図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構( 動力伝達装置)10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設され、エンジン8に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された入力回転部材すなわち入力軸14と、この入力軸14に連結された第1変速部或いは無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図5参照)との間の動力伝達経路において伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式変速機として機能する第2変速部すなわち自動変速部20と、この自動変速部20の出力を後段へ伝達する出力回転部材すなわち出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10では、差動部11および自動変速部20が同心に構成されて軸方向寸法が比較的大きいため、例えば車両長手方向に縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられる。この変速機構10は、エンジン8から一対の駆動輪38に至る動力伝達経路に設けられ、エンジン8からの動力をその動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。上記エンジン8は、車両用駆動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関や外燃機関などによって構成される。
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも有する電動機であり、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも有する電動機である。
動力分配機構16は、例えば「0.380」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この遊星歯車装置24は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その第1遊星歯車P0を自転および公転可能に支持するキャリヤCA0、第1遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。サンギヤS0の歯数をZS0、リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16において、キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0はサンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0はサンギヤS0とキャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されるとすなわち解放状態へ切り換えられると、動力分配機構16は遊星歯車装置24の3要素であるサンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合状態へ切り換えられると、動力分配機構16は前記差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されてサンギヤS0とキャリヤCA0とが一体的に連結されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素であるサンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされ、差動部11も非差動状態とされる。このとき、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
また、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合されてサンギヤS0がケース12に連結されると、動力分配機構16はサンギヤS0が非回転状態とされた非差動状態とされ、差動部11も非差動状態とされる。このとき、リングギヤR0はキャリヤCA0よりも増速回転させられるので、動力分配機構16は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と、非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。上記作動状態では、差動部11(動力分配機構16)が電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態とされる。また,上記非作動状態では、電気的な無段変速作動しない非無段変速状態、すなわち例えば変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の一定変速比の単段または複数段の変速機として作動する定変速状態(非差動状態)とされる。
結局、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を非差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限することにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の電気的な差動装置又は無段変速機としての作動を制限する差動制限装置として機能している。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、4速の有段式自動変速機として機能する。第2遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.529」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.372」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とは相互に一体的に連結されるとともに第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2と第2リングギヤR2とは相互に一体的に連結されるとともに第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され且つ第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結され、第1リングギヤR1は第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されるとともに第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は出力軸22に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1、第2クラッチC2、および第3クラッチC3を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および第3クラッチC3は、自動変速部20の入力クラッチであり、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える動力伝達遮断用係合装置として機能している。第1クラッチC1、第2クラッチC2、および第3クラッチC3のうちの少なくとも1つが係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および第3クラッチC3が共に解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するものである。
以上のように構成された変速機構10の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって定変速状態とされた差動部11と有段変速機として作動する自動変速部20とで有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。
差動部11が非無段変速状態とされて変速機構10が有段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が図2に示す組み合わせで選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第7速ギヤ段(第7変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、前進段では、隣接するギヤ段の変速比間が略等比的に変化する変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT )が各ギヤ段毎に段階的に得られ、且つそれのトータル変速比幅( =第1速ギヤ段の変速比γT1/第7速ギヤ段の変速比γT7) が広範囲に得られるようになっている。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γAとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
図2の係合作動表に詳しく示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γT1が最大値例えば「3.683」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γT2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.669」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.909」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.383」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3クラッチC3の係合により、変速比γT5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第5速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第3クラッチC3およびブレーキB1の係合により、変速比γT6が第5速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.661」程度である第6速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第3クラッチC3および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT7が第6速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.479」程度である第7速ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1又は第2クラッチC2と第2ブレーキB2との係合により、変速比γRが第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の値例えば「1.951」程度であるエンジン走行用またはモータ走行用後進ギヤ段が成立させられる。なお、この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えばブレーキB2のみが係合される。
上記の説明および図2から明らかなように、本実施例の変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0のうちの一方の解放と他方の係合とで達成するクラッチツウクラッチ変速による2段階の変速と、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2のうちの一つの解放と他の1つ係合とで達成するクラッチツウクラッチ変速による4段階の変速とが組み合わせられることにより、前進7段の変速が行われるようになっている。すなわち、第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間、第3速ギヤ段と第4速ギヤ段との間、第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間、第6速ギヤ段と第7速ギヤ段との間が、第1変速部( 差動部11)の変速と第2変速部( 自動変速部20)の変速とが同じ変速期間内に同時に実行されることにより切り換えられ、第5速ギヤ段と第6速ギヤ段との間が専ら第2変速部のクラッチツウクラッチ変速により切り換えられる。ここで、たとえば図6のA点とB点との間に示す第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の変速、およびたとえば図6のC点とD点との間に示す第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間の変速は、差動部11および自動変速部20のうちの一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時に実行されるので本実施例では同時変速として定義されるものであるが、一方のダウンシフトの変速によりエンジン回転速度が上昇させられると同時に他方のアップシフトの変速によりエンジン回転速度が下降させられるので、わずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度が上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与え易い。
また、差動部11が無段変速状態とされて変速機構10が無段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が前進4段の有段変速機として機能することにより、自動変速部20の前進4段から自動的にギヤ段が選択されることにより自動変速部20の変速比γAが段階的に変化するにも拘わらず全体のトータル変速比γTが連続的に変化するように、自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
すなわち、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対し、その各ギヤ段の間において無段的に連続して変化するトータル変速比γTとなるように、差動部11の変速比γ0が制御させられて、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が相対回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、破線に示す横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0、第1回転要素RE1に対応するキャリヤCA0、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それら縦線の間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応する第1リングギヤR1を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応し相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第2キャリヤCA2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1サンギアS1および第2サンギヤS2を、それぞれ表し、それらの間隔は第1遊星歯車装置26のギヤ比ρ2および第2遊星歯車装置28のギヤ比ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との相対関係が示される。
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3を相互に相対回転可能とする無段変速状態(差動状態)、例えば少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される、車速Vに拘束されるリングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。
また、切換クラッチC0の係合によりサンギヤS0とキャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。また、切換ブレーキB0の係合によりサンギヤS0がケース12に連結されると、動力分配機構16は第2回転要素RE2の回転が停止させられて少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって差動部11が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示されるリングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、図3に示すように、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、切換ブレーキB0と第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、切換ブレーキB0と第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示され、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第3クラッチC3とが係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示され、切換クラッチC0と第3クラッチC3と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L6と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第6速の出力軸22の回転速度が示され、切換ブレーキB0と第3クラッチC3と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L7と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第7速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速、第3速、第5速、第6速では、切換クラッチC0が係合させられる結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第4回転要素RE4、第5回転要素RE5、或いは第7回転要素RE7に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、第2速、第4速、第7速では、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられる結果、第5回転要素RE5或いは第7回転要素RE7に差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置40には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θACCを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)を表す信号、蓄電装置60(図5参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、各センサ等からそれぞれ供給される。
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図5参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98による上記吸気管95或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(関係、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を含む変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を直接的或いは間接的に油圧制御回路42へ出力する。油圧制御回路42は、その指令に従って、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置を解放すると共に、変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路42内の電磁弁を作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段52は、無段変速モードが選択された場合は無段変速制御手段として機能するものであり、変速機構10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させ、差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御し、トータル変速比γTを無段階に制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度θACCや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにトータル変速比γTおよびエンジン8の出力を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために、上記無段変速制御中において自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて例えば記憶手段56に記憶された図示しないエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
また、ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。エンジン出力制御装置43は、ハイブリッド制御手段52による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって車両をモータ走行させることができる。図6の実線Eは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6の境界線(実線E)に示される関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図6中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図6の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図6から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して低いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。よって、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図6の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTEとされる程大きくアクセルペダルが踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
ハイブリッド制御手段52は、上記のモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持することも可能である。
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御することができる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪38)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
切換制御手段50は、車両状態に基づいて切換用係合装置(切換クラッチC0または切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態すなわち前記差動状態と前記有段変速状態すなわち前記ロック状態との間で変速状態を選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、要求出力軸トルクTout および車速Vにより示される車両状態が記憶手段56に予め記憶された前記図6の無段領域内であるが有段領域内であるか基づいて、変速機構10を無段変速状態とする無段領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段領域内であるかを判定し、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の係合とそれら切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放とを切り換えることにより、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
すなわち、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対して予め設定された有段変速時の変速を許可し、その有段変速制御手段54の変速判断にしたがって切換クラッチC0または切換ブレーキB0を係合させる。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の前進7速の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、C3、B0、B1、B2の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
しかし、切換制御手段50は、要求出力軸トルクTout および車速Vにより示される車両状態が図6の無段領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるようにするために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、自動変速部20は図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた前進4速の変速段、すなわち第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により達成される第1のギヤ段( 変速比γA=3.683) 、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により達成される第2のギヤ段( 変速比γA=1.909) 、第1クラッチC1および第3クラッチC3の係合により達成される第3のギヤ段( 変速比γA=1.000) 、第3クラッチC3および第1ブレーキB1の係合により達成される第4のギヤ段( 変速比γA=0.661) で自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1、第2、第3、第4のギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
なお、図6は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。図6の1破線は切換制御手段50により無段制御領域から有段制御領域への切換判定のための判定車速V1および判定出力トルクTOUT1を示している。つまり、図6の1破線はハイブリッド車両の高速走行域を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の要求駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行域、高トルク走行域を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクTOUT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して2点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクTOUT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクTOUT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクTOUT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには切換クラッチC0または切換ブレーキB0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクTOUT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクTOUT1を越えたときには切換クラッチC0または切換ブレーキB0を係合させて変速機構10を有段変速状態とする。
図6の縦軸は出力軸トルクTout が示されていたが、要求駆動力関連値であればよい。要求駆動力関連値とは、車両の要求駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での要求駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUT、要求エンジントルクTE、要求車両加速度Gや、例えばアクセル開度θACC或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの等の要求値である。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、前記判定トルクTOUT1は、例えば車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジン8の高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクTOUT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、自動変速部20が4段の変速段として機能するため第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。反対に、車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行や、出力トルクTOUTが判定トルクTOUT1を越えるような高出力走行では、変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
図7は複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り換える切換装置46の一例を示す図である。この切換装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。そのシフトレバー48は、第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれの係合装置も係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
例えば、「D」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、図6に示す予め記憶された変速マップや切換マップに基づいて切換制御手段50により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段52により動力分配機構16の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段54により自動変速部20の自動変速制御が実行される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
「M」ポジションがシフトレバー48の操作により選択された場合には、変速機構10が有段変速状態に切り換えられた有段変速走行時には、指定された上限ギヤ段の範囲のレンジ内で変速機構10が有段で自動変速制御され、或いは指定されたギヤ段が得られるように自動変速制御される。この「M」ポジションは変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
ところで、本実施例の変速機構10は、図2に示すようにクロスレシオ且つ広い変速比幅を目的として前進7段に制御されるようになっていることから、前述のように、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の変速、および第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間の変速は、差動部11および自動変速部20のうちの一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時に実行されるので本実施例では同時変速として定義されるものであるが、一方のダウンシフトの変速によりエンジン回転速度NEが上昇させられると同時に他方のアップシフトの変速によりエンジン回転速度NEが下降させられるというようにエンジン回転速度NEが逆方向に変化させられるので、そのような場合にはわずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度が上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与える可能性があった。
そこで、図5に示すように、本実施例の有段変速制御手段54は、切換制御手段50により有段変速状態と判断された場合において同時変速を行うときは、上記差動部11の変速を自動変速部20の変速に同期させて実行させるようにし、その自動変速部20の有段変速のイナーシャ相区間内において差動部11の有段変速を開始させかつ完了させる制御が実行されるようになっている。
すなわち、有段変速制御手段54は、前記図6に示す関係から車速Vおよび要求出力トルクTout に示される車両状態に基づいて同時変速の判断が行われたか否かを判定する同時変速判定手段62と、同時変速判定手段62によって同時変速が判断されたときは、その同時変速を達成するための自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速を先に実行させる第2変速制御手段64と、その自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速によるイナーシャ相の開始をたとえばエンジン回転速度NE の変化に基づいて判定するイナーシャ相判定手段66と、そのイナーシャ相判定手段66によりイナーシャ相が判定されると、イナーシャ相区間内すなわちエンジン回転速度NEの変化区間内で上記同時変速を達成するための差動部11のクラッチツウクラッチ変速を直接に或いは切換制御手段50を介して油圧制御回路42に指令することにより開始させ且つ完了させる第1変速制御手段68とを備え、イナーシャ相中のエンジン回転速度NEの変化が同じ方向となるように、第2変速制御手段64によるクラッチツウクラッチ変速および第1変速制御手段68によるクラッチツウクラッチ変速のタイミングおよび摩擦係合装置の係合圧を制御する。
エンジン出力低減手段70は、上記イナーシャ相判定手段66によりイナーシャ相が判定されると、上記同時変速による変速ショックを一層抑制するために、ハイブリッド制御手段52を介してエンジン出力制御装置43によりエンジン8の出力を好適にはイナーシャ相区間と同等の区間内において一時的に低減させる。第1電動機回転速度制御手段72は、上記イナーシャ相判定手段66によりイナーシャ相が判定されると、上記同時変速による変速ショックを一層抑制するために、第2変速部の入力回転速度( 伝達部材18の回転速度)の変化に応じて第1電動機M1の回転速度NM1を制御してイナーシャ相区間内のエンジン回転速度NEの変化が同じ方向となるように、第1電動機M1の回転速度NM1をハイブリッド制御手段52を介して制御する。
図8は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち有段変速状態において同時変速を制御するための変速制御作動を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行される。
先ず、前記同時変速判定手段62に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1では、同時変速が発生したか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合はS9において他の制御が実行されるが、図9のt1時点に示すように肯定されると、前記第2変速制御手段64に対応するS2において、上記同時変速を達成するための自動変速部20( 第2変速部)の変速出力が先に実行されて、先ずブレーキB2が解放される。図9のt2時点はこの状態を示す。すなわち、上記同時変速がたとえば第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へのアップ変速である場合は、先ず解放側の油圧式摩擦係合要素であるブレーキB2の解放を開始させるための油圧変化が開始されると同時に係合側の油圧式摩擦係合要素であるブレーキB1の係合を開始させるための油圧変化が開始される。次いで、前記第1変速制御手段68に対応するS3において、上記ブレーキB2の解放とブレーキB1の係合とにより達成されるクラッチツウクラッチ変速のイナーシャ相中に差動部11のクラッチツウクラッチ変速を開始させるようにそのイナーシャ相の開始に先立って切換ブレーキB0を解放させる出力と切換クラッチC0を係合待機させる出力とが行われる。図9のt3時点はこの状態を示す。
次に、前記イナーシャ相判定手段66に対応するS4において、ブレーキB2の解放によるエンジン回転速度NEの低下開始に基づいてイナーシャ相の開始が判定される。図9のt4時点はこの状態を示す。次いで、前記エンジン出力低減手段70に対応するS5においてたとえばスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を閉じたり、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射を減少したり、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を遅角させるなどしてエンジン出力が一時的に低減させられるとともに、前記第1電動機回転速度制御手段72に対応するS6において、上記同時変速による変速ショックを一層抑制するために、伝達部材18の回転速度変化に応じて前記第1電動機M1の回転速度NEを制御することにより、イナーシャ相中のエンジン回転速度NEの変化が同じ方向で一定の変化速度となるように第1電動機M1の回転速度NM1がハイブリッド制御手段52を介して制御される。たとえば、2→3アップ変速において、自動変速部20のアップ変速によってエンジン回転速度NEが低下する方向に変化させられるが、同時に実行される差動部11のダウン変速によってエンジン回転速度NEが上昇する方向に変化させられようとするとき、第1電動機M1すなわちサンギヤS0の回転速度を一時的に低下側或いは負側とすることによりそのエンジン回転速度NEの上昇を抑制し、エンジン回転速度NEの変化が一様な低下方向とされる。また、前記第1変速制御手段68に対応するS7において、上記イナーシャ相中に差動部11のクラッチツウクラッチ変速を完了させるように切換クラッチC0の係合圧が上昇させられてその係合が開始される。そして、第2変速制御手段64に対応するS8において、ブレーキB1の係合が開始されるとともに、その係合完了により同時変速が終了させられる。図9のt5時点はこの状態を示している。ここで、上記S2およびS8による自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速制御によるエンジン回転速度NEの変化方向と上記S3およびS7による差動部11のクラッチツウクラッチ変速制御によるエンジン回転速度NEの変化方向とが同じとなるように、タイミングおよび係合圧が制御されている。
上述のように、本実施例の電子制御装置40によれば、差動部11( 第1変速部) および自動変速部20( 第2変速部) の一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時期に実行される同時変速の場合に、その自動変速部20の変速に同期して差動部11の有段変速が相互に重なるように同時に実行させられるので、一方の変速に合わせて他方の変速が実行されることができ、変速ショックを好適に抑制することができる。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、自動変速部20の変速のイナーシャ相中に差動部11の有段変速が開始されかつ完了させられることから、自動変速部20の変速によるエンジン回転速度変化内に差動部11の変速による回転速度変化が隠されるので、変速ショックを好適に抑制することができる。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、同時変速中において前記エンジン回転速度NEが同じ方向に変化するように、自動変速部20の変速と差動部11の有段変速とが制御されることから、同時変速中に自動変速部20の変速によるエンジン回転速度NEの変化方向と差動部11の有段変速によるエンジン回転速度NEの変化方向とが同じであることにより搭乗者により一方の変速と認識されるので、ドライバーが違和感を覚えることが好適に防止される。
また、本実施例の変速機構10では、(a) 差動部11および自動変速部20はエンジン8から駆動輪36に至る動力伝達経路に介そうされ、(b) その差動部11は、エンジン8の出力を第1電動機M1および自動変速部20の入力軸へ分配する差動機構としての動力分配機構16を備え、(c) 前記同時変速中においてエンジン8の回転速度NEが同じ方向に変化するようにその第1電動機M1を制御するので、同時変速中に差動部11の変速によるエンジン回転速度NEの変化方向と自動変速部20の変速によるエンジン回転速度NEの変化方向とが同じとなるように容易に制御できる利点がある。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、同時変速中において、自動変速部20の入力回転速度変化に応じて第1電動機M1の回転速度を制御することにより、自動変速部20の変速が開始されてその自動変速部20の入力回転速度が変化し始めるとき、それに応じて第1電動機M1によりエンジン回転速度NEを制御することで,変速の進行に適合したエンジン回転速度NEの一様な変化とすることができる。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、自動変速部20の変速のイナーシャ相中にエンジン8の出力トルクが一時的に低下させられるので、同時変速中の伝達トルクが低下させられて、一層変速ショックが抑制される。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、自動変速部20の変速は、解放側係合要素の解放と係合側係合要素の係合とにより達成されるクラッチツウクラッチ変速であるので、解放および係合の微妙なタイミング制御を必要として変速ショックが発生し易いクラッチツウクラッチ変速が差動部11の変速と同時に実行される場合において、好適に変速ショックが抑制される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図10は本発明の他の実施例における変速機構90の構成を説明する骨子図、図11はその変速機構90の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図12はその変速機構90の変速作動を説明する共線図である。
変速機構90は、好適にはFF( フロントエンジンフロントドライブ) 型車両に搭載されるトランスアクスルケース92内へ収容することを考慮して軸方向寸法を短縮するために、前述の実施例と同様の第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を第1軸心C1上に備えている差動部11と、その第1軸心C1に平行な第2軸心C2上に設けられた前進4段の自動変速部94とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.300」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部94は、例えば「0.522」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と例えば「0.309」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを備えている。第1遊星歯車装置26の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2とが相互に一体的に連結されて第1クラッチC1、互いに噛み合う一対のカウンタドライブギヤ19およびカウンタドリブンギヤ21を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第2ブレーキB2を介してケース92に選択的に連結され、第1遊星歯車装置26の第1キャリヤCA1が第2クラッチC2、互いに噛み合う一対のカウンタドライブギヤ19およびカウンタドリブンギヤ21を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第3ブレーキB3を介してケース92に選択的に連結され、第1遊星歯車装置26の第1リングギヤR1と第2遊星歯車装置28の第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力部材である出力歯車96に連結され、第2遊星歯車装置28の第2リングギヤR2は第1ブレーキB1を介してケース92に選択的に連結されている。上記出力歯車96は差動歯車装置(終減速機)36のデフドライブギヤ98と噛み合うことにより、一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ動力を伝達する。上記カウンタドライブギヤ19およびカウンタドリブンギヤ21は、第1軸心C1および第2軸心C2上にそれぞれ設けられ、伝達部材18と第1クラッチC1および第2クラッチC2とを作動的に連結する連結装置として機能している。
以上のように構成された変速機構90では、例えば、図11の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第7速ギヤ段(第7変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化するトータル変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力歯車( 出力部材) 96の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の多段変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構90では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部94とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部94とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。
変速機構90が有段変速機として機能する場合には、図11に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT1が最大値例えば「4.241」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.986」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.111」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により、変速比γT4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.482」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γT5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第5速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第2クラッチC2、および第2ブレーキB2の係合により、変速比γT6が第5速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.657」程度である第6速ギヤ段が成立させられ、切換ブレーキB0、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γT7が第6速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.463」程度である第7速ギヤ段が成立させられる。また、エンジン8による駆動時においては第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、第2電動機M2による駆動時においては第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γRが第3速ギヤ段と第4速ギヤ段との間の値例えば「1.917」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば第1クラッチC1のみが係合される。
しかし、変速機構90が無段変速機として機能する場合には、図11に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列に連結された自動変速部94が4段の有段変速機として機能することにより、自動変速部94の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部94に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構90全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図12は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部94から構成される変速機構90において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
図12における自動変速部94の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2および第1リングギヤR1を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2をそれぞれ表している。また、自動変速部94において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第2ブレーキB2を介してケース92に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第3ブレーキB3を介してケース92に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部94の出力歯車96に連結され、第7回転要素RE7は第1ブレーキB1を介してケース92に選択的に連結されている。
自動変速部94では、図12に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第1ブレーキB1が係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X1との交点と第4回転要素RE4(S1、S2)の回転速度を示す縦線Y4と横線X2との交点とを通る斜めの直線L1と、出力歯車96と連結された第6回転要素RE6(R1、CA2)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力歯車96の回転速度が示される。同様に、切換ブレーキB0、第1クラッチC1、第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力歯車96の回転速度が示され、切換クラッチC0、第2クラッチC2、第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力歯車96の回転速度が示され、切換ブレーキB0、第2クラッチC2、第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力歯車96の回転速度が示され、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2が係合させられることにより決まる斜めの直線L5と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第5速の出力歯車96の回転速度が示され、切換クラッチC0、第2クラッチC2、第2ブレーキB2が係合させられることにより決まる斜めの直線L6と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第6速の出力歯車96の回転速度が示され、切換ブレーキB0、第2クラッチC2、第2ブレーキB2が係合させられることにより決まる斜めの直線L7と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y7との交点で第7速の出力歯車96の回転速度が示される。
本実施例の変速機構90においても、図11に示すようにクロスレシオ且つ広い変速比幅を目的として前進7段に制御されるようになっていることから、前述のように、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の変速、および第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間の変速は、差動部11および自動変速部94のうちの一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時に実行されるので本実施例では同時変速として定義されるものであるが、一方のダウンシフトの変速によりエンジン回転速度が上昇させられると同時に他方のアップシフトの変速によりエンジン回転速度が下降させられるので、わずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度が上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与える可能性があった。
しかし、本実施例の変速機構90においても、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部94とから構成されており、差動部11および自動変速部94の一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時期に実行される同時変速時において、第2変速部の変速に同期して第1変速部の変速が実行されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
また、本実施例によれば、図1の変速機構10と比較して同一の軸心上に動力分配機構16と自動変速機94とが配設されていないので、変速機構90の軸心方向の寸法がより短縮される。よって、一般的に変速機構の軸心方向の寸法が車幅で制約されるFF車両用やRR車両用に横置き可能すなわち第1軸心RC1および第2軸心RC2が車幅方向と平行に搭載可能な変速機構として好適に用いられ得る。また、動力分配機構16および自動変速部94がエンジン8(デフドライブギヤ32)とカウンタギヤ対CGとの間に配設されているので、変速機構90の軸心方向の寸法が一層短縮される。さらに、第2電動機M2が第1軸心RC1上に配設されているので、第2軸心RC2の軸心方向の寸法が短縮される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の変速機構10、90では、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の変速、および第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間の変速が、差動部11および自動変速部20、94の一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時期に実行される同時変速であったが、必ずしも第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の変速、および第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間の変速でなくてもよい。
また、前述の実施例では、前進4段の自動変速部20、94が第2変速部として機能していたが、その自動変速部20、94は少なくとも前進2段であって、差動部11および自動変速部20、94の一方のダウンシフトの変速と他方のアップシフトの変速とが同時期に実行されることにより同時変速が実行されるものであればよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、キャリヤCA0がエンジン8に連結され、サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、伝動チェイン、伝動ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。また、図10の実施例において、カウンタドライブギヤ19およびカウンタドリブンギヤ21に替えて、伝動チェインが巻き掛けられた一対のスプロケットが設けられてもよい。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、94内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。