JP4478784B2 - 金属イオン輸送剤 - Google Patents
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Description
実際に数多くの金属イオン抽出剤が開発され(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)、金属イオンの分離、濃縮、除去などに供されているが、これらの抽出剤は金属イオン量に対して同当量以上を必要とする。そのため、多量の抽出剤の合成を行う必要があり、多量の資源、およびその合成のために多くのエネルギーを消費するという問題がある。
金属イオン抽出剤を用いた処理方法に代わる方法として、吸着剤による処理も検討されているが、この方法では再生が毎回必要になるため連続的な定常操作ができない点で問題があり、特に放射性廃液の処理に用いた場合その再生は難かしく実用的とはいえない。
そこで、このような抽出剤や吸着剤による金属イオンの分離方法に代わる、大量の金属イオンの処理を、連続的に、しかも少量の資源またはエネルギーで行う新たな技術の開発が期待されており重要である。
(1)下記一般式(I)で表わされる化合物。
(2)一般式(I)で表わされる化合物が、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、または化合物(4)である(1)記載の化合物。
(4)金属イオンの膜分離系に用いられる、ジフェニルホスホリルアルキルアミド基およびN,N−ジアルキルカルバモイルアルキルオキシ基の両方を有する化合物からなる金属イオン輸送剤。
(5)分離される金属イオンが、希土類金属イオン、鉄族金属イオン、白金族イオン、およびアクチノイド系金属イオンから選ばれる少なくとも一種のイオンである、(3)または(4)記載の金属イオン輸送剤。
(6)(3)〜(5)のいずれか1に記載の金属イオン輸送剤を含有する金属イオン分離膜。
(7)金属イオンの膜による分離方法であって、(3)〜(5)のいずれか1に記載の金属イオン輸送剤の少なくとも1種を用いることを特徴とする金属イオンの分離方法。
さらに本発明の化合物を用いた金属イオンの分離方法によれば、重要な資源である希土類金属イオンの分離濃縮など、きわめて重要性の高い資源の有効利用が可能である。また、アクチノイド系の放射性金属イオンへの適用により、原子力発電によって排出される放射性廃棄物を少量の輸送剤で大量に分離濃縮することができ、廃棄問題に多大の貢献をすることが可能である。
これに対し、本発明の化合物を用いた膜による金属イオンの分離方法では、膜中のわずかな輸送剤が供給側の水相に接して金属イオンを膜中に取り込み、可溶化して膜中を移動し、反対の受容側の水相との界面で金属イオンを放出するというシステムの中で、少量の輸送剤により多量の金属イオンを連続的に分離し、濃縮することができる。
金属に配位する化合物として、例えば、ホスホリル基を有する化合物もしくはアミド基を有する化合物が挙げられるが、金属イオン輸送剤として用いるにはそれぞれ長所、短所がある。
本発明の化合物は、これらの置換基の適切な組み合わせにより、それぞれの持つ長所を高めた、ハイブリッドタイプの金属イオン輸送能を有する化合物である。具体的には、1分子中に複数の配位子となる置換基を有し、複数の配位元素が配位に関与することで、より安定な錯体を形成して、膜中への金属イオンの取り込みおよび膜中での金属の移動などの能力を向上することができる。
したがって、本発明の化合物はその金属イオン輸送能から、膜分離に用いられる金属イオン輸送剤とすることができる。本発明の化合物の1種を用いて金属イオン輸送剤としてもよく、本発明の化合物の複数を用いて金属イオン輸送剤としてもよい。また、本発明の化合物の1種もしくは複数に、その他の化合物を加えて金属イオン輸送剤とすることもできる。
なお、対象となる金属イオンの処理量が少ないなど抽出剤としての処理が好ましく実施できる場合には、常用の方法によって、本発明の化合物を金属イオン抽出剤として用いることができる。このとき、上記の金属イオン輸送剤として用いる場合と同様に、本発明の化合物の1種もしくは複数によってもよく、またはその他の化合物を含んでいてもよい。
本発明の化合物1分子中に含まれる、置換基の種類および配位元素の種類は、互いに同じものでも、異なっていてもよい。配位元素は、所望の金属に配位する元素であれば特に制約はないが、二重結合酸素もしくはエーテル結合酸素などが好ましい。
本発明の化合物に含まれる置換基は、上記の条件を満たすものであれば特に制約はないが、例えば、ジフェニルホスホリルアルキルアミド基、N,N−ジアルキルカルバモイルアルキルオキシ基などが好ましく、ジフェニルホスホリルアセトアミド基、N,N−ジアルキルカルバモイルメチルオキシ基がより好ましい。
本発明の化合物は、ジフェニルホスホリルアルキルアミド基および/またはN,N−ジアルキルカルバモイルアルキルオキシ基を有することが好ましく、ジフェニルホスホリルアセトアミド基および/またはN,N−ジアルキルカルバモイルメチルオキシ基を有することがより好ましい。
Qで表わされる連結基は置換基を有していてもよく、置換基として特に制約は無いが、例えば、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは炭素原子数1〜10であり、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、などが挙げられる。)。
R2およびR3は、2価以上の連結基であり、アルキレン基が好ましく、炭素原子数1〜6のアルキレン基がより好ましく、メチレン、エチレン、プロピレンが特に好ましい。R2およびR3で表わされる連結基は、置換基を有していてもよく、置換基として特に制約は無く、連結基Qにおける置換基と同様である。
また、ホスホリル基のリン原子に配位する配位子は、リン原子に配位する配位子であれば特に制約はないが、電子の受容および供与の関係から、フェニル基(Ph)が好ましい。
以下に、本発明の金属イオン輸送剤となる化合物の合成方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
一般式(I)におけるQをなす連結基にアミノ基と水酸基を配した化合物を出発物質として、カルバモイル基を有するアルキレンハライドと反応させたのち、ジフェニルホスホリルアルキレンカルボン酸のパラ−ニトロフェニルエステルを反応させて合成することができる。
本発明の金属イオン分離膜の膜材は、金属イオン輸送剤となる化合物およびこれを溶解する膜液を十分に保持し、膜透過条件下で機械的強度を有するものが好ましい。このような性質をもつ材料であれば特に制約はないが、高分子材料、例えば、酢酸セルロースが好ましく、三酢酸セルロースがより好ましい。
膜液は、使用する金属イオン輸送剤となる化合物によって適宜選定されるが、金属イオン輸送剤となる化合物を安定して溶かし込み、膜外から水中への溶解が少ないものが好ましく用いられる。例えば、2−ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)が好ましい。
溶媒は、金属イオン輸送剤となる化合物、膜液、および膜材を安定して溶解でき、キャスト後に容易に除去できる溶媒であればよく、例えば、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、またはクロロホルムが好ましく、クロロホルムがより好ましい。
さらに詳細な膜の製造方法は、例えば、J.Membr.Sci., T.Shinbo, T.Yamaguchi, H.Yanagishita, K.Sakaki, D.Kitamoto, M.Sugiura, 84, 241-248 (1993)、または繊維学会誌, 新保外志夫, 金森敏幸, 小笠原啓一, 山崎章弘, 岩坪隆, 増岡登志夫, 山口智彦, 52, 105-109 (1996)などに記載されている。
上記の溶液を、ガラス板などの適当な平滑な平板の上に一定の厚みで展開して乾燥させ、出来上がった膜を静かに剥がし金属イオン分離膜を得ることができる。分離膜の厚さは可能な限り薄いことが好ましいが、薄くなる程できあがる膜の機械的強度が減少するため、25μm〜200μmが好ましく、25μm〜100μm以下がより好ましい。
本発明の金属イオンの分離方法において、好ましく分離される金属イオンとして、セリウム、イットリウム、プルトニウムなどの希土類金属、ウランなどのアクチノイド系金属、コバルト、ニッケルなどの鉄属金属、オスミウム、パラジウム、イリジウムなどの白金属元素などのイオンが挙げられる。より好ましくは、セリウムイオン、ウランイオン、プルトニウムイオンであり、セリウムイオンが特に好ましい。
上記の好ましく分離される金属イオン(以下、「目的金属イオン」ともいう。)は、分離溶液中に一種のみが溶解していても、複数の種類が同時に溶解していてもよい。また、分離を目的としない他の金属イオンとともに溶解していてもよく、この場合は選択的に上記の目的金属イオンのみを分離することができる。
分離溶液に用いられる溶媒は、目的金属を溶解できる溶媒であればよいが、酸性水溶液が好ましく、硝酸水溶液がより好ましい。
分離温度は特に制限はないが、5℃〜50℃の範囲で行うのが好ましく、35℃から45℃がより好ましい。
分離溶液に含まれる、目的金属の初期濃度は1ppm〜10,000ppmが好ましく、10ppm〜1,000ppmがより好ましい。
(合成例1)
スキーム(1)に示すような合成経路により化合物(1)を得た。すなわち、2−アミノ−4−メチルフェノール12.3g(0.10モル)をベンズアルデヒド11g(0.10モル)とともにテトラヒドロフラン(THF)中、室温で放置しておくと、結晶が析出した。この結晶をろ過し、真空ポンプで減圧下よく乾燥して前駆体(a)を得た。得られたイミン前駆体(a)2.1g(0.01モル)を、50mlジメチルホルムアルデヒド(DMF)に溶解して当モルの第3級ブトキシドカリウムを加えた後、N,N−ジオクチルカルバモイルメチルクロリド3.2
g(0.01モル)を加えて70℃で一晩加熱攪拌した。
冷却後、ジメチルホルムアルデヒドを減圧留去して前駆体(b)を得た。前駆体(b)にエタノールを50 ml加えて溶解した後、濃塩酸を加えて室温で攪拌した。エタノールを留去した後、水を加えて、クロロホルムで洗い、水相に水酸化ナトリウムの水溶液を塩基性になるまで加えた。遊離した油状物質をクロロホルムで抽出し、水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、前駆体(c):N,N−ジオクチルカルバモイルメトキシ−2−アミノ−4−メチルベンゼンを得た。得られた前駆体(c)をクロマトグラフィーにより精製した。
N,N−ジオクチルカルバモイルメトキシ−2−アミノ−4−メチルベンゼンとp−ニトロフェニル(ジフェニルホスホリル)アセテートとの反応における収率は65%であった。化合物は各種分光学的手法により下記のとおり同定した。
NMR (300MHz, CDC13, ppm): 0.89(t, 6H, CH3), 1.2(broad, 20H, CH2), 1.5(m, 4H, CH2), 2.24(s, 3H, Ar-CH3), 3.26(m, 4H, N-CH2), 3.54 & 3.59(s, 2H, P-CH2-CO), 4.72(s, 2H, CO-CH2-O), 6.75(d, 1H, Ar-H), 6.78(s, 1H, Ar-H), 7.5(m, 6H, Ar-H), 7.8(m, 4H, Ar-H), 8.08(d, 1H, Ar-H), 9.92(s, 1H, NH); ESI-MS: Calcd: M=646.39, Found: 647.6(M+H), 669.6(M+Na).
2−アミノ−2−メチルプロパノールを2−アミノ−4−メチルフェノールの代わりに用い、N,N−ジオクチルカルバモイルメチルクロリドの代わりにN,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメチルクロリドを用いた以外、合成例1と同様にして、化合物(2)を得た。N,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメトキシ−2−アミノ−2−メチルプロパンとp−ニトロフェニル(ジフェニルホスホリル)アセテートとの反応における収率は53%であった。化合物は各種分光学的手法により下記のとおり同定した。
NMR (300MHz, CDC13, ppm): 0.90(m, 12H, CH3), 1.18(s, 6H, CH3), 1.27(broad, 16H, CH2), 1.64(m, 2H, CH), 3.05(d, 2H, N-CH2), 3.32(m, 2H, N-CH2), 3.32 & 3.37(s, 2H, P-CH2-CO), 4.13(s, 2H, CO-CH2-O), 7.46(m, 6H, Ar-H), 7.84(m, 4H, Ar-H), 8.05(s, 1H, NH); ESI-MS: Calcd: M=612.41, Found: 613.6(M+H), 635.6(M+Na).
2−アミノエタノールを2−アミノ−4−メチルフェノールの代わりに用い、N,N−ジオクチルカルバモイルメチルクロリドの代わりにN,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメチルクロリドを用いた以外、合成例1と同様にして、化合物(3)を得た。N,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメトキシ−2−アミノエタンとp−ニトロフェニル(ジフェニルホスホリル)アセテートとの反応における収率は71%であった。化合物は各種分光学的手法により下記のとおり同定した。
NMR (300MHz, CDC13, ppm): 0.89(m, 12H, CH3), 1.26(broad, 16H, CH2), 1.6(m, 2H, CH), 3.05(d, 2H, N-CH2), 3.40(m, 2H, N-CH2), 3.36 & 3.40(s, 2H, P-CH2-CO), 4.13(s, 2H, CO-CH2-O), 7.5(m, 6H, Ar-H), 7.7(m, 4H, Ar-H), 7.9(broad, 1H, NH); ESI-MS: Calcd: M=584.77, Found: 585.6(M+H), 607.6(M+Na).
3−アミノプロパノールを2−アミノ−4−メチルフェノールの代わりに用い、N,N−ジオクチルカルバモイルメチルクロリドの代わりにN,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメチルクロリドを用いた以外、合成例1と同様にして、化合物(4)を得た。N,N−ジ(2−エチルヘキシル)カルバモイルメトキシ−2−アミノプロパンとp−ニトロフェニル(ジフェニルホスホリル)アセテートとの反応における収率は68%であった。化合物は各種分光学的手法により下記のとおり同定した。
NMR (300MHz, CDC13, ppm): 0.89(m, 12H, CH3), 1.26(broad, 16H, CH2), 1.64(m, 2H, CH), 1.65(m, 2H, CH2), 3.07(d, 2H, N-CH2), 3.24(m, 2H, N-CH2), 3.31(t, 2H, N-CH2), 3.35 & 3.40(s, 2H, P-CH2-CO), 3.42(t, 2H, O-CH2), 4.11(s, 2H, CO-CH2-O), 7.5(m, 6H, Ar-H), 7.8(m, 4H, Ar-H), 7.85(s, 1H, NH); ESI-MS: Calcd: M= 598.39, Found: 599.7(M+H), 621.7(M+Na).
(実施例)
合成例1で合成した化合物(1)を金属イオン輸送剤として用い、金属イオンの分離実験を行った。
まず、三酢酸セルロース(CTA)を室温でクロロホルムに溶解し、2質量%の溶液を作製した。次いで、この溶液に2−ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)を加え、溶液中の三酢酸セルロースに対して重量比で3倍量となるように調製した。さらに、金属イオン輸送剤となる化合物(1)を溶液中のクロロホルムを除く成分に対して15質量%となる様に加えて、泡立たない様に留意しながら十分に攪拌した。このようして作製した溶液をガラス板上に展開し、室温で少なくとも24時間以上水平に静置し、クロロホルムに揮発させて厚さ50
μmの金属イオン分離膜を得た。
作製した膜を2つのガラスセルの間に取り付けた。一方のセルには200 ppmの硝酸セリウム、0.05 Mの硝酸、2.95 Mの硝酸ナトリウム水溶液を充填し、供給相(Feed)とした。他方のセルには受容相(Strip)として水を同量充填した。系を40℃に保ち、膜面を十分に攪拌して両相のセリウムイオンの濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置で経時的に測定し、セリウムイオンに対する分離膜の分離性能を評価した。
Claims (6)
- 金属イオンの膜分離系に用いられる、請求項1または2記載の化合物群から選ばれる少なくとも一種からなる金属イオン輸送剤。
- 分離される金属イオンが、希土類金属イオン、鉄族金属イオン、白金族イオン、およびアクチノイド系金属イオンから選ばれる少なくとも一種のイオンである、請求項3記載の金属イオン輸送剤。
- 請求項3または4記載の金属イオン輸送剤を含有する金属イオン分離膜。
- 金属イオンの膜による分離方法であって、請求項3または4記載の金属イオン輸送剤の少なくとも1種を用いることを特徴とする金属イオンの分離方法。
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