従来より、回路遮断器として、固定接点と可動接点とで構成される接点部の開極時に発生するアークを消弧する消弧装置を器体内に納装したものが知られている(例えば、特許文献1)。
上記特許文献1に開示された回路遮断器は、3極の回路遮断器であって、図5に示すように、器体10’の両端部(図5における左右両端部)それぞれに端子台16a,16bが形成され、一端部の端子台16aには、座金付の端子ねじ19aを備えた電源側端子(入力端子)17が図5の紙面に直交する方向に3つ並設され、他端部の端子台16bには、座金付の端子ねじ19bを備えた負荷側端子(出力端子)18が図5の紙面に直交する方向に3つ並設されている。ここに、各端子台16a,16bには、隣り合う電源側端子17間、負荷側端子18間を絶縁する絶縁壁16c,16dが形成されている。また、図5に示した構成の回路遮断器1’は、電源側端子17と負荷側端子18とが1対1で対応付けられており、電源側端子17と負荷側端子18との間の各電路それぞれに、器体10’内に収納される接点部21が介挿されている。
なお、回路遮断器1’の器体10’は、後述のハンドル45が露出する面を前面として、図5の上下方向を前後方向と規定すれば、図5および図6に示すように、合成樹脂成形品からなるベース11と、ベースの前面側に配設される合成樹脂成形品からなるボディ12と、ボディ12の前面側に配設される前面開口した箱状の合成樹脂成形品からなるカバー13とを結合して形成されている。また、ボディ12は、当該ボディ12の内部空間を各極毎に区分けする絶縁壁12aが形成されており、隣り合う接点部21間の絶縁を図れるようになっている。
上述の電源側端子17は、金属板よりなる端子板17aの側縁(図5における右側縁)から後方へ連絡片17bが延設され、連絡片17bの後端縁からボディ12の内底面に沿ってボディ12の中央部に向かう向きに固定接点保持片17cが延設されており、上述の接点部21は、固定接点保持片17cに固着された固定接点21aと、導電性金属により形成された可動接触子22の一端部(先端部)に固着され固定接点21aに接離する可動接点21bとで構成されている。なお、各可動接触子22は、それぞれ編組線よりなる接続線34および異常電流検出装置30を介して負荷側端子18に電気的に接続されている。
また、回路遮断器1’の器体10’内には、1つのトリップ機構40と、それぞれ接点部21が介挿された3つの電路のいずれかに異常電流が流れたときに各接点部21を強制的に開極させるようにトリップ機構40を作動させる1つの引外し装置20とが収納されており、3極の接点部21を器体10’の前面に露出した単一のハンドル45によって開閉操作可能としてある。なお、カバー13には、ハンドル45の操作部を露出させる窓孔13aが形成されている。
また、上述の回路遮断器1’における消弧装置2’は、排気孔26aが形成された排気板26にコ字状のヨーク29を取着してあり、短絡電流が流れた際には固定接点21aと可動接点21bとの間に流れる電流に応じた電磁力で両接点21a,21b間に発生するアークを引き伸ばして消弧するものである。ここに、排気板26は、メラミン樹脂積層板やポリエステル樹脂積層板により形成されている。
ところで、JIS規格(JIS C8370)に規定された配線用遮断器の過負荷開閉試験では、定格電流Inが100A以下の場合、試験電圧を定格電圧、試験電流を6Inとして(例えば、定格電流Inが100Aで、定格電圧が220Vの場合、試験電圧を220V、試験電流を600Aとして)、ハンドルを開閉操作し50回の開閉回数をクリアしなければならず、定格電流Inが100Aを超え225A以下の場合、試験電圧を定格電圧、試験電流を6Inとして(例えば、定格電流Inが150Aで、定格電圧が220Vの場合、試験電圧を220V、試験電流を900Aとして)、ハンドルを開閉操作し25回の開閉回数をクリアしなければならない。ここに、「クリアしなけらばならない」とは、規定の開閉回数が終了するまでに電気的・機械的支障が起こらないことを意味し、具体的には、可動接点と固定接点とが溶着して開極不能とならないこと、再点弧による遮断不能が生じないことなどを意味する。
また、上記JIS規格に規定された配線用遮断器の短絡遮断試験では、短絡遮断容量として1.0kA、2.5kA、…、200kAという容量があり、試験電流として回路遮断器の短絡遮断容量の電流を流したときにトリップ機構がトリップするか否かを試験する。
上記特許文献1に開示された回路遮断器1’は、過負荷開閉試験および短絡遮断試験に基づいて、定格電圧が220V、定格電流が100A、定格遮断容量が5kAの回路遮断器として用いることができるものであるが、器体10’の外形寸法の変更なしに更に大きな定格(例えば、定格電圧が460V、定格電流が150A)や定格遮断容量(例えば、7.5kA)の回路遮断器としては用いることができなかった。
これに対して、図7に示すように、上記特許文献1に開示された回路遮断器1’よりも器体10”が大型で、開極状態における可動接点21bと固定接点21aとの間の間隔を広くするとともに接点部21と電源側端子17との間の間隔を広くし、導電板からなる複数枚のグリッド38’が前後方向(図7における上下方向)に所定間隔で配置された消弧装置2”を器体10”内に収納した回路遮断器1”が知られている(特許文献2)。ここに、図7に示した構成の回路遮断器1”では、器体10”における消弧装置2”側の側面に、器体10”の内外を連通させる排気板26’が配設されている。
上記特許文献2に開示された図7に示す構成の回路遮断器1”では、図5に示す構成の回路遮断器1’に比べて定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを高めることができ、例えば、定格電圧を460V、定格電流を150Aとしたり、図5に示す構成の回路遮断器1’と同じ定格電圧220V、定格電流100Aで定格遮断容量を25kAへ高めたりすることができる。このような理由から、定格電圧が460V、定格電流が150Aの回路遮断器としては、図7に示す構成の回路遮断器1”が用いられていた。
なお、図5に示した回路遮断器1’の器体10’の外形寸法に関しては、図5における左右方向(対となる電源側端子17と負荷側端子18とが並ぶ方向)の長さ寸法が略9.6cm、同図における紙面に直交する方向(幅方向)の長さ寸法が略7.5cm、同図における上下方向の長さ寸法が6.4cmであり、図7に示した回路遮断器1”の器体10”の外形寸法に関しては、図7における左右方向(対となる電源側端子17と負荷側端子18とが並ぶ方向)の長さ寸法が略15.5cm、同図における紙面に直交する方向(幅方向)の長さ寸法が略9cm、同図における上下方向の長さ寸法が7.2cmとなっている。
特開2000−76981号公報(〔0018〕、〔0019〕、図4および図5参照)
特公平8−24026号公報(第2頁左欄第23行〜第39行、第4頁右欄第14行〜第18行、第1図参照)
上述のように上記特許文献2に開示された消弧装置2”を備えた回路遮断器1”では、上記特許文献1に開示された消弧装置2’を備えた回路遮断器1’に比べて定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを高めることができるものの、器体10”が器体1’に比べて大型化してしまう。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、回路遮断器の器体を大型化することなく回路遮断器の定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを大きくすることが可能な回路遮断器の消弧装置を提供することにある。
請求項1の発明は、回路遮断器の器体内において可動接触子の先端部に設けた可動接点が固定接点から離れる際に発生したアークを消弧する回路遮断器の消弧装置であって、アークに晒される背面部および背面部の両端部から延設された両側面部により可動接点の通過経路を囲む凹部が形成され可動接点の接離する方向に離間して配置される導電板からなる複数のグリッドと、各グリッドの背面部間に介在する形で配置され前記アークの発生熱で消弧性ガスを発生する消弧性ガス発生部材とを備え、消弧性ガス発生部材よりも機械的強度が高く且つ電気絶縁性を有する材料により形成され、各グリッドの背面側で消弧性ガス発生部材に重ねて配置されて各グリッドを保持する絶縁部材を設けてなり、絶縁部材を、器体内において固定接点が一面から突出して設けられた固定接点保持片の前記一面側に配設するとともに、消弧性ガス発生部材を、一部が絶縁部材と固定接点保持片の前記一面との間に介在するように形成してなることを特徴とする。
この発明によれば、可動接点が固定接点から離れる際に発生するアークが各グリッドの背面部に晒されながら分離・冷却され、しかも、アークの発生熱によりグリッドの背面部間に介在する消弧性ガス発生部材から消弧性ガスが発生するので、従来の排気板にコ字状のヨークを取着した構成を有する消弧装置に比べて、器体内における消弧装置の占有領域を広くすることなくアークに対する消弧性を向上させることができ、回路遮断器の器体を大型化することなく回路遮断器の定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを大きくすることが可能となる。
また、この発明によれば、絶縁部材により各グリッドを強固に保持することができる。
また、この発明によれば、絶縁部材と固定接点保持片との間に消弧性ガス発生部材の一部が介在するので、絶縁部材が固定接点保持片に直接載置されている場合に比べて絶縁部材がアークにより絶縁劣化しにくくなるとともに、消弧性が更に向上する。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記消弧性ガス発生部材は、前記グリッド間に介在し前記消弧性ガスを発生する消弧性ガス発生部と、各グリッドの並設方向に直交する各グリッドの両端面に接し各グリッドそれぞれから他のグリッドへのアークの転流を防止する転流防止部とが同一材料により一体に形成されてなることを特徴とする。
この発明によれば、各グリッドそれぞれの両端面側から他のグリッドへアークが転流し難くなり、消弧性がより一層向上する。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記複数のグリッドのうち前記固定接点から最も離れたグリッドと開極状態における前記可動接点との間の最短距離をA、前記固定接点から2番目に離れたグリッドと開極状態における前記可動接点との間の最短距離をCとするとき、A<Cの関係を満たすことを特徴とする。
この発明によれば、前記固定接点から前記可動接点が離れる際に発生したアークが前記可動接点から、前記固定接点から最も離れたグリッド、前記固定接点から2番目に離れたグリッド、という順番で流れることとなり、アークを十分に引き伸ばして消弧させることができる。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記グリッドの数が少なくとも3つであって、前記可動接点の接離する方向において隣り合う各一対のグリッド間の間隔が前記固定接点に近いグリッドの対ほど広くなっていることを特徴とする。
この発明によれば、前記固定接点から前記可動接点が離れる際に前記固定接点近傍に熱的ダメージを与えるアークをグリッドへ素早く引き伸ばすことができるとともに、前記固定接点とグリッドとの間の電界強度を低下させることによって、再点弧発生による遮断不能を防止して、消弧性能を向上させることができる。
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記消弧性ガス発生部材は、熱可塑性樹脂と、200℃以上で脱水反応する無機化合物と、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類金属系の金属酸化物と、強化材とを含有することを特徴とする。
この発明によれば、前記消弧性ガス発生部材は、200℃以上で脱水反応する無機化合物から消弧性ガスを発生させるとともに、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類金属系の金属酸化物に含まれる酸素が、アークの発生熱により表面に形成されたカーボン層中の炭素と反応して二酸化炭素となることでカーボン層を除去するので、前記消弧性ガス発生部材の絶縁劣化を防止することができ消弧性能の低下を防止することができる。ここにおいて、消弧性が高い材料という点では、200℃以上で脱水反応する無機化合物の方が、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類系金属の金属酸化物よりも優れているが、蒸気圧が低い材料という点では、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類金属系の金属酸化物の方が、200℃以上で脱水反応する無機化合物よりも優れている。また、耐熱性(耐久性)が高い材料という点についても、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類金属系の金属酸化物の方が、200℃以上で脱水反応する無機化合物よりも優れている。
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記消弧性ガス発生部材は、前記熱可塑性樹脂としてナイロン6、前記無機化合物として水酸化マグネシウム、前記金属酸化物として酸化マグネシウムを用いてなることを特徴とする。ここで、酸化マグネシウムは、水酸化マグネシウムよりも融点が高く、また、同一温度における蒸気圧が低い。なお、酸化マグネシウムの融点は2800℃、水酸化マグネシウムの融点は350℃である。
この発明によれば、前記消弧性ガス発生部材に酸化マグネシウムを含有していることにより、酸化マグネシウムを含有していない場合に比べて、前記消弧性ガス発生部材の耐熱性(耐久性)が向上するとともに、アークの発生熱に起因した前記器体内の圧力上昇を抑制できて前記器体の破損を防止できる。
なお、前記消弧性ガス発生部材に前記金属酸化物としての酸化マグネシウムを含有させない場合、消弧性を高めるとともにアークの発生熱に起因した前記器体内の圧力上昇を抑制するために、ナイロン6の含有量を増加させて水酸化マグネシウムの含有量を減らすことが考えられるが、ナイロン6の熱伝導率が酸化マグネシウムの熱伝導率よりも低い(酸化マグネシウムの熱伝導率は273Kにて42W/m・K、ナイロン6の熱伝導率は0.3W/m・K)ので、前記固定接点と前記可動接点とからなる接点部の開閉時や短絡遮断時の前記各グリッドの熱を逃がしにくくなり、前記各グリッドの温度が上昇しやすくなって再点弧しやすくなってしまう。要するに、前記消弧性ガス発生部材に酸化マグネシウムを含有させない場合に、その分だけ水酸化マグネシウムの含有量を増やすとアーク発生時に前記器体内の圧力が高くなって前記器体が破損してしまう恐れがあり、ナイロン6を増やすと再点弧(遮断不能)してしまう恐れがある。これに対して、請求項6の発明では、上述のように前記消弧性ガス発生部材に酸化マグネシウムを含有していることにより、酸化マグネシウムを含有していない場合に比べて、前記消弧性ガス発生部材の耐熱性(耐久性)が向上するとともに、アークの発生熱に起因した前記器体内の圧力上昇を抑制できて前記器体の破損を防止できる。
請求項1の発明では、従来の排気板にコ字状のヨークを取着した構成を有する消弧装置に比べて、器体内における消弧装置の占有領域を広くすることなくアークに対する消弧性を向上させることができ、回路遮断器の器体を大型化することなく回路遮断器の定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを大きくすることが可能となるという効果がある。
以下、本実施形態の回路遮断器の消弧装置について図1〜図4を参照しながら説明するが、回路遮断器1に関しては図5および図6に示した従来構成と同様の構成要素について図示および説明を適宜省略する。なお、回路遮断器1の図示した部分に関して従来構成と同様の構成要素については同一の符号を付してある。
本実施形態における回路遮断器1は、器体10の外形寸法が図5および図6に示した従来構成と同じ寸法に設定された3極の回路遮断器であって、各極の接点部21毎に、器体10内で電源側端子17の近傍に消弧装置2が設けられる。ここに、電源側端子17は、金属板よりなる端子板17aの側縁(図1(a)における右側縁)から後方へ連絡片17bが延設され、連絡片17bの後端縁からボディ12の内底面に沿ってボディ12の中央部に向かう向きに固定接点保持片17cが延設されており、接点部21は、固定接点保持片17cに固着され固定接点保持片17の一面(図1(a)における上面)側に突出した固定接点21aと、導電性金属により形成された可動接触子22の一端部(先端部)に固着され固定接点21aに接離する可動接点21bとで構成されている(ここに、固定接点21aに対する可動接点21bの接離する方向は図1(a)の上下方向となっている)。なお、図示していないが、各可動接触子22は、それぞれ編組線よりなる接続線および異常電流検出装置などを介して負荷側端子に電気的に接続されている。また、回路遮断器1の器体10内には、1つのトリップ機構(図示せず)と、それぞれ接点部21が介挿された3つの電路のいずれかに異常電流が流れたときに各接点部21を強制的に開極させるようにトリップ機構を作動させる1つの引外し装置(図示せず)とが収納されており、3極の接点部21を器体10の前面に露出した単一のハンドル45によって開閉操作可能としてある。したがって、ハンドル45が接点部21を閉極状態とする位置にある時に異常電流が流れたりハンドル45が操作されると可動接点21bが固定接点21aから離れて開極状態となる。
消弧装置2は、電気絶縁材料からなる排気板26と、排気板26の厚み方向に重ねて配置され可動接点21bが固定接点21aから離れる際に発生するアークの発生熱により消弧性ガスを発生する消弧性ガス発生板27と、消弧性ガス発生板27を通して排気板26に保持される複数(本実施形態では、3個)のグリッド38とを備えており、アーク発生にともなうアークガスは排気板26を通して器体10外に排出され、アークは3個のグリッド38により分割され冷却される。なお、本実施形態では、電源側端子17が端子を構成し、消弧性ガス発生板27が消弧性ガス発生部材を構成し、排気板26が、消弧性ガス発生部材よりも機械的強度が高く且つ電気絶縁性を有する材料により形成された絶縁部材を構成している。消弧性ガス発生板27および排気板26それぞれの材料については後述する。
排気板26の外周形状は長方形状であって、図1(a)の上下方向を排気板26の上下方向とすれば、排気板26の上部には、器体10の内外を連通させる複数(本実施形態では、4つ)の排気孔26aが厚み方向に貫設され、排気板26の下部の両側部には、グリッド38を取り付けるための矩形状の組立孔26b(図3参照)が上下方向に離間して形成されている。各グリッド38は、導電板(鉄板)に可動接点21bの通過経路を囲む凹部39を設けることによりコ字状の形状に形成されており、凹部39の内底面がアークに晒されるように配置される。ここに、各グリッド38は、両脚部38b,38bを連続一体に連結している連結部38aにおける排気板26との対向面に、排気板26の組立孔26bに嵌合する組立突起38c(図3参照)が連結部38aの長手方向に離間して突設されている。したがって、各グリッド38の各一対の組立突起38cが排気板26の各一対の組立孔26bにそれぞれ嵌合することによって、各グリッド38が排気板26に固定されて保持され、連結部38aにおける排気板26との対向面とは反対側の面が上述の凹部39の内底面となっている(つまり、連結部38aがアークに晒される)。なお、本実施形態では、各グリッド38において、連結部38aがアークに晒される背面部を構成し、両脚部38b,38bが背面部の両端部から延設された両側面部を構成しており、背面部および両側面部により可動接点21bの通過経路を囲む凹部39が形成されている。また、上述の絶縁部材たる排気板26は、各グリッド38の背面側で消弧性ガス発生板27に重ねて配置されて各グリッド38を保持する。
ここにおいて、消弧性ガス発生板27は、排気板26の下部の幅寸法と略等しい幅寸法を有しており、2段目および3段目のグリッド38それぞれを挿通する2つの挿通孔27aと、1段目のグリッド38を挿通する切欠部27bとが形成されている。したがって、消弧性ガス発生板27は、グリッド38間に介在する部分からなる消弧性ガス発生部27cと、各グリッド38の並設方向(図1(a)の上下方向)に直交する各グリッド38の両端面に接し各グリッド38それぞれから他のグリッド38へのアークの転流を防止する転流防止部27dとが同一材料により一体に形成されており、全体としてはしご状の形状に形成されている。したがって、各グリッド38それぞれの両端面側から他のグリッド38へアークが転流し難くなり、消弧性がより向上する。なお、本実施形態では、3個のグリッド38のうち固定接点21aに近い側の2つのグリッド38(2段目のグリッド38および3段目のグリッド38)の厚み寸法を2.6mmとし、固定接点21aから最も遠いグリッド38(1段目のグリッド38)の厚みを2mmとしてあるが、これらの数値は特に限定するものではない。
上述の説明から分かるように、消弧装置2は、複数のグリッド38が可動接点21bの接離する方向に離間して配置されており、各グリッド38には可動接点21bの通過経路を囲む凹部39がそれぞれ形成されており、各凹部39の内底面がアークに晒されるようになっている。なお、凹部39の内周面の形状は特に限定するものではなく、コ字状に限らず、例えばU字状であってもよい。
ここにおいて、図4(a)は可動接点21bが固定接点21aに接触している状態(閉極状態)における消弧装置2の要部と可動接点21bとの相対的な位置関係を示し、図4(b)は可動接点21bが固定接点21aから離れた状態(開極状態)における消弧装置2の要部と可動接点21bとの相対的な位置関係を示しており、複数のグリッド38のうち固定接点21aから最も離れたグリッド38と開極状態における可動接点21bとの間の最短距離をA(図4(b)参照)、固定接点21aから2番目に離れたグリッド38と開極状態における可動接点21bとの間の最短距離をC(図4(b)参照)とするとき、A<Cの関係を満たすようにグリッド38の寸法を設計してある。したがって、固定接点21aから可動接点21bが離れる際に発生したアークが可動接点21bから、固定接点21aから最も離れたグリッド38、固定接点21aから2番目に離れたグリッド38、という順番で流れることとなり、アークを十分に引き伸ばして消弧させることができる。
また、消弧装置2は、可動接点21bの接離する方向において隣り合う各一対のグリッド38間の間隔が固定接点21aに近いグリッド38の対ほど広くなっており、固定接点21aから可動接点21bが離れる際に固定接点21a近傍に熱的ダメージを与えるアークをグリッド38へ素早く引き伸ばすことができるとともに、固定接点21aとグリッド38との間の電界強度を低下させることによって、再点弧発生による遮断不能を防止して、消弧性能を向上させることができる。
消弧性ガス発生板27の下端縁からは排気板26の下端縁を覆う保護片27eが延設されており、消弧性ガス発生板27の下端縁が固定接点保持片17cの上記一面に当接するとともに、保護片27eが排気板26の下端縁と固定接点保持片17cの上記一面との間に介在している。したがって、排気板26が固定接点保持片17cに直接載置されている場合に比べて排気板26がアークにより絶縁劣化しにくくなるとともに、消弧性が更に向上する。
また、消弧装置2は、可撓性を有する薄板状の弁板28が、排気板26における消弧性ガス発生板27との対向面とは反対側に重ねて配置され弁板28と排気板26との下部同士が固着されており、弁板28の下部が上述の連絡片17bに対向するように配置される。したがって、接点部21が閉極している状態では、弁体28により排気孔26aが閉塞されているので、器体10の外部から排気孔26aを通して器体10内へ塵などの異物が侵入するのを防止することができる。
ところで、本願発明者らは、消弧性ガス発生板27の材料を決定するにあたって、アークの消弧性、アーク発生に伴い発生するガスの蒸気圧、消弧性ガス発生板27の耐熱性に注目して種々の材料の検討を行ったところ、消弧性ガス発生板27を、熱可塑性樹脂と、200℃以上で脱水反応する無機化合物と、アルカリ金属系もしくはアルカリ土類金属系の金属酸化物と、強化材(補強材)とを混合した材料により形成することにより、定格電圧、定格電流、定格遮断容量などが向上した回路遮断器を実現できるという結果を得た。ここに、消弧性ガス発生板27の各構成材料としては、例えば、熱可塑性樹脂としてナイロン6、上記無機化合物として水酸化マグネシウム(なお、水酸化マグネシウムは288℃で脱水反応する)、上記金属酸化物として酸化マグネシウム、上記強化材としてガラス繊維を用いればよく、この場合の混合割合(質量百分率)の一例としては、下記の表1の例を採用すればよい。
また、本実施形態では、絶縁部材たる排気板26として、無機質系積層板を用いているが、無機質系積層板に限らず、消弧性ガス発生板27よりも機械的強度が高く且つ電気絶縁性を有するものであればよく、例えば、メラミン樹脂積層板およびシリコン樹脂積層板を用いてもよい。
本実施形態の回路遮断器1について、上述のJIS規格に基づいた過負荷開閉試験に関し、試験電圧を460V、試験電流を900A、力率を0.47として試験を行った結果、25回の2倍の50回の開閉回数をクリアすることができたので、定格電圧が460V、定格電流が150Aの回路遮断器として用いることができる。また、上述の保護片27eをなくして排気板26の下端縁が固定接点保持片17cに当接する構造を採用した回路遮断器1について同条件の過負荷開閉試験を行った結果、25回の開閉回数をクリアすることができ、このような構造を採用した場合にも定格電圧が460V、定格電流が150Aの回路遮断器として用いることができるが、過負荷開閉試験の開閉回数の観点からは保護片27eを設けた構造の方がより好ましい。なお、図5に示した従来構成では、同条件での過負荷開閉試験で25回の開閉回数もクリアすることができなかった。また、図5に示した従来構成では、定格電圧220V、定格電流100Aにおいて定格遮断容量が5kAまでであったが、本実施形態の回路遮断器1では、定格電圧220V、定格電流100Aにおいて25kAの定格遮断容量まで使用できる。
以上説明した本実施形態の消弧装置2では、可動接点21bが固定接点21aから離れる際に発生するアークが各グリッド38の背面部たる連結部38aに晒されながら分離・冷却され、しかも、アークの発生熱によりグリッド38の連結部38a間に一部(消弧性ガス発生部27c)が介在する消弧性ガス発生板27から消弧性ガスが発生するので、従来の排気板26にコ字状のヨーク29を取着した構成を有する消弧装置2’に比べて、器体10内における消弧装置2の占有領域を広くすることなくアークに対する消弧性を向上させることができ、回路遮断器1の器体10を大型化することなく回路遮断器1の定格電圧、定格電流、定格遮断容量などを大きくすることが可能となる。
消弧性ガス発生板27の材料の混合割合に関する上述の表1の数値は一例であって、下記表2の範囲で設定すればよい。
なお、本実施形態では、固定接点保持片17cの上記一面側で固定接点21aの周囲を囲むように配設されて固定接点21aを保護するコ字状のガード板23aおよび固定接点保持片17cの上記一面側に突出しアークが可動接触子22の他端部側に再点弧するのを防止するガード板23bを有した接点ガード板23と、可動接触子22の固定接点21a対向面側となる下面側に取着されてアークが可動接触子22の下面側に再点弧するのを防止する接触子ガード部材25も消弧性ガス発生板27と同じ材料により形成してあるので、消弧性能をより一層高めることができる。
また、消弧性ガス発生板27の材料に関して、熱可塑性樹脂としては、ナイロン6に限らず、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン66などを用いてもよい。また、上記無機化合物としては、水酸化マグネシウムに限らず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを用いてもよい。また、上記金属酸化物としては、酸化マグネシウム(アルカリ土類金属の金属酸化物)に限らず、例えば、酸化ナトリウム(アルカリ金属の金属酸化物)、酸化カルシウム(アルカリ土類金属の金属酸化物)などを用いてもよい。
なお、開閉性能だけを向上させるのであれば、消弧性ガス発生板27で各グリッド38を直接保持する構造を採用すればよいが、消弧性ガス発生板27は機械的強度が比較的弱い。しかしながら、消弧装置2は、電源側端子17の近傍に配置されており、電源側端子17に外部配線としての導体(例えば、外部電線など)を接続する際の力が作用するので、機械的強度を高くすることが好ましい。その一方で、消弧性ガス発生板27の材料には上述の材料を用いることが好ましいので、本実施形態では、消弧性ガス発生板27よりも機械的強度の高い排気板26において各グリッド38を保持させている。しかして、電源側端子17に外部配線としての導体を接続する際の力によって消弧性ガス発生板27が破損するのを防止することができるのである。