以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る誘電体フィルタの一構成例を示している。図2は、この誘電体フィルタを図1におけるX1方向から見た側面の構成を示している。図3は、この誘電体フィルタを図2におけるA−A線を含むXZ平面で切った断面の構成を示している。図4は、この誘電体フィルタを図2におけるB−B線を含むXZ平面で切った断面の構成を示している。図5は、この誘電体フィルタを図1におけるZ1方向から見た側面の構成を示している。また図7は、この誘電体フィルタの等価回路を示している。
まず、図7を参照して、この誘電体フィルタの基本的な共振構造を説明する。なお、本実施の形態では、入力端側に不平衡端子を備えると共に、出力端側に平衡端子を備えた不平衡入力−平衡出力型のフィルタを例に説明する。この誘電体フィルタは、第1の共振部10と、第2の共振部20を備えている。第1の共振部10に接続された不平衡端子2と、第2の共振部20に接続された一対の平衡端子3,4とを備えている。一対の平衡端子3,4には、図示しないIC等の外部の回路が接続される。このフィルタは、不平衡端子2を入力端子とし一対の平衡端子3,4を出力端子とすることで、全体として不平衡入力−平衡出力型のフィルタが構成される。
第1の共振部10は、4つの1/4波長共振器11,12,13,14を有している。第1の共振部10において、例えば第1の1/4波長共振器11に不平衡端子2が接続されている。第2の共振部20も同様に、4つの1/4波長共振器21,22,23,24を有している。第2の共振部20において、例えば第1の1/4波長共振器21に一方の平衡端子3が接続され、第2の1/4波長共振器22に他方の平衡端子4が接続されている。第1の共振部10および第2の共振部20における各1/4波長共振器は、隣接するもの同士が互いにインターディジタル結合されている。
ここで、第2の共振部20における第1および第2の1/4波長共振器21,22を一対の1/4波長共振器とした場合を例に、インターディジタル結合の概念について説明する。インターディジタル結合とは、例えば図8に示したように、一対の1/4波長共振器21,22の一端を開放端、他端を短絡端とし、一方の1/4波長共振器21の開放端と他方の1/4波長共振器22の短絡端とが対向すると共に、一方の1/4波長共振器21の短絡端と他方の1/4波長共振器2の開放端とが対向するように配置して一対の1/4波長共振器21,22を電磁結合させることをいう。
本実施の形態において、一対の1/4波長共振器21,22は、後述するように、共振時に強いインターディジタル結合がなされていることで、第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと第1の共振周波数f1よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとを有している。より詳しくは、インターディジタル結合していないときの各1/4波長共振器21,22の単体での共振周波数をf0としたとき、単体での共振周波数f0よりも高い第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと単体での共振周波数f0よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとを有している。そして、動作周波数が第2の共振周波数f2となるように構成されている。
このようにインターディジタル結合された一対の1/4波長共振器21,22に一対の平衡端子3,4を接続する場合、一対の1/4波長共振器21,22が、回転対称軸5を有し、全体的に回転対称な構造とされていることが好ましい。そして、一対の平衡端子3,4は、回転対称軸5に対して互いに回転対称となる位置において、一対の1/4波長共振器21,22に接続されていることが好ましい。これにより、バランス特性に優れた状態にすることができる。なお、本実施の形態では、後述するように第2の共振部20が全体的に回転対称な構造とされ、一対の平衡端子3,4が、回転対称軸5に対して互いに回転対称となる位置に接続されている。
第1の共振部10および第2の共振部20における他の1/4波長共振器についても、同様にして隣接するもの同士が互いにインターディジタル結合されている。そして、この誘電体フィルタは、第1の共振部10と第2の共振部20とが、周波数の低い第2の共振周波数f2で共振し、電磁結合するように構成されている。これにより、第2の共振周波数f2を通過帯域とした、不平衡入力−平衡出力型のバンドパスフィルタが構成されている。
なお、図7の等価回路では、1/4波長共振器を並列的に配置して図示しているが、後述するように、実際には、この誘電体フィルタでは1/4波長共振器を構成する貫通導体が全体として略環状に配列されている。これにより、図7では両端に位置しているが、第1の共振部10において第1の1/4波長共振器11と第4の1/4波長共振器14も隣接することとなり、互いにインターディジタル結合している。同様に、第2の共振部20において第1の1/4波長共振器21と第4の1/4波長共振器24も隣接することとなり、互いにインターディジタル結合している。このようにして、第1の共振部10および第2の共振部20において、隣接するもの同士が循環的にインターディジタル結合されている。
次に、この誘電体フィルタの具体的な構造を説明する。この誘電体フィルタは、図1に示したように全体として略直方体形状の誘電体ブロック1を備えている。誘電体ブロック1の上面および底面には、全体的に導体が積層され、図2に示したようにグランド電極31,32が形成されている。なお、図1では、グランド電極31,32の図示を省略している。誘電体ブロック1には、隣接して2つの共振部10,20が形成されている。
第1の共振部10には、誘電体ブロック1における対向する第1および第2の側面を貫通する4つの貫通孔11A,12A,13A,14Aが設けられている。貫通孔11A,12A,13A,14Aは、断面が円形状となっている。貫通孔11A,12A,13A,14Aの内壁面は、図3および図4に示したように導体膜11B,12B,13B,14Bで覆われている。これら導体膜11B,12B,13B,14Bにより、図7の4つの1/4波長共振器11,12,13,14として機能する断面が円形状の4つの貫通導体が形成されている。また、貫通孔11A,12A,13A,14Aは、図1および図2から分かるように、第1の側面方向および第2の側面方向から見たときに、全体として略環状に配列されている。これにより、第1の共振部10における4つの貫通導体が略環状に配列されている。
なお、ここでいう、貫通孔および貫通導体が「略環状に配列されている」とは、一側面から見たときに、各貫通孔および各貫通導体が略円周上に分布していることを意味する。
第2の共振部20にも同様に、対向する第1および第2の側面を貫通する断面が円形状の4つの貫通孔21A,22A,23A,24Aが設けられている。第2の共振部20の貫通孔21A,22A,23A,24Aも同様に、内壁面が導体膜21B,22B,23B,24Bで覆われている。これら導体膜21B,22B,23B,24Bにより、図7の4つの1/4波長共振器21,22,23,24として機能する断面が円形状の4つの貫通導体が形成されている。また第1の共振部10と同様に、貫通孔21A,22A,23A,24Aは、図1および図2から分かるように、第1の側面方向および第2の側面方向から見たときに、全体として略環状に配列されている。これにより、第2の共振部20における4つの貫通導体が略環状に配列されている。
誘電体ブロック1にはまた、貫通孔11A,12A,13A,14Aおよび貫通孔21A,22A,23A,24Aが形成された位置に対応する第1および第2の側面に、接続用電極33,34,35および接続用電極36,37,38が形成されている。第1および第2の側面において、接続用電極33,34,35および接続用電極36,37,38が形成されていない部分は、絶縁領域となっている。接続用電極33,35および接続用電極37は、誘電体ブロック1の上面に形成されたグランド電極31に導通されている。接続用電極34および接続用電極36,38は、底面のグランド電極32に導通されている。
第1の共振部10における各貫通導体の一端は、誘電体ブロック1の第1および第2の側面における絶縁領域に接続され、開放端とされている。また、第1の共振部10において、第1の貫通孔11Aに形成された第1の貫通導体の他端は、第1の側面に形成された接続用電極33に導通され、上面のグランド電極31に導通されて短絡端とされている。また、第2の貫通孔12Aに形成された第2の貫通導体の他端は、第2の側面に形成された接続用電極36に導通され、底面のグランド電極32に導通されて短絡端とされている。また、第3の貫通孔13Aに形成された第3の貫通導体の他端は、第1の側面に形成された接続用電極34に導通され、底面のグランド電極32に導通されて短絡端とされている。また、第4の貫通孔14Aに形成された第4の貫通導体の他端は、第2の側面に形成された接続用電極37に導通され、上面のグランド電極31に導通されて短絡端とされている。
第2の共振部20における各貫通導体の一端も同様に、誘電体ブロック1の第1および第2の側面における絶縁領域に接続され、開放端とされている。また、第2の共振部20において、第1の貫通孔21Aに形成された第1の貫通導体の他端は、第1の側面に形成された接続用電極35に導通され、上面のグランド電極31に導通されて短絡端とされている。また、第2の貫通孔22Aに形成された第2の貫通導体の他端は、第2の側面に形成された接続用電極38に導通され、底面のグランド電極32に導通されて短絡端とされている。また、第3の貫通孔23Aに形成された第3の貫通導体の他端は、第1の側面に形成された接続用電極34に導通され、底面のグランド電極32に導通されて短絡端とされている。また、第4の貫通孔24Aに形成された第4の貫通導体の他端は、第2の側面に形成された接続用電極37に導通され、上面のグランド電極31に導通されて短絡端とされている。
誘電体ブロック1にはまた、端子用貫通孔2A,3A,4Aが形成されている。誘電体ブロック1にはまた、端子用貫通孔2A,3A,4Aが形成された位置に対応する第3および第4の側面に、外部端子電極41,42,43が形成されている。
端子用貫通孔2Aは、第1および第2の側面に直交する第3の側面を貫通し、第1の共振部10における第1の貫通孔11Aに接続されている。端子用貫通孔2Aの内壁面は、図3に示したように導体膜2Bで覆われている。この導体膜2Bにより、図7の不平衡端子2として機能する貫通導体が形成されている。貫通導体としての導体膜2Bは、第3の側面に形成された外部端子電極41に導通されている。
端子用貫通孔3Aは、第3の側面に対向する第4の側面を貫通し、第2の共振部20における第1の貫通孔21Aに接続されている。端子用貫通孔3Aの内壁面は、図3に示したように導体膜3Bで覆われている。この導体膜3Bにより、図7の一方の平衡端子3として機能する貫通導体が形成されている。貫通導体としての導体膜3Bは、第4の側面に形成された外部端子電極42に導通されている。
また、端子用貫通孔4Aは、第3の側面に対向する第4の側面を貫通し、第2の共振部20における第2の貫通孔22Aに接続されている。端子用貫通孔4Aの内壁面は、図4に示したように導体膜4Bで覆われている。この導体膜4Bにより、図7の他方の平衡端子4として機能する貫通導体が形成されている。貫通導体としての導体膜4Bは、第4の側面に形成された外部端子電極43に導通されている。
なお、この誘電体フィルタにおける各貫通導体は、TEM(Transverse Electro Magnetic)線路として機能する。TEM線路とは、電界および磁界が共に電磁波の進行方向に垂直な断面内にのみ存在する電磁波(TEM波)を伝送する伝送線路である。
第2の共振部20は、図5に示したように、誘電体ブロック1の第4の側面方向から見たときに、第4の側面に直交する回転対称軸5を有し、全体的に回転対称な構造とされている。一対の平衡端子3,4を形成するための端子用貫通孔3A,4Aは、回転対称軸5に対して互いに回転対称となる位置において、第1の貫通孔21Aと第2の貫通孔22Aとに接続されている。
図6は、この誘電体フィルタにおける貫通導体の結合の関係を示している。以上で説明した構造を有することにより、この誘電体フィルタでは、第1の共振部10において、貫通孔11A,12A,13A,14Aによって形成される各貫通導体が、全体として略環状に配列されると共に、端部が交互に短絡端と開放端となるように配列される。これにより、第1の共振部10において、隣接する貫通導体同士が循環的にインターディジタル結合されている。第2の共振部20においても同様に、貫通孔21A,22A,23A,24Aによって形成される各貫通導体が、全体として略環状に配列されると共に、端部が交互に短絡端と開放端となるように配列される。これにより、第2の共振部20において、隣接する貫通導体同士が循環的にインターディジタル結合されている。
なお、図6における“+”,“−”の符号は、貫通導体を伝搬する電磁波の位相の関係を示す。後述の図10に示すように、この誘電体フィルタでは、第2の共振モードにおいて、一対の1/4波長共振器を構成する、隣接する貫通導体間で位相が180°異なる(逆相となる)。
次に、本実施の形態に係る共振器の作用を説明する。
このフィルタでは、図7の等価回路に示したように、不平衡端子2から入力された不平衡信号が、第1の共振部10および第2の共振部20の共振器としての作用により、第2の共振周波数f2を通過帯域としてフィルタリングされ、平衡信号として一対の平衡端子3,4から出力される。
この誘電体フィルタでは、第1の共振部10および第2の共振部20において、各貫通孔に形成された各貫通導体が1/4波長共振器として機能する。そして、各共振部10,20において、隣接する貫通導体同士が、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器の構成とされ、そのインターディジタル結合した一対の1/4波長共振器における周波数の低い第2の共振周波数f2を通過帯域としていることで、従来の誘電体フィルタに比べて小型化が容易となり、平衡信号をバランス特性に優れた状態で伝送することができる。
ここで、一対の1/4波長共振器をインターディジタル型で、かつ強く結合させると、インターディジタル結合させていないときの各共振器単体での共振周波数f0(例えば物理的な1/4波長の長さで決まる共振周波数)に対し周波数が高い第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと、共振周波数f0よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとの2つのモードが現れ、共振周波数が2つに分離する。この場合において、物理的な長さに対応する共振周波数f0よりも周波数の低い第2の共振周波数f2を、共振器としての動作周波数に設定することで、動作周波数を共振周波数f0に設定した場合よりも小型化が図られる。
次に、このインターディジタル結合することにより得られる作用、効果についてより詳しく説明する。TEM線路からなる2つの共振器を結合させる手法として、一般にコムライン結合とインターディジタル結合との2種類を挙げることができる。このうち、インターディジタル結合は、非常に強い結合が得られることが知られている。
以下、図8に示したように第2の共振部20における第1および第2の1/4波長共振器21,22を一対の1/4波長共振器とした場合を例に説明する。インターディジタル結合した一対の1/4波長共振器21,22では、共振状態を2つの固有な共振モードに分けることができる。図9は、インターディジタル結合した一対の1/4波長共振器21,22における第1の共振モードを示し、図10は、その第2の共振モードを示している。なお、図9および図10において、破線で示した曲線は、各共振器における電界Eの分布を示している。また、図9および図10では、一対の1/4波長共振器21,22の共振時の状態を示しており、他端をグランドの状態としている。これは交流的なゼロ電位であることを意味している。
第1の共振モードでは、一対の1/4波長共振器21,22のそれぞれにおいて開放端側から短絡端側に電流iが流れ、それぞれに流れる電流iの向きが逆方向となる。この第1の共振モードでは、一対の1/4波長共振器21,22で電磁波が同相に励振されている。
一方、第2の共振モードでは、一方の1/4波長共振器10では開放端側から短絡端側に電流iが流れると共に、他方の1/4波長共振器20では短絡端側から開放端側に電流iが流れ、それぞれに流れる電流iの向きが同方向となる。すなわち、この第2の共振モードでは、電界Eの分布を見ても分かるように、一対の1/4波長共振器21,22で電磁波が逆相に励振されている。この第2の共振モードでは、一対の1/4波長共振器全体の物理的な回転対称軸に対して互いに回転対称な位置で、電界Eの位相が180°異なる。
ここで、回転対称構造の場合、第1の共振モードの共振周波数は、以下の式(1A)のf
1で表され、第2の共振モードの共振周波数は、以下の式(1B)のf
2で表される。式(1A),(1B)において、cは光速、ε
rは実効比誘電率、lは共振器の長さを表す。
また、Zeは偶モードの特性インピーダンス、ZOは奇モードの特性インピーダンスを表す。左右対称型のカップリング伝送線路において、その伝送線路に伝搬する伝送モードは、偶モードと奇モードとの2種類の独立なモード(互いに干渉しない)に分解される。
図11(A)は、そのカップリング伝送線路の奇モードでの電界Eの分布を示し、図11(B)は偶モードでの電界Eの分布を示している。なお、図11(A),図11(B)において、外周部分はグランド層50、内部には左右対称の導体線路51,52が形成されている。図11(A),図11(B)では、カップリング伝送線路の伝送方向に直交する断面内での電界分布を示しており、信号の伝送方向は紙面に対して直交する方向である。
図11(A)に示したように、奇モードでは、導体線路51,52の対称面に対して電界が垂直に交わり、対称面が仮想的な電気壁53Eとなる。図12(A)は、図11(A)と等価な伝送線路を示している。図12(A)に示したように、対称面を実際の電気壁53E(ゼロ電位の壁、グランド)に置き換えることで、1つの導体線路51だけの線路と等価な構造にすることができる。図12(A)に示した線路での特性インピーダンスが、上記式(1A),(1B)での奇モードの特性インピーダンスZOとなる。
一方、偶モードでは、図11(B)に示したように導体線路51,52の対称面に対して電界が平衡になり、磁界が対称面に対して垂直に交わる。偶モードでは、対称面が仮想的な磁気壁53Hとなる。図12(B)は、図11(B)と等価な伝送線路を示している。図12(B)に示したように、対称面を実際の磁気壁53H(インピーダンス無限大の壁)に置き換えることで、1つの導体線路51だけの線路と等価な構造にすることができる。図12(B)に示した線路での特性インピーダンスが、上記式(1A),(1B)での偶モードの特性インピーダンスZeとなる。
ここで、一般的に伝送線路の特性インピーダンスZは、信号ラインの単位長さ当たりのグランドに対する容量Cと、信号ラインの単位長さ当たりのインダクタンス成分Lとの比で表現される。すなわち、
Z=√(L/C) ……(2)
なお、√は、(L/C)全体の平方根を取ることを示す。
奇モードでの特性インピーダンスZOは、図12(A)の線路構造から、対称面がグランド(電気壁53E)となりグランドに対する容量Cが大きくなるので、(2)式から、ZOの値が小さくなる。一方、偶モードでの特性インピーダンスZeは、図12(B)の線路構造から、対称面が磁気壁53Hとなるので容量Cが小さくなり、(2)式から、Zeの値が大きくなる。
このことを踏まえてインターディジタル結合した一対の1/4波長共振器21,22の共振モードの共振周波数である式(1A),(1B)を検討する。アークタンジェントの関数は単調増加の関数であるので、式(1A),(1B)においてtan-1に係る部分が大きくなればなるほど共振周波数は大きくなるし、小さくなればなるほど共振周波数は小さくなる。すなわち、奇モードでの特性インピーダンスZOの値が小さくなり、偶モードでの特性インピーダンスZeの値が大きくなって、それらの差が大きくなればなるほど、式(1A)から第1の共振モードの共振周波数f1は大きくなり、式(1B)から第2の共振モードの共振周波数f2は小さくなる。
従って、結合する伝送路の対称面の比率を大きくしてやれば、第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2は、図13に示したように互いに離れていくことになる。なお、図13は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器21,22における共振周波数の分布状態を示している。第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2の中間の共振周波数f0は、線路の物理的な長さによって決まる1/4波長で共振した場合の周波数(インターディジタル結合していないときの各1/4波長共振器単体での共振周波数)となる。ここで、伝送路の対称面の比率を大きくするということは、(2)式から奇モードでの容量Cを大きくすることに対応する。容量Cを大きくすることは、線路の結合の度合いを強くすることに対応する。従って、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器21,22において、共振器間の結合を強くすればするほど、第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2とが大きく分離していくことになる。
一対の1/4波長共振器21,22をインターディジタル型で、かつ強く結合させることにより、以下の利点がある。強く結合させることで、物理的な1/4波長の長さで決まる共振周波数f0が2つに分離する。すなわち、共振周波数f0よりも高い第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと、共振周波数f0よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとの2つのモードが現れる。
この場合において、周波数の低い第2の共振周波数f2を、動作周波数(フィルタとして構成した場合には通過周波数)に設定することで、第1の利点としてまず、動作周波数を共振周波数f0に設定した場合よりも共振器全体を小型化することができる。例えば2.4GHz帯を通過周波数としたフィルタを設計する場合、物理的な長さを例えば8GHzに対応させた1/4波長共振器を用いることができる。これは、物理的な長さを2.4GHz帯に対応させた1/4波長共振器とした場合よりも小型のものとなる。
また、第2の利点として、平衡端子を結合させた場合に優れたバランス特性が得られる。図9および図10を参照して説明したように、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器21,22では、第1の共振モードでは同相に励振され、第2の共振モードでは逆相に励振されている。従って、一対の1/4波長共振器21,22をインターディジタル型に強く結合させて第1の共振周波数f1を十分に高く設定し、第2の共振周波数f2とは十分に分離させることで、フィルタ通過周波数(=第2の共振周波数f2)に対しては同相成分を励振させずに逆相成分だけにすることができる。これによりバランス特性を良好なものとすることができる。この観点から、第1の共振周波数f1は、入力信号の周波数帯域よりも十分に高いことが好ましい。例えば、第1の共振周波数f1が第2の共振周波数f2に対し3倍を超える程度であることが好ましい。すなわち、
f1>3f2
の条件を満たすことが好ましい。
周波数の低い第2の共振周波数f2をフィルタとしての通過周波数に設定する場合、入力信号の周波数帯域が第1の共振周波数f1に重なると周波数特性が悪化する。第1の共振周波数f1を入力信号の周波数帯域よりも高く設定することで、これが防止される。
さらに、第3の利点として、導体損失を少なくすることができる。図14(A),図14(B)は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器21,22における磁界Hの分布を模式的に示している。なお、図14(A),図14(B)では、図10に示した一対の1/4波長共振器21,22における第2の共振モードでの電流iの流れる方向に直交する断面内での磁界分布を示している。電流iの流れる方向は紙面に対して直交する方向である。第2の共振モードでは、図14(A)に示したように、一対の1/4波長共振器21,22において、断面内で同一方向に(例えば反時計回りに)、磁界Hが分布する。この場合、強くインターディジタル結合させると(一対の1/4波長共振器21,22同士を近づけると)、図14(B)に示したように、一対の1/4波長共振器21,22を仮想的に1つの導体とみなした状態と同等の磁界分布となる。すなわち、仮想的に導体厚が厚くなるので、導体損失が少なくなる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、隣接する貫通導体同士をインターディジタル結合された一対の1/4波長共振器の構成として、周波数が高い第1の共振モードと周波数の低い第2の共振モードとの2つの共振モードを有する構成とし、かつ、隣接する共振部同士を周波数の低い第2の共振モードで電磁結合するようにしたので、従来の誘電体フィルタに比べて大幅な小型化を実現できる。
また、第2の共振部20における複数の貫通導体を、全体として回転対称軸5を有する回転対称な構造とし、一対の平衡端子3,4を回転対称軸5に対して互いに回転対称となる位置において、一の貫通導体と他の貫通導体とに接続するようにしたので、平衡信号をバランス特性に優れた状態で伝送することができる。
また、本実施の形態によれば、各共振部において、複数の貫通導体を全体として略環状に配列するようにしたので、各共振部において、複数の貫通導体が全体として擬似的にひとつの円形状の導体に近くなり、導体損失が少なくなる。また、偶数個の貫通導体で構成されていることで、隣接する貫通導体同士が、すべて互いにインターディジタル結合され、無駄が無くなる。さらに、貫通導体の断面形状を円形にしたことで、貫通導体の断面内で電荷が平均的に分布するので、導体損失が少なくなる。
図24は、この誘電体フィルタの損失特性を示している。図24の横軸は周波数(GHz)、縦軸は損失(dB)を示す。また、図25は、この誘電体フィルタの位相特性を示している。図25の横軸は周波数(GHz)、縦軸は位相差(degree)を示す。これらの特性は、図1の構成における各貫通孔の直径を50μm、誘電体ブロック1を構成する誘電体の比誘電率εrを91、第1の共振部10および第2の共振部20における各貫通孔の長さを1.6mm、各貫通孔に形成された一対の1/4波長共振器同士の間隔を150μmとして計算されている。
図24において、符号S21を付した曲線は一方の端子用貫通孔3Aに形成された一方の平衡端子3から出力される信号の通過損失特性を示す。符号S31を付した曲線は他方の端子用貫通孔4Aに形成された他方の平衡端子4から出力される信号の通過損失特性を示す。符号S11を付した曲線は端子用貫通孔2Aに形成された不平衡端子2から見た反射損失特性を示す。図24から分かるように、この誘電体フィルタでは、1.9GHz前後を通過帯域とした良好なバンドパスフィルタが実現できている。特に、一対の平衡端子3,4の減衰損失特性が互いにほぼ等しく、振幅バランスに優れたバンドパスフィルタが実現できている。また、この誘電体フィルタでは、図25から分かるように、一対の平衡端子3,4から出力される信号の位相差が通過帯域においてほぼ180°となっており、位相バランスにも優れている。
[変形例]
以下、本実施の形態に係る誘電体フィルタの変形例を説明する。以下の変形例において、図1ないし図7に示した基本構成に対応する部分には同一の符号を付す。
<第1の変形例>
図15および図16は、この誘電体フィルタの第1の変形例を示している。図16は、この誘電体フィルタを上面方向から見た構成を示している。なお、図15では、グランド電極31,32の図示を省略している。図1の構成例では、誘電体ブロック1の側面に外部端子電極41,42,43を形成すると共に、不平衡端子2を形成するための端子用貫通孔2Aと、一対の平衡端子3,4を形成するための端子用貫通孔3A,4Aとを側面方向に貫通させ、側面方向から信号を取り出す構成となっている。これに対し、図15および図16の変形例では、誘電体ブロック1の上面に外部端子電極41,42,43を形成すると共に、端子用貫通孔2Aと端子用貫通孔3A,4Aとを上面方向に貫通させ、上面方向から信号を取り出す構成となっている。また、上面のグランド電極31と導通しないように、外部端子電極41,42,43の周囲には絶縁領域41A,42A,43Aが設けられている。
また、この誘電体フィルタにおいて、第2の共振部20は、図16に示したように、誘電体ブロック1の上面方向から見たときに、上面に直交する回転対称軸6を有し、全体的に回転対称な構造とされている。一対の平衡端子3,4を形成するための端子用貫通孔3A,4Aは、回転対称軸6に対して互いに回転対称となる位置において、第1の貫通孔21Aと第4の貫通孔24Aとに接続されている。
なお、誘電体ブロック1の底面に外部端子電極41,42,43を形成すると共に、端子用貫通孔2Aと端子用貫通孔3A,4Aとを底面方向に貫通させ、底面方向から信号を取り出す構成としても良い。
<第2〜第4の変形例>
図17〜図19は、この誘電体フィルタの第2〜第4の変形例を示している。なお、図17〜図19では、第2の共振部20における貫通孔の配列を示しているが、第1の共振部10における貫通孔の配列についても同様である。また、図17〜図19では、図2に対応する第1の側面方向から見た貫通孔の配列を示すが、貫通孔以外の構成要素の図示は省略している。また、図17〜図19における“+”,“−”の符号は、図6と同様、貫通孔に形成される貫通導体を伝搬する電磁波の第2の共振モードでの位相の関係を示す。
図1の構成例では、第2の共振部20に4つの貫通孔21A,22A,23A,24Aを設け、4つの貫通導体を形成して4つの1/4波長共振器21,22,23,24を形成するようにしたが、形成する貫通導体の数はこれに限られない。図17の第2の変形例は、第2の共振部20に2つの貫通孔21A,22Aを設け、2つの貫通導体を形成して2つの1/4波長共振器を形成するようにした構成例である。また、図18の第3の変形例は、第2の共振部20に6つの貫通孔21A,22A,23A,24A,25A,26Aを略環状に設け、6つの貫通導体を形成して6つの1/4波長共振器を略環状に形成するようにした構成例である。なお、貫通導体を略環状に多数設ける場合、その数は偶数個であることが好ましい。これにより、多数の貫通導体が全体として略環状に配列されることで、全体として擬似的にひとつの円形状の導体に近くなり、導体損失が少なくなる。また、偶数個の貫通導体で構成されていることで、隣接する貫通導体同士が、すべて互いにインターディジタル結合され、無駄が無くなる。
図19の第4の変形例は、第2の共振部20に4つの貫通孔21A,22A,23A,24Aを環状ではなく直列状に設け、4つの貫通導体を形成して4つの1/4波長共振器を直列状に形成するようにした構成例である。直列状に形成した場合、両端部に形成される貫通導体同士はインターディジタル結合されなくなる。
なお、図17〜図19の各変形例において、第2の共振部20は、回転対称軸5を有し、全体的に回転対称な構造とされている。一対の平衡端子3,4は回転対称軸5に対して互いに回転対称となる位置において、2つの貫通孔に形成された貫通導体に接続される。
<第5の変形例>
図20は、この誘電体フィルタの第5の変形例を示している。なお、図20では、第2の共振部20における貫通孔の配列を示しているが、第1の共振部10における貫通孔の配列についても同様である。また、図20では、図2に対応する第1の側面方向から見た貫通孔の配列を示すが、貫通孔以外の構成要素の図示は省略している。また、図20における“+”,“−”の符号は、図6と同様、貫通孔に形成される貫通導体を伝搬する電磁波の第2の共振モードでの位相の関係を示す。
図1の構成例では、第2の共振部20の各貫通孔の断面を円形状とし、断面が円形状の貫通導体が形成するようにしたが、各貫通孔の断面形状は円形状に限られない。図20の第5の変形例は、第2の共振部20に断面が扇形状の6つの貫通孔21A,22A,23A,24A,25A,26Aを設け、断面が扇形状の6つの貫通導体を形成して6つの1/4波長共振器を形成するようにした構成例である。6つの貫通孔21A,22A,23A,24A,25A,26Aは全体としては略環状に配列されている。この変形例では、全体としてひとつの大きな円形状の貫通孔を、6つに等分割したような形状とされている。この構成の場合、隣接する貫通導体同士の対向面が平面形状とされる。また、この構成の場合、各貫通導体が、隣接する対向面同士が略平行となるように配列されていることが好ましい。対向面が平面形状で、かつ略平行に配列されていることで、隣接する貫通導体同士で対向面積が大きくなり、強い容量結合が得られるので、より小型化しやすくなる。
図21〜図23に、共振部の具体的な設計例を示す。なお、図21〜図23では主要な構成要素のみを簡略化して図示している。図21は、円形状の貫通導体を1つのみ形成し、それを1/4波長共振器とした場合の設計例である。図示したように、誘電体ブロックの長さ方向の大きさは2mm、幅方向の大きさは1.2mm、高さ方向の大きさは0.8mmである。また、貫通導体の直径は0.4mmとなっている。この設計例における共振周波数の値は、約3.9GHzとなっている。なお、ここでの共振周波数は、1/4波長共振器の単体での共振周波数であり、図13に示した中間の共振周波数f0に相当する。
図22は、図21の設計例に対し、断面が扇形状の4つの貫通導体を全体として環状に配列した場合の設計例である。隣接する貫通導体は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振として機能している。図示したように、誘電体ブロックの長さ方向の大きさは1mm、幅方向の大きさは1mm、高さ方向の大きさは1mmである。各貫通導体の外周は中心部から0.2mmの位置にあり、各貫通導体は、0.1mmの間隔を空けて対向配置されている。この設計例における共振周波数の値は、約3.5GHzとなっている。なお、ここでの共振周波数は、インターディジタル結合した一対の1/4波長共振器における周波数の低い第2の共振周波数f2である(図13に示した第2の共振周波数f2)。同帯域の共振周波数であるにもかかわらず、図21に比べて図22の構成の方が大幅に小型化されている。
図23も、図22の設計例と同様に、断面が扇形状の4つの貫通導体を全体として環状に配列した場合の設計例である。図示したように、誘電体ブロックの長さ方向の大きさは0.6mm、幅方向の大きさは1.2mm、高さ方向の大きさは0.8mmである。各貫通導体の外周は中心部から0.2mmの位置にあり、各貫通導体は、0.05mmの間隔を空けて対向配置されている。この設計例における共振周波数の値は、約4.2GHzとなっている。なお、ここでの共振周波数は、インターディジタル結合した一対の1/4波長共振器における周波数の低い第2の共振周波数f2である(図13に示した第2の共振周波数f2)。図23の設計例では、隣接する貫通導体間の間隔が、図22の設計例に比べて小さくなっていることにより、強い結合が得られ、より小型化されている。
[その他の変形例]
本発明は、上記実施の形態および変形例に限定されずさらに他の変形実施が可能である。例えば、上記実施の形態では、不平衡入力−平衡出力型のフィルタを例に説明したが、本発明は、入出力端双方を平衡端子にした平衡入力−平衡出力型のフィルタにも適用可能である。この場合、図1の構成において、第1の共振部10における端子部分の構成を第2の共振部20と同様に構成すれば良い。また、平衡端子を備えない構成、すなわち不平衡入力−不平衡出力型のフィルタであっても良い。この場合、図1の構成において、第2の共振部20における端子部分の構成を第1の共振部10と同様に構成すれば良い。
また、上記実施の形態および変形例では、共振部を全体として2つ備える場合について説明したが、第1の共振部10と第2の共振部20との間に1または2以上の他の共振部が配置されていても良い。すなわち、全体として3以上の共振部を結合させた多段のフィルタ構成となっていても良い。この場合、中間段の共振部の構成は、端子部分の構造を除いて、第1の共振部10および第2の共振部20と同様である。
また以上では、貫通導体を、貫通孔の内壁面に形成された導体膜であるものとして説明したが、これに限らず、貫通孔の内部全体を埋め尽くすような棒状の導体で形成しても良い。
1…誘電体ブロック、2…不平衡端子、3,4…平衡端子、5…回転対称軸、2A,3A,3,11A,12A,13A,14A,21A,22A,23A,14A…貫通孔、2B,3B,4,11B,12B,13B,14B,21B,22B,23B,24B…導体膜、10…第1の共振部、11,12,13,14,21,22,23,24…1/4波長共振器、20…第2の共振部、31,32…グランド電極、33,34,35,36,37,38…接続用電極、41,42,43…外部端子電極。