以下、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に、各構成要素の形状、大きさ、及び配置関係を概略的に示してあるに過ぎない。また、以下に説明する実施の形態は、単なる好適例にすぎず、従って、この発明の構成は、以下に説明する図示の構成例のみに何ら限定されるものではなく、この発明の範囲を逸脱することなく、多くの変形や変更を行い得ることが明らかである。
〈第1の参考例〉
第1の参考例では、熱蛍光板状体を利用した線量計であって、かつ放射線の3次元線量分布を取得することができる線量計として、複数枚の熱蛍光板状体が積層されて形成されている熱蛍光積層体、及びその製造方法の好適例について説明する。
図1は、この発明の第1の参考例を説明するための図であり、第1の参考例に係る熱蛍光積層体を概略的に示した斜視図である。
第1の参考例に係る熱蛍光積層体11は、図1に示すように複数枚の熱蛍光板状体13が積層されて形成されている。
この第1の参考例では、熱蛍光板状体13として、従来周知の、例えば上述した特許文献1に開示されているシート状、すなわち平板状の熱蛍光板状体を用いる。この熱蛍光板状体は、特許文献1に開示されている方法で形成すれば、得ることができる。
第1の参考例に係る熱蛍光板状体11は、主に放射線治療に用いる放射線の人体に対する影響を検証するために、放射線の線量を測定する目的で用いられる。既に説明したように、人体に対する放射線の影響に関するデータを取得する場合には、人体を構成する生体組織と組織等価な、すなわち実効原子番号が同程度である線量計を利用して測定が行われる。そして、人体の筋肉組織の実効原子番号は、7.42程度である(例えば、「医療科学社 改訂版 放射線計測学 日本放射線技術学会監修 P.136(ファイルNo.1−2)」参照)。
そこで、第1の参考例では、実効原子番号が7.42に近似な、すなわち人体と組織等価に調整された熱蛍光板状体13を以って、熱蛍光積層体11を構成する。そのために、熱蛍光板状体13は、この熱蛍光板状体13における熱蛍光物質としての熱蛍光本体、すなわち実効原子番号が7.24程度である、母体としての四ホウ酸リチウムと、この母体に添加された、発光中心としてのマンガンとを含む、当該熱蛍光本体を含有している。その結果、熱蛍光板状体13中の熱蛍光本体は、実効原子番号が7.42に近似な値となる。なお、この第1の参考例において、熱蛍光本体の母体である四ホウ酸リチウムは、アルミニウム(III)非含有である。
そして、熱蛍光板状体13は、この熱蛍光本体と耐熱性樹脂とで構成されている。耐熱性樹脂は、例えばフッ素樹脂、ポリエーテル樹脂、またはポリアミド樹脂等であり、熱蛍光板状体13中においてバインダとして機能する。
ところで、このような熱蛍光板状体13は、これに放射線が照射されると、被照射箇所、すなわち被曝箇所が熱により蛍光を発生する。この熱蛍光の光強度は、既に説明したように、被曝箇所における被曝線量と一定の関係にある。従って、この熱蛍光板状体13の、照射された面、すなわち被照射面に沿った、熱蛍光の光強度分布を測定すれば、この2次元光強度分布に対応した、被照射面を含む面内での2次元線量分布を測定することができる。な、光強度分布の測定、及び対応する線量分布の測定については、後述する。
この第1の参考例では、放射線の3次元線量分布を測定するために、複数枚の熱蛍光板状体13を積層させて熱蛍光積層体11を構成する。第1の参考例では、各熱蛍光板状体13から得られる各2次元線量分布から、詳細な3次元線量分布を取得するために、各熱蛍光板状体13の厚み、すなわち熱蛍光積層体11の積層方向15に沿った厚みを、例えば2mm程度とするのが好ましい。また、熱蛍光積層体11を構成する熱蛍光板状体13の数、及び各熱蛍光板状体13の、積層方向15に直交する面、すなわち積層面13aの平面形状は、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、適宜設定される。なお、図1では、26枚の熱蛍光板状体13を積層させ、かつ各熱蛍光板状体13の積層面13aの平面形状を長方形とした、熱蛍光積層体11の構成例を示している。
上述した第1の参考例による熱蛍光積層体11では、熱蛍光本体と耐熱性樹脂とで構成されている熱蛍光板状体13が、複数枚積層されることによって形成されている。既に説明したように、この熱蛍光板状体13は、放射線が照射された面に沿った、放射線の平面的な線量分布、すなわち2次元線量分布を測定することができる。従って、第1の参考例による熱蛍光積層体11では、これに放射線が照射された後に、この熱蛍光積層体11を、これを構成する各熱蛍光板状体13を一旦バラす。バラされた各熱蛍光板状体13に対し加熱を行ってから、熱蛍光を発生させる。各熱蛍光板状体13に熱蛍光の上述した2次元光強度分布をそれぞれ測定する。これら光強度分布から、これら光強度分布に対応する、放射線の2次元線量分布をそれぞれ得ることができる。このとき、得られる2次元線量分布は、各熱蛍光板状体13の積層面13aに沿った各2次元線量分布である。そして、得られた各2次元線量分布を、各熱蛍光板状体11の積層方向15に、積層順に順次重ね合わせる。この積層は放射線照射された熱蛍光積層体における3次元線量分布を復元するものであり、よって、照射された放射線の3次元線量分布を実質上取得することができる。なお、この熱蛍光積層体11を用いた、放射線の3次元線量分布の具体的な取得方法については後に詳細に説明する。
また、第1の参考例による熱蛍光積層体11では、この熱蛍光積層体11を構成する各熱蛍光板状体13中において熱蛍光を発生させる熱蛍光本体が、実効原子番号が7.24である四ホウ酸リチウムを母体として形成されている。従って、熱蛍光積層体11の実効原子番号は、人体の実効原子番号に近似な値に調整されているとみなすことができる。そのため、第1の参考例による熱蛍光積層体11を線量計として用いた場合には、種々の補正を行うことなく、得られた線量分布を以って、人体に対する放射線の被曝線量に関するデータを取得することができる。なお、第1の参考例による熱蛍光積層体11を用いて取得されたデータは、第1の参考例に係る熱蛍光本体と近似な実効原子番号を有する物質であれば、人体以外の物質に対する被曝線量に関するデータとして利用することもできる。
また、第1の参考例による熱蛍光積層体11は、保存及び品質管理が容易であり、かつ使用に際しての設備が簡易である、熱蛍光板状体13によって構成されている。そのため、第1の参考例による熱蛍光積層体11は、3次元線量分布を取得する線量計として使用でき、かつ上述したポリマーゲル線量計と比して、コストの低減及び汎用性において有利であるといえる。
以上説明したこの第1の参考例による熱蛍光積層体11の製造方法について、図2(A)及び(B)を参照して説明する。この製造方法は、第1工程及び第2工程を含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。
図2(A)及び(B)は、第1の参考例による熱蛍光積層体11の製造方法を説明する工程図である。これらの各図は、それぞれ、各製造段階で得られた構造体を概略的な斜視図で示してある。
まず、第1工程では、図2(A)に示すように複数枚の熱蛍光板状体13を用意する。
第1の参考例では、既に説明したように、熱蛍光積層体を構成する熱蛍光板状体13として、従来周知の、例えば上述した特許文献1に開示されている、平板状の熱蛍光板状体を用いる。そこで、この第1工程では、上述した熱蛍光板状体13、すなわちアルミニウム(III)非含有の熱蛍光本体と耐熱性樹脂とで構成されていて、かつ熱蛍光本体が、母体としての四ホウ酸リチウムと、母体中に発光中心としてのマンガンとを含む熱蛍光板状体13を複数枚用意する。これら各熱蛍光板状体13は、上述したように、熱蛍光本体の実効原子番号が、人体の実効原子番号に近似な値に調整されている。また、第1の参考例では、各熱蛍光板状体13の厚みを、例えば2mm程度とする。そして、この第1工程において用意する熱蛍光板状体13の数、及び積層面13aの平面形状を、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、適宜設定しておく。上述した特許文献1によれば、この熱蛍光板状体13は、スライサによってスライスすることが可能であるため、第1の参考例では、予め各熱蛍光板状体13の厚みを2mmとし、積層面13aの平面形状を、測定する放射線に応じて適宜成型しておく。なお、図2(A)では、各熱蛍光板状体13の積層面13aの平面形状を長方形とした場合の構成例を示している。
次に、第2工程では、複数枚の熱蛍光板状体13を積層して、熱蛍光積層体11を形成して図2(B)に示すような構造体を得る。
第1の参考例では、第1工程において用意した複数の熱蛍光板状体13を、例えば接着剤等を用いることなく、各熱蛍光板状体13の積層面13aを直接重ね合わせて、順次積層させて熱蛍光積層体11を得る。
〈第1の実施の形態〉
第1の実施の形態では、母体としての四ホウ酸リチウムと、この母体中に存在するマンガン及びアルミニウム(III)とを含む熱蛍光板状体、及びその製造方法の好適例について説明する。
第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、上述した第1の参考例における熱蛍光板状体13(図1または図2参照)と同様に、平板状の熱蛍光板状体である。
そして、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、母体としての四ホウ酸リチウムと、この母体中に存在するマンガン及びアルミニウム(III)とを含む熱蛍光本体を以って構成されている。
母体に含まれるマンガンは、熱蛍光本体、すなわち熱蛍光板状体において、発光中心として作用する。なお、この第1の実施の形態では、熱蛍光板状体を製造する際に、四ホウ酸リチウムに、酸化マンガン(IV)を添加することによって、母体にマンガンを含有させる。従って、この第1の実施の形態では、発光中心であるマンガンは、例えば、単体のマンガンとしてのみではなく、各種酸化数のマンガン、または熱蛍光本体に含まれるその他の物質との化合物等の状態で含まれている場合もあり得る。
また、アルミニウム(III)は、熱蛍光本体、すなわち熱蛍光板状体の感度を高める目的で含まれている。すなわち、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、母体としての四ホウ酸リチウムにアルミニウム(III)を含有させることによって、放射線が照射された熱蛍光板状体から線量分布を取得する際、すなわち例えば、好ましくは熱蛍光板状体を暗箱中において加熱し、被曝箇所を発光させる際に、より高い発光強度で被曝箇所を発光させることができる。従って、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、アルミニウム(III)が含まれていない熱蛍光板状体よりも高感度で放射線の線量分布を得ることができる。
また、アルミニウム(III)は、熱蛍光本体の機械的強度を増加させる作用を呈する。その結果、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、母体としての四ホウ酸リチウムにアルミニウム(III)を含有させることによって、例えば耐熱性樹脂等のバインダを用いることなく、熱蛍光本体を以って当該熱蛍光板状体が構成されている。
なお、この第1の実施の形態では、熱蛍光板状体を製造する際に、四ホウ酸リチウムに、酸化アルミニウム(III)を添加することによって、母体にアルミニウム(III)を含有させる。従って、この第1の実施の形態では、アルミニウム(III)は、例えば、酸化アルミニウム(III)、または熱蛍光本体に含まれるその他の物質との化合物等の状態で含まれている場合もあり得る。
ここで、発明者らは、熱蛍光本体がアルミニウム(III)を含むことによって、発光強度が増加することを確認するための実験を行った。この実験では、母体としての四ホウ酸リチウムに、互いに異なる添加量で酸化アルミニウムを添加し、焼結体とした後粉砕したものを、複数の試料として用意した。そして、各試料に対して8.1keVのエネルギーで約50Gyの線量のX線を照射した後、暗箱中において昇温速度0.5℃/secで加熱し、それぞれの被曝箇所からの発光強度を測定した。なお、各試料には、発光中心として作用させるために、酸化マンガン(IV)を四ホウ酸リチウムに対して、0.036wt%の割合で添加した。
図3は、この実験の結果を示す図であり、熱蛍光本体の発光強度と、アルミニウム(III)の含有量との関係を確認するための図である。図3において、縦軸は発光強度の相対値を、また、横軸は温度(℃)を目盛ってある。
また、図3において、曲線Iは、酸化アルミニウムを無添加の試料についての結果を示している。また、曲線IIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.2wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.4wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IVは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.6wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線Vは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.8wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを1.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを2.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを4.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IXは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを6.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線Xは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを8.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。
図3の結果から明らかなように、酸化アルミニウムを0.2wt%の割合で添加した試料(曲線II)、0.4wt%の割合で添加した試料(曲線III)、0.6wt%の割合で添加した試料(曲線IV)、0.8wt%の割合で添加した試料(曲線V)、1.0の割合で添加した試料(曲線VI)、2.0wt%の割合で添加した試料(曲線VII)、及び4.0wt%の割合で添加した試料(曲線VIII)には、それぞれ酸化アルミニウムを無添加の試料(曲線I)と比して、高いピークが現れている。この結果から明らかなように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体において、母体としての四ホウ酸リチウムにアルミニウム(III)を含有させることが、発光強度を増加させるために有効であることが確認された。
ところで、母体に添加するアルミニウム(III)は、上述したように、熱蛍光本体、すなわちこの第1の実施の形態に係る熱蛍光板状体の発光強度及び機械的強度を増加させる効果を奏するが、アルミニウム(III)の含有量と、これら発光強度及び機械的強度増加の効果とは、以下のような依存関係にある。
すなわち、図3から明らかなように、熱蛍光本体の発光強度は、アルミニウム(III)の含有量に比例して増加するが、過剰に添加した場合には発光強度が低下する。例えば、図3の結果を得た上述の実験によれば、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを6.0wt%の割合で添加した試料(曲線IX)、及び酸化アルミニウムを8.0wt%の割合で添加した試料(曲線X)では、酸化アルミニウムを無添加の試料(曲線I)と比して、発光強度のピークの値が低下している。この結果から、熱蛍光本体の発光強度を増加するための、アルミニウム(III)の含有量には最適値が存在することが分かる。そして、図3の結果を得た上述の実験では、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.6wt%の割合で添加した試料(曲線IV)に、250℃において最も高い発光強度のピークが現れた。従って、この実験から、四ホウ酸リチウムを母体とし、かつ発光中心としてマンガンを含む熱蛍光本体の発光強度を増加するためには、アルミニウム(III)を、酸化アルミニウムの状態で、四ホウ酸リチウムに対して0.6wt%の割合で添加するのが最適といえる。
これに対して、熱蛍光本体の機械的強度は、アルミニウム(III)の含有量に対して、単純に比例して増加する。従って、熱蛍光板状体の機械的強度をより増加させるために、高い含有量でアルミニウム(III)を含有させ、その結果、上述した最適値を超えた場合には、発光強度を増加させる効果を効率良く得ることができない。
そこで、この発明に係る発明者らは、熱蛍光本体、すなわちこの第1の実施の形態に係る熱蛍光板状体の機械的強度をより増加させる目的で、より大きな含有量でアルミニウム(III)を添加しつつ、かつ発光強度を低下させないために、母体である四ホウ酸リチウムに、酸化ホウ素を含有させることが有効であることを見出した。すなわち、母体に酸化ホウ素を含有させることによって、上述した、発光強度を増加させるための最適値が、大きくなることが確認された。
ここで、発明者らは、熱蛍光本体が酸化ホウ素を含むことによって、発光強度が増加することを確認するための実験を行った。この実験では、母体としての四ホウ酸リチウムに、互いに異なる添加量で酸化アルミニウム及び酸化ホウ素を添加し焼結体とした後、粉砕したものを、複数の試料として用意した。そして、各試料に対して8.1keVのエネルギーで約50Gyの線量のX線を照射した後、暗箱中において昇温速度0.5℃/secで加熱し、それぞれの被曝箇所からの発光強度を測定した。なお、各試料には、図3の結果を得た上述の実験と同様に、発光中心として作用させるために、酸化マンガン(IV)を四ホウ酸リチウムに対して、0.036wt%の割合で添加した。
図4は、この実験の結果を示す図であり、熱蛍光本体の発光強度と、アルミニウム(III)及び酸化ホウ素の含有量との関係を確認するための図である。図4において、縦軸は発光強度の相対値を、また、横軸は温度(℃)を目盛ってある。
また、図4において、曲線Iは、酸化アルミニウム及び酸化ホウ素を無添加の試料についての結果を示している。また、曲線IIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.2wt%、また、酸化ホウ素を0.6wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.4wt%、また、酸化ホウ素を1.2wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IVは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを0.6wt%、また、酸化ホウ素を1.8wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線Vは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを1.0wt%、また、酸化ホウ素を3.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを2.0wt%、また、酸化ホウ素を6.0wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを4.0wt%、また、酸化ホウ素を12wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線VIIIは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを6.0wt%、また、酸化ホウ素を18wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。また、曲線IXは、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを8.0wt%、また、酸化ホウ素を24wt%の割合で添加した試料についての結果を示している。
この実験によって得られた図4では、四ホウ酸リチウムに対して、酸化アルミニウムを2.0wt%、また、酸化ホウ素を6.0wt%の割合で添加した試料(曲線VI)に、253℃において最も高い発光強度のピークが現れている。従って、この実験では、酸化ホウ素を熱蛍光本体に添加した場合には、酸化アルミニウムの状態で、四ホウ酸リチウムに対して2.0wt%の割合で添加するのが最適といえる。ここで、上述した図3に係る、酸化ホウ素を非含有の試料を用いた実験では、発光強度増加のための酸化アルミニウムの最適な添加量は0.6wt%であった。従って、これら図3及び図4の結果から、母体に酸化ホウ素を含有させることによって、発光強度を増加させるための、アルミニウム(III)の添加量の最適値が、大きくなることが確認された。従って、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、母体に酸化ホウ素を含有しているのが好ましい。なお、これらアルミニウム(III)及び酸化ホウ素の好適な添加量については、後に詳細に説明する。
また、第1の実施の形態では、熱蛍光本体、すなわち熱蛍光板状体の実効原子番号は、上述した第1の参考例に係る熱蛍光板状体と同様に、人体の実効原子番号と近似な値に調整されているのが好ましい。より具体的には、実効原子番号の算出方法や、その決定のバラツキを考慮すると、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、実効原子番号が7.3から7.5までの値程度に調整されているのが好ましい。
さらに、第1の実施の形態では、熱蛍光本体の密度が、人体の筋肉組織の密度である1gcm−3と近似な値に調整されている。
ここで、既に説明したように、第1の実施の形態では、熱蛍光本体がアルミニウム(III)を含んでいることによって、バインダを用いることなく、この熱蛍光本体を以って熱蛍光板状体が構成されている。従って、第1の実施の形態では、熱蛍光本体の密度が、熱蛍光板状体の密度となる。そのため、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、人体により近似な密度を有している。
なお、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、製造時において、熱蛍光板状体を構成する各原料、すなわち母体としての四ホウ酸リチウムと、この母体に含まれるマンガン、アルミニウム(III)、及び酸化ホウ素との添加量を調整することによって、上述した実効原子番号を調整することができる。また、第1の実施の形態では、製造時において、熱蛍光板状体を得るための熱処理時に、熱処理される、熱蛍光板状体の前駆体に活性炭を加え、当該熱処理によってこの活性炭を焼失させることによって、得られる熱蛍光板状体を所望の密度に調整する。これら実効原子番号及び密度を人体と近似な値に調整するための、各原料の好適な添加量、及び上述した熱処理時に添加する活性炭の添加量については、後述する製造方法において説明する。
第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、上述した第1の参考例に係る熱蛍光板状体の場合と同様に、放射線が照射された面に沿った、放射線の平面的な線量分布、すなわち2次元線量分布を測定することができる。そして、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、上述した第1の参考例に係る熱蛍光板状体の場合と同様に、放射線の3次元線量分布を取得するために、複数枚積層されることによって、熱蛍光積層体として使用されることが想定されている。そこで、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、複数枚積層され、放射線が照射されたときに、その照射による詳細な3次元線量分布を取得可能とするために、厚みを例えば2mm程度とするのが好ましい。また、第1の実施の形態による熱蛍光板状体の積層面、すなわち厚みに直交する面の平面形状は、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、適宜設定される。
次に、以上説明したこの第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法について説明する。この製造方法は、第1工程から第5工程までを含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。
まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、酸化マンガン(IV)(MnO2)、及び酸化アルミニウム(Al2O3)を混合して第1混合体を形成する。
既に説明したように、製造される熱蛍光板状体において、四ホウ酸リチウムは、熱蛍光本体の母体となる。また、酸化マンガン(IV)に含まれるマンガンは、製造される熱蛍光板状体の発光中心として作用する。また、酸化アルミニウムに含まれるアルミニウム(III)は、製造される熱蛍光板状体の発光強度及び機械的強度を増加させる目的、及び続く第2工程において、第1焼結体を得るための熱処理の温度、すなわち焼成温度を低下する目的で添加される。
そして、第1の実施の形態では、人体に近似な実効原子番号を有し、かつ機械的強度に優れ、さらに、高感度に線量分布を得られる熱蛍光板状体を得るために、この第1工程において、四ホウ酸リチウムに対して、0.01〜0.20wt%の割合で酸化マンガン(IV)、及び0.02〜2.00wt%の割合で酸化アルミニウムを、それぞれ添加することによって第1混合体を形成するのが好ましい。
また、この第1工程では、第1混合体を形成するために、これら四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、及び酸化アルミニウムを粉砕して混合する。
次に、第2工程では、第1混合体を熱処理することによって第1焼結体を形成し、しかる後、この第1焼結体を粉砕し、粉砕体にする。
第1の実施の形態では、この第2工程における熱処理に際して、まず、上述した第1工程によって得た第1混合体を、好ましくは、少量のエタノールで湿すことによって、この第1混合体を塊状とし、乾燥固化するのがよい。
しかる後、この第1混合体を、電気炉を用いて、好ましくは870〜915℃の空気雰囲気中で1〜3時間熱処理する。これによって、第1混合体から第1焼結体が得られる。
次に、第3工程では、第1混合体とは別に、四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、及び酸化アルミニウムを粉砕混合して第2混合体を得る。
この第3工程において形成される、第2混合体に含まれる四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、及び酸化アルミニウムは、上述した第1工程と同様の目的で添加される。すなわち、四ホウ酸リチウムは、製造される熱蛍光板状体において、熱蛍光本体の母体となる。また、酸化マンガン(IV)に含まれるマンガンは、製造される熱蛍光板状体の発光中心として作用する。また、酸化アルミニウムに含まれるアルミニウム(III)は、製造される熱蛍光板状体の発光強度及び機械的強度を増加させる目的、及び後の第5工程において、第2焼結体を得るための熱処理の温度、すなわち焼成温度を低下する目的で添加される。
また、第1の実施の形態では、上述の第2混合体をそのまま以後の工程で使用しても良い。しかし、この第2混合体を混合する際に、酸化ホウ素(B2O3)を追加的に添加する方がより好ましい。その理由は、既に説明したように、酸化ホウ素は、発光強度を増加させるためのアルミニウム(III)の添加量の最適値を、酸化ホウ素を添加しない場合と比して、より大きくする目的で添加するためである。
そして、第1の実施の形態では、これらの目的を達成するために、この第3工程において、四ホウ酸リチウムに対して、0.01〜0.20wt%の割合で酸化マンガン(IV)、0.02〜2.00wt%の割合で酸化アルミニウム、及び最大でも8.00wt%の割合で酸化ホウ素を、それぞれ添加することによって第2混合体を形成するのが好ましい。
また、この第3工程では、第2混合体を形成するために、これら四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、酸化アルミニウム、及び酸化ホウ素を粉砕して混合する。
なお、第1の実施の形態では、この第2混合体を得る第3工程と、上述した第1焼結体を得る第1工程及び第2工程とは、いずれを先に行っても良い。
次に、第4工程では、まず、上述した第1工程及び第2工程によって得た第1焼結体の粉砕体、及び第3工程で得た第2混合体と活性炭とを混合して、第3混合体を得る。
既に説明したように、この第1の実施の形態では、熱蛍光板状体を得るための熱処理、すなわち続く第5工程における熱処理の前に、熱蛍光板状体の前駆体、すなわち第3混合体に活性炭を添加することによって、製造される熱蛍光板状体の密度の調整を図る。この調整のための、各材料の混合比は、実験を繰り返して求めることができる。そして、製造される熱蛍光板状体の密度を人体と近似な値とするために、この第4工程では、第1焼結体の粉砕体、第2混合体、及び活性炭を、1.00:0.10:0.18の重量比で混合する。
また、この第4工程では、第3混合体を得るに際して、より好ましくは、予め第1焼結体の粉砕体を、メッシュ篩を用いて粒度を均一にしておくのがよい。これによって、製造される熱蛍光板状体に、発光強度のムラが生じるのを防止する。そして、この粒度を均一とした第1焼結体と、第2混合体及び活性炭を混合して、第3混合体を得る。
しかる後、得られた第3混合体を、少量のエタノールまたは水で湿すことによって、この第1混合体を塊状とし、さらに、平板状に圧迫成型することによって、板状体を形成する。
既に説明したように、この第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、放射線の3次元線量分布を取得するために、複数枚積層されて熱蛍光積層体として用いられる。そして、上述したように、詳細な3次元線量分布を取得可能とするために、熱蛍光板状体の厚みを例えば2mm程度とするのが好ましい。そのために、この第4工程では、続く第5工程における熱処理によって、板状体が収縮することを考慮して、この板状体を例えば2.1mmの厚みに成型するのが好ましい。また、この第4工程では、板状体の、厚み方向に直交する面の平面形状を、例えば直径が90mm程度の円形に成型しておくのが好ましい。
次に、第5工程では、上述した第4工程で得られた板状体を熱処理することによって、第2焼結体としての熱蛍光板状体を形成する。
第1の実施の形態では、第3混合体の板状体を、電気炉を用いて、好ましくは875℃の空気雰囲気中で1時間熱処理する。これによって、板状体から、第2焼結体としての熱蛍光板状体が得られる。このとき、上述した第4工程において、板状体の厚みを2.1mm、また、平面形状を直径90mm程度の円形に成型しておいた場合には、第2焼結体として、厚みが2.0mm、また、平面形状が直径86mm程度の円形である熱蛍光板状体が得られる。
また、この第5工程における熱処理によって、上述した第4工程において、第3混合体に添加した活性炭は、焼失して熱蛍光板状体中で空孔が生ずる。これによって、熱蛍光板状体は、この空孔により所望の密度、すなわち人体に近似な密度に調整される。
以上の第1工程から第5工程までの各工程を行うことによって、第1の実施の形態による熱蛍光板状体が製造される。この製造方法によって得られた熱蛍光板状体は、例えばダイアモンド切削器具等を用いて、裁断することが可能である。そのため、この熱蛍光板状体は、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、平面形状を適宜成型することができる。
また、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法では、各原料の添加量を以下のように設定するのが好適である。
すなわち、第1工程では、14.00gの四ホウ酸リチウム、0.005gの酸化マンガン(IV)、及び0.319gの酸化アルミニウムを混合して第1混合体を形成し、この第1混合体から第1焼結体を得るのが好ましい。また、第3工程では、1.4000gの四ホウ酸リチウム、0.0004gの酸化マンガン(IV)、及び0.0250gの酸化アルミニウム、及び0.0780gの酸化ホウ素を混合して、第2混合体を形成するのが好ましい。そして、第4工程では、このようにして得られた第1焼結体の粉砕体を14.0g、第2混合体を1.40g、及び活性炭を2.52g混合して、第3混合体を形成するのが好ましい。
このような各添加量で製造された熱蛍光板状体では、実効原子番号が約7.46、また、密度が約1.06gcm−3に調整されており、実効原子番号及び密度ともに、人体に近似な値として望まれる実効原子番号7.3〜7.5の範囲及び密度1±0.10gcm−3の範囲内に収まっている。熱蛍光板状体得ることができる。なお、得られた熱蛍光板状体の実効原子番号Zeffは、例えば「福田覚、前川昌之著、放射線物理学演習(第2版)P63−64、東洋書店、2005年」等に記載されている、下式(1)から算出することができる。
Zeff=(a1Z1 2.94+a2Z2 2.94+a3Z3 2.94+…)1/2.94=(ΣaiZi 2.94)1/2.94 ・・・(1)
この式(1)において、a1、a2、a3、…は、化合物または混合物に含まれる各原子の原子番号Z1、Z2、Z3、…に属する電子の、全電子数に対する割合を示す。
以上説明した第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、母体に酸化アルミニウムを添加することによって、アルミニウム(III)を含んでいる。その結果、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、以下の効果を奏し得る。
すなわち、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、放射線の線量分布取得時、すなわち放射線が照射された熱蛍光板状体を暗箱中において加熱し、被曝箇所を発光させる際に、上述した第1の参考例にかかる熱蛍光板状体、すなわち従来周知の熱蛍光板状体と比して、高い発光強度で発光させることができる。従って、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、従来周知の熱蛍光板状体と比して、高感度で放射線の線量分布を得ることができる。
また、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、母体にアルミニウム(III)が含まれることによって、機械的強度が増加する。
ここで、この発明に係る発明者らは、上述した、第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法について、第1工程から第5工程までを、上述した第1混合物及び第2混合物に、酸化アルミニウムを添加せずに行った。その場合に得られた第2焼結体は、機械的強度が著しく脆く、平板状体としての形状を保持することが不可能であることを確認した。この結果から、母体にアルミニウム(III)を添加することが、熱蛍光板状体の機械的強度の増加において、有効であることが確認された。
このように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、アルミニウム(III)を含有することによって、良好な機械的強度を有しているため、上述した第1の参考例に係る熱蛍光板状体とは異なり、バインダを用いることなく、熱蛍光本体を以って当該熱蛍光板状体が構成されている。そのため、第1の実施の形態では、上述した製造方法における第4工程において、熱蛍光板状体の前駆体である第3混合体に活性炭を加え、第5工程における熱処理によって、この活性炭を焼失させて空孔化することによって、容易に熱蛍光板状体を所望の密度に調整することができる。そして、第1の実施の形態では、熱蛍光板状体の密度を、人体に近似な値で形成している。また、既に説明したように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、実効原子番号が、人体に近似な値に調整されている。従って、第1の実施の形態による熱蛍光板状体では、線量計として用いた場合に、種々の補正を行うことなく、得られた測定値を以って、より正確に人体に対する放射線の被曝線量に関するデータを取得することができる。なお、第1の実施の形態による熱蛍光板状体を用いて取得されたデータは、この第1の実施の形態に係る熱蛍光板状体と近似な実効原子番号及び密度を有する物質であれば、人体以外の物質に対する被曝線量に関するデータとして利用することもできる。
また、この発明に係る発明者らは、上述した、第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法において、上述した第1焼結体及び第2混合物を個別に形成せずに、各原料、すなわち四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、酸化アルミニウム、酸化ホウ素を同時に混合し、しかる後、一度の熱処理によって熱蛍光板状体を形成する実験を行った。その場合には、焼結体として得られた熱蛍光板状体は、機械的強度が著しく脆く、板状体に多くの亀裂が生じて、熱蛍光板状体としての機能を保持することが不可能であることを確認した。この結果から、第1の実施の形態による熱蛍光板状体を得るためには、第1焼結体及び第2混合物を個別に形成し、さらに、これらを混合した第3混合体を熱処理することによって、当該熱蛍光板状体を形成する製造方法が有効であることが確認された。
また、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、吸湿性が低いため、空気中において安定に保存することができる。従って、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、保存及び品質管理が容易な線量計であるといえる。また、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、放射線の線量を測定するに当たり、上述したポリマーゲル線量計とは異なり、特別な設備を用いる必要がない。さらに、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、従来周知の熱蛍光板状体と同様に、繰り返し使用することが可能である。これらの利点から、第1の実施の形態による熱蛍光板状体は、コストの低減及び汎用性において有利な線量計であるといえる。
〈第1の変形例〉
第1の変形例では、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法について、上述したのとは別の製造方法について説明する。
なお、この第1の変形例では、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、形成される熱蛍光板状体の実効原子番号及び密度を、人体に近似な値とするのが好ましい。そこで、この第1の変形例では、形成される熱蛍光板状体の実効原子番号及び密度を、人体に近似な値として望まれる実効原子番号7.3〜7.5の範囲及び密度1±0.10gcm−3の範囲内に収めるために、以下に説明する各工程において、各原料の添加量、及び後述する第4工程において形成する第3混合体の添加量について好適な値を示している。これらの各値は、実験を繰り返して求めることができた。
この製造方法は、第1工程から第5工程までを含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。
なお、この第1の変形例による熱蛍光板状体の製造方法が、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体の製造方法と相違するのは、第1工程において、第1混合物に酸化アルミニウムを添加しない点であり、これに伴い、各工程における各原料の添加量を変更する点である。その他の構成要素及び作用効果は、第1の実施の形態と同様であるので、それらの重複する説明を省略する。
まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム及び酸化マンガン(IV)を混合して第1混合体を形成する。
この第1工程において、1molの四ホウ酸リチウムに対して、0.036wt%程度の割合で酸化マンガン(IV)を添加して第1混合体を形成するのが好ましい。より具体的には、55.69gの四ホウ酸リチウムに、0.0201gの酸化マンガン(IV)を添加するのが好ましい。
また、この第1工程では、第1混合体を形成するために、これら四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)を粉砕して混合する。
次に、第2工程では、第1混合体を熱処理することによって第1焼結体を形成し、しかる後、この第1焼結体を粉砕して粉砕体にする。
第1の変形例に係る製造方法では、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様に、この第2工程における熱処理に際して、まず、上述した第1工程によって得た第1混合体を、少量のエタノールまたは水で湿すことによって、この第1混合体を塊状とし、乾燥固化する。
しかる後、この第1混合体を、電気炉を用いて、好ましくは910℃の空気雰囲気中で1時間熱処理する。これによって、第1混合体から第1焼結体が得られる。
次に、第3工程では、四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、及び酸化アルミニウムを粉砕混合して第2混合体を得る。
第1の変形例では、この第3工程において、1.096gの四ホウ酸リチウムに対して、0.0004gの酸化マンガン(IV)、及び0.025gの酸化アルミニウムを添加するのが好ましい。
また、第1の変形例では、第2混合体に酸化ホウ素を添加するのが好ましい。既に説明したように、酸化ホウ素は、発光強度を増加させるためのアルミニウム(III)の添加量の最適値を、大きくする目的で添加する。そのために、第1の変形例では、第2混合体に、0.078gの酸化ホウ素を添加するのが好ましい。
また、この第3工程では、第2混合体を形成するために、これら四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、酸化アルミニウム、及び酸化ホウ素を粉砕して混合する。
なお、第1の変形例では、この第2混合体を得る第3工程と、上述した第1焼結体を得る第1工程及び第2工程とは、いずれを先に行っても良い。
次に、第4工程では、まず、第1焼結体の粉砕体及び第2混合体と活性炭とを混合する。
この第1の変形例では、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様に、熱蛍光板状体を得るための熱処理、すなわち続く第5工程における熱処理の前に、熱蛍光板状体の前駆体、すなわち第3混合体に活性炭を添加することによって、製造される熱蛍光板状体の密度を調整する。そして、製造される熱蛍光板状体の密度を人体と近似な値とするために、この第4工程では、第2工程で得られた第1焼結体の粉砕体を12.0g、第3工程で得られた第2混合体を全て、及び活性炭を2.16g混合する。
また、この第4工程では、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様に、第3混合体を得るに際して、好ましくは、予め第1焼結体の粉砕体を、メッシュ篩を用いて、粒度を均一にしておくのがよい。これによって、製造される熱蛍光板状体に、発光強度のムラが生じるのを防止する。そして、この粒度を均一とした第1焼結体の粉砕体と、第2混合体及び活性炭を混合して、第3混合体を得る。
しかる後、得られた第3混合体を、少量のエタノールまたは水で湿すことによって、この第1混合体を塊状とし、さらに、平板状に圧迫成型することによって、板状体を形成する。
既に説明したように、製造される熱蛍光板状体は、放射線の3次元線量分布を取得するために、複数枚積層されて熱蛍光積層体として用いられる。そこで、この第1の変形例では、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様に、熱蛍光板状体の厚みを例えば2mm程度とするのが好ましい。そのために、この第4工程では、続く第5工程における熱処理によって、板状体が収縮することを考慮して、この板状体を例えば2.1mmの厚みに成型するのが好ましい。また、この第4工程では、板状体の、厚み方向に直交する面の平面形状を、例えば直径が90mm程度の円形に成型しておくのが好ましい。
次に、第5工程では、板状体を熱処理することによって、第2焼結体としての熱蛍光板状体を形成する。
第1の変形例では、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様に、第3混合体を、電気炉を用いて、好ましくは875℃の空気雰囲気中で1時間熱処理する。これによって、板状体から、第2焼結体としての熱蛍光板状体が得られる。このとき、上述した第4工程において、板状体の厚みを2.1mm、また、平面形状を直径90mm程度の円形に成型しておいた場合には、第2焼結体として、厚みが2.0mm、また、平面形状が直径86mm程度の円形である熱蛍光板状体が得られる。
また、この第5工程における熱処理によって、上述した第4工程において、第3混合体に添加した活性炭は、焼失して熱蛍光板状体中に空孔が生ずる。これによって、熱蛍光板状体は、この空孔により、所望の密度、すなわち人体に近似な密度に調整される。
以上の第1工程から第5工程までの各工程を行うことによって、この第1の変形例では、実効原子番号が7.3〜7.5程度で、かつ密度が1±0.10gcm−3に調整された、すなわち実効原子番号及び密度ともに、人体に近似な値である熱蛍光板状体得ることができる。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、熱蛍光板状体を利用した線量計であって、かつ放射線の3次元線量分布を取得することができる線量計として、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体が、複数枚積層されて形成されている熱蛍光積層体、及びその製造方法について説明する。
図5は、この発明の第2の実施の形態を説明するための図であり、第2の実施の形態に係る熱蛍光積層体を概略的に示した斜視図である。
第2の実施の形態に係る熱蛍光積層体17は、図5に示すように複数枚の熱蛍光板状体19が積層されて形成されている。
この第2の実施の形態では、熱蛍光板状体19として、上述した第1の実施の形態による、平板状の熱蛍光板状体を用いる。
既に説明したように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体19は、放射線が照射された面に沿った、放射線の平面的な線量分布、すなわち2次元線量分布を測定することができる。従って、熱蛍光板状体19を複数枚用意し、これらを重ね合わせた積層体に対して放射線を照射することによって、各熱蛍光板状体19からそれぞれ放射線の2次元線量分布を測定することができる。このとき、各熱蛍光板状体19からは、これら各熱蛍光板状体19の被曝位置、及びこれら被曝位置における放射線の強度及び線形に対応した熱蛍光の光強度分布を以って、2次元線量分布がそれぞれ測定される。従って、各2次元線量分布を重ね合わせることによって、積層体に照射された放射線の立体的な、すなわち3次元線量分布を測定することができる。
また、既に説明したように、第1の実施の形態による各熱蛍光板状体19は、放射線の3次元線量分布を詳細に測定するために、厚み、すなわち熱蛍光積層体17の積層方向21に沿った厚みが、2mm程度に設定されている。また、熱蛍光積層体17を構成する熱蛍光板状体19の数、及び各熱蛍光板状体19の、積層方向21に直交する面、すなわち積層面19aの平面形状は、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、適宜設定される。なお、図5では、26枚の熱蛍光板状体19を積層させ、かつ各熱蛍光板状体19の積層面19aの平面形状を長方形とした、熱蛍光積層体17の構成例を示している。
以上説明した、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17では、上述した第1の実施の形態に係る熱蛍光積層体と同様に、熱蛍光積層体17に照射された放射線の3次元線量分布を取得することができる。なお、この熱蛍光積層体17を用いた、放射線の3次元線量分布の取得方法は後に詳細に説明する。
また、既に説明したように、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体19は、実効原子番号のみならず、密度についても、人体に近似な値に設定されている。従って、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17を線量計として用いた場合には、種々の補正を行うことなく、得られた測定値を以って、より正確に、人体に対する放射線の被曝線量に関するデータを取得することができる。なお、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17を用いて取得されたデータは、第1の実施の形態による熱蛍光板状体19と近似な実効原子番号を有する物質であれば、人体以外の物質に対する被曝線量に関するデータとして利用することもできる。
なお、この第2の実施の形態では、仮に、上述した第1の実施の形態によって得た各熱蛍光板状体19の密度が、人体に近似な値、すなわち1±0.10gcm−3の範囲から大きく外れている場合には、熱蛍光積層体17を構成する各熱蛍光板状体19間に、例えば平板状のスペーサを挟み込むことによって、熱蛍光積層体17全体の密度を1±0.10gcm−3の範囲内に収める構成としてもよい。
また、既に説明したように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体19は、アルミニウム(III)を含有しているため、発光強度及び機械的強度に優れている。従って、この第1の実施の形態による熱蛍光板状体19によって構成されている、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17は、放射線の3次元線量分布を高感度で取得することが可能であり、かつ良好な機械的強度を有している。
また、既に説明したように、第1の実施の形態による熱蛍光板状体19は、保存及び品質管理が容易であり、かつ使用に際しての特別な設備を必要とせず、さらに繰り返し使用することが可能である。従って、この第1の実施の形態による熱蛍光板状体19によって構成されている、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17は、3次元線量分布を取得する線量計として使用でき、かつ上述したポリマーゲル線量計と比して、コストの低減及び汎用性において有利であるといえる。
以上説明した第2の実施の形態による熱蛍光積層体17の製造方法について、図6(A)及び(B)を参照して説明する。この製造方法は、第1工程及び第2工程を含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。
図6(A)及び(B)は、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17の製造方法を説明する工程図である。これらの各図は、それぞれ、各製造段階で得られた構造体を概略的な斜視図で示してある。
まず、第1工程では、図6(A)に示すように、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体19を複数枚用意する。
第2の実施の形態では、既に説明したように、熱蛍光積層体17を構成する複数の熱蛍光板状体として、上述した第1の実施の形態による熱蛍光板状体19を用いる。これら第1の実施による各熱蛍光板状体19は、上述したように、熱蛍光本体の実効原子番号及び密度が、人体に近似な値に調整されている。また、第2の実施の形態では、各熱蛍光板状体19の厚みを、例えば2mm程度とする。そして、この第1工程において用意する熱蛍光板状体19の数、及び積層面19aの平面形状を、例えば、測定する放射線の線質、線形、または用途に応じて、適宜設定しておく。既に説明したように、この第1の実施の形態による熱蛍光板状体19は、例えばダイアモンド切削器具等によって裁断することが可能であるため、第2の実施の形態では、予め積層面19aの平面形状を、測定する放射線に応じて適宜成型しておく。なお、図6では、各熱蛍光板状体19の積層面19aの平面形状を長方形とした場合の構成例を示している。
次に、第2工程では、複数枚の熱蛍光板状体19を積層して、熱蛍光積層体17を形成して図6(B)に示すような構造体を得る。
第2の実施の形態では、第1工程において用意した複数の熱蛍光板状体19を、接着剤を用いることなく、各熱蛍光板状体19の積層面19aを重ね合わせて、順次積層させる。
なお、この第2の実施の形態では、仮に、用意した各熱蛍光板状体19、すなわち第1の実施の形態によって得た各熱蛍光板状体19の密度が、人体に近似な値、すなわち1±0.10gcm−3の範囲から大きく外れている場合には、この第2工程において、各熱蛍光板状体19間に、例えば平板状のスペーサを挟み込むことによって、熱蛍光積層体17全体の密度を1±0.10gcm−3の範囲内に調整してもよい。
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態による熱蛍光積層体の使用方法、すなわちこれら第1の実施の形態及び第2の実施の形態による熱蛍光積層体を使用した、放射線の3次元線量分布の取得方法について説明する。なお、この第3の実施の形態では、一例として、第2の実施の形態による熱蛍光積層体を使用して、放射線の3次元線量分布を取得する方法について説明する。また、この第3の実施の形態では、一例として、積層面が長方形である、複数の熱蛍光板状体を積層して形成された、熱蛍光積層体を使用する場合について説明する。
この3次元線量分布の取得方法は、第1過程から第3過程までを含んでいる。以下、第1過程から順に各過程につき説明する。
図7、図8、及び図10は、第3の実施の形態を説明する図であり、これらの各図は、それぞれ、各過程における態様を、概略的な斜視図で示してある。また、図9(A)〜(E)は、第3の実施の形態に係る第2過程において取得される、放射線の平面的な線量分布に関する画像を示す図である。
まず、第1過程では、図7に示すように、上述した第2の実施の形態による熱蛍光積層体17に対して放射線23を照射する。
第3の実施の形態では、まず、この第1過程において、線量分布を測定すべき放射線23、例えば、上述した放射線治療に使用される照射装置から放射線等を、熱蛍光積層体17に対して照射し、熱蛍光積層体17を被曝させる。
第3の実施の形態では、この第1過程において、放射線23を、熱蛍光積層体17のいずれの面、すなわち、熱蛍光積層体17の積層方向21に直交する主表面、または、積層方向21に沿った側面の、どの側に対して照射しても良い。図7では、熱蛍光積層体17に対して、異なる2方向からの放射線23、すなわち放射線23a及び23bを、熱蛍光積層体17の積層方向21に直交する主表面17a側から、照射した場合を示している。また、図7の構成例では、放射線23a及び23bが、熱蛍光積層体17に対して、この熱蛍光積層体17内において、交わるように照射されている。そして、この構成例において、放射線23a及び23bは、熱蛍光積層体17の主表面17aから入射し、それぞれ矢印23aa及び23baの方向に伝搬している。
ここで、図8は、図7に示した構成例について、照射された放射線23a及び23bが熱蛍光積層体17内を進行する態様、及び熱蛍光積層体17を構成する、熱蛍光板状体19の被曝箇所を説明する図である。なお、図8では、熱蛍光積層体17を構成する、複数の熱蛍光板状体19を、部分的に省略して示している。
図8に示すように、熱蛍光積層体17を構成する各熱蛍光板状体19は、照射された放射線23a及び23bに接触した箇所が被曝する。すなわち、熱蛍光積層体17を構成する、熱蛍光板状体25aでは、放射線23a及び23bに接触することによって、これら接触した箇所が、それぞれ被曝箇所27aa及び27abとなる。また、熱蛍光板状体25bでは、放射線23a及び23bに接触することによって、この接触した箇所が、それぞれ被曝箇所27ba及び27bbとなる。また、熱蛍光板状体25cでは、放射線23a及び23bが交差する部分において、これら放射線23a及び23bと接触することによって、この接触した箇所が被曝箇所27cとなる。また、熱蛍光板状体25dでは、放射線23a及び23bに接触することによって、これら接触した箇所が、それぞれ被曝箇所27da及び27dbとなる。また、熱蛍光板状体25eでは、放射線23a及び23bに接触することによって、これら接触した箇所が被曝箇所27ea及び27ebとなる。
次に、第2過程では、熱蛍光積層体17を構成する複数の熱蛍光板状体19の各々から加熱により発生する熱蛍光を、放射線23の、複数の熱蛍光板状体19の積層面19aに直交する方向からそれぞれ撮影して放射線23の線量分布情報に対応した、積層面19aに沿った平面的な光強度分布情報をそれぞれ取得する。
そのために、ここでは、まず、第1の実施の形態による熱蛍光板状体19を、26枚積層させて形成した、第2の実施の形態による熱蛍光積層体17を使用して撮影された。この撮影を行うために、放射線として、4MeVのX線を、図7に示す構成例と同様に、2つの異なる方向から、熱蛍光積層体17の積層方向21に直交する主表面17aに対して照射した。
そして、熱蛍光積層体17を構成する各熱蛍光板状体19にバラした後、熱蛍光板状体19を各々1枚ずつ暗箱中に収容する。このとき、熱蛍光板状体19を、例えば300℃に熱した金属板上に載置した状態で、暗箱に収容することによって、この熱蛍光板状体19を急速加熱する。その結果、熱蛍光板状体19は、各々放射線23と接触した箇所、すなわち被曝箇所において熱蛍光、すなわち発光が生じる。
次に、暗箱中において、この熱蛍光が生じている状態の熱蛍光板状体19を、例えばCCDカメラを用いて撮影する。このとき、各熱蛍光板状体19を、それぞれ積層面19aに対して正対する方向から、撮影することによって、熱蛍光板状体19から発生する熱蛍光の光強度の、積層面19aに沿った2次元分布に関する光強度情報を取得することができる。
この撮影して得られた光強度情報を、可視化された光強度分布に関する情報として得るために、周知のソフトである商品名imageJ、OpenDX、及びPhotoshopを利用し、コンピュータによって画像の処理を行う。これによって、図9(A)〜(E)に示す画像を得る。
図9(A)〜(E)は、この第2過程において実際に撮影した、熱蛍光の平面的な光強度分布に関する画像を示す図である。
この図9(A)〜(E)に係る2次元光強度分布の画像では、放射線の線量が大きいほど淡く表示され、また、線量が小さいほど濃く表示されている。
また、これら図9(A)〜(E)の各画像は、図8に示した各熱蛍光板状体25a、25b、25c、25d、及び25eにそれぞれ対応している。
すなわち、図8の構成例における熱蛍光板状体25aを、上述した方法で撮影したとき、積層面25aaに沿った被曝箇所27aa及び27abの線量分布は、図9(A)に示す熱蛍光箇所29aa及び29abとして画像化される。
また、図8の構成例における熱蛍光板状体25bを、上述した方法で撮影したとき、積層面25baに沿った被曝箇所27ba及び27bbの線量分布は、図9(B)に示す熱蛍光箇所29ba及び29bbとして画像化される。
また、図8の構成例における熱蛍光板状体25cを、上述した方法で撮影したとき、積層面25caに沿った被曝箇所27cの線量分布は、図9(C)に示す熱蛍光箇所29cとして画像化される。上述したように、被曝箇所27cは、放射線23a及び23bが交差する部分における被曝箇所である。従って、この熱蛍光箇所29cでは、線量が大きいため、この熱蛍光箇所29cに対応する2次元光強度分布の画像は、熱蛍光箇所29cとして淡い色を呈している。
また、図8の構成例における熱蛍光板状体25dを、上述した方法で撮影したとき、積層面25daに沿った被曝箇所27da及び27dbの線量分布は、図9(D)に示す熱蛍光箇所29da及び29dbとして画像化される。
また、図8の構成例における熱蛍光板状体25eを、上述した方法で撮影したとき、積層面25eaに沿った被曝箇所27ea及び27ebの線量分布は、図9(D)に示す熱蛍光箇所29ea及び29ebとして画像化される。
このように、第2過程では、上述した撮影を、熱蛍光積層体17を構成する全ての熱蛍光板状体19について行うことによって、図9(A)〜(E)に示すような熱蛍光の2次元強度分布の画像を与える情報を、熱蛍光積層体17を構成する、複数の熱蛍光板状体19の各々から取得する。
次に、第3過程では、取得したそれぞれの光強度分布情報を、積層方向21に、積層順に順次重ね合わせることによって、図10に示すような、熱蛍光の立体的な光強度分布、すなわち3次元光強度分布に関する画像を取得する。これによって、熱蛍光積層体17における、立体的な光強度分布に対応した、放射線23の立体的な線量分布情報を取得する。
そのために、例えば、周知のソフトである、商品名VisualFortran及びOpenDXを利用し、コンピュータによって画像処理することによって、図9(A)〜(E)に示したような2次元光強度分布の各画像を、図7に示した熱蛍光積層体17の積層順に順次重ね合わせる。
その結果、第2過程において得られた各画像において、各熱蛍光板状体19の、各積層面19aに沿った各被曝箇所に対応する、平面的な各熱蛍光箇所が、立体的に積層される。これによって、積層された各熱蛍光箇所の画像から、熱蛍光積層体17の立体的な被曝部に対応する、立体的な熱蛍光部31として得られ、この熱蛍光部31が実質的に、照射された放射線の3次元線量分布とみなされることができる。
このように、第3の実施の形態では、上述した第2の実施の形態による熱蛍光積層体17を使用することによって、容易に放射線の3次元線量分布に関する画像を取得することができる。
なお、この第3の実施の形態では、一例として第2の実施の形態による熱蛍光積層体17を使用した、放射線の3次元線量分布に関する画像の取得方法について説明したが、第1の参考例による熱蛍光積層体を使用した場合でも、上述した第1過程から第3過程までの各過程を行うことによって、放射線の3次元線量分布を取得することができる。
また、この第3の実施の形態では、一例として、熱蛍光積層体17の積層方向21に直交した主表面17a側から放射線を入射させて、この放射線の3次元線量分布の情報を取得する構成例について説明した。しかしながら、既に説明したように、この第3の実施の形態では、熱蛍光積層体17の積層方向21に沿った側面から放射線を入射させて、この放射線の3次元線量分布を取得することも可能である。
例えば、図7の構成例において、熱蛍光積層体17の積層方向21に沿った側面17b側から、異なる2方向からの放射線を、積層面19aと平行な平面に沿って照射した場合には、上述した第2過程において、被曝した熱蛍光板状体から、例えば図11に示すような、積層面19aに沿った熱蛍光箇所33を示す2次元光強度分布の画像を得ることができる。このような場合においても、熱蛍光積層体17を構成する各熱蛍光板状体19の、積層面19aに沿った2次元光強度分布の画像をそれぞれ撮影し、しかる後、上述した第3過程において、各画像を重ね合わせることによって、この第3の実施の形態と同様に、光強度分布を以って、放射線の3次元線量分布に関する情報を取得することができる。