JP4464056B2 - 発毛促進用複合材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、毛再生の足場として有用な発毛促進用複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体組織工学では、細胞に組織の再生誘導のための環境(場)を構築することが大切である。この場の構築に必要な細胞の増殖および分化のための足場は種々の高分子材料から作製されている。また、これらの足場材料は、種々の細胞の培養基材としても利用できる。この足場材料の条件としては、1)細胞との親和性を有すること、2)生体組織の再生誘導に要する期間、十分な力学的強度が保持できること、3)生体分解吸収性を有し、組織再生の経過を妨げないように再生の進行に応じて速やかに分解消失させうること、4)細胞が入り易く、かつ入り込んだ細胞に対する酸素や栄養の供給を可能にするために多孔質であること、などが要求される。足場材料としては、コラーゲン(細胞外マトリクスの主要成分)が細胞に対する親和性が特に優れているため、これをスポンジ状に加工したものが広く用いられている。
【0003】
しかし、コラーゲンスポンジは、細胞培養液あるいは体液などが触れたり浸漬されると強度が低下し、長期間マトリクス状の形状を維持することができないことがこれまで欠点となっていた。そこで、このコラーゲンスポンジの持つ力学的強度の問題を解決するために、コラーゲンスポンジを生体吸収性プラスチックで被覆した複合材料(特開平7−236688)や、生体吸収性材料からなる骨格用高分子材料をスポンジ状等に成形し、その内部にコラーゲンなどのゲルを含ませた医用材料(特開2001−204807)等が提案されている。しかし、これらの複合材料は、細胞がコラーゲンに直接接触できないこと、その材料の分解が遅いことなどの短所があり、生体組織の有効な再生誘導の足場としては改良が必要であった。また、細胞との親和性が十分に高くないため、毛再生の足場材料として満足のいく性能が得られなかった。
【0004】
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−236688
【特許文献2】
特開2001−204807
【非特許文献1】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、細胞との親和性に優れ、かつ機械的強度が改良された発毛促進用複合材料を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、繊維状の生体分解吸収性高分子を含有するスポンジ状の生体分解吸収性高分子からなる、発毛促進用複合材料を提供する。好ましくは、スポンジ状の生体分解吸収性高分子はコラーゲンスポンジである。本発明の複合材料は、従来のコラーゲンスポンジよりも、細胞浮遊液を加えた時に構造を保持する能力が高いため、発毛などの再生医療における細胞培養および生体組織工学のための足場材料として優れている。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の複合材料は、繊維状の生体分解吸収性高分子を含有するスポンジ状の生体分解吸収性高分子からなることを特徴とする。
【0008】
本発明において用いるスポンジ状の生体分解吸収性高分子としては、スポンジ状に成形された、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、グルテン、フィブロイン等のタンパク質およびこれらの誘導体;ポリアミノ酸およびこれらの誘導体;キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デンプン、デキストラン等の多糖類およびこれらの誘導体;これらの2種以上からなる混合物および複合体等が挙げられる。さらに、天然高分子と合成高分子との複合体も本発明において好ましく用いられる。
【0009】
スポンジ状とは、細胞の増殖に適した空間を提供することができる多孔質の形状であることを意味する。
【0010】
本発明の特に好ましい形態においては、スポンジ状の生体分解吸収性高分子はコラーゲンである。本発明において用いるのに好ましいコラーゲンとしては、特に制限はなく、動物の骨や皮等を原料として得られる公知の酸可溶化コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン、またはこれら可溶化コラーゲンの化学修飾コラーゲンや、可溶化コラーゲンからコラーゲン繊維を再生させた再生コラーゲン等のコラーゲン溶液を用いることができる。具体的には、例えば、豚皮由来I型コラーゲン、豚腱由来I型コラーゲン、牛鼻軟骨由来II型コラーゲン、魚から抽出したI型コラーゲン等が挙げられる。あるいは、コラーゲンは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよく、化学合成により製造されるものであってもよい。
【0011】
生分解性高分子としては、好ましくはゼラチンが用いられる。ゼラチンは、牛、豚、魚類などを始めとする各種の動物種の皮膚、骨、腱などの身体のあらゆる部位から採取できるコラーゲン、あるいはコラーゲンとして用いられている物質から、アルカリ加水分解、酸加水分解、および酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。遺伝子組換え型コラーゲンの変性体ゼラチンを用いてもよい。
コラーゲン溶液の濃度としては、特に制限はないが、0.1−4重量%とすることが好ましく、0.3−2重量%とすることがより好ましい。
【0012】
コラーゲンスポンジはコラーゲン溶液を凍結乾燥することにより容易に形成することができる。スポンジ孔径を変えるためには、凍結温度を変化させるなどの公知の技術を利用することもできる。また、コラーゲンスポンジの孔径を最適な範囲にする目的で、コラーゲン溶液に水と混合しない性質をもつ有機溶媒を添加して凍結乾燥してもよい。このような有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;等が挙げられ、これらは1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、コラーゲン溶液に各種の添加剤を加える方法や、凍結乾燥する前にコラーゲン溶液を泡立てる方法等も知られている。
【0013】
本発明において用いる繊維状の生体分解吸収性高分子としては、生体分解吸収性を有する天然または合成の高分子を用いることができ、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ−β−リンゴ酸、ポリオルソエステル、ポリジアミノホスファゼンおよびこれらの共重合体等が挙げられる。これらの中でも特に、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン、あるいはこれらの共重合体が好ましい。生体分解吸収性高分子は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明にしたがって、スポンジ状の生体分解吸収性高分子に繊維状の生体分解吸収性高分子を含有させることにより、優れた細胞との親和性を保持すると同時に、十分な力学的強度を得ることができる。繊維は長繊維であっても短繊維であってもよく、不織布を適宜ほぐしたものであってもよい。繊維の径は、特に限定されないが、1−100μm径のものを好ましく用いることができる。繊維状生体分解吸収性高分子の含有量は、繊維状生体分解吸収性高分子/スポンジ状生体分解吸収性高分子の重量比が0.2−10.0となるようにすることが好ましい。前記スポンジ状の生体分解吸収性高分子としてコラーゲンを用いる場合、繊維状生体分解吸収性高分子は前記コラーゲン溶液(前記有機溶媒、各種添加剤の添加前)に対して0.01−10重量%とすることが好ましく、0.4−1重量%とすることがより好ましい。
【0015】
繊維状の生体分解吸収性高分子を含有するスポンジ状の生体分解吸収性高分子は、凍結乾燥させた後、架橋処理を施すことにより、さらに力学的強度を高めることができる。架橋の程度を調節することにより、スポンジ状の生体分解吸収性高分子の生分解の速度を制御することができる。架橋処理の方法には、特に制限はなく、例えば、化学架橋法、真空下での熱脱水架橋法、紫外線、ガンマ線、電子線等の照射による架橋法を用いることができる。また、これらの方法を組み合わせて用いることもできる。例えば、化学架橋を行う場合には、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、カルボニルイミダゾール、ジエポキシ化合物、ジ酸無水物、エピクロルヒドリン等の架橋剤を用いることができる。真空下で熱脱水架橋させる場合には、例えば、架橋温度100−170℃で2−120時間行うことができる。
【0016】
このようにして得られる本発明の発毛促進用複合材料は、生体分解吸収性高分子からなる架橋された多孔性スポンジの中に、繊維状の生体分解吸収性高分子がランダムに埋入された構造を有している。すなわち、スポンジ実質は細胞親和性の高いコラーゲンであり、それを力学的に補強するために繊維が組み込まれている。このため、細胞との親和性に優れ、皮膚組織の再生および発毛に必要な期間十分な力学的強度を保持するスポンジが得られる。さらに、このスポンジは、発毛促進に負の効果を与えることなく、時間とともに生体内で分解吸収されることができる。したがって、発毛の足場材料として有用である。
【0017】
以下の実施例に示されるように、本発明の発毛促進用複合材料と従来のコラーゲンスポンジとを用いて発毛実験を行ったところ、従来のコラーゲンスポンジでは、表皮嚢胞および異所性毛がしばしば形成され、正常な毛再生が妨害されるのに対し、ポリグリコール酸(PGA)繊維で補強したコラーゲンスポンジを用いた場合には、移植部位において正常な毛成長が認められ、発毛本数も有意に多かった。これは、コラーゲンは機械的強度が高くないため、孔構造サイズが縮小し、細胞の移動を阻害するとともに細胞懸濁液の漏洩が生じ、このことにより表皮嚢胞および異所性毛形成が生ずるためであると考えられる。これに対し、本発明にしたがってPGA繊維を取り込ませたコラーゲンスポンジは、機械的に補強されるため、細胞播種の際にスポンジ中の孔構造のサイズを維持することができる。このため、異所性毛形成はほとんど観察されず、表皮嚢包の形成が抑制され、毛包が正常に再生することができる場を与えることができたと考えられる。したがって、本発明の発毛促進用複合材料は、発毛等の再生医療において足場材料として有用である。
【0018】
【実施例】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
培養細胞の調製
C57BL/6Jマウスおよび無胸腺ヌードマウスBALA/cAJcl−nuはクレアジャパン社から購入した。妊娠16−17日のC57BL/6Jマウスの子宮から胎児マウスを取り出し、ダルベッコリン酸緩衝化食塩水(PBS:Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)中で洗浄した。この時点で胎児マウスから単離した皮膚細胞は、毛再生アッセイにおいて毛包を形成する能力を保持している。胎児の背中皮膚をハサミで採取し、摂子で皮膚を皮下組織から分離した。皮膚は0.05%コラゲナーゼIVを加えたKGM−2(クロネティック社より購入)中で4℃で16時間おいた後、表皮と真皮に分離した。表皮はKGM−2中で、真皮はインスリン、表皮細胞増殖因子、牛脳下垂体抽出液を添加しないKGM−2中で、それぞれピペティングにより細胞を解離させた。解離させた細胞をそれぞれ70μmのナイロンフィルターを通して濾過し、細胞数を測定した。表皮と真皮より得られた細胞を合わせて約1x107個となるように調製し、1000rpmで5分間遠心分離して、約60μlのKGM−2による浮遊液とした。細胞は使用するまで氷上に保存した。
【0019】
コラーゲンスポンジの調製
PGA繊維を有するものと有しないものとの2種類のコラーゲンスポンジを調製した。3mg/mlのコラーゲン溶液(新田ゼラチン社製)を直径20μmのポリグリコール酸(PGA)繊維(グンゼ社製)が配置された鋳型の中に流し込み、次に凍結乾燥して、乾燥重量比でPGA繊維1.33wt%/コラーゲンのポリグリコール酸繊維含有コラーゲンスポンジ(PGA(+))を得た。これを140℃で12時間熱脱水架橋した。PGA繊維を含まないコラーゲンスポンジは、コラーゲン溶液のみを用いて同様に調製した(PGA(−))。次に、これらのコラーゲンスポンジをガス滅菌した。ポリグリコール酸繊維含有コラーゲンスポンジはコラーゲンスポンジと比べて若干疎水性であるため、使用直前に70%エタノールで1度洗浄し、リン酸緩衝液(PBS)とKGM−2で1回ずつ洗浄した。
【0020】
シリコンチェンバーの挿入
無胸腺ヌードマウス(BALA/cAJcl−nu)の背面に滅菌シリコンチャンバを移植して、隣接皮膚からの細胞の移動を防止した(図1)。8週齢の無胸腺ヌードマウス(BALA/cA Jcl−nu 日本クレアより購入)に対し、体重1g当たり0.02mlの13%ペントバルビタール(大日本製薬)を腹膜腔内に注射して麻酔した後、背中に筋膜直上までの直径1cmの傷を作製した。上下1対のシリコンチェンバーのうち、下方用を皮膚と胸壁の間に挿入し、ナイロン糸で縫合し、固定した。次に、直径1cm、厚さ3mmのコラーゲンスポンジをチェンバー内に装着し、先に調製した細胞浮遊液をスポンジの上に均一に滴下した。培養液の乾燥を防ぐために上方用のチェンバーをかぶせた。移植の1週間後に上方用のチェンバーを取り除き、10−12日後に下方用のチェンバーを取り除いた。
【0021】
移植後最初の10日間は毎日、その後は1日おきに3−4週間まで、移植片を観察した。3−4週経過した後、発毛した毛をすべて剃毛して本数を計測した。発毛した面積も計測して、発毛の密度を比較した(各群につき3匹ずつ)。発毛した皮膚を組織学的に検討するために10%ホルマリン液(和光純薬)中に室温で2時間放置し、パラフィン包埋を行い、8μmの厚さの切片を作製して、ヘマトキシリン&エオジン染色を行った。
【0022】
移植部位の肉眼的観察所見
コラーゲンPGA(−)スポンジおよびPGA(+)スポンジが毛の形成に及ぼす影響を調べるために、通常は毛再生が完了する3−4週間まで、移植部位の外観を観察した。PGA(−)スポンジの移植皮膚においては、1週間以内に毛包が観察された。しかし、図2Aおよび2Bに示されるように、毛の成長は遅く、まばらであった。固定した移植部位のサイズは、元のスポンジのサイズを越えて広がっていた(図2A)。さらに、異所性毛成長が移植部位のまわりの皮膚の下で肉眼で見られた(図2C)。
【0023】
これに対し、移植片をPGA(+)スポンジ上に適用した場合,毛の形成は、PGA(−)スポンジよりやや遅く移植の10−12日後に誘導された。しかし、PGA(+)スポンジ上の毛は、PGA(−)スポンジ上の毛と比較して、非常に太く、一様に正常に成長していた(図2Cおよび2D)。PGA(+)スポンジ上の移植部位のサイズおよび形状は、元のスポンジのサイズから変化しなかった。異所性毛成長はほとんど認められなかった(図2E)。
【0024】
各移植片上の毛密度を定量的に分析したところ、PGA(−)およびPGA(+)スポンジ上の平均毛成長密度は、それぞれ300および2500本/cm2であった(図4)。このことは、毛成長にはPGA(+)スポンジがより有利であることを示す。
【0025】
組織学的所見
次に,移植片を組織学的に調べた。皮膚の基本構造,すなわち、表皮および真皮は再生されていたが,PGA(−)スポンジのすべての移植部位は真皮中に表皮嚢胞を含み、皮下で異所性毛形成が認められた(図3A、図5)。毛が皮膚の外に生えた場合であっても、配列はやや乱れていた。場合によっては、正常な毛形成が完全に妨害されるほど多くの表皮嚢胞が形成された(図3B)。PGA(+)スポンジの場合には,表皮嚢胞はほとんど観察されず、異所性毛形成はPGA(−)の場合よりはるかに少なかった(図3Cおよび3D)。さらに、PGA(+)スポンジ上では,毛配列は規則正しく頭から尾に傾斜して配列していた。皮脂腺は正常に生成していた。すなわち,このアッセイにおいて、PGA(+)コラーゲンスポンジは足場として正常な毛形成および生長を妨害しなかった。
【0026】
以上の結果から、慣用のコラーゲンスポンジでは、表皮嚢胞および異所性毛がしばしば形成され、正常な毛再生が妨害されるのに対し、PGA繊維で補強した本発明のコラーゲンスポンジを用いた場合には、前述のような現象は認められず、移植部位において正常な毛成長が認められることが示された。また、移植部位のサイズ変化も見られず、細胞親和性および力学特性ともに優れた毛再生のための足場材料であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、毛再生実験において用いたチャンバーの図解である。
【図2】 図2は、移植片上の発毛を示す。
【図3】 図3は、移植片の切片のヘマトキシリンおよびエオジン染色を示す。
【図4】 図4は、移植部位における発毛密度を示すグラフである。
【図5】 図5は、移植部位において生成した表皮嚢胞の数を示すグラフである。
Claims (1)
- 繊維状のポリグリコール酸を含有するコラーゲンスポンジからなる、発毛促進用複合材料。
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