JP4452913B2 - インクジェットインク用顔料分散液、インクジェットインク組成物およびその製造法 - Google Patents
インクジェットインク用顔料分散液、インクジェットインク組成物およびその製造法 Download PDFInfo
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Description
【本発明の属する技術分野】
本発明は、赤色ないしマゼンタ色用途のインクジェットインク用顔料分散液、インクジェットインク組成物と、これらの製造方法に関するものであり、特にサーマルジェット記録に適したインク組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
水性インクは、油性インクのような、火災の危険性や変異原性などの毒性が皆無か、より低減できるという優れた特徴を有していることから、産業用途以外のインクジェット記録用インクとしては、主溶剤として水を用いる水性インクがインクジェット記録の主流となっている。
【0003】
また従来、インクジェット記録用水性インクとしは、溶解安定性が高く、ノズル目詰まりが少なく良好な発色性を有し高画質の印刷を可能とすることから、着色剤として染料が用いられてきた。しかし染料は、画像の耐水性、耐光性に劣るという問題があり、産業用として用いることは不可能であった。さらに昨今優れた耐水性、耐光性長期における画質安定性が家庭用にも求められるようになり。染料から顔料への着色剤の転換が活発に図られている。顔料インクは優れた耐水性、耐光性を期待できるが、顔料の凝集・沈降に伴うノズル目詰まりが発生しやすい。そこで、高分子系の分散剤を用いて顔料を水性媒体中に分散させる方法が種々検討されている。しかし高分子分散剤のみを用いて分散機による分散を行っても、長期間にわたって顔料を安定に分散させることは困難であった。
【0004】
例えば、高分子系の分散剤を用いて顔料を水性媒体中に分散させる方法として、水溶性の高分子分散剤を塩基性成分を用いて水に溶解した水溶液を調製し、これに顔料を加えて十分撹拌した後、更に分散効率の高い高速サンドミル等を用いる方法が提案されている。
しかしながら、サンドミルによる分散においては、必ずしも高い剪断力、解砕力のもとに分散が進行するわけでは無いので、分散時間が長時間にわたり、製造効率が低いという問題があった。また、この様にして得られた水性顔料分散液においても粗大粒子が残存することがあり、初期分散性、分散安定性ともに不充分であった。
【0005】
一方、顔料分散状態を長期に渡って安定に保つために、種々の顔料誘導体を分散剤として使用する方法が考案されており、例えば顔料とスルホン酸基含有顔料誘導体を使用し、顔料表面に吸着したスルホン酸基含有含量誘導体の静電反発を利用する方法が提案されている(特許文献1参照)。この手法によれば、色材の分散安定性は向上するが、この色材を用いたインクによる印刷物は、色材表面の極性官能基の存在により水との親和性が高く、顔料そのものを色材として使用するインクと比べると、耐水性が劣るといった問題が生じる。
【0006】
また、キナクリドン系顔料を色材として用いた水性顔料分散体または記録用インクの分散性および分散安定性を達成するために、本出願人は先にキナクリドン系顔料とジメチルアミノメチル化キナクリドン化合物を併用したマイクロカプセル化顔料分散体を(特許文献2参照)、またキナクリドン系顔料と、フタルイミドメチル化キナクリドン系化合物或いはさらにキナクリドンスルホン酸系化合物、並びにガラス転移点が−20から60℃のアニオン性基含有有機高分子化合物を含有する水性顔料分散体を提案した(特許文献3参照)。しかしながら、上記公報に記載のマゼンタ色水性顔料分散体も、分散レベルおよび分散安定性の面で十分満足できる物ではなかった。とくにサーマルジェット方式のインクジェット記録に適用したときに熱安定性が不十分であった。
【0007】
一方、キナクリドン系顔料を分散させるための樹脂として、スチレンアクリル樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/30、分子量5万)を使用したインクジェットインク用水性顔料分散液の例が知られている(特許文献4参照)。 しかしながら、該公報に記載のマゼンタ色水性顔料分散体も、分散レベルおよび分散安定性の面で十分に満足できる物ではない。特にサーマルジェット方式のインクジェット記録に適用されたとき、吐出安定性を十分に確保することができなかった。
【0008】
また、カーボンブラックを分散させるための樹脂として、スチレンアクリル樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/30、分子量7200、及び8300)を使用したインクジェットインク用水性顔料分散液の例が知られている(特許文献5及び特許文献6参照)。しかしながら、該公報にはキナクリドン系顔料を使用したマゼンタ色水性顔料分散体の分散安定性の向上に関しては、何ら具体的な提案がなされていない。
このようにインクジェット記録用水性インク組成物の分散安定性の向上、特に良好なサーマルジェット方式のインクジェット記録を行うための有意義な示唆を与えるものはこれら公知文献の中には見いだせない。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−241638号公報
【特許文献2】
特開平9−151342号公報
【特許文献3】
特開2000−191974号公報
【特許文献4】
特開2000−186244号公報(実施例5)
【特許文献5】
特開2001−164165号公報(実施例)
【特許文献6】
特開2003−41178号公報(実施例)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、分散性及び分散安定性に優れ、高温での長期放置でも粒径の増大が少なく、且つ、粘度上昇も少ない保存安定性に優れた赤色ないしマゼンタ色のインクジェットインク用着色顔料分散液、及びこれを用いたインクジェット記録用水性インク組成物を製造するためのインクジェットインク用着色混練物を提供することを課題とする。
特に、サーマルジェット用に適したインクジェット用顔料分散液およびインクジェット記録用水性インク組成物を得ることができるインクジェットインク用着色混練物を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、キナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、アルカリ金属水酸化物(d)、を含有するインクジェットインク用水性顔料分散液であって、
前記スチレン系樹脂(c)が
(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレンモノマーと
(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、
且つ前記スチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7500〜40000の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散液を提供する。
【0012】
キナクリドンスルホン酸系化合物(b)は、本願発明で使用した60質量%以上のスチレン系モノマー単位、アクリル酸モノマー単位、メタクリル酸モノマー単位を構成成分とするスチレン系樹脂とよく適合し、該樹脂の分散安定化機能を補助して、キナクリドン顔料を含有する水性インク組成物の分散安定性を向上させる。また該樹脂が高いガラス転移点(Tg)を有するときは、該水性インク組成物はさらに高い熱安定性を有し、サーマスジェット方式のインクジェット記録に好適に使用することができる。
【0013】
さらに本発明は、キナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、アルカリ金属水酸化物(d)からなるインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法であって、
キナクリドン系顔料(a)、スチレン系樹脂(c)、及びアルカリ金属水酸化物(d)を混練して着色混練物を作製する第1の工程と、前記着色混練物をキナクリドンスルホン酸系化合物(b)の存在下において、水性媒体中へ分散させる第2の工程を有し、
前記スチレン系樹脂(c)は、
(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマーと
(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、且つ前記スチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7500〜40000の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられるキナクリドン系顔料(a)としては、公知慣用のものがいずれも使用でき、具体例としては、C.I.ピグメントレッド122等のジメチルキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントレッド202、同 レッド209等のジクロロキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントバイオレット19等の無置換キナクリドン、及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体を挙げることができる。顔料は粉末状、顆粒状あるいは塊状の乾燥顔料でもよく、ウエットケーキやスラリーでもよい。
上記キナクリドン系顔料の中では、C.I.ピグメントレッド122が好ましく用いられる。
【0015】
本発明において用いられるキナクリドンスルホン酸系化合物(b)は、公知慣用のものが使用できる。これは、例えば無置換キナクリドン、ジメチルキナクリドン、ジクロロキナクリドン等を公知の方法により濃硫酸等と反応させることで合成できるキナクリドンスルホン酸類、およびそのナトリウム、アルミニウム、カルシウム等の金属塩類、ならびにそのアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、ジドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム等のアンモニウム塩類が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩であることが好ましい。
より具体的には、本発明で使用するキナクリドンスルホン酸系化合物(b)としては、3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸のアルカリ金属塩が好ましく、3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩がさらに好ましい。
【0016】
本発明で使用するスチレン系樹脂(c)は、(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマーと(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、且つスチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7,500〜40,000の範囲内の樹脂である。
【0017】
スチレン系モノマーとしては公知の化合物を用いることができる。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ヘキシルスチレンの如きアルキルスチレン、4−クロロスチレン、3−クロロスチレン、3−ブロモスチレンの如きハロゲン化スチレン、更に3−ニトロスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルトルエン等がある。
【0018】
スチレン系樹脂(c)の原料であるスチレン系モノマーの使用比率は60〜90質量%であることがより好ましく、中でも70〜90質量%であることが特に好ましい。スチレン系モノマーの使用比率が60質量%未満であると、キナクリドン系顔料(a)へのスチレン系樹脂(c)の親和性が不充分となり、インクジェットインク用水性顔料分散液の分散安定性が低下する傾向がある。また該水性顔料分散液から得られるインクジェット記録用水性インク組成物の普通紙記録特性が劣化し、画像記録濃度が低下する傾向があり、更に耐水特性も低下する傾向がある。また、スチレン系モノマー単位の総和が、全モノマー単位の総和の90質量%以下であると、分散に寄与するアニオン性基を有するモノマー単位の含有量を確保できるため、水系での分散安定性、長期保存安定性が悪化する危険性を防ぐことができる。スチレン系モノマーの量が上記範囲であると、スチレン系樹脂(c)の水性媒体に対する溶解性を良好にすることができ、インクジェットインク用水性顔料分散液における顔料の分散性や分散安定性を向上させることができる。更に、インクジェット記録用水性インク組成物とし右て使用した場合の印字安定性が良好になる。
【0019】
スチレン系モノマーと共重合させるラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸としては、公知の化合物を使用することができる。例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、α−メチルクロトン酸、α−エチルクロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタアクリル酸を使用するのが好ましく、両者を併用するのが特に好ましい。アクリル酸とメタクリル酸を併用することによって、樹脂合成時の共重合性が向上して、樹脂の均一性が良くなる。この結果、保存安定性が良好であり、且つより微粒子化された顔料分散液が得られる傾向がある。
【0020】
本発明で使用するスチレン系樹脂(c)は、水性媒体中で安定した顔料表面の被覆を形成することが好ましく、かつ塩基性化合物で酸基が中和されて安定した水分散性を有することが好ましい。このために酸価50〜300のものを使用する。酸価が50より小さいと、親水性が小さくなり、顔料の分散安定性が低下するおそれがある。一方酸価が300より大きいと、顔料の凝集が発生し易くなり、またインク組成物を用いた印字品の耐水性が低下するおそれがある。酸価の値としては、60〜250が好ましく、70〜200の範囲であることがさらに好ましい。
【0021】
スチレン系樹脂(c)には、スチレン系モノマー及びラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸以外の公知のモノマーを使用できる。そのようなモノマーの例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルブチルアクリレート、1,3−ジメチルブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、2−メチルブチルメタアクリレート、ペンチルメタアクリレート、ヘプチルメタアクリレート、ノニルメタアクリレート等のアクリル酸エステル類及びメタアクリル酸エステル類;3−エトキシプロピルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレートのようなアクリル酸エステル誘導体及びメタクリル酸エステル誘導体;フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルエチルアクリレート、フェニルエチルメタアクリレートのようなアクリル酸アリールエステル類及びアクリル酸アラルキルエステル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ビスフェノールAのような多価アルコールのモノアクリル酸エステル類あるいはモノメタアクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイあン酸ジエチルのようなマレイン酸ジアルキルエステル、酢酸ビニル等を挙げることができる。これらのモノマーはその1種又は2種以上をモノマー成分として添加することができる。
【0022】
スチレン系樹脂(c)の製造方法としては、通常の重合方法を採ることが可能で、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等、重合触媒の存在下に重合反応を行う方法が挙げられる。重合触媒としては、例えば、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられ、その使用量はビニルモノマー成分の0.1〜10.0質量%が好ましい。
【0023】
本発明で使用するスチレン系樹脂(c)の重量平均分子量は7,500から40,000の範囲内にあることが好ましく、7,500から30,000の範囲内にあることがより好ましい。中でも、10,000〜25,000の範囲内にあることが特に好ましい。重量平均分子量が7,500未満であると、キナクリドン系顔料(a)の初期の分散小粒径化は容易であるが、インクジェットインク用水性顔料分散液の長期保存安定性が悪くなる傾向にあり、顔料の凝集などによる沈降が発生する場合がある。スチレン系樹脂(c)の重量平均分子量が40,000を超えると、これを用いたインクジェットインク用水性顔料分散液から調製したインクジェット記録用水性インク組成物の粘度が高くなって、インクの吐出安定性が不安定になる傾向にある。
【0024】
本発明で使用するスチレン系樹脂(c)のガラス転移点は90℃以上あることが好ましい。100℃以上、で150℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移点が90℃以上であると、インク組成物の熱安定性が向上する。このため前記水性顔料分散液から作製されたインクジェット記録用水性インク組成物をサーマルジェット方式のインクジェット記録用に用いても、繰り返し加熱によって吐出不良を起こすような特性変化を生じず、好ましい。
なお本発明で使用するスチレン系樹脂(c)のガラス転移点は、示差走査熱量計で測定される値とする。
【0025】
本発明で使用するスチレン系樹脂(c)はランダム共重合体でもよいが、グラフト共重合体であっても良い。グラフト共重合体としてはポリスチレンあるいはスチレンと共重合可能な非イオン性モノマーとスチレンとの共重合体が幹又は枝となり、アクリル酸、メタクリル酸とスチレンを含む他のモノマーとの共重合体を枝又は幹とするグラフト共重合体をその一例として示すことができる。スチレン系樹脂(c)は、このグラフト共重合体とランダム共重合体の混合物であってもよい。
【0026】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液、インクジェットインク組成物において、キナクリドン系顔料(a)と、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)との合計100質量部に対する、スチレン系樹脂(c)の含有量は10から50質量部であることが好ましく、10から40質量部であることがより好ましい。スチレン系樹脂(c)の含有量が10質量部未満であると、インクジェットインク用顔料分散液の分散安定性が低下するとともにインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製したとき、耐摩擦性が低下する傾向にあり、50質量部を超えた場合は、インクジェットインク組成物の粘度が高くなりすぎる傾向が認められる。
【0027】
本発明において用いられるアルカリ金属水酸化物(d)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を例示でき、特に水酸化カリウムが好ましい。また、アルカリ金属水酸化物(d)の添加量は、スチレン系樹脂(c)が有する全カルボキシル基を中和するために必要な量の0.8〜1.2倍に相当する量であることが好ましい。
【0028】
本発明のインクジェットインク用着色混練物においては、下記の製造方法によってインクジェットインク用着色混練物を製造するのが好ましい。
【0029】
すなわちキナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、アルカリ金属水酸化物(d)からなるインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法であって、
キナクリドン系顔料(a)、スチレン系樹脂(c)、及びアルカリ金属水酸化物(d)を混練して着色混練物を作製する第1の工程と、前記着色混練物をキナクリドンスルホン酸系化合物(b)の存在下において、水性媒体中へ分散させる第2の工程を有し、
前記スチレン系樹脂(c)は、
(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレンモノマーと
(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、且つ前記スチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7500〜40000の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法である。
【0030】
本発明のインクジェットインク用着色混練物を製造するにあたり、前記キナクリドン顔料(a)、スチレン系樹脂(c)、及びアルカリ金属水酸化物(d)にさらに湿潤剤を含有させて混練をおこなってもよい。湿潤剤を含有させることにより、該混合物の固形分比を混練装置に適した値に調整することが容易になるとともに、前記顔料表面が湿潤剤によって濡れやすいため、湿潤剤がスチレン系樹脂に置き換わることで顔料表面の被覆が速やかに進行する。また湿潤剤は本来インクジェット記録用水性インク組成物中に乾燥防止剤として含有されるものであるから、該着色混練物の製造工程において使用した湿潤剤がインクジェット記録用水性インク組成物中に少量残存したとしても悪影響は及ぼさない。
【0031】
本発明において用いられる(e)湿潤剤としては公知慣用のものが使用でき、例えばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、1,3−ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。
【0032】
混練に用いることができる上記湿潤剤は、スチレン系樹脂の溶解力が強くなく、該樹脂濃度を25質量%として前記湿潤剤と前記スチレン系樹脂を撹拌したときに、均一溶液とならないものが好ましい。さらにインクジェット記録用水性インク組成物中に前記湿潤剤が5質量%以上残存した場合、該水性インク組成物の特性を低下させないものであることが好ましい。
湿潤剤の添加量は、キナクリドン系顔料(a)100質量部に対して、40〜80質量部の範囲内である。湿潤剤の添加量が上記範囲にあると、固形物同士を容易に融合状態とすることができ、混練時に十分な剪断力を負荷することができ好ましい。
【0033】
上記の製造方法において、アルカリ金属水酸化物(d)の添加量は、スチレン系樹脂(c)が有する全カルボキシル基を中和するために必要な量の0.8〜1.2倍に相当する量であることが好ましい。また、スチレン系樹脂(c)をキナクリドン系顔料(a)、アルカリ金属水酸化物(d)、及び式Iで表される化合物(b)と共に混練する場合、高剪断力下で混練することが好ましい。高剪断力下で混練することにより、キナクリドン系顔料(a)が微粉砕され、更にその粒子表面にスチレン系樹脂(c)の吸着が進行し、均一なインクジェットインク用着色混練物が得られる。
【0034】
アルカリ金属水酸化物(d)は、アルカリ金属水酸化物(d)の水溶液、又は有機溶剤溶液として添加する。この場合、アルカリ金属水酸化物(d)の水溶液又は有機溶剤溶液の濃度は、20質量%〜50質量%であることが好ましい。また、アルカリ金属水酸化物(d)を溶解する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、等のアルコール系溶剤を用いることが好ましい。中でも、本発明では、アルカリ金属水酸化物(d)の水溶液を用いることが好ましい。
【0035】
混練する際のインクジェットインク用着色混練物中の固形分濃度は50〜80質量%であることが好ましい。固形分濃度をこのような範囲において混練を行うことにより、十分な剪断力をかけることができ、キナクリドン系顔料(a)の粉砕が不十分となることがなく、均一なインクジェットインク用着色混練物を得ることが出きる。
また混練時の温度は混練物に十分な剪断力が加わるように、前記スチレン系樹脂(c)の温度特性を考慮して適宜調整を行うことができるが、前記スチレン系樹脂(c)のガラス転移点より低く、かつ該ガラス転移点との温度差が50℃より小さい範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で混練を行うことにより、混練温度の上昇に伴う混練物の粘度低下によって剪断力が不足することがなく、また固形分濃度が上昇しにくいため混練終了後の混練物の分散が困難となることがない。
【0036】
インクジェットインク用着色混練物を製造する際には、二本ロール等の撹拌槽を有しない開放型の混練機を用いるよりは、撹拌槽を有する混練機を用いることが好ましい。このような混練機を使用すると、混練後のインクジェットインク用着色混練物を水性媒体で直接希釈してインクジェットインク用水性顔料分散液を製造することも可能である。撹拌槽を有する混練機の具体例としてはプラネタリーミキサーが好ましい。プラネタリーミキサーは二本ロール等と比較すると、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり、更に水性媒体の添加及び減圧溜去も可能であるため、混練時の粘度及び負荷剪断力の調整が容易である。
【0037】
混練のあとの希釈工程においては、インクジェット用着色樹脂組成物を、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体で、一括で希釈してインクジェット用顔料分散液を製造することも可能であるし、あるいはインクジェット用着色樹脂組成物を、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含まない水性媒体で希釈して水性顔料分散液前駆体を準備した後、更にキナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体で希釈してインクジェット用顔料分散液を製造しても良い。
【0038】
混練後のインクジェットインク用着色混練物を水性媒体で希釈して得たインクジェットインク用水性顔料分散液は、更に分散機により分散処理することが好ましい。分散処理を行うことによって、インクジェットインク用水性顔料分散液中の粗大分散粒子が更に粉砕され、より分散粒子の粒径が小さくなることによって、インクジェット記録用水性インク組成物の吐出安定性、印字濃度などのインクジェット特性がより改善されるためである。
【0039】
分散処理を行う際の分散機としては、公知慣用の機器が使用でき、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、ナノミル、SCミル、ナノマイザー等を挙げることができ、これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
インクジェットインク用着色混練物を希釈する際の水性媒体はインクジェットインク用水性顔料分散液の乾燥防止、および分散処理実施時の粘度調整の必要性から湿潤剤を含んでいても良く、その量はインクジェットインク用着色混練物中の湿潤剤と合わせて、インクジェットインク用水性顔料分散液中に3〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。この下限未満では、乾燥防止効果が不十分となる傾向にあり、上記上限を超えると分散液の分散安定性が低下する傾向にある。インクジェットインク用着色混練物の製造時と、これを希釈する際の水性媒体に使用される湿潤剤は、同一でも良く、異なっていても良い。
【0041】
本発明のインクジェットインク用着色混練物を使用したインクジェット記録用水性インク組成物は、常法により調製することができる。インクジェット記録用水性インク組成物を調製する場合は、粗大粒子が、ノズル詰まり、その他の画像特性を劣化させる原因になるため、インク調製後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により粗大粒子を除去しても良い。
【0042】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェット記録用水性インク組成物を調製する場合、インクの乾燥防止を目的として、先に例示した湿潤剤を同様に添加することができる。乾燥防止を目的とする湿潤剤のインク中の含有量は3から50質量%であることが好ましい。
【0043】
また、本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェット記録用水性インク組成物を調製する場合、被記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として浸透剤を添加することができる。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は0.01から10質量%であることが好ましい。
【0044】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェット記録用水性インク組成物を調製する場合、表面張力等のインク特性を調整するために、界面活性剤を添加することができる。このために添加することのできる界面活性剤はとくに限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0045】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0046】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0047】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0048】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して用いることもできる。
また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7から20の範囲であることが好ましい。
界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001から1質量%の範囲が好ましく、0.001から0.5質量%であることがより好ましく、0.01から0.2質量%の範囲であることがさらに好ましい。界面活性剤の添加量が0.001質量%未満の場合は、界面活性剤添加の効果が得られない傾向にあり、1質量%を超えて用いると、画像が滲むなどの問題を生じやすくなる。
【0049】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェット記録用水性インク組成物を調製する場合は、必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等をも添加することができる。
【0050】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液に占める、キナクリドン系顔料(a)の量は5から25質量%であることが好ましく、5から20質量%であることがより好ましい。キナクリドン系顔料(a)の量が5質量%より少ない場合は、本発明のインクジェットインク用顔料分散液から調製したインクジェット記録用水性インク組成物の着色が不充分であり、充分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に25質量%よりも多い場合は、インクジェットインク用顔料分散液において顔料の分散安定性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液から調製するインクジェット記録用水性インク組成物に占める、キナクリドン系顔料(a)の量は、充分な画像濃度を得る必要性と、インク中での分散粒子の分散安定性を確保するために、2から10質量%であることが好ましい。
【0052】
このインクジェット記録用水性インク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。適用するインクジェットの方式は特に限定するものではないが、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)などの公知のものを例示することができる。
【0053】
ここで、混練とは対象物に高剪断力を負荷させながら撹拌することを意味する。混練工程おいて、キナクリドン系顔料(a)は粉砕されると同時に、その粒子表面にスチレン系樹脂(c)の吸着が進行し、均一なインクジェットインク用着色樹脂組成物が得られる。
インクジェットインク用着色樹脂組成物を混練によって製造する際には、撹拌槽を有する混練機を用いることが好ましい。このような混練機を使用すると、混練によって製造されたインクジェットインク用着色樹脂組成物を、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体で直接希釈してインクジェットインク用顔料分散液を製造することも可能である。混練機の具体例としてはプラネタリーミキサーが例示できる。
【0054】
混練によって製造されたインクジェットインク用着色樹脂組成物を、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体で希釈して得たインクジェットインク用顔料分散液は、更に分散機により分散処理することが好ましい。分散処理を行うことによって、インクジェットインク用顔料分散液中の粗大分散粒子が更に粉砕されるし、より分散粒子の粒径が小さくなることによって、インクジェットインク組成物の吐出安定性、印字濃度などのインクジェット特性がより改善されるためである。
【0055】
分散処理を行う際の分散機としては、公知慣用の機器が使用でき、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げることができ、これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
インクジェットインク用着色樹脂組成物を希釈する際のキナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体はインクジェット用インク用顔料分散液の乾燥防止、および分散処理実施時の粘度調整の必要性から(e)湿潤剤を含んでいても良く、その量はインクジェットインク用着色樹脂組成物中の(e)湿潤剤と合わせて、インクジェット用インク用顔料分散液中に3から50質量%であることが好ましく、5から40質量%であることがより好ましい。この下限未満では、乾燥防止効果が不十分となる傾向にあり、上記上限を超えると、分散液の分散安定性が低下する傾向にある。
インクジェットインク用着色樹脂組成物製造時と、これを希釈する際のキナクリドンスルホン酸系化合物(b)を含む水性媒体に使用される(e)湿潤剤は、同一でも良く、異なっていても良い。
【0057】
本発明のインクジェットインク組成物は、インクジェットインク用顔料分散液を用いて、常法により調製することができる。
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製する場合は、粗大粒子が、ノズル詰まり、その他の画像特性を劣化させる原因になるため、インク調製後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により粗大粒子を除去しても良い。
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製する場合、インクの乾燥防止を目的として、先に例示した(e)湿潤剤を同様に添加することができる。乾燥防止を目的とする(e)湿潤剤のインク中の含有量は3から50質量%であることが好ましい。
【0058】
また、本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製する場合、被記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として浸透剤を添加することができる。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は0.01から10質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製する場合、表面張力等のインク特性を調整するために、界面活性剤を添加することができる。このために添加することのできる界面活性剤はとくに限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0060】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0061】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0062】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して用いることもできる。
また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7から20の範囲であることが好ましい。
【0063】
界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001から1質量%の範囲が好ましく、0.001から0.5質量%であることがより好ましく、0.01から0.2質量%の範囲であることがさらに好ましい。界面活性剤の添加量が0.001質量%未満の場合は、界面活性剤添加の効果が得られない傾向にあり、1質量%を超えて用いると、画像が滲むなどの問題を生じやすくなる。
【0064】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液を用いてインクジェットインク組成物を調製する場合は、必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等をも添加することができる。
【0065】
本発明のインクジェットインク用顔料分散液に占める、キナクリドン系顔料(a)の量は5から25質量%であることが好ましく、5から20質量%であることがより好ましい。キナクリドン系顔料(a)の量が5質量%より少ない場合は、本発明のインクジェットインク用顔料分散液から調製したインクジェットインク組成物の着色が不充分であり、充分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に25質量%よりも多い場合は、インクジェットインク用顔料分散液において顔料の分散安定性が低下する傾向がある。
本発明のインクジェットインク用顔料分散液から調製するインクジェットインク組成物に占める、キナクリドン系顔料(a)の量は、充分な画像濃度を得る必要性と、インク中での分散粒子の分散安定性を確保するために、2から10質量%であることが好ましい。
【0066】
このインクジェットインク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。適用するインクジェットの方式は特に限定するものではないが、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)などの公知のものを例示することができる。
【0067】
【実施例】
以下、本発明を実施例を示して詳しく説明する。
なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
また、本実施例において用いた樹脂AからCは以下の通りのものである。
【0068】
樹脂A:モノマー組成比において、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価152mgKOH/g、ガラス転移点118℃である樹脂。
樹脂B:モノマー組成比において、スチレン/メタクリル酸=77/23(質量比)であり、重量平均分子量10700、酸価146mgKOH/g、ガラス転移点126℃である樹脂。
樹脂C:モノマー組成比において、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13(質量比)であり、重量平均分子量5000、酸価150mgKOH/g、ガラス転移点105℃である樹脂。
樹脂D:モノマー組成比において、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13(質量比)であり、重量平均分子量45000、酸価153mgKOH/g、ガラス転移点128℃である樹脂。
樹脂E:モノマー組成比において、スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸/メタクリル酸=50/27/10/13(質量比)であり、重量平均分子量12000、酸価149mgKOH/g、ガラス転移点118℃である樹脂。
【0069】
ここで重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
なお、測定は以下の装置及び条件により実施した。
送液ポンプ:LC−9A
システムコントローラー:SCL−6B
オートインジェクター:SIL−6B
検出器:RID−6A
以上島津製作所社製。
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL−R400(ガードカラム)+GL−R440+GL−R450+GL−R400M(日立化成工業社製)
溶出溶媒:THF
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0070】
(実施例1)
下記組成の混合物を、容量50LのプラネタリーミキサーPLM−V−50V(株式会社井上製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が60℃になるまで低速(自転回転数:21回転/分,公転回転数:14回転/分)で混練を行い、内容物温度が60℃に達した後、高速(自転回転数:35回転/分,公転回転数:24回転/分)に切り替え、混練を継続した。
【0071】
樹脂A 1000g
キナクリドン系顔料:ファストゲンスーパーマゼンタRTS 5000g
(大日本インキ化学工業(株)製)
DEG 3200g
34質量%水酸化カリウム水溶液 447g
高速への切り替え時のプラネタリーミキサー電流値は5Aであった。その後、混練を継続し、プラネタリーミキサーの最大電流値が10Aを示した。最大電流値を示してから2時間、混練を継続した後、プラネタリーミキサーの電流値は8Aであった。この様にして得た撹拌槽内の混練物に、60℃に加温したイオン交換水を200g徐々に加えて混練を継続した。
【0072】
最大電流値を観測してから4時間経過した時点まで混練を継続し着色樹脂組成物を得た。得られた着色樹脂組成物にプラネタリーミキサーによる撹拌を継続しながら、2時間で総量6000gの60℃に加温したイオン交換水を加えた。
その後、プラネタリーミキサーから水希釈後の着色樹脂組成物を取り出した。水希釈後の着色樹脂組成物の固形分濃度は40.4質量%であった。さらに水希釈後の着色樹脂組成物12kgに、ジエチレングリコール1.42kg、イオン交換水11.25kgを分散撹拌機で撹拌しながら少量ずつ添加し、水性顔料分散液前駆体A−1を得た。
この水性顔料分散液前駆体A−1、18kgを、ビーズミル(浅田鉄工製ナノミルNM−G2L)にて下記条件で分散処理を実施し水性顔料分散液前駆体A−2を得た。
【0073】
・分散条件(1)
分散機 ナノミルNM−G2L(浅田鉄工製)
ビーズ φ0.3mmジルコニアビーズ
ビーズ充填量 85%
冷却水温度 10℃
回転数 2660回転/分
(ディスク周速:12.5m/sec)
送液量 200g/10秒
なお、分散は上記条件で、1時間循環しながら分散処理を行った。
水性顔料分散液前駆体A−2のキナクリドン系顔料濃度は16.0質量%であった。
【0074】
・分散条件(2)
250mlのポリエチレン製瓶にφ1.2mmのジルコニアビーズ200gを入れ、さらに下記配合を行いペイントコンディショナー(東洋精機製)で30分間処理し、水性顔料分散液A−3を得た。得られた水性顔料分散液A−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.1%であった。
水性顔料分散液前駆体A−2 65.34g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 11.60g
イオン交換水 3.06g
【0075】
(実施例2)
実施例1で作製した水性顔料分散液前駆体A−2を使用して、以下の方法により水性顔料分散液を作製した。
下記の配合物を用いて、実施例1の分散条件(2)に記載された操作と同様な操作を行い、水性顔料分散液B−3を得た。得られた水性顔料分散液B−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4質量%であった。
【0076】
水性顔料分散液前駆体A−2 67.15g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 8.70g
イオン交換水 4.15g
【0077】
(実施例3)
実施例1で作製した水性顔料分散液前駆体A−2を使用して、以下の方法により水性顔料分散液を作製した。
下記の配合物を用いて、実施例1の分散条件(2)に記載された操作と同様な操作を行い、水性顔料分散液C−3を得た。得られた水性顔料分散液C−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.8質量%であった。
水性顔料分散液前駆体A−2 68.97g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 5.80g
イオン交換水 5.23g
【0078】
(実施例4)
下記組成の混合物を、容量50Lのプラネタリーミキサーに仕込み、実施例1と同様の条件で混練を実施した。樹脂B 1000g
キナクリドン系顔料:ファストゲンスーパーマゼンタRTS 5000g(大日本インキ化学工業(株)製)
DEG 3200g
34質量%水酸化カリウム水溶液 429g
高速への切り替え時のプラネタリーミキサー電流値は5Aであった。その後、混練を継続し、プラネタリーミキサーの最大電流値が12Aを示した。最大電流値を示してから2時間、混練を継続した後、プラネタリーミキサーの電流値は10Aであった。この様にして得た撹拌槽内の混練物に、60℃に加温したイオン交換水を200g徐々に加えて混練を継続した。
【0079】
最大電流値を観測してから4時間経過した時点まで混練を継続し着色樹脂組成物を得た。得られた着色樹脂組成物にプラネタリーミキサーによる撹拌を継続しながら、2時間で総量6800gの60℃に加温したイオン交換水を加えた。
その後、プラネタリーミキサーから水希釈後の着色樹脂組成物を取り出した。水希釈後の着色樹脂組成物の固形分濃度は38.8質量%であった。さらに水希釈後の着色樹脂組成物12kgに、ジエチレングリコール1.36kg、イオン交換水9.92kgを分散撹拌機で撹拌しながら少量ずつ添加し、水性顔料分散液前駆体D−1を得た。
この水性顔料分散液前駆体D−1、18kgを、ビーズミルにて下記条件で分散処理を実施し水性顔料分散液前駆体D−2を得た。
水性顔料分散液前駆体D−2のキナクリドン系顔料濃度は16.3質量%であった。
【0080】
・分散条件(2)
250mlのポリエチレン製瓶にφ1.2mmのジルコニアビーズ200gを入れ、さらに下記配合を行いペイントコンディショナー(東洋精機製)で30分間処理し、水性顔料分散液D−3を得た。得られた水性顔料分散液D−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4%であった。
水性顔料分散液前駆体D−2 65.95g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 8.70g
イオン交換水 5.35g
【0081】
(比較例1)
実施例1で作製した水性顔料分散液前駆体A−2を使用して、以下の方法により水性顔料分散液を作製した。
下記の配合物を用いて、実施例1の分散条件(2)に記載された操作と同様な操作を行い、水性顔料分散液E−3を得た。得られた水性顔料分散液E−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4質量%であった。
水性顔料分散液前駆体A−2 66.09g
イオン交換水 13.91g
【0082】
(比較例2)
下記組成の混合物を、容量50Lのプラネタリーミキサーに仕込み、ジャケットを加温し、実施例1と同様の条件で混練した。
樹脂C 1000g
キナクリドン系顔料:ファストゲンスーパーマゼンタRTS 5000g
(大日本インキ化学工業(株)製)
DEG 3000g
34質量%水酸化カリウム水溶液 441g
【0083】
高速への切り替え時のプラネタリーミキサー電流値は5Aであった。その後、混練を継続し、プラネタリーミキサーの最大電流値が12Aを示した。最大電流値を示してから2時間、混練を継続した後、プラネタリーミキサーの電流値は10Aであった。この様にして得た撹拌槽内の混練物に、60℃に加温したイオン交換水を200g徐々に加えて混練を継続した。
最大電流値を観測してから4時間経過した時点まで混練を継続し着色樹脂組成物を得た。得られた着色樹脂組成物にプラネタリーミキサーによる撹拌を継続しながら、2時間で総量6800gの60℃に加温したイオン交換水を加えた。
【0084】
その後、プラネタリーミキサーから水希釈後の着色樹脂組成物を取り出した。水希釈後の着色樹脂組成物の固形分濃度は38.9質量%であった。さらに水希釈後の着色樹脂組成物12kgに、ジエチレングリコール1.52kg、イオン交換水9.82kgを分散撹拌機で撹拌しながら少量ずつ添加し、水性顔料分散液前駆体F−1を得た。
この水性顔料分散液前駆体F−1、18kgを、ビーズミルにて実施例1と同様の条件で分散処理を実施し水性顔料分散液前駆体F−2を得た。
水性顔料分散液前駆体F−2のキナクリドン系顔料濃度は16.3質量%であった。
【0085】
・分散条件(2)
250mlのポリエチレン製瓶にφ1.2mmのジルコニアビーズ200gを入れ、さらに下記配合を行いペイントコンディショナー(東洋精機製)で30分間処理し、水性顔料分散液F−3を得た。得られた水性顔料分散液F−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4%であった。
水性顔料分散液前駆体F−2 65.99g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 8.70g
イオン交換水 5.31g
【0086】
(比較例3)
下記組成の混合物を、容量50Lのプラネタリーミキサーに仕込み、実施例1と同様の条件で混練した。
樹脂D 1000g
キナクリドン系顔料:ファストゲンスーパーマゼンタRTS 5000g
(大日本インキ化学工業(株)製)
DEG 3300g
34質量%水酸化カリウム水溶液 450g
高速への切り替え時のプラネタリーミキサー電流値は5Aであった。その後、混練を継続し、プラネタリーミキサーの最大電流値が15Aを示した。最大電流値を示してから2時間、混練を継続した後、プラネタリーミキサーの電流値は12Aであった。この様にして得た撹拌槽内の混練物に、60℃に加温したイオン交換水を400g徐々に加えて混練を継続した。
最大電流値を観測してから4時間経過した時点まで混練を継続し着色樹脂組成物を得た。得られた着色樹脂組成物にプラネタリーミキサーによる撹拌を継続しながら、2時間で総量6600gの60℃に加温したイオン交換水を加えた。
【0087】
その後、プラネタリーミキサーから水希釈後の着色樹脂組成物を取り出した。水希釈後の着色樹脂組成物の固形分濃度は37.8質量%であった。さらに水希釈後の着色樹脂組成物12kgに、ジエチレングリコール1.25kg、イオン交換水10.62kgを分散撹拌機で撹拌しながら少量ずつ添加し、水性顔料分散液前駆体G−1を得た。
この水性顔料分散液前駆体G−1、18kgを、ビーズミル(浅田鉄工製ナノミルNM−G2L)にて下記条件で分散処理を実施し水性顔料分散液前駆体G−2を得た。
水性顔料分散液前駆体G−2のキナクリドン系顔料濃度は15.4質量%であった。
【0088】
・分散条件(2)
250mlのポリエチレン製瓶にφ1.2mmのジルコニアビーズ200gを入れ、さらに下記配合を行いペイントコンディショナー(東洋精機製)で30分間処理し、水性顔料分散液G−3を得た。得られた水性顔料分散液G−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4%であった。
水性顔料分散液前駆体G−2 69.50g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 8.70g
イオン交換水 1.80g
【0089】
(比較例4)
下記組成の混合物を、容量50Lのプラネタリーミキサーに仕込み、実施例1と同様の条件で混練を行った。
樹脂E 1000g
キナクリドン系顔料:ファストゲンスーパーマゼンタRTS 5000g
(大日本インキ化学工業(株)製)
DEG 3000g
34質量%水酸化カリウム水溶液 438g
高速への切り替え時のプラネタリーミキサー電流値は5Aであった。その後、混練を継続し、プラネタリーミキサーの最大電流値が12Aを示した。最大電流値を示してから2時間、混練を継続した後、プラネタリーミキサーの電流値は12Aであった。この様にして得た撹拌槽内の混練物に、60℃に加温したイオン交換水を200g徐々に加えて混練を継続した。
最大電流値を観測してから4時間経過した時点まで混練を継続し着色樹脂組成物を得た。得られた着色樹脂組成物にプラネタリーミキサーによる撹拌を継続しながら、2時間で総量6800gの60℃に加温したイオン交換水を加えた。
【0090】
その後、プラネタリーミキサーから水希釈後の着色樹脂組成物を取り出した。水希釈後の着色樹脂組成物の固形分濃度は38.8質量%であった。さらに水希釈後の着色樹脂組成物12kgに、ジエチレングリコール1.51kg、イオン交換水10.36kgを分散撹拌機で撹拌しながら少量ずつ添加し、水性顔料分散液前駆体H−1を得た。
この水性顔料分散液前駆体H−1、18kgを、ビーズミルにて実施例1と同様の条件で分散処理を実施し水性顔料分散液前駆体G−2を得た。
水性顔料分散液前駆体H−2のキナクリドン系顔料濃度は15.9質量%であった。
【0091】
・分散条件(2)
250mlのポリエチレン製瓶にφ1.2mmのジルコニアビーズ200gを入れ、さらに下記配合を行いペイントコンディショナー(東洋精機製)で30分間処理し、水性顔料分散液H−3を得た。得られた水性顔料分散液H−3中のキナクリドン系顔料濃度は13.4%であった。
水性顔料分散液前駆体G−2 67.71g
3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸ナトリウム塩(平均スルホン基数1.3)の固形分濃度10.0%の含水スラリー 8.70g
イオン交換水 3.59g
【0092】
(水性顔料分散液の評価)
上述の様にして得られた実施例、比較例の水性顔料分散液について、マイクロトラックUPA粒度分析計(Leeds&Northrup社製)でセル温度25℃にて粒径測定を実施した。その際、粒径測定サンプルは、各サンプルともにイオン交換水でキナクリドン系顔料濃度を12.5%に希釈して調製し、更にイオン交換水で500倍に希釈した。結果を表1に示す。
【0093】
(分散安定性の評価)
実施例、比較例の水性顔料分散液について、分散液の評価と同様に、それぞれキナクリドン系顔料濃度が12.5質量%になるようにイオン交換水を加えて調整を行った。顔料濃度の調整を行った分散液について、スクリュー管等のガラス容器に密栓し、60℃の恒温器で1週間の加熱試験を行い、加熱試験前後の粒径変化を観察することにより、分散安定性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
表1から明らかなように、本発明によって得られるインクジェット用顔料分散液は、加熱試験後の粒径変化率が小さいことが分かる。つまり、本発明によって分散安定性に優れたインクジェット用顔料分散液が得られる。
【0095】
(インク組成物の調製)
各実施例および各比較例で得られた水性顔料分散液にイオン交換水を加えて、キナクリドン系顔料濃度10mass%の水性顔料希釈液50.0gを調製した。この水性顔料希釈液を用い下記配合にてキナクリドン系顔料濃度5mass%のインク組成物を調製した。
水性顔料希釈液 50.0g
2−ピロリジノン 8.0g
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8.0g
グリセリン 3.0g
サーフィノール440(エアープロダクツ社製) 0.5g
イオン交換水 30.5g
【0096】
(インク組成物の安定性試験)
得られたインク組成物について、スクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で1週間の加熱試験を行い、加熱試験前後の粒径及び粘度変化を観察することにより、インク組成物の安定性の評価を実施した。結果を表2に示す。尚、粒径測定はインク組成物をイオン交換水で100倍に希釈した以外は、水性顔料分散液の評価と同様に行った。また、粘度はE型粘度計(東京計器(株)社製VISCOMETER TV−20)を用いて25℃にて測定した。
【0097】
(インクジェット記録適性評価)
得られた加熱試験前のインク組成物をヒューレットパッカード社製DeskJet957Cのブラックペンに搭載し、印字試験を実施した。
具体的には、A4の用紙にベタ印字と細線印字を行い、インクの吐出状態を観察した。
結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
上記表2のインクジェット記録適性評価欄におけるランク付けの基準は以下の通りである。
◎:すべての印字サンプルにおいて、均一なベタ印字で細線部でも吐出不良が無い
○:ベタ印字でやや均一性に欠けるが、細線部では吐出不良がない
△:ベタ印字で均一性が劣り、細線部では吐出不良は無いが、印字位置ずれが見られる。
×:ベタ印字で吐出不良による印字ムラが見られ、細線部でも吐出不良による印字欠けが一部見られる。
××:吐出不良が多発する。
【0100】
表2から明らかなように、本発明によって得られるインク組成物は良好な保存安定性を示すと同時に、良好なインクジェット記録適性を有することが分かる。
【0101】
同様に、得られた加熱試験前のインク組成物をピエゾジェット方式のエプソン社製EM-900Cのブラックペンに搭載し、印字試験を実施した。
具体的には、A4の用紙にベタ印字と細線印字を行い、インクの吐出状態を観察したが、実施例、比較例ともに特に問題は認められなかった。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、キナクリドン顔料、キナクリドンスルホン酸系化合物、特定のスチレン系樹脂、アルカリ金属水酸化物を含むインクジェット用着色混練物を用いることによって、顔料の微粒子分散が達成されると同時に、高レベルな分散安定性を有する赤色ないしマゼンタ色のインクジェットインク用顔料分散液、インクジェットインク組成物を得ることができる。特にサーマルインクジェット記録用インクに適用した場合、従来の方法で製造されたインク組成物に対し、格段に信頼性の高いインク組成物を製造することができる。
Claims (13)
- キナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、アルカリ金属水酸化物(d)、を水性媒体中に含有するインクジェットインク用水性顔料分散液であって、前記スチレン系樹脂(c)が
(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレンモノマーと
(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、前記スチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7500〜40000の範囲内であり、かつ前記スチレン系樹脂(c)のガラス転移点が90℃以上であり、さらにキナクリドン顔料(a)と、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)との合計100質量部に対する、スチレン系樹脂(c)の含有量は10〜40質量%であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散液。 - キナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、及びアルカリ金属水酸化物(d)は、予めこれらを含有する固形分濃度50〜80質量%の着色混練物が作製され、該着色混練物が水性媒体中に分散されたものである請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- 前記スチレン系樹脂(c)が、全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマーとアクリル酸及びメタクリル酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂である請求項1または2に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- 前記スチレン系樹脂(c)における、スチレン系モノマー、アクリル酸、及びメタクリル酸の総和が、全モノマー成分の総和の95質量%以上である請求項3に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- キナクリドン系顔料(a)がC.I.ピグメントレッド122である請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- キナクリドンスルホン酸系化合物(b)が、3,10−ジクロロキナクリドンスルホン酸のアルカリ金属塩である請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- 前記アルカリ金属水酸化物(d)の配合量が、前記スチレン系樹脂(C)のカルボキシル基全てを中和するのに必用な量の0.8〜1.2倍に相当する量である請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットインク用着色混練物。
- さらに湿潤剤を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液を用いて製造されるインクジェット記録用水性インク組成物。
- サーマルインクジェット方式の記録に用いられる請求項9に記載のインクジェット記録用水性インク組成物。
- キナクリドン系顔料(a)、キナクリドンスルホン酸系化合物(b)、スチレン系樹脂(c)、アルカリ金属水酸化物(d)を含有するインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法であって、
キナクリドン系顔料(a)、スチレン系樹脂(c)、及びアルカリ金属水酸化物(d)を混練して固形分濃度50〜80質量%の着色混練物を作製する第1の工程と、前記着色混練物をキナクリドンスルホン酸系化合物(b)の存在下において、水性媒体中へ分散させる第2の工程を有し、前記スチレン系樹脂(c)は、
(i)全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマーと
(ii)ラジカル重合性の二重結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂であり、且つ前記スチレン系樹脂(c)の酸価が50〜300、重量平均分子量が7500〜40000の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法。 - 前記スチレン系樹脂(c)が、全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマーとアクリル酸及びメタクリル酸を含有するモノマーを共重合させた樹脂である請求項11に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法。
- 前記スチレン系樹脂(c)における、スチレン系モノマー、アクリル酸、及びメタクリル酸の総和が、全モノマー成分の総和の95質量%以上である請求項12に記載のインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法。
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