JP4429568B2 - 多層膜光学フィルタの膜構造設計装置及び方法、ならびに膜構造設計プログラム - Google Patents

多層膜光学フィルタの膜構造設計装置及び方法、ならびに膜構造設計プログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の異なる波長の光信号を多重化して伝送するWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)通信方式に利用される光学フィルタに適用される多層膜フィルタ、その膜構造設計方法及び装置、ならびに膜構造設計プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ブロードバンド時代の到来により、データ伝送の高速化および大容量化が求められている現在、上記WDM通信方式に大きな期待が寄せられている。
【0003】
このWDM通信方式におけるキーデバイスの1つに、上記多重化光信号から所定の波長を選択して透過させる帯域透過フィルタ(バンドパスフィルタ)がある。
【0004】
この帯域透過フィルタにおいては、選択透過波長帯域の損失が小さいこと、および他の信号波長帯域との透過率比(抑圧比)が大きいことが要求されている。上記要求特性を満足させるために、上記帯域透過フィルタとして、キャビティを複数層化(多層化)した膜構造を有する多層膜光学フィルタ(以下、単に多層膜フィルタとも記載する)が利用されている。
【0005】
なお、本明細書において、“多層”とは、複数層を表す意味として用いている。
【0006】
すなわち、多層膜フィルタは、光学基板上に、結合層(カップリング層)を介して積層された複数のキャビティを有している。そして、各キャビティは、スペーサ層(キャビティ層)と、このスペーサ層の積層方向に沿った両側に形成されており、互いに異なる屈折率を有する二種類の薄膜層(高屈折率を有する高屈折率層;H層および低屈折率を有する低屈折率層;L層)が交互かつスペーサ層に対して対称配置されて成る反射多層膜とを備えている。
【0007】
すなわち、キャビティを多層化(多段化)することにより、その透過波長特性を、広い透過帯域幅を保持したままで急峻な遮断特性(透過波長特性を表す矩形プロファイルの立ち上がりおよび立下りが急峻)に設定している。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、同一構造のキャビティを繰り返し積層すると、その透過波長特性を表す矩形プロファイルの透過波長帯域内(その両エッジ部分)にリップルが生じることが知られている。このリップルは、多層膜フィルタの透過波長特性に悪影響を及ぼす恐れがあるため、リップルの発生を最大限抑制できる多層膜フィルタの膜構造が要求されていた。
【0009】
この点、公知の文献{H.A.Macleod(「Thin-Film Optical Filters」, A.Hilger, 2000)}によれば、上記リップルの発生要因は、キャビティ(多層膜層)と光学基板および大気との光学アドミッタンスのミスマッチング(光学アドミッタンスの不整合)によるものと説明されている。
【0010】
そして、上記文献においては、上記光学アドミッタンスのミスマッチングを軽減するための一つの手段として、積層方向に沿ってL層およびH層の組み合わせが対称な対称膜層が所定の繰り返し数だけ繰り返された(重ねあわされた)対称多層膜と上記光学基板および大気に対するマッチング層(整合層)との間に中間層を介挿することが提案されている。
【0011】
すなわち、対称多層膜の光学アドミッタンスの波長特性は、上記透過波長帯域において急峻な特性を有しており、一方、上記マッチング層の光学アドミッタンスの波長特性(光学基板および大気との光学アドミッタンスの波長特性)は、上記透過波長帯域において略一定である。このため、光学アドミッタンスのミスマッチングが生じる。したがって、対称多層膜とマッチング層との間に、対称多層膜の光学アドミッタンスの波長特性よりも透過波長帯域において均一な波長特性を有する中間層を介挿して、上記ミスマッチングの軽減を図っている。
【0012】
例えば、透過波長帯域の中心波長をλ0とし、光学膜厚{膜の物理的な膜厚(物理膜厚)×その膜の屈折率}がλ0/4のH層およびL層の組み合わせから成る対称膜層(例えば、[2nH(HL)5H2nH];n=0,1,2、…)をコア層とする。そして、このコア層が所定次数q(≧2)だけ繰り返された多層膜[2nH(HL)5H2nH]qを対称多層膜とする。なお、(HL)5は、HLHLHLHLHLのように、H層およびL層の2層ペアを繰り返して5回積層された多層膜を意味している。
【0013】
そして、この対称多層膜の積層方向に沿った両側にマッチング層として[(HL)2H]を配置する際に中間層[2m(HL)5H2mH]を介挿することにより、リップルが低減することが開示されている。
【0014】
しかしながら、上述したH.A.Macleodによる多層膜フィルタの膜構造設計法では、コア層の重ね合わせによって得られる中心キャビティの厚が限定されるという問題がある。
【0015】
すなわち、上記対称多層膜[2nH(HL)5H2nH]q(但し、説明を容易にするため、q=3とする)、中間層[2m(HL)5H2mH]およびマッチング層[(HL)2H]から成る膜構造は、次式(1)
(HL)2H2mH(HL)5H2mH2nH(HL)5H2nH2nH(HL)5H2nH2nH(HL)5H2nH・・・(1)で表される(但し、対称構造であるため、片側半分のみ示している)。
【0016】
上記(1)式を展開して整理すると、
(HLHL)H2mH(HLHLHLHLHL)H2mH2nH(HLHLHLHLHL)H2nH2nH…=
(HL)2H2(m+1)H(LH)2L(HL)22(m+n+1)H(LH)2L(HL)2H2(n+n+1)(LH)2… ・・・(2)
となり、中心のキャビティ(HL)2H2(n+n+1)(LH)2のスペーサ層厚は、2(2n+1)に限定される。
【0017】
このため、多層膜フィルタの設計自由度が抑制されるという問題が生じていた。
【0018】
また、H.A.Macleodによる多層膜フィルタの膜構造設計法では、例えばCバンドおよびLバンド分離用のC/Lフィルタの膜構造設計のように、キャビティ数をさらに増加させる、すなわち、コア層の重ね合わせ数を増加させると、中心キャビティの光学アドミッタンスの波長特性がさらに急峻になる。この結果、中間層の介挿だけでは、上記光学アドミッタンスのミスマッチングを補正することができず、リップルがまた顕在化する恐れが生じていた。
【0019】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、光学アドミッタンスのミスマッチングを解消して、リップルを大幅に抑制することができる多層膜フィルタ、その膜構造設計方法及び装置、ならびに膜構造設計プログラムを提供することをその目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様によれば、中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、前記各キャビティは、(m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計する装置であって、前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出する手段と、前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計する手段と、を備え、前記設計する手段は、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出する手段で算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、前記各キャビティは、(m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計するコンピュータが実行可能なプログラムであって、コンピュータを、前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出する手段と、前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計する手段と、してそれぞれ機能させ、前記設計する手段は、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出する手段で算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする
【0022】
本発明の第3の態様によれば、中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、前記各キャビティは、(m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計する方法であって、前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出するステップと、前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計するステップと、を備え、前記設計するステップは、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出するステップで算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態に係わる多層膜フィルタ1を示す図である。なお、本実施形態においては、多層膜フィルタ1として、中心波長がλ0の所定の透過波長帯域において所定の透過波長特性、および所定の遮断波長帯域において所定の遮断波長特性をそれぞれ得るための多層膜フィルタについて説明する。
【0024】
図1に示すように、多層膜フィルタ1は、屈折率ns、光学アドミッタンスηsを有する光学基板2と、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層(カップリング層)3を介して積層された複数のキャビティ4a1〜4ak(k≧2の整数)とを備えている。なお、最上層のキャビティを1番目(4a1)とし、以下、基板2側に向かって順に番号が増え、最下層(最も基板側)のキャビティをk番目(4ak)とする。
【0025】
カップリング層3および複数のキャビティ4a1〜4akは、基板2上に例えば蒸着またはスパッタリング等の方法により成膜・積層されている。
【0026】
各キャビティ4a1〜4akは、図1に示すように、(m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層5a1〜5akを備えている。
【0027】
第1番目のキャビティ4a1は、スペーサ層5a1の積層方向に沿った両側に形成された反射多層膜6a1および6b1を備えている。
【0028】
各反射多層膜6a1および6b1は、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層7a1および7b1が交互かつスペーサ層に対して積層方向に沿って対称配置されて形成されている。
【0029】
第1の屈折率層7a1の屈折率nLは、第2の屈折率層7b1の屈折率nHより小さくなっており、以下、第1の屈折率層7a1をL層、第2の屈折率層7b1をH層と記載する。
【0030】
同様に、第2番目〜第k番目のキャビティ4a2〜4akは、スペーサ層5a2〜5akの積層方向に沿った両側に形成された反射多層膜6a2〜6akを備えている。各反射多層膜6a2〜6akは、(m3λ0)/4(m3は自然数)の光学膜厚をそれぞれ有するL層7a2〜7akおよびH層7b2〜7bkが交互かつスペーサ層に対して積層方向に沿って対称配置されて形成されている。
【0031】
図1に示す多層膜フィルタ1の各キャビティ4a1〜4akにおける各反射多層膜6a1および6b1〜6akおよび6akのL層7a1〜7akおよびH層7b1〜7bkの交互積層数(ペア数)およびスペーサ層5a1〜5akの層厚は、後述する膜構造設計処理により設計されている。
【0032】
図2は、図2に示す多層膜フィルタ1の膜構造、すなわち、各キャビティ4a1〜4akにおける各反射多層膜6a1および6b1〜6akおよび6akのL層7a1〜7akおよびH層7b1〜7bkの交互積層数およびスペーサ層5a1〜5akの膜厚を設計するための膜構造設計装置10のハードウエア構成を示す図である。
【0033】
図2に示すように、膜厚設計装置10はコンピュータシステムであり、設計者が操作して情報を入力可能な入力部11と、この入力部11に接続されたコンピュータ12と、このコンピュータ12に通信可能に接続されており、後述する膜構造設計処理を実行させるためのプログラムPを予め記憶する記憶媒体としてのメモリ13とを備えている。なお、記憶媒体としては、半導体メモリ、磁気メモリ等、様々な記憶媒体が適用可能である。
【0034】
以下、メモリ13に記憶されたプログラムPのアルゴリズム、すなわち、本実施形態の膜構造設計方法について詳細に説明する。
【0035】
光学薄膜の光学特性計算に一般に使用される4端子行列法(マトリクス法)において、基板に積層された光学特性薄膜(単層膜)iの特性行列Miは、下式(3)で表される。
【0036】
【式1】
【0037】
但し、ηiは、薄膜iの光学アドミッタンスであり、δiは、薄膜iの位相膜厚である。なお、位相膜厚δiとは、薄膜iに入射した光が薄膜i内を伝播する際の位相変化を表しており、光の薄膜iに対するその法線の入射角度をθとし、λを光の波長、Nを薄膜iの屈折率、dを薄膜iの物理膜厚とすると、位相膜厚δiは、下式(4)として表される。
【0038】
【式2】
【0039】
そして、例えば、媒質側をNO.1とし、基板側をNO.kとすると、基板に積層された多層膜NO.1〜NO.nの特性行列Mは、下式(5)式のように、各層(NO.1〜NO.n)の特性行列M1〜Mnの積で表される。
【0040】
【式3】
【0041】
したがって、基板を含んだ多層膜全体の特性行列は、下式(6)のように表され、基板を含む多層膜全体の光学アドミッタンスYは、下式(7)のように表される。
【0042】
【式4】
【0043】
【式5】
【0044】
但し、ηsは基板の光学アドミッタンスである。
【0045】
また、多層膜がその積層方向に沿って対称構造(例えば、多層膜の各層をA、Bとした際に、ABA、あるいは各層をA〜Fとした際に、ABCDEFEDCBA)を有している場合には、この積層方向に沿った対称構造を有する多層膜は、1層の等価膜として取り扱うことができ、その等価膜の等価アドミッタンスEと等価位相膜厚γで表すことができる。
【0046】
例えば、多層膜の各構成要素をA、B、C、・・・とした際に、積層方向に沿った対称構造(A、B、C、・・・、B、A)を有する多層膜の特性行列Mと等価な等価膜の特性行列MEQは、多層膜の各構成要素A、B、・・・の特性行列MA、MB、・・・を用いて下式(8)および(9)として表すことができる。
【式6】
【式7】
【0047】
但し、yA、yB・・・は、多層膜の構成要素A、B・・・の光学アドミッタンスであり、δA、δB、・・・は、多層膜の構成要素A、B・・・の位相膜厚である。
【0048】
すなわち、上記計算手法を本実施形態においても適用すれば、光学基板2上に積層された複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3から成る多層膜部分が積層方向(膜厚方向)に沿って対称構造を有していると、上記複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3から成る多層膜部分を1層の等価膜として取り扱うことができる。
【0049】
そして、上記対称等価膜の透過波長帯域における等価アドミッタンスEは、上記対称構造を成す多層膜の屈折率に等しい。したがって、上記対称等価膜の透過波長帯域における等価アドミッタンスEが光学基板2の屈折率nsに一致していると、上記対称構造を成す多層膜と光学基板2とは、光学的に同一の物体と見なすことができる。
【0050】
したがって、対称構造を成す多層膜と光学基板2との界面において光の反射は生じず、干渉に起因したリップルも生じない。
【0051】
なお、光学基板2と媒質(空気)との間、および多層膜と媒質(空気)との間には、光学アドミッタンスのミスマッチングが残存するが、この問題は周知であり、公知の反射防止層{AR(Anti-Reflection)層}を上記光学基板2と媒質(空気)との間、および多層膜と媒質(空気)との間に介挿することにより、解決できる。
【0052】
すなわち、本実施形態におけるプログラムPの膜構造設計アルゴリズムおよび膜構造設計方法の大きな特徴としては、(1)光学基板2上に積層された複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3から成る多層膜部分が積層方向(膜厚方向)に沿って対称構造とすること、(2)上記対称構造の多層膜部分の光学アドミッタンスと光学基板の屈折率とを一致させる(両者の誤差を最小にする)ことであり、その結果、多層膜部分と光学基板との間のリップルを最小限度に抑制することである。
【0053】
次に、本実施形態の全体動作について説明する。
【0054】
多層膜フィルタ1を製作するにあたり、まず、多層膜フィルタ1の膜構造を設計する。
【0055】
すなわち、設計者は、膜構造設計装置10の入力部11を介して、設計したい多層膜フィルタ1の設計波長範囲(例えば、1535nm〜1565nm;所定の透過波長帯域および遮断波長帯域を含む)、波長ステップ(例えば、0.1nm)、キャビティ数、各キャビティにおけるL層7a1・H層7b1の交互積層数の設計範囲(設計上限値および設計下限値)、各キャビティにおけるスペーサ層の膜厚(スペーサ層厚ともいう)の設計範囲(設計上限値および設計下限値)をそれぞれ入力する。
【0056】
コンピュータ12は、入力された多層膜フィルタ1の設計波長範囲、波長ステップ、キャビティ数、L層7a1・H層7b1の交互積層数の設計範囲およびスペーサ層厚の設計範囲をそれぞれ受信してメモリ13に格納する(図3;ステップS1)。
【0057】
次いで、設計者は、膜構造設計装置10の入力部11を介して、設計対象となる多層膜フィルタ1に使用される光学基板2の屈折率ns、多層膜フィルタ1に使用されるL層7a1の位相膜厚δLおよび光学アドミッタンスyL、H層7b1の位相膜厚δHおよび光学アドミッタンスyHをそれぞれコンピュータ12に入力する。
【0058】
コンピュータ12は、入力された光学基板2の屈折率ns、L層7a1の位相膜厚δL・光学アドミッタンスyL、H層7b1の位相膜厚δH・光学アドミッタンスyHをそれぞれ受信してメモリ13に格納する(ステップS2)。
【0059】
コンピュータ12は、入力された多層膜フィルタ1のキャビティ数、L層7a1・H層7b1の交互積層数の設計範囲およびスペーサ層の膜厚の設計範囲に基づいて、複数のキャビティ4a1〜4ak(kは、上記入力キャビティ数に対応)およびカップリング層3から成る多層膜部分が積層方向に沿って対称構造となり、かつ上記入力条件(キャビティ数、LH層交互積層数、スペーサ層厚)を満足する複数の膜構造モデルパターンP1〜Pxを設定する(ステップS3)。
【0060】
例えば、上記複数のキャビティおよびカップリング層から成る多層膜部分が積層方向に沿って対称構造を成す3キャビティ帯域透過フィルタ(バンドパスフィルタ)の一例を下式(10)および図4に示し、この(7)式に示された3キャビティ帯域透過フィルタを、LH交互積層数およびスペーサ層厚を指標として、次式(11)式のように省略表記する。
【0061】
Air/(HL)7H4LH(LH)7/L/(HL)7H6LH(LH)7/L/(HL)7H4LH(LH)7/Sub・・・(10)
【式8】
【0062】
本実施形態において、例えば、キャビティ数を“3”、LH層交互積層数を“7(上限値=下限値)”、スペーサ層厚を“2L(下限値)〜8L(上限値)”とすると、コンピュータ12は、複数のキャビティ4a1〜4a3およびカップリング層3から成る多層膜部分が積層方向に沿って対称構造を有し、かつ上記入力条件(キャビティ数“3”、LH層交互積層数“7”、スペーサ層厚“2L〜8L”)を満足する全ての膜構造モデルパターンを設定する。
【0063】
本実施形態においては、入力条件(キャビティ数“3”、LH層交互積層数“7”、スペーサ層厚“2L〜8L”)であるため、コンピュータ12により、下表1に示す16の膜構造モデルパターンP1〜P16が設定される。
【0064】
【表1】
【0065】
続いて、コンピュータ12は、ステップS3の処理により設定された複数の膜構造モデルパターンP1〜Pxそれぞれの構成要素となる各膜の特性行列の積、すなわち、複数の膜構造モデルパターンP1〜Pxそれぞれの設計波長範囲の各波長{λ1(=1535nm)、λ2(=1535.1nm)、・・・、λn(1565nm)}における等価膜の等価アドミッタンスE1(λ1)…E1(λn)〜Ex(λ1)…Ex(λn)を、メモリ13に格納されたL層7a1の位相膜厚δL・光学アドミッタンスyLおよびH層7b1の位相膜厚δH・光学アドミッタンスyHと上式(7)とを用いてパターン毎に算出する(ステップS4)。
【0066】
このとき、コンピュータ12は、膜構造モデルパターンP1〜Px毎の等価アドミッタンスE1(λ1)…E1(λn)〜Ex(λ1)…Ex(λn)が基板屈折率nsの2倍(2ns)を超えているか否か判断する(ステップS5)。
【0067】
このステップS5の判断の結果超えている場合には(ステップS5→YES)、等価アドミッタンスがその定義上負の値をとらないこと、および大きく値を外れたイレギュラーな点の存在により最小自乗誤差に大きな影響を与えてしまうことから、ステップS4で算出した算出値の代わりに、上記基板屈折率nsの2倍(2ns)を、上記超えているパターンの波長における等価アドミッタンスに設定する(ステップS6)。
【0068】
そして、コンピュータ12は、複数の膜構造モデルパターンP1〜Pxそれぞれの等価膜の等価アドミッタンスE1(λ1)…E1(λn)〜Ex(λ1)…Ex(λn)(算出値あるいは2ns)とメモリ13に格納された光学基板2の屈折率nsとの最小2乗誤差MS1〜MSxをパターン毎に算出する(ステップS7)。
【0069】
次いで、コンピュータ12は、算出した各最小2乗誤差MS1(λ1)…MS1(λn)〜MSx(λ1)…MSx(λn)に対応する各膜構造モデルパターンの透過波長帯域内における透過率(第1の透過率および遮断波長帯域内における透過率(第2の透過率)を、ステップS4で算出した上記膜構造モデルパターンの特性行列に基づいて算出する。
【0070】
続いて、コンピュータ12は、算出した各最小2乗誤差に対応する各第1の透過率が多層膜フィルタ1の設計仕様(所定の透過波長帯域において所定の透過波長特性を有し、所定の遮断波長帯域における所定の遮断波長特性を有すること)に基づいて決定された上記透過波長帯域内で最低限許容できる透過率値(許容透過帯閾値)以上であるか否か判断し(ステップS8)、この判断の結果、第1の透過率が上記許容透過帯閾値未満の最小2乗誤差に所定値を付加して、対応する最小2乗誤差の値を増大させる(ステップS9)。
【0071】
次いで、コンピュータ12は、算出した各最小2乗誤差に対応する各第2の透過率が上記設仕様に基づいて決定された上記遮断波長帯域内で最大現許容できる透過率値(許容遮断帯閾値)以下であるか否か判断し(ステップS10)、この判断の結果、第2の透過率が上記許容遮断帯閾値を越える最小2乗誤差に所定値を付加して、対応する最小2乗誤差の値を増大させる(ステップS11)。
【0072】
そして、コンピュータ12は、ステップS10〜S11処理後、膜構造モデルパターンP1〜Pxそれぞれの最小2乗誤差MS1(λ1)…MS1(λn)〜MSx(λ1)…MSx(λn)の内、最も小さいパターンを第1評価順位とし、以下、最小2乗誤差MS1〜MSxの値が小さい順に膜構造モデルパターンの評価順位を設定する(ステップS12)。
【0073】
すなわち、ステップS7で算出された最小2乗誤差が小さくても、対応する第1の透過率が許容透過閾値未満か、あるいは第2の透過率が許容遮断帯閾値を越えている場合には、その最小2乗誤差に所定値が付加されるため、ステップS12での評価順位は低くなる。
【0074】
そして、コンピュータ12は、評価順位が設定された膜構造モデルパターンP1〜Pxの中から、その評価順位に応じて、設計対象となるフィルタの目的に適した膜構造モデルパターンを自動的、あるいは入力部11を介した設計者の指示により選択する(ステップS13)。
【0075】
このようにして選択された膜構造パターンに基づいて成膜し、最後に、例えば媒質(空気)に対する反射防止層{AR(Anti-Reflection)層}を成膜する。この結果、フィルタ設計仕様(所定の透過波長帯域において所定の透過波長特性を有し、所定の遮断波長帯域における所定の遮断波長特性を有すること)を満足し、かつ複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3の多層膜部分の等価アドミッタンスが光学基板2の屈折率nsと略一致した多層膜フィルタ1、すなわち、透過波長帯域におけるリップルが大幅に抑制された多層膜フィルタ1を得ることができる。
【0076】
ここで、上述した膜構造設計手法(アルゴリズム)に基づいて実際に設計した多層膜フィルタの設計例について説明する。なお、この多層膜フィルタの仕様を、
(1)透過波長帯域1547.5nm〜1562.5nm:透過波長特性>−0.5dB
(2)遮断波長帯域1530.0nm〜1543.5nm:遮断波長特性<−2.5dB
として設計した。
【0077】
(実施例(設計例)1)光学基板2としてBK7(波長1550.0nmにおいて屈折率ns=1.52)を用い、中心波長λ0を1555.0nmとして、本実施形態の膜構造設計装置10(膜構造設計手法(アルゴリズム))を用いて多層膜フィルタ1の膜構造(キャビティ数を“9”とする)を実際に設計した(下式(12)および図5参照)。また、その設計結果に基づく透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質(空気)と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて図6に示した。また、AR層を空気と多層膜との間に介挿した場合の設計結果に基づくリップルおよび透過帯域幅の値を表2に示した。
【0078】
【式9】
【0079】
但し、L'およびH'は、それぞれの光学膜厚がλ0/4以外の公知の上記反射防止層(AR層)である。
【0080】
【表2】
【0081】
図6に示すように、透過波長帯域内における複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3の対称多層膜の等価アドミッタンスは、光学基板BK7の屈折率nsと略一致しており、AR層付加後の多層膜フィルタ1の透過率の波長特性において、リップルは0.007dBとなり、非常に平坦な特性が得られた。
【0082】
(比較例1)実施例1と同様に、光学基板2としてBK7(波長1550.0nmにおいて屈折率ns1.52)を用い、中心波長λ0を1555.0nmとし、コア層を[6L(LH)6L6L]、マッチング層を[(LH)3L]とする9キャビティ多層膜フィルタ(次式(13)参照)を、上述した省略表記を用いて次式(14)に示すように表した。
【0083】
【式10】
【0084】
また、その設計結果に基づく透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質(空気)と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて図7に示した。また、AR層を空気と多層膜との間に介挿した場合の設計結果に基づくリップルおよび透過帯域幅の値を表2に示した。
【0085】
図7に示すように、透過波長帯域内の中心波長λ0=1555.0nm付近においては、比較例1の多層膜フィルタの等価アドミッタンスと光学基板BK7の屈折率nsとは近似している。しかしながら、その中心波長λ0部分を外れると、多層膜フィルタの等価アドミッタンスと光学基板BK7の屈折率nsとは大きく異なっており、リップルの原因となっていることが分かる。また、AR層付加後においても、上記多層膜フィルタの透過率の波長特性が若干向上するものの、リップルについては、ほとんど改善されなかった。
【0086】
(比較例2)比較例1において、Macleod法に基づき、コア層を[6L(LH)6L6L]およびマッチング層を[(LH)3L]含む3キャビティ多層膜フィルタ(次式(11)参照)において、[2L(LH)6L2L]を中間層として上記コア層[6L(LH)6L6L]およびマッチング層[L(LH)3L]の間に介挿し(次式(15)参照)、省略表記を用いて次式(16)に示すように表した。
【0087】
【式11】
【0088】
また、その設計結果に基づく透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質(空気)と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて図8に示した。また、AR層を空気と多層膜との間に介挿した場合の設計結果に基づくリップルおよび透過帯域幅の値を表2に示した。
【0089】
図8に示すように、透過波長帯域内におけるAR層付加後の透過率特性におけるリップルは、0.050dBとなり、比較例1の場合と比較して、大幅に改善されている。しかしながら、実施例1のリップルと比べると、かなり劣っていることが分かる。
【0090】
(実施例(設計例)2)光学基板2としてWMS02、波長1550.0nmにおいて屈折率ns1=1.67)を用い、中心波長λ0を1555.0nmとして、本実施形態の膜構造設計装置10(膜構造設計手法(アルゴリズム))を用いて多層膜フィルタ1Aの膜構造(キャビティ数を“9”とする)を実際に設計した(下式(17)および図9参照)。また、その設計結果に基づく透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質(空気)と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて図10に示した。また、AR層を空気と多層膜との間に介挿した場合の設計結果に基づくリップルおよび透過帯域幅の値を表2に示した。
【0091】
【式12】
【0092】
図10に示すように、透過波長帯域内における複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3の対称多層膜の等価アドミッタンスは、光学基板WMS02の屈折率ns1と略一致しており、AR層付加後の多層膜フィルタ1Aの透過率の波長特性において、リップルは0.0010dBとなり、非常に平坦な特性が得られた。
【0093】
(比較例3)実施例1において、設計パラメータはそのままにし、光学基板2として、BK7の代わりにWMS02に変更した場合の本実施形態の膜構造設計装置10(膜構造設計手法(アルゴリズム))を用いて多層膜フィルタ1Bの膜構造(キャビティ数を“9”とする)を実際に設計した(下式(18)参照)。また、その設計結果に基づく透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質(空気)と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて図11に示した。また、AR層を空気と多層膜との間に介挿した場合の設計結果に基づくリップルおよび透過帯域幅の値を表2に示した。
【0094】
【式13】
【0095】
図11に示すように、透過波長帯域内における複数のキャビティ4a1〜4akおよびカップリング層3の対称多層膜の等価アドミッタンスは、実施例1に示したように、光学基板BK7に合わせているため、WMS02の屈折率ns1とはずれが生じた。したがって、AR層付加後の多層膜フィルタ1Bの透過率の波長特性において、リップルは0.019dBとなり、実施例1と比べて若干の低下が認められた。
【0096】
以上詳述したように、本実施形態によれば、複数のキャビティ4a1〜4a3およびカップリング層3から成る多層膜部分が積層方向に沿って対称構造を有する多層膜フィルタ1の膜構造を、LH交互積層数およびスペーサ層膜厚をパラメータとして複数の膜構造モデルパターンとして表し、その中から、光学基板2の屈折率に最も近似する光学アドミッタンスを有する膜構造モデルパターンを多層膜フィルタ1の膜構造として設計することができる。
【0097】
このため、多層膜フィルタ1と光学基板2とを光学的に同一の物体と見なすことができ、両者間の干渉に基づくリップルの発生を大幅に抑制することができる。
【0098】
なお、本実施形態においては、キャビティ数を一つの値とし、LH層交互積層数およびスペーサ層膜厚をパラメータとして膜構造モデルパターンを設定したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、キャビティ数として、下限値〜上限値を入力することにより、下限から上限までのキャビティ毎の膜構造モデルパターンを設定することができ、その中から、光学基板2の屈折率に最も近似する光学アドミッタンスを有する膜構造モデルパターンを選択することが可能である。
【0099】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的思想に基づく範囲内において、上記実施形態に対して多様な変更または改良を加えることも可能である。
【発明の効果】
【0100】
以上述べたように、本発明に係わる多層膜光学フィルタ、多層膜光学フィルタ、その膜構造設計方法及び装置、ならびに膜構造設計プログラムによれば、多層膜フィルタの複数のキャビティおよび結合層を積層方向に沿って対称構造とし、その対称構造部分を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の所定の波長帯域における光学アドミッタンスと光学基板の所定の屈折率との差を最小に設計している。
【0101】
多層膜フィルタの等価膜の光学アドミッタンスは、その等価膜の屈折率と等しいため、多層膜フィルタと光学基板とを光学的に同一の物体と見なすことができ、両者間の干渉に基づくリップルの発生を大幅に抑制することが可能になる。
【0102】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係わる多層膜フィルタを示す図。
【図2】図1に示す多層膜フィルタの膜構造を設計するための膜構造設計装置のハードウエア構成を示す図。
【図3】本発明の実施の形態における多層膜フィルタの膜構造設計処理の一例を示す概略フローチャート。
【図4】複数のキャビティおよびカップリング層から成る多層膜部分が積層方向に沿って対称構造を成す3キャビティ帯域透過フィルタの膜構造の一例を示す図。
【図5】本実施形態の膜構造設計装置を用いて実際に設計された実施例1の多層膜フィルタの膜構造を示す図。
【図6】図5に示す膜構造を有する実施例1の多層膜フィルタの透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて示すグラフ。
【図7】比較例1の多層膜フィルタの透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて示すグラフ。
【図8】比較例2の多層膜フィルタの透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて示すグラフ。
【図9】本実施形態の膜構造設計装置を用いて実際に設計された実施例2の多層膜フィルタの膜構造を示す図。
【図10】図9に示す膜構造を有する実施例2の多層膜フィルタの透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて示すグラフ。
【図11】実施例1において、その設計条件を保持しながら、光学基板を代えて設計した場合の多層膜フィルタの透過率および等価アドミッタンスの波長依存性を、AR層を媒質と多層膜との間に介挿した場合、および未介挿の場合それぞれについて示すグラフ。
【符号の説明】
1、1A、1B 多層膜フィルタ
2 光学基板
3 カップリング層
4a1〜4ak キャビティ
5a1〜5ak スペーサ層
6a1〜6ak 反射多層膜
6b1〜6bk 反射多層膜
7a1〜7ak 第1の屈折率層(L層)
7b1〜7bk 第2の屈折率層(H層)
10 膜構造設計装置
11 入力部
12 コンピュータ
13 メモリ
P プログラム

Claims (3)

  1. 中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、
    前記各キャビティは、
    (m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、
    前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、
    前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計する装置であって、
    前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出する手段と、
    前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計する手段と、
    を備え、
    前記設計する手段は、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、
    前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出する手段で算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする膜構造設計装置。
  2. 中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、
    前記各キャビティは、
    (m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、
    前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、
    前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計するコンピュータが実行可能なプログラムであって、
    コンピュータを、
    前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出する手段と、
    前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計する手段と、
    してそれぞれ機能させ、
    前記設計する手段は、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、
    前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出する手段で算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする多層膜光学フィルタの膜構造設計プログラム。
  3. 中心波長がλ0の所定の波長帯域を透過帯域とするバンドパス特性を得るためのフィルタとして、所定の屈折率を有する光学基板上に、(m1λ0)/4(m1は正の奇数)の光学膜厚を有する結合層を介して積層された複数のキャビティを有し、
    前記各キャビティは、
    (m2λ0)/2(m2は自然数)の光学膜厚を有するスペーサ層と、前記スペーサ層の前記積層方向に沿った両側に形成されており、(m3λ0)/4(m3は正の奇数)の光学膜厚をそれぞれ有し、互いに異なる屈折率を有する第1および第2の屈折率層が、前記スペーサ層を対称中心として、交互かつ前記積層方向に沿って対称配置されて成る反射多層膜と、を備え、
    前記各キャビティを構成する前記反射多層膜の第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚が、中央に配置されているキャビティを対称の中心とした対称構造を有する多層膜光学フィルタの膜構造を設計する方法であって、
    前記反射多層膜の前記交互積層数の範囲、前記スペーサ層の層厚の範囲、および、前記キャビティの数の入力を受け、これらを満たす全ての膜構造パターンを設定し、前記対称構造を有する複数のキャビティおよび前記結合層を1層の等価膜とした場合の当該等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスを全ての膜構造パターンについて算出するステップと、
    前記全ての膜構造パターンについて算出された前記透過帯域における光学アドミッタンスのそれぞれと前記光学基板の所定の屈折率との比較結果に応じて、最適な膜構造パターンを選択することにより、前記各キャビティにおける前記反射多層膜の前記第1および第2の屈折率層の交互積層数および前記スペーサ層の層厚を設計するステップと、
    を備え、
    前記設計するステップは、前記全ての膜構造パターンの中から、前記等価膜の前記透過帯域における光学アドミッタンスと前記光学基板の所定の屈折率との差が最小2乗法で最小2乗誤差になるものを最適な膜構造パターンとして選択するとともに、
    前記等価膜の前記所定の波長帯域における光学アドミッタンスの値が他のものから大きく値が外れたイレギュラーな点が存在する場合、前記光学アドミッタンスを算出するステップで算出した前記イレギュラーな算出値を回避して設定することを特徴とする多層膜光学フィルタの膜構造設計方法。
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