JP4447081B2 - 多硫化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多硫化物の製造方法、特にパルプ製造工程における白液または緑液を電解酸化して多硫化物を含む蒸解液を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
木材資源を有効利用するために、化学パルプの高収率化は重要な課題である。化学パルプの主流であるクラフトパルプの高収率化技術の一つとして、多硫化物蒸解プロセスがある。
【0003】
多硫化物蒸解プロセスにおける蒸解液は、硫化ナトリウムを含むアルカリ性水溶液、いわゆる白液を、活性炭などの触媒の存在下に空気などの分子状酸素により酸化する(例えば反応式1)ことにより製造される(特開昭61−259754号、特開昭53−92981号参照)。この方法により硫化物イオンベースで転化率60%、選択率60%程度で多硫化硫黄濃度が5g/L程度の多硫化物蒸解液を得ることができる。しかし、この方法では副反応(例えば反応式2、3)により蒸解には全く寄与しないチオ硫酸イオンが副生するため、高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を高選択率で製造することは困難であった。なお、本明細書では容量の単位リットルをLで表す。
【0004】
【化1】
【0005】
ここで多硫化硫黄とは、ポリサルファイドサルファ(PS−S)とも称され、たとえば多硫化ナトリウムNa2Sxにおける酸化数0の硫黄、すなわち原子(x−1)個分の硫黄をいう。また、多硫化硫黄以外の形態の硫黄、すなわち、硫化物イオン(S2-)および多硫化物イオン中の酸化数−2の硫黄に相当する硫黄(Sx 2-につき1原子分の硫黄)を総称したものを、本明細書中ではNa2S態硫黄と表すことにする。
【0006】
上記の空気を用いた酸化法に比較して、高濃度の多硫化物を製造できる方法として、陽イオン交換膜を隔膜に用いた硫化物イオンの電解酸化による多硫化物の製造法が開示されている。たとえば、WO95/00701号には、アノードとして、担体上にルテニウム、イリジウム、白金、パラジウムの酸化物を被覆した、多数のエキスパンドメタルを組み合わせた担体の3次元メッシュ電極を用いる電解製造法が開示され、陽イオン交換膜にはフッ素樹脂系イオン交換膜であるナフィオン425(デュポン社登録商標)が例示されている。また、WO97/41295号には、アノードに少なくとも表面が炭素からなる多孔性の電極が用いる電解方法が提案されており、用いる陽イオン交換膜には、フッ素樹脂系イオン交換膜であるフレミオン(旭硝子社登録商標)が例示されている。
【0007】
フッ素樹脂系陽イオン交換膜を隔膜に用いた電解としては、塩化アルカリを電解して塩素と水酸化アルカリを製造する、いわゆるイオン交換膜法食塩電解が広く知られている。カソード室で水酸化アルカリを製造する点で、上記の多硫化物の製造方法と類似している。食塩電解では、アノード室で生成する塩素ガスやカソード室で生成する水素ガスが膜に付着して電流の透過性を損ない電圧が上昇することを防ぐため、膜の両面へのガス付着防止処理が行われている。ガス付着防止処理としては、ガスおよび液透過性の粒子を含む親水性の多孔層を膜表面に設ける方法(特開昭56−75583号、特開昭56−3915号)が知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶液中の硫化物イオンから電解法により高濃度の多硫化硫黄を得るにあたり、電圧の安定した長期操業が可能な電解方法を提供することを目的とする。特に、パルプ製造工程における白液または緑液から高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を製造するにあたって、膜のアノード側表面へのスケール付着を防止し、低電圧で長期に安定した電解を行うことを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アノードを備えたアノード室、カソードを備えたカソード室、および、アノード室とカソード室とを区画する陽イオン交換膜を有する電解槽を用い、該アノード室に硫化アルカリを含む溶液を供給し、該カソード室に水酸化アルカリ水溶液または水を供給して、アノードおよびカソードに通電することにより、カソード室で水およびアノード室から陽イオン交換膜を通過してくるアルカリイオンとから水素ガスと水酸化アルカリを製造しつつ、アノード室で硫化アルカリに起因する硫化物イオンを多硫化物イオンに酸化して多硫化物を製造する方法であって、該陽イオン交換膜のカソード室側表面に無機粒子を含む親水性多孔層が形成され、かつ、該陽イオン交換膜のアノード室側の表面のJIS B0601に規定される算術平均粗さが0.5μm以下である多硫化物の製造方法を提供する。
【0010】
本発明で用いる陽イオン交換膜は、膜のカソード側表面に、無機粒子を含む親水性多孔層が形成されている。このため、膜表面に気泡が付着しにくく、カソードで水素ガスが発生していても、カソード室内の液と充分に接触することが可能であり、電解電圧の低下に寄与する。
【0011】
膜のアノード側表面は、JIS B0601に規定される算術平均粗さ(以下Raという)が、0.5μm以下である必要がある。Raが0.5μmを超える場合は、電解が進行するにしたがって、膜のアノード側表面に析出物が付着しやすいので不適当である。特に実際の白液においては、例えば炭酸カルシウムが飽和濃度に近く溶解しているため、電解によりアノード室からカソード室にNaイオンが移動し同時に水も移動して、膜のアノード側表面は局所的に液が濃縮された状態となり、特に炭酸カルシウムが析出しやすい。表面に炭酸カルシウムなどが析出すると長期間の安定した運転が困難であるので不適当である。Raはより好ましくは0.3μm以下である。
【0012】
【発明の実施の形態】
陽イオン交換膜のカソード側表面に形成される親水性多孔層に用いる無機粒子には、水酸化アルカリ中での耐食性の観点から、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ニオブ、タンタル、インジウム、スズ、マンガン、コバルト、ニッケルからなる群より選ばれる元素の酸化物、窒化物または炭化物を用いるのが好ましい。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
無機粒子の粒径は、0.05〜10μmが好ましい。粒径がこの範囲外にある場合は、充分なガス付着防止効果が得られずガス付着による電解電圧の上昇が生じるので好ましくない。無機粒子の特に好ましい粒径は0.1〜5μmである。
【0014】
陽イオン交換膜の表面に多孔層を形成する手段としては、次のような方法が例示できる。無機粒子をスクリーン印刷法などで陽イオン交換膜のカソード側表面に塗工後、加熱圧着する方法、ポリエステルなどのフィルムに無機粒子を塗工後、膜のカソード側表面に加熱転写する方法、無機粒子を水酸化アルカリに耐食性のあるバインダーと混合した溶液を、膜のカソード側表面にスプレー塗布する方法などである。
【0015】
無機粒子を含む親水性多孔層の厚さは、0.1〜500μmが好ましい。多孔層の厚さが0.1μmに満たない場合は、充分なガス付着防止効果が得られないおそれがあるので好ましくない。多孔層の厚さが500μmを超える場合は、陽イオン交換膜の電気抵抗が高くなるおそれがあるので好ましくない。多孔層の厚さが1〜200μmである場合はさらに好ましい。
【0016】
無機粒子を含む親水性多孔層の空孔率は、10〜95%が好ましい。空孔率が10%に満たない場合は、多孔層の電気抵抗が高くなるので好ましくない。空孔率が95%を超える場合は、多孔層の機械的強度が低下して長期の運転で脱離が生じるおそれがあるので好ましくない。空孔率が20〜85%である場合はさらに好ましい。
【0017】
陽イオン交換膜は、フッ素樹脂系陽イオン交換膜であることが好ましい。フッ素樹脂系陽イオン交換膜の材料としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンなどのビニルモノマーと、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などの陽イオン交換基に転化可能な反応性基を有する含フッ素ビニルエーテルモノマーとの共重合体が好ましく用いられる。陽イオン交換膜としては、これらのうち1種類の共重合体で形成される単層膜でも、2種類以上の共重合体フィルムを積層した多層膜のいずれも用いることができる。反応性基の陽イオン交換基への転化は、共重合体を製膜した後、水酸化アルカリの水溶液または水酸化アルカリの水・極性溶媒混合溶液を用いて、加水分解することで行われる。
【0018】
上記共重合体の好ましい例は、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体、CF2=CF2とCF2=CFO(CF2)nSO2F(nは3〜5の整数)との共重合体、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CO2CH3との共重合体、CF2=CF2とCF2=CFO(CF2)mCO2CH3(mは1〜5の整数)との共重合体が例示される。
【0019】
共重合体は、イオン交換容量として0.6〜2.0meq/g乾燥樹脂のものが好適に使用できる。イオン交換容量が0.6meq/g乾燥樹脂に満たない場合は、膜の電気抵抗が上昇して、電解電圧が高くなり、消費電力が増加するので好ましくない。イオン交換容量が2.0meq/g乾燥樹脂を超える場合は、陽イオン交換樹脂の強度が低下して、膜の機械的劣化が生じるおそれがあるので好ましくない。共重合体のイオン交換容量が0.9〜1.8meq/g乾燥樹脂である場合は、さらに好ましい。
【0020】
陽イオン交換膜においては、膜の取り扱い強度を向上するため、織布などの多孔性基材を一体化させて補強することもできる。多孔性基材としては、耐食性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体などのフッ素樹脂系の糸からなる織布が好適である。
【0021】
本発明の多硫化物の製造方法に使用するアノード材料としては、電解反応において耐食性を有するものであれば特に限定されないが、少なくとも表面が炭素、ニッケルまたはニッケル合金であるものが好ましい。アノード全体が炭素やニッケルまたはニッケル合金である必要はなく、炭素、ニッケル、ニッケル合金とは異なる電子伝導基材の表面に、炭素、ニッケルまたはニッケル合金を被覆したものを用いてもよい。ニッケル合金のニッケル含有率は50重量%以上が好ましく、さらには80重量%以上が好ましい。
【0022】
本発明の多硫化物の製造方法においては、アノードの表面積がアノード室の単位体積当たり500〜20000m2/m3であることが好ましい。ここでアノード室の体積は、隔膜の有効通電面とアノードの集電板とで区画された部分の体積である。アノードの表面積が500m2/m3よりも小さい場合は、アノード表面における電流密度が大きくなり、チオ硫酸イオンのような副生物が生成しやすくなるので好ましくない。アノードの表面積が20000m2/m3より大きい場合は、液の圧力損失が大きくなるといった電解操作上の問題が生じるおそれがあるので好ましくない。アノード室の単位体積当りのアノードの表面積は、1000〜10000m2/m3の範囲であるのがさらに好ましい。
【0023】
このような表面積の大きいアノードを用いる場合は、アノード表面の電流密度を小さな値にすることができる。アノード各部分の表面での電流密度が均一であると仮定して、アノードの表面積からアノード表面での電流密度を求めた場合、その値は5〜3000A/m2であることが好ましい。より好ましい範囲は10〜1500A/m2である。アノード表面での電流密度が5A/m2に満たない場合は不必要に大きな電解設備が必要となるので好ましくない。アノード表面での電流密度が3000A/m2を超える場合は、チオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物を増加させるので好ましくない。
【0024】
アノードの好ましい例としては、例えば、発泡高分子材料の骨格にニッケルをメッキした後、内部の高分子材料を焼成除去して得られる多孔性ニッケルや、カーボン繊維からなるフェルトや多孔質カーボン板などが挙げられる。
【0025】
アノードにはアノード集電体を通じて電流を供給するのが好ましい。集電体の材質としては、耐アルカリ性に優れた材質が好ましい。例えば、ニッケル、チタン、炭素、金、白金、ステンレス鋼などを用いることができる。該集電体の表面は平面状でよい。単に、アノードとの機械的な接触により電流を供給するものでもよいが、溶接などにより接着させるのが好ましい。
【0026】
カソード材料は耐アルカリ性の材料が好ましく、ニッケル、ラネーニッケル、硫化ニッケル、鋼、ステンレス鋼などを用いることができる。カソードは、平板またはメッシュ状の形状のものを一つ、またはその複数を多層構成にして用いることができる。線状の電極を複合した3次元電極を用いることもできる。
【0027】
電解槽としては1つのアノード室と1つのカソード室とからなる2室型の電解槽が好ましく用いられる。3つまたはそれ以上の部屋を組み合わせた電解槽も用いられる。多数の電解槽は単極構造または複極構造に配置することができる。
【0028】
陽イオン交換膜面での電流密度は0.5〜20kA/m2で運転するのが好ましい。陽イオン交換膜面での電流密度が0.5kA/m2に満たない場合は不必要に大きな電解設備が必要となるので好ましくない。陽イオン交換膜面での電流密度が20kA/m2を超える場合は、チオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物を増加させるので好ましくない。隔膜面での電流密度が2〜15kA/m2である場合は、さらに好ましい。
【0029】
アノード室の液流は、流速の小さい層流域に維持するのが、圧力損失を小さくする意味で好ましい。好ましくは、アノード室の平均空塔速度は1〜30cm/秒が採用される。カソード液の流速は限定されないが、発生ガスの浮上力の大きさにより決められる。アノード室の平均空塔速度のより好ましい範囲は1〜15cm/秒であり、特に好ましい範囲は2〜10cm/秒である。
【0030】
アノード室の温度は70〜110℃の範囲であるのが好ましい。アノード室の温度が70℃より低い場合は、電解電圧が高くなるだけでなく、副生物が生成しやすくなるおそれがあるので好ましくない。温度の上限は実際上、電解槽または隔膜の材質で制限される。
【0031】
本発明の多硫化物の製造方法は、パルプ製造工程における白液や緑液を処理して多硫化物蒸解液を得る方法に特に適している。パルプ製造工程中に、本発明による多硫化物製造工程を組み入れる場合、白液または緑液の少なくとも一部を抜き出して本発明の多硫化物製造工程で処理したうえで、蒸解工程に供給する。
【0032】
白液の組成は、現在行われているクラフトパルプ蒸解に用いられている白液の場合、通常、アルカリ金属イオンとして2〜6mol/Lを含有し、そのうちの90%以上はナトリウムイオンであり、残りはほぼカリウムイオンである。またアニオンは、水酸化物イオン、硫化物イオン、炭酸イオンを主成分とし、他に硫酸イオン、チオ硫酸イオン、塩素イオン、亜硫酸イオンを含む。さらにカルシウム、ケイ素、アルミニウム、リン、マグネシウム、銅、マンガン、鉄のような微量成分を含む。
【0033】
一方、緑液の組成は、白液の主成分が硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムであるのに対して、硫化ナトリウムと炭酸ナトリウムが主成分である。緑液中のその他のアニオンや微量成分については、白液と同様である。
【0034】
このような白液または緑液を、本発明によりアノード室に供給して電解酸化を行った場合、硫化物イオンが酸化されて多硫化物イオンが生成する。それに伴いアルカリ金属イオンが隔膜を通してカソード室に移動する。
【0035】
パルプ蒸解工程で用いる場合、白液中の硫化物イオン濃度にもよるが、白液を電解して得られる溶液(多硫化物蒸解液)中のPS−S濃度は、5〜15g/Lが好ましい。多硫化硫黄の濃度が5g/Lより小さい場合は、蒸解時のパルプ収率増加の効果が充分得られないおそれがある。多硫化硫黄の濃度が15g/Lより大きい場合は、Na2S態硫黄分が少なくなるのでパルプ収率は増加しないうえ、電解時にチオ硫酸イオンが副生しやすくなる。
【0036】
また存在する多硫化物イオン(Sx 2-)のxの平均値が4を超えるようになると、同様に電解時にチオ硫酸イオンが副生するようになり、ニッケルのアノード溶解も起りやすくなるので、蒸解液中の多硫化物イオンのxの平均値は4以下、特に3.5以下になるように電解操作を行うことが好ましい。硫化物イオンの多硫化硫黄への転化率(反応率)は、15〜75%が好ましい。転化率が15〜72%である場合はさらに好ましい。
【0037】
カソード室に導入される溶液は、実質的に水と水酸化アルカリとからなる溶液が好ましく、特に水と水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムからなる溶液であるのが好ましい。水酸化アルカリの濃度は限定されないが、例えば1〜15mol/L、好ましくは2〜5mol/Lである。場合にもよるが、アノード室を流通する白液のイオン強度よりも低いイオン強度の溶液をカソード液として用いれば、隔膜に不溶分が沈着することを防ぐことができる。生成する水素ガスは燃料として用いたり、過酸化水素の原料として用いることもできる。生成する水酸化アルカリは、パルプ蒸解の他、特に不純物が少ないことからパルプ漂白に用いることができる。
【0038】
【実施例】
[例1]
アノード集電体にニッケル板、アノードにニッケル発泡体(住友電工社製、商品名セルメット、100mm×20mm×4mm)、カソードに100mm×20mmのエクスパンド鉄電極、陽イオン交換膜として下記のものを用いて2室型の電解槽を組み立てた。アノード室は高さ100mm、幅20mm、厚さ4mmであり、カソード室は高さ100mm、幅20mm、厚さ5mmで、陽イオン交換膜の有効面積は20cm2であった。
【0039】
アノードとして用いたニッケル発泡体はアノード集電体のニッケル板に電気溶接にて接着した。カソード室側からカソードで陽イオン交換膜を押しつけてアノード側に押さえるようにして電解槽を組み立てた。
【0040】
アノードの物性および電解条件などは次のとおりである。
アノード厚み:4mm、
アノードの空隙率:95%、
アノードの平均孔径:0.83mm、
アノード室体積当りのアノード表面積:3125m2/m3、
陽イオン交換膜面積に対するアノード表面積:12.5m2/m3、
アノード液空塔速度:3cm/秒、
電解温度:85℃、
陽イオン交換膜での電流密度:6kA/m2。
【0041】
陽イオン交換膜としては、片面に無機粒子を含む親水性多孔層を形成したフッ素樹脂系イオン交換膜を用いた。まず、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF2CF2CO2CH3との共重合体を、厚さ200μmおよび厚さ50μmの2種のフィルムに成形した。この2種のフィルムの間にポリテトラフルオロエチレンの織布をはさんで積層した。次に、平均粒径1.0μmの酸化ジルコニウム粉末およびメチルセルロースの混合物をポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、上記積層フィルムの厚さ200μmの面に、転写した。このようにして形成された多孔層の厚さは25μmであった。さらに、20重量%のNaOH溶液中で、50℃で16時間保持して加水分解し、カルボン酸型のフッ素樹脂系イオン交換膜を製造した。このイオン交換膜の酸化ジルコニウム粉末層を形成していない方の面のRaは、0.3μmであった。
【0042】
この電解槽を用いて、電解操作は次のようにして行った。まず、アノード液(多硫化物溶液)を1Lの循環槽を用いて循環させた。アノード液循環槽には、白液を一定量でフィードし、循環槽からオーバーフローしたアノード液を回収した。カソード液(NaOH水溶液)は、1Lの循環槽を用いて循環させた。カソード液循環槽には、水を一定量でフィードし、循環槽からオーバーフローしたカソード液を回収した。このような装置を組むことにより、アノード循環槽およびカソード循環槽の液組成を一定に保って、電解状態を定常にし、電解液の組成変化によるセル電圧等の変化を無視できるようにした。なお、熱交換器により電解槽内の温度は85〜90℃に保った。
【0043】
アノード液としては、パルプ工場で採取した白液(Na2S:硫黄原子換算で16g/L、NaOH:90g/L、Na2CO3:34g/L、Na2S2O3:硫黄原子換算で3.0g/L、Na2SO3:硫黄原子換算で0.5g/L、Caイオン濃度:10ppm)を用いた。電流を12A(隔膜での電流密度6kA/m2)、アノード液流速120mL/分(アノード液空塔速度2.5cm/秒)、カソード液流速80mL/分、白液フィード量10mL/分、水フィード量1.5mL/分の条件下で連続定電流電解を行い、セル電圧の測定と、循環液のサンプリングを行い、溶液中の多硫化硫黄、Na2S態硫黄、チオ硫酸イオンについて分析定量した。
【0044】
その結果、電解開始初期のセル電圧は1.2Vであったが、2200時間(3ヶ月)連続して運転しても、セル電圧は変わらなかった。この後、電解槽を解体して膜を分析したところ、膜の変化は実質的に認められなかった。
【0045】
また、アノード液組成は、硫黄換算濃度で多硫化硫黄:10.9g/L、Na2S態硫黄:4.4g/L、チオ硫酸イオン:4.3g/Lであった。なお、白液中の亜硫酸イオンは、反応式4のように多硫化硫黄と定量的に反応しチオ硫酸イオンになってしまう。
【0046】
【化2】
【0047】
このことを考慮して計算すると、式5により電流効率は95%、式6により選択率は97%となる。
【0048】
【数1】
【0049】
2200時間後のアノード液組成は、硫黄換算濃度で多硫化硫黄:10.8g/L、Na2S態硫黄:4.6g/L、チオ硫酸イオン:4.4g/Lであった。同様に計算すると、電流効率93%、選択率は97%であった。
【0050】
[例2(比較例)]
隔膜として、例1と同じ陽イオン交換膜を用い、ただし多孔層をアノード側に配置し、他は例1と同様にして電解試験を行った。電解開始初期のセル電圧は1.5Vであったが、720時間(1ヶ月)連続運転後、セル電圧は2.5Vに上昇していた。この後、電解槽を解体して膜を分析したところ、アノード側の膜の多孔層に、炭酸カルシウムの析出が認められた。
【0051】
[例3(比較例)]
隔膜として、いずれの面にも多孔質層を形成していないイオン交換膜を用い、他は例1と同様にして電解試験を行った。この膜のRaは、いずれの面も0.3μmであった。電解開始初期のセル電圧は1.5Vであり、例1のものに比べると高かった。2200時間連続して運転しても、セル電圧は1.5Vであり、ほとんど変化していなかった。この後、電解槽を解体して膜を分析したところ、膜の変化は実質的に認められなかった。
【0052】
[例4(比較例)]
隔膜として、両面に多孔質層を形成したイオン交換膜を用い、他は例1と同様にして電解試験を行った。電解開始初期のセル電圧は1.2Vであり、例1と同程度であった。720時間連続して運転するとセル電圧は2.5Vと上昇していた。この後、電解槽を解体して膜を分析したところ、アノード側の膜の多孔層に、炭酸カルシウムの析出が認められた。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、チオ硫酸イオンの副生が極めて少なく、高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を高い選択率と低電圧を維持しながら長期に安定して製造することができ、こうして得られた多硫化物蒸解液を蒸解に用いることによりパルプ収率を効果的に増加させることができる。
Claims (3)
- アノードを備えたアノード室、カソードを備えたカソード室、および、アノード室とカソード室とを区画する陽イオン交換膜を有する電解槽を用い、該アノード室に硫化アルカリを含む溶液を供給し、該カソード室に水酸化アルカリ水溶液または水を供給して、アノードおよびカソードに通電することにより、カソード室で水およびアノード室から陽イオン交換膜を通過してくるアルカリイオンとから水素ガスと水酸化アルカリを製造しつつ、アノード室で硫化アルカリに起因する硫化物イオンを多硫化物イオンに酸化して多硫化物を製造する方法であって、
該陽イオン交換膜のカソード室側表面にのみ無機粒子を含む親水性多孔層を形成したものを用いることを特徴とする多硫化物の製造方法。 - アノード室に供給される硫化物イオンを含む溶液が、パルプ製造工程における白液または緑液である請求項1に記載の多硫化物の製造方法。
- 陽イオン交換膜が、フッ素樹脂系陽イオン交換膜であって、該陽イオン交換膜のカソード室側表面にのみ設けた無機粒子を含む親水性多孔層が、酸化ジルコニウム粉末からなる多孔層であることを特徴とする請求項1に記載の多硫化物の製造方法。
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