JP4453999B2 - 尿中蛋白及びペプチドの安定化方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、測定対象の尿中蛋白及び尿中ペプチドを長時間安定に維持する安定化方法及びこれに使用する組成物並びに安定化した尿中蛋白又は尿中ペプチドの測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
尿中蛋白及び尿中ペプチド(以下、尿中蛋白と総称する。)の定量による病態診断は、採血による患者負担がないこと及び肝炎やエイズの感染の危険性が低いことから、今後益々発展する診断方法である。診断に用いられる尿中蛋白としては、インスリン分泌量のマーカーであるC−ペプチド、癌マーカーである塩基性胎児蛋白、腎後性出血マーカーのα2マクログロブリン、腎血流量の低下と尿細管障害を反映するβ2マイクログロブリン、さらに副甲状腺ホルモン、フィブロネクチン等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、これらの尿中蛋白の測定において問題となるのは、尿検体保存における蛋白の安定性である。尿に含まれる蛋白質は、血清に比べてはるかに微量であり、分析物の保護作用は弱い。またpHも変動しやすく、酸性の尿では尿中蛋白の安定性が著しく低下することが知られている。採取直後の尿を凍結すれば尿中蛋白は安定するが、測定時に解凍の手間を要すること、一定時間ごとに尿を採取し累積する24時間尿においては作業が煩雑すぎて実施が困難などの問題がある。
【0004】
このため、尿へ牛アルブミンの添加、炭酸水素塩の添加(特開平11−60600,特開2000−221190)、還元性酸素酸塩及び/又はイソチアゾロン系化合物の添加(特開2000−352565)又防腐剤としてアジ化ナトリウムの添加等が試みられてきた。しかしながら、これらの方法をもってしても、一部の尿中蛋白の安定化には十分ではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、尿中蛋白安定化の方法及びそのための組成物を提供することである。
【0006】
本発明は、上記の課題に着目してなされたものであって、特殊な試薬を要せず、特に尿中蛋白の免疫学的測定方法に適した安定化技術を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この課題は、尿検体にイオン性界面活性剤を添加することにより解決される。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記の物質を尿へ添加することにより尿中蛋白が安定化することを見出した。さらに、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩は、イオン性界面活性剤との相乗的な安定化効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0009】
本発明に使用するイオン性界面活性剤は、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリエタノールアミンラウリル硫酸塩及びラウロイルサルコシン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、及びドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)等のカチオン系界面活性剤が挙げられる。これらは、DNA抽出工程で多用される界面活性剤でもある。
【0010】
これらの1種又は2種以上を組み合わせて尿検体へ添加することにより、尿中蛋白の安定化効果が得られる。添加量は、0.005〜2重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.2重量%の範囲である。0.005%未満では安定化効果が得られず、2%以上は溶解性に問題を生じる。さらに、これらにトリトンX−100又はTween20等の非イオン性界面活性剤を0.1%重量以下の濃度となるよう加えてもよい。
【0011】
イオン性界面活性剤による尿中蛋白の安定化効果の機序は不明であるが、尿のpHを一定に維持するものではない。酸性尿では安定化効果が不十分な検体も僅かながら認められるからである。尿のpHを弱アルカリに維持する目的には、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えることが好ましい。先述したように、炭酸塩及び炭酸水素塩は、単なるpH維持以上の尿中蛋白安定化効果を有している。炭酸塩又は炭酸水素塩とイオン性界面活性剤を併用することにより、尿中蛋白安定化効果は相乗的に向上する。
【0012】
炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム・カリウム及び炭酸アンモニウムのいずれか、また炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素アンモニウムのいずれかから選択すればよい。添加濃度は10〜500mMの範囲内、好ましくは25〜250mMとなるように含有させる。
【0013】
尿中の細菌の繁殖を抑止するために、防腐剤をさらに添加しても良い。本発明に使用する防腐剤としては、溶解性に優れるアジ化物が好ましい。アジ化物の具体例としては、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム及びアジ化アンモニウムが挙げられる。添加濃度は、0.2%未満が好ましい。
【0014】
上記の安定化剤の添加により、尿中蛋白は、インスリン分泌量のマーカーであるC−ペプチド、癌マーカーの塩基性胎児蛋白、腎後性の出血マーカーのα2マクログロブリン、腎血流量の低下と尿細管障害を反映するβ2マイクログロブリン、さらにフィブロネクチン、副甲状腺ホルモン(PTH)と多岐に渡り、尿中蛋白の大部分に有効であることが示唆された。
【0015】
本発明の安定剤の使用方法は、1.予め試料用試験管に秤量採取しておき、規定量の尿を注入する。2.予め調製した濃縮液を試験管試料に滴下する。などである。濃縮液使用の場合、容量補正が必要になるのに対し、粉末試薬の場合、容量増加は無視できる範囲であり容量補正は特に必要としない。たとえばSDSと炭酸ナトリウムをそれぞれ秤量し均質に混合した粉末試薬を試験管に小分けしておけば、必要時にすぐ使用に供すことができる。畜尿検体の場合は、2L分の安定剤を小分けした容器に採尿を注ぎ足せばよい。24時間尿は1〜3Lの範囲で変動するものの、本発明の安定剤は有効濃度範囲が広いため、畜尿量の増減により尿中蛋白の安定性が影響されることはない。
【0016】
本発明によって尿中蛋白を安定化した尿試料は、そのまま公知の免疫学的測定方法に基づく尿中蛋白測定用の試料に供せる。測定方法は特に限定されず、免疫学的凝集反応、競合法、RIA、IRMA、EIA、ELISAなど既存の免疫学的測定法の全てに適用可能である。前記尿試料は、ヤッフェ法又は酵素法による尿中クレアチニン測定値に何らの影響も与えない。
【0017】
尿試料は、用いる試薬の測定可能範囲に応じて適宜希釈して測定用のサンプルとすることが好ましい。希釈には、免疫学的な反応に好適なpHや塩濃度を与える希釈溶液を用いても良い。
【0018】
【発明の効果】
本発明は、尿中蛋白及び尿中ペプチド、特に診断価値の高い各種マーカーの免疫学的測定値を長期間に亘って安定に維持することができる。従って本発明に係る試料を免疫学的測定に用いれば、各種疾患等を高い精度で診断することができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0020】
実施例1、C−ペプチドに対するSDSの安定化効果
尿試料に、0、0.005,0.01,0.05,0.1,0.5,1.0,2.0%となるようSDS(第一化学薬品)を加えて25℃に、1日間放置して尿中C−ペプチドの免疫学的な測定値に与える影響を調べた。
【0021】
免疫学的な測定には、市販のC−ペプチドのIRMA用測定キット「AbビーズC−ペプチド‘栄研’」(栄研化学(株)製、商品名)を用いた。このキットは125I標識抗C−ペプチド抗体を利用した固相サンドイッチ法に基づくIRMAを行うためのものである。測定操作は次のとおりである。
【0022】
予め希釈液(100mMリン酸緩衝液、pH6.0)で21倍に希釈した尿試料50μLと125I標識抗体200μLとを分注した試験管に抗C−ペプチド抗体固相化ビーズを投入し、室温で3時間振とう(30rpm)した。反応液を吸引し、2mLの精製水で3回洗浄し、ウェル型シンチレーションカウンターを用いて各試験管の放射能を測定した。尿試料に代えて標準試料を用いた測定値に基づいてC−ペプチド濃度を算出した。対照である凍結保存検体測定値を100とした相対値を表1に示す。
【0023】
【表1】
C−ペプチドの相対測定値(単位相対%)
────────────────────────────────────
SDS(%) 0 0.005 0.01 0.05 0.1 0.5 1.0 2.0
────────────────────────────────────
検体1 43 65 84 98 95 91 94 92
検体2 19 87 101 106 97 90 103 100
検体3 92 98 101 101 103 97 94 95
検体4 39 104 113 114 108 110 101 103
検体5 90 96 101 100 97 90 100 98
────────────────────────────────────
【0024】
表1に示すように、SDSを0.005%以上含有させることにより、25℃保存における尿中C−ペプチドの安定化効果が確認された。0.01%以上ならば、ほぼ同等の安定化効果が得られるが、溶解のしやすさを考慮し0.01〜0.2%を至適濃度と決定した。
【0025】
実施例2.SDS及び炭酸ナトリウムの組み合わせによる安定化効果
0.1%SDSに炭酸ナトリウムを0,50,100mMとなるよう加えた以外は実施例1と同じ条件で、尿中C−ペプチドの安定性を試験した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
C−ペプチドの相対測定値(単位:相対%)
──────────────────────────────────
Na2CO3(mM) 0 10 25 50 100 250 500
──────────────────────────────────
検体6 84 91 99 102 101 103 102
検体7 76 85 101 100 102 99 100
検体8 101 103 106 101 100 104 105
検体9 103 100 98 101 104 102 97
検体10 92 98 103 106 105 105 104
──────────────────────────────────
【0027】
炭酸ナトリウムの添加により、SDS単独では安定化が不十分な検体も安定化されることが確認された。
【0028】
実施例3.尿中β2-マイクログロブリン(β2-M)の安定化試験
尿試料に、0.01〜1.0%のCTAB及び50mMの炭酸水素ナトリウムを加えて25℃1日間放置後、LA試薬β2-M(栄研化学・ラテックス凝集法)を用いて常法により、β2-M値を求めた。結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
Figure 0004453999
【0030】
カチオン系界面活性剤CTABと炭酸水素ナトリウムの組合せにおいても、尿中β2-Mに対する安定化効果が確認された。これらの結果より、イオン性界面活性剤さらに炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を尿検体に添加することにより、尿中蛋白又は尿中ペプチドが安定化することが示された。

Claims (12)

  1. 尿試料中にイオン性界面活性剤を含有させることを特徴とする尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  2. イオン性界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリエタノールアミンラウリル硫酸塩、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド及びセチルトリメチルアンモニウムブロマイドからなる群から少なくとも1種選択される請求項1記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  3. イオン性界面活性剤の濃度が、0.005〜2重量%の範囲である請求項1記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  4. 炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含有させる請求項1乃至3記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  5. 炭酸塩又は炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム・カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素アンモニウムから成る群から選択される少なくとも1種である請求項4記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  6. 炭酸塩又は炭酸水素塩の含有量が10〜500mMの範囲である請求項4記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  7. 尿中蛋白及び尿中ペプチドが、C−ペプチド、塩基性胎児蛋白、α2−マクログロブリン、β2−マイクログロブリン、 副甲状腺ホルモン及びフィブロネクチンから成る群から選択される請求項1乃至6記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化方法。
  8. ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が、0.01〜1.0重量%である請求項1記載の尿中C−ペプチドの安定化方法。
  9. イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化剤。
  10. イオン性界面活性剤及び炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含有することを特徴とする請求項9に記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの安定化剤。
  11. イオン性界面活性剤を含む尿試料中の蛋白又はペプチドと抗蛋白抗体又は抗ペプチド抗体とを反応させることを特徴とする尿中蛋白又は尿中ペプチドの免疫学的測定方法。
  12. イオン性界面活性剤及び炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含むことを特徴とする請求項11記載の尿中蛋白及び尿中ペプチドの免疫学的測定方法。
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