JP4344514B2 - 光学薄膜フィルタの設計方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は波長多重(WDM)方式の光ファイバー通信網等に用いるフィルタに関し、特に反射される信号に対し直線歪みを軽減した光学薄膜フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
波長多重方式(WDM)の光ファイバー通信網では、それぞれの波長の光信号を分離抽出あるいは合波するため光学的な挿入分岐器(ADM:add/drop multiplexer)が用いられ、その機能を実現するために波長分離用光学フィルタが用いられる。
【0003】
従来、その為のフィルタとしては、主に図10に示すFBG(Fiber Bragg Grating)、図11に示すAWG(Arrayed, Waveguide Grating)、図12示す光学薄膜フィルタの3種類の光学フィルタが用いられている。
【0004】
図10に示すFBGにおいては、フィルタ端面21からの入射光はグレイティング部15で波長選択されて反射して反射光としてフィルタ端面21より取り出される。図11に示すAWGにおいては、入射波は分波部16で分波されて移相部17を通り、波長選択部18で波長分離されて取り出される。図12に示す光学薄膜フィルタにおいては、多層の薄膜からなる反射鏡19、スペーサ14、反射鏡20を積層して構成され、各層に垂直に光が入射、透過する。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−258036号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これらのフィルタを使用した場合、透過する光信号の伝送速度が上がった場合、おもに群遅延の偏差により透過信号の波形歪みを受けることが問題にされ始めている。このため、本発明者は透過特性の群遅延の偏差が少ない帯域通過特性の光学薄膜フィルタを提案している(特許文献1)。
【0007】
従来例の図10、11に示すFBGやAWGでは、透過特性の群遅延の偏差までは考慮されておらず、もっぱら透過の振幅特性のみを考慮するか、あるいは一部のAWGでは透過の振幅特性をあまり考慮せずに、透過位相の単純な傾斜の位相補正に利用するのみであった。
【0008】
一方、光学薄膜フィルタは、現実の屈折率や膜構成で構成しなければならない。即ち、光学薄膜材料や基板ガラスの屈折率は固定されており、また層数は整数である。このため、任意の帯域幅、減衰、群遅延などの特性のフィルタが実現出来る訳ではなく、いかに目標に近い特性の層構成にするかが課題であった。
【0009】
本発明者による特許文献1の透過特性の群遅延の偏差が少ない帯域通過特性の光学薄膜フィルタは理論、原理に忠実なものであるが、実際に上記の制約までを緩和する手段には触れていない。
【0010】
本発明はこれに鑑みなされたものであり、固定された屈折率の材料と、層数が整数という条件で目的の特性を実現する手段に関するものである。特許文献1の理想的な設計理論の特性に実際の材料、構造でそれに近い特性の光学薄膜フィルタを実現するものである。このフィルタにより、理想に近い波長選択機能を実現し、さらにアドドロップモジュールを実現できる。
【0011】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明では理想の条件で設計し、それに近い実際の材料、膜構成で光学薄膜フィルタを実現し、その際生じる特性の偏差の傾向と逆の特性を、予め多項式の段階で補正して再度フィルタ構成を再設計する。
【0012】
その為に、屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティ層を連絡層を介して多段化した層構成を有する帯域通過型光学薄膜フィルタの設計方法であって、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式の上記各分母多項式の定数項を1倍より大きく1.2倍以下(以下、1〜1.2倍と示す)の値にした多項式から定ることを特徴とする。
【0013】
【作用】
本発明の光学薄膜フィルタにより、既存の材料にて目標の設計値に近い光学薄膜フィルタを実現することが出来る。この結果、波形歪みを抑えたADMなどの波長選択機能を実現できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく以下、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更・改良を施すことは何ら差し支えない。
【0015】
まず、図1に本発明の光学薄膜フィルタの具体例を示す。ガラス基板1上に反射鏡層2、3、4、5、6、7、8とスペーサ層9からなる複数のキャビティ層10、11、12、13を連絡層14を介して多重化してある。上記反射鏡層2、3、4、5、6、7、8、スペーサ層9、連絡層14はそれぞれ屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化して形成したものである。図3、図4に本発明による光学薄膜フィルタの透過群遅延特性と透過振幅特性を示す。
【0016】
以下に本発明の原理を説明する。電気回路のフィルタ理論における複素周波数sのフルビッツ多項式より、求めるフィルターの透過特性及び反射特性が定まるものとすると、このフルビッツ多項式より基準化低域通過型フィルタの素子値が定まり、該基準化低域通過型フィルタを周波数変換、等価変換することにより、図1に示す本発明の多重薄膜光学フィルタの層構成を定めることができる(詳細は特許文献1参照)。
【0017】
即ち、光学薄膜フィルタの特性は数1に示されるSパラメータにより表現できる。数2に示すように、透過特性を表すs21の分母多項式のg(s)はフルビッツの多項式を示し、分子多項式のf(s)は数3に示すように、この場合1である。透過特性はこのフルビッツの多項式のみで決まることから、群遅延偏差の少ないフルビッツの多項式を選ぶことで目的の透過特性のフィルタを実現することができる。
【0018】
【数1】
【0019】
【数2】
【0020】
【数3】
【0021】
図5と図6に通過帯域で群遅延が最大平坦である基準化低域通過型の4次のベッセルフィルタの振幅特性と群遅延特性を示す。
【0022】
光学薄膜フィルタの反射特性は数4のようにs11の分母多項式g(s)と分子多項式h(s)とで定まる。分母多項式g(s)はs21の分母多項式と同じである。一方、分子多項式はユニタリ条件の数5よりg(s)とf(s)が与えられればそれに伴い決められる。
【0023】
【数4】
【0024】
【数5】
【0025】
等価特性の群遅延時間は数6で与えられる。
【0026】
【数6】
【0027】
またポート1の反射特性の部群遅延時間は数7で与えられる。またh(s)が定まるとポート2の反射係数は数8に示すように、分子多項式の複素周波数を異符号にすることで与えられる。
【0028】
【数7】
【0029】
【数8】
【0030】
特許文献1によれば、これらの多項式を用いれば、与えられた光学薄膜材料とガラス基板材料を用いて、目標の中心周波数、通過帯域幅の光学薄膜フィルタの膜構成を設計できた。
【0031】
しかし、その膜構成の層数は計算上は任意の数となるが、実際は整数でしか実現できず、それを補う幾つかの手法を用いても目標の設計値に対していくらかの偏差が残る。特に群遅延時間の偏差はクリティカルであり、ベッセルフィルタの振幅特性と群遅延時間の両方が同時に帯域内で設計値よりも低くなり狭帯域化する偏差と成る場合は、その偏差を最適化などで低く抑えることは困難である。
【0032】
図7と図8に従来の特許文献1の設計法による4次のベッセルフィルタの振幅特性と群遅延特性を示す。膜構成と屈折率の制約で、図5と図6の基準化低域通過型フィルタの特性と比べると、振幅特性はやや狭帯域になり、これに伴い群遅延時間が平坦ではなく、緩やかな単峰特性となっている。
【0033】
一方、ベッセルフィルタのフルビッツ多項式の各係数を変化させるとそれに応じて特性も変化する。そこで、その問題に対しては、通過帯域域内の群遅延時間を緩やかに双峰特性化し、かつ振幅製の僅かな平坦化にはフルビッツ多項式の定数項a0を元の多項式よりもやや増して、1〜1.2倍してa0=1〜1.2にするのが効果的である。数9に元の4次のベッセルフィルタのフルビッツの多項式を示す。
【0034】
【数9】
【0035】
他の高次の次数の項の係数を変化させても特性に変化を与えることができるが、図4に示すように、帯域内の特性の変化が複雑となる。図4の51から55は数9の定数項a0から4次の項の係数a4を順にそれぞれ1.1×ai(i=0,1,2,3,4)にした時の群遅延時間を示している。
【0036】
51の定数項を1.1×a0=1.1(i=0)とした時が緩やかな双峰特性であるのに対し、52(i=1)〜55(i=4)で高次の項を1.1倍した特性は複雑であり、微小な特性の補正には適していない。
【0037】
また図3は51〜55に対応する振幅特性を描いた図であるが、殆ど重なり、この係数の修正では振幅特性には大きな変化はない。しかし、一般に何らかの複合的な偏差の為に群遅延特性が単峰化して狭帯域化すれば、振幅特性は必ずより鋭い単峰化して狭帯域化し、その逆の現象は起こらない。
【0038】
以上より、実際の狭帯域化したベッセルフィルタに対し、次に予めその狭帯域化の偏差の逆補正した特性の多項式に修正して、再度特許文献1による設計を行うことで、もとの目標に近い特性の光学薄膜フィルタを実際の光学薄膜材料とガラス基板で実現できる。
【0039】
図2と図3の実施例は、図4の51の群遅延を双峰化して広帯域化して導きなおした等価回路をもとに再度特許文献1の方法で設計したものである。群遅延の平坦度が図8に比べ改善され、また振幅特性の図7に比べ狭帯域化が抑えられている。
【0040】
以上の説明で示される回路網関数から導かれた等価回路を図9に示す。終端抵抗80、81の間に、キャビティ67、68、69が虚ジャイレータ66を介して接続されている。それぞれのキャビティは共振器76、77、78とその前後に接続された理想トランス70、71、72、73、74、75から成り立つ。図1の実施例の各部と図9の等価回路の各部は連絡層14が虚ジャイレータ66に、反射鏡層2〜8が理想トランス70〜75に、スペーサ層9が共振器76〜78にキャビティ層10〜13がキャビティ67〜69に対応する。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティー層を連絡層を介して多段化し、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式から、求める透過特性及び反射特性に応じて層構成を定めた帯域通過型光学薄膜フィルタであって、上記分母多項式の定数項を1〜1.2倍の値にした多項式から上記層構成を定めたことにより、目標の特性に近い特性のフィルタを現有の材料で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学薄膜フィルタの構成を示す図である。
【図2】本発明の光学薄膜フィルタの透過群遅延時間特性を示す図である。
【図3】本発明の光学薄膜フィルタの透過振幅特性を示す図である。
【図4】ベッセルフィルタの多項式の係数を変えた時の透過群遅延特性を示す図である。
【図5】ベッセルフィルタの多項式による透過群遅延特性を示す図である。
【図6】ベッセルフィルタの多項式による透過振幅特性を示す図である。
【図7】従来の設計による光学薄膜フィルタの透過群遅延特性を示す図である。
【図8】従来の設計による光学薄膜フィルタの透過振幅特性を示す図である。
【図9】光学薄膜フィルタの等価回路を示す図である。
【図10】従来のFBGを示す図である。
【図11】従来のAWGを示す図である。
【図12】従来の光学薄膜のフィルタを示す図である。
【符号の説明】
1:ガラス基板
2、3、4、5、6、7、8、19、20:反射鏡層
9:スペーサ層
10、11、12、13:キャビティ層
14:連絡層
15:グレーティング部
16:分波部
17:移相部
18:波長選択部
21:フィルタ端面
51、52、53、54、55:群遅延特性
66:虚ジャイレータ
67、68、69:キャビティ
70、71、72、73、74、75:理想トランス
76、77、78:共振器
80、81:終端抵抗
Claims (3)
- 屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティ層を連絡層を介して多段化した層構成を有する帯域通過型光学薄膜フィルタの設計方法であって、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式の上記各分母多項式の定数項を1倍より大きく1.2倍以下の値にした多項式から上記層構成を定めることを特徴とする光学薄膜フィルタの設計方法。
- 上記定数項を1倍より大きく1.1倍以下の値にしたことを特徴とする請求項1記載の光学薄膜フィルタの設計方法。
- 上記定数項を1.1倍の値にしたことを特徴とする請求項1記載の光学薄膜フィルタの設計方法。
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