ここで、車両が一定速度以上で定常走行を行う場合、例えば高速道路などの道路で走行する場合において、運転者は、自車の前方に位置する前方車両との車間距離を一定に維持するように、アクセルペダル(必要に応じてブレーキペダル)を操作する。この運転者が一定に維持する車間距離は、自車の走行している道路の混雑状況によって変化する。例えば、運転者は、自車の走行している道路が混雑している場合は、混雑していない場合と比較して、車間距離を短く、つまり自車を前方車両に近づけた状態で走行しようとする。これは、様々な原因が考えられるが一般的には、自車の走行している道路が混雑している際に、この自車の走行している車線以外の車線(合流車線も含まれる)を走行している車両が自車と前方車両との間に割り込むことを運転者が意識的に防止しようとするためであると考えられている。
しかしながら、従来の自車の減速度を制御する車両の駆動力制御装置では、運転者の減速意志により発生するエンジンブレーキによる減速度が大きくなるように制御するものであるため、混雑している道路を自車の走行している場合に、運転者の減速意志により発生する減速度は運転者が混雑時に所望する減速度より大きくなる虞がある。つまり、自車と前方車両との車間距離が縮まった際に、運転者がアクセルペダルから足を離すと、この車間距離は短期間で一定となり離れ始める。従って、運転者は、混雑している道路を走行している自車を前方車両に近づけた状態とするために、アクセルペダルの踏み込みによる車両の加速とアクセルペダルを足から離すことによる車両の減速という操作を頻繁に繰り返す必要がある。従って、上記従来の自車の減速度を制御する車両の駆動力制御装置では、混雑時における運転者の違和感や不快感を低減することができないという虞があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自車の走行する道路の混雑時における運転者の違和感や不快感を低減することができる車両の駆動力制御装置および駆動力制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明では、減速検出手段により運転者の減速意志を検出した際に、自車と自車の前方に位置する前方車両との位置関係に応じて自車の減速度を制御する車両の駆動力制御装置において、自車の走行する道路の混雑度を判定する混雑度判断手段を備え、混雑度判断手段により混雑度が高いと判断した際に、前方車両との位置関係に応じた自車の減速度の制御を開始し難くあるいは前方車両との位置関係に応じた自車の減速度が小さくなるように制御することを特徴とする。
また、この発明では、上記車両の駆動力制御装置において、車間時間が所定車間時間以下となると前方車両との位置関係に応じた自車の減速度の制御が開始される場合には、混雑度判断手段により混雑度が高いと判断した際に、所定車間時間を小さく変更することを特徴とする。
また、この発明では、上記車両の駆動力制御装置において、前方車両との位置関係に応じた自車の減速度を相対車速と車間時間とに基づくマップに基づいて算出する場合には、混雑度判断手段により混雑度が高いと判断した際に、前方車両との位置関係に応じた自車の減速度が小さくなるようにマップを変更することを特徴とする。
また、この発明では、自車と自車の前方に位置する前方車両との位置関係に応じて自車の減速度を制御する車両の駆動力制御方法において、車両の駆動力制御装置運転者の減速意志を判定する手順と、自車の走行する道路の混雑度を判定する手順と、混雑度が高い際に、自車の減速度の制御を開始し難くあるいは自車の減速度の変化が小さくなるように制御する手順とを含むことを特徴とする。
これら発明によれば、自車の走行する道路の混雑度が高いと判断した際に、自車の減速度の制御を開始し難く、例えば運転者の減速意志により発生する減速度が大きくなる制御の開始条件を厳しくする。従って、自車と前方車両との車間距離が縮まった際に、運転者の減速意志、例えば運転者がアクセルペダルから足を離した際に発生するエンジンブレーキによる減速度は小さくなり、車間距離は徐々に一定となり離れることとなる。これにより、運転者は、混雑している道路を走行している自車を前方車両に近づけた状態とするために、アクセルペダルの踏み込みによる車両の加速とアクセルペダルを足から離すことによる車両の減速という操作を繰り返す頻度が減少する。
また、この発明では、減速検出手段により運転者の減速意志を検出した際に、自車と当該自車の前方に位置する前方車両との位置関係に応じて自車の減速度を制御する車両の駆動力制御装置において、自車の走行する道路の混雑度を判断する混雑度判断手段と、自車の走行する道路の車線数を判断する車線数判断手段とを備え、車線数判断手段において自車の走行する道路が複数車線である判断した際に、混雑度判断手段により混雑度を判定するものであり、混雑度判断手段により混雑度が高いと判断した際に、前方車両との位置関係に応じた自車の減速度の制御を開始し難くあるいは前方車両との位置関係に応じた自車の減速度が小さくなるように制御することを特徴とする。
この発明によれば、自車の走行する道路の混雑度が高いと判断した際に、自車の減速度の制御を開始し難く、例えば運転者の減速意志により発生する減速度が大きくなる制御の開始条件を厳しくする。従って、自車と前方車両との車間距離が縮まった際に、運転者の減速意志、例えば運転者がアクセルペダルから足を離した際に発生するエンジンブレーキによる減速度は小さくなり、車間距離は徐々に一定となり離れることとなる。これにより、運転者は、混雑している道路を走行している自車を前方車両に近づけた状態とするために、アクセルペダルの踏み込みによる車両の加速とアクセルペダルを足から離すことによる車両の減速という操作を繰り返す頻度が減少する。
また、この発明によれば、自車の走行している道路が複数車線(合流車線も含む)により構成されており、かつ混雑度が高いと判断した際に、自車の減速度の制御を開始し難くあるいは自車の減速度の変化が小さくなるように制御する。つまり、自車と前方車両との間にこの自車の走行している車線以外の他の車線に位置する車両が割り込む虞がある場合に、運転者の減速意志により発生する減速度を小さくし、この自車と前方車両との車間距離が近づいた状態を長時間維持できるようにする。従って、混雑している道路を走行している自車と前方車両との間にこの自車の走行している車線以外の他の車線に位置する車両が割り込む虞を低減することができる。これにより、他の車線に位置する車両による予期せぬ割り込みを低減することができるので、運転者に安心感を与えることができる。
また、この発明では、上記車両の駆動力制御装置において、自車の走行している道路情報を取得する道路情報取得手段をさらに備え、混雑度判断手段は、道路情報取得手段により取得された道路情報から混雑度を判断することを特徴とする。
この発明によれば、道路を走行している自車の現在位置における混雑度のみならず、今後自車が通過する位置における混雑度をも判断することができる。これにより、運転者の減速意志により発生する減速度の変化が頻繁に起こらず、運転者の違和感や不快感を低減することができる。
また、この発明では、上記車両の駆動力制御装置において、自車の周辺を走行する周辺車両を検出する周辺車両検出手段をさらに備え、混雑度判断手段は、周辺車両検出手段により検出された周辺車両の台数に基づいて混雑度を判断することを特徴とする。
この発明によれば、道路を走行している自車の実際の現在位置における混雑度を自車の周辺車両の台数に基づいて判断することができる。これにより、運転者の減速意志により発生する減速度の変化が自車の現在位置における混雑度に基づいて起こるため、運転者の違和感や不快感を低減することができる。
また、この発明では、上記車両の駆動力制御装置において、運転者の混雑意志を検出する混雑検出手段をさらに備え、混雑度判断手段は、混雑検出手段により検出された運転者の混雑意志に基づいて混雑度が高いと判断することを特徴とする。
この発明によれば、道路を走行している自車の実際の現在位置における混雑度を運転者の経験に基づいて判断することができる。これにより、運転者の意志によりこの運転者の減速意志により発生する減速度の変化が起こるため、運転者の違和感や不快感を低減することができる。
この発明にかかる車両の駆動力制御装置および駆動力制御方法は、自車の走行する道路の混雑度が高いと判断した際に、自車の減速度の制御を開始し難くなるように制御することで、運転者の減速意志により発生する減速度を小さくし、アクセルペダルの踏み込みによる車両の加速とアクセルペダルを足から離すことによる車両の減速という操作を繰り返す頻度が減少し、自車の走行する道路の混雑時における運転者の違和感や不快感を低減することができる。
図1は、この発明にかかる車両の駆動力制御装置の構成例を示す図である。同図に示すように、この発明にかかる車両の駆動力制御装置1は、自動変速機2と、自車とこの自車の前方に位置する前方車両との位置関係を検出する前方車両検出装置3と、処理部42に混雑度判断手段である混雑度判断部44と車線数判断手段である車線数判断部45と自車の減速度を制御する減速度制御手段である減速度制御部46とを有するECU(Engine Control Unit)4と、自車の走行している道路の車線数を取得する車線数取得手段および自車の走行している道路情報を取得する道路情報取得手段であるナビゲーションシステム5と、自車の制動力(自動変速機2によるエンジンブレーキによる制動力を除く)を後述するECU4により制御できる車両自動ブレーキ装置14とにより構成されている。なお、6は、内燃機関であるエンジンである。7は、エンジン6の図示しないクランクシャフトで発生する駆動力を自動変速機2に伝達するトルクコンバータである。また、8は、自動変速機2の変速段を切り替える油圧供給装置である。また、9は、エンジン6に吸気する空気を車両外部から導入する吸気系統である。また、10は、エンジンから排気される排気ガスを車両外部に排気する排気系統である。
自動変速機2は、有段変速機であり、エンジン6にトルクコンバータ7を介して連結されている。エンジン6の図示しないクランクシャフトで発生する駆動力は、トルクコンバータ7を介して自動変速機2に伝達され、この自動変速機2から図示しないデファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して駆動輪に伝達される。また、自動変速機2は、変速段により変速比が異なり、自車の運転状況により後述するECU4から出力される変速信号に基づいて油圧供給装置8を介して変速段が制御されるものである。ここで、油圧供給装置8は、上記ECU4から出力された変速信号に基づいて自動変速機2にこの自動変速機2の変速段を変更するための油圧を供給するものである。
前方車両検出装置3は、レーザレーダ装置であり、自車の前部に取り付けられている。図2−1は、前方車両検出装置の構成例を示す図である。図2−2は、自車と前方車両との関係を示す図である。前方検出装置3は、送光部31、送光走査部32、受光部33、受光走査部34、距離計測部35とにより構成されている。送光部31には、レーザを出力するレーザダイオードとこのレーザダイオードを駆動する駆動回路とにより構成されている。送光走査部32は、送光部31のレーザダイオードが出力したレーザを反射させる反射ミラーとこの反射ミラーを上下に揺動させるモータなどから構成される反射ミラー駆動部とにより構成されている。受光部33は、受光レンズとこの受光レンズで収束した反射波を電気信号に変換するフォトダイオードなどにより構成されている。受光走査部34は、図2−2に示すように、上記送光走査部32を介して送光部31から自車100の前方に出力されたレーザが自車100の前方に位置する前方車両200に反射した反射波を反射させて上記受光レンズに導く受光ミラーとこの受光ミラーを左右に揺動させるモータなどから構成される受光ミラー駆動部とにより構成されている。距離計測部35は、上記送光部31の駆動回路、送光走査部32の反射ミラー駆動部、受光走査部34の受光ミラー駆動部を制御し、かつレーザの送光から反射波が受光されるまでの時間から自車100と前方車両との位置関係である車間距離や相対車速を算出するものである。
具体的には、送光部31から出力されたレーザLは、送光走査部32を介して、自車100の前方に出力される。この出力されたレーザLの有効領域(反射波が受光走査部34を介して受光部33が検出される領域)内に前方車両200が位置すると、レーザLは前方車両200のリフレクターなどにより反射され反射波となり、自車100に戻ってくる。受光部33には、受光走査部34を介してこの自車100に戻ってきた反射波が入力される。距離計測部35は、送光部31によるレーザLの送光から受光部33による反射波の受光までの時間を計測し、この時間から自車100が走行している道路Rの同一車線の前方に車両(前方車両200)がいることを検出するするとともに、自車100と前方車両200との車間距離を算出する。また、レーザLは、所定周期で送光部31から出力されるため距離計測部35は、所定時間における自車100と前方車両200との車間距離の変化量を算出することができる。この所定時間と車間距離の変化量とから自車100と前方車両との相対車速を算出する。なお、距離計測部35で算出された車間距離と相対車速は、図1に示すように後述するECU4に出力される。
ECU4は、後述するナビゲーションシステム5から入力される道路情報に基づいて、自車の走行する道路の混雑度を判断する混雑度判断手段である。また、上記ナビゲーションシステム5から入力される車線数情報に基づいて、自車の走行する道路の車線数を判断する車線数判断手段でもある。さらに、車両自動ブレーキ装置14による自車100の制動力を制御することで、自車の減速度を制御する減速度制御手段でもある。
また、ECU4は、エンジン6が搭載された車両の各所に取り付けられたセンサから、各種入力信号が入力される。具体的には、例えばエンジン6の図示しないクランクシャフトに取り付けられた角度センサにより検出されたエンジン回転数、吸気系統9に取り付けられたエアフロメータ92により検出されたエアフィルタ91を介して吸気される吸入空気量、減速検出手段であるアクセルセンサ11により検出された運転者が操作するアクセルペダルの操作量(アクセル開度)、車速センサ12により検出された自車の車速、シフトセンサ13により検出された運転者が操作するシフトレバーのシフトポジション、上記前方車両検出装置3から出力された車間距離、相対車速、後述するナビゲーションシステム5から出力された車線数情報、道路情報などがある。これら入力信号および後述する記憶部43に記憶されている噴射制御マップや変速マップなどの各種マップに基づいて、エンジン6の図示しないインジェクタの噴射タイミングや噴射量を制御する噴射信号、エンジン6の図示しない点火プラグの点火タイミングを制御する点火信号、吸気系統9のスロットルバルブ93のバルブ開度を制御するバルブ開度信号などのエンジン6の出力制御を行う信号、自動変速機2の変速段の変更する変速制御を行う変速信号などの出力信号、車両自動ブレーキ装置14による自車100の制動力制御を行うブレーキ信号を出力する。なお、ECU4は、自動変速機2の変速制御に伴って、エンジン回転数を適切に変化させるために、上記エンジン6の出力制御を行っても良い。
具体的には、上記入力信号や出力信号の入出力を行う入出力ポート(I/O)41と、混雑度判断部44、車線数判断部45、減速度制御部46を有する処理部42と、上記噴射制御マップや変速マップなどの各種マップなどを格納する記憶部43とにより構成されている。処理部42は、メモリおよびCPU(Central Processing Unit)により構成され、車両の駆動力制御方法などに基づくプログラムをメモリにロードして実行することにより、車両の駆動力制御方法などを実現させるものであっても良い。また、記憶部43は、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ROM(Read Only Memory)のような読み出しのみが可能な揮発性のメモリあるいはRAM(Random Access Memory)のような読み書きが可能な揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。なお、この実施例では、車両の駆動力制御方法をECU4により実現させるが、これに限定されるものではなく、このECU4とは個別に形成された制御装置により実現しても良い。
ナビゲーションシステム5は、上記ECU4の入出力ポート41に接続され、このECU4に車線数情報、道路情報の出力を行う入出力ポート(I/O)51と、GPS(Global Positioning System)を構成する衛星からの位置情報や道路交通情報通信システムを構成するFM多重放送、光ビーコン、電波ビーコンなどからの交通情報(渋滞情報)を受信するアンテナ部52と、自車100の現在位置、自車100の走行する道路の道路情報などの算出や、自車100の現在位置から目標位置までの経路の検索などを行う処理部53と、運転者が操作することで、入出力ポート51を介して処理部53に各種の指示データを入力する操作部54と、地図データ55aなどを格納する記憶部55と、入出力ポート51を介して各種案内音声を出力するスピーカ56と、入出力ポート51を介して自車100の現在位置や自車100の走行する道路や、自車100の走行する道路の道路情報を表示する表示部57とにより構成されている。なお、処理部53および記憶部55の構成は、上記ECU4とほぼ同様の構成であるのでその説明は省略する。また、地図データ55aは、記憶部55に格納されるほか、CD−ROMやDVDなどの記録媒体に記録され、適宜入出力ポート51を介して処理部53に読み込まれても良い。また、処理部53による自車の現在位置の算出は、アンテナ部52が受信する位置情報のみに基づいて行う場合に限られず、この位置情報と車速センサ12により検出される車速とナビゲーションシステム5に搭載されているジャイロスコープとに基づいて行っても良い。
このナビゲーションシステム5は、基本的に自車100が現在位置から目的位置、つまり現在地から住所、電話番号、施設名などに基づいた目的地までナビゲーション走行を行う際に用いられるものである。具体的には、運転者は、操作部54を操作し目的地を入力する。この入力された目的地に基づく指示データは、処理部53に入力される。次に、処理部53は、アンテナ部52が受信した位置情報から自車100の現在位置を算出するとともに、記憶部55に格納されている地図データ55aを読み出す。次に、処理部53は、この自車100の現在位置と地図データ55aから目的位置までの最適経路を検索する。ここで、処理部53は、アンテナ部52が受信した交通情報、つまり自車100の走行している道路やその周辺道路の混雑状況を加味して最適経路を検索することもできる。そして、処理部53は、入出力ポート51を介して自車100の現在位置データや検索された経路に基づく自車100の走行する道路データや、自車100の走行する道路の道路情報を表示部57に出力する。この表示部57は、自車100の現在位置データや検索された経路に基づく自車100の走行する道路データや、自車100の走行する道路の道路情報を表示する。また、処理部53は、検索された経路に基づいて適宜スピーカ56から案内音声を出力する。
このナビゲーションシステム5は、アンテナ部52が受信する位置情報に基づいて算出された自車100の現在位置と、アンテナ部52が受信する交通情報と、記憶部55に格納されている地図データ55aとに基づいて自車100の走行する道路の道路情報を取得することができる。また、位置情報に基づいて算出された自車100の現在位置と、記憶部55に格納されている地図データ55aとに基づいて自車100の走行している道路の車線数を取得することができる。従って、ナビゲーションシステム5は、道路情報取得手段および車線数取得手段としての機能を有するものである。
次に、この発明にかかる車両の駆動力制御装置1を用いた車両の駆動力制御方法について説明する。図3は、この発明にかかる車両の駆動力制御装置の動作フローである。まず、ECU4の処理部42は、減速検出手段であるアクセルペダルに取り付けられたアクセルセンサ11により検出された操作量に基づいて運転者の減速意志がある否かを判断する(ステップST1)。具体的には、運転者がアクセルペダルから足を離す、つまりアクセルセンサ11により検出される操作量が0あるいはほぼ0となった場合に、処理部42は運転者の減速意志があると判断する。これは、自車100と前方車両200との相対車速が大きい場合には、自車100と前方車両200との車間距離が縮まり、運転者はこの車間距離を一定に保とうとするためにアクセルペダルから足を離しエンジンブレーキによる自車100の減速を行うからである。
次に、処理部42は、運転者の減速意志があると判断すると、フラグをチェックする(ステップST2)。車両の駆動力制御方法の開始直後は、F=0である。次に、処理部42の車線数判断部45は、車線数情報を取得する(ステップST3)。まず、ナビゲーションシステム5の処理部53は、アンテナ部52で受信した位置情報に基づいて算出した自車100の現在位置と記憶部55に格納されている地図データ55aに基づいて自車100の走行している道路の車線数を算出する。次に、処理部53は、入出力ポート51を介してECU4にこの算出した車線数情報を出力する。そして、処理部42の車線数判断部45は、ナビゲーションシステム5から出力された車線数情報を取得する。
次に、処理部42の車線数判断部45は、自車100の走行している道路が複数車線であるか否かを判断する(ステップST4)。つまり、自車100の走行している車線以外の車線、例えば自車100が高速道路の走行車線を走行している場合では、自車100の走行している走行車線以外に他の走行車線、追越車線、合流車線などがあるか否かを判断する。これは、自車100と前方車両200との間にこの自車100の走行している車線以外の他の車線に位置する車両が割り込む虞がある場合に、後述する運転者の減速意志により発生する減速度を小さくし、この自車100と前方車両200との車間距離が近づいた状態を長時間維持できるようにするためである。これにより、混雑している道路を走行している自車100と前方車両200との間にこの自車100の走行している車線以外の他の車線に位置する車両が割り込む虞を低減することができ、他の車線に位置する車両による予期せぬ割り込みを低減することができるので、運転者に安心感を与えることができる。
次に、処理部42の車線数判断部45が自車100の走行している道路が複数車線であると判断すると、処理部42の混雑度判断部44は、道路情報を取得する(ステップST5)。まず、ナビゲーションシステム5の処理部53は、アンテナ部52で受信した位置情報に基づいて算出した自車100の現在位置と、アンテナ部52が受信する交通情報と記憶部55に格納されている地図データ55aとに基づいて自車100の走行している道路の道路情報を算出する。次に、処理部53は、入出力ポート51を介してECU4に算出した道路情報を出力する。そして、処理部42の混雑度判断部44は、ナビゲーションシステム5から出力された道路情報を取得する。
次に、処理部42の混雑度判断部44は、自車100の走行している道路の混雑度が所定混雑度以上であるか否かを判断する(ステップST6)。ここで、道路交通情報通信システムを構成するFM多重放送、光ビーコン、電波ビーコンなどからナビゲーションシステム5のアンテナ部52が受信する交通情報(渋滞情報)は、例えば道路の混雑度を「通常」、「混雑」、「渋滞」の三段階に分けた情報である。つまり、処理部42の混雑度判断部44に入力される自車100が走行している道路の道路情報も同様に三段階に分けられた情報となる。従って、処理部42の混雑度判断部44では、所定混雑度を例えば上記三段階の混雑度における「渋滞」とし、自車100が走行している道路の道路情報が「渋滞」であるか否かを判断する。このナビゲーションシステム5のアンテナ部52が受信する交通情報(渋滞情報)には、自車100が走行する道路におけるこの自車100の現在位置の混雑度をのみならず、今後自車が通過する位置における混雑度も含まれる。つまり、処理部42の混雑度判断部44は、自車100の現在位置における混雑度のみならず、今後自車100が通過する位置における混雑度をも判断することができる。これにより、後述する運転者の減速意志により発生する減速度の変化が頻繁に起こらず、運転者の違和感や不快感を低減することができる。なお、所定混雑度を上記「渋滞」ではなく、「混雑」としても良い。
次に、処理部42の混雑度判断部44が自車100の走行している道路の混雑度が所定混雑度以上であると判断すると、処理部42は、減速度を制御する開始条件を変更する(ステップST7)。後述する処理部42の減速制御部46による運転者の減速意志により発生する減速度の制御は、自車100の減速度が大きくなるように制御するものであり、この減速度の制御には開始条件が設定されている。この開始条件には種々のものがあるが、この実施例では開始条件を車間時間としている。車間時間は自車100の車速と相対車速に基づくマップで規定されており、この車間時間が所定車間時間以下となったら制御を開始する場合について説明する。車間時間とは、車間距離/自車100の車速であり、自車100と前方車両200との車間距離を自車100が走行するのに何秒必要であるかを示すものである。この車間時間が短くなると前方車両200の車速が0の場合に自車が衝突するまでの時間が短くなるということとなる。処理部42の減速制御部46による運転者の減速意志により発生する減速度の制御の開始条件を車間時間がある自車の速度および相対車速において、例えば所定車間時間1.0秒以下と設定している場合に、処理部42は、この処理部42の混雑度判断部44が自車100の走行している道路の混雑度が所定混雑度以上であると判断すると、設定されていた所定車間時間を例えば0.7秒に変更して設定する。つまり、運転者の減速意志により発生する減速度が大きくなる制御の開始条件を厳しくし、すなわち処理部42の減速制御部46による自車の減速度の制御を開始し難くする。
次に、処理部42の減速度制御部46は、自車100の減速度の制御が必要であるか否か、つまり上記変更された減速度の制御開始条件を満たしている否かの判断をする(ステップST8)。具体的には、まず、処理部42の減速度制御部46は、ECU4の入出力ポート41を介して入力された前方車両検出装置3により検出された前方車両200との車間距離と車速センサ12により検出された自車100の車速に基づいて車間時間を算出する。そして、減速度制御部46は、算出した車間時間が上記ステップST7で変更された所定車間時間以上であるかを判断する。
なお、上記ステップST4において処理部42の車線数判断部45が自車100の走行している道路が複数車線でない、あるいは上記ステップST6において処理部42の混雑度判断部44が自車100の走行している道路の混雑度が所定混雑度未満であると判断した場合は、上記ステップST7の減速度を制御する開始条件を変更せずに、処理部42の減速度制御部46は、減速度の制御が必要であるか否かを判断する(ステップST8)。つまり、自車100が走行する道路が一車線である場合や自車100が走行する道路が複数車線であっても混雑度が低い、つまり空いている場合は、運転者の減速意志により発生する減速度が大きくなる制御の開始条件を変更せずに自車の減速度を制御する。これは、混雑しているが自車100が走行している車線以外の車線がない場合や自車100が空いている道路を走行している場合は、他の車線から自車100と前方車両200との間に他の車両が割り込むことがないので、運転者は自車100と前方車両200との位置関係である車間距離を縮める必要がないからである。
次に、処理部42の減速度制御部46は、自車100の減速度の制御が必要であると判断すると、必要減速度を算出し、初期目標減速度を設定する(ステップST9)。必要減速度は、ECU4の入出力ポート41を介して入力された前方車両検出装置3により検出された前方車両200の相対車速および上記ステップST8で算出された車間時間に基づいて、記憶部43に格納されている相対車速と車間時間とに基づくマップにより算出される。また、初期目標減速度は、上記算出された必要減速度に基づいて決定される。なお、処理部42の減速度制御部46は、減速度の制御が必要でないと判断すると、減速度の制御が必要となるまで、ステップST1〜ステップST8を繰り返す。
次に、処理部42の減速度制御部46は、上記算出された初期目標減速度に基づいて、車両自動ブレーキ装置14による自車100の制動力を算出する。自車100の減速度の制御を開始する(ステップST10)。具体的には、まず、減速度制御部46は、初期目標減速度に基づいて車両自動ブレーキ装置14による自車100の制動力を算出する。従って、必要減速度が自動変速機2のある変速段において発生するエンジンブレーキによる減速度以上である場合は、車両自動ブレーキ装置14による自車100の制動力が減速度として付加される。つまり、減速度制御部46は、運転者の減速意志により発生する減速度が大きくなるように、車両自動ブレーキ装置14を制御する。しかし、この発明では、上記ステップST7において、自車100の減速度の制御を開始し難くするようにするので、自車100の減速度が大きくなることを抑制することができる。
次に、処理部42の減速度制御部46は、自車100の実際の減速度である実減速度が必要減速度以上であるか否かを判断する(ステップST11)。具体的には、処理部42の減速度制御部46は、車速センサ12により検出される自車100の車速の単位時間当たりにおける減少に基づいて実減速度を算出し、この算出された実減速度が上記ステップST9におい算出した必要減速度以上であるか否かを判断する。
次に、処理部42の減速度制御部46は、実減速度が必要減速度以上である場合は、必要減速度を再度算出し、目標減速度を再度設定する(ステップST12)。なお、減速度制御部46は、この再度算出された必要減速度および再度設定された目標減速度に基づいて、自車の減速度を制御する。また、減速度制御部46は、実減速度が必要減速度未満であると判断すると、フラグをチェック、つまりF=1とする(ステップST18)。そして、実減速度が必要減速度以上となるまで、ステップST1、ステップST2,ステップST11を繰り返す。
次に、処理部42の減速度制御部46は、必要減速度が所定減速度以下であるか否かを判断する(ステップST14)。ここで、所定減速度とは、自車100の減速度を車両自動ブレーキ装置14による制御を行う必要がない減速度をいう。
次に、処理部42の減速度制御部46は、必要減速度が所定減速度以下である場合は、自車の減速度の制御を終了(ステップST14)し、フラグをクリア、つまりF=0とする(ステップST15)。なお、減速度制御部46は、必要減速度が所定減速度を超えていると判断すると、フラグをチェック、つまりF=2とする(ステップST19)。そして、必要減速度が所定減速度以下となるまで、ステップST1、ステップST2,ステップST12、ステップST13を繰り返す。
なお、処理部42は、運転者の減速意志がないと判断すると、つまり運転者がアクセルペダルを踏み込みアクセルセンサ11が一定の操作量(アクセルペダルの操作)を検出すると、減速度制御部46により自車100の減速度の制御が開始されている場合は、減速度の制御を終了(ステップST16)し、フラグをクリア、つまりF=0とする(ステップST17)。
以上のように、この発明にかかる車両の駆動力制御装置および駆動力制御方法では、自車の減速度の制御を開始し難くすることで、自車100と前方車両200との車間距離が縮まった際に、運転者の減速意志、例えば運転者がアクセルペダルから足を離した際に発生するエンジンブレーキによる減速度は小さくなり、車間距離は徐々に一定となり離れることとなる。これにより、運転者は、混雑している道路を走行している自車100を前方車両200に近づけた状態とするために、アクセルペダルの踏み込みによる車両の加速とアクセルペダルを足から離すことによる車両の減速という操作を繰り返す頻度が減少し、自車の走行する道路の混雑時における運転者の違和感や不快感を低減することができる。
なお、上記実施例では、運転者が自車の走行する道路が混雑していると判断した際に、処理部42の減速度制御部46による自車の減速度の制御において、減速度の制御の開始条件を変更(ステップST7)したが、この発明はこれに限定されるものではない。上記減速度の制御の開始条件を変更せずに、処理部42の減速度制御部46が算出する必要減速度に必要な記憶部43に格納されている相対車速と車間時間とに基づくマップを変更しても良い。つまり、このマップに基づいて減速度制御部46により算出される必要減速度がマップを変更しない際に算出される必要減速度よりも小さくなるようにマップを変更する。これにより、自車100と前方車両200との車間距離が縮まった際に、運転者の減速意志による減速度は小さくなり、車間距離は徐々に一定となり離れることができる。
なお、上記実施例では、ECU4の処理部42の混雑度判断部44は、カーナビゲーション5から入力された道路情報を取得して、この道路情報により自車が走行している道路の混雑度を判断するが、この発明はこれに限定されるものではない。例えば、自車100の車線以外の車線を走行する車両、つまり自車100の周辺を走行する周辺車両を検出する周辺車両検出手段である自車100の前部に取り付けられた前方検出装置と同様なレーザレーダ装置を自車複数個取り付ける。そして、処理部42の混雑度判断部44は、この周辺車両検出手段により検出された周辺車両の台数に基づいて混雑度を判断しても良い。この場合は、道路を走行している自車の実際の現在位置における混雑度を自車100の周辺車両の台数に基づいて判断することができる。これにより、運転者の減速意志により発生する減速度の変化が自車100の現在位置における混雑度に基づいて起こるため、運転者の違和感や不快感を低減することができる。
また、例えば、車両の室内の運転席周辺に混雑度検出手段である混雑度スイッチを設け、運転者が自車100の走行する道路が混雑していると判断した際に、この混雑度スイッチをONとすることで、処理部42の混雑度判断部44は、この自車100が走行する道路の混雑度が高いと判断しても良い。つまり、混雑度検出手段により検出された運転者の混雑意思に基づいて、自車100が走行する道路の混雑度が高いと判断しても良い。この場合は、道路を走行している自車100の実際の現在位置における混雑度を運転者の経験に基づいて判断することができる。これにより、運転者の意志によりこの運転者の減速意志により発生する減速度の変化が起こるため、運転者の違和感や不快感を低減することができる。
また、上記実施例では、ECU4の処理部42の車線数判断部45が取得された車線数情報に基づいて自車100が走行している車線が複数車線であるか否かを判断した(ステップST3,4)後に、処理部42の混雑度判断部44が取得された道路情報に基づいて自車100が走行している道路の混雑度を判断する(ステップST5,6)が、この発明はこれに限定されるものではない。上記ステップST3,4はなくても良い。つまり、処理部42の車線数判断部45を設けずに、自車100が走行している車線を判断せずに、処理部42の混雑度判断部44が取得された道路情報に基づいて自車100が走行している道路の混雑度を判断しても良い。これは、自車100が混雑している1車線の道路を走行している場合に、自車100の後方に位置する後方車両により運転者の圧迫感が大きくなり、自車100と前方車両200との車間距離を縮めようとする場合もあるからである。
また、上記実施例において、ECU4の混雑度判断部44が取得された道路情報に基づいて自車100が走行している道路の混雑度を判断する前提条件を付加しても良い。例えば、ナビゲーションシステム5の処理部53が算出する自車100が走行している道路の道路種別(一般道路、高速道路)をECU4の入出力ポート41を介して処理部42に入力し、この自車100が走行している道路が高速道路である場合にECU4の混雑度判断部44が混雑度を判断するようにしても良い。また、ECU4の入出力ポート41を介して処理部42に入力された車速センサ12により検出された自車100の車速が一定車速(例えば、高速道路において走行する場合の車速)以上である場合に、ECU4の混雑度判断部44が混雑度を判断するようにしても良い。