JP4430966B2 - 乗員保護装置 - Google Patents

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Description

本発明は、衝突時に乗員が受ける衝撃を最小化するための乗員保護装置に関するものである。
自動車の衝突時に乗員の傷害の程度に大きく影響するのは、乗員に作用する減速度の最大値である。したがって、衝突時に乗員が受ける傷害を軽減するには、乗員に作用する減速度をできるだけ小さくする必要がある。この乗員減速度は、慣性による乗員の前方への移動がシートベルトで停止させられることによって生ずるが、シートベルトにはばね作用があるため、乗員の慣性力を受け止めたシートベルトが伸び、その伸びが最大に達してシートベルトが実質的に剛体になったところで乗員減速度がピークに達することになる。この乗員減速度のピーク値は、慣性力による乗員移動量の大きさに応じて高くなり、一般に車体の平均減速度よりも高くなると言われている。
車室減速度と乗員減速度との関係を、ばね(シートベルト)と質量(乗員の質量)とで構成する振動系への入出力とみなせば、ばねの伸びの最大値とその時刻とが車室減速度の波形(時間変化)に支配されることが分かる。したがって、衝突時の乗員減速度を低くするには、車室の平均減速度を低くするだけではなく、ばね(シートベルト)のオーバシュートがなるべく小さくなるように減速度の波形を調整する必要がある。
このような知見に基づき、本発明と同一出願人は、衝突時にシートベルトの弛みを除去するため、バックルを瞬時に牽引するアクチュエータをシートに付設するようにした乗員保護装置を既に提案している(特許文献1を参照されたい)。
特開2003−25955号公報
しかるに、上記文献に記載の構成によると、シートベルトの弛みを除去するだけのために独立して作動する専用のアクチュエータを設けねばならないので、装置が大型化すると共に構造が複雑化し、重量の増大や製造コストの増大を招く。
本発明は、このような不都合を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、シートベルトの弛み除去機能を損なわずに、小型、軽量且つ安価に構成することのできる乗員保護装置を提供することにある。
このような課題を解決するために本発明は、衝突時に車体に作用する力の向きに沿って車体に固定されたレール(7)と、着座した乗員(3)を拘束するシートベルト(4)を備え、かつレールを介して車体に支持されたシート(2)と、シートに取り付けられた第1の端部(シリンダ10)および車体に対して係脱可能に係合する第2の端部(エルボ部13、連結チューブ14、チーズ部15)を備え、衝突時に、前記第1の端部と前記第2の端部とが離間することによって、衝突荷重の前記車体への入力方向と同じ向きの加速度を前記シートに加えるように構成されたアクチュエータ(9)と、シートの側部に設けられたガイドシーブ(25)と、ガイドシーブに巻き掛けられるとともに、その一端にて第2の端部に結合され、かつ他端にて前記シートベルトを締結させるバックル(23)に結合されたケーブル(24)とを有することを特徴とするものとした。
このような本発明によれば、アクチュエータ(第1加速手段)が作動してシートが後方へ移動すると、バックル及びバックルに結合されたシートベルトが下向きに牽引され、これによってシートベルトの弛みが除去される。この構成によると、アクチュエータによって与えられるシートの移動力を利用してバックルを移動させ、バックルに結合されたシートベルトに張力を加えるので、専用のバックル移動手段が不要であり、装置を小型、軽量且つ安価に構成する上に大きな効果を奏することができる。

以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明による乗員保護装置が適用された自動車の概略構成を示している。車体の居住空間部分(車室)を構成するフロア1上には、車両進行方向に沿ってある距離を移動可能なように、後記するシート位置調節機構を介してシート2が取り付けられている。そしてシート2に着座した乗員3の移動を拘束するために、シートベルト4がシート2に連結されている。
シート位置調節機構5は、乗員3の体格に応じてシート2の前後位置を調節するための公知形式のものであり、図2に示すように、フロア1上にアンカーブラケット6をもって固定される左右一対の固定レール7と、各固定レール7上を個々に摺動可能な一対のスライダ8とからなり、一対のスライダ8にシート2のクッション部(図2では省略した)が固定される。
一対のスライダ8の対向内面間には、固定レール7に沿ってシート2を後方へ移動させる駆動力を発生するためのアクチュエータ9(第1加速手段)が配置されている。このアクチュエータ9は、図3に併せて示すように、各スライダ8の内面に固定されたシリンダ10と、シリンダ10内に摺合したピストン11と、ピストン11と一体をなす左右一対の中空ロッド12の前端同士をエルボ部13を介して相互に連結した連結チューブ14と、エルボ部13の内側にチーズ部15を介して結合されたインフレータ16とで構成されている。ここでエルボ部13とシリンダ10との開口端同士は、所定の結合力でかしめられた環状部材17で一体的に結合されている。
インフレータ16は、車体の適所に配置した減速度センサSからの信号に基づいて作動条件を判断する制御装置Cが出力する電流で点火して高圧ガスを発生するものであり、連結チューブ14を介して一対の中空ロッド12から各シリンダ10内に流入するガス圧により、ピストン11及び中空ロッド12とシリンダ10とを伸長方向へ相対移動させる駆動力を与える。
シリンダ10内には、薄板で筒状に形成された制動部材18(第2加速手段)が中空ロッド12と同軸配置されている。この制動部材18は、その遊端をピストン11との間に所定の間隔(A)をおいた状態でシリンダ10の前端側にその基端が固定されている。制動部材18は、インフレータ16が発生するガス圧でシリンダ10が押し出されるとシリンダ10と共に移動し、その遊端がピストン11に当接して押圧され、圧縮変形する際に所定の座屈応力を発生するように、材料の物性、肉厚、径寸法などが調整されている。
シリンダ10の内壁の適宜な位置には、少なくとも1つの段差19が設けられている。シリンダ10とピストン11とが伸長方向へ相対移動してピストン11が段差19を越えると、ピストン11に装着されたリング20が拡開して段差19に係合し、これによってシリンダ10とピストン11とが収縮方向へ相対移動する(シート2が前方へ戻る)ことが規制される。
チーズ部15の下面には、乗員3の運転姿勢に応じて位置調節可能なシート2の位置を固定するロック機構の解除レバー21が枢着されている。この解除レバー21は、既に実用に供されている公知形式のものであって良く、図示の例では、丸棒材を曲折した概ねコ字形をなし、枢着部21pから後方へ延出された両端に、櫛歯状のロック歯を備えたロック部材(図示せず)が一体結合されている。解除レバー21は、枢着部21pの軸に巻装された捩りコイルばね(図示せず)によってその後端を上向きに弾発付勢されており、通常は、固定レール7と一体をなすロックレール22に設けられた孔22hにロック部材が係合してシート位置を固定し、解除レバー21の前端部を引き上げるとロックレール22からロック部材が離脱してシート位置の調整を行うことができるようになっている。
シート2の一側における後部上方には、シートベルト4を繋着させるバックル23が配置されている。このバックル23の下端には、ケーブル24の上端が止め付けられている。このケーブル24は、図4に示したように、下斜め後方へ延出された後にシート2のクッション部2cの後端側に設けられたガイドシーブ25に巻き付けられて前向きに方向転換し、シート2の一側を前方へ延出され、その前端を一方のエルボ部13の側部に突設されたケーブル止め26に止め付けられている。
次に図5〜図7を参照して、路上建造物等に自動車が衝突した場合の本発明装置の作動要領について説明する。
衝突と同時に、フロア1と一体をなしかつ前方へ延出されたサイドビームBが、その前端に加わる衝撃荷重によって直ちに圧縮変形を開始する。この時、サイドビームBに発生する座屈応力による減速度を受けつつ、サイドビームBが収縮する分フロア1は前方への移動を継続する。
減速度センサSからの信号がアクチュエータ9を作動させるべき状態にあると制御装置Cが判断すると、インフレータ16に電流を供給してガス発生剤に着火する。これにより、インフレータ16からの高圧ガスが、連結チューブ14及び中空ロッド12からシリンダ10のボトム側に供給される。このシリンダ10のボトム側に作用する圧力により、シリンダ10とエルボ部13との間の環状部材17による連結が解除され、シリンダ10とエルボ部13とが分離する。
ロックレール22とロック解除レバー21とが結合しているので、ロック解除レバー21が枢着されたチーズ部15はフロア1に結合した固定レール7と実質的に一体をなしており、チーズ部15と一体のエルボ部13とシート2に結合しているシリンダ10とが分離すると、固定レール7に対してスライダ8が移動可能な状態となり、インフレータ16が発生するガス圧を受けてシート2はフロア1に対して後方へ加速される。ここでシート2と共にガイドシーブ25も後方へ移動するので、ガイドシーブ25とエルボ部13との距離が増大し、エルボ部13の側部に止め付けられたケーブル24によってバックル23が斜め下後方へ牽引され、バックル23に連結されたシートベルト4の弛みが除去される。ここでガイドシーブ25によってケーブル24の延出方向が転換しているので、シート2の移動距離Lに対するケーブル24の引き込み距離xLは、ケーブル24の折り返し角度が小さくなるのに応じて増加する。
他方、シート2に着座した乗員3は、停止せんとするフロア1に対して自身の慣性質量によって前方への移動を継続しようとするが、フロア1に対してシート2が瞬時に後方へ移動すると同時にバックル23が急激に下方へ移動してシートベルト4の伸びを吸収するので、乗員3の前方への移動とシートベルト4の伸びとが早期に釣り合い、乗員3の前方への移動量が最小限に抑えられる。
以上の過程により、フロア1に比して急峻に立ち上がる大きな減速度をもって、シート2がより早期に減速すると共に、シートベルト4の張力の増大によって乗員3の減速度も早期に立ち上がる(図5のaの領域)。
シリンダ10がさらに後方移動するに従ってピストン11はシリンダ10の内部に結合された制動部材18の遊端に当接する(図6参照)。シリンダ10にはガス圧が作用しているので、ピストン11は制動部材18を圧縮変形させる。この時発生する制動部材18の座屈応力によってシリンダ10の後方移動速度が減速すると、シート2の後方移動並びにバックル23の下方移動も減速する。これはシート2並びにバックル23に前向きの加速度が作用したのに等しい(図5のb領域)。
この状態では、シートベルト4の伸びは殆ど吸収され尽くしており、シートベルト4によって乗員3にかかる後方への荷重は制動部材18の変形ストロークによって徐々に減少し、乗員3の減速度は一定値に近づく(図5のc領域)。この過程において、シート2の前向きの加速度が消滅する、即ち、シート2の後方への移動を終了する時点に乗員3とフロア1との速度差が無くなるように、シートベルト4の特性や制動部材18のエネルギ吸収特性および制動部材18とピストン11との初期間隔寸法Aを定めると良い。
衝突終盤では、制動部材18の変形が底付き状態となって(図7参照)シート2の後退並びにバックル23の下降が停止し、フロア1とシート2及びシートベルト4との相対速度がゼロになり、シートベルト4の拘束荷重が衝突終盤の減速度とつり合うので、サイドビームBの変形応力で決まる減速度で乗員3もフロア1と一体となって減速し、この状態は車両が完全停止するまで継続する(図5のd領域)。
以上のようにして、衝突の初期に平均車体減速度より高い減速度をシート2及びシートベルト4に短時間発生させ、その後、逆方向への減速度をシート2及びシートベルト4に短時間発生させ、さらにその後車両が完全に停止するまで、乗員3が平均車体減速度と同じ減速度で減速するような減速度パターンにすることにより、乗員3に作用する減速度を従来に比べて緩和し得る所望の減速度パターンを得ることができる。
本発明装置が適用された自動車の概略構成図である。 本発明装置の要部斜視図である。 アクチュエータの初期状態の要部断面図である。 シートの概略側面図である。 減速度パターンを示すグラフである。 衝突中盤におけるアクチュエータの様子を示す要部断面図である。 衝突終盤におけるアクチュエータの様子を示す要部断面図である。
符号の説明
2 シート
3 乗員
4 シートベルト
9 アクチュエータ(第1加速手段)
13 エルボ部
18 制動部材(第2加速手段)
23 バックル
24 ケーブル
25 ガイドシーブ

Claims (1)

  1. 衝突時に車体に作用する力の向きに沿って、当該車体に固定されたレールと、
    着座した乗員を拘束するシートベルトを備え、かつ前記レールを介して前記車体に支持されたシートと、
    前記シートに取り付けられた第1の端部および前記車体に対して係脱可能に係合する第2の端部を備え、衝突時に、前記第1の端部と前記第2の端部とが離間することによって、衝突荷重の前記車体への入力方向と同じ向きの加速度を前記シートに加えるように構成されたアクチュエータと、
    前記シートの側部に設けられたガイドシーブと、
    前記ガイドシーブに巻き掛けられるとともに、その一端にて前記第2の端部に結合され、かつ他端にて前記シートベルトを締結させるバックルに結合されたケーブルと
    を有することを特徴とする乗員保護装置。
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