JP4472333B2 - 好ましくないタンパク質群を患者の血漿から除去するための薬剤 - Google Patents

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Description

本発明は、好ましくないタンパク質群を患者の血漿から除去するための薬剤、および患者をその様な薬剤により治療する方法に関するものである。
血漿中、組織の細胞外マトリクス内および細胞内のタンパク質は、生命維持に必要な生理的機能の全てにおいて不可欠のものである。しかしながら、数多くの様々なタンパク質は、疾病の原因にもなる。疾病の根源的な原因となる機構としては、疾病に対応する過剰な作用を示す正常タンパク質の過剰産生や、有害な作用を示す異常タンパク質の産生、および、正常タンパク質機能の二次的な破壊であって、炎症や細菌感染など介入性疾病の過程において有害な作用を引き起こすものが含まれる。従って、多くのヒト疾患のための治療法を提供すべく、様々な正常または異常タンパク質を身体から除去することが必要となる。疾病の病因となる血漿タンパク質には、サイトカイン、リポタンパク質、自己抗体、補体および凝固経路の成分や、モノクローナル免疫グロブリン軽鎖、トランスサイレチン、リゾチームおよびβ−ミクログロブリンを含むアミロイド形成タンパク質、特定の血清アミロイドAタンパク質(SAA)、特に急性期タンパク質、および血清アミロイドP成分(SAP)のようなペントラキシンが含まれる。様々な細胞により産生される全てのこれら様々なタンパク質は、種々の疾病で治療のために消失させるべき魅力的なターゲットである可能性がある。しかし、特定のタンパク質の循環系濃度を選択的に低下させる有効な方法はほとんどなく、利用可能かまたは企図されたこれらの方法は、複雑で実施困難であり、多くの極めて難しい問題を有する。
サイトカインは、広範な種々の細胞種により産生され、これら細胞種に作用するタンパク質ホルモンであり、宿主防御反応、免疫学的反応および炎症反応の極めて重要な介在物質であるが、いくつかの疾病では、これらが過剰生成されると、重篤な病状、罹患率、死亡率の原因となる。抗体および組換え結合タンパク質は、近年、1つの特定のサイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)を標的にするために用いられて成功を収めており、TNFの作用を遮断すれば、関節リウマチおよびクローン病に治療効果があるが、高レベルの他のサイトカインによる損傷を軽減する効果的な方法はほとんどない。
急性期血漿タンパク質など他の正常タンパク質の病原的な過剰産生は、根底にある原疾患の活性を抑制することにより軽減させることができ得る。しかし、治療可能な慢性感染の場合を除き、これは、通常、達成するのが極めて困難である。関節リウマチやクローン病のような慢性特発性炎症性疾患、または最も悪性度の高い新生物に対する治療法はない。これら疾患の治療およびその活性の抑制には、毒性の高い抗炎症性、細胞毒性および免疫抑制作用のある薬剤を含む療法が必要であり、多くの場合手術および/または放射線療法も必要である。
異常タンパク質の産生は、遺伝性のものであっても、他の原疾患の合併症としての後天性のものであっても、制御するのは極めて困難である。例えば、遺伝性全身性アミロイドーシスの各型の原因である異形トランスサイレチンや異形フィブリノーゲン分子は、肝臓移植によってのみ血漿から消失させることができる。病原性異形タンパク質により引き起こされる他の遺伝性疾患の多くは、このような方法は可能ではない。モノクローナル免疫グロブリン血症において見出される異常および病原性タンパク質の後天的産生は、強力な細胞毒性のある薬剤または骨髄移植でしか治療することができない。このような方法は、常に成功するとは限らず、全体的な疾病率、更には死亡率も50%上昇させる。
別の方法としては、血液を幾分選択性のある固相媒体上に通過させて標的タンパク質を除去する体外吸収によって、損傷タンパク質を除去するものがある。この方法は、家族性高コレステロール血症において、高濃度のアテローム生成促進低密度リポタンパクを除去するのに有用となり得る。また、これまでのところ成功していないが、2つの異なるアミロイド形成タンパク質、即ち、末期腎不全の長期血液透析患者のβ−ミクログロブリンと、家族性アミロイド多発ニューロパシーの患者の異形トランスサイレチンを除去することが試みられている。
特定のタンパク質が、インビボで特定のリガンド構造に結合することにより病原性作用を生じる場合には、可能性のある治療法としては、このような結合を阻害する薬剤を開発することにある。例えば、本発明者は、アミロイドーシスやアルツハイマー病の治療に対して、このような結合を阻止する低分子量分子を投与することによって、血清アミロイドP成分のアミロイド原繊維への病原性結合を標的にする方法を提案している(非特許文献1〜5)(特許文献1)。SAPが、カルボン酸塩やリン酸塩などの陰イオン基を有する特定のリガンドへ特異的に結合することは、公知である(非特許文献6〜10)。SAPとデオキシアデノシン一リン酸塩(dAMP)との複合体では、ホモ五量体SAP分子内の各プロトマーのカルシウム依存性結合部位内にdAMP分子が存在する(非特許文献10)。塩基が積み重なる結果、dAMP分子の各対間の水素結合によって、dAMPが装入されたSAP五量体の各対は向き合って組み合わされ、十量体タンパク質−リガンド複合体を形成する(非特許文献10)。
ホスホエタノールアミンやメチル 4,6-O-(1-カルボキシエチリデン)-β-D-ガラクトピラノシド(MOβDG)のような公知の低分子量リガンドであるSAPは、およそミリモルレベルというあまり大きくない親和力で結合しているのみである。これは、ほとんどの薬剤−タンパク質相互作用の典型的なナノモル親和力に比較すると小さく、このような化合物は、インビボにおけるリガンドへのSAPの病原性結合の阻害剤として有効である可能性が低いと考えられる。好ましくない血漿タンパク質群を標的にして除去する有効な方法を提供することが、依然として必要とされている。
米国特許第6,126,918号 Hind,C.R.K.,Collins,P.M.,Caspi,D.,Baltz,M.L.およびPepys,M.B.(1984年)「アミロイド沈着物の原繊維および非原繊維成分の特異的かつ化学的な分離」,ランセット(Lancet),ii:376〜378頁 Tennent,G.A.,Lovat,L.B.およびPepys,M.B.(1995年)「血清アミロイドP成分は、アルツハイマー病や全身性アミロイドーシスにおけるタンパク質分解を抑制する」,プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),92:4299〜4303頁 Pepys,M.B.,Tennent,G.A.,Booth,D.R.,Bellotti,V.,Lovat,L.B.,Tan,S.Y.,Persey,M.R.,Hutchinson,W.L.,Booth,S.E.,Madhoo,S.,Soutar,A.K.,Hawkins,P.N.,Van Zyl-Smit,R.,Campistol,J.M.,Fraser,P.E.,Radford,S.E.,Robinson,C.V.,Sunde,M.,Serpell,L.CおよびBlake,C.C.F.(1996年)「繊維素形成の分子的メカニズムおよび血清アミロイドP成分の防御的役割:治療のための2つの道筋」アミドイド繊維の性質と起源(Bock,G.R.およびGoode,J.A.,eds.),Wiley,Chichester(チバ基金シンポジウム199),73〜89頁 Pepys,M.B.,Booth,D.R.,Hutchinson,W.L.,Gallimore,J.R.,Collins,P.M.およびHohenester,E.(1997年)「アミロイドP成分。クリティカルレビュー」アミロイド:インターナショナル・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・クリニカル・アンド・インヴェスティゲーション(Amyloid: Int.J.Exp.Clin.Invest.),4:274〜295頁 Pepys,M.B.(1999年)「ラムールでの講義。C−反応性タンパク質とアミロイドーシス:タンパク質から薬剤へ?」ホライズン・イン・メディシン(In: Horizons in Medicine),Vol.10(Williams,G.,eds.),Royal College of Physicians,London,397〜414頁 Pepys,M.B.,Dash,A.C.,Munn,E.A.,Feinstein,A.,Skinner,M.,Cohen,A.S.,Gewurz,H.,Osmand,A.P.およびPainter,R.H.(1977年)「カルシウム依存性結合タンパク質としてのアミロイドP成分(タンパク質AP)の血漿からの単離」,ランセット(Lancet),i:1029〜1031頁 Pontet,M.,Engler,R.およびJayle,M.F.(1978年)「ヒトC−反応性タンパク質とCltのワンステップ調製」フェデレーション・オブ・ヨーロピアン・バイオロジカル・ソサイエティ・レター(Fed.Bur.Biol.Soc.Lett.),88:172〜178頁 Hind,C.R.K.,Collins,P.M.,Renn,D.,Cook,R.B.,Caspi,D.,Baltz,M.L.およびPepys,M.B.(1984年)「ガラクトースのピルビン酸アセタールに対する血清アミロイドP成分の特異的結合」ジャーナル・オブ・エクスペリマンタル・メディシン(J.Exp.Med.),159:1058〜1069頁 Emsley,J.,White,H.E.,O'Hara,B.P.,Oliva,G.,Srinivasan,N.,Tickle,I.J.,Blundell,T.L.,Pepys,M.B.およびWood,S.P.(1994年)「血清アミロイドP成分の構造」ネイチャー(Nature),367:338〜345頁 Hohenester,E.,Hutchinson,W.L.,Pepys,M.B.およびWood,S.P.(1997年)「結合性dAMPとヒト血清アミロイドP成分との10量体タンパク質複合体の結晶構造」ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),269,570〜578頁
そこで、本発明の第1の様態は、好ましくないタンパク質群を患者の血漿から除去するための薬剤であって、当該薬剤は、血清アミロイドP成分に存在するリガンド結合部位により結合され得る2つのリガンドを含むものであり、上記リガンドが複数の血清アミロイドP成分と共有結合的に結合することにより複合体が形成され、この複合体が患者の身体内で異常と認識されることにより該複合体が循環系から除去されて、血清アミロイドP成分が患者の血漿から除去されるものであり、当該薬剤が、式で表される化合物((R)-1-[6-[(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸)、或いはその薬事上許容される塩、またはそのモノ若しくはジエステルである薬剤を提供するものである。
Figure 0004472333
驚くべきことには、本発明の薬剤は、インビボでリガンド結合を阻害するだけでなく、循環系から標的タンパク質を急速に排除することによって、標的タンパク質を除去するのに劇的な効力があることが見出されている。本発明は、個々の標的タンパク質に特異的に結合され、次いで正常で極めて感受性の高い身体に、高次構造や集成に変化が生じた自己タンパク質を認識して破壊させる薬剤分子を、特定しおよび/または製造するための包括的な方法を提供する。
つまり、患者の血漿から好ましくないタンパク質群を除去するための組成物を調製するための非タンパク質薬剤であって、当該薬剤が、複数のタンパク質が存在すると当該タンパク質と共有結合的に結合して複合体を形成する複数のリガンドを含むものであり、当該リガンドの少なくとも2つは、同一または異なるものであり、且つ当該タンパク質に存在するリガンド結合部位により結合され得る非タンパク質性の薬剤が提供される。
各タンパク質の正常な生理学的役割は、適切な分子高次構造および/または集成により決定的に左右され、身体は、損傷を受けたり、凝集したり或いは誤って折り畳まれたタンパク質を検出して破壊する強力な機構を有する。本発明の目的は、特定タンパク質を速やかに除去して破壊することが必要である場合に、個々のタンパク質を特異的に標的とし、身体自体の生理学的機構により識別されるようにすることである。この作用を達成するために、本発明は、タンパク質を二量体や高次凝集体として凝集させる回文構造の薬剤を有利に用いる。
本発明に係る薬剤の正確な構造は、本発明の標的となる好ましくないタンパク質群の1つまたは複数のタンパク質によって決まることになる。好ましい実施形態において、好ましくないタンパク質群は、基本的には1つか或いは場合によってそれ以上のリガンド結合部位を有することになる単一のタンパク種からなる。多くのタンパク質には、その正常機能の一部として、特定の低分子量リガンドと結合する特異的な機能が備わっている。単一のタンパク種が単一のリガンド結合部位を有する単純な場合では、治療薬剤中の各リガンドが、そのリガンド結合部位に結合可能であるように選択されることになる。リガンドは、結合部位に結合されることが知られているリガンドや、X線結晶解析情報のような結合部位に関する入手可能な構造情報に基づいて当該部位に結合すると予想されるリガンド、或いはその構造的類似物から選択することができる。既知の低分子量リガンドがない標的タンパク質に対しては、適切な化合物は、化学物質ライブラリーの高速大量処理スクリーニングおよび/または構造に基づく分子設計により特定され得る。各個々のリガンド−タンパク質結合部位における相互作用の親和性は、リガンドが各標的タンパク質に特異的であるならば、特に高いものである必要はない。解離定数は、最大10ミリモルで十分とすることができる。しかしながら、解離定数は、好ましくは1ミリモル以下、更に好ましくは100マイクロモル未満、最も好ましくは10マイクロモル未満である。この親和性は、約マイクロモルまたはそれよりも大きいことが好ましい。マイクロモルレベルの親和性は、できるだけ親和性を高くすることが望ましいことは明らかであるものの、SAPの場合には十分であることが分っている。
本発明の薬剤では、複数のリガンドは、共有結合によりお互い直接に結合することができるが、リンカーによる共有結合によって連結することが好ましい。これによりリガンドは、十分に間隔を置いて分離することができ、その結果、1つのタンパク質が他の1つまたは複数のタンパク質の結合を阻害することなく、複数の標的タンパク質が薬剤に結合することができることとなる。リンカーの厳密な構造は、典型的には、反応基を含まないことが好ましいが、決定的ではない。リンカーは、任意にヘテロ原子で置換されてもよい1つまたはそれ以上の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の2価炭化水素基を含むものとしてよい。リンカーの鎖長は、2から20原子の範囲とすることができる。有用な鎖長と化学組成は、薬剤が複合体を形成するタンパク質に応じて、経験的に決定することができる。薬剤が2つのリガンドを有する場合には、リンカーは、典型的には直鎖状であり、好ましい一般構造は、リガンド−リンカー−リガンドである。この構造は、本出願の目的において、便宜的に「回文構造」と表す。3、4またはそれ以上の標的タンパク質が複合体を形成することができる場合には、適切な分枝鎖リンカーに3、4またはそれ以上のリガンドを含む構造も企図される。
別の実施形態では、薬剤中の少なくとも2つのリガンドが互いに異なるものであり、また、異なるタンパク質に結合可能なものとする。この実施形態では、好ましくないタンパク質群は、基本的に2つまたはそれ以上のタンパク種からなる。その結果、2つの異なる種類のタンパク質を、除去するべき標的にすることができる。SAPのように速やかに除去することが知られているタンパク質を用いて、SAPが結合できる1つのリガンドを有する上に、SAPとともに除去すべき別の標的タンパク質を標的にする第2の異なるリガンドも有する薬剤を設計することによって、別の標的タンパク質の除去を促進することも可能である。
標的タンパク質は、正常分子であってもよいし、異常な変異分子であってもよい。本発明に係る薬剤のリガンド結合部位は、サイトカイン、リポタンパク質、自己抗体、急性期タンパク質、アミロイド形成タンパク質または補体または凝集経路の成分由来のものとすることができる。リガンド結合部位が、急性期タンパク質由来のものである場合には、これは、SAAを含むことができる。
リガンド結合部位がアミロイド形成タンパク質由来のものである場合には、これは、モノクローナル免疫グロブリン軽鎖、β−ミクログロブリン、トランスサイレチンまたはリゾチームを含むことができる。
リガンド結合部位がリゾチーム由来のものである場合には、上記リガンドの少なくとも1つは、少なくともN-アセチルムラミン酸を含有する二糖類またはオリゴ糖類であって、当該N-アセチルムラミン酸が、C1原子を通じてN-アセチルグルコサミンなどのC4原子と結合しており、1,4βグリコシド結合のO原子が炭素またはO以外の原子で置換されたものを含む。
SAPの場合には、薬剤の種類の1つは上記の式のD−プロリンを含むものであり、好ましくは、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸、或いはその薬事上許容される塩またはモノ若しくはジエステルを含む。
この薬剤を用いて、ヒトまたは動物である患者の血漿から好ましくないタンパク質群を除去することができる。標的タンパク質に対する薬剤のモル比が適切であれば、薬剤はタンパク質分子の対に架橋して複合体を形成し、この複合体が身体内で異常として認識され、その後、速やかに除去および分解される。これにより、標的タンパク質が実質的或いは完全に除去され、治療上の利点が得られる。
本発明による薬剤を含み、任意に薬事上許容される賦形剤、希釈剤または担体を組み込んだ薬剤組成物を製剤化することができる。この薬剤組成物は、受容者により代謝された場合にのみ活性化する薬剤またはその誘導体を含むプロドラッグの形態であってもよい。このような薬剤組成物の成分の正確な性質および量は、経験的に決定することができ、1つには、組成物の投与経路によって決まることになる。受容者への投与経路には、経口、口腔、舌下、吸入、局所(眼病薬を含む)、肛門、腟、鼻および非経口(静脈内、動脈内、筋肉内、皮下および関節内を含む)が含まれる。利便性のため、本発明による投薬は経口的に投与することが好ましいが、これは、実際の薬剤やその生体利用効率によって決まることになる。典型的な投薬量は、経口または連続静脈注入または間歇的皮下注により、例えば(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を50〜500mg/日とする。
次に、単に例示の目的で以下の実施例および添付図面を参照して、本発明を更に詳細に説明する。
血清アミロイドP成分および(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸
インビトロでアミロイド原繊維への血清アミロイドP成分(SAP)の結合の阻害剤をスクリーニングして試験する方法を、F Hoffmann-La Roche Ltdと共同で考案して用い、薬剤開発に適切なリード分子を特定した。これに基づき、候補化合物のライブラリーをスクリーニングした。その後の共同医薬品化学プログラムにより、ジカルボン酸ファミリーを合成するに至った。この中で、最も研究したピロリドン環含有分子が、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸である。この分子と関連化合物(EP−A−0915088)は、インビトロでSAPがアミロイド原繊維に結合するのを適度に阻害する阻害剤であり、IC50値は約0.5〜1.0μMである。しかしながら、これらは全て、本来のリード化合物である単一のD−プロリン環およびカルボン酸塩のみを含む1-(3-メルカプト-2-メチル-1-オキソプロピル)-D-プロリンより強力な阻害剤である。
SAPは、5つの同一のプロトマーが非共有結合的に会合した五量体であり、各プロトマーは、その分子の平面の1つ、即ち結合(B)面に、単一のカルシウム依存性リガンド結合部位を備える(参考文献9)。カルシウムが存在しない場合には、ヒトSAPは、おそらく、A面−A面相互作用を介して、安定な十量体の二量体を形成する(参考文献11)。カルシウムが存在する場合には、遊離したヒトSAPは、SAP分子上のGlu残基の露出カルボン酸基に、別のSAP分子のカルシウム依存性リガンド結合部位が結合することにより分子格子が形成される結果、速やかに凝集して沈殿する(参考文献12、13)。斯かるSAPの自己凝集は、SAPが結合する他のリガンドにより阻害され、この点に関して、アミロイド原繊維へのSAP結合に対する全ての阻害剤は活性を有していた。しかし本発明者らは、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸とその関連化合物が、インビトロでアミロイド原繊維へのSAP結合阻害剤として強力であり、これが、SAP分子の対を架橋する能力によるものであることをここで示す。 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の回文構造は、個々のSAPプロトマーのリガンド結合部位をブロックするだけでなく、五量体SAP分子の対を架橋してB−Bが向き合う十量体、つまり五量体の二量体を形成することができる。遊離SAPと(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸とを、等モル濃度からSAPプロトマー(25,462Da)に対して薬剤(分子量340Da)を100倍過剰にしたモル濃度との間の比で混合した混合物のゲル濾過分析によって、全てのSAPが十量体であることが示される(表1)。しかし、128倍またはそれ以上の薬剤過剰のモル濃度では、各結合部位が、その後、異なる個々の(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸分子に占有されることにより架橋と二量体化が妨げられるため、全てのSAPは、その単一の五量体型に対応する容量で溶出する。
Figure 0004472333
C−反応性タンパク(CRP)は、SAPと密接な関係があるペントラキシンである。遊離純ヒトSAPまたはCRPの試料と(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸とを、ペントラキシンプロトマーに関してここに示す種々のモル比で、生理的イオン強度のトリス緩衝生理食塩水pH8.0中で混合し、サイズ排除クロマトグラフィーによって、先に記載したように正確に解析した(参考文献14)。混合物とカラム溶離液は、カルシウムイオンを含まないか2mMのカルシウムを含むかのいずれかであり、また、上に記載したモル比を維持するのに適切な濃度の薬剤を含む。結合できる特定のリガンドが存在しない場合には、精製ヒトSAPは、カルシウムが存在すると不溶性であり、カラムのボイドボリューム(void volume)に高分子量凝集体として溶出する(参考文献14)。しかし、カルシウムとリガンドとがいずれも存在しない場合には、遊離SAPのみで安定な十量体を形成し、この分子集合体の溶出量に対する優れたマーカーとなる(参考文献14)。ヒトCRPは、カルシウムの存在の有無に関わらず安定な五量体であり、このため、この分子形の溶出位置に対する強力なマーカーとなる(参考文献14)。
回文構造の(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸でその間を結合されることにより架橋された2つの未変性五量体のSAP分子の分子モデルは、以下の代表的な図(図1と図2)に示すように、カルシウム存在時のSAPと薬剤との複合物の三次元X線結晶構造により確認される。これらの所見は、SAP−dAMP複合体について発表された知見(参考文献10)およびクロマトグラフィー分析(表1)と合致する。
(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸のインビボでの実験的研究
本来のリード化合物である1-(3-メルカプト-2-メチル-1-オキソプロピル)-D-プロリンのインビボの研究によれば、この化合物が、マウスで実験的に誘発したアミロイド沈着物へのSAPの結合を阻害するとともに、沈着物へ既に結合しているSAPを解離することが示されている。(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の研究によれば、この化合物は、この点に関して、1-(3-メルカプト-2-メチル-1-オキソプロピル)-D-プロリンより活性が強いことが確認された。インビボでの(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の作用強度は、当初、インビトロでのIC50が小さいことに合致すると考えられていた。しかし、回文構造を有する薬剤の架橋能力により五量体SAP分子が集合して十量体となるが、この十量体は異常な分子立体配置を示すものであり、本発明によれば、インビボで識別されて速やかに循環系から除去されることになる。この薬物の作用によって、血漿からSAPが大量に除去されることとなり、アミロイド内のSAPは、血漿SAPプール由来であると同時にこれと平衡状態にあるため、斯かる薬物の作用は、アミロイド沈着物からのSAPの除去に対して決定的に貢献する。
(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、マウス体内では代謝されず、主として尿中に、少量は胆汁内に極めて速やかに排泄された。しかし、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を間欠的に腹腔内または皮下に注射しても、マウスで実験的に誘発したAAアミロイド沈着物内への放射線同位元素標識ヒトSAPトレーサーの取り込みが阻害された。(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を留置浸透圧ポンプにより5日間の連続注入で投与した場合には、アミロイド沈着物が予め装入された放射線同位元素標識SAPトレーサーと、沈着物中の内因性マウスSAPの全てを両方とも解離した(図3)。(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、50μg/kg/日でも、沈着物(図示せず)からヒトSAPを著しく解離させたが、内因性のマウスSAPを著しく解離させるためには1.5mg/kg/日が必要であり、15mg/kg/日までは、明らかな用量に応じた作用があり、この濃度では、全てのマウスSAPが除去された(図3)。5mgの(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を1回腹腔内注射すると、正常マウスでは放射線同位元素標識ヒトSAPトレーサーの血漿からの除去を促進したが、放射線同位元素標識マウスSAPの除去には、あまり効果がなかった(図3)。しかしながら、正常マウスに静脈注射する前に、放射線同位元素標識マウスまたはヒトSAPのいずれかをインビトロで(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸でプレインキュベートする場合には、両方のトレーサーは、極めて速やかに除去された(図3)。SAP−(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸複合体は、インビボでは明らかに異常であると認識され、循環系から素早く除去されるが、インビトロでは、ヒトSAP複合体に比較してマウスSAP複合体の形成および/または除去の効率は明らかに悪い。注目すべきことには、経口生体利用効率は極めて限定されているにも関わらず、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を飲用水に入れて、ヒトSAPの平均血漿値が約80mg/lであるヒトSAP遺伝子導入マウスに投与すると、循環するヒトSAPは速やかに除去された(図3)。ヒトSAP遺伝子導入動物は、循環系マウスSAPを有さないが、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を正常な野生種マウスへ経口投与、間欠注射または連続注入しても、その循環系SAPを除去しなかった。
ヒトアミロイドーシスにおける(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の臨床試験
全身性アミロイドーシスに罹患している8例の患者(7例がAL、1例がAA型)、軽微な局所的ALアミロイドーシスの患者が1例、アミロイド形成Ala60トランスサイレチン変異体のキャリアであるが無症状のアミロイドーシスを有す患者が1例に対して、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を48時間かけて静脈注入することにより投与した。全被検者で、循環系SAPが、劇的に、迅速に且つ一貫して除去された。ゆっくりと連続注入した最初の試験では、SAP濃度は、約2mgの(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸が投与された時点で低下し始めた。そこで、次の試験では、この量を最初から一度に注射した後、図4に示す速度で注入した。注入速度0.1mg/kg/日では、SAPの除去は遅く不完全であったが、0.25mg/kg/日またはこれ以上の速度から最大6mg/kg/日まででは、SAPは、アミロイドの負荷量に関わらず、注入の最後までにはほぼ完全に排除された(図4)。しかし、薬剤注入を中止すると、血漿SAP濃度は、アミロイドを僅かしかまたは全く有さない個人では正常値まで速やかに回復するが、有意にアミロイドーシスを示す患者では、この回復が目に見えて遅れた。極めて大量のアミロイドを有する1例の患者では、血漿SAP濃度は、注入後20日で初期値より25%低いままであった。SAPの一日生成量は約50〜100mg/日であるが(参考文献15)、その大部分は、血漿プールを満たすことができるようになる前にアミロイド沈着物内へ明らかに分配された。このことは、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、このように短時間で注入しても、実質的にアミロイド結合SAPを除去したことを示す極めて強力な間接証拠である。
SAPが臓器内のアミロイドから除去されたこと、および(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の作用機構の直接証拠は、トレーサーとして123I−SAPを用いた定量的全身シンチグラフィーにより得られた。各患者には、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の注入を開始する前に、標準量の123I−SAPを与え、治療直前に走査してベースライン画像とトレーサーのアミロイド沈着物への局在値を求めた。次に、各患者は、48時間注入の最後まで一定時間間隔で走査した。(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、シンチグラフィー画像でも、血清イムノアッセイによりモニターする血液試料のSAP除去の数値でも、全く同様に血漿からトレーサーを劇的に排除した。治療開始後6時間まで、また、その後においても、血液プール信号は事実上消失した(図5、図6)。また、肝臓内にはトレーサーが著しく蓄積することから、肝臓は、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸が循環系のSAPの排除を起こさせる部位として識別された。同時に、対照である未治療のアミロイドーシス患者の通常状態とは対照的に、他のアミロイド沈着物内、例として脾臓および腎臓では、保持されたトレーサーが目立って除去された(表2、図6)。
Figure 0004472333
全ての患者は全身性ALアミロイドーシスであり、時間ゼロの時点で123I−SAPの標準静脈内トレーサー量の投与を受けた。24時間後に全身の定量的シンチグラフィー撮像を行った後に、肝臓と脾臓内における取り込み量を各個人に対して100%とした。その後、薬剤である(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の静脈注射を開始し、48時間後に臓器計数でシンチグラフィーを繰り返した。対照群では、何ら処置を施さなかった。2つの群の有意差は、t−検定により求めた。
肝臓、詳細には肝細胞が、インビボでマウスとヒト両方のSAP除去および異化作用の唯一の有意な部位であることは、これまでにもマウスで実際に示されている(参考文献16)。更に、アシアロ−ヒトSAPは、肝細胞アシアロ糖タンパク質受容体を介してヒト肝臓により瞬間的に排除され、この過程は、123I−アシアロSAPを用いて撮像されている(参考文献17)。同様に、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、インビボでSAPの急速な肝取り込みを明らかに引き起こし、循環系のSAPを実質的に完全に除去する。これにより、組織から血漿へのSAPの再分配が促進され、アミロイド原繊維へのSAPの結合に対する競合的阻害剤である(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の作用を補い、その結果、SAPはアミロイド沈着物から効率よく除去されることになる。
(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸が、循環系のSAPを除去する作用強度は注目に値するものであり、血漿中においてSAP五量体に対する薬剤の濃度比が等モル濃度に近づくと、SAP値が低下する(図7)。インビトロのゲル濾過試験によれば、薬剤濃度を極めて低くしても十分にSAP二量体が形成される(表3)。その結果、五量体SAP分子の対の間で、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸分子によって架橋され、結晶構造(図1、図2)に示す十量集合体が形成されることになる。これは、明らかに、異常と認識される化学種であり、肝臓により速やかに排除される。
Figure 0004472333
SAPおよびCRPを含む正常ヒト全血清の単一プールの一定分量と、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸とを、ペントラキシンプロトマーに関して表中に示すモル比で混合し、先に記載したように(参考文献14)、サイズ排除クロマトグラフィーで正確に分析した。混合物およびカラム溶離剤は、カルシウム剤を含まないか2mMのカルシウムを含むかのいずれかであり、更に、上に示したモル比を維持するのに適切な濃度の薬剤を含んでいた。全血清中のSAPは、安定なプロトマーの可溶性五量集合体であり、正常な高濃度の血清アルブミンが存在することにより安定化されている。しかし、カルシウム含有溶離剤でゲル濾過する間にSAPが血清アルブミンから遊離されると、SAPは自己凝集し、カラムのボイドボリュームに高分子量ポリマーとして完全に溶出する。これは、結合することができる特定のリガンドが存在しない場合にカルシウムが存在すると、遊離ヒトSAPは不溶性になることによる(参考文献14)。しかし、カルシウムが存在しない場合には、リガンド結合も自己凝集も起こり得ないので、SAPは安定な十量体を形成して、この分子集合体溶出量の優れたマーカーとなる(参考文献14)。ヒトCRPは、カルシウムの存在の有無に関わらず安定な五量体であり、このため、この分子型の溶出位置の強固なマーカーとなる(参考文献14)。薬剤が等モル濃度の場合でも、SAPの一部は安定な薬剤−十量体複合体として可溶化され、薬剤が100倍モル過剰の場合には、全てのSAPがこの形であった。
(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、わずか0.25mg/kg/日を12時間ごとに分割した投与量で皮下注射した場合でも、血漿SAP(図8)に、薬剤を静脈注入するのと同様の作用強度を示すことを観察により確認した。
結論
(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸は、インビボで、SAPの特異的リガンド結合能力によって、特異的にSAPを標的にする。しかし本発明では、薬剤は回文構造を有することから、付加的に、未変性五量体SAP分子を凝集させて十量体薬剤SAP複合体にし、次に、この複合体は、肝臓により速やかに除去される。斯かる新規な作用は、SAPのアミロイド原繊維への結合阻害剤である(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を開発するときには意図しないものであり、求めたものでも予想したものでもなかった。この薬剤は、本発明で十分に説明された実施例化合物であり、SAPのアミロイド沈着物からの解離を劇的に促進し、この作用効果はアミロイドーシスの治療目的である。このように循環系の血漿タンパク質を標的にして薬理的に除去することは、これまでには公知とされていない新規の薬剤の作用機構であり、多くの異なるタンパク質や疾病過程に広く適用可能である。
トランスサイレチン
トランスサイレチン(TTR)は、以前にはプレアルブミンとして知られており、肝臓内や脳内の脈絡叢でも生成される正常な血漿タンパク質である。これは、血漿中の甲状腺ホルモン(チロキシンおよびトリヨードチロニン)とレチノール結合タンパク質(RBP)との両方を輸送する。これらは重要な生理的機能であると推定されるが、TTR遺伝子を欠失されることによりTTRの正常な増大と発生が全く欠如したマウスは、生殖機能を喪失せず、異常な表現型も示さない。これは、TTRによるRBPの輸送を必要とすることなく、レチノール(ビタミンA)は適切に供給されることが可能だからであり、甲状腺ホルモンに特異的に結合する別の血漿タンパク質であるチロキシン結合グロブリン(TBG)が存在するためであると考えられる。実際、TBGは、TTRより遥かに大きな親和性でチロキシンに結合し、ホルモンの有効性と機能を調節するのにより重要である。
正常な野生種TTRは、本来的にアミロイドを産生するものであり、死後検査によれば、年齢80歳を超えるほとんど全ての個体で、心臓、血管壁、脈絡叢等内にTTRアミロイドの微視的な沈着が認められる。被検者の何例かでは、沈着物は遥かに大量に存在し、老年性全身アミロイドーシスとして知られる状態である臨床的問題を生じる可能性もある。重要なことには、このヒトTTR遺伝子に、変異TTRタンパク質内の単一のアミノ酸置換をコードする60を超える突然変異が存在し、これによって、家族性アミロイド多発神経障害として知られる極めて重篤で一般に致死的な形態の常染色体優性の遺伝性全身性アミロイドーシスが引き起こされる。この状態は不定浸透性(variably penetrant)であるが、成人寿命の早期から中期に発現する場合には常に致死的であり、末梢および自律神経障害、心臓、腎臓、血管および眼球関連の種々の組み合わせにおいて容赦なく進行して、5〜15年以内で死に至る。世界中には、この疾病に罹患した人が数千人存在する。唯一の有効な治療法は、アミロイド形成変異血漿TTR源を正常な野生種TTR源と置き換える肝臓移植であり、この手術は、1991年にこの手法が導入されて以来、世界中で1000例以上行われている(参考文献18、19)。患者の病状があまり進行していなければ、病原性変異TTRが置換されると、治療効果によってアミロイドの沈着は停止し、存在する沈着物は消失する。しかし肝臓移植は、特に複数の臓器系でアミロイドにより損傷を受けている患者には、大掛かりで生命の危険を伴う手法であることは明らかであり、また、ドナー臓器の不足という解決できない問題がある。更に、満足できる結果が得られるのは、主に、最も一般的なアミロイド形成TTR変異体であるMet30Valを有する患者に限定されている。近年、TTR遺伝子の他のアミロイド形成突然変異体を有する患者では、肝臓移植しても、特に心臓のアミロイド沈着の進行が止まらず、血漿中に野生種のTTRのみが存在するにも関わらず、結果が不良のままであることが明らかになった。従って、新しい治療法が緊急に必要とされている。
このような方法の1つは、TTR分子の未変性折り畳み構造を安定化し、折り畳み構造が展開した後に再び折り畳まれ、アミロイド原線維形成の根底をなす病原性アミロイドクロス−β構造にならないようにするために、TTRが高い親和性をもって結合する薬剤を用いることである。この種の薬剤として用いるのに好適である低分子量分子が開発されており、これは、インビトロでは遊離TTRによりアミロイド原線維の形成を効果的に阻害する(参考文献20)。更に、このような化合物のいくつかは、遊離TTRだけでなく、全血漿環境内のTTRによっても高親和性で特異的に結合されることが示されている(参考文献21)。斯かる事実は、通常、一般的薬剤が複数の血漿タンパク質、特に全ての血漿タンパク質の57重量%を含むアルブミンにより結合されることが多いため、臨床的に重要である。また、特に、甲状腺ホルモンにより特異的に認識される結合ポケットにおいてTTRにより結合される薬剤は、TBGにも同様に結合される。
本発明によれば、インビボでTTRにより結合され、次に、TTR分子を架橋し、凝集させることによってこれらを標識して循環系から速やかに排除することができる回文構造の薬剤は、TTRを除去し、これによって、TTRアミロイドーシスを治療および防止するために好適に使用される。このような薬剤のリガンド頭部基は、以下に示すPuekeyら(参考文献21)の化合物9〜11とすることができる。これらを接合するリンカーは、上記で詳細に記載したSAP除去化合物である(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸で用いた一連のメチレン基や、適切な長さや他の特性を有する別の脂肪族および/または芳香族鎖とすることができる。
Figure 0004472333
Figure 0004472333
または、
Figure 0004472333
これらのリガンドにTTRが結合している場合には、カルボン酸基を支持する環は、TTR四量体内の空洞の奥深くに位置し、また、ハロゲン原子を支持する環はその周辺に位置し、リガンド−TTR複合体の表面に露出する。正しい結合またはリンカーの付着点は、好ましくは、ハロゲンまたはハロゲン含有置換基を支持する芳香環上の点である。本発明による化合物を形成するリンカーのより好ましい付着点は、ハロゲンが付いた2つの環炭素間にある環炭素、または上記の真ん中の例示化合物でカルボン酸基を支持する環から遠位の環炭素である。
リゾチーム
リゾチームは、動物、植物および下等生物に広く分布しているグリカナーゼ酵素(EC3.2.1.17)である。この酵素は、細菌のペプチドグリカンでは、N−アセチルムラミン酸のC−1とN−アセチルグルコサミンのC−4との間のグリコシド結合を特異的に切断することから、1,4-β-N-アセチルムラミダーゼである。ヒトリゾチームは、唾液、涙液および他の外分泌物から分泌され、マクロファージの主な分泌生成物であり、肝細胞や腸のパネート細胞からも生成される。ヒトリゾチームは、感受性の高い細菌の細胞壁を消化する能力により、宿主防御に寄与する可能性があるものの、その機能はよくわかっていない。また、リゾチームは、陽イオン性も高いので、陰イオン性のグリコサミングリカンと密接に結合して軟骨中に濃縮される。ヒトリゾチーム遺伝子に見られる第1の突然変異は、有効な治療法がない遺伝性全身性アミロイドーシスの形態に付随するものである(参考文献22)。変異リゾチーム分子は、その単一の残基置換により野生種のリゾチームより安定性が低下するため、アミロイドを形成する(参考文献23)。変異リゾチーム分子は、生理的状態で自発的に折り畳み構造が展開し、部分的に展開した状態となるが、これは、再び折り畳まれて凝集し、異常な病原性のあるアミロイドクロス−β原線維構造になる傾向が高い(参考文献23)。
本発明によれば、インビボでリゾチームにより結合され、次にリゾチーム分子を架橋して凝集させることにより標識し、循環系から速やかに排除させる回文構造の薬剤は、リゾチームを除去し、これによって、リゾチームアミロイドーシスを治療および防止するために用いるのに好適である。このような薬剤のリガンド頭部基は、立体化学的にリゾチームの基質と関連性を有するが、酵素により結合されて切断されることはない。例えば、少なくともN-アセチルムラミン酸を含有する二糖類またはオリゴ糖類であって、当該N-アセチルムラミン酸が、C1原子を通じてN-アセチルグルコサミンのC4原子と結合しており、1,4βグリコシド結合のO原子が炭素またはO以外の原子で置換された二糖類またはオリゴ糖類の類縁体は、リゾチームに結合されても加水分解されることはない。グリコシド結合の加水分解可能なO原子と置換されるフッ素や窒素などの重要なC原子上の適切な置換基によって、置換されるべきO原子が寄与する重要な水素結合を維持することが可能になる。リガンドに接合するリンカーは、(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸に用いたような一連のメチレン基とすることもでき、適切な長さおよび他の特性を有する別の脂肪族および/または芳香族鎖とすることもできる。リンカーの好ましい付着点は、あらゆるピラノース環の2位(N-アセチル)または6位(OH)であり、これらの位置は、オリゴ糖−リゾチーム複合体の外側に位置している。
β−ミクログロブリン
β−ミクログロブリンは、細胞表面に存在する全てのクラスI MHC分子と非共有結合的に相互作用するMr 11,815の単鎖タンパク質である。β−ミクログロブリンは、ヒトでは約200mg/日の割合で産生され、もっぱら腎臓で排除され異化される。従って、β−ミクログロブリンの血漿レベルは、腎不全の時には上昇し、血液透析も腹膜透析もβ−ミクログロブリンを排除するのに有効でない。透析を行っている末期腎不全の患者では、β−ミクログロブリンの血漿濃度は、正常値の約2mg/lに比較して50〜70mg/lに達し、透析を約5〜7年間行った後には、特に骨および関節周囲でのβ−ミクログロブリンアミロイド沈着に苦しむものが増える。この沈着によって、世界中の長期透析を行っている約100万人の患者では、罹患率と死亡率が高くなる。唯一の有効な治療法は、β−ミクログロブリンを効率的に除去するための唯一の可能な方法である腎臓移植であるが、移植は、ごく少数の末期腎不全患者にしか利用可能でない。
本発明によれば、インビボでβ−ミクログロブリンにより結合され、次にβ−ミクログロブリン分子を架橋して凝集させることにより標識し、循環系から速やかに排除する回文構造の薬剤は、β−ミクログロブリンを除去し、これによって、β−ミクログロブリンアミロイドーシスを治療および防止するために用いるのに好適である。妥当な親和力で結合するβ−ミクログロブリンに特異的なリガンドは、化学物質ライブラリーの高速大量処理スクリーニングにより特定することができる。β−ミクログロブリンの実質的な配列相同性および三次折り畳みは、免疫グロブリンの軽鎖と共通しており、その結晶構造は原子解析で知られていることから、合理的な分子デザインが可能且つ極めて容易になる。
一般的なアミロイド原線維の前駆タンパク質
アミロイド原線維の前駆タンパク質の供給をなくすことが可能なアミロイドーシスの全ての型では、新しいアミロイドの沈着が止まり、存在する沈着物が安定化または退縮することが臨床上の利益につながることは、十分に証明されている。これは、上の実施例に詳細に示されているが、アルツハイマー病、牛海綿状脳症および異形クロイツフェルトヤコブ病を含む感染性海綿状脳症、および2型成人発症型糖尿病に付随するものを含む全ての型のアミロイドーシスに適用される。
各特定のアミロイド原線維の前駆タンパク質に特異的な本発明に係る薬剤は、これらおよびアミロイド関連疾患全てに適用可能である。更に、本発明のヘテロ二機能性薬剤、即ち、そのリガンド頭部の一方はSAPが特異的に結合し、もう一方は標的となるアミロイド形成タンパク質を結合する薬剤は、特に有利である。これらの薬剤は、標的タンパク質自体を効率的に除去し、SAP凝集体に対して作用する強力な排除機構を行なうことによって効率的にこれを行い、更に、同時にSAP自体も消失させる。SAPはあらゆる型のアミロイドーシスの病原性に関与するため、アミロイド形成原線維タンパク質とSAPの両方を同時に除去することには、相乗的な治療効果がある。
自己抗体
身体の後天的免疫系は、本質的にどの分子に対しても、高特異性で高親和性な抗体を作る能力を有する。抗体形成を誘発する分子は抗原と呼ばれ、抗体が実際に認識して結合するサブ分子領域はエピトープと呼ばれる。通常、抗体は、主に体外からの異種抗原に反応して形成され、細菌感染や寄生感染に対する宿主防御に最も重要である。損傷した自己成分の排除に寄与する低度応答と、免疫調節に関与する他の応答以外には、免疫系は、身体自身の分子に対して寛容であり、これに対する自己抗体を産生しない。しかし、自己免疫疾患では寛容性が破壊され、自己成分に結合して、炎症、細胞死、および組織損傷を引き起こす異常な自己抗体が生成される。自己抗体の正確な特異性によって、また、臓器または組織特異性のある自己抗原に対して抗体が作られるか或いは臓器特異性がないかによって、多くの異なる型の自己免疫疾患が存在する。しかし、殆どの自己免疫疾患では、病原性自己抗体の特異性および自己抗原とその主要なエピトープの特徴は公知である。
本発明によれば、インビボで特定の病原性抗体に特異的に結合された後、この抗体を架橋して凝集させ、循環系から速やかに排除することができる回文構造の薬剤は、このような自己抗体を除去し、結果として自己免疫疾患の治療に用いるのに好適である。
本発明による治療に好適な病原性自己抗体およびこれにより引き起こされる疾患の例としては、全身性エリテマトーデス(SLE)および関連膠原病の抗DNA抗体;関節リウマチおよび関連特発性関節炎の抗免疫グロブリン抗体(リウマチ因子);SLEおよび関連膠原病の抗リン脂質抗体;内分泌器官、肝臓、腸、皮膚、筋肉、中枢および末梢神経系、眼、耳、心臓、血管、肺および他の内臓に影響を及ぼすものを含む全ての臓器特異的自己免疫疾患の全ての臓器特異的自己抗体;および赤血球、白血球および血小板および骨髄内のこれらの前駆体に影響を及ぼす全ての自己免疫疾患が含まれる。これらおよび他の全ての自己免疫疾患において、本発明は、リガンド頭部基として関連する特異的エピトープまたは各エピトープを含み、リンカータンパク質構造で接合された回文構造の薬剤分子を生成するために必要なものを提供するものである。
図の説明
図1 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸と複合体化したSAPの3次元X線結晶構造である。
5つの(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸分子で架橋された2つの五量体の円板状SAP分子(参考文献9,10)縁を示す側面図であり、各末端D−プロリン残基が、並置プロトマーのカルシウム依存性リガンド結合ポケット内にある。
図2 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸と複合体化したSAPの3次元X線結晶構造である。
異なるSAP分子の2つの並置プロトマーのカルシウム依存性リガンド結合ポケット内のリガンド結合残基と、その間にある(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の電子密度および/または分子構造の2つの詳細図である。
図3 インビボでのマウスのSAPに対する(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の効果を示す図である。
上パネル:反応性全身性AAアミロイドーシスを実験的に誘発させた、年齢、性別および体重が一致する10例のマウス群に、125IラベルヒトSAP一回投与量を第1日に与え、浸透圧性ミニポンプを移植して、図示した投与量で(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(図では便宜上「デサピン」と表す)を送達した。ヒトSAPトレーサーのアミロイド沈着物からの除去、異化および排泄は、マウスの全身計数により全体的に監視し(左)、アミロイド臓器内のマウスSAPの全量は、5日目に動物を殺した後に測定した(右)。
中央パネル、左:反応性全身性AAアミロイドーシスを実験的に誘発させた、年齢、性別および体重が一致する各10例のマウス4群に、125Iラベルした純ヒトまたはマウスSAPの静脈注射を時間ゼロの時点で行ない、次に、15分後および図示した別の時間で採血した。15分の採血直後に、2つの群、即ち、ヒトSAPを投与した群と他のマウスSAPを投与した群に、5mgの(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(デサピン)を1回静脈注射した。循環系に残るトレーサーは、各群に対して15分の時点での量の平均(SD)パーセントで表す。
中央パネル、右:反応性全身性AAアミロイドーシスを実験的に誘発させた、年齢、性別、および体重が一致する各10例のマウス群に、125Iラベルした純ヒトまたはマウスSAPの静脈注射を時間ゼロの時点で行ない、次に、15分後および図示した別の時間で採血した。それぞれマウスまたはヒトSAPを投与した各対の群の1つには、トレーサーを(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(デサピン)と混合し、インビトロでインキュベートしたものを、動物に注射した。循環系に残るトレーサーは、各群で、平均(SD)総放射能/グラム血液で表した。
下パネル:図示の濃度で飲料水に(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(デサピン)を混ぜたものを投与することによって、ヒトSAP遺伝子組み換えマウスでの循環系ヒトSAP値に及ぼされる効果を示すものである。体重が約20gのマウスは、一日に水を約3ml消費する。
図4 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を静脈注入することによって、全身性アミロイドーシスの患者の血漿SAP値に及ぼされる効果を示す図である。異なる型の全身性アミロイドーシスに罹患しており、種々のアミロイド負荷を示すの患者に、48時間、図示の薬剤量を投与した。循環系SAP値は、図示の時間における注入中と、その後に採取した試料に電気免疫測定(参考文献24)を行なうことにより測定した。各線は、異なる個々の患者を表す。
図5 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の注入開始前および開始後6時間での全身123I−SAPシンチグラフィーである。脾臓および腎臓に中程度のALアミロイド負荷がみられるこの患者では、薬剤投与前には、心臓と循環系に著しいトレーサーの血液プールという基礎環境があった。薬剤投与後6時間で、血液プールという基礎環境は完全に無くなり、インビボでSAPを異化する唯一の部位である肝臓(参考文献16、17)がトレーサーを取り込み、一方では、アミロイド性脾臓と腎臓からのSAP信号強度が著しく弱まる(臓器計数は示さず)。
図6 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸の注入開始前と、24時間後と48時間後における全身123I−SAPシンチグラフィーである。脾臓および腎臓に中程度のALアミロイド負荷がみられるこの患者では、薬剤投与前には、心臓と循環系に著しいトレーサーの血液プールという基礎環境があった。薬剤投与後24時間および48時間においては、血液プールという基礎環境は完全に無くなり、インビボでSAPを異化する唯一の部位である肝臓(参考文献16、17)がトレーサーを取り込み、膀胱信号により示されるように、異化生成物が尿中に排泄される。アミロイド性脾臓と腎臓からのSAP信号の強度は著しく弱まり、24時間後には、脾臓計数は時間ゼロの85%、腎臓は77%、48時間後には、脾臓54%、腎臓50%となる。
図7 48時間にわたる薬剤注入中における(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸およびSAPの血漿濃度である。
全身性アミロイドーシスおよび中程度アミロイド負荷の患者2例に、図示する一定の速度で(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(デサピン)を静脈注入により与えた。循環系SAP濃度は、ほぼ投与直後から低下し始め、薬剤とSAPプロトマーの濃度が等モルになった時点では半減した。
図8 (R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸を皮下注射することによて、循環系SAP値および内蔵臓器による123I−SAPトレーサーの保持に及ぼされる効果を示す図である。
全身性アミロイドーシスを有し、それぞれ低度および中程度アミロイド負荷の患者に、図示した投与量で(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(デサピン)を12時間毎に皮下注射することにより投与した。循環系SAPの消失は、薬剤を静脈注入している間の効果と同程度であり、右側のパネルに示す123I−SAPのトレーサー投与量を受けた患者では、肝臓にSAPが蓄積し、脾臓からの除去が加速した。
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本発明の薬剤と複合体化したSAPの3次元X線結晶構造を示す図である。 図1の詳細図である。 図1の一部の別の詳細図である。 インビボでのマウスSAPに及ぼす本発明の薬剤の効果を示す図である。 全身性アミロイドーシスの患者の血漿SAP値に及ぼす本発明に係る薬剤注入の効果を示す図である。 図4-1の続きである。 123I−SAPシンチグラフィーを用いた6時間以上にわたる薬剤の効果を示す図である。 123I−SAPシンチグラフィーを用いた最大48時間の薬剤の効果を示す図である。 静脈注入中における薬剤の血漿濃度、およびSAPに及ぼす効果を示す図である。 全身性アミロイドーシスの患者に薬剤を皮下注射した場合の効果を示す図である。

Claims (5)

  1. 好ましくないタンパク質群を患者の血漿から除去するための薬剤であって、
    当該薬剤は、血清アミロイドP成分に存在するリガンド結合部位により結合され得る2つのリガンドを含むものであり、
    上記リガンドが複数の血清アミロイドP成分と共有結合的に結合することにより複合体が形成され、この複合体が患者の身体内で異常と認識されることにより該複合体が循環系から除去されて、血清アミロイドP成分が患者の血漿から除去されるものであり、
    当該薬剤が、式で表される化合物((R)-1-[6-[(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸)、或いはその薬事上許容される塩、またはそのモノ若しくはジエステルである薬剤。
    Figure 0004472333
  2. 上記複合体が、血清アミロイドP成分の五量体の対が薬剤分子によって架橋された血清アミロイドP成分の十量体を含むものである請求項1に記載の薬剤。
  3. 薬剤の患者への投与経路が、経口、静脈注入又は皮下注射であり、投与量が、50〜500mg/日であるように用いられる請求項1又は2に記載の薬剤
  4. 薬剤の患者への投与経路が、静脈注入であり、投与量が、0.1〜6mg/kg/日であるように用いられる請求項1又は2に記載の薬剤
  5. 薬剤の患者への投与経路が、静脈注入であり、投与量が、0.25〜6mg/kg/日であるように用いられる請求項1又は2に記載の薬剤
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