウン角cの領域を示すグラフである。
【図23】 テーブル直径Delを0.45、0.5,0.55とした本発明のダイヤモンドの全視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図24】 テーブル直径Delを0.45、0.5,0.55とした本発明のダイヤモンドの全パターン数をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図25】 テーブル直径Delを0.45、0.5,0.55とした本発明のダイヤモンドの有効視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図26】 本発明による変形したブリリアントカットをした装飾用ダイヤモンドを示し、図26(A)はその平面図、図26(B)はその正面図、図26(C)はその底面図である。
【図27】 変形したブリリアントカットをしたダイヤモンド(パビリオン角p:37.5°、38°、39°、40°、41°)の有効視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図28】 変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドでテーブル直径Delを0.5と0.55としたものについて、有効視知覚反射光の量の最大値をパビリオン角pとの関係で示すグラフである。
【図29】 変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドでテーブル直径Delを0.5と0.55としたものについて、有効視知覚反射光の量の最大となるパビリオン角pとクラウン角cの関係で示すグラフである。
【図30】 変形したブリリアントカットをしたダイヤモンド(テーブル径Del:0.55、スターファセット先端距離fx:0.75,ロワーガードルファセット頂点距離Gd:0.2、ガードル高さh:0.05、パビリオン角p:40°、クラウン角c:23°)の視線角度0°におけるパターン頻度を入射角度(対z軸)との関係で示すグラフである。
【図31】 テーブル直径Delを0.5と0.55とした本発明の変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドの全パターン数をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図32】 テーブル直径Delを0.5と0.55とした本発明の変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドの全視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図33】 テーブル直径Delを0.5と0.55とした本発明の変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドの有効視知覚反射光の量をクラウン角cとの関係で示すグラフである。
【図34】 本発明のブリリアントカットを施したダイヤモンドをテーブル面上から観察したときに見える反射光パターンの例を示す図である。
【図35】 本発明の変形したブリリアントカットを施したダイヤモンドをテーブル面上から観察したときに見える反射光パターンの例を示す図である。
【図36】 従来のブリリアントカットを施したダイヤモンドをテーブル面上から観察したときに見える反射光パターンの例を示す図である。
Claims (3)
- ほぼ円筒形をしたガードルと、
ガードル上部に、ガードル円筒から上を向いて形成されたほぼ円錐台形をしたクラウン部と、
その円錐台形の頂面を形成している正八角形のテーブル面と、
ガードル下部にガードル円筒から下に向いて形成されたほぼ円錐形をしたパビリオン部とを有する変形したブリリアントカットをしたダイヤモンドで、
前記クラウン部は、8個のクラウンメインファセットと、8個のスターファセットと、16個のアッパーガードルファセットとを有し、
前記パビリオン部は、8個のパビリオンメインファセットと16個のロワーガードルファセットとを有しているものにおいて、
テーブル面中心と円錐形パビリオン部の頂点とを通る直線を中心軸、
その中心軸とテーブル面の各八角形頂点とを通る平面を第一の平面、
中心軸を通り、隣り合う2つの第一の平面が挟む角を2等分する平面を第二の平面としたときに、
各クラウンメインファセットは、正八角形テーブル面の1つの頂点と、その頂点を通る第一の平面がガードル円筒上部円周と交わる点とを、対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点のそれぞれを隣にある第二の平面それぞれの上に持って、隣にあるクラウンメインファセットと1つの頂点を共有しており、
各スターファセットは、正八角形テーブル面の1辺と、その辺の両端点それぞれを1頂点とする2個のクラウンメインファセットが共有している頂点とによって形成される三角形であり、
各アッパーガードルファセットは、クラウンメインファセットそれぞれが持つ辺のうちガードル円筒の上部円周と交わっている1辺と、その辺の他端を通る第二の平面がガードル円筒の上部円周と交わる点とで形成される平面であり、
各パビリオンメインファセットは、第二の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点と、パビリオン円錐形頂点とを対頂点とする四辺形平面であって、その四辺形平面は他の2つの対頂点のそれぞれを隣にある第一の平面それぞれの上に持って、隣にあるパビリオンメインファセットそれぞれと1つの辺と1つの頂点とを共有しており、
各ロワーガードルファセットは、パビリオンメインファセットが持つ辺のうちガードル円筒の下部円周と交わっている1辺と、その辺の他端を通る第一の平面がガードル円筒の下部円周と交わる点とで形成される平面であって、
ガードル高さhがガードル半径の0.026〜0.3であって、
パビリオン角pが37.5°〜41°であり、
クラウン角cが
c>−2.8667×p+134.233と、
p<1/4×{(sin −1 (1/n)+sin −1 (1/n・sinc))×180/π+180−2c}
(ここで、nはダイヤモンドの屈折率、πは円周率であり、パビリオン角pとクラウン角cとは度(°)で表している。)
とを満足する範囲となっていることを特徴とする装飾用ダイヤモンド。 - ガードル高さhがガードル半径の0.030〜0.15である請求項1記載の装飾用ダイヤモンド。
- テーブル直径がガードル直径の0.45〜0.60である請求項1あるいは2記載の装飾用ダイヤモンド。
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