JP4457968B2 - 磁気記録媒体、およびその潤滑層膜厚測定方法 - Google Patents
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Description
磁気記録ヘッドの浮上量は、近年、10nmを切るまでに低下されているが、浮上量を低減した場合、磁気記録ヘッドが媒体表面に接触する確率が急激に増加する。磁気記録ヘッドの浮上は、磁気記録媒体の表面上で磁気記録ヘッドを高速で走行させ、磁気記録ヘッドと磁気記録媒体の間に生じる動圧を利用して行っている。この時の回転数は数千回転/分にも及ぶことから、磁気記録ヘッドが磁気記録媒体に衝突した場合には、両者が損傷するヘッドクラッシュと呼ばれる現象が発生しやすくなり、耐久性、信頼性等の急激な低下が問題となってくる。このような現象を回避するために、保護層と磁気記録ヘッドの間に潤滑層を介在させ、磁気記録媒体と磁気記録ヘッドの間に充分な潤滑性を付与している。潤滑性を高めるためには、潤滑層の膜厚は厚い方が好ましい。しかしながら、磁気スペーシングを低減するためには潤滑層の膜厚は極限にまで低下させる必要がある。両者を同時に満足するためには、潤滑層の膜厚を均一として、ヘッドクラッシュに至らない最低限の膜厚を確保しつつ、記録ビットに相当する微小領域での最大の膜厚を低減して磁気スペーシングを低減する事が必要である。
現在、潤滑剤膜厚を評価する方法としては、エリプソメーター、X線光電子分光法(XPS)、高感度反射FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)などが挙げられるが、そのどれもが広い領域の平均膜厚を測定する方法であり、記録ビットサイズでの潤滑剤の膜厚分布の評価は不可能である。
一方、膜厚分布の評価法として、特許文献1では、角度分解XPS測定を用いて潤滑剤の被覆率を評価する方法が提案されている。しかしながら、この方法は、潤滑剤が一定の膜厚の島状構造を有する場合を仮定したモデルに基づいて測定値を解釈するものであり、実際の膜厚分布を測定しているとは言いがたい。また、特許文献2では原子間力顕微鏡(AFM)のフォースカーブ測定により探針と潤滑剤との付着力を多点測定し、その付着力の標準偏差により膜厚分布を評価する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、平均的な膜厚分布を評価する事は出来るが、微小領域の膜厚分布を定量的に評価しているとは言いがたい。
前記位相遅れは1ないし100Paの圧力下で測定することが好ましい。
本発明の磁気記録媒体の潤滑層膜厚の測定方法は、非磁性基板、磁性層、保護層、潤滑層を備えた磁気記録媒体において、走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを共振状態とし、前記カンチレバーのプローブ側の端部が大気中で自由端の時の共振状態の位相と、該プローブが前記保護層に略接触した時の共振状態の位相との差を位相遅れとし、該位相遅れを測定することを特徴とする。
また、前記位相遅れの測定領域は略1μm四方であることが好ましい。
また、潤滑層膜厚を上述のように測定することにより、微小領域での潤滑層膜厚分布を評価することが可能となる。
はじめに、潤滑層の膜厚の測定方法について説明する。
本発明による潤滑層膜厚の測定は、走査型プローブ顕微鏡を用いて行う。磁気記録媒体表面の形状を計測する際に、共振状態にあるカンチレバーの位相遅れを計測し、その位相遅れ量を定量化することにより潤滑層膜厚の測定を行うものである。
はじめに、磁気記録媒体の表面形状が極めて平滑な場合について説明する。共振状態にあるカンチレバーの位相は、被測定試料表面とプローブ間に働く力が変化した際に位相遅れを生じる。この力は、メニスカス力、液体潤滑剤の粘性、表面吸着水により変化する。同一の環境下で測定を行う場合は、表面吸着水は均一に存在する為、表面吸着水による力は一定である。一方、メニスカス力と液体潤滑剤の粘性による力は、潤滑層膜厚に依存し、潤滑層が厚いほど位相遅れが大きくなる。従って、位相遅れ量を測定することにより、潤滑層の膜厚を得ることができる。ここで、位相遅れとは、カンチレバーのプローブ側端部が大気中で自由端の時の共振状態の位相と比較した位相変化量を言う。
また、磁気記録媒体表面の複数の箇所で位相遅れを測定することにより、潤滑層膜厚の分布を得ることができる。走査型プローブ顕微鏡のプローブは微細であることから、微小な領域内の潤滑層膜厚の分布を得ることが可能である。例えば、1μm四方の領域を256×256の点に分割して測定を行うことができる。
また、測定された位相遅れ量を潤滑層の面内の対応する位置ごとにプロットして画像化することにより、潤滑剤の膜厚分布を可視化することができ、視覚的な理解がたやすくなる。
一方、磁気記録媒体には、通常テクスチャーと呼ばれる、磁気異方性の付与を目的とした円周方向の微小スクラッチが形成してあり、表面は粗さを有している。図3は表面に凹凸を有する磁気記録媒体20に対して、プローブ1を有するカンチレバー2を近接した場合の影響を模式的に表したものである。この場合は、上記のメニスカス力、潤滑剤の粘性、表面吸着水の影響に加えて、空気の粘性によるダンピングの影響が加わることになる。例えば、V字形状の様な凹み上でプローブが振動した場合、V字内に存在する空気の粘性の影響を強く受け、あたかも潤滑剤が存在するかの様に位相が遅れる。従って、表面が粗さを有する磁気記録媒体の場合は、粗さの影響を回避するために、減圧した環境で測定を行う。測定環境を100Pa以下にする事で空気の粘性による影響を回避できる。更に、この様な減圧下の測定では空気の粘性の影響が低下する為に、共振ピークの鋭さを表すQ値が大きくなり、結果的に感度が高くなると言う利点も生じる。
なお、以上の説明は、磁気記録媒体を例にとって説明したが、固体の基材上に粘性液体の薄膜が形成されたものであれば同様に測定を行うことが可能である。
図2は、本発明に係わる潤滑層膜厚測定方法を説明するためのもので、測定装置の構成例を表すブロック図である。走査型プローブ顕微鏡のプローブ部分と被測定試料である磁気記録媒体20を真空層8内に配置して減圧可能としている。
これらを、真空槽8内に設置する。真空槽8は透明窓10を取り付けてレーザー光源の入射を可能とし、また、真空ポンプ9にて排気を可能としている。ニードルバルブ13を通してパージガスを導入可能とすることにより、真空槽8内の真空度を調整する事が出来る。
透明窓10は、レーザー光源11の波長において透明な材料で、かつ減圧に耐えうる剛性を有する材料であれば用いることができる。加工の容易さ等を考慮すればガラス窓が好ましい。
真空ポンプ9は、1〜100Paに減圧可能なポンプであれば用いることができ、例えば、ロータリーポンプを用いることができる。
真空槽8内に導入するパージガスとしては、不活性なガスであれば用いることができ、例えば、乾燥N2ガスを用いることができる。
非磁性基板21は、通常の磁気記録媒体用に用いられるNiPメッキを施したAl合金やガラス、強化ガラス、あるいは結晶化ガラス等を用いることができる。また、基板加熱温度を100℃以内に抑える場合は、ポリカーボネイト、ポリオレフィン等の樹脂からなるプラスチック基板を用いることもできる。
下地層22は、この上に形成する磁性層23の結晶配向性、結晶粒径、粒径分布、粒界偏析等を好適に制御するために形成することが好ましい層で、複数の層から形成することがより好ましい。下地層を省略することも可能である。磁性層23の結晶粒子はCoを主成分としhcp若しくはfcc構造をとるため、下地層も同様にhcp若しくはfccの結晶構造を取ることが好ましい。特に、磁性層23の結晶配向制御の観点からは、六方最密充填の結晶構造(hcp)を有する金属または合金が好ましい。下地層22の膜厚は特に限定されるものではないが、記録再生分解能の向上や生産性の観点からは、磁性層23の結晶構造制御のために必要とされる最小限の膜厚とすることが好ましく、下地層自体の結晶成長が充分得られる3nm以上が好ましい。
また、磁性層23は2層以上の複層の構成にすることができる。例えば第1の磁性層をCoCrTa合金、第2の磁性層をCoCrPtB合金、第3の磁性層をCoCrPtBCu合金等とすると記録密度の向上に効果がある。磁性層を複層とする場合の膜厚は、磁性層全体の膜厚を25nm以下にすることが好ましい。
保護層25は、磁性層以下の層を磁気ヘッドとの接触による破壊から防止するために形成される。従って硬度が高い材料を使用することが好ましく、C、CN(窒化炭素)、DLC(ダイヤモンド状カーボン)等を用いることができる。保護層はスパッタ法またはCVD法等により形成される。保護層は磁気記録媒体の特性を向上させるためには薄いほうが好ましく、2〜5nmの厚さが好ましい。
以下、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
非磁性基板21として、NiPメッキを施した外径95mm、内径25mm、板厚1.27mmのドーナツ形状のアルミ合金を用いた。基板21の表面にテクスチャー加工により、粗さがRaで0.5nmの凹凸を施し、よく洗浄した後、スパッタ装置内に導入してCrからなる非磁性金属下地層22を膜厚15nmにて形成し、引き続き、CoCrPt合金からなる磁性層23を膜厚20nmにて形成し、引き続き、ダイヤモンド状カーボンからなる保護層24を膜厚3.5nmにて形成した。この後、スパッター装置から取り出し、テープバニッシュを行って、微小な異常突起を除去した。引き続き、ソルベイソレクシス(株)製Fomblin Z−DOLを3M社製HF−7100に溶解した希釈液を用いて、浸漬塗布法により潤滑層25を形成した。浸漬塗布時の引き上げ速度は0.8±0.4mm/secである。引き続き、潤滑剤膜厚分布の調整を目的として、大気中で60分間の加熱処理を行って磁気記録媒体20を得た。
プローブ1、カンチレバー2、圧電素子3、カンチレバー保持具4、試料台6、圧電素子7、真空ポンプ9、透明窓10、レーザー光源11、光学式位置センサー12は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の走査型プローブ顕微鏡SPA−300HVを用いた。カンチレバーのバネ定数は42N/m、共振周波数は320kHz、プローブ先端半径は略10nm、カンチレバーとプローブの材質はシリコンである。真空槽8内に導入するパージガスとしては、乾燥N2ガスを用いた。
はじめに、測定を行う磁気記録媒体を導電性ペーストを用いて試料台6に固定した。確実に固定される方法であればこの他の方法も使用可能であり、例えば機械的な方法で固定しても良い。引き続き、真空ポンプ9により、真空チャンバー8の内部を減圧し、1Pa以下の圧力まで減圧した後、ニードルバルブ13により乾燥N2ガスを導入して、真空チャンバー内の圧力が1Paとなる様に調整した。引き続き、圧電素子3に交流電圧を印加する事で、カンチレバー2を共振状態にした。引き続き、プローブの位置調整を次のようにして行った。図4に示す様に、磁気記録媒体表面に対して、共振状態で振動しているプローブ1の先端が、潤滑層25に侵入し、保護層24表面に僅かに接触する状態にする。この時、プローブの先端が保護層表面に周期的に接触する事で、プローブの振動振幅は僅かに小さくなる。ここで、プローブの振動振幅は測定領域内の最大潤滑層厚さよりも大きくしなければならない。この振動振幅値をフィードバックして圧電素子7を調整し、試料台6の高さを調整する事で、振動振幅が一定の状態になる様にして、試料表面を走査する。本実施例では、振動振幅が15nmになる様に調整した。測定領域は1×1μmとし、256×256点の測定を行った。
表2は、試料1〜25について、潤滑層膜厚の平均値δ1、標準偏差σ1、および位相遅れ量の標準偏差σを平均値δで除した位相遅れの相対標準偏差σ/δを示している。
なお、磁気記録媒体に垂直な方向のプローブ変位量を画像化したものが、保護層表面の形状像となる。
表3に示す様に、位相遅れの相対標準偏差σ/δが0.15以下の場合には、CSSによる摩擦係数の増加は低いレベルにとどまり、良好な耐久性を得る事ができる。
2 カンチレバー
3 圧電素子
4 カンチレバー保持具
6 試料台
7 圧電素子
8 真空槽
9 真空ポンプ
10 透明窓
11 レーザー光源
12 光学式位置センサー
13 ニードルバルブ
20 磁気記録媒体
21 非磁性基板
22 下地層
23 磁性層
24 保護層
25 潤滑層
Claims (5)
- 非磁性基板、磁性層、保護層、潤滑層を備えた磁気記録媒体において、
走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを共振状態とし、前記カンチレバーのプローブ側の端部が大気中で自由端の時の共振状態の位相と、該プローブが前記保護層に略接触した時の共振状態の位相との差を位相遅れとしたときに、
前記位相遅れを磁気記録媒体表面の複数の点で測定し、前記位相遅れの平均値をδ、標準偏差をσとして、σ/δが0.15以下であり、
前記潤滑層の平均膜厚が1.5nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
- 前記位相遅れを1ないし100Paの圧力下で測定することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
- 非磁性基板、磁性層、保護層、潤滑層を備えた磁気記録媒体の潤滑層膜厚の測定方法において、
走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを共振状態とし、前記カンチレバーのプローブ側の端部が大気中で自由端の時の共振状態の位相と、該プローブが前記保護層に略接触した時の共振状態の位相との差を位相遅れとし、該位相遅れを測定することを特徴とする潤滑層膜厚の測定方法。 - 前記位相遅れを1ないし100Paの圧力下で測定することを特徴とする請求項3に記載の潤滑層膜厚の測定方法。
- 前記位相遅れの測定領域が略1μm四方であることを特徴とする請求項3ないし4のいずれかに記載の潤滑層膜厚の測定方法。
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