JP4457330B2 - 表面処理方法及びエンジンのシリンダヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばアルミニウム合金鋳物の表面処理方法及びその処理部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車のディーゼルエンジンの高出力化に伴って燃焼室内の最高圧縮圧力も120kgf/cm2程度から150kgf/cm2程度へと高くなって燃焼室を構成するシリンダヘッド等のアルミニウム合金鋳物に対する熱負荷が高まっており、熱疲労や熱応力に対する耐熱性を高めるために局部的に(例えば、隣り合うポート間(弁間部)に)リメルト処理を施ている。また、従来に比べて要求されるリメルト深さも大きくなっている。
【0003】
図26は、従来のディーゼルエンジン用シリンダヘッドの製造工程を説明するフローチャートである。図27は図26の製造工程におけるリメルト処理の概要を説明する図である。
【0004】
図26に示すように、ステップT1では中間体としてのシリンダヘッドを鋳造する。ステップT2では、型から取り出して湯口を削除する。ステップT3では、鋳物に砂出しを主目的としたT6熱処理を施す。ステップT4では、リメルト処理前加工を施す。ステップT5では、鋳物を予熱する。ステップT6では、鋳物の弁間部にリメルト処理を施す。ステップT7では、鋳物に再度T6熱処理を施す。ステップT8では、仕上げ加工を施す。
【0005】
リメルト処理は、図27に示すように、砂出しした鋳物を予熱し、被表面処理領域に電極を近接させ、電極と被表面処理部材との間にTIGやプラズマアークを発生させながら移動させて被処理組織を所定深さで溶融して再度凝固させることで、金属組織を微細化すると共に、鋳造欠陥の減少を図って伸びを増加する効果がある。更に、リメルト処理後に再度T6熱処理を施すことでリメルト処理による残留応力を開放する。リメルト処理では再凝固時の冷却速度を増大させることにより金属組織を微細化し、共晶シリコンの均一分散化を図っている。
【0006】
別の表面処理方法として、特開平7−88645号公報には、弁間部に母材よりも固相線の高いAl−Cu系合金を肉盛り溶接することにより高強度層を形成して、母材との接合性を改善すると共に、熱疲労性の向上を図る構造が開示されている。
【0007】
また、表面処理技術とは異なる技術分野であるが、特許第2712838号公報には、2つの部材の接合面にプローブを回転させながら挿入及び並進させ、接合面近傍の金属組織を摩擦熱により可塑化させて結合する溶接技術が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記リメルト処理では、弁間部の熱容量が小さいことから、シリンダヘッドへの熱負荷増加に対応するために処理深さを増加させようと入熱量を増やしても、過溶融による肩型だれが生じてしまい、処理可能な深さに制約がある。また、入熱量を増加させると処理部の凝固時間が長くなり、組織の微細化効果が低下すると共に、ピンホール欠陥も増加するため、処理深さ増加による効果が相殺され、狙いとする耐熱性向上効果を得ることが難しい。
【0009】
更に、入熱量を増加させるとリメルト処理時の熱応力による部材の割れが発生しやすくなるため、部材の予熱が必要となる。その他、マグネシウムを含有する母材では、溶融時にマグネシウムが蒸発、減少し、リメルト処理後のT6熱処理で強度向上代が小さくなって、所要の機械的特性が得られなくなる虞がある。
【0010】
品質面では、入熱量のバラツキや磁気吹きによる位置ずれなどにより、処理深さのバラツキが大きいこと、処理部のピンホール欠陥は母材のガス含有量や鋳巣面積率に影響を受けることなどから品質安定性を確保することが課題となっている。
【0011】
生産性の面では、処理部を溶融させることから、溶融部分の酸化を防止するためのシールドガスが必要である他、表面酸化物や不純物から発生するガスによる欠陥を防止するため、処理前に鋳肌を除去する工程が追加されている。更に、処理部に発生する高い引張り残留応力を解放するため、後熱処理が必要であることなどから、コスト低減が課題となっている。
【0012】
また、上記公報記載の肉盛り溶接は、生産性の面では肉盛り部材の供給方法が、品質面ではピンホール欠陥の抑制や母材希釈率の安定性確保が課題である。また、母材を溶融させることに起因する課題は、リメルト処理と同様に有している。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、母材中の含有成分の蒸発を抑えて金属組織の微細化や含有成分の均一分散化を図りながら、熱処理により所望の含有成分化合物を金属組織として析出できる表面処理方法及びその処理部材を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決し、目的を達成するために、本発明の表面処理方法は、マグネシウムを0.2〜1.5%、シリコンを1〜24%含有するアルミニウム合金鋳物部材の表面処理方法において、前記部材の中間体を成形し、前記中間体にT6熱処理を施した後に前記中間体の表面改質領域を摩擦により撹拌し、前記摩擦により撹拌した中間体に再度T6熱処理を施し、前記表面改質領域にMg 2 Siを析出させる。
【0016】
また、好ましくは、前記T6熱処理は溶体化処理と時効処理である。
【0017】
また、好ましくは、前記摩擦による撹拌では、先端部に球面状、円筒状、及びネジ状のいずれかのピン形状部が形成され、アルミニウム合金よりも硬度の高い材料からなる工具を回転駆動させつつ、前記部材の表面改質領域に対して押圧しながら相対的に移動させる。
また、好ましくは、前記摩擦による撹拌では、前記工具を表面改質領域面に対して送り方向とは反対方向に傾け角θを0°<θ≦5°の範囲で傾けた状態で移動させる。
【0018】
本発明のエンジンのシリンダヘッドは、前記アルミニウム合金鋳物部材としてのエンジンのシリンダヘッドに、上記表面処理方法を施して製造される。
また、好ましくは、前記Mg 2 Siを析出させる領域は、前記シリンダヘッドの弁間部である。
また、好ましくは、前記弁間部の硬さが少なくともHv120である。
【0019】
【発明の効果】
以上説明のように、本発明によれば、母材中のMg成分の蒸発を抑えて金属組織の微細化や含有成分の均一分散化を図りながら、T6熱処理によりMg 2 Siを析出させて強度を高めることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る実施形態の表面処理方法を実施するための摩擦撹拌装置の概略図である。図2は、図1のピン状工具付近の拡大図である。図3は、ピン状工具の詳細図である。図4は、球面タイプの先端ピン形状を示す図である。図5は、円筒タイプの先端ピン形状を示す図である。図6は、ねじ切りタイプの先端ピン形状を示す図である。
【0025】
本実施形態の摩擦撹拌による表面処理は、被表面処理部材の一例としてアルミニウム合金鋳物を対象としており、特に自動車のシリンダヘッドに形成される隣り合うポート間(弁間部)やピストン、ブレーキディスク等の表面改質処理に用いられ、アルミニウム合金鋳物の表面改質領域を摩擦熱により溶融させることなく撹拌させることにより、金属組織の微細化や共晶シリコン(Si)粒子の均一分散化、鋳造欠陥の減少を図り、熱疲労(低サイクル疲労)寿命や伸び、耐衝撃性等の材料特性において従来のリメルト処理以上のものを得ることができる。
【0026】
ここで、溶融しないで攪拌する状態とは、母材に含有される各成分或いは共晶化合物の中で最も融点が低いものよりもさらに低い温度下で摩擦熱により金属組織を軟化させて攪拌することを意味する。
【0027】
図1乃至図3に示すように、摩擦撹拌装置1は、球状の非消耗型ピン状工具2がその先端部3に固定又は装着された円筒状の回転軸4と、この回転軸4を回転させてピン状工具2を回転駆動させつつ、被表面処理部材の表面改質領域に対して押圧しながら相対的に移動させる工具駆動手段5とを備える。
【0028】
工具駆動手段5としては、モータ等によりピン状工具2が回転可能で、かつ送りネジ機構やロボットアーム等によりピン状工具2を上下左右のあらゆる方向に移動可能な装置であって、ピン状工具の回転数、送り速度及び押圧力を制御可能なものが用いられる。他の形態としては、ピン状工具を回転可能に軸支すると共に、被表面処理部材を相対的に上下左右のあらゆる方向に移動させてもよい。
【0029】
ピン状工具2と回転軸4の先端部3とは、アルミニウム合金よりも硬度の高い鋼材からなり、先端ピン形状が、所定半径の球面に形成されている。回転軸4は先端部3にピン状工具2が形成された第1円筒軸6と、この第1円筒軸6の上端部に連結されたより大径の第2円筒軸7と、この第2円筒軸7の上端部に連結された第1円筒軸6より大径で第2円筒軸7より小径の第3円筒軸8とから構成されている。第3円筒部8は工具駆動手段5に取り付けられる。
【0030】
先端ピン形状は球面タイプ(図4)の他に、円筒タイプ(図5)、ねじ切りタイプ(図6)等があるが、特にピン外周にネジ溝が形成されたねじ切りタイプの撹拌能力が高く好ましい。
【0031】
本実施形態では、図7に示すように、被表面処理部材としてJISで規格化されたアルミニウム合金であるAC4Dを一例として用いるが、アルミニウム合金のマグネシウム(Mg)含有率として0.2〜1.5重量%、シリコン(Si)含有率として1〜24重量%、好ましくは4〜13重量%の範囲で組成比率を変更可能である。他にAC4B,AC2B、ピストンに用いるAC8A等も利用できる。シリコン含有率の上限を24%に設定する理由は、それ以上シリコンを増加しても材料特性や鋳造性が飽和すると共に、攪拌性が悪化するからである。
【0032】
マグネシウムを含有するアルミニウム合金鋳物は、熱処理によりMg2Siを析出させて強度が高まる。ところが、リメルト処理のように溶融させて金属組織を微細化させる場合には、低融点(650℃)のマグネシウムが蒸発して含有量が低下することがある。そして、マグネシウム含有量が低下すると熱処理を施しても硬さや強度が低下して所望の材料特性が得られないことになる。
【0033】
一方、摩擦撹拌による表面処理では、金属組織を溶融させないのでマグネシウムが蒸発することもないため、アルミニウム合金鋳物は熱処理によりMg2Siを析出させて強度が高められるのである。
【0034】
アルミニウム合金にシリコンを添加することにより、鋳造性(溶湯の流動性、引け特性、耐熱間割れ性)は向上するが、共晶シリコンが一種の欠陥として作用して機械的特性(伸び)が低下する。
【0035】
共晶シリコンは硬くて脆く、亀裂発生の起点や伝播経路となるため伸びが低下する。また、弁間部のように繰り返し熱応力を受ける部位ではその疲労寿命が低下する。そして、金属組織ではデンドライトに沿って共晶シリコンが連なった形態を呈しているが、共晶シリコンを微細化し、均一に分散させることによって応力集中による亀裂の発生と、発生した亀裂の伝播を抑制することが可能となる。
【0036】
図8(a)は先端ピン長さに応じた処理深さを示す図であり、図8(b)は先端ピン長さPLを示す図であり、図8(c)は最大処理深さDmaxを示す図である。図9は、ピン状工具の回転数及び送り速度に応じた処理深さを示す図である。
【0037】
本実施形態では、先端ピン長さPLを要求深さの80〜90%に設定する。要求深さは先端ピン長さの1.1〜1.2倍となり、(0)〜10mm程度まで設定可能である。また、図8(a)に示すように、最大処理深さDmaxは先端ピン長さPLに比例(ピン長さの1.1〜1.2倍)して大きくなり、最大処理幅もピン径に比例して大きくなる。また、図9に示すように、最大処理深さDmaxは先端ピン長さPLで決まり、回転数や送り速度による影響は少ないと言える。更に、図9に例示するリメルト処理による最大処理深さに比べてばらつきは小さくなって信頼性を高めることができる。
【0038】
本実施形態のように燃焼室内の最高圧縮圧力が150kgf/cm2程度と高いシリンダヘッドの弁間部を表面処理する場合には、生産性を考慮してピン状工具の回転数を1200〜2400rpm、送り速度を30〜150mm/min、最大処理深さDmaxを仕上げ加工後で4mm以上(加工取り代1mm以下)に設定するのが好ましい。
【0039】
図10は、未充填欠陥の発生要因を説明する図である。図11は、ピン状工具の傾け角度を示す図である。
【0040】
また、上記処理条件においてピン状工具が処理表面に対して垂直(ピン状工具の傾け角θが0°)では、図10に示すピン状工具の角部近傍に発生する未充填欠陥の防止が難しい。また、傾け角θが5°より大きくなると回転軸4の先端部3のエッジで処理表面に深い溝が形成され、バリが多く生成されるために外観が悪くなると共に、仕上げ加工時に取り代が多くなって好ましくない。そこで、図11に示すようにピン状工具を表面処理領域面に対して送り方向とは反対方向に傾け角θを0°<θ≦5°の範囲で傾けた状態で移動させることで、未充填欠陥を抑え、処理深さや送り速度をより高めて生産性を向上することができる。
[シリンダヘッドの製造方法]
次に、本実施形態によるディーゼルエンジン用シリンダヘッドの製造工程について説明する。
【0041】
図12は、本実施形態のディーゼルエンジン用シリンダヘッドの製造工程を説明するフローチャートである。
【0042】
図12に示すように、ステップS1では中間体としてのシリンダヘッドをアルミニウム合金から鋳造する。ステップS2では、鋳物を鋳造型から取り出して湯口を削除する。ステップS3では、鋳造型から取り出した鋳物に砂出しを主目的としたT6熱処理を施す。ステップS4では、鋳物の弁間部に摩擦撹拌により表面処理を施す。ステップS5では、鋳物に再度T6熱処理を施して硬さや強度を増加する。ステップS6では、仕上げ加工を施す。
【0043】
以上のように、摩擦撹拌による表面処理を行うことで、図26のステップT4のリメルト処理前加工、ステップT5の鋳物予熱、再T6熱処理が不要となるため、従来に比べて製造工程を簡略化して製造コストの削減を図ることができる。。
[摩擦撹拌による表面処理]
次に、上記製造工程における摩擦撹拌処理ついて説明する。
【0044】
図13乃至図17は、弁間部の摩擦撹拌処理手順を説明する図である。
【0045】
摩擦撹拌処理の前工程として、図13に示すように、シリンダヘッドを鋳造する際に、隣り合うポート14,15の中心を結ぶ線L1に沿った弁間部10の各ポートの延長部分に余肉部11と鋳抜き穴12とを有する中間体を形成する。鋳抜き穴12は鋳造後にドリル等で加工してもよく、ピン状工具2の直径及び長さと略同じ寸法に形成される。
【0046】
次に、図14に示すように、ピン状工具2を回転駆動しながら鋳抜き穴12に挿入して位置決めすると共に、回転軸4の先端部3を弁間部10の表面に押圧して処理深さを決める。
【0047】
続いて、図15に示すように、隣り合うポートの中心を結ぶ線L1をピン状工具2の移動軌跡として、工具駆動手段5によってピン状工具2を一方の余肉部11の鋳抜き穴12を始点として他方の余肉部11に移動軌跡に沿って摩擦により撹拌しながら移動させる。この際、弁間部表面には回転軸4の先端部3の押圧により線L1に沿って円弧状の溝16が形成される。
【0048】
更に、図16に示すように、ピン状工具2を他方の余肉部11まで移動させた後、弁間部11から離間させる。この際、他方の余肉部11にはピン状工具2の終点として終端穴13が形成される。
【0049】
最後に、図17に示すように、余肉部11を削除してポート14,15を仕上げ加工する。
【0050】
図18(a)はリメルト処理による弁間部の処理方向を示す図であり、図18(b)は図18(a)の処理方向による処理深さを示す断面図である。図19(a)は本実施形態の摩擦攪拌処理による弁間部び処理方向を示す図であり、図19(b)は図19(a)の処理方向による処理深さをピン状工具の移動軌跡に対して直角方向から見た断面図である。図20は本実施形態の摩擦攪拌処理による弁間部の処理深さをピン状工具の移動軌跡に平行な方向から見た断面図である。
【0051】
上記表面処理において、隣り合うポート14,15の中心を結ぶ線L1をピン状工具2の移動軌跡として弁間部10を最短距離で横断させることによって、図19及び図20に示すように弁間部10の割れ発生方向に処理されるため、図18のように弁間部10の割れ発生方向に対して直角に処理するリメルト処理に比べて弁間部10の処理深さを容易に増加することができる。尚、ピン状工具2の移動軌跡は、隣り合うポートの中心を結ぶ線だけでなく、他の割れの発生しやすい領域に設定することも可能である。
【0052】
図21(a)は、本実施形態の表面処理が施された金属組織及び母材の断面図であり、図21(b)は図21(a)の金属組織及び母材を個別に示す断面図である。図22(a)は、本実施形態の表面処理が施された金属組織を示す断面図であり、図22(b)は、リメルト処理が施された金属組織を示す断面図である。
【0053】
図21に示すように、摩擦攪拌による表面処理を施すことによって微細な共晶シリコンが均一に分散し、空孔欠陥のない金属組織が形成できる。また、図22に示すように、リメルト処理と同程度の微細な金属組織が形成できる。
[表面処理後の熱処理]
図23は撹拌による表面処理後にT6熱処理を施した場合と施さない場合の硬さを比較して示す図である。図24は、T6熱処理のみ、撹拌による表面処理後にT6熱処理を施した場合、リメルト処理後にT6熱処理を施した場合の機械的特性を比較して示す図である。図25は、熱処理の違いに応じて変化する初期硬さと熱疲労寿命との関係を示す図である。
【0054】
上記摩擦撹拌による表面処理に加えて、仕上げ加工前に熱処理を施すと、熱処理を施さない場合に比べて、図23に示すように表面処理組織及びその下層の母材ともに硬さ(Hv)を増大させることができる。また、図24に示すようにT6処理のみ施したもの、リメルト処理後にT6熱処理を施したもの、摩擦撹拌処理のみ施したものの各機械的特性に比べて優れた引張強度及び伸び特性を得ることができる。
【0055】
また、図25からわかるように、熱処理を施さない方が初期硬さが低く、伸び特性が高いため、熱疲労寿命が高くなって熱衝撃に対する強度が大きくなる。従って、大きな熱疲労強度が要求される部位には摩擦撹拌処理のみを施した伸び特性が高い状態で使用するのが有効である。
【0056】
これに対して、熱疲労と機械的な高サイクル疲労とが重畳されるような部位には、伸びだけでなく強度も必要となるので高い強度と伸びを両立させるために、摩擦撹拌処理とT6熱処理を施すのが有効である。また、熱の影響により処理組織近傍が軟化して強度が低下する場合にも、T6熱処理は強度を回復するのに有効である。
【0057】
熱処理の一例として、JIS規格のT6熱処理(溶体化処理と時効処理)が有効である。溶体化処理は、溶体化温度535℃(±5℃)で4時間保持した後に沸騰水で焼き入れする。時効処理は、時効温度180℃(±5℃)で6時間保持した後に空冷する。
【0058】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を修正又は変形したものに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施形態の表面処理方法を実施するための摩擦撹拌装置の概略図である。
【図2】図1のピン状工具付近の拡大図である。
【図3】ピン状工具の詳細図である。
【図4】球面タイプの先端ピン形状を示す図である。
【図5】円筒タイプの先端ピン形状を示す図である。
【図6】ねじ切りタイプの先端ピン形状を示す図である。
【図7】本実施形態のアルミニウム合金の成分比率を示す図である。
【図8】(a)は先端ピン長さに応じた処理深さを示す図、(b)は先端ピン長さPLを示す図、(c)は最大処理深さDmaxを示す図である。
【図9】ピン状工具の回転数及び送り速度に応じた処理深さを示す図である。
【図10】未充填欠陥の発生要因を説明する図である。
【図11】ピン状工具の傾け角を示す図である。
【図12】本実施形態のディーゼルエンジン用シリンダヘッドの製造工程を説明するフローチャートである。
【図13】弁間部の表面処理手順を説明する図である。
【図14】弁間部の表面処理手順を説明する図である。
【図15】弁間部の表面処理手順を説明する図である。
【図16】弁間部の表面処理手順を説明する図である。
【図17】弁間部の表面処理手順を説明する図である。
【図18】(a)はリメルト処理による弁間部の処理方向を示す図であり、(b)は(a)の処理方向による処理深さを示す断面図である。
【図19】(a)は本実施形態の摩擦攪拌処理による弁間部び処理方向を示す図であり、(b)は(a)の処理方向による処理深さをピン状工具の移動軌跡に対して直角方向から見た断面図である。
【図20】本実施形態の摩擦攪拌処理による弁間部の処理深さをピン状工具の移動軌跡に平行な方向から見た断面図である。
【図21】(a)は、本実施形態の表面処理が施された金属組織及び母材の断面図であり、(b)は(a)の金属組織及び母材を個別に示す断面図である。
【図22】(a)は、本実施形態の表面処理が施された金属組織を示す断面図であり、(b)は、リメルト処理が施された金属組織を示す断面図である。
【図23】撹拌による表面処理後にT6熱処理を施した場合と施さない場合の硬さを比較して示す図である。
【図24】T6熱処理のみ、撹拌による表面処理後にT6熱処理を施した場合、リメルト処理後にT6熱処理を施した場合の引張強度と伸び特性を比較して示す図である。
【図25】熱処理の違いに応じて変化する初期硬さと熱疲労寿命との関係を示す図である。
【図26】従来のディーゼルエンジン用シリンダヘッドの製造工程を説明するフローチャートである。
【図27】リメルト処理の概要を説明する図である。
【符号の説明】
1 摩擦撹拌装置
2 ピン状工具
3 先端部
4 回転軸
5 工具駆動手段
10 弁間部
11 余肉部
12 鋳抜き穴
13 終端穴
Claims (7)
- マグネシウムを0.2〜1.5%、シリコンを1〜24%含有するアルミニウム合金鋳物部材の表面処理方法において、
前記部材の中間体を成形し、
前記中間体にT6熱処理を施した後に前記中間体の表面改質領域を摩擦により撹拌し、
前記摩擦により撹拌した中間体に再度T6熱処理を施し、前記表面改質領域にMg 2 Siを析出させることを特徴とする表面処理方法。 - 前記T6熱処理は溶体化処理と時効処理であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
- 前記摩擦による撹拌では、先端部に球面状、円筒状、及びネジ状のいずれかのピン形状部が形成され、アルミニウム合金よりも硬度の高い材料からなる工具を回転駆動させつつ、前記部材の表面改質領域に対して押圧しながら相対的に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
- 前記摩擦による撹拌では、前記工具を表面改質領域面に対して送り方向とは反対方向に傾け角θを0°<θ≦5°の範囲で傾けた状態で移動させることを特徴とする請求項3に記載の表面処理方法。
- 前記アルミニウム合金鋳物部材としてのエンジンのシリンダヘッドに、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表面処理方法を施して製造されたことを特徴とするエンジンのシリンダヘッド。
- 前記Mg 2 Siを析出させる領域は、前記シリンダヘッドの弁間部であることを特徴とする請求項5に記載のエンジンのシリンダヘッド。
- 前記弁間部の硬さが少なくともHv120であることを特徴とする請求項6に記載のエンジンのシリンダヘッド。
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