以下、本発明に係るトルク変動吸収ダンパについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの第一の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図、図2は、図1の一部を拡大して示す部分断面図、図3は、図1のトルク変動吸収ダンパの分解斜視図、図4は、図2におけるIV−IV位置で円周方向に切断した断面の一部を展開した図である。なお、以下の説明において、「正面側」とは図1における左側であって、車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、図1における右側、すなわち不図示のエンジンが存在する側のことである。
図1及び図2において、参照符号1は、自動車エンジンのクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられるハブである。このハブ1は、金属材料の鋳造品からなるものであって、前記クランクシャフトに固定されるボス部11と、その外周側へ展開する径方向部12と、この内周径方向部12の外周に形成された中間円筒部13と、その背面側の端部から外周側へ展開するフランジ14と、更にその外周端部に正面側が大径の円錐筒状に形成されたリム部15からなる。
ハブ1のリム部15の外周には環状質量体2が配置されており、この環状質量体2と、前記リム部15との間には、ダンパゴム3が一体的に加硫接着されている。言い換えれば、ハブ1の外周に、ダンパゴム3を介して環状質量体2が弾性的に連結されており、これによって、ダイナミックダンパ部DDが構成されている。そしてこのダイナミックダンパ部DDの捩り方向共振周波数は、環状質量体2の円周方向慣性質量と、ダンパゴム3の捩り方向剪断ばね定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数と合致するように同調されている。
環状質量体2は、鉄系等の比重の大きい金属材料の鋳造等によって製作されたものであり、ダンパゴム3は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなるものである。環状質量体2の内周面は、ハブ1のリム部15と対応する円錐面状に形成されており、したがって、ダンパゴム3も正面側で大径となる円錐筒状をなす。
参照符号4はプーリである。このプーリ4は、金属板の成形加工等により製作されたものであって、環状質量体2の外周側に配置され外周面にポリV溝が形成されたプーリ本体41と、その正面側の端部からダイナミックダンパ部DDの正面側及びハブ1の正面側を内周へ延びるフランジ42からなる。
環状質量体2の外周面と、プーリ4におけるプーリ本体41の内周面との間には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたラジアルベアリング51が介装されている。すなわち、プーリ4は、このラジアルベアリング51を介して、環状質量体2の外周に円周方向相対変位可能に同心支持されている。
環状質量体2の外周部は、ダンパゴム3のゴム状弾性材料の一部からなるゴム膜31で被覆(加硫接着)されており、このゴム膜31には、ラジアルベアリング51の介装位置の外側でプーリ本体41に全周が密接されたシールリップ32が形成されている。また、ラジアルベアリング51は、図3に示されるように、円周方向1箇所で斜めに切断51aされていて、環状質量体2の外周面を被覆した前記ゴム膜31に巻き付けられている。
ハブ1における中間円筒部13の内周面には、金属板の打ち抜きプレス等により製作されたハブプレート6が圧入嵌着されており、図2に明瞭に示されるように、プーリ4におけるフランジ42の内周部42aと、その正面側にあって前記ハブプレート6に形成されたスラスト受け61との間には、スラストベアリング52が介装されている。すなわちプーリ4は、このスラストベアリング52を介して、スラスト受け61により正面側への軸方向変位が規制され、言い換えれば、ハブ1とプーリ4は、スラストベアリング52により円周方向相対回転可能な状態で、スラスト受け61により軸方向に互いに係合されている。
ハブ1におけるフランジ14には、図3の斜視図に最も明確に示されるように、このハブ1の中間円筒部13とリム部15の間を円周方向所定間隔で仕切るように、半径方向に延びる複数の係合突部16が形成されている。一方、ハブ1のフランジ14と軸方向に対向するプーリ4のフランジ42の背面には、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなる複数のカップリングゴム7が前記係合突部16と対応する位相間隔で突設され、その先端部が、前記ハブ1の各係合突部16の間に非接着状態で嵌合されている。
詳しくは、ハブ1に形成された係合突部16は、その基部側における円周方向両側に位置する第一の係合突部161,161と、その間から突設された第二の係合突部162からなる二段形状を有する。そして、各カップリングゴム7はプーリ4のフランジ42の背面に加硫接着されており、その先端部が、図4に示されるように、円周方向隣り合う係合突部16,16の第一の係合突部161,161間に嵌合され、第二の係合突部162に対しては適当な円周方向隙間Gを有すると共に、第二の係合突部162の先端が、プーリ4のフランジ42(後述する基部ゴム層71)と非接触で軸方向に対向しているため、このカップリングゴム7は円周方向に剪断変形可能となっている。
すなわち、カップリングゴム7は、クランクシャフトからハブ1に入力された駆動トルクを、円周方向剪断変形によって平滑化しながらプーリ4に伝達するものであり、これによってフレキシブルカップリング部FCが構成されている。そして、係合突部16における第二の係合突部162は、カップリングゴム7の円周方向剪断変形を制限する機能を有するものであり、したがってハブ1とプーリ4に、ストッパ突起と長孔等の干渉により円周方向相対変位を制限することによりカップリングゴム7の円周方向剪断変形を制限するストッパを別設する必要がない。
ここで、クランクシャフトから出力される駆動トルクの変動は、主にアイドリング等の低回転域で顕著に発生することから、フレキシブルカップリング部FCの捩り方向共振周波数はトルク変動の周波数よりも低くする必要があり、このためカップリングゴム7は、十分に柔らかいものであると共に、駆動トルクを伝達するのに十分な強度を確保することのできるブロック形状に形成されている。また、このカップリングゴム7は、図1、図2及び図4に示される組立状態において、ハブ1のフランジ14とプーリ4のフランジ42との間で軸方向に適当な予圧縮が与えられている。
各カップリングゴム7は、プーリ4におけるフランジ42の背面を覆うように形成された基部ゴム層71を介して互いに連続して形成されている。また、前記フランジ42の正面部には、このフランジ42に円周方向所定間隔で開設された複数の孔42bを介して、カップリングゴム7と連続したゴム状弾性材料からなるゴム層72が形成されており、このゴム層72には、図2に示されるように、スラストベアリング52の外側(外周側)でハブプレート6のスラスト受け61の内側面に全周が密接されたシールリップ73が形成されている。
以上の構成を備えるトルク変動吸収ダンパは、ハブ1のボス部11が、不図示のエンジンにおけるクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと一体的に回転される。クランクシャフトの駆動トルクは、ハブ1からカップリングゴム7を介してプーリ4へ伝達され、更に、そのプーリ本体41に巻き掛けられた駆動ベルト(不図示)を介して、冷却ファンや、オルタネータ等の補機の回転軸に伝達される。
ここで、アイドリング等の低回転域でクランクシャフトに顕著に発生するトルク変動は、フレキシブルカップリング部FCにおいて、ハブ1の係合突部16,16における第一の係合突部161,161と、プーリ4のフランジ42との間で、カップリングゴム7が捩り方向へ剪断変形されることによって吸収されるので、駆動ベルトへの伝達トルクが平滑化される。そして、過大なトルクの入力によって、カップリングゴム7に所定以上の変形が与えられた場合は、このカップリングゴム7の根元部分が、図3及び図4に示されるハブ1の係合突部16における第二の係合突部162と干渉する。このため、クランクシャフト(ハブ1)とプーリ4の捩り変位が制限され、これによって、カップリングゴム7の過大変形が防止される。
また、環状質量体2とダンパゴム3からなるダイナミックダンパ部DDは、クランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。
また、フレキシブルカップリング部FCによるトルク変動吸収動作や、ダイナミックダンパ部DDの共振による動的吸振動作においては、ラジアルベアリング51やスラストベアリング52が摺動するが、その外側はシールリップ32,73によって密封されているので、外部からダスト等がラジアルベアリング51及びスラストベアリング52の摺動部に介入するのを有効に防止することができる。また、シールリップ32はダンパゴム3に一体に形成されており、シールリップ73はカップリングゴム7に一体に形成されているので、部品数を増加させるものではない。
図1の形態によるトルク変動吸収ダンパの製造においては、まずハブ1のリム部15とその外周に同心的に配置した環状質量体2との間に、ダンパゴム3を加硫接着し、プーリ4のフランジ42の背面に、カップリングゴム7を加硫接着する。シールリップ32,73は、この加硫接着過程で同時に形成される。
次に、環状質量体2の外周面を被覆したゴム膜31の外周にラジアルベアリング51を巻き付けてから、図3に示されるように、ハブ1、環状質量体2及びダンパゴム3からなる一体成形物と、プーリ4及びカップリングゴム7からなる一体成形物とを互いに組み込む。これによって、プーリ4のプーリ本体41を、環状質量体2の外周にラジアルベアリング51を介して外挿すると共に、各カップリングゴム7の先端を、ハブ1における係合突部16,16の第一の係合突部161,161間に非接着で嵌合する。そしてこの作業は、カップリングゴム7と第一の係合突部161,161を位置合わせして互いに挿入するだけであるため、容易に行うことができる。
更に、プーリ4のフランジ42の正面に形成されたシールリップ73の内周側に、スラストベアリング52を配置してから、ハブ1の中間円筒部13にハブプレート6を圧入する。そしてこれによって、ハブプレート6のスラスト受け61が、スラストベアリング52を押さえると共に、カップリングゴム7に適度な軸方向予圧縮を与えた状態でハブ1とプーリ4を互いに軸方向に係合することができる。
すなわち組立の過程で、ハブ1側のフランジ14とプーリ4側のフランジ42との間で、カップリングゴム7に軸方向の予圧縮が与えられ、カップリングゴム7をハブ1に結合するための圧入部品も不要であるので、図11に示される従来技術のものに比較して少ない組立工数で製造することができる。
なお、この形態では、各カップリングゴム7の先端部を、ハブ1の各係合突部16の間に非接着で嵌合させているが、係合力を強化するために、上述した組立の際に、カップリングゴム7の先端部を接着しても良い。また、この形態では、ハブ1が鋳物からなるものであるが、金属板を成形したものを用いることもできる。
次に、図5は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの第二の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図、図6は、図5のトルク変動吸収ダンパにおけるハブ側の組立体を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図、図7は、図5のトルク変動吸収ダンパにおけるプーリ側の成形体を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。なお、以下の説明において、「正面側」とは図5、図6及び図7における左側であって、車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、同じく右側、すなわち不図示のエンジンが存在する側のことである。
図5において、自動車エンジンのクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられるハブ1は、金属板のプレス成形品からなるものであって、前記クランクシャフトに固定されるボス部11と、その外周側へ円盤状に展開するフランジ14と、更にその外周端部から正面側へ円筒状に延びるリム部15からなる。
ハブ1のリム部15の内周には環状質量体2が配置されており、この環状質量体2と、前記リム部15との間には、ダンパゴム3が圧入されている。言い換えれば、ハブ1のリム部15の内周に、ダンパゴム3を介して環状質量体2が弾性的に連結されており、これによって、ダイナミックダンパ部DDが構成されている。そしてこのダイナミックダンパ部DDの捩り方向共振周波数は、環状質量体2の円周方向慣性質量と、ダンパゴム3の捩り方向剪断ばね定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数と合致するように同調されている。
環状質量体2は、鉄系等の比重の大きい金属材料の鋳造等によって製作されたものであり、ダンパゴム3は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料で環状(円筒状)に成形された後、ハブ1のリム部15と環状質量体2との間に圧入されたものである。
プーリ4は、金属板の成形加工により製作されたものであって、環状質量体2の外周側に配置され外周面にポリV溝が形成されたプーリ本体41と、その正面側の端部からダイナミックダンパ部DDの正面側を内周へ円盤状に延びるフランジ42と、プーリ本体41の背面側の端部からハブ1におけるフランジ14の外周部の背面へ向けて内周側へ屈曲されたスラスト受け43からなる。フランジ42の内径は、環状質量体2の内径より小径かつハブ1のボス部11より大径である。
ハブ1と、プーリ4のプーリ本体41及びスラスト受け43との間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたベアリング5が介装されている。詳しくは、ベアリング5は、ハブ1のリム部15の外周面とプーリ本体41の内周面との間に介在するラジアルベアリング51と、その背面側の端部から内周側へ延びて、ハブ1のフランジ14の外周部とプーリ4のスラスト受け43との間に介在するスラストベアリング52とを有し、軸心を通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が略L字形を呈する。すなわち、プーリ4は、このベアリング5のラジアルベアリング51を介して、ハブ1に円周方向相対変位可能に同心支持されると共に、スラストベアリング52を介して、スラスト受け43により、ハブ1に対して軸方向に係合されている。
ハブ1におけるフランジ14には、図6に明確に示されるように、このハブ1のプレス成形過程でフランジ14の一部を背面側へ打ち出すことによって複数の係合凹部14aが円周方向所定間隔で形成されている。なお、この係合凹部14aは正面(又は背面)から見た形状が円弧状をなして延びており、環状質量体2よりも内周側に位置して形成されている。
一方、ハブ1のフランジ14と軸方向に対向するプーリ4のフランジ42の背面には、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなる複数のカップリングゴム7がハブ1の係合凹部14aと対応する位相間隔で突設されている。
詳しくは、各カップリングゴム7は、その基部が基部ゴム層71を介して互いに連続形成されており、プーリ4のフランジ42の背面に加硫接着されると共に、その先端部が前記各係合凹部14aに非接着状態で嵌合されており、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位に伴って円周方向の剪断変形を受けるようになっている。すなわち、このカップリングゴム7は、クランクシャフトからハブ1に入力された駆動トルクを、円周方向剪断変形によって平滑化しながらプーリ4に伝達するものであり、これによってフレキシブルカップリング部FCが構成されている。
ハブ1におけるリム部15の正面端部には、円周方向所定間隔で複数の突起15aが形成されており、この突起15aは、それぞれ、プーリ4におけるフランジ42の外周部に開設された長孔42cに、円周方向両側に対する適当な隙間Gをもって挿入されている。そして、これによって、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位量を制限するストッパが構成されている。
ここで、クランクシャフトから出力される駆動トルクの変動は、主にアイドリング等の低回転域で顕著に発生することから、フレキシブルカップリング部FCの捩り方向共振周波数はトルク変動の周波数よりも低くする必要があり、このためカップリングゴム7は、十分に柔らかいものであると共に、駆動トルクを伝達するのに十分な強度を確保することのできるブロック形状に形成されている。また、このカップリングゴム7は、図5に示される組立状態において、ハブ1のフランジ14(係合凹部15a)とプーリ4のフランジ42との間で軸方向に適当な予圧縮が与えられている。
なお、カップリングゴム7の基部ゴム層71は、プーリ4のフランジ42の背面から、薄膜71aとなって、プーリ本体41の内周面及びスラスト受け43の内側面まで延びている。したがって、ベアリング5は、このゴム薄膜71aを介して、プーリ本体41及びスラスト受け43の内側に保持されている。また、カップリングゴム7のゴム状弾性材料の一部は、プーリ4におけるフランジ42に円周方向所定間隔で開設された複数の孔42bを介して、その正面側に廻り込み、このフランジ42の正面部を覆うゴム層72を形成している。また、ゴム状弾性材料の一部は、ストッパを構成する長孔42cの内面にも廻り込んで膜状の緩衝体を構成している。
以上の構成を備える第二の形態によるトルク変動吸収ダンパは、先に説明した第一の形態と同様、ハブ1のボス部11が、不図示のエンジンにおけるクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと一体的に回転される。クランクシャフトの駆動トルクは、ハブ1からカップリングゴム7を介してプーリ4へ伝達され、更に、そのプーリ本体41に巻き掛けられた不図示の駆動ベルトを介して、冷却ファンや、オルタネータ等の補機の回転軸に伝達される。
ここで、アイドリング等の低回転域でクランクシャフトに顕著に発生するトルク変動は、フレキシブルカップリング部FCにおいて、ハブ1の各係合凹部14aと、プーリ4のフランジ42との間で、カップリングゴム7が捩り方向へ剪断変形されることによって吸収されるので、駆動ベルトへの伝達トルクが平滑化される。そして、過大なトルクの入力によって、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位量が所定の大きさに達すると、その時点で、ハブ1側の突起15aが、プーリ4側の長孔42cの円周方向一端と当接するので、これによってハブ1とプーリ4の円周方向過大変位が規制され、カップリングゴム7の過大変形が防止される。
また、環状質量体2とダンパゴム3からなるダイナミックダンパ部DDは、クランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。
しかも、この形態によれば、プーリ4(プーリ本体41)が、ハブ1のリム部15の外周にベアリング5(ラジアルベアリング51)を介して支持されているため、プーリ本体41に巻き掛けられた不図示の駆動ベルトの張力に由来してこのプーリ本体41に作用する径方向荷重を、ラジアルベアリング51を介して剛性の高いハブ1で受けることになる。すなわち、前記径方向荷重の伝達経路中に、ダンパゴム3が介在しておらず、したがってプーリ4の径方向挙動に対する大きな抑制力を有するため、プーリ4の振れを著しく小さくして、フレキシブルカップリング部FCによる本来のトルク変動吸収機能を十分に発揮させることができる。更には、ダンパゴム3に前記径方向荷重による圧縮負荷が繰り返し作用することがないから、その耐久性も向上する。
この形態によるトルク変動吸収ダンパの製造においては、まず図6に示されるように、ハブ1のリム部15と、その内周に同心的に配置した環状質量体2との間に、予め環状(円筒状)に成形したダンパゴム3を圧入する。また、図7に示されるように、プーリ4のフランジ42の背面には、カップリングゴム7を加硫接着する。なお、この時点では、図5においてスラスト受け43となる部分が、図7に示されるように、プーリ本体41から円筒状端部43aとして延在されている。
次に、図6に示されるハブ1と環状質量体2とダンパゴム3からなる組立体を、図7に示されるプーリ4とカップリングゴム7からなる成形体に組み込む。そしてこの組み込み過程では、プーリ4のプーリ本体41を、ハブ1のリム部15の外周にベアリング5を介して外挿すると共に、各カップリングゴム7の先端を、ハブ1における係合凹部14aに非接着で嵌合する。
更に、プーリ4のプーリ本体41から延びる円筒状端部43aを内周側へ屈曲してカシメることにより、図5に示されるようなスラスト受け43を形成する。そしてこれによって、スラスト受け43がスラストベアリング52を背面側から押さえると共に、カップリングゴム7に適度な軸方向予圧縮を与えた状態でハブ1とプーリ4を互いに軸方向に係合することができる。
なお、この形態では、各カップリングゴム7の先端部を、ハブ1の係合凹部14aに非接着で嵌合させているが、係合力を強化するために、上述した組立の際に、カップリングゴム7の先端部を前記係合凹部14aに接着しても良い。
次に、図8は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの第三の形態を、その軸心を通る平面で切断して正面側から見た断面斜視図、図9は、同じく背面側から見た断面斜視図、図10は、図8のトルク変動吸収ダンパにおけるハブ側の組立体を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。なお、以下の説明において、「正面側」とは図5、図6及び図7における左側であって、車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、同じく右側、すなわち不図示のエンジンが存在する側のことである。
図8及び図9に示される形態のトルク変動吸収ダンパは、上述した図5に示される第二の形態とは逆に、カップリングゴム7が、ハブ1側のフランジ14に一体的に突設されると共にその先端がプーリ4のフランジ42と円周方向に係合され、ダンパゴム3がカップリングゴム7と一体に形成されたものである。
ハブ1は、金属板のプレス成形品からなるものであって、クランクシャフトの軸端に固定されるボス部11と、その外周側へ円盤状に展開するフランジ14と、更にその外周端部から正面側へ円筒状に延びるリム部15からなる。
ハブ1のリム部15の内周面にはダンパゴム3が加硫接着されており、その内周には、環状質量体2が圧入されている。言い換えれば、ハブ1のリム部15の内周に、ダンパゴム3を介して環状質量体2が弾性的に連結されており、これによって、ダイナミックダンパ部DDが構成されている。そしてこのダイナミックダンパ部DDの捩り方向共振周波数は、環状質量体2の円周方向慣性質量と、ダンパゴム3の捩り方向剪断ばね定数によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数と合致するように同調されている。環状質量体2は、鉄系等の比重の大きい金属材料の鋳造等によって製作されたものであり、ダンパゴム3は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなる。
プーリ4は、金属板の成形加工により製作されたものであって、環状質量体2の外周側に配置され外周面にポリV溝が形成されたプーリ本体41と、その正面側の端部からダイナミックダンパ部DDの正面側を内周へ円盤状に延びるフランジ42と、プーリ本体41の背面側の端部からハブ1におけるフランジ14の外周部の背面へ向けて内周側へ屈曲されたスラスト受け43からなる。フランジ42の内径は、環状質量体2の内径より小径かつハブ1のボス部11より大径である。
ハブ1と、プーリ4のプーリ本体41及びスラスト受け43との間には、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で成形されたベアリング5が介装されている。詳しくは、ベアリング5は、図5に示される第二の形態と同様のものであって、ハブ1のリム部15の外周面とプーリ本体41の内周面との間に介在するラジアルベアリング51と、その背面側の端部から内周側へ延びて、ハブ1のフランジ14の外周部とプーリ4のスラスト受け43との間に介在するスラストベアリング52とを有し、軸心を通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が略L字形を呈する。すなわち、プーリ4は、このベアリング5のラジアルベアリング51を介して、ハブ1に円周方向相対変位可能に同心支持されると共に、スラストベアリング52を介して、スラスト受け43により、ハブ1に対して軸方向に係合されている。
プーリ4におけるフランジ42には、このプーリ4のプレス成形過程でフランジ42の一部を正面側へ打ち出すことによって複数の係合凹部42dが円周方向所定間隔で形成されている。なお、この係合凹部42dは正面(又は背面)から見た形状が円弧状をなして延びており、環状質量体2よりも内周側に位置して形成されている。
プーリ4のフランジ42と軸方向に対向するハブ1のフランジ14の正面には、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料からなる複数のカップリングゴム7が円周方向所定間隔で突設されている。
詳しくは、各カップリングゴム7は、その基部ゴム層71においてハブ1のフランジ14に加硫接着されていると共に、その先端部がプーリ4における各係合凹部42dに嵌合され、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位に伴って円周方向の剪断変形を受けるようになっている。すなわち、このカップリングゴム7は、クランクシャフトからハブ1に入力された駆動トルクを、円周方向剪断変形によって平滑化しながらプーリ4に伝達するものであり、これによってフレキシブルカップリング部FCが構成されている。
また、各カップリングゴム7は、基部ゴム層71を介してダンパゴム3と互いに連続形成されている。すなわち、ダンパゴム3と各カップリングゴム7は、ハブ1に、互いに連続して同時に一体成形されたものである。
ハブ1におけるリム部15の正面端部には、円周方向所定間隔で複数の突起15aが形成されており、この突起15aは、図8に示されるように、それぞれ、プーリ4におけるフランジ42の外周部に開設された長孔42cに、円周方向両側に対する適当な隙間Gをもって挿入されている。そして、これによって、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位量を制限するストッパが構成されている。
ここで、クランクシャフトから出力される駆動トルクの変動は、主にアイドリング等の低回転域で顕著に発生することから、フレキシブルカップリング部FCの捩り方向共振周波数はトルク変動の周波数よりも低くする必要があり、このためカップリングゴム7は、十分に柔らかいものであると共に、駆動トルクを伝達するのに十分な強度を確保することのできるブロック形状に形成されている。また、このカップリングゴム7は、図8及び図9に示される組立状態において、ハブ1のフランジ14とプーリ4のフランジ42(係合凹部42d)との間で軸方向に適当な予圧縮が与えられている。
以上の構成を備える第三の形態によるトルク変動吸収ダンパは、先に説明した第一又は第二の形態と同様、ハブ1のボス部11が、不図示のエンジンにおけるクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと一体的に回転される。クランクシャフトの駆動トルクは、ハブ1からカップリングゴム7を介してプーリ4へ伝達され、更に、そのプーリ本体41に巻き掛けられた不図示の駆動ベルトを介して、冷却ファンや、オルタネータ等の補機の回転軸に伝達される。
ここで、アイドリング等の低回転域でクランクシャフトに顕著に発生するトルク変動は、フレキシブルカップリング部FCにおいて、ハブ1のフランジ14とプーリ4の各係合凹部42dとの間で、カップリングゴム7が捩り方向へ剪断変形されることによって吸収されるので、駆動ベルトへの伝達トルクが平滑化される。そして、過大なトルクの入力によって、ハブ1とプーリ4の円周方向相対変位量が所定の大きさに達すると、その時点で、ハブ1側の突起15aが、プーリ4側の長孔42cの円周方向一端と当接するので、ハブ1とプーリ4の円周方向過大変位が規制され、カップリングゴム7の過大変形が防止される。
また、環状質量体2とダンパゴム3からなるダイナミックダンパ部DDは、クランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。
しかも、この形態においても、先に説明した図5の第二の形態と同様、プーリ4(プーリ本体41)が、ハブ1のリム部15の外周にベアリング5(ラジアルベアリング51)を介して支持されているため、プーリ本体41に巻き掛けられた不図示の駆動ベルトの張力に由来してこのプーリ本体41に作用する径方向荷重を、ラジアルベアリング51を介して剛性の高いハブ1で受けることになる。すなわち、前記径方向荷重の伝達経路中に、ダンパゴム3が介在しておらず、したがってプーリ4の径方向挙動に対する大きな抑制力を有するため、プーリ4の振れを著しく小さくして、フレキシブルカップリング部FCによる本来のトルク変動吸収機能を十分に発揮させることができる。更には、ダンパゴム3に前記径方向荷重による圧縮負荷が繰り返し作用することがないから、その耐久性も向上する。
この形態によるトルク変動吸収ダンパの製造においては、図10に示されるように、ハブ1のリム部15の内周面及びフランジ14の内側面に、ダンパゴム3及びカップリングゴム7を一体的に加硫成形(加硫接着)する。ダンパゴム3とカップリングゴム7は、互いに一体であるので、同時に成形することができる。成形後、ダンパゴム3の内周に、正面側から環状質量体2を圧入する。
次に、図10に示されるハブ1と環状質量体2とダンパゴム3及びカップリングゴム7からなる組立体を、プーリ4に組み込む。なお、この時点では、図8におけるスラスト受け43となる部分が、先に説明した図7と同様、プーリ本体41から背面側へ円筒状に延在されている。そしてこの組み込み過程で、プーリ本体41を、ハブ1のリム部15の外周にベアリング5を介して外挿すると共に、各カップリングゴム7の先端を、プーリ4における係合凹部42dに嵌合する。
更に、プーリ4のプーリ本体41から背面側へ延びる円筒状端部を内周側へ屈曲してカシメることにより、図8に示されるようなスラスト受け43を形成する。そしてこれによって、スラスト受け43がスラストベアリング52を背面側から押さえると共に、カップリングゴム7に適度な軸方向予圧縮を与えた状態でハブ1とプーリ4を互いに軸方向に係合することができる。