JP4481587B2 - シリンジ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、安定した摺動性を有するガスケットを備えるシリンジに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、薬液を予め充填したプレフィルドシリンジのシリンジ用ガスケットにおいては、ガスケットの摺動性を高め、薬液を安定して吐出させるため、ガスケットの外面等摺動部にポリシロキサンなどのシリコーンオイル等を潤滑剤として塗布する必要があった。
このように潤滑剤をガスケットの摺動部に塗布して摺動性を高める方法は、使い捨て注射器具等では多用されているが、薬剤を長時間収納するプレフィルドシリンジ等においては、収納された薬剤に対する影響を考慮して潤滑剤を塗布しないものが望まれている。
【0003】
そこで、上記の問題点を解決するものとして、特開2001−104480号公報(特許文献1)(「プラスチック製プレフィルド注射器の密封に使用するゴム製ピストン」)、さらに本件出願人は、特開2002−89717号公報(特許文献2)に示すガスケットを提案している。このガスケットは、ガスケット本体の少なくとも外周を、ガスケット本体材料より摩擦係数の低い材料で構成されたフッ素樹脂フィルムで被覆してなるガスケットであって、樹脂フィルムの前記外筒側の面の表面粗さをRa1、樹脂フィルムの前記ガスケット本体側の面の表面粗さをRa2としたとき、1.5Ra1≦Ra2の関係を満たすものである。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−104480号公報
【特許文献2】
特開2002−89717号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のガスケットは、十分な効果を備えているが、シリコーンオイル等の潤滑剤を使用することなく、高い摺動性を備え、非常に精細かつ安定した吐出性能、例えば、シリンジポンプにて使用されるプレフィルドシリンジ製剤等においては、更に高機能を有するものが求められている。
すなわち、目視では確認できないほど極低速条件下(例えば、直径約24mmのシリンジにおいて、1mL/時間で吐出させた場合の移動速度は約2mm/時間程度である)において薬液を吐出させた場合、脈動と呼ばれる吐出が生じるおそれがあった。
そこで、本発明は、上記問題点を解決するものであり、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有するガスケットを備えるシリンジを提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するものは以下のものである。
(1) シリンジ用ガスケットと、該ガスケットを内部に液密に摺動可能に収納するシリンジ用外筒と、前記外筒の注射針取付部を封止する封止部材と、該封止部材と前記外筒の内面と前記ガスケットとの間に形成された薬剤収納部に収納された薬剤とを有するプレフィルドシリンジであって、前記ガスケットは、前記外筒と接触する部分に設けられた被覆層を備え、かつ、該被覆層は、水性フッ素系樹脂、水性ウレタン系樹脂および被膜形成性を有する水性ケイ素樹脂もしくは被膜形成性を有する水性シリコーン化合物を含有し、水を溶媒とする被覆用液を前記ガスケットに塗布し硬化させることにより形成されたものであるプレフィルドシリンジ。
(2) 前記被覆層は、前記シリンジ用外筒の内面とともに空間を規定する前記シリンジ用ガスケットの外面部分を被覆している上記(1)に記載のプレフィルドシリンジ。
(3) 前記被覆層は、前記ガスケットの前記外筒と接触する部分のみを被覆している上記(1)または(2)に記載のプレフィルドシリンジ。
【0008】
(4) 前記被覆層を構成する前記水性ウレタン系樹脂もしくは前記水性ケイ素系樹脂もしくはこれらの混合物は、バインダーとして機能するものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(5) 前記水性フッ素系樹脂、前記水性ケイ素系樹脂、前記水性ウレタン系樹脂の少なくとも1つは、熱硬化性樹脂である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(6) 前記水性フッ素系樹脂は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどのフルオロオレフィン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロ(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、パーフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルより選択されたフッ素含有モノマーと、シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、脂肪族カルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシアルキルビニルエステルより選択されたものとの共重合体を水性媒体に溶解、分散または乳化したものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(7) 前記水性ケイ素系樹脂は、ポリシロキサンを基本構造に持つものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(8) 前記水性ケイ素樹脂は、アルコキシシラン化合物、オルガノシロキサン化合物、またはその縮合物からなるポリシロキサンを水性媒体に分散、乳化もしくは溶解したものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(9) 前記水性ウレタン系樹脂は、ウレタン樹脂を水系溶媒に乳化もしくは分散したウレタン系ディスパージョンまたは水溶性ポリウレタン系樹脂である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(10) 前記被覆層は厚さが、1〜30μmである上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例である医療用具について説明する。
図1は、本発明の医療用具をシリンジ用ガスケットに応用した実施例の正面図、図2は、図1に示すシリンジ用ガスケットの断面図、図3は、図1に示すシリンジ用ガスケットの平面図、図4は、図1に示すシリンジ用ガスケットの底面図である。
本発明の医療用具1は、医療用部材の内部に液密かつ摺動可能に収納される医療用具であり、医療用部材と接触する部分に設けられた被覆層3を備えており、かつ、被覆層3は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。
【0010】
また、本発明の医療用具10は、第1の医療用部材1と、第1の医療用部材1を内部に液密に摺動可能に収納する第2の医療用部材11とを備える医療用具であり、第1の医療用部材1の第2の医療用部材11と接触する部分に設けられた被覆層3を備え、かつ、被覆層3は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。
【0011】
本発明の医療用具をシリンジ用ガスケットおよびシリンジに応用した実施例を用いて説明する。
この実施例の医療用具1は、シリンジ用ガスケット1であり、医療用部材であるシリンジ用外筒11の内部に液密かつ摺動可能に収納されるものである。また、ガスケット1は、外筒11と接触する部分に設けられた被覆層3を備えており、かつ、被覆層3は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。このガスケット1は、コア部2と、少なくともコア部2の外面であって外筒内面と接触する部分に設けられた被覆層3とを備えている。なお、コア部2の外面全体に被覆層3を設けてもよい。
【0012】
また、この実施例の医療用具10は、シリンジ10であり、第1の医療用部材であるシリンジ用ガスケット1と、ガスケット1を内部に液密に摺動可能に収納する第2の医療用部材であるシリンジ用外筒11とを備え、ガスケット1の外筒11と接触する部分に設けられた被覆層3を備え、かつ、被覆層3は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。被覆層3をガスケット1に設ける場合には、ガスケット1の少なくともコア部2の外面であって外筒11の内面と接触する部分に被覆層3を設ける。なお、ガスケット1のコア部2の外面全体に被覆層3を設けてもよい。また、被覆層を外筒11の内面に設ける場合には、ガスケット1の摺動領域となる部分の内面に設けるものとなる。
【0013】
そこで、本発明の医療用具の実施例であるガスケットおよびシリンジについて説明する。
シリンジ用ガスケット1のコア部2は、図1,図2,図5に示すように、ほぼ同一外径に延びる本体部5と、本体部5の先端側に設けられ先端側に向かってテーパー状に縮径するテーパー部6と、本体部5の基端から先端側に向かって内部に設けられたプランジャー取付部4と、本体部5の先端部側面に設けられた先端側環状リブ7aと、本体部5の後端部側面に設けられた後端側環状リブ7bを備えている。
プランジャー取付部4は、図2,図4に示すように、本体部5の内部において基端から先端部付近まで延びる略円柱状の凹部となっており、凹部側面には、プランジャーの先端部に形成された螺合部と螺合可能な螺合部8が設けられている。凹部の先端面は、ほぼ平坦に形成されている。なお、プランジャー取付部は、螺合部に限定されず、プランジャーの先端部と係合する係合部であってもよい。
先端側環状リブ7a,7bは、シリンジ用外筒11内径より若干大きく作製されているため、外筒11内で圧縮変形するものとなっている。また、実施例において、環状リブは、2つ設けられているが、3つ以上設けられていてもよい。
【0014】
コア部2の構成材料としては、弾性材料であることが好ましい。弾性材料としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料(特に、加硫処理したもの)や、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、及びこれらスチレン系エラストマーにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンや、流動パラフィン、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカなどの粉体無機物を混合したものが挙げられる。さらに、ポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや、それら混合物等が構成材料として使用できる。構成材料としては、特に、弾性特性、耐蒸気圧滅菌性などの観点からジエン系ゴム、スチレン系エラストマーが好ましい。
【0015】
被覆層3は、少なくとも環状リブ部分に設けられていればよい。具体的には、被覆層3は、先端側環状リブ7aと基端側環状リブ7b部分に設けられていればよい。
被覆層3の厚さは、1〜30μm、特に、5〜20μmであることが好ましい。1μm以上であれば、十分な摺動性能を発揮し、30μm以下であれば、ガスケットの弾性に影響を与えることがない。
被覆層3は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有する。特に、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂の混合物により形成されていることが好ましい。フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂としては、有機溶剤で溶解した溶剤系、および水に乳化、分散した水系のいずれも適用できるが、ガスケット材料への影響の点、あるいは薬液収納容器としての適性の点から、水系のものが好ましい。
【0016】
被覆層の形成材料の1つとして用いられるフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられるが、特に、テトラフルオロエチレンを基本構造に持ったPTFEの誘導体で、水性溶媒に対して均一に溶解、分散、懸濁可能であり、更に熱硬化させることで、耐有機溶媒性能、耐水溶性能、耐酸、耐アルカリ特性を示すものが好ましく、医療用ゴム栓に使用した場合に安全性、耐久性を有するものがより好ましい。
さらにフッ素系樹脂としては、いわゆる水性フッ素樹脂が好ましい。水性フッ素系樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどのフルオロオレフィン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロ(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、パーフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーと、シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、脂肪族カルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシアルキルビニルエステルなどとの共重合体を、水性媒体に溶解、分散、乳化したものが挙げられる。特に、フッ素系樹脂については、四フッ化エチレンを基本構造に持ち親水性樹脂であるものが好ましい。被覆層3の形成樹脂中にこのようなフッ素系樹脂を添加することにより、ガスケット表面に高い滑性を付与させる。また、フッ素系樹脂は、薬品により変性することも極めて少ないことから、医療用ゴム栓への使用に際しても好適である。
【0017】
被膜層の形成材料の1つとして用いられるケイ素系樹脂については、水溶媒に対して容易、かつ均一に分散、懸濁可能であり、更に熱硬化させることで、耐有機溶媒性能、耐水溶性能、耐酸、耐アルカリ性を示すものが好ましい。また、ケイ素系樹脂としては、医療用ゴム栓に使用した場合に安全性、耐久性を有するものが使用される。被覆層3の形成樹脂中にこのようなケイ素系樹脂を添加することにより、ガスケット表面と外筒内面との接触部分における張り付き軽減させ、初期摺動抵抗を小さいものとする。また、ケイ素系樹脂の基本構造は医療用シリコーンオイルに使用されるものと同一である。さらに、被覆層中のケイ素樹脂は、例えばヘキサン、メチルブチルケトンのような有機溶媒等にて抽出を行い、発光分析装置等の従来技術による測定方法によるケイ素系樹脂由来物質の測定を行うことによっても、ケイ素系樹脂由来物質が検出されないものが好ましい。
使用するケイ素系樹脂としては、ポリシロキサンを基本構造に持つ親水性樹脂であり、いわゆる水性ケイ素樹脂、言い換えれば、水性シリコーン化合物が好ましい。また、ケイ素系樹脂としては、被膜形成性を有するものが好ましい。
【0018】
ケイ素樹脂(シリコーン化合物)としては、各種が使用可能であり、例えば、アルコキシシラン化合物やオルガノシロキサン化合物、又はその縮合物からなるポリシロキサンを水性媒体に分散、乳化、溶解したもの、さらにアルコキシシリル基含有ビニルモノマーを必要に応じて他のビニルモノマーと共重合してなる共重合体エマルション、有機重合体にポリシロキサンを複合化させてなるエマルションなども使用できる。
また、ケイ素樹脂としては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルsec−トリオクチルオキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリ(アクリロイルオキシエトキシ)シラン、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、ラウリルトリエトキシシラン、ステアリルトリメトキシシラン、ステアリルトリエトキシシランのシラン系化合物など、あるいはこれらの縮合物を水媒体に分散、乳化、溶解したものが挙げられる。
さらに、水性ケイ素系樹脂としては、架橋重合体であるコア部とそれを被覆する非架橋重合体であるシェル部とを有し、シェルの表面近傍にポリシロキサンを有するポリシロキサン複合水性エマルションが好適に使用できる。このようなものを用いることにより、形成される被覆層3の造膜性、緻密性、耐久性が高いものとなる。
【0019】
被膜層の形成材料の1つとして用いられるウレタン系樹脂としては、ポリウレタンを基本構造に持つ親水性樹脂が好ましい。また、ポリウレタンとしては、水溶媒に対して容易、かつ均一に分散、懸濁可能なものが好ましい。さらに、ウレタン系樹脂としては、更に硬化(例えば、熱硬化)させることで、医療用ゴム栓に求められる安全性、耐久性を有するものが使用される。このウレタン系樹脂はそれ単体では滑性等、ガスケット摺動性能に付与させる効果は認められなかったが、上述のフッ素系樹脂、及びケイ素系樹脂とともに配合することにより、超低速摺動時においても安定した動作を大幅に向上、保持させる効果があった。また、ガスケット基材表面との接着性に優れ、柔軟性に富む性質を有することから、形成される被覆層3の被膜の劣化抑制効果を発揮しているものと考える。
【0020】
使用するウレタン系樹脂としては、いわゆる水性ウレタン系樹脂が好ましい。水性ウレタン系樹脂としては、ウレタン樹脂を水系溶媒に乳化もしくは分散したウレタン系ディスパージョン、水溶性ポリウレタン系樹脂のいずれでもよい。
ウレタン系ディスパージョンとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、ポリカーボネートジオールなどのポリオール成分や、2,2−ジメチロールプロピオン酸などの親水性成分と、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物を重合せしめた自己乳化型水性ウレタン系ディスパージョンがある。また、水溶性ポリウレタン系樹脂としては、ポリウレタン系樹脂の鎖中に、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩が結合して存在しているものがある。このようなものは、例えば、ポリウレタン系樹脂の製造に際し、ジオール及びジイソシアネートにカルボン酸基を有するジオール等を加え、(必要によりカルボン酸基を中和し、)重合することによって得られる。このようにカルボン酸基を導入することによって、水分散型あるいは水可溶性を有する水性ポリウレタン系樹脂となる。また、必要に応じて乳化剤を加えて水性化してもよい。
ポリウレタン樹脂は、一般に、数平均分子量が約1,000以上、特に約10,000以上であるのが好適であり、また、その分子中には遊離のイソシアネート基が実質的に残存していないことが望ましい。
【0021】
そして、上記のような水性フッ素系樹脂、水性ケイ素系樹脂および水性ウレタン系樹脂を用いる場合には、それらは水(アルコールを含有していてもよい)を溶媒とするため、単に混合することにより、被覆用液を作製でき、さらに、必要により、水(アルコールを含有していてもよい)により容易に希釈することもできる。そして、作製された被覆用液をガスケットに塗布し、乾燥、さらには必要により加熱することにより被覆層を形成することができる。被覆用液は、水を溶媒としているため、溶媒がガスケット形成材料を変性させることもなく、また、作業時の揮発による環境の悪化もない。被覆用液中のフッ素系樹脂、ケイ素系樹脂およびウレタン系樹脂の含有量は、フッ素系樹脂が0.1〜10重量%、ケイ素系樹脂が1〜30重量%、ウレタン系樹脂が1〜10重量%であることが好ましい。また、形成される被覆層3におけるフッ素系樹脂、ケイ素系樹脂およびウレタン系樹脂の重量比は、フッ素系樹脂:ケイ素系樹脂:ウレタン系樹脂が、0.1〜10:1〜30:1〜10であることが好ましい。
以上のように被覆層3を有することにより、本発明のガスケット1は、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有するとともに、薬剤収納空間内の密封性を維持することができる。
【0022】
次に、被覆層3の形成方法について説明する。
被膜層の形成方法は、上述のフッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を適当に配合したものを精製水に分散、懸濁させた被覆用液を調整する。そして、この被覆用液を清浄なガスケット表面に対して塗布させた後、硬化させることで得られる。このとき、ガスケット表面に塗布させる方法としては、浸漬法、噴霧法等、従来公知の方法で行うことができる。硬化方法としては、常温放置でもよいが、加熱硬化が好ましい。熱硬化させる方法としては、ガスケット基材を変質、あるいは変形させない方法であれば特に限定されるものではないが、熱風乾燥、赤外線を使用した乾燥炉、あるいは減圧乾燥機を用いる方法など従来公知の方法で行うことができる。形成される被覆層の厚さは、1〜30μm程度で良く、好ましくは5〜20μmである。このような該被膜層を形成するに当たっては、混合液の濃度、あるいは浸漬手法、噴霧手法を適当に制御することで、容易に形成可能である。
なお、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有する被覆用液の調整には、界面活性剤や、アルコール等の添加剤を用いてもよい。また、被覆用液の調整には、必要に応じて、ポリオレフィン、タルク等を適宜配合しても良い。このような添加剤は、上記に対し、5重量%以下の範囲で添加するのが好ましい。
【0023】
また、被覆層3は、多孔質構造を有することが好ましい。被覆層3は、多孔質構造を有することにより、より安定した摺動性を有するものとなる。なぜなら、表面状態に凹凸を持たせることが可能となり、プランジャーの初動摺動抵抗を軽減させる効果が向上するばかりか、被覆層に柔軟性を与えることによって、弾性を有するガスケット表面への追従性が増し、ひび割れ等による異物発生、しわ等による密封性低下の影響を軽減させることが可能となるためである。
多孔質構造を有する該被膜層の形成方法は、上述したものと同様にフッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を配合したものを精製水に分散、懸濁させたものを用意し、清浄なガスケット表面に対して塗布させた後、硬化させることで得られる。このとき、ガスケット表面に塗布させる方法としては、浸漬法よりむしろ噴霧法を用いることによって、容易に形成可能となる。また、硬化方法としては、上述したとおりである。このような多孔質構造を有する被膜層の形成方法は、被覆用液の濃度、噴霧手法を調整することにより形成可能であるとともに、多孔質構造の調整も可能である。多孔質構造を有する場合の被覆層の厚さとしては、1〜30μm程度で良く、好ましくは5〜20μmであり、空隙の直径は0.1〜5μm程度で良く、好ましくは0.5〜2μm程度である。
【0024】
また、本発明の医療用具の実施例であるシリンジ10は、図5に示すように、先端部に注射針取付部15が設けられ後端部にフランジ16が対向して設けられたシリンジ用外筒11と、シリンジ用外筒11の内面12を液密かつ気密に摺動可能なシリンジ用ガスケット1と、シリンジ用ガスケット1に取り付けられもしくは取り付け可能なプランジャー17と、シリンジ用外筒11の注射針取付部15を封止する封止部材18と、封止部材18と外筒内面12(および被覆層13内面)とシリンジ用ガスケット1との間に形成された薬剤26を収納する薬剤収納部19からなる。なお、注射針取付部15には、封止部材18ではなく、注射針が取り付けられていてもよい。また、封止部材としては、図5に示すように、両頭針を直接挿通可能なタイプが好ましい。
特に、この医療用具は、プレフィルドシリンジ25であり、図5に示すように、シリンジ10と薬剤26からなる。
【0025】
シリンジ用外筒11は、先端部に注射針取付部15が設けられ、後端部にフランジ部16が設けられた円筒状部材である。シリンジ用外筒11は、透明もしくは半透明材料により形成されている。好ましくは、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成されている。また、形成材料としては、110℃以上のガラス転移点、または融点を有する材料であることが好ましい。
外筒11の形成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、非晶性ポリアレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、非晶性ポリエーテルイミドなどが好ましく、特に、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート、及び非晶性ポリエーテルイミドが透明性、蒸気圧殺菌性の点で好ましい。これらの樹脂はバレルに限らず、薬剤を収納可能な容器に共通して使用可能なものである。
【0026】
また、本発明の実施例のシリンジでは、上述した被覆層3を備えるシリンジ用ガスケット1が用いられている。被覆層3を備えるシリンジ用ガスケット1は、上述した通りである。
プランジャー17は、図5に示すように、断面十字状の軸方向に延びる本体部20と、プランジャー取付部4と螺合するプランジャー17の先端部に設けられたプランジャー側螺合部21と、本体部20の後端に設けられた押圧用の円盤部22と、本体部20の途中に設けられたリブを備えている。
そして、この実施例のシリンジ10の内部には、薬剤26が収納されている。薬剤26としては、難水溶性、吸着性の高い薬液、界面活性剤を含む低粘稠、かつ浸透力の高い薬液、電解質系薬液、ビタミン剤、ミネラル類、抗生物質などの薬液、さらには、タンパク製剤等の粉末状もしくは凍結乾燥薬剤あるいは液剤が使用される。
そして、プランジャー17および封止部材18の構成材料としては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の硬質もしくは半硬質樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明の医療用具は、第1の医療用部材と、第1の医療用部材を摺動可能に接触する第2の医療用部材とを備える医療用具であれば、シリンジに限らずいかなる医療用具であってもよい。例えば、ゴム栓付きバイアル瓶、輸液バッグ、採血管、減圧採血管等であってもよい。また、本発明の医療用具は、医療用部材に摺動可能に接触するものであれば、シリンジ用ガスケットに限らずOリング等、栓体、蓋体等、いかなる医療用具であってもよい。例えば、バイアル瓶のゴム栓、輸液バッグの蓋材等であってもよい。
【0028】
次に、本発明の医療用具の他の実施例であるシリンジ30は、図6は、本発明の実施例の医療用具をシリンジに応用したものである。
この実施例のシリンジ30は、図6に示すように、先端部に注射針取付部15が設けられ後端部にフランジ16が対向して設けられたシリンジ用外筒41と、シリンジ用外筒41の内面42を液密かつ気密に摺動可能なシリンジ用ガスケット31と、シリンジ用ガスケット31に取り付けられもしくは取り付け可能なプランジャー17と、シリンジ用外筒41の注射針取付部15を封止する封止部材18と、封止部材18と外筒内面42とシリンジ用ガスケット31との間に形成された薬剤26を収納する薬剤収納部19を備えている。なお、注射針取付部15には、封止部材18ではなく、注射針が取り付けられていてもよい。また、封止部材としては、図6に示すように、両頭針を直接挿通可能なタイプが好ましい。
【0029】
シリンジ用外筒41は、先端部に注射針取付部15が設けられ、後端部にフランジ部16が設けられた円筒状部材である。シリンジ用外筒41は、透明もしくは半透明材料により、好ましくは、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成されている。また、形成材料としては、110℃以上のガラス転移点、または融点を有する材料であることが好ましい。
外筒41の形成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、非晶性ポリアレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、非晶性ポリエーテルイミドなどが好ましく、特に、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート、及び非晶性ポリエーテルイミドが透明性、蒸気圧殺菌性の点で好ましい。これらの樹脂はバレルに限らず、薬剤を収納可能な容器に共通して使用可能なものである。
【0030】
また、本発明の実施例においては、シリンジ用ガスケット31としては、公知のものが使用できる。シリンジ用ガスケット31の構成材料としては、弾性材料であることが好ましい。弾性材料としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料(特に、加硫処理したもの)や、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、及びこれらスチレン系エラストマーにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンや、流動パラフィン、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカなどの粉体無機物を混合したものが挙げられる。さらに、ポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや、それら混合物等が構成材料として使用できる。構成材料としては、特に、弾性特性、耐蒸気圧滅菌性などの観点からブチルゴム、ジエン系ゴム、スチレン系エラストマーが好ましい。
【0031】
プランジャー17は、図5に示すように、断面十字状の軸方向に延びる本体部20と、プランジャー取付部4と螺合するプランジャー17の先端部に設けられたプランジャー側螺合部21と、本体部20の後端に設けられた押圧用の円盤部22と、本体部20の途中に設けられたリブを備えている。
薬剤26としては、難水溶性、かつ吸着性の高い薬液、界面活性剤を含む低粘稠、かつ浸透力の高い薬液、電解質系薬液、ビタミン剤、ミネラル類、抗生物質などの薬液、さらには、タンパク製剤等の粉末状もしくは凍結乾燥薬剤あるいは液剤が使用される。
そして、プランジャー17および封止部材18の構成材料としては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の硬質もしくは半硬質樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
また、ガスケット31の代わりに、上述した被覆層3を備えるシリンジ用ガスケット1を用いてもよい。被覆層3を備えるシリンジ用ガスケット1は、上述した通りである。
また、本発明の医療用具は、第1の医療用部材と、第1の医療用部材を摺動可能に接触する第2の医療用部材とを備える医療用具であれば、いかなる医療用具であってもよい。例えば、ゴム栓付きバイアル瓶、輸液バッグ、採血管、減圧採血管等であってもよい。なお、第1の医療用部材と第2の医療用部材後の接触は液密であることが好ましい。また、本発明の医療用具は、バイアル瓶のゴム栓、輸液バッグの蓋材等であってもよい。また、第1の医療用部材は、摺動可能に第2の医療用部材に接触するものであれば、シリンジ用ガスケットだけでなく、Oリング状のもの、栓体、蓋体等いかなる医療用具であってもよい。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の具体的に実施例について説明する。
(実施例1)
ブチルゴムを用いて、図1および図2に示す形状のシリンジ用ガスケットのコア部を作製した。コア部の形成は、ブチルゴムに添加剤を配合した加硫性ゴム組成物をプレス成形することにより行った。得られたコア部の形状は、長さ20mm、先端側及び後端側環状リブ部分での外径23.7mm、先端側環状リブ中央と後端側環状リブ中央間の長さ10mm、先端側環状リブと後端側環状リブ間の同一外径部分での外径21.5mm、内側に雌ねじ部を有するプランジャー取付用凹部の長さ(深さ)8mm、プランジャー取付用凹部の先端側での内径14.5mm、及び後端側での内径15mmであった。
次に、精製水100重量部に、フッ素系樹脂1重量部、ケイ素系樹脂10重量部、ウレタン系樹脂3重量部、エタノール1重量部を添加して、被覆用液を調整した。なお、フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレンを主成分とするポリフロン(登録商標)TFE(ダイキン工業株式会社製)を用いた。ケイ素樹脂としては、水性ケイ素樹脂(水性シリコーン化合物)である、SE1980(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)を用いた。ウレタン樹脂として、水性ウレタン樹脂であるローザン1100(トーヨーポリマー株式会社製)を用いた。
そして、室温、常圧環境下において、上述のように作製したガスケットコア部材を上記の被覆用液に浸漬し、引き上げた後、140℃、30分間乾燥させることによって、本発明のシリンジ用ガスケットを作製した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の厚さは、約10μmであった。
【0034】
(比較例1)
精製水100重量部に対して、フッ素系樹脂1重量部、ウレタン系樹脂3重量部を添加して、被覆用液を作製した。そして、室温、常圧環境下において、実施例1と同様に作製したガスケットコア部材を上記の被覆用液に浸漬し、引き上げた後、140℃、30分間乾燥させることによって、比較例のシリンジ用ガスケットを作製した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の厚さは、約10μmであった。このガスケットを比較例1とした。
【0035】
(比較例2)
精製水100重量部に対して、ケイ素系樹脂10重量部、ウレタン系樹脂3重量部を添加して、被覆用液を作製した。そして、室温、常圧環境下において、実施例1と同様に作製したガスケットコア部材を上記の被覆用液に浸漬し、引き上げた後、140℃、30分間乾燥させることによって、比較例のシリンジ用ガスケットを作製した。なお、コア部材の表面に形成された被覆層の厚さは、約10μmであった。このガスケットを比較例2とした。
【0036】
(比較例3)
被覆層を設けない以外、実施例1と同様に作製したブチルゴムガスケットを比較例3とした。
【0037】
(実施例2)
シリンジ用外筒の形成材料として、環状ポリオレフィン[アペル(登録商標)、三井化学株式会社製]を用いて、射出成形により、図5に示す形状のシリンジ用外筒を作製した。シリンジ用外筒の円筒部分の内径は、23.5mm、長さは、95mmであった。また、プランジャーの形成材料として、ポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製)を用いて、射出成形により、図5に示す形状のプランジャーを作製した。
そして、上記のシリンジ用外筒、実施例1のシリンジ用ガスケット、上記のプランジャーを組み立て、本発明のシリンジを作製した。
【0038】
(比較例4〜6)
実施例2に用いたものと同じ外筒、プランジャーを用いて、ガスケットとして、比較例1のものを用いて、シリンジ(比較例4)を作製した。同様に、ガスケットとして、比較例2のものを用いたシリンジ(比較例5)、比較例3のものを用いたシリンジ(比較例6)を作製した。
【0039】
(比較例7)
実施例2に用いたものと同じ外筒、プランジャーを用いて、ガスケットとして、ブチルゴムガスケット表面に膜厚10μmとなるようにポリテトラエチレンフィルムにてラミネートしたガスケットを比較例7とした。
【0040】
(比較例8)
SEBS系熱可塑性エラストマー製のガスケットを使用する市販のシリンジ(テルモ株式会社製)を用いた。
【0041】
(実験)
実施例2のシリンジ、比較例4〜8シリンジを用いて、以下の評価試験を行った。なお、比較例6および比較例8のみ、予め外筒内面にシリコーンオイルが塗布されている。そして、上記各シリンジは比較例8を除いて、オートクレーブ滅菌処理を行った後、以下の評価を行った。
【0042】
(実験1:摺動抵抗測定試験)
上述したように作製したシリンジの摺動抵抗値を、オートグラフ(AGS1kNG、島津製作所製)により測定した。具体的には、シリンジの先端およびプランジャーの後端をオートグラフの測定対象物固定部に固定し、プランジャーを50mm/minの速度で30mm降下させたときの最大摺動抵抗値(0〜30mm区間内で必要とした最大応力kgf)、平均摺動抵抗値(25〜30mm区間の平均摺動抵抗値kgf)を計測したところ、図8に示すような結果となった(図8の白抜き棒:平均摺動抵抗値、図8の斜線:最大摺動抵抗値)。
図8に示すように、実施例のガスケットを用いたシリンジは、比較例4〜8のシリンジと比較して最大摺動抵抗値(初期摺動抵抗値)および平均摺動抵抗値ともに非常に小さいものであった。また、最大摺動抵抗値と平均摺動抵抗値との差はほとんどないため、プランジャーを押し始めた際に薬液が飛び出すおそれがほとんどなく、薬液の吐出を安全かつ簡便に行うことができる。一方、比較例4及び比較例6では、平均摺動抵抗値は許容レベルにあるが最大摺動抵抗値が非常に大きく前述の危険性を示唆している。また比較例5では、最大摺動抵抗値と平均摺動抵抗値との差はほとんどないが、摺動抵抗値が大きく、プランジャーを押す力が必要以上に重くなることから、いずれも操作性、簡便性に劣っている。
【0043】
(実験2:高浸透性試薬による密封性試験)
通常、プラスチック製軟包材等のヒートシール部の密封性試験に用いられる試薬として販売されている、エージレス(登録商標)チェッカー(三菱瓦斯化学製)を用い、密封性評価を行った。具体的には、先端部15をキャップ18にて密封したシリンジ外筒内にエージレスチェッカー約5mLを入れ、実施例をはじめとする各ガスケットを組み込んだものを各5本ずつ用意し、プランジャー側から2.5kgf/cm2の圧力をかけたまま、プランジャー側を下にしてシリンジを正立させたまま、60℃恒温槽内に3週間静置し、ガスケット摺動部からの液漏れを目視にて確認したところ、表1に示すような結果となった。
【0044】
【表1】
【0045】
(実験3:シリンジポンプを用いた吐出特性評価試験)
シリンジポンプ(TE−331、テルモ株式会社製)51を用い、シリンジの吐出特性評価を行った。具体的には、図7に示す実験装置50を用いて、精製水20mLを充填したシリンジ10をシリンジポンプ51にセットして、1mL/hの吐出速度で精製水を2時間吐出させ、電子天秤52を用いて、その測定重量を30秒間隔で経時的に測定したところ、表2に示すような結果となった。
【0046】
【表2】
【0047】
また、シリンジの吐出特性結果は、実施例2のシリンジ(実施例1のガスケット使用)については、図9、比較例4のシリンジ(比較例1のガスケット使用)については、図10、比較例5(比較例2のガスケット使用)については図11、比較例6(比較例3のガスケット使用)については図12、比較例7のシリンジについては図13、比較例8のシリンジについては、図14に示すとおりであった。吐出量経時変化プロファイル(各図)より、1mL/h設定値を中心とした振幅が小さいほどガスケットがスムーズに摺動して吐出が安定していることを表し、振幅が大きいほど吐出が安定していないことを示している。すなわちガスケットがノッキングを伴う摺動していることを表している。実施例2は、比較例8と同様、1ml/h設定値を中心とした振幅が小さく、ガスケットがスムーズに摺動して吐出が安定していると考えられる。一方、比較例4(実施例に使用した被覆層構成成分からケイ素系樹脂を取り除いた被覆層を持つシリンジ)、及び比較例7(PTFEラミネート)は、実験1の平均摺動抵抗値においては、実施例と同じように低い数値を示し良好な結果であったが、実験2の低速での摺動による薬液吐出性能にて比較すると、実施例の方が比較例4、及び比較例7に比べて、振幅が小さいので薬液の吐出が安定していることがわかった。
また、比較例5、及び比較例6においては、振幅が小さいものの、1ml/hの一定流速に達するのに時間を必要としている。これは実験1の初期摺動抵抗値の結果とも一致性が見られるが、いずれも低速摺動かつ、精密な吐出制御を必要とする条件下では実用に耐えない。
【0048】
実験1から実験3の結果をまとめたものを表3に示す。
【表3】
【0049】
【発明の効果】
本発明の医療用具は、医療用部材の内部に液密かつ摺動可能に収納される医療用具であって、該医療用具は、前記医療用部材と接触する部分に設けられた被覆層を備え、該被覆層は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。このため、医療用具は、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有する。
また、本発明の医療用具は、第1の医療用部材と、該第1の医療用部材を内部に液密に摺動可能に収納する第2の医療用部材とを備える医療用具であって、前記第1の医療用部材の前記第2の医療用部材と接触する部分に設けられた被覆層を備え、該被覆層は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂及びウレタン系樹脂を含有するものである。このため、第1の医療用部材は、摺動面に潤滑剤を付与することなく安定した摺動性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施例であるシリンジ用ガスケットの正面図である。
【図2】図2は、図1に示すシリンジ用ガスケットの断面図である。
【図3】図3は、図1に示すシリンジ用ガスケットの平面図である。
【図4】図4は、図1に示すシリンジ用ガスケットの底面図である。
【図5】図5は、本発明の実施例であるプレフィルドシリンジの断面図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施例であるプレフィルドシリンジの断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例であるシリンジ用ガスケットおよびプレフィルドシリンジの吐出特性結果を測定するために使用される実験装置の説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の比較例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図11】図11は、本発明の比較例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図12】図12は、本発明の比較例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図13】図13は、本発明の比較例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【図14】図14は、本発明の比較例のプレフィルドシリンジの吐出特性結果を示す図である。
【符号の説明】
1 シリンジ用ガスケット
2 コア部
3 被覆層
10 医療用具
12 内面
26 薬剤
Claims (10)
- シリンジ用ガスケットと、該ガスケットを内部に液密に摺動可能に収納するシリンジ用外筒と、前記外筒の注射針取付部を封止する封止部材と、該封止部材と前記外筒の内面と前記ガスケットとの間に形成された薬剤収納部に収納された薬剤とを有するプレフィルドシリンジであって、前記ガスケットは、前記外筒と接触する部分に設けられた被覆層を備え、かつ、該被覆層は、水性フッ素系樹脂、水性ウレタン系樹脂および被膜形成性を有する水性ケイ素樹脂もしくは被膜形成性を有する水性シリコーン化合物を含有し、水を溶媒とする被覆用液を前記ガスケットに塗布し硬化させることにより形成されたものであることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
- 前記被覆層は、前記シリンジ用外筒の内面とともに空間を規定する前記シリンジ用ガスケットの外面部分を被覆している請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記被覆層は、前記ガスケットの前記外筒と接触する部分のみを被覆している請求項1または2に記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記被覆層を構成する前記水性ウレタン系樹脂もしくは前記水性ケイ素系樹脂もしくはこれらの混合物は、バインダーとして機能するものである請求項1ないし3のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記水性フッ素系樹脂、前記水性ケイ素系樹脂、前記水性ウレタン系樹脂の少なくとも1つは、熱硬化性樹脂である請求項1ないし4のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記水性フッ素系樹脂は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどのフルオロオレフィン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロ(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、パーフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルより選択されたフッ素含有モノマーと、シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、脂肪族カルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシアルキルビニルエステルより選択されたものとの共重合体を水性媒体に溶解、分散または乳化したものである請求項1ないし5のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記水性ケイ素系樹脂は、ポリシロキサンを基本構造に持つものである請求項1ないし6のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記水性ケイ素樹脂は、アルコキシシラン化合物、オルガノシロキサン化合物、またはその縮合物からなるポリシロキサンを水性媒体に分散、乳化もしくは溶解したものである請求項1ないし7のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記水性ウレタン系樹脂は、ウレタン樹脂を水系溶媒に乳化もしくは分散したウレタン系ディスパージョンまたは水溶性ポリウレタン系樹脂である請求項1ないし8のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
- 前記被覆層は厚さが、1〜30μmである請求項1ないし9のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
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