以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図中の矢印Uの方向を上方、矢印Fの方向を前方、矢印Rの方向を右方とする。まず、図1〜図3に示す第1構成例のエンジンEについて説明する。このエンジンEは、単気筒4ストローク型内燃機関であり、エアおよび燃料の混合気が燃焼室10に直接噴射される筒内直噴型内燃機関である。また、エンジンEは、ヘッドカバー1と、シリンダヘッド2と、シリンダブロック3と、クランクケース4とから構成され、これら各部材1〜4が結合されてハウジングHが形成されている。
シリンダブロック3は、内部に円筒状のシリンダ室3aが形成されており、このシリンダ室3aにピストン5が摺動自在に配設されている。ピストン5の上面には、中央部に凹状のキャビティー部5aが形成されている。クランクケース4は、左右のケース半体が接合されて一体になっており、シリンダブロック3の下部に結合され、内部に形成されたクランク室4aがシリンダ室3aと連通されている。クランク室4aには、クランクシャフト6が回転自在に支持された状態で収容されている。クランクシャフト6は、左右のシャフト部6a,6bをクランクピン6cで結合して一体になっており、左右のシャフト部6a,6bがクランク室4a内に設けられたベアリング7a,7bにより支持されている。
ピストン5およびクランクシャフト6は、コンロッド8を介して連結されている。なお、ピストン5にはコンロッド8の小端部8aがピストンピン5bを介して枢結され、クランクシャフト6にはコンロッド8の大端部8bがクランクピン6cを介して枢結される。これにより、ピストン5とクランクシャフト6とが連動し、ピストン5が一往復するとクランクシャフト6が一回転する。
シリンダヘッド2は、シリンダブロック3の上部に結合されており、ヘッドカバー1は、シリンダヘッド2の上部に結合されている。これらヘッドカバー1およびシリンダヘッド2によりヘッド部材CHが構成される。ピストン5の上面と、シリンダ室3aの内周面と、シリンダヘッド2の下壁面とにより囲まれて燃焼室10が形成される。シリンダヘッド2には、点火プラグ9および混合気インジェクタ100が取り付けられており、それぞれの先端部9a,123が燃焼室10に臨んでいる。
シリンダヘッド2には、燃焼室10にそれぞれ開口する吸気口11および排気口15が形成されており、シリンダヘッド2の内部には、一端が吸気口11に繋がり他端が外部に繋がる吸気通路12と、一端が排気口15に繋がり他端が外部に繋がる排気通路16とが形成されている。吸気通路12の外部接続口13には吸気管14が取り付けられており、この吸気管14の上流側には図示しないエアクリーナが接続されている。排気通路16の外部接続口17には図示しない排気管が取り付けられる。
また、ヘッド部材CHに、吸排気バルブ18,19が設けられている。吸排気バルブ18,19は、バルブスプリング18a,19aにより常には吸気口11および排気口15を閉じる方向に付勢されている。ハウジングHの内部には、クランクシャフト6の回転に応じて吸排気バルブ18,19を開閉作動させる動弁機構30が設けられている。
動弁機構30として、シリンダブロック2の側部に、カムシャフト34が回転自在に設けられている。クランクシャフト6の左シャフト部6aにはクランクシャフト6と一体に回転する第1スプロケット31が設けられ、カムシャフト34にはカムシャフト34と一体に回転する第2スプロケット32が設けられている。両スプロケット31,32の間には、カムチェーン33が掛け渡されている。両スプロケット31,32の歯数比は1:2になっている。カムシャフト34には吸気用カム部34aおよび排気用カム部34bが一体に成形されている。シリンダブロック3には、それぞれ連結ピン35a,36aを介してカムフォロア35,36の吸気用ローラ35bおよび排気用ローラ36bが枢結されており、両ローラ35b,36bが両カム部34a,34bに当接している。
ヘッドカバー1にはロッカーアーム39,40が枢結ピン39a,40aにより枢結されて揺動自在に取り付けられている。ロッカーアーム39,40の一端とカムフォロア35,36との間にはプッシュロッド37,38が介設されており、ロッカーアーム39,40の他端は吸排気バルブ18,19の先端に当接している。
このように構成される動弁機構30においては、クランクシャフト6が二回転するとカムシャフト41が一回転し、カムシャフト34が一回転するごとにカムフォロア35,36が上下に一回揺動する。この揺動に応じてプッシュロッド37,38が上下に往復動してロッカーアーム39,40を揺動させる。ロッカーアーム39,40が揺動すると、吸排気バルブ18,19がバルブスプリング18a,19aの付勢力に抗して押し下げられ、吸気口11および排気口15が開放され、吸気通路12および排気通路16が燃焼室10と連通される。
エンジンEは、ピストン5が上死点から下動すると、吸気バルブ18が吸気口11を開放して吸気通路12からのエアが燃焼室10に吸気される(吸気行程)。次いで、下死点から上動して燃焼室10(シリンダ室3a)に供給されたエアが圧縮される(圧縮行程)。このとき、所定のタイミングで混合気インジェクタ100から燃焼室10に混合気が噴射される。ピストン5が上死点近傍まで上動すると、点火プラグ9により燃焼室10に噴射された混合気が点火燃焼され(燃焼行程)、ピストン5を再び下動させる。下動したピストン5が下死点から上動すると、排気バルブ19が排気口15を開放して燃焼室10(シリンダ室3a)内の既燃ガスが排気通路16に導かれ、外部に排出される(排気行程)。以下、ピストン5が二往復するごとに、上記吸気〜排気行程が行われる。
混合気インジェクタ100は、図4に示すエアインジェクタ110と、図5に示す燃料インジェクタ140とから構成され、エアインジェクタ110の上方に燃料インジェクタ140が直結される。混合気インジェクタ100は、ヘッド部材CHの内部を上下に延びて形成されたインジェクタ取付空間76に収容されて取り付けられる。
エアインジェクタ110は、上端開口111aおよび下端開口111bを有して上下に貫通する収容孔111cが形成された上部ハウジング111と、上下に延びる針状に成形されるとともに長孔112aが上下に貫通して形成されており、上部ハウジング111の下端開口111bに嵌め込まれて上部ハウジング111に対して固定される下部ハウジング112と、収容孔111cの上下中央部に保持されたノズル保持部材113と、上部ハウジング111および下部ハウジング112に渡って取り付けられたエア噴射バルブ120とから構成される。
ノズル保持部材113は皿状に成形されており、内部に上面が開放された混合室114が形成される。また、ノズル保持部材113には、混合室114と連通して下方に延びる通路部115が一体に成形されている。ノズル保持部材113の上方、すなわち、収容孔111cの上部には、上端開口111aにより上方に開放された燃料インジェクタ取付空間116が形成される。なお、下部ハウジング112の長孔112aの下端開口が、エアインジェクタ110の混合気噴射口117を形成する。
エア噴射バルブ120は、下部ハウジング112の長孔112a内に上下動自在に配設され、内部に混合気通路121aを形成する混合気管121と、混合気管121の上端部に嵌合して取り付けられ、上部ハウジング111の収容孔111cの下部に上下動自在に配設されて通路部115の開口端と対向するコア122と、混合気管121の下端部に取り付けられて混合気管121の上下動に伴って混合気噴射口117を開閉するプラグ部材123と、下部ハウジング112の上面に形成された取付溝112b内に収容保持されてコア121の下面および下部ハウジング112の間に跨設され、コア121を上方に付勢するスプリング124と、制御装置200からの制御信号を受けて励磁されるコイル125とから構成される。
コイル125が非励磁のときには、スプリング124によりコア122が上方に付勢され、プラグ部材123が混合気噴射口117を閉塞する。コイル125が励磁されると、コア122がスプリング124の付勢力に抗して電磁石となったコイル125に向けて下動し、プラグ部材123が混合気噴射口117を開放する。エアインジェクタ110は、混合室114と混合気噴射口117が、通路部115および混合気通路121aを介して連通している。
燃料インジェクタ140は、エアインジェクタ110の燃料インジェクタ取付空間116に収容され、下方中心部に収容孔141aが形成されたハウジング141と、ハウジング141の収容孔141aに嵌め込まれてハウジング141に対して固定されるノズル部材142と、ハウジング141の収容孔141a内に固定して設けられる燃料噴射バルブ150とから構成される。
ハウジング141の側壁には、燃料ポンプPから供給された高圧燃料を燃料インジェクタ140に取り入れる燃料供給口141bが形成されている。ハウジング141の内部には、燃料供給口141bから下方に位置するプラグ部材142に向けて延びる高圧油路141cが形成されている。ノズル部材142は、上壁部142a、下壁部142bおよび側壁部142cにより囲まれた燃料室143が形成されている。上壁部142aには、開口144が設けられており、この開口144を介して高圧油路141cと燃料室143とが連通される。下壁部142bには上下に貫通する燃料噴射口145が形成されている。また、上壁部142aの中央部には上下に貫通する貫通孔146が形成されている。
燃料噴射バルブ150は、ノズル部材142の貫通孔146を貫いて上下に延びて配設され、上端部がハウジング141の収容孔141a内に位置して下端部が燃料室143内に位置するプランジャ151と、プランジャ151の上端部に固定して取り付けられ、収容孔141aに上下動自在に配設されたコア152と、プランジャ151の下端に取り付けられたボール部材153と、ハウジング141とプランジャ152との間に跨設され、常にはプランジャ151を下方に付勢するスプリング154と、制御装置200からの制御信号を受けて励磁されるコイル155とから構成される。
コイル155が非励磁のときには、スプリング154によりプランジャ151が下方に付勢され、ボール部材153が混合気噴射口145を閉塞する。コイル155が励磁されると、コア152がスプリング154の付勢力に抗して電磁石となったコイル155に向けて上動し、ボール部材153が燃料噴射口145を開放する。
燃料インジェクタ140は、燃料インジェクタ取付空間116に挿入されてエアインジェクタ110と上下に直結され、ノズル部材142がノズル保持部材113により保持されてノズル部材142の下端部が混合室114内に収容される。このため、燃料噴射バルブ150のコイル155が励磁されて燃料噴射口145が開放されると、燃料ポンプPから燃料室143に供給された高圧燃料が、混合室114内に噴射される。
混合室114には、圧縮されたエアが外部から供給される。混合室114では、燃料インジェクタ140から供給された燃料と、外部から供給されたエアとが混合されて混合気が生成される。混合気は、エア噴射バルブ120のコイル125が励磁されて混合気噴射口117が開放されると、エア自身の内部圧力を利用して混合室114から通路部115および混合気通路121aを通って燃焼室10に噴射される。
エンジンEには、混合室114に圧縮されたエアを供給するための装置として、クランクシャフト6の回転を駆動源とする圧縮機50と、ヘッド部材CHに取り付けられた電磁バルブ170とが設けられている。
図6〜図9に示すように、圧縮機50は、シリンダブロック3に一体に成形されて内部に圧縮機シリンダ室51aを有した圧縮機シリンダ51と、圧縮機シリンダ51に結合されて吸入孔52aおよび圧縮エア通過空間52dが形成された圧縮機シリンダヘッド52と、圧縮機シリンダ室51a内に摺動自在に配設された圧縮機ピストン53と、圧縮機ピストン53をシリンダ室51内で往復動させるスコッチヨーク機構SYとを有して構成される。
圧縮機ピストン53の上面と、圧縮機シリンダ室51aの内周面と、圧縮機シリンダヘッド52の内壁面とにより囲まれて圧縮室50aが形成される。吸入孔52aおよび圧縮エア通過空間52dは、圧縮室50aに連通される。吸入孔52aは外部に繋がり、圧縮エア通路52dは混合室114に繋がる。
スコッチヨーク機構SYは、圧縮機ピストン53と一体に成形されて平板状のピストンロッド54と、ピストンロッド54の先端に圧縮機シリンダ室51aのシリンダ軸の直交方向に延びて形成された摺動孔54a内に摺動自在に設けられたスライダ55と、シリンダブロック3の側部に設けられた圧縮機駆動シャフト56と、圧縮機駆動シャフト56の先端に偏心して形成された偏心シャフト57とから構成される。圧縮機駆動シャフト56は、ベアリング58a,58bを介してシリンダブロック3により回転自在に支持されており、偏心シャフト57は、スライダ55に嵌合連結されて回転自在になっている。このスコッチヨーク機構SYにより、圧縮機駆動シャフト56が一回転すると圧縮機ピストン53を一往復させることができる。
また、カムシャフト34に設けられた第2スプロケット32と一体に第3スプロケット60が設けられており、圧縮機駆動シャフト56に圧縮機駆動シャフト56と一体に回転する第4スプロケット61が設けられている。両スプロケット60,61の間には、ポンプチェーン62が掛け渡されている。両スプロケット60,61は歯数が同じであり、第2スプロケット32が一回転すると第4スプロケット61が一回転する。したがって、クランクシャフト6が二回転すると、圧縮機駆動シャフト56が一回転して圧縮機ピストン53が一往復する。
圧縮機シリンダ51と圧縮機シリンダヘッド52との間には、薄い金属板からなるバルブプレート63が挟持され、このバルブプレート63がガスケットとして機能する。バルブプレート63には、吸気孔52aを閉塞する部分に打ち抜き加工が施され、舌片状のリード64が形成されている。また、バルブプレート63の上方には排気ポペット弁70が設けられている。排気ポペット弁70は、圧縮エア通過空間52d内の着座面52cに着座するように設けられた円盤状の弁体71と、弁体71を着座面52cに着座する方向に付勢する圧縮ばね74とから構成される。圧縮エア通過空間52dは、圧縮機シリンダヘッド52に形成された空気連通孔52bおよびバルブプレート63に形成された円形孔65を介して圧縮室50aに連通され、弁体71が着座面52cに着座すると空気連通孔52bが弁体71により覆われる。
このように構成される圧縮機50においては、クランクシャフト6が回転すると、圧縮機駆動シャフト56が回転して圧縮機ピストン53が往復動する。圧縮機ピストン53の往復動において、図9の矢印Aの向きに移動する下動時には、リード64が圧縮室50a内に発生する負圧を受けて図9に二点鎖線で示すように撓み、吸気孔52aから圧縮室50a内に外部からのエアが導入される。図9の矢印Bの向きに移動する上動時には、圧縮室50a内が正圧になって排気ポペット弁70が圧縮ばね74の付勢力に抗して開弁し、圧縮室50a内で圧縮されたエアが圧縮エア通過空間52d内に押し出される。
圧縮エア通過空間52dに押し出されたエアは、圧縮エア通路75に導かれてインジェクタ取付空間76に取り付けられた混合気インジェクタ100の混合室114に供給される。なお、圧縮機50がエアを押し出すタイミングは、混合気噴射インジェクタ100による混合気噴射に合わせた所定のタイミングに設定されている。
電磁バルブ170は、図1に示すように、混合気インジェクタ100と並んでヘッド部材CHに取り付けられている。ここで、ヘッド部材CHには、燃焼室10と混合室114とを連通する連通空間が形成されている。この連通空間は、ヘッド部材CHの内部においてインジェクタ取付空間76の左方を燃焼室10から上方に延びて形成された電磁バルブ取付空間と、この電磁バルブ取付空間とインジェクタ取付空間76とを連通するエア通路1aとからなる。さらに、ヘッドカバー1の内部には、電磁バルブ取付空間の上方に位置して所定容量の空間が確保されており、電磁バルブ取付空間と一体の蓄圧室1bが形成されている。電磁バルブ170は、電磁バルブ取付空間に設置されており、図10に示すように図4に示すエアインジェクタ110とほぼ同様の構造を有して構成されている。
電磁バルブ170は、上端開口171aおよび下端開口171bを有して上下に貫通する収容孔171cが形成された上部ハウジング171と、上下に延びる針状に成形されるとともに長孔172aが上下に貫通して形成されており、上部ハウジング171の下端開口171bに嵌め込まれて上部ハウジング171に対して固定される下部ハウジング172と、上部ハウジング111および下部ハウジング112に渡って取り付けられたエア吸入バルブ180とから構成される。
電磁バルブ170の外殻は、上部ハウジング171および下部ハウジング172を組み付けることで成形される。両部材171,172が組み付けられると、下部ハウジング172の長孔172aと、上部ハウジング171の収容孔171cとが連通する。収容孔171cの上部には上方に開放される吸入エア空間174が形成される。また、上部ハウジング171には径方向に延びて吸入エア空間174に連通する貫通孔175が形成されている。
電磁バルブ170が電磁バルブ取付空間に設置されると、長孔172aの下端開口が燃焼室10に臨む。こうして、長孔172aの下端開口が電磁バルブ170のエア吸入口173を形成する。そして、上部ハウジング171の貫通孔175の外端開口がエア通路1aに繋がる。インジェクタ取付空間76に混合気インジェクタ100が取り付けられると、エア通路1aの他端側は混合室114に繋がるようになっている。このように、電磁バルブ170および混合気インジェクタ100が取り付けられた状態においては、下部ハウジング172の長孔172a、上部ハウジング171の収容孔171c(吸入エア空間174)、貫通孔175、および、エア通路1aにより連通空間が形成され、この連通空間を介して燃焼室10と混合室114とが連通する。さらに、上部ハウジング171の上端開口171aを介して蓄圧室1bが吸入エア空間174と連通される。これにより、蓄圧室1bは、燃焼室10および混合室114と連通される。
エア吸入バルブ180は、下部ハウジング172の長孔172a内を上下動自在に配設され、内部に吸入エア通路181aを形成する圧縮エア管181と、圧縮エア管181の上端部に嵌合して取り付けられ、上部ハウジング171の収容孔171cの下部に上下動自在に配設されたコア182と、圧縮エア管181の下端部に取り付けられて圧縮エア管181の上下動に伴ってエア吸入口177を開閉するプラグ部材183と、下部ハウジング172の上面に形成された収容溝172bに収容保持され、コア182の下面と下部ハウジング172との間に跨設されてコア182を上方に付勢するスプリング184と、制御装置200からの制御信号を受けて励磁されるコイル185とから構成される。
コイル185が非励磁のときには、スプリング184によりコア182が上方に付勢され、プラグ部材183がエア吸入口173を閉塞する。コイル185が励磁されると、コア182がスプリング184の付勢力に抗して電磁石となったコイル185に向けて下動し、プラグ部材183がエア吸入口173を開放する。
なお、インジェクタ取付空間76は、燃焼室10の頂部から上方に延びて形成され、電磁バルブ取付空間はこのインジェクタ取付空間76の左方を延びて形成されている。このため、混合気インジェクタ100の混合気噴射口117(プラグ部材123)は、燃焼室10の中心部に臨んでいる。一方、電磁バルブ170のエア吸入口173(プラグ部材183)は、燃焼室10の中心部の外側に臨んでいる。
図11には、エアインジェクタ110、燃料インジェクタ140、および、電磁バルブ170を作動制御する制御装置200を示している。制御装置200には、吸気管14に設けられる図示しないスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ206からの開度検出信号、エンジン回転数を検出する回転数センサ207からの回転数検出信号、クランク角を検出するクランク角センサ208からのクランク角検出信号がそれぞれ入力される。
制御装置200には、メモリ201が備えられている。制御装置200は、入力された開度検出信号および回転数検出信号に基づいてメモリ201に記憶されたマップから必要な情報を読み出して所定のパラメータを設定する。制御装置200は、設定されたパラメータと、入力されたクランク角検出信号に基づいて、コイル125,145,185に制御信号を出力し、エアインジェクタ110、燃料インジェクタ140、および、電磁バルブ170の作動制御を行うように構成されている。また、同様にして点火プラグ9に制御信号を出力し、点火プラグ9の作動制御を行うように構成されている。
以上の構成のエンジンEを始動させるためのスタータモータ20が図3に示すようにクランクケース4に取り付けられている。このスタータモータ20の駆動軸にはスタータピニオンが取り付けられており、このスタータピニオンはクランクシャフト6の左シャフト部6aにワンウェイクラッチを介して取り付けられたスタータギヤ21と噛合している。クランクシャフト6の左シャフト部6aの端部には発電機22が取り付けられており、クランクシャフト6により駆動されて発電を行う。なお、この発電機22の内部に上記ワンウェイクラッチが配設されている。
スタータモータ20が駆動されると、スタータピニオンを介してスタータギヤ21が回転してクランクシャフト6が回転し、エンジンEが始動される。これにより、圧縮機50が駆動されて圧縮されたエアが所定のタイミングでエアインジェクタ110の混合室114に供給される。このとき同時にクランクシャフト6の回転により燃料ポンプPが駆動され、燃料が燃料インジェクタ140の燃料室143に供給される。制御装置200により、クランク角が所定の角度範囲にあるときに燃料噴射バルブ150のコイル155に制御信号が出力され、燃料室143内の燃料が混合室114に噴射される。
なお、制御装置200は、メモリ201に記憶されるマップの設定により、入力される開度検出信号や回転数検出信号に応じて角度範囲を適宜変更する制御を行うように構成されている。これにより、スロットルバルブの開度やエンジン回転数に応じて燃焼室10に供給される燃料量が最適になるように、燃料室143から混合室114に供給される燃料量の調整が行われる。
次に、圧縮行程における混合気インジェクタ100および電磁バルブ170の作動について説明する。図12に示すように、制御装置200は、ピストン5の圧縮工程において、下死点近傍の第1クランク角t1になると、エア噴射バルブ120のコイル125に制御信号を出力するように構成されている。さらにクランク角が進角して第2クランク角t2になったときに、制御信号の出力を停止する。したがって、第1クランク角t1から第2クランク角t2までの角度範囲において、混合気噴射口117が開放されて混合室114から混合気が燃焼室10に噴射される。このとき、シリンダ室3aの内圧Pは図12に示す第2圧力値P2を示しており、燃料噴射終了後における混合室114、エア通路1a、および、蓄圧室1bの内圧はこの第2圧力値P2になっている。
なお、混合気インジェクタ100のプラグ部材123は燃焼室10の中心部に臨んでいるとともに、ピストン5の上面の中央部にはキャビティー部5aが形成されている。このため、噴射された混合気はキャビティー部5aに集められる。これにより、燃焼室10では、中心部に燃料を含むエアが多く分布するとともに、その外側に燃料を含まないエアが多く分布し、略層状化された気場が形成される。
ピストン5がさらに上動し、第3クランク角t3まで進角すると、制御装置200によりエア吸入バルブ180のコイル185に制御信号が出力され、エア吸入口173が開放される。このとき、シリンダ室3aの内圧Pは、混合気インジェクタ100による燃料噴射終了時における第2圧力値P2よりも差圧ΔPだけ大きい第3圧力値P3となる。
このようにシリンダ室3aの内圧Pが混合室114側の内圧よりも高いため、燃焼室10(シリンダ室3a)のエアがエア吸入口173から電磁バルブ170の内部に吸い込まれる。さらに、ピストン5が上動して第4クランク角t4まで進角すると、制御装置200による制御信号の出力が停止され、エア吸入口173が閉塞される。このとき、シリンダ室3aの内圧Pは、ピストン5の上動に伴う圧縮によりエア吸入口173の開放時よりも高くなり、図12に示す第4圧力値P4を示す。これにより、プラグ部材183よりも上方側、すなわち、吸入エア通路181a、吸入エア空間174、蓄圧室1b、貫通孔175、エア通路1a、および、混合室114には、この第4圧力値P4の圧力が蓄えられる。
図13には、圧縮行程におけるシリンダ室3aの体積Vとシリンダ室3aの内圧Pとの関係を示している。実線Aは電磁バルブ170を備えずに構成された従来形態のエンジンにおける関係を示しており、一点鎖線Bは本構成例のエンジンEにおける関係を示している。シリンダ室3aの体積Vが第3体積値V3になったとき、すなわち、クランク角が第3クランク角t3になったときにエア吸入口173が開放され、第4体積値V4になったとき、すなわち、クランク角が第4クランク角t4になったときにエア吸入口173が閉塞される。
一点鎖線Bによると、エア吸入口173が開放されている間(V3>V>V4)においては、緩やかにシリンダ室3aの内圧Pが上昇し、エア吸入口173の閉塞後(V<V4)においては、シリンダ室3aの内圧Pが急激に上昇している。このように、本構成例のエンジンEは、電磁バルブ170の開閉作動により、エア吸入口173が閉塞される第4体積値V4を境とする可変圧縮が実現される。
また、本構成例においてエア吸入口173が閉塞される第4体積値V4に対応する第4圧力値P4は、エア吸入空間174や蓄圧室1aなどにシリンダ室3a内のエア圧が逃げるため、実線Aで示される従来の圧力値P4′に比べて低減される。このように、エア吸入口173の開放後においては、閉塞後も含めて、本構成例のエンジンEにおけるシリンダ室3aの内圧Pは、同じシリンダ室3aの体積Vに対して従来よりも低い値で推移しており、実線Aと一点鎖線Bとにより形成される斜線領域Cで表されるようにエンジンEが圧縮行程で必要とする仕事量が低減されることがわかる。
エア吸入口173の閉塞後にピストン5が上動してクランク角が第5クランク角t5まで進角すると、制御装置200は点火プラグ9に制御信号を出力して先端部9aによる放電を行わせる。これにより、燃焼室10に噴射された混合気の点火燃焼が行われる。
そして、次の圧縮行程において、エアインジェクタ10の混合気噴射口117が開放されると、吸入エア通路181a、吸入エア空間174、蓄圧室1b、貫通孔175、および、エア通路1aに蓄えられた第4圧力値P4のエアが、混合室114に供給される。
このように、本構成例においては、燃焼室10と混合室114とが上記連通空間を介して連通され、この連通空間を開閉する電磁バルブ170が設けられている。そして、混合気インジェクタ100は、圧縮行程においてピストン5が下死点側に位置している間に、混合気を噴射するようになっている。電磁バルブ170は、圧縮行程において混合気の噴射後に開弁作動する。これにより、混合気噴射口117の閉塞時とエア吸入口173の開放時との間に行われたピストン5の上動により生じる差圧ΔPを利用して、燃焼室10内で圧縮されたエアが混合室114に供給される。このため、圧縮機50の圧縮室50aの容量を小さくして構成しても混合気インジェクタ100を作動させるための圧縮エアを供給でき、圧縮機50を小型化できる。この小型化により、圧縮機50の配置スペースを小さくでき、エンジンEを全体的に小型化できる。また、圧縮機50の小型化により、ポンプフリクションによる出力損失の低減が図られ、燃費の向上を図ることができる。さらには、圧縮機50を省略して構成することも可能であり、同様にエンジンEの小型化と燃費の向上が図られる。
また、燃焼室10と混合室114とを連通させる連通空間には、ヘッドカバー1に形成された所定容量の蓄圧室1bが連通している。このため、混合室114へのエアの供給量をより多く確保することができ、圧縮機50の小型化がより一層図られる。また、蓄圧室1bが形成されることにより、エア吸入口173を開閉するプラグ部材183から見て混合室114側の容量が大きくなる。このため、燃焼室10内のエアが混合室114側により多く逃げ、エア吸入口173が開放されている間はシリンダ室3aの内圧Pの上昇を緩やかにすることができる。したがって、圧縮行程で必要な仕事量の低減が図られ、熱効率の上昇や燃費の向上が図られる。
さらに、混合気噴射後において、燃焼室10内には、中心部に燃料を含むエアが多く分布し、その外側に燃料を含まないエアが多く分布する略層状化された気場が形成される。電磁バルブ170のエア吸入口173は、中心部の外側に臨んでいるため、燃焼室10から混合室114に、燃料を含まないフレッシュなエアが供給される。このため、エアおよび燃料の混合比の調整が正確に行われ、混合比のばらつきが低減される。これにより、狙いの最適な混合比で燃焼行程を行わせることができ、エンジンEを安定して作動させることができる。さらに、オイル成分を捕捉するための濾過手段を連通空間に介設する必要がなく、簡易な構成でこのような効果が得られるエンジンEを提供できる。
続いて、図14,図15を参照して第2構成例について説明する。図14には、本構成例のエンジンE2を示している。エンジンE2は、上記構成例のエンジンEと同様に、ヘッドカバー1、シリンダヘッド2、シリンダブロック3、クランクケース4とから構成されている。これら各部材1〜4を結合して形成されるハウジングHの内部に、上記同様のピストン5と、クランクシャフト6と、コンロッド8と、点火プラグ9と、吸排気バルブ18,19と、混合気インジェクタ100とが配設されている。本構成例のエンジンE2も、単気筒4ストローク型内燃機関であり、筒内直噴型内燃機関である。また、本構成例のエンジンE2は、上記構成例の電磁バルブ170を備えずに構成されている。
本構成例においては、クランクシャフト6と連動する圧縮機250がクランクケース4に結合されて設けられている。この圧縮機250は、クランクケース4に結合されて内部にクランク室4aと連通する圧縮機シリンダ室251aが形成された圧縮機シリンダ251と、圧縮機シリンダ251に結合されて圧縮機シリンダ室251aの一端を閉塞する圧縮機シリンダヘッド252と、圧縮機シリンダ室251a内に摺動自在に配設された圧縮機ピストン253とから構成される。また、圧縮機250は、シリンダ室3aのシリンダ軸と、圧縮機シリンダ室251aのシリンダ軸とによりなす角が略90度になるようにして設けられている。
そして、圧縮機ピストン253およびクランクシャフト6は、圧縮機コンロッド254を介して連結されて連動するようになっており、クランクシャフト6が一回転すると圧縮機ピストン253が圧縮シリンダ室251a内を一往復するようになっている。これにより、ピストン5が一往復すると圧縮機ピストン251が一往復するが、ピストン5と圧縮機ピストン252とは位相を逆にして連動するようになっている。すなわち、ピストン5と圧縮機ピストン253とは、ピストン5が上死点に位置しているときに圧縮機ピストン253が下死点に位置し、ピストン5が下死点に位置しているときに圧縮機ピストン253が上死点に位置するようにして連動する。
圧縮機ピストン253の上面と、圧縮機シリンダ室251aの内周面と、圧縮機シリンダヘッド252の内壁面とにより囲まれて圧縮室255が形成される。この圧縮室255には吸入通路260および吐出通路270が接続されている。吸入通路260は、上流端が吸気管14に繋がれている。吐出通路270は、下流端が混合気インジェクタ100の混合室114に繋がれている。
吸入通路260には、吸入側チェックバルブ265が設けられており、吐出通路270には、吐出側チェックバルブ275が設けられている。吸入側チェックバルブ265は、圧縮機ピストン253が下動して圧縮室255内が負圧になり、吸入側チェックバルブ265の吸入側と吐出側の差圧が所定の圧力値になると開弁して吸入通路260を開放する。これにより、エアクリーナを通った吸入管14からの清浄なエアが圧縮室255に供給される。吐出側チェックバルブ275は、圧縮機ピストン253が上動して圧縮室255内が正圧になり、吸入側と吐出側の差圧が所定の圧力値になると開弁して吐出通路270を開放する。これにより、圧縮室255で圧縮されたエアが混合室114に供給される。なお、このとき、吸入側チェックバルブ265により吸入通路260での逆流が防止される。
また、吐出側チェックバルブ275の開弁圧は、吸入側チェックバルブ265の開弁圧よりも高く設定されている。これにより、所定の圧力値まで圧縮された状態でエアが供給され、混合室114へのエア供給量が適切に調節されるようになっている。
混合気インジェクタ100は、図示しない制御装置により作動制御される。本構成例の制御装置は、図10に示す上記構成例と同様、スロットル開度センサ206、回転数センサ207、クランク角センサ208からの各検出信号が入力される。制御装置は、入力された検出信号に基づき、クランク角が所定の角度範囲にあるときに、コイル125,155に制御信号を出力し、エアインジェクタ110および燃料インジェクタ140を作動制御するように構成されている。
上記構成例と同様にスタータモータ20が作動すると、クランクシャフト6が回転し、ピストン5が連動して往復動してエンジンEが始動する。このクランクシャフト6の回転に伴って圧縮機ピストン253が往復動する。これにより、吐出側チェックバルブ275を介して所定の圧力値のエアが混合室114に供給される。燃料インジェクタ140の燃料室143から供給される燃料と、圧縮機250から供給された圧縮されたエアとを混合室114で混合して混合気が形成される。混合気インジェクタ100は、制御装置による作動制御により、圧縮行程における所定のタイミングで混合気噴射口117から混合気を燃焼室10に噴射する。
ここで、本構成例のエンジンE2においては、ピストン5の往復動と、圧縮機ピストン253の往復動とが逆の位相で行われるようになっている。これにより、ピストン5の往復動に伴って生じるおそれのある振動が、圧縮機ピストン253の往復動によって打ち消される。このように、本構成例においては、圧縮機250をバランサとして機能させることができるため、従来の内燃機関では圧縮機250と別体で専用に設けられていたバランサを省略でき、内燃機関の小型化を図ることができる。
なお、本構成例のエンジンE2は、シリンダ室3aのシリンダ軸と、圧縮機シリンダ室251aのシリンダ軸とでなす角が略90度となるように、圧縮機250を設けて構成されているが、必ずしもこの角度設定に限られず、例えばシリンダブロック3と圧縮機シリンダ251とをクランクシャフト6を介して対向させ、両シリンダ軸でなす角が180度になるように設定してもよい。