以下、本発明の実施の形態に係る磁場発生用コイルを説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態を図1〜図16に基づき説明する。
第1の実施形態では、磁場発生用コイルユニットとしてMRI装置の能動(自己)遮蔽型傾斜磁場コイル(ASGC:Actively Shielded Gradient Coil)のユニットのZチャンネル(Zコイル)を例示する。なお、本発明はASGCのXチャンネル(Xコイル)、Yチャンネル(Yコイル)にも同様に実施できるものであり、また静磁場コイルおよび静磁場補正(シム)コイルなどにも好適に実施できる。
また本発明の磁場発生用コイルユニットは円筒型や対向型、またサーフェイス型、オープン型と言ったコイルの形状や磁場発生方式に無関係に実施できる。
図1にMRI装置のガントリ1の概略断面を示す。このガントリ1はその全体が円筒状に形成されており、中心部のボアが診断用空間として機能し、診断時にはそのボア内に被検体Pが挿入可能になっている。
ガントリ1は、略円筒状の静磁場コイルユニット11、このコイルユニット11のボア内に配置された略円筒状の傾斜磁場コイルユニット12、このユニット12の例えば外周面に取り付けられたシムコイルユニット13、および傾斜磁場コイルユニット12のボア内に配置されたRFコイル14を備える。被検体Pは図示しない寝台天板に載せられて、RFコイル14が形成するボア(診断用空間)内に遊挿される。
静磁場コイルユニット11は超伝導磁石で形成されている。つまり、外側の真空容器の中に、複数個の熱輻射シールド容器および単独の液体ヘリウム容器が収められ、液体ヘリウム容器の内部に超伝導コイルが巻装・設置されている。
傾斜磁場コイルユニット12は、ここではアクティブシールド(能動遮蔽)型に形成されている。このコイルユニット12はX軸方向、Y軸方向、Z軸方向毎にパルス状の傾斜磁場を発生させるため、X,Y,Zチャンネル別々にコイルアセンブリを有し、しかも、そのコイルアセンブリはチャンネル毎に傾斜磁場を外界に殆ど洩らさないシールド構造になっている。
また、このMRI装置は図1に示す如く、静磁場コイルユニット11に電力を供給する静磁場電源51、傾斜磁場コイルユニット12に電流を供給する傾斜磁場電源52、RFコイル14にRF信号を送信するとともにRFコイル14で検出したMR信号を受ける送受信器53、ならびに、傾斜磁場電源および送受信器の動作を所望のシーケンスに基づき制御するシーケンサ54を備える。さらに、システム全体を制御するコントローラ55、および、MR信号からMR画像を再構成するユニット56が備えられるほか、モニタ57、メモリ58、および入力器59が備えられている。
この能動遮蔽型傾斜磁場コイル(ASGC)ユニット12は図2に示すように、X,Y,ZチャンネルのXコイルアセンブリ12X,Yコイルアセンブリ12Y,Zコイルアセンブリ12Zがコイル層毎に絶縁されながら積層され、全体として略円筒状を成している。Xコイルアセンブリ12X,Yコイルアセンブリ12YおよびZコイルアセンブリ12Zの各々は、メインコイルおよびシールドコイルを有する。このメインコイルおよびシールドコイルのそれぞれは、複数のコイルセグメントを備えている。これにより、各コイルアセンブリは、各軸方向の傾斜磁場を発生するとともに、その傾斜磁場を磁気的に外界に殆ど洩らさない構造になっている。
最初に、ZチャンネルのZコイルアセンブリ12Zを図3および図4に基づき説明する。このZコイルアセンブリ12Zは図3および図4に示すように、同心筒状に配置され且つ内径が異なる2つのボビンB1,B2と、このボビンB1,B2夫々に一層巻きで対を成すように巻装された、コイルセグメント12Z−1,12Z−2を有するメインコイル12ZM、および、コイルセグメント12Z−3,12Z−4を有するシールドコイル12ZSとを備える。シールドコイル12ZSのアセンブリは、メインコイル12ZMのアセンブリよりもボビン径が大きく、シールドコイルがメインコイルの外周側を覆うように設けられている。対を成すメインコイルのコイルセグメント12Z−1および12Z−2についてはパルス電流が互いに反対向きに流れるように巻装され、且つ、別の対を成すシールドコイルのコイルセグメント12Z−3および12Z−4についてはパルス電流が互いに反対向きに流れるように巻装される。また、径方向において対向するメインコイル、シールドコイルについては、一方の組を成すコイルセグメント12Z−1およびコイルセグメント12Z−3間で電流の向きが互いに反対であり、他方の組を成すコイルセグメント12Z−2およびコイルセグメント12Z−4間で電流の向きが互いに反対になっている。
このZコイルアセンブリ12Z全体の電気的な等価回路を図5に示す。2つのコイルセグメント12Z−1,12Z−2(メインコイル)と、2つのコイルセグメント12Z−3,12Z−4(シールドコイル)とが直列に接続される。単一の傾斜磁場電源17から一括して所望電流値Iが供給されるようになっている。電源17には波形整形器18が接続されている。波形整形器18は、図示しないシーケンサから指令される傾斜磁場Zチャンネルの波形データを受け、このデータに対応した波形制御信号を電源17に出力する。これにより電源はシーケンサが意図したZチャンネルの傾斜磁場を生成するためのパルス電流Iを直列接続されたコイルセグメント群に出力する。
メインコイル12ZMは、従来周知の手法(例えば、特開昭62−143012号参照)によってボビンB1上のZ軸方向の巻線位置が決められ、その位置を順守してソレノイド状に巻装される。(ただし、このメインコイル12Z−1および12Z−2に、後述する本発明の巻線方法を適用することもできる。)これに対してシールドコイル12ZSは本実施形態では以下のように、その巻線位置が決められる。
まず、空間的に線形なZ軸方向の傾斜磁場特性Bzが例えば図6に示すように解析的に決められる。この特性を満足させるシールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4の理想的な電流密度関数[A/m]とZ軸方向の位置との関係が従来周知の演算により求められる。この理想的な電流密度関数の例を図7に示す。
次いで、この理想電流密度関数をZ軸方向の位置について積分し、理想的な流線関数を求める。求められた理想流線関数の一例を図8(a)に示す。
次いで、求められた理想流線関数を使ってシールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4の巻線位置を割り出す。つまり、この段階で、解析的に求められた連続電流分布が巻き線という物理的な不連続な電流分布に置き換えられる(離散化)。
この巻線位置は、以下のようにして決められる。メインコイルのコイルセグメント12Z−1,12Z−2に流す電流Ic、その総巻数をNcとし、シールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4に流す電流をIs(=Ic),その総巻数をNsとすると、電流ステップ値をI(=Ic=Is)として、ボビンB2の軸方向の両端部のそれぞれからその中心部に向かって巻線位置が決められる。
最初に、両端部のそれぞれにおいて、ボビンB2上の端部所定位置−Z1,Z1が指定される。この指定位置−Z1,Z1のそれぞれにて図8(b)に示す如く1ターンが巻線されるから、電流ステップ値Iの分だけ流線関数が立ち上がる(同図(a)参照)。この指定位置−Z1,Z1は例えば、電流Iと巻数Nの積を表わす縦軸の電流値=I/2となる位置が望ましい。以下同様に、縦軸の電流値=3I/2,5I/2,7I/2となる位置を順次指定して巻線位置−Z2,−Z3,−Z4およびZ2,Z3,Z4を決める。
このように巻線位置を両端部のそれぞれから中心部に向かって順次決めていくことで、両端部のそれぞれでは理想流線関数曲線の裾の拡り具合に応じた所望の巻線位置を指定できる。このため、シールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4のボビン軸方向両端部からの漏れ磁場は少なくなり、MR画像の画質劣化も少なくなる。また余り電流は中心部に寄せられ、しかも両サイドで互いに逆向きの余り電流である。このため、余り電流が担っている有効磁場成分が極力少なくなり、中心部からの漏れ磁場も少なくなる。従来のコイル設計法に基づく巻線位置でかつIc=Isのときと比べて、この実施例による漏れ磁場は1/2.6もの改善度となる。
また、この巻装方法によれば、補正抵抗をシールドコイルに並列に挿入してシールドコイルの電流を調整する必要もない。補正抵抗を入れる場合、コイルの温度上昇に因ってコイルの抵抗値が変動し、補正抵抗による所望の分流割合が変化してしまう。これは所望のシールド条件からの変化をもたらし、結局、漏れ磁場に因る渦電流の増大を引き起こす。しかるに、このような補正方法は回避することが必要で、本実施形態の巻装方法によれば、このようなシステムの不安定要因を排除でき、安定したシールド効果を得ることができる。
ここで、本実施形態のコイル巻装方法を傾斜磁場コイルのZコイルアセンブリに実施したときの漏れ磁場による渦電流のシミュレーション結果を示す。
図9及び図10は共に、本発明者が行ったシミュレーションに係るASGC型の傾斜磁場コイルユニットのZチャンネルの理想流線関数(積分された電流密度関数)の曲線を示す。図9の方はメインコイルの流線関数の曲線であり、図10の方はシールドコイルの流線関数の曲線である。両方とも例えば前述した“J.W. Carlson et al”に依る演算法により理論的に求められる。つまり、流線関数がこのように滑らかで且つ理想値を採る場合、発生するZチャンネルの傾斜磁場の発生状況及びその自己シールド性能が理想(所望)状態となるのである。
次に所望の電流値I(=Ic=Is)をI=99.345[A]に設定して前述した国内文献記載のコイル設計法に基づいてZチャンネルのメインコイルおよびシールドコイルの巻線位置を求めると、図11(a),(b)に示すようになる(同図の巻線位置はZ軸方向の(+)側のみを示す。したがって実際の巻線は(−)側にもこれと対称位置に各々巻かれる)。マイナス符号は電流の向きが+のものに対して逆であること示す。
この図11(a),(b)のように離散化された巻線位置状態は理想状態は異なるもので、このときの漏れ磁場による渦電流は図12に示すように好ましくないものとなる。同図は、Zコイルアセンブリに因り発生する渦電流の流線関数を表わす。このシミュレーションは有限要素法又は境界要素法などを用いて行なうことができ、ガントリ中心軸から半径0.5[m]の位置における洩れ磁場に因る渦電流値を計算したものである。渦電流の流線関数は図12から明らかなように、Z軸方向の両端部と中心部の広い範囲とにおいて大きな値を示している。これはシールドコイルの粗い巻線間(隙間)を磁束が通り抜けてしまうことに因る。静磁場コイルユニットのボア内径は通常、半径=0.5[m]程度であるから、図12に示すZ軸方向両端部および中心部の渦電流は静磁場コイルユニットの導体部分の対向位置およびその付近に発生することになる。この渦電流は前述した如く、ASGCタイプでありながらMR画質劣化を招くものであった。
これに対して、端部から中心部に向けて巻線位置を順次決める本実施形態の巻装方法に基づくZコイルアセンブリのメインコイルおよびシールドコイルの配線位置は、一例として、図13(a),(b)に示すようにシミュレーションされる。このときのメインコイルおよびシールドコイルの実際の流線関数曲線は図14および図15となり、前述した図9、10の理想流線関数曲線に非常良く近似される。
このときの漏れ磁場による渦電流のシミュレーション結果は図16に示すようになった。この図は前述した図12に対比されるものである。両図の比較から分かるように渦電流が全体範囲にわたって大幅に低下している。これはとりも直さず、端部から中心部に向かって巻線位置を順次決めていく手法が寄与して実際の流線関数曲線が理想状態に近くなっていることであり、これによりASGCを組み込んだMRI装置により得られるMR画像の画質を著しく向上させることができる。
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る磁場発生用コイルユニットを図17〜図22に基づき説明する。この実施形態における磁場発生用コイルユニットは第1の実施形態のときと同様に、ASGC型の1つのコイルアセンブリである円筒状のZコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3、4について実施したものである。ここで、第1の実施形態の構成要素と同一又は同等のものには同一符号を付して説明を省略又は簡単化する。
この第2の実施形態は、第1の実施形態の巻装方法を踏襲するとともに、その漏れ磁場の改善度をさらに上げようとするものである。これを実行するため、分数ターンと呼ぶ巻方を採用する。
Zコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3および12Z−4は、前述した理想的な流線関数(図17(a)参照)に対して、前述と同様に、ボビンB2の軸方向両端部のそれぞれから中心部に向かって順次、巻線位置が決められる。これに加えて、本実施形態では、ボビンB2のZ軸方向の中心部と両端部に巻くコイルセグメント12Z−3,12Z−4の巻き線については、本発明者が「分数ターン」と呼ぶ概念の巻き方を施している。
「分数ターン」とは、通常の1ターンが担っているI[A]の所定値電流をI/n(n≧2の整数値)に分流するように巻く巻き方を言う。この「分数ターン」の導入によって実際の流線関係をスムージングし、理想流線関数により近付けようとするものである。この分数ターンは例えばI/2ターンであり、ボビン軸方向の両端部と中心部に形成される。
具体的には図17(a)に示すように、所望のコイル電流値I(例えば100[A])とすると、理想流線関数と縦軸上の電流値のI/4,3I/4の位置が交わるZ軸上の位置−Z1,−Z2、Z1,Z2(分流ターンの位置)をボビン軸方向両端部の分数ターンI/2の位置として決める。その後、実際の流線関数が所定電流ステップ値Iずつ増える縦軸上の3I/2,5I/2,7I/2に相当する巻線位置;−Z3,−Z4,−Z5,Z3,Z4,Z5を順次それぞれ決める。さらに、17I/4および19I/4に相当する巻線位置−Z6,−Z7(略零)、Z6,Z7(略零)が分流ターン位置として決められる。
最初に両端部の分数ターンFTa,FTbを説明する。両端部の各々において、縦軸上のI/4,3I/4の位置に対応して、電流Iを2分割(1/2ターン,すなわちn=2)してI/2の電流を流す巻き線位置−Z1,−Z2およびZ2,Z1が決まる。図17の左側端部の分数ターンFTaは、電源側からのリード線を−Z1および−Z2の巻線位置で2分岐させ、そのまま各々の巻線F1,F2を1ターンさせた後で合流させ、次の巻線位置−Z3の巻線に繋げる。同図の右側端部の分数ターンFTbは、巻線位置Z3から出てきた巻線を巻線位置Z2,Z1の位置で2分岐させ、そのまま各々の巻線F3,F4を1ターンさせた後で合流させ、電源側のリード線に繋げる。
またZ軸方向の中心部にもI/2の分数ターンFTc,FTdを図示の如く巻装する。すなわち流線関数NI=17I/4の位置に相当する−Z6とZ6の各位置を2つのI/2の分数ターンFTc,FTdの各一方の巻線位置として決める。同時に、この2つのI/2の分数ターンFTc,FTdの各他方の巻線(余りターン)位置を、流線関数NI=19I/4の位置に相当する、Z=略零と見做せる近傍位置−Z7,Z7にそれぞれ決める。
中心部の分数ターンの内の一方の分数ターンFTcの構成としては、巻線位置−Z5から出てきた巻線を巻線位置−Z6、マイナス側略零の位置−Z7で2分岐し、そのまま各々の巻線F5,F6を1ターンさせる。ターンしてきた2つの分岐巻線F5,F6はそのままマイナス位置側からプラス位置側へZ軸方向に沿って互いに交差しないように渡される。この2本の渡し線はそのまま、もう一方の分数ターンFTdに繋がる。つまり、2本の渡し線は、マイナス側のときとは反対方向に折り返す状態で、巻線位置がプラス側略零のZ7、およびプラス側所定位置Z6の巻線F8,F7に繋げる。この2本の巻線F8,F7のそれぞれを再び1ターンさせた後で合流させ、巻線位置Z5の巻線に繋げる。
この結果、Z軸方向中心部においては特に、−Z7およびZ7の位置で隣り合う2本の巻線F6,F7が実質的に同一巻線と見做される。この2ターンの巻線F6,F7を流れる2つの電流の向きは互いに反対であり、この2つの巻線F6,F7により発生する磁場はキャンセルされる。このため、中心部の−Z6とZ6の両位置では実質的に分流に依らないI/2ターンが等価的に実現される。
このZコイルアセンブリ12Z全体の簡略化した、分数ターンの存在のみを示す概念的な回路を図18に示す。メインコイルの2つのコイルセグメント12Z−1,12Z−2と、シールドコイルの2つのコイルセグメント12Z−3,12Z−4とが直列に接続される。単一の傾斜磁場電源17から一括して所望電流値Iが供給されるようになっている。コイルセグメント12Z−3,12Z−4において、符号F1〜F8の巻線は上述した分数ターン(I/2ターン)の巻線を等価的に表わしている。電源17には波形整形器18が接続されている。波形整形器18は、図示しないシーケンサから指令される傾斜磁場Zチャンネルの波形データを受け、このデータに対応した波形制御信号を電源17に出力する。これにより電源はシーケンサが意図したZチャンネルの傾斜磁場を生成するためのパルス電流Iを直列接続されたコイルセグメント群に出力する。
このようにシールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4に分数ターンFTa〜FTdを付加することで、一層巻きでありながら、シールドコイル12ZSにより実際に得られる流線関数を理想流線関数により近付けることができ、またZ軸方向の中心部と両端部の巻線密度を上げることができる。
これを詳述すると、従来では、一定幅の1本のコイル材を用いたために、Z軸方向の中心部と両端部に巻線の無い隙間が広く空いていた。例えば、図19に示すように、一定幅の線材100を円筒ボビン101の周囲に巻装して一層巻きのコイルを形成しようとすると、コイルの実際の幅は巻線(ターン)が最も混んでいる(密になっている)箇所Aの巻線間の幅により決定されてしまう。つまり、巻線が一番混んでいる部分の巻線間幅よりも幅広の線材を用いることはできないという制約があった。この制約により、理想的な連続電流分布が不連続な電流分布に置き換えられるとき、コイルの巻線の一部に線材が広く存在しない隙間が空いてしまっていた。
しかし、分数ターンを併用することにより流線関数の曲線を理想状態により近付けることができる。これにより、シールドコイルのコイルセグメント12Z−3,12Z−4の磁束発生状況がその理想状態に近付くことになり、結果として発生磁場に対するシールド性能が向上することになる。
つまり、Z軸方向位置についてよりスムーズ(滑か)な流線関数曲線を得ることができ、連続関数により近くなる。したがって、前述した第1の実施形態に係る巻線位置の決定方法と共働して、ASGCを組み込んだMRI装置により得られるMR画像の画質を著しく向上させることができる。
同時に、ASGCとしては、必要に応じて一層巻きの巻き状態を維持できるので、ASGCがその径方向に厚くなって、ガントリ全体を大形化させてしまうこともない。さらに、このように分数ターンという新しい概念を導入することにより、従来一部で試みられていたパルスシーケンスの工夫や、RFパルスの位相制御と言った後追い的な渦電流磁場の補正処理でも対処可能になる。これに拠り、パルスシーケンス制御の複雑化を防止できるという二次的な利点もさることながら、そのような後追い的な補正処理では対処しきれなかった渦電流磁場の空間的な高次成分に対して極めて有効である。すなわち、本発明の分数ターンを追加・併用することにより、発生する渦電流自体を本質的に極めて低レベルまで抑制できるから、かかる高次成分磁場自体も低く抑えられ、補正処理が不要になるのである。またコイル自体の抵抗やインダクタンスも殆ど変わらないから、分数ターンに拠る傾斜磁場電源の出力増は必要では無く、従来のものを使用できる。
ここで、上述のように定性的に説明できた効果をシミュレーションで検証したところ以下のようなった。
本実施形態の分数ターンを採用したZコイルアセンブリのメインコイルの巻線位置の例を図20(a)に、シールドコイルの巻線位置を同図(b)に示す。所望の電流値IはI=99.345[A]である。同図の巻線位置はZ軸方向の(+)側のみを示す。したがって実際の巻線は(−)側にもこれと対称位置に各々巻かれる。この巻線位置に基づくシールドコイルの流線関数は図21のようになる。同図から明らかなように、Z軸方向中心部、すなわちZ=−0.3[m]〜0.3[m]付近、ならびに、Z軸方向両端部、すなわちZ=−0.7[m]〜−1[m]付近およびZ=0.7[m]〜1[m]付近の流線関数が第1の実施形態のものよりも更に滑らかになり、理想流線関数により近くなっている。この結果、漏れ磁場に因る渦電流分布は図22のようになり、第1の実施例のものに比べて、半径0.5[m]地点の両端部および中心部での渦電流が著しく低下し、しかもZ軸方向の各位置全体に亘って平坦化されている。
これはとりも直さず、実際の電流の流線関数が理想状態である滑かな曲線になるように付加した分数ターンが寄与していることであり、これによりASGCを組み込んだMRI装置により得られるMR画像の画質を著しく向上させることができる。
なお、上記第2の実施形態に係るZコイルアセンブリでは分数ターンをZ軸方向中心部と両端部の両方に実施する場合を説明したが、これは必要に応じて何れか一方、すなわち中心部又は両端部のみに実施することもできる。また、Zコイルアセンブリにおいてシールドコイルにのみ分数ターンを追加する例を示したが、メインコイルおよびシールドコイルの双方に実施することもできるし、場合によってはメインコイルのみに実施してもよい。メインコイルに分数ターンを付加するときもやはりメインコイルによる電流の流線関数をスムージングできるから、傾斜磁場特性自体を向上させ、強いてはMR画像の画質向上に寄与することになる。
また、上記第2実施形態ではコイルの巻線位置を決めるのに、一度、流線関数を算出し、この関数上で電流ステップ毎に簡単に巻線位置を決める手法を採用したが、これに代えて従来と同様に、電流密度関数を積分しながら、その積分値毎に巻線位置を決めることも当然に可能である。
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る磁場発生用コイルユニットを図23〜図26に基づき説明する。この実施形態における磁場発生用コイルユニットは第2の実施形態のときと同様に、ASGC型の1つのコイルアセンブリである円筒状のZコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3、4について実施したものである。ここで、第1の実施形態の構成要素と同一又は同等のものには同一符号を付して説明を省略又は簡単化する。
前述した第2の実施形態の分数ターンは、分割した分流路に流す電流の向きが共に同一方向(以下、順流分数ターンという)であったが、この第3の実施形態では、分割した分流路に流す電流の向きが互いに逆向きとなる分数ターン(以下、逆流分数ターンという)を実施したものである。第1の実施形態に係る巻線位置の決定法はこの第3の実施形態にも適用される。
図23(b),(c)に示すように、シールドコイルのコイルセグメント12Z−3、4の両端に、この「逆流分数ターン」FTi,FTjをそれぞれ実施し、その中央部には第2の実施形態と同様の「順流分数ターン」をFTc,FTdを実施している。一方のシールドコイル12Z−3において、給電点の一方に繋がる巻線はボビンB2の端部の所定巻線位置で巻線F21,F22に分岐しかつその巻線方向がボビン周回方向において互いに逆向きのまま、巻線位置−Z1,−Z2の位置に巻装されている。一周巻装された巻線F21,F22は合流して、次のターンである巻線位置−Z3の巻線に繋がる。巻線F21,F22の抵抗値は少なくとも同一である。これにより、巻線F21,F22には共にI/2の大きさの電流が流れるが、一方の巻線F21には+I/2の電流が流れ、もう一方の巻線F22には−I/2の逆向きの電流が流れる。もう一方のシールドコイル12Z−3においても、巻線F23,F24によって同様の逆流分数ターンFTjが形成されている。
この逆流分数ターンFTi,FTjを設けたことによる実際の流線関数を図23(a)に示す。一方の巻線F21(F24)の位置でアンペア・ターンNIはI/2だけ上昇し、その隣の巻線F22(F23)の位置でI/2だけ低下する関数曲線となる。これにより、理想流線関数の裾野の傾斜が緩やかな場合、その緩やかさに極力近い流線関数を実現でき、前述した第2の実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
ここで、図23に示すように順流(ボビン中央部)と逆流(ボビン両端部)の分数ターンを実施したときのシミュレーション結果の一例を示す。
Zコイルアセンブリのメインコイルの巻線位置の例を図24(a)に、シールドコイルの巻線位置を同図(b)に示す。シールドコイルに対して図24(b)に示す如くZ軸方向(+)側についてはその中心部(Z=約零、0.0400[m])に順流分数ターンを、端部(Z=0.97500[m],1.03500[m])には逆流分数ターンをそれぞれ付加した。これらの分数ターンはI/2(I=99.345[A])の分数ターンである。同図(b)における分数ターン以外の巻線位置は通常ターンであり、また図24(a)は図20(a)と同じ数値内容で、対比を容易にするため再掲した。所望の電流値IはI=99.345[A]である。同図の巻線位置はZ軸方向の(+)側のみを示す。したがって実際の巻線は(−)側にもこれと対称位置に各々巻かれる。)この巻線位置に基づくシールドコイルの流線関数は図25のようになる。同図から明らかなように、Z軸方向中心部、すなわちZ=−0.3[m]〜0.3[m]付近、ならびに、Z軸方向両端部、すなわちZ=−0.7[m]〜−1.5[m]付近およびZ=0.7[m]〜1.5[m]付近の流線関数が第1の実施形態のものよりも更に滑らかになり、理想流線関数により近くなっている。この結果、漏れ磁場に因る渦電流分布は図26のようになり、第1の実施例のものに比べて、半径0.5[m]地点の両端部および中心部での渦電流が著しく低下し、しかもZ軸方向の各位置全体に亘って平坦化されている。
これはとりも直さず、第2の実施形態のときと同様に、実際の電流の流線関数が理想状態である滑らかな曲線になるように付加した順流、逆流分数ターンが寄与していることであり、これによりASGCを組み込んだMRI装置により得られるMR画像の画質を著しく向上させることができる。
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る磁場発生用コイルユニットを図27に基づき説明する。この実施形態における磁場発生用コイルユニットは前記各実施形態のときと同様に、ASGC型の1つのコイルアセンブリである円筒状のZコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3、4について実施したものである。
この実施形態では、前述した「逆流分数ターン」FTkを1つだけボビンB2の中央部に実施したものである。ボビンB2の両端部には「順流分数ターン」FTa,FTbを実施している。なお、第1の実施形態に係る巻線位置の決定法、すなわち、ボビン端部側からボビン中心部に向けて順に巻線位置を決める方法は、この実施形態のシールドコイルにも実施される(以下の実施形態でも同様とする)。
この逆流分数ターンFTkは巻線F25,F26から成り、それぞれ、ボビン中央部の巻線位置−Z6,Z6に巻装されている。巻線位置−Z5の通常巻線につながる巻線は、巻線位置−Z6にて互いに逆向きの巻線F25(巻線位置=−Z6)と巻線F26(巻線位置=Z6)に分岐し、そのまま巻き回される。そして、再び、巻線位置=Z6にて合流し、隣の巻線位置Z5の通常巻線につながる。これにより、2本の巻線F25,F26に流れる電流は、それらのインピーダンスが同じ場合、I/2の電流値となり、かつ、その向きは互いに反対方向となる。
この結果、前述した実施形態のものと同等の作用効果を得ることができる。さらに、中心部に逆流分数ターンを実施する場合、その数は1つで済むという利点がある。これは、前述した実施形態に係る中央部の巻線F6,F7に流れる電流が互いに相殺され、巻線F5,F8の電流値のみが流線関数に寄与することと等価である。したがって、逆流分数ターンをボビン中央部に実施すると、順流分数ターンに比べて、分数ターン数を1個に減らすことができ、巻線構造がより簡素化され、また巻線作業も容易化されるという、別の優れた効果が得られる。
また、図27の巻線構造において、2本の巻線F25,F26が交差する部分(図中のD部分)は、板状のリード線の板厚を1/2に形成しかつ絶縁した状態で重ねている。このため、巻線構造全体の一層巻きの状態を維持できる。
なお、上述のようにボビン中央部に逆流分数ターンをボビン中央部に実施する場合、図28のような分数ターンFTk′を形成してもよい。すなわち、この逆流分数ターンFTk′をボビン円周方向に約半周させた位置で、巻線位置を−Z6からZ6に、および、Z6から−Z6に渡らせるものである。これによっても、同等の逆流分数ターンを実施できる。
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る磁場発生用コイルユニットを図29〜図31に基づき説明する。この実施形態における磁場発生用コイルユニットは前記実施形態のときと同様に、ASGC型の1つのコイルアセンブリである円筒状のZコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3、4について実施したものである。ここで、第1の実施形態の構成要素と同一又は同等のものには同一符号を付して説明を省略又は簡単化する。
この第5の実施形態は、上記実施形態に係る作用効果に加えて、分数ターンを形成したときの各ターン(分流路)の抵抗および/又はインダクタンスの値を互いに同一にし、目的とした数の分流を確実に行わせようとするものである。前記実施形態で説明した磁場発生用コイルの場合には特に言及しなかったが、分数ターンを形成するに当り、下記の点に留意することがより望ましい。
(1)まず、電流を各ターンに等しく分流させる場合には分数ターンを形成する各ターン(分流路)の抵抗値を互いに等しく設定する必要がある。定常電流を対象とする静磁場コイルやシムコイルの場合、この条件(1)を満足させる構成がより望ましい。
(2)また傾斜磁場発生用コイルのようにパルス電流を流すコイルの場合、上記条件(1)に加えて、分数ターンのそれぞれのターン(分流路)のインダクタンス値も互いに等しく設定することがより望ましい。
上記条件(1),(2)を満足させるため、本実施形態に係るZコイルアセンブリのシールドコイルのコイルセグメント12Z−3,4は図29(b),(c)に示す巻線配置および巻き方を採用している。同図に示す毎く、このコイルセグメント12Z−3,4では第2の実施形態に係る図17と同様の手法により、Z軸方向の中心部および両端部に分数ターン(順流分数ターン)を各々形成している。なお、図29(b),(c)は、コイルセグメント12Z−3,4を同一方向の外側面および内側面から見た様子を示す(同図の方向A,B参照)。
最初に中心部の分数ターンFTg,FThを説明する。一方の分数ターンFTgは、図29(b),(c)におけるZ軸(−)側の中心部の位置−Z6,−Z7に巻装されたI/2ターンの巻線F5,F6で構成され、もう一方の分数ターンFThは、Z軸(+)側の中心部の位置Z7,Z6に巻装されたI/2ターンの巻線F7,F8で構成される。
これらの分数ターンFTg,FTh自体の巻線位置は第2の実施形態のものと同一であるが、一方の分数ターンFTgの巻線F5,F6をもう一方の分数ターンFThに繋げる際、折り返しにより隣り合う一方の巻き線、すなわち巻線F5(F7)とF6(F8)を互いに交差させている(仮想線B部参照)。この等価回路は図30のようになる。各分流路(すなわち巻き線「F5+F7」、および「F6+F8」)の長さは互いに等しく設定されている。これにより、各分流路の抵抗値が同一値に揃えられている。
この分数ターンFTg,FThに対しては、電流I/2の向きは第2の実施形態のときと同様に保持され、巻線F6およびF7間の磁束キャンセル機能も確保されている。また巻線の交差により、この分流閉路に流れる鎖交磁束による誘起電流(図30の矢印参照)は2つのループS1,S2で同じ向きになる。したがって、ループS1,S2での磁束が互いにキャンセルし合い、各分流路F6+F8およびF5+F7のインダクタンスが互いに等しくなる。換言すればF6とF5のインダクタンス値が相互に等しく、且つF7とF8のインダクタンス値が相互に等しい。
このコイルセグメント12Z−3,4の巻線の内、例えば図29(b)中の仮想円Aで示す如くの分流させていない通常の巻線(電流Iを流す)は、図31(a)に示すように縦横にtの長さを有するt2の断面積の線材で巻装されている。一方、分数ターン部分の2本の分流路「F5+F7」および「F6+F8」は、その全体経路に亘って、図31(b)又は(c)に示すように縦がt/2の厚さの線材で巻装されている。このため、巻線F5(F7)とF6(F8)の交差部分の厚さは何れの場合もtに収まる。これにより、コイルセグメント12Z−3,4全体を一層巻きで形成することもできる。
2本の分流路の断面形状として図31(b)の方を採用した場合、厚さt/2だが、幅2tと2倍になっているから断面積自体は通常巻線と同じになる。このため、分数ターン部分の両端の単位長さ当りの抵抗は通常巻線(Iアンペアターン)のそれの1/2になる。また図31(c)の方を採用した場合、各分流路の断面形状は厚さt/2かつ幅tであり、単純に厚さのみを通常巻線に比べて半分の線材を用いている。このため、分数ターン部分の両端の単位長さ当りの抵抗値は、2本の線材の並列接続であるため、通常巻線(Iアンペアターン)のそれと等しい。
一方、両端部の分数ターンFTe,FTfの場合もそれぞれ、第2の実施形態の場合と同一の巻線位置においてI/2ターンの分数ターンを成している。しかも、前記条件(1)および(2)を考慮して、分数ターンFTe,FTfそれぞれの分流路の抵抗値およびインダクタンス値を互いに揃えている。抵抗値については、それぞれの分流路(巻線)の長さを一致させる。インダクタンス値については、図29(c)の仮想円C部分に示す如く、巻線F1,F2(またはF3,F4)を互いに交差させ、鎖交磁束による誘起電流に対して中心部の分数ターンと同一のキャンセル機能を発揮させている。
このように第5の実施形態によれば、第2の実施形態における作用効果のほか、分数ターンの各巻線(分流路)間の抵抗値およびインダクタンス値が同一値に揃えられるので、傾斜磁場のようにパルス状の電流(磁場)を扱う場合でも、分数ターンにおける確実な分流機能を得る。
なお、パルス状電流の時間的変化が緩やかな場合、分数ターンの各巻線間で必ずしもインダクタンスを同じにする必要がないので、そのような場合、例えば抵抗値のみを揃えるようにしてもよい。
また、この実施形態に係る分数ターンは、シールドコイルのみならず、メインコイルにも適用できるし、また傾斜磁場コイルユニットのZチャンネルのみならず、X,Yチャンネルにも適用できる。
また分数ターンの分流路の抵抗値のみ、またはインダクタンス値のみを揃えることもでき、そのような分数ターンを静磁場コイルやシムコイルに適用することも可能である。
さらに、前述した第2〜第4の実施形態では、この分数ターンの巻線の交差に触れていないが、これらの実施形態の分数ターンにも、かかる巻線交差の構成を適宜採用してもよい。
さらに、分数ターンに入れる交差数は上述したように必ずしも1個に限定されない。この交差数は他のチャンネルのコイルが発生する磁束をも考慮して決めることができ、種々の態様がある。例えば、ほかのチャンネルの磁束の影響が大きい場合は、上述したように交差数を1つとし、また、その影響が大きくかつ磁束分布が複雑な場合、交差数を複数個形成してもよい(例えば3個:図45の分数ターンFTw参照)。なお、かかる磁束の影響が少ない場合、交差させなくてもよい場合もある。
さらに、上述した第5の実施形態においてZ軸方向端部に実施した分数ターンFTe,FTfの構成をその中心部の分数ターンに適用することもできる。その一例を図32(a),(b)に示す。つまり、この例では、端部および中心部ともに同一構成の分数ターンFTe,FTfおよびFTe′,FTf′を採用し、共に抵抗値およびインダクタンス値をそれぞれの分数ターンの分流ターン間で揃え、鎖交磁束に因る誘起電流に対するキャンセル機能を良好に発揮させることができる。とくに、全部の分数ターンが同一の構成であるから、設計の容易化などにも貢献できる。
また、上述した分数ターンはZ軸方向の中心部や端部の特定の巻線のみに限定して適用するものではなく、必要に応じて、途中の任意の巻線(ターン)を分数ターンに変えてもよいし、また巻線と巻線との間に本発明に係る分数ターンを付加的に配置するようにしてもよい。コイルユニットの形状やコイルの巻き方が異なる場合でも同様に、任意の位置にこの分数ターンを実施できる。
[第6の実施形態]
本発明の第6の実施形態を図33に基づき説明する。この実施形態に係る磁場発生用コイルユニットは、第5の実施形態のものと同様のシールドコイルのコイルセグメント12Z−3,4であるが、順流分数ターンを更に3分流路に発展させたものである。
図33(b),(c)はそれぞれ同図(a)に示すように、円筒状ボビンB2を同一方向の外側面および内側面の方向A,Bから巻線位置を見た様子を模式的に示す。
シールドコイルのコイルセグメント12Z−3および12Z−4が対を成してシールド用Zチャンネルを形成している。コイルセグメント12Z−3,4のZ軸方向両端部および中心部には、順流分数ターンとしての3分割の「I/3ターン」FTm,FTn,FTo,FTpがそれぞれ形成されている。この「I/3ターン」FTm…FTpのそれぞれの巻線位置は前記実施形態と同様の手法により決められている。
「I/3ターン」FTm…FTpのそれぞれの各分流路(巻線)の長さは同一で抵抗値が揃えられ、また巻線の交差によりそのインダクタンス値も揃えられている。このため、I/3ターンにより、実際の磁場分布をよりきめ細かくスムージングして理想磁場分布に近付けることができるとともに、パルス状の電流に対して第5の実施形態のものと同等の作用効果を発揮できる。
なお、磁場発生用コイルユニットの例えば中心部および両端部に分数ターンを施す場合、必ずしも常に同一個数の分流路の分数ターンにする必要はなく、例えば、両端部のそれぞれには2分流路の分数ターンを、中心部には3分流路の分数ターンを施すなど、分流路数を巻線位置で適宜に変えるようにしてもよい。
[第7の実施形態]
本発明の第7の実施形態に係る磁場発生用コイルを図34〜図37に基づいて説明する。この磁場発生用コイルとして、前述した図2に示すアクティブシールド型の傾斜磁場コイルユニット12のYチャンネルのYコイルアセンブリ12Yを説明する。
Yコイルアセンブリ12Yは図34に示すように、ボビンを含めてその全体が略円筒状に形成され、そのコイル部はメインコイル12YM及びシールドコイル12YSから成る。メインコイル12YMは、空間原点(X,Y,Z)=(0,0,0)を中心に且つZX面を介して対向配置される、各々が半円筒状の2対(4つ)のボビンB,…,Bと、このボビンB,…,B上に巻装される2対のコイルセグメント12YM−1,12YM−2とを備える。各対のコイルセグメント12YM−1(又は12YM−2)は、ボビンB,B上で各サドル状にパターン化され且つXZ面を介して対向する2つのコイルセグメントCS,CSから成る。
シールドコイル12YSは、メインコイル12YMの外周側の所定径だけ離間した位置に配置され、メインコイル12YM全体を覆う円筒状に形成されている。シールドコイル12YSは、径は異なるものの、メインコイル12YMと同様の構造を有する。すなわち、シールドコイル群12YSは空間原点(X,Y,Z)=(0,0,0)を挟んでZ軸方向に並置される、各々が半円筒状の対のボビンB,…,Bと、このボビンB,…,B上に巻装される2対のコイルセグメント12YS−1,12YS−2とを備える。各対のコイルセグメント12YS−1(又は12YS−2)は、ボビンB,B上で各サドル状にパターン化され且つXZ面を介して対抗する2つのコイルセグメントCS,CSから成る。
メインコイル12YMおよびシールドコイル12YS共に、そのコイルセグメントCSのコイルパターンは実際には、展開図上で幾重にも回された渦巻き状に形成される。このコイルパターンは、例えば特開昭62−143012号に示される手法を用いて形成できる。
本実施形態では本発明の分数パターンを、YチャンネルのシールドコイルのコイルセグメントCSのそれぞれに実施している。この様子を図35に模式的に示す。同図は、見易くするため、1つのコイルセグメントCSを3周回巻き回しの渦状のみに簡単化させたサドルコイルとして示している。なお、このYチャンネルのシールドコイルのコイルセグメントの巻線位置も、前述した第1の実施形態のコイル巻装法を踏襲している。すなわち、各コイルセグメントについて、図34の2点鎖線K1,K2で示す如く、Z軸方向の中心部および端部からセグメント中心部に向かって順に巻線位置を決めている。
いま図35において、3周の流路を外側から順にCout,Cmid,Cinと呼ぶことにする。一番外側の流路Coutには、その途中に部分的に分数ターン(順流)FToutが挿入されている。この分数ターンFToutは、流路Coutから流路上の所定位置で2つに分岐する分流路F11,F12で構成される。この分流路F11,F12は所定の途中位置で交差し(但し、互いに絶縁状態)、流路上の所定位置で再び合流するようになっている。
この外側の流路Coutの内、分数ターンFTout以外の1本の線材部分は所定厚さtの線材(幅はt)で形成される。なお、この線材の縦横比は任意である。一方、分数ターンFToutの分流路F11,F12の各々は厚さt/2の線材(幅は2t又はt)で形成されている。また分流路F11,F12の流路に沿った長さは同一に設定されている。このため、分流路F11,F12の抵抗値は互いに等しく、且つ交差によって渦電流に対する各々の閉路の起電力を相殺させることができ、相互のインダクタンス値も等しくなる。また交差点での線材のトータルの厚さはt(=t/2+t/2)で済む。
真中の流路Cmidはその全周に亘って1本の線材(厚さt,幅t)により形成される。
さらに一番内側の流路Cinはその全周に亘って分数ターン(順流)FTinにより構成されている。すなわち、内側流路Cin(=FTin)はその起点位置で2本の同一長の分流路F13,F14に分岐し、流路途中の所定位置で交差し、1周回った最後の終点位置で互いに合流するものである。この全周に亘る分数ターンFTinの場合、個々の分流路F13,F14は最初から最後まで厚さt/2(幅は2t又はt)の線材が所定パターンに沿って引き回される。この場合も同様に、分流路F13,F14の抵抗値およびインダクタンス値は流路同士で互いに等しい。また交差点での線材のトータルの厚さはtのままである。
したがって、外側流路Coutの給電端に供給されたパルス状の電流Iはその流路の分流路F11,F12で正確にI/2ずつに分流した後、再び合流して電流Iとなる。この電流Iは真中の流路Cminを回った後、一番内側の流路Cinに入る。この流路Cinではその分流路F13,F14を最初からI/2ずつの正確な分流電流が流れ、周回した後、別の給電端から次のコイルセグメントに流れる。図36には、そのように形成された個々のコイルセグメントCSをメインコイル群、シールドコイル群で相互に直列接続してYチャンネルのパルス電流Iを流す等価回路を示す。同図のシールドコイル群12YSのコイルには分数ターンを図示してはいないが、各々のコイルセグメント(シールドコイル)CSは分数ターンFToutおよびFTinを含んでいる。
このようなコイルセグメントCSが、図34に示した各々のボビンB上に配置される。従来では図37に示すように、渦巻き状のコイルセグメントのZ軸方向中心部およびコイル端部で線材間に前述した隙間ができていたが、本実施形態の分数ターンによってその隙間を埋めることができる。したがって、シールドコイルの流線関数をスムージングして理想曲線へより近付けることができ、そのような隙間から洩れる磁場を適確にシールドできる。これにより、前述と同様、渦電流の発生を抑制し、ASGCの本来の目的を達成して画質を向上させる。また一層巻きの状態も維持しているユニット径方向の小形化を阻害することもない。
さらに、分数ターンの各流路の抵抗値およびインダクタンス値が共に流路同士で等しいから、パルス状の電流でも正確に分流でき、高精度なシールド機能を確保できる。
なお、上記実施形態では分数ターンの抵抗値、インダクタンス値の両方を流路間で相互に揃えることとしたが、構造上の都合などに拠っては、何れか一方のみを相互に揃えることにしてもよい。また、この分数ターンをYチャンネルのメインコイルについても併せて実施することもできるし、メインコイルのみに実施することもできる。
また、上記した如くの分数ターンFTout,FTinの数や位置(何周目に置くか)は任意である。実際の流線関数が極力、理想流線関数に近付くようにスムージングできればよく、実際の物理的な条件との兼ね合いに応じて決めればよい。上記説明では、外側の分数ターンFToutは流路Coutの途中に部分的に介在させるとしたが、内側の分数ターンFTinと同様に、その全周に亘って形成することもできる。
なおまた、X軸方向の傾斜磁場を形成するXコイルアセンブリ12Xにも上記分数ターンを実施してもよい。Xコイルアセンブリ12XはYコイルアセンブリ12YをZ軸周りに90°回転させたものと等価である。そのようなXコイルアセンブリ12Xのメインコイルまたは/およびシールドコイルに前述したと同様の適宜な態様で適用できる。また静磁場コイルやシムコイルにも同様に実施してもよい。
さらに、上述した図35の巻線構造において、分数ターンFTout,FTinそれぞれの巻線交差位置は必ずしも分流路のリード線走行方向の中心位置などの固定位置にて行うという構成に限定されるものではない。例えば、他チャンネルコイルからの磁束が分流路に交鎖する場合で磁束アンバランスを生じる場合、分数ターンの分流路を交差させる位置は、磁束アンバランスの影響を打ち消すように調整することもできる。この調整法は、非対称な傾斜磁場を発生させるコイルユニットにとくに有効である。
さらに、上述した内側の分数ターンFTinは順流分数ターンで形成する構造を示したが、この分数ターンは逆流分数ターンで形成することもでき、その一例を図38に示す。
[第8の実施形態]
本発明の第8の実施形態を図39に基づき説明する。この実施形態は、第7の実施形態と同様に、アクティブシールド型の傾斜磁場コイルユニット12のYコイルアセンブリ12Yのシールドコイルに本発明を実施したもので、順流分数ターンを「I/3ターン」に発展させた例を示す。
Yコイルアセンブリ12Yのシールド用の各コイルセグメントCS(シールドコイル)は図39に示すように、3周の流路Cout,Cmid,Cinを備える。この内、外側を周回する流路Coutには、その途中の一部に、流路を3分岐する「I/3ターン」の分数ターンFToutが形成されている。また内側の流路Cinはその全体が「I/3ターン」の分数ターンFTinで形成されている。
外側の分数ターンFToutの3本の分岐線材(分流路)は分岐前の1本の線材に比べて、幅tは同一であるが、厚さがt/3に形成されている。(図39中の断面説明図(a),(b)参照)。これにより、1本の分岐線材当たりの断面積が1/3になるが、3本の並列接続であるので、Iアンペア・ターンのものと同じ抵抗値になる。
さらに、この外側の分数ターンFToutの3本の分岐線材の長さは互いに等しく、また途中の所定位置で交差させている。これにより、各分流路の抵抗値およびインダクタンス値が互いに等しくなり、定常電流のみならず、パルス電流に対しても正確なI/3ターンの分流が可能になる。また交差部分では、厚さをt/3に設定しているので、Yコイルアセンブリ12Yのシールドコイル全体の1層巻きの状態を維持でき、アセンブリ径方向におけるコンパクトサイズを維持できる。なお、3本の分岐線材の厚さは必ずしもt/3に限定されるものではなく、シールドコイル1層の厚さを増やせる場合には各分岐線材を厚く(絶対値として)してもよい。
一方、内側の分数ターンFTinの3本の分岐線材(分流路)もその途中所定位置で交差させながら、I/3ターンを形成している。ただし、図39中の点線円Cに示すように、分岐線材を異なる3か所においてその内の2本ずつを互いに重ねながら交差状態を実現しているため、各分岐線材の厚みをt/2に設定した場合でも、1層巻き状態を維持できる。この内側の分数ターンFTinの各分流路の抵抗値およびインダクタンス値が分流路相互に等しく設定され、分流機能の確実化が達成されている。
[第9の実施形態]
本発明の第9の実施形態を図40に基づき説明する。この実施形態は、第8の実施形態をさらに発展させ、前述したシールドコイル12YSのコイルセグメントに「I/nターン」(n>3:整数値)を実施したものである。
Yコイルアセンブリ12Yのシールド用の各コイルセグメントCSは図40に示すように、例えば3周の流路Cout,Cmid,Cinを備える。この内、外側を周回する流路Coutには、その途中の一部に、流路をn分岐する「I/nターン」の分数ターンFToutが形成されている。また内側の流路Cinはその全体が「I/nターン」の分数ターンFTinで形成されている。
分数ターンFToutおよびFTinのそれぞれは、n本の分岐線材(分流路)で成り、前述したI/3ターンの構成上の特徴を踏襲して形成されている。n本の分岐線材の交差部分は、1本の分岐線材の厚さを例えばt/nに設定して、シールドコイル全体の1層巻き状態を確保している。
これにより、前述したと同等の作用効果が得られるほか、分岐本数を増やすことで、このコイル構成により実現される階段状の流線関数のスムージング精度を上げ、連続的な理想流線関数に一層近づけることができる。
[第10の実施形態]
第10の実施形態に係る磁場発生用コイルを図41、42に基づき説明する。磁場発生用コイルユニットとしてZ軸方向(Zチャンネル)のシム(静磁場補正)コイルを挙げる。
図41(b)にZ軸方向シムコイル13Zの巻線位置を模式的に示す。同図に示すように、Z軸方向の中心部に本発明に係る分数ターンFTD−1,FTD−2を形成している。すなわち、同図におけるZ軸方向左側の分数ターンFTD−1は、流線関数値=13I/4,15I/4に対応するZ軸方向位置−Za,−Zbの分岐巻線F12−1,F13−1で構成し、一方、Z軸方向右側の分数ターンFTD−2は、流線関数値=17I/4,19I/4に対応するZ軸方向位置Zb,Zaの分岐巻線F13−2,F12−2で構成している。そして、流線関数値=5I/2に相当する左側の巻線F11-1が一方の分数ターンFTD−1に繋がり、分数ターンFTD−1がZ軸方向に這う渡り線を介して右側のもう一方の分数ターンFTD−2に至る。この分数ターンFTD−2は流線関数値=11I/2に相当する右側の巻線F11−2に至る。分数ターンFTD−1,FTD−2それぞれの分流巻線F12,F13の流路長さは同一に設定し、抵抗値を互いに同じに設定することが特に望ましい。
このようにターンの一部を分数ターンFTDに置換することにより、図41(a)に示す如く、関数値13I/4[A・T]から19I/4[A・T]にかけて流線関数NIの繋ぎの刻み具合が、従来の巻線に対するそれよりもスムーズになり、より理想(所望)流線関数に近付く。すなわち、図42(b)に示す従来の巻線状態(分数ターンFTD−1,FTD−2のそれぞれの部分が通常の電流値Iの1ターンになっていることを除いて図41(b)と同じ)を流線関数で観た場合の図42(a)と対比すれば、分数ターンの付加により流線関数が改善していることが明らかである。したがって、Zチャンネルのシムコイル13Zの静磁場均一化に対する性能を向上させることができる。
なお、この分数ターンはZ軸方向の任意の位置に所望数を設けてもよい。また、この分数ターンをシムコイルユニットのシミングの次数に拘らず設けることができ、XY,X2−Y2,Z3,Z,X,Y,ZXY,Z(X2−Y2)…など、任意のチャンネルに適用できる。
なお、上述した各種の実施形態は静磁場の発生方向が水平な水平磁場方式の場合の各種のコイルについてその分数ターンの適用例を説明してきたが、本発明は静磁場の発生方式により限定されるものではなく、例えば図43,44に示すような静磁場を垂直方向に発生させる垂直磁場方式の各種のコイル(静磁場コイル,シムコイル,傾斜磁場コイル,RFコイルなど)にも同様に実施できる。
図43には、垂直磁場方式に係るASGCユニットのZコイルアセンブリ30Zの概略構造を、図44にはそのYコイルアセンブリ30Yの概略構造をそれぞれ示す。図43において、30ZMがメインコイルであり、30ZSがシールドコイルである。また図44において、30YMがメインコイル、30YSがシールドコイルである。これらのメインコイルおよび/又はシールドコイルの各コイルセグメントの少なくとも一部に前述したと同様の分数ターンFTvを実施することで、前述と同様の作用効果を得ることができる。
なお、コイルをエッチングなどの銅板を腐食させてつくる方法(例えば特開平7−303624号「勾配コイル」参照)の場合、導体幅が広くなる部分が形成されてしまう。このため、一般的には高速スイッチングをさせるEPIのようなMRI装置では、導体からの渦電流を無視できなくなり、そのようなコイルは適当でない。この場合も、上記の方法によって理想電流分布に近付けることができる(ワイヤとして、例えば細線を撚ったリッツ線などを用いれば、高速スイッチングなどによる線材自体の渦電流も問題とならない)。すなわち、エッチングによるコイル形成の場合も、その一部のターンをとってみると、線幅の広い平角線と見做せるからターン分割を上述と同様に行うことができる。つまり例えば、端のターンの線幅を狭くし、自分自身の渦を減らすことができる。このエッチングによるコイル形成において本発明の巻線交差を実現するには、例えば図35の例において、点線丸部分の銅を予め腐食させておき、図35の場合と同様に、例えば2本のt/2の厚さの線材で導体を互いに接続すればよい。したがって、エッチングやミリングといったコイル形成法の場合にも本発明の分数ターンを適用でき、より理想的なコイルパターンが得られる。
またなお、上述した実施形態およびその変形例では、分数ターンとしてI/n(n≧2)の、電流値Iを等分割する形態について説明してきた。しかし、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。例えば2分割の場合に、一方のターンの線幅をもう一方のそれの2倍にして(厚さは同じ)、巻線の線材(または導体部)の断面積Sを2:1の割合(抵抗値は1:2)に設定することで、ターン分割数n=2であるが、各ターンの電流値が2I/3,I/3と一方のターンに電流値を余計に流す分数ターンも形成できる。これにより、分数ターンを実施するときの設計の自由度が上がり、所望の磁場分布が得られ易くなる。
さらに上記各実施形態において、磁場発生用コイルユニットを傾斜磁場コイルユニットに適用する場合、傾斜磁場コイルユニットは図1〜図3に示したように一体型に形成したものであった。しかし、本発明は必ずしもそのような一体型の傾斜磁場コイルユニットに限定されるものではなく、例えば、メインコイルとシールドコイルをそれぞれ構造的には別体として形成し、ガントリ内の離れた位置に別々に配置する構造のものにも好適に実施できる。
さらに、前記第2の実施形態以降で説明した分数ターンを用いたコイルユニットにおいて、前述した第1の実施形態に基づくコイル巻装法を採用しないで、従来の例えばZ軸方向中心部から端部に向かって巻線位置を決めていく手法(Zチャンネルの傾斜磁場の場合)を採用してもよい。