JP4436977B2 - 新規な腫瘍抗原タンパク質sart−3、およびその腫瘍抗原ペプチド - Google Patents
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Description
本発明は、新規な腫瘍抗原タンパク質および腫瘍抗原ペプチドに関する。さらに詳しくは、本発明は、新規な腫瘍抗原タンパク質およびその遺伝子、該腫瘍抗原タンパク質由来の腫瘍抗原ペプチド、これらの物質の誘導体、あるいはこれら腫瘍抗原タンパク質、遺伝子、腫瘍抗原ペプチドまたはこれらの誘導体を、invivoまたはin vitroで利用した腫瘍の治療剤、予防剤または診断薬などに関する。
背景技術
生体による腫瘍の排除には、免疫系、特にT細胞が重要な役割を果たしていることが知られている。実際、ヒトの腫瘍局所には腫瘍細胞に対して傷害活性を示すリンパ球の浸潤が認められ(Arch.Surg.,126:200,1990)、メラノーマからは自己の腫瘍細胞を認識する細胞傷害性T細胞(CTL)が比較的容易に分離されている(Immunol,Today,8:385,1987、J.Immunol.,138:989,1987、Int.J.Cancer,52:52,1992等)。また、該CTLの移入によるメラノーマ治療の臨床結果からも、腫瘍排除におけるT細胞の重要性が示唆されている(J.Natl.Cancer.Inst.,86:1159,1994)。
自己の腫瘍細胞を攻撃するCTLが標的とする分子については長い間不明であったが、最近の免疫学および分子生物学の進歩により次第に明らかになってきた。すなわちCTLは、T細胞受容体(TCR)を用いて、腫瘍抗原ペプチドと呼ばれるペプチドと主要組織適合遺伝子複合体クラスI抗原(MHCクラスI抗原、ヒトの場合はHLA抗原と呼ばれる)との複合体を認識することにより、自己の腫瘍細胞を攻撃していることが明らかとなった。
腫瘍抗原ペプチドは、腫瘍に特有のタンパク質、すなわち腫瘍抗原タンパク質が細胞内で合成された後、プロテアソームにより細胞内で分解されることによって生成される。生成された腫瘍抗原ペプチドは、小胞体内でMHCクラスI抗原(HLA抗原)と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示される。この抗原提示された複合体を腫瘍特異的なCTLが認識し、細胞傷害作用やリンフォカインの産生を介して抗腫瘍効果を示す。このような一連の作用の解明に伴い、腫瘍抗原タンパク質または腫瘍抗原ペプチドをいわゆる癌ワクチンとして利用することにより、腫瘍患者の体内の腫瘍特異的CTLを増強させる治療法が可能となった。
腫瘍抗原タンパク質としては、1991年にT.Boonらが初めてMAGEと名付けたタンパク質をヒトメラノーマ細胞から同定した(Science,254:1643,1991)。その後、いくつかの腫瘍抗原タンパク質が、主にメラノーマ細胞から同定されている。メラノーマ抗原としては、メラノサイト組織特異的タンパク質であるgp100(J.Exp.Med.,179:1005,1994)、MART−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:3515,1994)、チロシナーゼ(J.Exp.Med,,178:489,1993)などのメラノソームタンパク質、メラノーマだけでなく各種癌細胞と正常精巣細胞に発現するMAGE関連タンパク質群(J.Exp.Med.,179:921,1994)、腫瘍特異的なアミノ酸変異を持つβ−カテニン(J.Exp.Med.,183:1185,1996)、CDK4(Science,269:1281,1995)などが同定されている。また、メラノーマ以外の腫瘍抗原タンパク質としては、HER2/neu(J.Exp,Med.,181:2109,1995)、p53(変異型)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14704,1996)などの癌遺伝子産物、CEA(J.Natl.Cancer.Inst.,87:982,1995)、PSA(J.Natl.Cancer.Inst.,89:293,1997)などの腫瘍マーカー、HPV(J.Immunol.,154:5934,1995)、EBV(Int.Immunol.,7:653,1995)などのウイルスタンパク質などが同定されている。これらについては、総説(Immunol.Today,18:267,1997、J.Exp.Med.,183:725,1996、Curr.Opin.Immunol.,8:628,1996等)の記述に詳しい。
腫瘍抗原タンパク質や腫瘍抗原ペプチドを腫瘍の治療や診断に応用するためには、メラノーマに比べて発生頻度が圧倒的に高い扁平上皮癌(食道癌、肺癌等)などに幅広く適応可能な腫瘍抗原の同定が重要である。これに関して、本発明者らは食道癌由来の扁平上皮癌細胞から腫瘍抗原タンパク質をコードする遺伝子のクローニングを行い、HLAの型がHLA−A24あるいはHLA−A26であるHLA抗原に結合して提示されるいくつかの腫瘍抗原ペプチドを、メラノーマ以外の腫瘍細胞から初めて同定した(J.Exp.Med.,187:277,1998、国際公開第97/46676号パンフレット)。
これらの腫瘍抗原ペプチドを実際に臨床に適用する際には、1種のみならず、複数の異なる腫瘍抗原ペプチドを使用することが好ましいかもしれない。すなわち、全ての癌細胞が共通に同一の腫瘍抗原を発現しているとは限らず、また、一つの癌細胞上に2種以上の異なる腫瘍抗原ペプチドが提示されていることを考慮すると、複数の異なる腫瘍抗原ペプチドを用いた治療がより効果的であると考えられる。事実、メラノーマにおいては、単一の腫瘍抗原由来のペプチドのみでは効果が不十分であったことから、複数のペプチドのカクテル製剤の開発が試みられている(Int.J.Cancer,66:162,1996、Int.J.Cancer,67:54,1996)。このような背景もあり、発生頻度の高い扁平上皮癌等に幅広く適用可能な、新たな腫瘍抗原タンパク質および腫瘍抗原ペプチドの同定が望まれている状況にある。
発明の開示
本発明は、新規な腫瘍抗原タンパク質および腫瘍抗原ペプチドを提供することを目的とする。すなわち本発明は、新規な腫瘍抗原タンパク質およびその遺伝子、該腫瘍抗原タンパク質由来の腫瘍抗原ペプチド、これらの物質の誘導体、あるいはこれら腫瘍抗原タンパク質、遺伝子、腫瘍抗原ペブチドまたはこれらの誘導体を、in vivoまたはin vitroで利用した腫瘍の治療剤、予防剤または診断薬などを提供することを目的とする。本発明の腫瘍抗原ペプチドは、日本人の約60%が保有しているHLA抗原であるHLA−A24に結合して提示される腫瘍抗原ペプチド、および、日本人および白人の約40%が保有しているHLA抗原であるHLA−A2に結合して提示される腫瘍抗原ペプチドを含むものであることから、多くの患者に適用可能である。さらに、ヒトの癌でもっとも多く認められる扁平上皮癌等に応用できるものであるため、新規な抗腫瘍剤としての有用性が期待される。ちなみに扁平上皮癌のうち食道癌や肺癌での扁平上皮癌は、現在の化学療法や放射線療法に比較的抵抗性を示すことが知られている。その点からも、本発明の腫瘍抗原ペプチドの開発が期待される。
本発明者らは、新規な腫瘍抗原タンパク質および腫瘍抗原ペプチドを得るために、以下の試みを行った。
まず本発明者らは、食道癌細胞株KE−4(FERM BP−5955)由来のcDNAライブラリーを作製し、該ライブラリーの組換えプラスミドとHLA−A2402(HLA−A24の一種)cDNAの組換えプラスミドを繊維芽細胞株VA−13細胞(理化学研究所細胞開発銀行)にダブルトランスフェクトし、そのトランスフェクタントに対し、KE−4に対するCTLであるKE−4CTL(FERM BP−5954)を作用させ、KE−4CTLが活性化されるか否かをIFN−γの産生量で測定するというスクリーニングを繰り返した。当該スクリーニングにより新規かつ有用な腫瘍抗原タンパク質が得られるという保証はなかったが、本発明者らは膨大なスクリーニングを繰り返した結果、最終的に、1つの腫瘍抗原タンパク質の遺伝子のクローニングに成功した。本発明者らは該遺伝子によりコードされる腫瘍抗原タンパク質を「SART−3」と命名した。このSART−3の塩基配列を既知の配列と比較したところ、該SART−3の塩基配列は、GenBankデータベースにおいてAccession No.D63879として登録されている機能不明の遺伝子KIAA0156と1塩基相違する新規な塩基配列であった。
本発明者らはさらに、SART−3のアミノ酸配列中、HLA−A24およびHLA−A2に結合して提示される腫瘍抗原ペプチド部分を同定し、これらのペプチドに腫瘍抗原ペプチドとしての活性の存することを明らかにした。
本発明は、以上のような知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明の要旨は、
(1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又はそのアミノ酸配列のうち1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質、をコードするDNA(ただし、該タンパク質および変異タンパク質は、HLA抗原と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるものである)、
(2) 配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNA、又はそのDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異DNA(ただし、該DNAおよび変異DNAが発現して生産されるタンパク質は、HLA抗原と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるものである)、
(3) 前記(1)または(2)記載のDNAを有する発現プラスミド、
(4) 前記(3)記載の発現プラスミドによって形質転換された形質転換体、
(5) 前記(4)記載の形質転換体を培養し、発現される組換えタンパク質を回収することからなる、組換えタンパク質の生産方法、
(6) 前記(1)または(2)記載のDNAによりコードされるか、または前記(5)記載の生産方法により生産される、腫瘍抗原タンパク質、
(7) 前記(1)または(2)記載のDNA、あるいは前記(6)記載のタンパク質を有効成分として含有する医薬、
(8) 前記(1)または(2)記載のDNA、あるいは前記(6)記載のタンパク質を有効成分として含有する、腫瘍の治療剤または予防剤、
(9) 前記(6)記載のタンパク質の一部よりなる部分ペプチドであって、かつHLA抗原と結合して細胞傷害性T細胞により認識され得る腫瘍抗原ペプチド、または機能的に同等の特性を有するその誘導体、
(10) HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である前記(9)記載の腫瘍抗原ペプチド、または機能的に同等の特性を有するその誘導体、
(11) 配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(10)記載の腫瘍抗原ペプチド、または機能的に同等の特性を有するその誘導体、
(12) 配列番号:3〜配列番号:9、または配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(11)記載の腫瘍抗原ペプチド、または機能的に同等の特性を有するその誘導体、
(13) 配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(11)記載の腫瘍抗原ペプチド誘導体、
(14) 配列番号:3〜配列番号:9、または配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(13)記載の腫瘍抗原ペプチド誘導体、
(15) 配列番号:3〜配列番号:24のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンに置換され、および/またはC末端のアミノ酸残基がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンに置換されたアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(13)記載の腫瘍抗原ペプチド誘導体、
(16) 配列番号:25〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位がロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンに置換され、および/またはC末端のアミノ酸残基がバリンまたはロイシンに置換されたアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(13)記載の腫瘍抗原ペプチド誘導体、
(17) 配列番号:53〜配列番号:64のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含む配列より選択される、前記(14)記載の腫瘍抗原ペプチド誘導体、
(18) 前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を有効成分として含有してなる、腫瘍の治療剤または予防剤、
(19) 前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体をコードするDNAの少なくとも1種を含有する組換えDNA、
(20) 前記(19)記載の組換えDNAを発現させて得られうる組換えポリペプチド、
(21) 前記(19)記載の組換えDNAまたは前記(20)記載の組換えポリペプチドを有効成分として含有してなる、腫瘍の治療剤または予防剤、
(22) 前記(6)記載のタンパク質、前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、のいずれかに特異的に結合する抗体、
(23) 腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA抗原と前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を提示させてなる抗原提示細胞、
(24) 前記(1)または(2)記載のDNA、前記(6)記載の腫瘍抗原タンパク質、前記(19)記載の組換えDNA、あるいは前記(20)記載の組換えポリペプチドを、腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞に取り込ませて得られうる、HLA抗原と腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体の提示された抗原提示細胞、
(25) 前記(23)または(24)記載の抗原提示細胞を有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤、
(26) HLA抗原と前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞、
(27) 前記(23)または(24)記載の抗原提示細胞に提示されたHLA抗原と腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞、
(28) 前記(26)または(27)記載の細胞傷害性T細胞を有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤、
(29) 前記(9)〜(17)いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、前記(6)記載のタンパク質、あるいは前記(20)記載の組換えポリペプチドを含有してなる腫瘍の診断薬、
(30) 受託番号がFERM BP−6818である、細胞傷害性T細胞OK−CTL、ならびに
(31) 前記(30)記載のOK−CTLを用いることを特徴とする、腫瘍抗原タンパク質または腫瘍抗原ペプチドの同定法、に関する。
本発明のDNAは、新規な腫瘍抗原タンパク質をコードするものであり、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるSART−3タンパク質、又は該SART−3のアミノ酸配列のうち1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質、をコードするDNA(ただし、該タンパク質および変異タンパク質は、HLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるものである)、あるいは、配列番号:2に記載の塩基配列からなるSART−3のDNA、又は該SART−3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異DNA(ただし、該DNAおよび変異DNAが発現して生産されるタンパク質は、HLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるものである)が例示される。以下、これら本発明のDNAにつき順次説明する。
1)SART−3をコードするDNA
前記DNAのうち、「配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA」、「配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNA」とは、本発明の腫瘍抗原タンパク質SART−3をコードするDNAである。該DNAは、後述の実施例に記載の方法によりクローニングすることができる。また、GenBank Accession No.D63879において開示されている塩基配列、あるいは本明細書の配列表の配列番号:2に開示されている塩基配列の適当な部分をハイブリダイゼーションのプローブあるいはPCRのプライマーに用いて、例えば食道癌細胞株KE−4(FERM BP−5955)由来のcDNAライブラリーをスクリーニングすることなどによっても、クローニングすることができる。該クローニングは、例えばMolecular Cloning 2nd Edt.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等に従い、当業者ならば容易に行うことができる。
2)SART−3の改変タンパク質またはアレル変異体等をコードするDNA
前記DNAのうち、「SART−3のアミノ酸配列のうち1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質をコードするDNA」とは、人為的に作製したいわゆる改変タンパク質や、生体内に存在するアレル変異体等のタンパク質をコードするDNAを意味し、この変異タンパク質をコードするDNAは、例えば、Molecular Cloning:ALaboratory Manual第2版第1−3巻,Cold Spring Harber Labolatory Press(1989)に記載の種々の方法、例えば部位特異的変異誘発やPCR法等によって製造することができる。なお、ここで置換、欠失及び/又は付加されるアミノ酸残基の数は、上記部位特異的変異誘発等の周知の方法により置換、欠失及び/又は付加できる程度の数を指す。
3)SART−3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
前記DNAのうち、「SART−3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異DNA」とは、例えばラット、マウス等の脊椎動物全てのSART−3のDNA、またはSART−3の部分タンパク質をコードするDNAのような、配列番号:2に記載の塩基配列からなるヒトSART−3のcDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを指す。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、6×SSC(20×SSCは、333mM Sodium citrate、333mM NaClを示す)、0.5%SDSおよび50%ホルムアミドを含む溶液中で42℃にてハイブリダイズさせた後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄するような条件、あるいは、中山ら著、バイオ実験イラストレイテッド▲2▼遺伝子解析の基礎、p.148−151、秀潤社、1995年、に記載の条件等を指す。
これら変異DNAは、例えば配列番号:2に記載のDNAとのハイブリダイゼーションなどによりクローニングされるものであるが、具体的なcDNAライブラリーの作製、ハイブリダイゼーション、ポジティブコロニーの選択、塩基配列の決定等の操作はいずれも公知であり、先のMolecular Cloning等を参照して行うことができる。ハイブリダイゼーションに用いるプローブとしては、例えば配列番号:2に記載の塩基配列を有するDNAが挙げられる。
以上1)〜3)に挙げたDNAのうち、「そのDNAが発現して生産されるタンパク質が、細胞内分解により、HLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じる」という特性を有するものが、本発明の腫瘍抗原タンパク質をコードするDNA、すなわち本発明のDNAとなり得る。すなわち、該DNAが発現して生産されるタンパク質の一部のアミノ酸配列からなる部分ペプチドがHLA抗原と結合可能であり、当該ペプチドがHLA抗原と結合して細胞表面に提示された場合、そのペプチドとHLA抗原との複合体に対して特異的なCTLが結合して細胞傷害作用やサイトカインの産生が誘導される、そのようなペプチド断片を生じるものが、本発明のDNAとなり得る。
ここで、候補となるDNAが腫瘍抗原タンパク質をコードするDNAとなり得るか否かは、例えば以下のような方法により測定することができる。
すなわち、繊維芽細胞VA−13(理化学研究所細胞開発銀行)やアフリカミドリザル腎臓由来のCOS−7(ATCC CRL1651)に対し、候補となるDNAを有する発現プラスミドと、HLA抗原をコードするDNAを有する発現プラスミドとをダブルトランスフェクトする。該トランスフェクトは、例えばリポフェクトアミン試薬(GIBCO BRL社製)を用いたリポフェクチン法などにより行うことができる。その後、用いたHLA抗原に拘束性の腫瘍反応性のCTLを加えて作用させ、該CTLが反応して産生する種々のサイトカイン(例えばIFN−γ)の量を、例えばELISA法などで測定することによって、候補DNAが本発明のDNAであるか否かを調べることができる。ここで、SART−3はHLA−A24拘束性およびHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチド部分を有するものであるため、前記HLA抗原をコードするDNAとしては、HLA−A24のcDNA(Cancer Res.,55:4248−4252(1995)、Genbank Accession No.M64740)およびHLA−A2のcDNA(Genbank Accession No.M84379)が挙げられ、前記CTLとしては、ヒトの末梢血リンパ球より調製される場合の他、KE−4CTL(FERM BP−5954)などのHLA−A24拘束性のCTL、およびOK−CTL(FERM BP−6818)などのHLA−A2拘束性のCTLが挙げられる。
以上のような本発明のDNAは、医薬の有効成分とすることができる。即ち、本発明のDNAを有効成分として含有する「医薬」は、例えば、本発明のDNAを腫瘍患者に投与することで、腫瘍を治療または予防することができる。
発現ベクターに組み込まれた本発明のDNAを以下の方法により腫瘍患者に投与すると、抗原提示細胞内で腫瘍抗原タンパク質が高発現する。その後、細胞内分解を受けて生じた腫瘍抗原ペプチドがHLA抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に高密度に提示されることにより、腫瘍特異的CTLが体内で効率的に増殖し、腫瘍細胞を破壊する。以上のようにして、腫瘍の治療または予防が達成される。
本発明のDNAを投与し細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターによる方法およびその他の方法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等)のいずれの方法も適用することができる。
ウイルスベクターによる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ボックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルス又はRNAウイルスに本発明のDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。この中で、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いた方法が特に好ましい。
その他の方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
本発明のDNAを実際に医薬として作用させるには、DNAを直接体内に導入するin vivo法、およびヒトからある種の細胞を採集し体外でDNAを該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等)。in vivo法がより好ましい。
in vivo法により投与する場合は、治療目的の疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に投与することができる。in vivo法により投与する場合は、例えば、液剤等の製剤形態をとりうるが、一般的には有効成分である本発明のDNAを含有する注射剤等とされ、必要に応じて、慣用の担体を加えてもよい。また、本発明のDNAを含有するリポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)においては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
製剤中の本発明のDNAの含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常、0.0001mg〜100mg、好ましくは0.001mg〜10mgの本発明のDNAを、数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
本発明においてタンパク質とは、上記した本発明の種々のDNAによりコードされるタンパク質であり、その細胞内分解により、HLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるという、腫瘍抗原タンパク質としての特性を有するものを指す。具体例としては、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するSART−3が挙げられる。これら本発明のタンパク質は、前記本発明のDNAを用いることにより、大量に製造することが可能である。
本発明のDNAを発現して腫瘍抗原タンパク質を生産するには、例えば、前述のMolecular Cloning等の多くの成書や文献に基づいて実施することができる。すなわち、本発明のDNAを適当な発現ベクター(例えばpSV−SPORT1、pCR3など)に組み込むことにより、宿主細胞内で複製し、機能する発現プラスミドを作製する。次に発現プラスミドを適当な宿主細胞に導入して形質転換体を得る。宿主細胞としては、大腸菌などの原核生物、酵母のような単細胞真核生物、昆虫、また動物などの多細胞真核生物の細胞などが挙げられる。また、宿主細胞への遺伝子導入法としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、電気パルス法、リポフェクチン法などの常法が挙げられる。形質転換体は、適当な培地で培養することによって目的とするタンパク質を生産する。以上のようにして得られた腫瘍抗原タンパク質は、一般的な生化学的方法によって単離精製することができる。
以上のようにして作製された本発明の腫瘍抗原タンパク質が活性を有しているか否かは、前記したように、本発明のDNAを細胞内で発現させて本発明のタンパク質を産生させ、該タンパク質の細胞内分解により生じたペプチド断片が腫瘍抗原ペプチドとしての活性を有するか否かを測定することにより、確認することができる。また、得られた腫瘍抗原タンパク質そのものを用いて活性測定を行う場合には、例えばマクロファージなどの食細胞に本発明の腫瘍抗原タンパク質を取り込ませて細胞内でペプチド断片を生じさせ、その後、該ペプチド断片とHLA抗原との複合体に対してCTLを加えて作用させ、該CTLが反応して産生する種々のサイトカイン(例えばIFN−γ)の量を測定することなどによって、調べることができる。
以上のような本発明のタンパク質もまた、医薬の有効成分とすることができる。即ち、本発明のタンパク質を有効成分として含有する「医薬」は、例えば、本発明のタンパク質を腫瘍患者に投与することで、腫瘍を治療または予防することができる。当該タンパク質を腫瘍患者に投与すると、抗原提示細胞内に取り込まれ、その後、細胞内分解を受けて生じた腫瘍抗原ペプチドがHLA抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に提示され、この複合体に特異的なCTLが体内で効率的に増殖し、腫瘍細胞を破壊する。以上のようにして、腫瘍の治療又は予防が達成される。
本発明の腫瘍抗原タンパク質を有効成分として含有する医薬は、細胞性免疫が効果的に成立するようにアジュバントとともに投与したり、粒子状の剤型にして投与することができる。アジュバントとしては、文献(Clin.Microbiol.Rev.,7:277−289,1994)に記載のものなどが応用可能である。また、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤なども考えられる。投与方法としては、皮内投与、皮下投与、静脈注射などが考えられる。製剤中の本発明の腫瘍抗原タンパク質の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜100mg、より好ましくは0.01mg〜10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
本発明において腫瘍抗原ペプチドとは、本発明の腫瘍抗原タンパク質の一部よりなる部分ペプチドであって、かつHLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドである。すなわち、前記した本発明の腫瘍抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部よりなるペプチドであって、かつ、該ペプチドとHLA抗原との結合複合体がCTLにより認識され得るようなペプチドであれば、本発明のタンパク質のアミノ酸配列中の如何なる位置に存する如何なる長さのペプチドであっても、全て、本発明の腫瘍抗原ペプチドの範疇に含まれる。このような本発明の腫瘍抗原ペプチドは、本発明の腫瘍抗原タンパク質の一部よりなる候補ペプチドを合成し、該候補ペプチドとHLA抗原との複合体がCTLにより認識されるか否か、すなわち候補ペプチドが腫瘍抗原ペプチドとしての活性を有するか否かをアッセイすることにより、同定することができる。
ここで、ペプチドの合成については、通常のペプチド化学において用いられる方法に準じて行うことができる。該公知方法としては文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。
次に、本発明の腫瘍抗原ペプチドの同定方法につき、以下に記述する。
HLA−A1,−A0201,−A0204,−A0205,−A0206,−A0207,−A11,−A24,−A31,−A6801,−B7,−B8,−B2705,−B37,−Cw0401,−Cw0602などのHLAの型については、該HLAに結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)が判明している(例えばImmunogenetics,41:p178,1995などを参照のこと)。例えばHLA−A24のモチーフとしては、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994、Immunogenetics,41:p178,1995、J.Immunol.,155:p4307,1994)。またHLA−A2のモチーフについては、以下の表1に示したモチーフが知られている(Immunogenetics,41,p178,1995、J.Immunol.,155:p4749,1995)。
さらに近年、HLA抗原に結合可能と予想されるペプチド配列を、インターネット上、NIHのBIMASのソフトを使用することにより検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/)。
ペプチドの長さとしては、各種HLA分子に結合している抗原ペプチドの解析により(Immunogenetics,41:178,1995)、通常8から14アミノ酸程度であることが明らかにされている(ただしHLA‐DR、‐DP、‐DQについては、14アミノ酸以上の長さの抗原ペプチドも認められる)。
これらのモチーフに関わるペプチド部分を本発明の腫瘍抗原タンパク質のアミノ酸配列中から選び出すのは容易である。例えば、腫瘍抗原タンパク質SART−3のアミノ酸配列(配列番号:1)を見れば、上記モチーフ構造に関わるペプチド部分を容易に選び出すことができる。また前記インターネット上での検索により、HLA抗原に結合可能と予想される配列を容易に選び出すことができる。選び出された候補ペプチドを前述の方法にて合成し、該候補ペプチドとHLA抗原との複合体がCTLにより認識されるか否か、すなわち候補ペプチドが腫瘍抗原ペプチドとしての活性を有するか否かを測定することにより、本発明の腫瘍抗原ペプチドを同定することができる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドの具体的な同定法としては、例えばJ.Immunol.,154,p2257,1995に記載の方法が挙げられる。すなわち、候補ペプチドを提示すると考えられるタイプのHLA抗原が陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、in vitroで該候補ペプチドを添加して刺激した場合に、該候補ペプチドをパルスしたHLA抗原陽性細胞を特異的に認識するCTLが誘導された場合は、該候補ペプチドが腫瘍抗原ペプチドに成り得ることが示される。ここでCTLの誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN−γ)の量を、例えばELISA法などによって測定することにより、調べることができる。また51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(51Crリリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994)によっても調べることができる。
さらに、候補ペプチドを提示すると考えられるタイプのHLA抗原のcDNAを発現する発現プラスミドを、例えばCOS−7細胞(ATCC No.CRL1651)やVA−13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入した細胞に対して候補ペプチドをパルスし、この細胞に対して、前記候補ペプチドを提示すると考えられるタイプのHLA抗原に拘束性のCTLを反応させ、該CTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN−γ)の量を測定することによっても、調べることができる(J.Exp.Med.,187:277,1998)。
ここで、SART−3はHLA−A24やHLA−A2に拘束性の腫瘍抗原ペプチド部分を有するものである。HLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチドを選択する場合には、前記HLA抗原をコードするcDNAとしてはHLA−A24のcDNA(Cancer Res.,55:4248−4252(1995)、Genbank Accession No.M64740)を用い、前記CTLとしては、ヒトの末梢血リンパ球のペプチド刺激により調製される場合の他、KE−4CTL(FERM BP−5954)などのCTLを用いることにより、前記の腫瘍抗原ペプチドの同定を行うことができる。また、HLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドを選択する場合には、HLA−A2のcDNA(Genbank Accession No.M84379)を用い、前記CTLとしては、ヒトの末梢血リンパ球のペプチド刺激により調製される場合の他、OK−CTL(FERMBP−6818)などのCTLを用いることにより、当該腫瘍抗原ペプチドを同定することができる。
以上のような種々の活性測定の具体例は、後述の実施例4、実施例6および実施例8に記載されている。
以上のような腫瘍抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)が判明している場合と異なり、例えばHLA−A26のようにそのペプチドのモチーフが明らかでない場合は、該HLA−A26と腫瘍抗原ペプチドとの複合体を認識するCTL株が存在する場合には、例えばWO97/46676に記載の方法に準じて本発明の腫瘍抗原ペプチドを同定することができる。
なお、以上述べたような腫瘍抗原ペプチドの同定法を、以下、“腫瘍抗原ペプチドのアッセイ法”と総称することもある。
前記したように、HLA−A24に結合して提示される腫瘍抗原ペプチドの配列には規則性(モチーフ)があり、具体的には、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994、Immunogenetics,41:p178,1995、J.Immunol.,155:p4307,1994)。また、HLA−A2に結合して提示される腫瘍抗原ペプチドの配列にも同様の規則性(モチーフ)があり、具体的には前記表1に示したモチーフが知られている(Immunogenetics,41,p178,1995、J.Immunol.,155:p4749,1995)。さらに前記したように、インターネット上、NIHのBIMASのソフトを用いることにより、HLA抗原に結合可能と予想される配列を検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla bind/)。
従って本発明の腫瘍抗原ペプチドのうち、HLA−A24およびHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドとしては、配列番号:1に記載のSART−3のアミノ酸配列上、このようなモチーフ構造や結合可能と予想される構造に関わる部分ペプチドであって、かつ各HLA抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが例示される。
前記HLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチドとしては、具体的には、例えば配列番号:3〜配列番号:24のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチドであって、かつHLA−A24抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが例示される。また、HLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドとしては、具体的には、例えば配列番号:25〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチドであって、かつHLA−A2抗原と結合してCTLしにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが例示される。
すなわち、
1)配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列よりなるペプチド、
2)配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の全長または連続した一部分を含み、該アミノ酸配列よりN末端方向及び/又はC末端方向に長いペプチド、または配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の連続した一部分よりなるペプチド、
であって、かつ各HLA抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが挙げられる。ここで、前記2)のペプチドの長さとしては、各HLA抗原に結合して提示されるという観点から、8〜11アミノ酸程度のものが挙げられる。
本発明のHLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチドの好適なものとしては、配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつHLA−A24抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが挙げられる。すなわち、
1)配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列よりなるペプチド、
2)配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列の全長または連続した一部分を含み、該アミノ酸配列よりN末端方向及び/又はC末端方向に長いペプチド、または配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列の連続した一部分よりなるペプチド、であって、かつHLA−A24抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチド、
が挙げられる。ここで、前記2)のペプチドの長さとしては、HLA−A24抗原に結合して提示されるという観点から、8〜11アミノ酸程度のものが挙げられる。
本発明のHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドの好適なものとしては、配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつHLA−A2抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチドが挙げられる。すなわち、
1)配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列よりなるペプチド、
2)配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の全長または連続した一部分を含み、該アミノ酸配列よりN末端方向及び/又はC末端方向に長いペプチド、または配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の連続した一部分よりなるペプチド、であって、かつHLA−A2抗原と結合してCTLにより認識され得るような腫瘍抗原ペプチド、
が挙げられる。ここで、前記2)のペプチドの長さとしては、HLA−A2抗原に結合して提示されるという観点から、8〜11アミノ酸程度のものが挙げられる。
本発明において「腫瘍抗原ペプチドと機能的に同等の特性を有する誘導体」(以下、腫瘍抗原ペプチド誘導体と略す場合がある)とは、本発明の腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列に対し、1又はそれ以上、好ましくは1〜数個のアミノ酸残基の改変を施した改変体であって、かつHLA抗原と結合してCTLにより認識され得るという腫瘍抗原ペプチドとしての特性を有するものを指す。すなわち、本発明の腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列に対して1又はそれ以上のアミノ酸残基の改変を施した改変体であって、かつHLA抗原と結合してCTLにより認識され得るという腫瘍抗原ペプチドとしての活性を有するものは、全て、本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体の範疇に含まれる。
ここで、アミノ酸残基の「改変」とは、アミノ酸残基の置換、欠失、及び/又は付加(ペプチドのN末端、C末端へのアミノ酸の付加も含む)を意味し、好ましくはアミノ酸残基の置換が挙げられる。アミノ酸残基の置換に係る改変の場合、置換されるアミノ酸残基の数および位置は、腫瘍抗原ペプチドとしての活性が維持される限り、任意であるが、前記したように通常、腫瘍抗原ペプチドの長さが8〜14アミノ酸程度であることから、1個から数個の範囲が好ましい。
本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体の長さとしては、前記腫瘍抗原ペプチドと同様に8〜14アミノ酸程度が好ましい(ただしHLA−DR、−DP、−DQについては、14アミノ酸以上の長さの場合もある。)
以上のような本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体は、本発明の腫瘍抗原ペプチドの一部を改変した改変体を前記ペプチド合成法に基づき合成し、これを前記腫瘍抗原ペプチドのアッセイ法に供することにより、同定することができる。
先に記載したように、HLA−A1,−A0201,−A0204,−A0205,−A0206,−A0207,−A11,−A24,−A31,−A6801,−B7,−B8,−B2705,−B37,−Cw0401,−Cw0602などのHLAの型については、該HLAに結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)が判明している。また前記したように、HLA抗原に結合可能と予想されるペプチド配列をインターネット上検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/)。従って、該モチーフ等に基づき、本発明の腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸を改変した腫瘍抗原ペプチド誘導体を作製することが可能である。
例えばHLA−A24に結合して提示される抗原ペプチドのモチーフとしては、前記したように、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンであることが知られている(J.Immunol.,152:p3913,1994、Immunogenetics,41:p178,1995、J.Immunol.,155:p4307,1994)。またHLA−A2の場合は、前記の表1に記載のモチーフが知られている。またインターネット上でHLA抗原に結合可能と予想されるペプチド配列が示されており(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/)、例えば前記モチーフ上とり得るアミノ酸に類似の性質を持つアミノ酸が許容され得る。従って、本発明の腫瘍抗原ペプチド誘導体の例として、本発明の腫瘍抗原ペプチドに対して、これらモチーフ上アミノ酸の置換が可能な位置(HLA−A24、HLA−A2においては第2位とC末端)にあるアミノ酸を他のアミノ酸(好ましくは前記インターネット上で結合可能と予想されているアミノ酸)に置換したアミノ酸配列の全部又は一部を含むものであって、かつHLA抗原と結合してCTLにより認識され得るという活性を持つペプチド誘導体が挙げられる。より好ましくは、該位置において、前記モチーフ上知られたアミノ酸残基の中から置換するアミノ酸残基を選択したアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチドであって、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。なお「全部又は一部」の長さとしては、8〜14アミノ酸程度の長さが好ましい(ただしHLA−DR,−DP,−DQについては、14アミノ酸以上の長さの場合もある)。
ここで、HLA−A24またはHLA−A2に拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体としては、例えばSART−3のアミノ酸配列上HLA−A24またはHLA−A2の結合モチーフを有するペプチドに対して、前記モチーフ上アミノ酸の置換が可能な位置、すなわち第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基(好ましくは前記インターネット上で結合可能と予想されているアミノ酸残基)に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられ、好ましくは、第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を前記モチーフ上知られたアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。該HLA−A24またはHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体において「全部又は一部」の長さとしては、8〜11アミノ酸程度が好ましい。
具体的には、例えば配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基(好ましくは前記インターネット上で結合可能と予想されているアミノ酸残基)に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が例示される。好ましくは、配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を前記モチーフ上知られたアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。すなわちHLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体に関しては、配列番号:3〜配列番号:24のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位をチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンに置換し、および/またはC末端をフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンに置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が例示される。またHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体に関しては、配列番号:25〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位のアミノ酸残基をロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンに置換し、および/またはC末端のアミノ酸残基をバリンまたはロイシンに置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が例示される。
本発明のHLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体の好適なものとしては、配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。より好ましくは、配列番号:3〜配列番号:9のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位をチロシン、フェニルアラニン、メチオニンあるいはトリプトファンに置換し、および/またはC末端をフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンあるいはメチオニンに置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。このような腫瘍抗原ペプチド誘導体の例を、配列番号:53〜配列番号:59に示す。
本発明のHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチド誘導体の好適なものとしては、配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位および/またはC末端のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。より好ましくは、配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位をロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンに置換し、および/またはC末端のアミノ酸残基をバリンまたはロイシンに置換したアミノ酸配列の全部または一部を含み、かつ前記活性を有する腫瘍抗原ペプチド誘導体が挙げられる。このような腫瘍抗原ペプチド誘導体の例を、配列番号:60〜配列番号:64に示す。
本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体は、少なくとも1種または2種以上組み合わせることにより、腫瘍の治療剤または予防剤として使用することができる。すなわち本発明は、腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体を有効成分として含有する腫瘍の治療剤または予防剤をも提供するものである。本発明の腫瘍の治療剤または予防剤をSART−3陽性の患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA抗原に腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体が提示され、提示されたHLA抗原複合体特異的CTLが増殖して腫瘍細胞を破壊することができ、従って、患者の腫瘍を治療し、又は腫瘍の増殖・転移を予防することができる。SART−3は、食道癌等の扁平上皮癌等に広範に発現しているので、本発明の腫瘍の治療剤または予防剤は、適用範囲の広いことが有利である。さらに、前記扁平上皮癌は、化学療法や放射線療法に抵抗性を示すことが多いが、本発明の腫瘍の治療剤を併用することにより、治療効果を上げることが可能となる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体を有効成分とする腫瘍の治療剤または予防剤は、細胞性免疫が効果的に成立するようにアジュバントとともに投与したり、粒子状の剤型にして投与することができる。アジュバントとしては、文献(Clin.Microbiol.Rev.,7:277−289,1994)に記載のものなどが応用可能である。また、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤なども考えられる。投与方法としては、皮内投与、皮下投与、静脈注射などが考えられる。製剤中の本発明の腫瘍抗原ペプチドあるいはその誘導体の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜100mg、より好ましくは0.01mg〜10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
さらに、本発明の腫瘍の治療剤または予防剤として、以下に述べるように、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体をコードするDNAの少なくとも1種を含有する組換えDNAや、該組換えDNAを発現させて得られうる組換えポリペプチドも、本発明の腫瘍の治療剤または予防剤の有効成分とすることができる。
ここで「組換えDNA]とは、例えば、本発明の腫瘍抗原タンパク質の一部よりなる部分ポリペプチド、部分ペプチド、これらの誘導体、またはこれらの連結したポリトープ等をコードするDNAを指し、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体をコードするDNAを少なくとも一つ含んでさえいれば、本発明の組換えDNAの範疇に含まれる。当該組換えDNAは適当な発現ベクターに組み込むことにより、腫瘍の治療剤または予防剤の有効成分とすることができる。
ここで「ポリトープ」とは、複数のCTLエピトープを連結させたものであり、当該ポリトープをコードするDNAは近年、DNAワクチンに利用されている(例えばJ.of Immunology,160,p1717,1998などを参照のこと)。本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体をコードするDNAの少なくとも1種または2種以上を連結させることにより、さらには所望により他の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAをも連結させることにより、本発明のポリトープをコードするDNAを作製することができる。
本発明の組換えDNAは、DNA合成および通常の遺伝子工学的手法に基づき、例えばMolecular Cloning 2nd Edt.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従い容易に作製することができる。また、この組換えDNAの発現ベクターへの組み込みも、前記基本書等に従い行うことができる。
作製された本発明の組換えDNAが、HLA抗原と結合してCTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドを生じるか否かは、例えば、前記本発明のDNAの活性測定法に準じて行うことができる。また、本発明の組換えDNAを腫瘍の治療剤または予防剤として使用する方法も、前記本発明のDNAに準じて行うことができる。
前記したように、本発明の組換えDNAを発現して得られうる「組換えポリペプチド」も、腫瘍の治療剤または予防剤の有効成分とすることができる。
本発明の組換えポリペプチドは、前記した本発明のタンパク質と同様の手法により調製することができる。また、作製された組換えポリペプチドが活性を有するか否かも、前記本発明のタンパク質と同様の手法により測定することができる。さらに、当該組換えポリペプチドを腫瘍の治療剤または予防剤として使用する方法も、前記本発明のタンパク質および本発明のペプチドに準じて行うことができる。
本発明は、本発明のタンパク質、または本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体に特異的に結合する抗体をも提供するものである。該抗体は、例えば、Antibodies;A Laboratory Manual,Lane,H,D.ら編,Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York1989などに記載の方法により容易に作製される。すなわち、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体等を用いて常法により適宜動物を免疫することにより、腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体等を認識する抗体、さらにはその活性を中和する抗体が容易に作製できる。抗体の用途としては、アフィニティークロマトグラフィー、免疫学的診断等が挙げられる。免疫学的診断は、イムノブロット法、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光あるいは発光測定法等より適宜選択できる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、本発明の腫瘍抗原タンパク質またはそのDNA、あるいは本発明の組換えDNAまたは組換えポリペプチドは、腫瘍患者の治療において、以下のようにイン・ビトロで利用することが可能である。
すなわち、腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、あるいは腫瘍抗原タンパク質またはそのDNAなどを腫瘍の治療に用いる場合、患者の体内で効率良く特異的なCTLを誘導することの可能な投与法が重要になる。そのための手段のひとつとして、本発明は、腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA抗原と本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を提示させた抗原提示細胞、および該抗原提示細胞を有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤を提供するものである。
ここで「抗原提示能を有する細胞」とは、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体を提示することの可能なHLA抗原を細胞表面に発現する細胞であれば特に限定されないが、特に抗原提示能が高いとされる樹状細胞が好ましい。
また、前記抗原提示能を有する細胞から本発明の抗原提示細胞を調製するために添加される物質としては、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体のみならず、本発明のDNA、タンパク質、組換えDNAまたは組換えポリペプチドであっても良い。その際、タンパクまたはDNAの形態で使用する場合には細胞内に取り込まれる必要がある。
本発明の抗原提示細胞は、腫瘍患者から抗原提示能を有する細胞を単離し、該細胞に本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、あるいは腫瘍抗原タンパク質または組換えポリペプチドを体外でパルスして、HLA抗原と前記腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を提示させることにより得られる(Cancer Immunol.Immunother.,46:82,1998、J.Immunol.,158,p1796,1997、Cancer Res.,59,p1184,1999)。樹状細胞を用いる場合は、例えば、腫瘍患者の末梢血からフィコール法によりリンパ球を分離し、その後非付着細胞を除き、付着細胞をGM−CSFおよびIL−4存在下で培養して樹状細胞を誘導し、当該樹状細胞を本発明の腫瘍抗原ペプチドまたは腫瘍抗原タンパク質等と共に培養してパルスすることなどにより、本発明の抗原提示細胞を調製することができる。
また、前記抗原提示能を有する細胞に本発明のDNAまたは組換えDNAを導入することにより本発明の抗原提示細胞を調製する場合は、当該遺伝子は、DNAの形態であっても、RNAの形態であっても良い。具体的には、DNAの場合はCancer Res.,56:p5672,1996やJ.Immunol.,161:p5607,1998などを参考にして行うことができ、またRNAの場合はJ.Exp.Med.,184:p465,1996などを参考にして行うことができる。
前記抗原提示細胞を有効成分として含有する腫瘍の治療剤は、抗原提示細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与が挙げられる。このような抗原提示細胞を有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤を患者の体内に戻すことにより、SART−3陽性の患者の体内で効率良く特異的なCTLが誘導され、腫瘍を治療することができる。なお、HLA−A24に陽性の腫瘍患者に対してはHLA−A24拘束性の腫瘍抗原ペプチドあるいはその誘導体を使用するといった、患者と使用するペプチドとでHLAの型を合わせる必要のあることは言うまでもない。
さらに、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、本発明の腫瘍抗原タンパク質またはそのDNA、あるいは本発明の組換えDNAまたは組換えポリペプチドのイン・ビトロでの利用法として、以下の養子免疫療法における利用が挙げられる。
すなわちメラノーマにおいては、患者本人の腫瘍内浸潤T細胞を体外で大量に培養して、これを患者に戻す養子免疫療法に治療効果が認められている(J.Natl.Cancer.Inst.,86:1159、1994)。またマウスのメラノーマにおいては、脾細胞をイン・ビトロで腫瘍抗原ペプチドTRP−2で刺激し、腫瘍抗原ペプチドに特異的なCTLを増殖させ、該CTLをメラノーマ移植マウスに投与することにより、転移抑制が認められている(J.Exp.Med.,185:453,1997)。これは、抗原提示細胞のHLA抗原と腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識するCTLをイン・ビトロで増殖させた結果に基づくものである。従って、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体、あるいは腫瘍抗原タンパク質またはそのDNA等を用いて、イン・ビトロで患者末梢血リンパ球を刺激して腫瘍特異的CTLを増やした後、このCTLを患者に戻す治療法は有用であると考えられる。
すなわち本発明は、前記HLA抗原と本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識するCTL、および、該CTLを有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤をも提供するものである。該治療剤は、CTLを安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与が挙げられる。このようなCTLを有効成分として含有してなる腫瘍の治療剤を患者の体内に戻すことにより、SART−3陽性の患者の体内でCTLによる腫瘍細胞の傷害作用が促進され、腫瘍細胞を破壊することにより、腫瘍を治療することができる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドおよびその誘導体、本発明のタンパク質、または本発明の組換えポリペプチドは、腫瘍を診断するための診断薬の成分とすることができる。すなわち、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体そのものなどを診断薬として用い、腫瘍が疑われる患者から得た試料(例えば血液、腫瘍組織など)中の抗体の存在を検出することにより、腫瘍の早期発見、再発、転移を診断することが可能である。また本発明の腫瘍抗原ペプチド等を有効成分とする医薬の適応可能な腫瘍患者の選択にも利用できる。具体的には、イムノブロット法、RIA、ELISA、蛍光または発光測定法などを用いることにより、当該診断を行うことができる。
さらに近年、抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を用いて抗原特異的CTLを検出する新しい検出方法が確立された(Science,274:p94,1996)。本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体とHLA抗原との複合体を前記検出方法に供し、腫瘍抗原特異的CTLを検出することにより、腫瘍の早期発見、再発、転移を診断することができる。また本発明の腫瘍抗原ペプチド等を有効成分とする医薬の適応可能な腫瘍患者の選択や、当該医薬による治療効果の判定などにも利用できる。すなわち本発明においては、本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体等を含有する、腫瘍の診断薬をも提供するものである。
具体的には、文献(Science,274:p94,1996)に記載の方法に従って蛍光標識したHLA抗原と腫瘍抗原ペプチドとの複合体の4量体を作製し、これを用いて腫瘍が疑われる患者の末梢血リンパ球中の抗原ペプチド特異的CTLをフローサイトメーターにより定量することにより、前記診断を行うことができる。
本発明はまた、結腸癌由来の腫瘍内浸潤リンパ球から樹立されたCTLである、OK−CTL(受託番号 FERM BP−6818)をも提供するものである。当該OK−CTLは、HLA−A2拘束性のCTL株であることが明らかとなっている。従って、OK−CTLを利用することにより、新たな腫瘍抗原タンパク質およびHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドを見出すことができる。具体的には、後述の実施例8を参照されたい。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
参考例1
食道癌細胞株に対する細胞傷害性T細胞(CTL)株の樹立
中尾ら著,Cancer Res.,55:4248−4252(1995)の記載に従い、組織型が扁平上皮癌に分類される食道癌細胞株KE−4に対するCTLを患者の末梢血単核球細胞から樹立し、KE−4CTLと命名して以下の実験に使用した。食道癌細胞株KE−4およびKE−4CTLは、茨城県つくば市東1丁目1番3号、工業技術院生命工学工業技術研究所に、それぞれ受託番号FERM BP−5955およびFERM BP−5954で寄託されている(寄託日:いずれも平成9年5月23日)。また、前述の中尾らの報告に従い、KE−4のHLAクラスI分子のタイピングを行い、HLA−A2402、−A2601、−B54、−B60、−Cw1、−Cw3であることを確認した。
参考例2
HLA−A2402 cDNAの調製
KE−4から、中尾ら著,Cancer Res.,55:4248−4252(1995)の記載に従い、HLA−A2402のcDNA(Genbank Accession No.M64740)を発現ベクターpCR3(INVITROGEN社製)に組み込んだ組換えプラスミドを作製した。
参考例3
KE−4由来cDNAライブラリーの作製
KE−4からmRNA精製システム(ファルマシアバイオテク社製)を用い添付のプロトコールに従い、全RNA画分の分離およびoligo(dT)カラムによるpoly(A)+mRNAの調製を行った。mRNAよりスーパースクリプトプラスミドシステム(GIBCO BRL社製)を用い添付のプロトコールに従い、両端にNotIアダプターとSalIアダプターを連結したcDNAを作製した後、このcDNAを発現ベクターのプラスミドpSV−SPORT1(GIBCO BRL 社製)の制限酵素NotIおよびSalIの切断部位にライゲーションにより連結して組換えプラスミドを得た。この組換えプラスミドをジーンパルサー(Bio−Rad社製)を用いて25μF,2.5kVの条件で、電気パルスにより大腸菌のエレクトロマックスDH10BTMセル(GIBCO BRL社製)に導入し、アンピシリン(50μg/ml)を含むLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%イーストエキス、0.5%NaCl、pH7.3)で組換プラスミドが導入されている形質転換体を選択した。
実施例1
新規な腫瘍抗原タンパク質遺伝子のスクリーニング
参考例3に示した形質転換体の約100個のプールからの組換えプラスミドDNAの回収は以下のように行った。すなわち、アンピシリン(50μg/ml)を含むLB培地の入った96ウェルU底マイクロプレートに、ウェルあたり100個の形質転換体を加え培養後、その一部をウェル当たり0.25mlのTYGPN培地(F.M.Ausubelら編、CURRENT PROTCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,Inc.)の入った別の96ウェルU底マイクロプレートに移して37℃で48時間培養し、残りのLB培地のマイクロプレートは凍結保存した。TYGPN培地で培養した形質転換体の組換えプラスミドDNAは、マイクロプレートでアルカリ溶解法(F.M.Ausubelら編、CURRENT PROTCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,Inc.)により調製した。イソプロパノール沈澱で回収した組換えプラスミドDNAは、50μlの20ng/ml RNaseを含む10mM Tris,1mM EDTA,pH7.4溶液で懸濁した。
線維芽細胞株のVA−13細胞(理化学研究所細胞開発銀行、Ann.Med.Exp.Biol.Fenn.,44:242−254,1966)へ、リポフェクチン法により以下のようにKE−4cDNAの組換えプラスミドとHLA−A2402cDNAの組換えプラスミドをダブルトランスフェクトした。すなわち、VA−13細胞を96ウェル平底マイクロプレートにウェル当たり7000個を加えて、100μlの10% FCSを含むRPMI1640培養液で2日間培養した。リポフェクチン試薬(GIBCO BRL社製)を用い、形質転換体約100個分のKE−4cDNAの組換えプラスミド25μlと参考例2に示したHLA−A2402cDNAの組換えプラスミド10μl(200ng)と約35倍に希釈したリポフェクチン試薬35μlの混合液70μlのうちの30μlをVA−13細胞に加えてダブルトランスフェクトした。トランスフェクタントは2点ずつ用意した。5時間後、このトランスフェクタントに200μlの10% FCSを含む培養液を加え、更に72時間、37℃で培養した後、培養液を除去し、ウェル当たり10000個のKE−4CTLを加えて100μlの10%FCSと25U/mlのIL−2を含む培養液で37℃で24時間培養した。培養液を回収し、以下のELISA法にてIFN−γ量を測定した。
すなわち、96ウェルマイクロプレートに固層化抗体として抗ヒトIFN−γマウスモノクローナル抗体を吸着させ、ウシ血清アルブミンで非特異的結合をブロックした後、検体中のIFN−γを抗体に結合させた。次に検出抗体として抗ヒトIFN−γウサギポリクローナル抗体を結合させ、さらにアルカリフォスファターゼ標識した抗ウサギイムノグロブリンヤギ抗体を結合した後、発色基質としてパラニトロフェニルフォスフェートを反応させ、1N NaOHを等量加えて反応を停止させた後、吸光度(405nm)を測定した。これをスタンダードのIFN−γで得られた値と比較することにより定量した。
高いIFN−γ産生が認められた群については、該当する凍結保存してあったKE−4cDNAの組み換えプラスミドによる形質転換体約100個のプールを用いてさらに以下のようにスクリーニングを行った。すなわち、形質転換体のプールをアンピシリン(50μg/ml)を含むLB寒天培地のプレートにまいてコロニーを得て、各群200コロニーについてウェル当たりの形質転換体が1種類となる条件で上記と同様の方法で培養し、KE−4cDNAの組換えプラスミドDNAを調製した。さらに上記と同様な方法でVA−13細胞へのKE−4cDNAの組換えプラスミドとHLA−A2402 cDNAの組換えプラスミドのダブルトランスフェクトを行い、引き続いてKE−4CTLとの混合培養を行い、KE−4CTLが反応して産生した培養液中のIFN−γの定量を行って陽性のプラスミドを選択した。この操作によりKE−4cDNA組換えプラスミドクローンが選択され、クローン13と命名した。解析の結果、クローン13には、約1.2kbのcDNAが組み込まれていた。クローン13については、さらにもう一度、同様な操作を繰り返してKE−4CTLによるIFN−γの産生量を上記と同様の方法により定量した。その結果を以下の表2に示す。
KE−4CTLは、VA−13にHLA−A2402のみをトランスフェクトした細胞に対してよりも、VA−13にHLA−A2402とクローン13をダブルトランスフェクトした細胞に対して、より強く反応してIFN−γを産生した。この結果から、クローン13がコードするタンパク質は、腫瘍抗原タンパク質であることが示された。
実施例2
腫瘍抗原タンパク質をコードする全長のcDNAクローンのクローニング
実施例1で得られたクローン13に組込まれたcDNAの遺伝子の全長の長さを調べるために、以下のノーザンハイブリダイゼーションを行った。
まず食道癌細胞株KE−4より、RNAzol B(TEL−TEST,INC,社製)を用いてRNAを調製した。5μgのRNAをホルムアミド、ホルムアルデヒド存在下で変性させ、アガロース電気泳動を行った後、Hybond−N+ナイロンメンブレン(Amersham社製)に転写、固定した。マルチプライムDNAラベリングシステム(Amersham社製)により、クローン13の挿入配列部分を32Pで標識してDNAプローブを作製し、公知の方法(中山ら著、バイオ実験イラストレイテッド▲2▼遺伝子解析の基礎、p.148−151、秀潤社、1995年)に従って、メンブレン上のRNAにハイブリダイズさせた後、オートラジオグラフィーにより、クローン13に組込まれたcDNAに対応するmRNAを検出した。この結果より、mRNAの全長は約3.8kbであることが明らかになったため、先に得られたクローン13を含む全長のcDNAクローンのクローニングを行った。参考例3に示したKE−4由来cDNAライブラリーをアンピシリン(50μg/ml)を含むLB寒天培地のプレートにまいてコロニーを得た後、Hybond−N+ ナイロンメンブレン(Amersham社製)に添付のプロトコールに従って、コロニーのDNAを転写、固定した。クローン13の挿入配列部分を32Pで標識したDNAプローブを用い、上述のノーザンハイブリダイゼーションと同様の条件でハイブリダイゼーションとオートラジオグラフィーを行って、陽性を示す形質転換体のコロニーを選択した。さらに、選択された複数のコロニーより組換えプラスミドを回収し、制限酵素NotI及びSalIで処理した後、アガロース電気泳動により組み込まれたcDNAの長さを確認した。約3.8kbのcDNAが組み込まれた組換えプラスミドを選択し、これをクローンKと命名した。次に、実施例1と同様な方法により、腫瘍抗原タンパク質遺伝子のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドクローンKと、HLA−A2402のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドとをVA−13細胞にダブルトランスフェクトした細胞を標的細胞として、KE−4CTLが反応して産生したIFN−γ量を定量した。その結果を以下の表3に示す。
KE−4CTLは、VA−13にHLA−A2402のみをトランスフェクトした細胞に対してよりも、VA−13にHLA−A2402とクローンKをダブルトランスフェクトした細胞に対して、より強く反応してIFN−γを産生した。この結果から、クローンKがコードするタンパク質は腫瘍抗原タンパク質であることが示された。このクローンKがコードする腫瘍抗原タンパク質を、SART−3(squamous cell carcinoma antigens recognized by Tcells−3)と命名した。
実施例3
腫瘍抗原タンパク質遺伝子の塩基配列の決定
実施例2で得られた腫瘍抗原タンパク質SART−3をコードするDNAついて、DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencingキット(パーキンエルマー社製)を使用して、その塩基配列を決定した。決定されたSART−3の塩基配列を、配列表の配列番号:2に示す。該cDNAの全長は3798塩基対であった。配列番号:2によってコードされるSART−3のアミノ酸配列(963アミノ酸)を、配列番号:1に示す。配列番号:2に記載した塩基配列を、GenBankデータベースを使用して既知の配列と比較した結果、腫瘍抗原タンパク質SART−3の塩基配列は、GenBank Accession No.D63879として登録されている機能不明の遺伝子KIAA0156と、1塩基(KIAA0156の第108位)相違する新規な塩基配列を有していた。
実施例4
候補ペプチドの選択
HLA分子に結合して提示される抗原ペプチドの配列には規則性(モチーフ)があり、HLA−A24の場合、8〜11アミノ酸よりなるペプチドの第2位がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンあるいはトリプトファン、またC末端がフェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシンあるいはメチオニンがモチーフとなることが知られている(Immunogenetics,41:178,1995、J.Immunol.,152:3913,1994、J.Immunol.,155:4307,1994)。このようなモチーフに従い、配列番号:1に記載の腫瘍抗原タンパク質SART−3のアミノ酸配列から、上記モチーフを有する8〜11アミノ酸よりなるペプチド部分を選択した。当該ペプチドの例を配列番号:3〜配列番号:24に示す。これらのペプチドを(株)バイオロジカに依頼し、Fmoc法にて合成を行った。
次にHLA−A2402 cDNAの組換えプラスミドを文献(J.Exp,Med.,187:277,1998)の記載に従い、1.8×104個のVA−13細胞にリポフェクチン法にてトランスフェクションしてHLA−A2402を発現させた。この細胞に対し、先に合成したHLA−A24の結合モチーフを有する各種ペプチドをそれぞれ10μMで2時間添加してパルスした後、2×104個のKE−4CTLとともに18時間培養し、KE−4CTLが産生した培養上清中のIFN−γ量をELISA法にて測定した。7種のペプチド、すなわち腫瘍抗原タンパク質SART−3のアミノ酸配列の第109位から第118位の配列よりなるペプチド「109−118」(配列番号:3)、第172位から第181位の配列よりなるペプチド
「172−181」(配列番号:4)、第284位から第292位の配列よりなるペプチド
「284−292」(配列番号:5)、第315位から第323位の配列よりなるペプチド
「315−323」(配列番号:6)、第416位から第425位の配列よりなるペプチド
「416−425」(配列番号:7)、第426位から第434位の配列よりなるペプチド
「426−434」(配列番号:8)、及び第448位から第456位の配列よりなるペプチド
「448−456」(配列番号:9)を用いて上記の実験を行った結果を表4に示す。
KE−4CTLは、ペプチドをパルスしていない細胞に対してよりも、ペプチドをパルスした細胞に対して強く反応してIFN−γを産生した。この結果から、これら7種のペプチドは腫瘍抗原ペプチドとして機能することが示された。
実施例5
腫瘍抗原ペプチドの合成
前記7種のペプチドについて、以下のように固相法により合成を行った。
(1)SART−3「109−118」Val−Tyr−Asp−Tyr−Asn−Cys−His−Val−Asp−Leu(配列番号:3)の合成
樹脂はFmoc−Leu−Alko Resin(0.55mmol/g、100−200mesh)を用いた。この樹脂100mgを用いて、後記スケジュール1に従って合成を開始し、Fmoc−Asp(OtBu)−OH,Fmoc−Val−OH,Fmoc−His(Boc)−OH,Fmoc−Cys(Trt)−OH,Fmoc−Asn−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Asp(OtBu)−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc,−Val−OHを順次カップリングさせた。カップリングの後スケジュール1の工程3まで行い、その結果、ペプチド樹脂が得られた。
このペプチド樹脂にReagentK(5%フェノール、5%チオアニソール、5%H2O、2.5%エタンジチオール/TFA溶液)2mlを加え、室温で2.5時間反応させた。水冷下反応液にジエチルエーテル10mlを加え10分攪拌し、濾過しジエチルエーテル10mlで洗浄した。濾上物に酢酸水10mlを加えて30分間攪拌後、樹脂を濾別し、酢酸水4mlで洗浄した。濾洗液を凍結乾燥後、得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を180分で25%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Val−Tyr−Asp−Tyr−Asn−Cys−His−Val−Asp−Leu 31.0mgを得た。
得られたVal−Tyr−Asp−Tyr−Asn−Cys−His−Val−Asp−Leuは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、16%から46%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間19.3分を示し、そのアミノ酸分析値(ただし、Cysは検出せず)および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、8時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:2.77 (3)
Val:1.70 (2)
*Leu:1.00 (1)
Tyr:1.98 (2)
His:0.91 (1)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1241
(2)SART−3「172−181」Leu−Phe−Glu−Lys−Ala−Val−Lys−Asp−Tyr−Ile(配列番号:4)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Ile−Alko Resin(0.41mmol/g、100−200mesh)100mgを用いて、Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Asp(OtBu)−OH,Fmoc−Lys(Boc)−OH,Fmoc−Val−OH,Fmoc−Ala−OH,Fmoc−Lys(Boc)−OH,Fmoc−Glu(OtBu)−OH,Fmoc−Phe−OH,Fmoc−Leu−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を300分で30%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Leu−Phe−Glu−Lys−Ala−Val−Lys−Asp−Tyr−Ile66.3mgを得た。
得られたLeu−Phe−Glu−Lys−Ala−Val−Lys−Asp−Tyr−Ileは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、12%から42%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間23.8分を示し、そのアミノ酸分析値および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、12時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:0.94 (1)
Glx:1.03 (1)
Ala:1.00 (1)
Val:0.88 (1)
Ile:0.92 (1)
*Leu:1.00 (1)
Tyr:0.96 (1)
Phe:0.97 (1)
Lys:1.45 (2)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1225
(3)SART−3「284−292」Asn−Tyr−Asn−Lys−Ala−Leu−Gln−Gln−Leu(配列番号:5)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Leu−Alko Resin 100mgを用いて、Fmoc−Gln−OH,Fmoc−Gln−OH,Fmoc−Leu−OH,Fmoc−Ala−OH,Fmoc−Lys(Boc)−OH,Fmoc−Asn−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Asn−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を300分で30%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Asn−Tyr−Asn−Lys−Ala−Leu−Gln−Gln−Leu 25.0mgを得た。
得られたAsn−Tyr−Asn−Lys−Ala−Leu−Gln−Gln−Leuは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、12%から42%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間19.0分を示し、そのアミノ酸分析値および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、12時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:1.87 (2)
Glx:2.03 (2)
Ala:0.98 (1)
*Leu:2.00 (2)
Tyr:0.99 (1)
Lys:0.97 (1)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1091
(4)SART−3「315−323」Ala−Tyr−Ile−Asp−Phe−Glu−Met−Lys−Ile(配列番号:6)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Ile−Alko Resin(0.62mmol/g、100−200mesh)100mgを用いて、Fmoc−Lys(Boc)−OH,Fmoc−Met−OH,Fmoc−Glu(OtBu)−OH,Fmoc−Phe−OH,Fmoc−Asp(OtBu)−OH,Fmoc−Ile−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Ala−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を180分で40%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Ala−Tyr−Ile−Asp−Phe−Glu−Met−Lys−Ile 15.4mgを得た。
得られたAla−Tyr−Ile−Asp−Phe−Glu−Met−Lys−Ileは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、21%から51%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間19.6分を示し、そのアミノ酸分析値(ただし、Metは検出せず)および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、8時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:0.91 (1)
Glx:1.06 (1)
Ala:1.06 (1)
Ile:1.69 (2)
Tyr:0.81 (1)
*Phe:1.00 (1)
Lys:0.87 (1)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1130
(5)SART−3「416−425」Asp−Tyr−Val−Glu−Ile−Trp−Gln−Ala−Tyr−Len(配列番号:7)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Leu−Alko Resin 100mgを用いて、Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Ala−OH,Fmoc−Gln−OH,Fmoc−Trp(Boc)−OH,Fmoc−Ile−OH,Fmoc−Glu(OtBu)−OH,Fmoc−Val−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Asp(OtBu)−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を180分で35%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Asp−Tyr−Val−Glu−Ile−Trp−Gln−Ala−Tyr−Leu 18.9mgを得た。
得られたAsp−Tyr−Val−Glu−Ile−Trp−Gln−Ala−Tyr−Leuは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、25%から55%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間20.5分を示し、そのアミノ酸分析値(ただし、Trpは検出せず)および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、10時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:1.00 (1)
Glx:2.09 (2)
Ala:1.04 (1)
Val:0.89 (1)
Ile:0.86 (1)
*Leu:1.00 (1)
Tyr:1.95 (2)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1300
(6)SART−3「426−434」Asp−Tyr−Leu−Arg−Arg−Arg−Val−Asp−Phe(配列番号:8)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Phe−Alko Resin(0.72mmol/g、100−200mesh)100mgを用いて、Fmoc−Asp(OtBu)−OH,Fmoc−Val−OH,Fmoc−Arg(Pmc)−OH,Fmoc−Arg(Pmc)−OH,Fmoc−Arg(Pmc)−OH,Fmoc−Leu−OH,Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Asp(OtBu)−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を240分で25%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Asp−Tyr−Leu−Arg−Arg−Arg−Val−Asp−Phe 34.0mgを得た。
得られたAsp−Tyr−Leu−Arg−Arg−Arg−Val−Asp−Pheは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、12%から42%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間20.1分を示し、そのアミノ酸分析値および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、12時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Asx:1.90 (2)
Val:0.95 (1)
*Leu:1.00 (1)
Tyr:1.00 (1)
Phe:0.99 (1)
Arg:2.93 (3)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1239
(7)SART−3「448−456」Ala−Phe−Thr−Arg−Ala−Leu−Glu−Tyr−Leu(配列番号:9)の合成
前記(1)と同様にして、Fmoc−Leu−Alko Resin 100mgを用いて、Fmoc−Tyr(tBu)−OH,Fmoc−Glu(OtBu)−OH,Fmoc−Leu−OH,Fmoc−Ala−OH,Fmoc−Arg(Pmc)−OH,Fmoc−Thr(tBu)−OH,Fmoc−Phe−OH,Fmoc−Ala−OHを順次カップリングさせ、その後脱保護を行った。得られた粗ペプチドを酢酸水に溶解し、予め0.1%TFA水で平衡化させた逆相系充填剤YMC−PACK ODS−Aカラム(30φ×250mm)に注入し、カラムを0.1%TFA水で洗浄後、アセトニトリル濃度を240分で30%まで増加させ、流速7ml/min.で溶出した。溶出液をA220nmでモニターし、目的物を含む画分を集め、凍結乾燥し、Ala−Phe−Thr−Arg−Ala−Leu−Glu−Tyr−Leu 22.8mgを得た。
得られたAla−Phe−Thr−Arg−Ala−Leu−Glu−Tyr−Leuは、逆相系充填剤YMC−PACK ODS−AMカラム(4.6φ×250mm)を用いた、20%から50%までの0.1%TFAを含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法による分析において保持時間18.1分を示し、そのアミノ酸分析値および質量分析値は理論値と一致した。
アミノ酸分析
加水分解:1%フェノール/6N塩酸水溶液、110℃、12時間
分析法:ニンヒドリン法
*基準アミノ酸 ()内理論値
Thr:0.91 (1)
Glx:1.03 (1)
Ala:1.91 (2)
*Leu:2.00 (2)
Tyr:1.00 (1)
Phe:0.97 (1)
Arg:0.97 (1)
質量分析(FAB)
[M+H]+:1083
実施例6
腫瘍抗原ペプチド及びその誘導体による末梢血リンパ球からのCTL誘導
実施例5で合成した「109−118」(配列番号:3)及び「315−323」(配列番号:6)のペプチドを用いて、末梢血リンパ球から抗原特異的なCTLが誘導できるか検討した。
HLA−AローカスがA24のヘテロである健常人2名(それぞれHD1、HD2と表記する)の末梢血からフィコール法によりリンパ球を分離した。24穴プレートに2×106細胞/穴となるようにリンパ球を加え、リンパ球培養液で培養した。培養液に前記腫瘍抗原ペプチドを10μMになるように加え、末梢血リンパ球を刺激した。1週間後、X線照射(50Gy)した約2×105個の末梢血リンパ球とともに前記腫瘍抗原ペプチドを10μMになるように加えて、2回目の刺激を行った。さらに1週間後、3回目の刺激を同様に繰り返した。3回目の刺激から1週間後、培養したリンパ球を回収した。SART−3を発現しておりHLA−A2402陽性のT細胞白血病細胞株であるMT−2、及びSART−3を発現しているがHLA−A2402陰性のT細胞白血病細胞株であるRPMI8402をそれぞれ標的細胞(1×104個)として、前記のリンパ球(8×104個)が反応して産生する培養上清中のIFN−γ量を、実施例1と同様のELISA法にて測定した。結果を表6に示す。
「109−118」及び「315−323」のペプチドで刺激した末梢血リンパ球は、HLA−A24陽性のMT−2に反応したが、HLA−A24陰性のRPMI8402には反応しなかったことから、HLA−A24拘束性の抗原ペプチド特異的なCTLが誘導されていることが示された。
なお本実験で用いたMT−2の代わりに、HLA−A24のcDNA発現プラスミドをCOS−7細胞(ATCC No.CRL1651)やVA−13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入してペプチドをパルスした細胞を用いることによっても、同様の実験を行うことが可能である(J.Exp.Med.,187:277,1998)。
実施例7
大腸癌由来の腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)からの細胞傷害性T細胞(CTL)株の樹立
S状結腸癌患者手術検体(HLA−A0207陽性)のTILを24穴プレートを用い、45%RPMI、45%AIM−V(GIBCO BRL社製)、10%FCSに、100U/mlインターロイキン−2、0.1mM NEAA(GIBCO BRL社製)を添加した培養液(以下、リンパ球培養液と呼ぶ)で培養した。培養開始から2日間は、培養液中に抗CD3抗体のNU−T3(ニチレイ社製)を1μg/ml添加した。30日以上培養を続け、HLA−A2拘束性のCTL株を樹立し、これをOK−CTLと命名した。OK−CTLは、茨城県つくば市東一丁目1番3号、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている(微生物の表示:OK−CTL;受領日:平成11年8月3日;受託番号:FERM BP−6818)。
次に、SW620細胞(ATCC株番号CCL−227)から中尾ら著,Cancer.Res,,55:4248,1995の記載に従い、HLA−A0201のcDNA(Genbank Accession No.M84379)を発現ベクターpCR3(INVITROGEN社製)に組込んだ組換えプラスミドを作製した。実施例1と同様のリポフェクチン法により、アフリカミドリザルの腎臓由来の細胞株COS−7(ATCC番号CRL1651)(1×104個)へSART−3遺伝子のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドクローンKとHLA−A0201のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドをダブルトランスフェクトした細胞を標的細胞として、5×104個のOK−CTLが反応して産生したIFN−γ量をELISA法にて定量した。また、対照群として、トランスフェクトしない無処理群、組換えプラスミドクローンKとHLA−A2402のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドをダブルトランスフェクトした群を設定した。その結果を以下の表7に示す。
SART−3遺伝子のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドクローンKとHLA−A0201のcDNAが組み込まれた組換えプラスミドをダブルトランスフェクトした場合、OK−CTLは他の群に比べ強く反応して、IFN−γを産生した。このことから、HLA−A0201に腫瘍抗原タンパク質SART−3の抗原ペプチドが提示され、これをOK−CTLが認識すること、すなわちSART−3にはHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドの存在していることが明らかになった。
実施例8
HLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドの同定
配列番号:1に記載の腫瘍抗原タンパク質SART−3のアミノ酸配列からHLA−A0201に結合可能と予想される9または10アミノ酸よりなるペプチドを、インターネットによりNIHのBIMASのソフト(http://bimas.dcrt.nih,gov/molbio/hla_bind/)を用いて検索した。検索されたペプチドの例を配列番号:25〜配列番号:52に示す。これらのペプチドを(株)バイオロジカに依頼し、Fmoc法にて合成を行った。
次に、HLA−A0201陽性であるが内因性ペプチド提示能が欠損しているT−Bハイブリドーマ細胞株のT2細胞(Immunogenetics,21:235,1985)1×104個に対し、先に合成したHLA−A0201に結合可能と予想されるペプチドをそれぞれ10μMで2時間パルスした後、6×104個のOK−CTLとともに18時間培養し、OK−CTLが産生した培養上清中のIFN−γ量をELISA法にて定量した。5種類のペプチド、すなわち腫瘍抗原タンパク質SART−3のアミノ酸配列の第152位から第160位の配列よりなるペプチド「152−160」(配列番号:25)、第249位から第257位の配列よりなるペプチド「249−257」(配列番号:26)、第302位から第310位よりなるペプチド「302−310」(配列番号:27)、第309位から第317位よりなるペプチド「309−317」(配列番号:28)、及び第386位から第394位よりなるペプチド「386−394」(配列番号:29)を用いて上記の実験を行った結果を表8に示す。
OK−CTLは、ペプチドをパルスしていない細胞に対してよりも、ペプチドをパルスした細胞に対して強く反応してIFN−γを産生した。この結果から、これら5種類のペプチドはHLA−A2拘束性の腫瘍抗原ペプチドとして機能することが示された。
なお本実験で用いたT2細胞の代わりに、HLA−A0201のcDNA発現プラスミドをCOS−7細胞(ATCC No.CRL1651)やVA−13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入した細胞を用いることによっても、同様の実験を行うことが可能である(J.Exp.Med.,187:277,1998)。
配列表フリーテキスト
配列番号:53に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第10番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:54に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第10番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:55に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第9番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:56に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第9番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:57に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第10番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:58に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第9番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:59に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンまたはトリプトファンであり、第9番目のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンである。
配列番号:60に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンであり、第9番目のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
配列番号:61に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンであり、第9番目のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
配列番号:62に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンであり、第9番目のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
配列番号:63に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンであり、第9番目のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
配列番号:64に記載のアミノ酸配列の第2番目のアミノ酸は、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンであり、第9番目のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
産業上の利用の可能性
本発明により、新規な腫瘍抗原タンパク質およびその遺伝子、該腫瘍抗原タンパク質由来の腫瘍抗原ペプチド、これらの物質の誘導体、あるいはこれら腫瘍抗原タンパク質、遺伝子、腫瘍抗原ペプチドまたはこれらの誘導体を、in vivoまたはin vitroで利用した腫瘍の治療剤、予防剤または診断薬などを提供することができる。
【配列表】
Claims (15)
- 配列番号:1に記載のアミノ酸配列または配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAによりコードされるアミノ酸配列から得られる連続する8〜11アミノ酸からなり、HLA抗原と結合して細胞傷害性T細胞に認識され得る腫瘍抗原ペプチド。
- HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である請求項1記載の腫瘍抗原ペプチド。
- 配列番号:3〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列より選択される、請求項1記載の腫瘍抗原ペプチド。
- 配列番号:3〜配列番号:9、または配列番号:25〜配列番号:29のいずれかに記載のアミノ酸配列より選択される、請求項3記載の腫瘍抗原ペプチド。
- 配列番号:3〜配列番号:24のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンに置換され、および/またはC末端のアミノ酸残基がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンに置換されたアミノ酸配列より選択される、腫瘍抗原ペプチド。
- 配列番号:25〜配列番号:52のいずれかに記載のアミノ酸配列の第2位がロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシンまたはグルタミンに置換され、および/またはC末端のアミノ酸残基がバリンまたはロイシンに置換されたアミノ酸配列より選択される、腫瘍抗原ペプチド。
- 配列番号:53〜配列番号:64のいずれかに記載のアミノ酸配列より選択される、腫瘍抗原ペプチド。
- 請求項1〜7いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAの少なくとも1種を含有する組換えDNA。
- 請求項8記載の組換えDNAを発現させて得られうる組換えポリペプチド。
- 請求項1〜7いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドに特異的に結合する抗体。
- 腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞の表面に、HLA抗原と請求項1〜7いずれか記載の腫瘍抗原ペプチドとの複合体を提示させてなる抗原提示細胞。
- 請求項8記載の組換えDNA、あるいは請求項9記載の組換えポリペプチドを、腫瘍患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞に取り込ませて得られうる、HLA抗原と腫瘍抗原ペプチドとの複合体の提示された抗原提示細胞。
- 請求項1〜7いずれか記載の腫瘍抗原ペプチド、あるいは請求項9記載の組換えポリペプチドを含有してなる腫瘍の診断薬。
- 受託番号がFERM BP−6818である、細胞傷害性T細胞OK−CTL。
- 請求項14記載のOK−CTLを用いることを特徴とする、腫瘍抗原ペプチドの同定法。
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