JP4451957B2 - 調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子ビ−ム溶接は通常1パスで行う。しかしながら、0.2%耐力レベルが約80〜120kg/mm2 クラスの調質超高張力鋼の電子ビ−ムを1パスで行うと、冷却速度が遅いため母材が溶けて再凝固した溶接金属の0.2%耐力は母材の値より低くなり時として母材の規格値を下回るケ−スがある。特に調質超高張力鋼の電子ビ−ムにおいては、開先精度を考慮し溶接部の目はずれ等の欠陥を生じさせない充分な接合を確保するための施行条件で1パスの貫通溶接を施行すると、溶接部においては鋼材の調質効果が失われるとともに焼き入れ効果に必要な冷却速度が得られないために溶接金属の強度特に耐力が母材の規格値を下回る場合があった。このため、本出願人は特公平07−085836号に示す電子ビ−ム溶接方法を提案している。
【0003】
特公平07−085836号では、調質超高張力鋼の被溶接部に3回以上のパスを行い、かつ1回目のパスは前記被溶接部の板厚を貫通して行い、2回目以降のパスは漸次溶け込み深さが浅くなるように行うとともにその直前のパスにより形成された溶融金属が冷却凝固した後にそれぞれ行うことによって、溶接金属の焼戻しを漸次深部側から表面側に向けて施すことを特徴としており、1パス目の溶接金属はそのままでは0.2%耐力の低下が激しいが、2パス目の溶接を施した時に、その熱影響を受けて焼き入れ効果により0.2%耐力が回復する。2パス目の溶接金属は3パス目の熱影響により3パス目の溶接部は4パス目の熱影響により夫々耐力が回復する。4パス目の溶接金属は溶け込みの浅い、つまり低入熱の溶接であるのでもともと冷却速度が速く焼入れされた状態であるので0.2%耐力は低下していない。こうした方法により母材の溶接部における板厚全体について該溶接部の0.2%耐力を母材と同等以上にできることとなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記溶接手段は横向き(水平)溶接にて実施した場合を対象としており、かつ調質超高張力鋼の板厚約65mmまでを対象としているが、板厚約65mmを超える板厚(例えば板厚90mm)の場合は従来実施していた横向き(水平)溶接では強度の確保が難しく、また熱影響による歪みも大きくなるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて提案されたものであって、厚板の調質超高張力鋼を対象に良好な溶接が得られる電子ビ−ム溶接方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明の調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法は、溶接線(1)が上下方向となるように板厚が65mmを超える被溶接物(2)同士を互いに接して配置し、電子ビ−ムを発生させる電子銃(4)を上方から下方へ走行させて、前記溶接線の上端から下端までを溶接することを特徴としており、立向き(垂直)下進姿勢にて溶接を実施することから横向き(水平)姿勢に較べ細い溶接幅の溶接金属を得るように溶接条件を制御できる。その結果、溶接金属の冷却速度は速くなり、母材板厚方向において比較的均一に耐力を確保することができる。また、そのため熱制御溶接及び化粧盛り溶接の溶け込み深さを浅くすることができ、欠陥の発生を防止することができる。
【0007】
また、1層目は被溶接部の板厚を貫通して行い、2層目は1層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻しを施し、3層目は2層目同様に焼戻しを兼ねた化粧盛りを施す3層盛りにて構成され、溶接線の単位長さ当りの投下エネルギー量は、1層目、2層目、3層目の順に小さくなっているので、立向き(垂直)下進姿勢で異なる溶接条件を用いて1層目の貫通溶接、2層目の熱制御溶接、3層目の化粧盛り溶接の3層盛りにて接合することによって、低入熱の溶接が可能となり充分な溶接強度が確保でき、熱影響による歪みもほとんどなくすることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下では、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は本発明の調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接装置の斜視図である。図2は電子ビ−ム溶接装置による立向き(垂直)下進姿勢溶接工法を説明するための概略図である。図3は立向き(垂直)下進姿勢で溶接した時の電子ビ−ム溶接条件(加速電圧、ビ−ム電流、溶接速度)と溶接ビ−ド表面の状況との相関を示すグラフである。図4は電子ビ−ム溶接による積層状態を示す断面図である。
【0009】
図1及び図2において、電子ビ−ム溶接装置内の据え付け台3上に、調質超高張力鋼からなる被溶接物2が設置される。この部材である被溶接物2は2以上配置され、互いに接して継手が形成される。この継手の溶接される線状の部分である溶接線1は立向き(垂直)になっている。また、電子銃4を上下方向に案内するレ−ル5が立設され、電子ビ−ムを出射する電子銃4は、このレ−ル5にセットされるとともに、レ−ル5に沿って上下方向に走行する。被溶接物2、電子銃4およびレ−ル5をチャンバ−6が気密に覆っており、このチャンバ−6の内部空間の空気を排出する排気装置(図示しない)が設けられ、この排気装置を稼働することにより、チャンバ−6の内部の気圧を大気圧よりも低くすることができる。そして、溶接時には、チャンバ−6内の気圧は、大気圧よりも低くして行う。
【0010】
この様に構成されている電子ビ−ム溶接装置で、溶接線1に沿って溶接する際には、溶接線1が直線状かつ立向き(垂直)になるよう被溶接物2を据え付け台3上に設置し、電子ビ−ムを出射する電子銃4は被溶接物2(溶接線1)に対し上方から下方へ向けて走行できるようレ−ル5にセットする。チャンバ−6で被溶接物2、電子銃4およびレ−ル5を気密に覆い、チャンバ−6内の気圧を排気装置により減圧させる。
【0011】
そして、▲1▼電子銃4を溶接線1の上端部に対向する位置に移動させる。(初期工程。)
▲2▼電子銃4をレ−ル5に沿って下方に移動させながら、被溶接物2の溶接線1の上端から下端まで溶接する。この溶接は貫通溶接であり、裏波ができる程度に被溶接部の板厚を貫通して行う。(第1溶接工程。)
▲3▼第1溶接工程が終了すると、再び、電子銃4を溶接線1の上端部に対向する位置に移動させる。(第1復帰工程。)
▲4▼第1復帰工程が終了すると、再び、電子銃4をレ−ル5に沿って下方に移動させながら、被溶接物2の溶接線1の上端から下端まで溶接する。この溶接は熱制御溶接であり、1層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻しを施す。(第2溶接工程。)
▲5▼第2溶接工程が終了すると、再び、電子銃4を溶接線1の上端部に対向する位置に移動させる。(第2復帰工程。)
▲6▼第2復帰工程が終了すると、再び、電子銃4をレ−ル5に沿って下方に移動させながら、被溶接物2の溶接線1の上端から下端まで溶接する。この溶接は化粧盛り溶接であり、2層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻し、および、化粧盛りを施す。(第3溶接工程。)
【0012】
なお、溶接線1の単位長さ当たりの投下エネルギー量は、1パス(1層目)、2パス(2層目)、3パス(3層目)の順に、小さくなっている。また、1回目のパスは被溶接部の板厚を貫通して行い、2回目以降のパスは漸次溶け込み深さが浅くなるように行うとともに、その直前のパスにより形成された溶融金属が冷却凝固した後にそれぞれ行うことによって、溶接金属の焼戻しを漸次深部側から表面側に向けて施している。
【0013】
ところで、電子ビ−ム溶接装置のチャンバ−6の寸法が直径10m×高さ10mで、電子ビ−ム溶接時の真空度は2×10-2mmHgとして、電子銃4の容量150kV×1A=150kWを使用し実験を実施した。
実験に使用した試験板は板厚約90mm、溶接長さ約4mとし、開先はI型、開先ギャップは約0.5mm以下のものを使用した。
【0014】
なお、図3は、1層目の貫通溶接条件の最適値を選定するために実施した溶接試験結果を溶接ビ−ド外観をパラメ−タとしてプロットしたものであるが、それぞれの板厚で良好な溶接ビ−ド外観を得られる適正溶接条件が選定できたものである。この図3において、単位板厚当たりの見かけの入力は、下記の式で示される。
単位板厚当たりの見かけの入力=加速電圧×ビーム電流÷板厚(KW/cm)
また、図4は本発明による立向き(垂直)下進姿勢での電子ビ−ム溶接の積層法と溶接手順を示し、その際の電子ビ−ム溶接条件(加速電圧、ビ−ム電流、溶接速度)を下記表1に示す。
【0015】
【表1】
Figure 0004451957
【0016】
表1の電子ビ−ム溶接条件により1層目は被溶接部の板厚を貫通して行う貫通溶接、2層目は1層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻しを施す熱制御溶接、3層目は2層目同様に焼戻しを兼ねた化粧盛り溶接の3層盛りにて行う。
【0017】
1層目の貫通溶接を施したままでは0.2%耐力の低下が激しく、2層目の熱制御溶接を施した時に、その熱影響を受けて焼入れ効果により0.2%耐力が回復して、3層目の化粧盛りは低入熱の溶接のため冷却速度が速く焼入れされた状態であるため0.2%耐力は低下しない。
【0018】
また、熱制御溶接は、溶け込みが深いと溶け込み先端部で欠陥が生じ易く、逆に溶け込みが浅いと、板厚内での耐力が均一とならないため、欠陥が少なく耐力が充分確保できる溶接条件を試験結果から上記表1の通り代表例として選定した。
【0019】
上記溶接条件、手順により試験を重ねた結果、下記表2に示す良好な継手性能(機械的性質)、溶接強度の確保が得られた。表2は表1の実験による溶接部の機械的性質の結果を示す。
【0020】
【表2】
Figure 0004451957
【0021】
前述のように、この実施の形態では、電子銃4を上下方向に案内するレ−ル5を立設するとともに、溶接線1が上下方向となるように被溶接物2同士を互いに接して配置し、この電子銃4、レ−ル5および被溶接物2をチャンバ−6で気密に覆い、チャンバ−6内を大気圧よりも減圧し、電子銃4を溶接線1の上端部に対向させた後に、電子銃4を下方に移動させることにより、電子銃4で溶接線1の上端から下端まで溶接している。ところで、従来のチャンバ−6内で減圧して溶接するものにおいては、チャンバ−6の強度を確保するために、チャンバ−6の高さは比較的低くなっており、電子銃4は極力略水平方向に案内することが常識であった。それに対して、この実施の形態では敢えてこの常識を覆し、チャンバ−6の高さを大きく確保して、電子銃4で溶接線1の上端から下端まで溶接することを可能にしている。そして、この下進姿勢の溶接により、細い溶接幅の溶接金属を得るように溶接条件を制御でき、低入熱の溶接が可能となり充分な溶接強度が確保でき、熱影響による歪みもほとんどなくすることができた。
【0022】
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例を下記に例示する。
(1)実施の形態においては、電子ビ−ム溶接は3パスすなわち3層であるが、特許請求の範囲に明記されていない限りは、そのパス数は適宜選択可能である。たとえば、2以下や4以上でも可能である。
(2)実施の形態においては、調質超高張力鋼の部材の板厚は、約90mmであるが、板厚は適宜選択可能である。ただし、この出願の発明は、約65mmを越える(特に、約80mmを越える)厚板の部材の溶接に最適である。また、被溶接物2の全ての溶接線1において、前述の下進姿勢の溶接で行うことが好ましい。
【0023】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法、溶接線が上下方向となるように板厚が65mmを超える被溶接物同士を互いに接して配置し、電子ビ−ムを発生させる電子銃を上方から下方へ走行させて、前記溶接線の上端から下端までを溶接することを特徴としており、立向き(垂直)下進姿勢にて溶接を実施することから横向き(水平)姿勢に較べ細い溶接幅の溶接金属を得るように溶接条件を制御できる。その結果、溶接金属の冷却速度は速くなり、母材板厚方向において比較的均一に耐力を確保することができる。また、そのため熱制御溶接及び化粧盛り溶接の溶け込み深さを浅くすることができ、欠陥の発生を防止することができ
【0024】
また、1層目は被溶接部の板厚を貫通して行い、2層目は1層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻しを施し、3層目は2層目同様に焼戻しを兼ねた化粧盛りを施す3層盛りにて構成され、溶接線の単位長さ当りの投下エネルギー量は、1層目、2層目、3層目の順に小さくなっているので、立向き(垂直)下進姿勢で異なる溶接条件を用いて1層目の貫通溶接、2層目の熱制御溶接、3層目の化粧盛り溶接の3層盛りにて接合することによって低入熱の溶接が可能となり充分な溶接強度が確保でき、熱影響による歪みもほとんどなくすることができ
【0025】
また、下進姿勢にて3層盛りによる本発明の調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法によれば、65mmを超える厚板(例えば90mm)母材の溶接部における板厚全体について該溶接部の0.2%耐力を母材と同等以上にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接装置の斜視図である。
【図2】本発明の電子ビ−ム溶接装置による立向き(垂直)下進姿勢溶接工法の概要を示す。
【図3】立向き(垂直)下進姿勢で溶接した時の電子ビ−ム溶接条件(加速電圧、ビ−ム電流、溶接速度)と溶接ビ−ド表面の状況との相関を示す。
【図4】本発明の電子ビ−ム溶接による積層状態を示す。
【符号の説明】
1 溶接線
2 被溶接物
3 被溶接物を設置する据え付け台
4 電子銃
5 レ−ル
6 チャンバ−

Claims (1)

  1. 溶接線が上下方向となるように板厚が65mmを超える被溶接物同士を互いに接して配置し、電子ビ−ムを発生させる電子銃を上方から下方へ走行させて、前記溶接線の上端から下端までを溶接する調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法において、1層目は被溶接部の板厚を貫通して行い、2層目は1層目の溶融金属が冷却凝固した後に行うことにより溶接金属の焼戻しを施し、3層目は2層目同様に焼戻しを兼ねた化粧盛りを施す3層盛りにて構成され、溶接線の単位長さ当りの投下エネルギー量は、1層目、2層目、3層目の順に小さくなっていることを特徴とする調質超高張力鋼の電子ビ−ム溶接方法。
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