JP4427149B2 - 合成繊維処理用油剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成繊維処理用油剤に関し、より詳しくは、保存安定性が良く、相溶化剤を用いる必要がなく、帯電防止性、カード通過性および繊維束の集束性に優れ、かつローラー巻きつきや繊維同士の膠着がなく、さらに容易に洗い落とすことができる、オルガノポリシロキサン(A)に特定の分子構造を有する直鎖状変性シリコーン(B)を配合した合成繊維処理用油剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
合成繊維は、それ自体多くの望ましい性質を有しているが、より望ましい性質を付与するために、しばしば、さらに処理が施される。処理された合成繊維は、多くの場合、その種類や処理剤の種類に応じて、滑性、感触または他の化学的もしくは物理的性質が改良される。そのため、これまで、より優れた性質を有する繊維を得るためのさまざまな処理剤や処理方法が提案されてきた。
【0003】
合成繊維処理用の油剤には、多種類のタイプのものが使用できるが、最も一般的には、シリコーン処理剤(基油)が用いられる。合成繊維の中でも、特に需要の伸びているポリウレタン弾性繊維の場合は、ナイロンやポリエステル等の他の繊維に較べてヤング率が低く非常に伸びやすいため、整経、編立て等の後加工工程等で取り扱いの難しく、取り扱い性のよいシリコーン処理剤を含む油剤は、益々重要性を増してきた。
しかし、このシリコーン処理剤を含む繊維処理用油剤には、若干の問題点があり、例えば、低湿時における帯電防止性が不十分なため静電気が発生したり、ポリエステル繊維等の場合、カードでのシリンダー巻きつき、ドッファー巻き上がり、コイルチューブ詰まりが発生する。また、繊維束の集束性不足のため、カード工程や練条工程において、スライバーのケンスへの収納量が少なく作業能率を低下させるなどの欠点を有している。
【0004】
低湿時の静電気を防止するには、アルキルリン酸エステルのリン酸価度やモノエステル比率を高めたり、カチオン界面活性剤や両性界面活性剤などを使用することが有効であると考えられるが、これらの界面活性剤は、非常に吸湿性が高く、ローラー巻きつきを生じたり、紡績機の金属部分を発錆させたりする欠点を有している。
また、繊維束の集束性は、動植物油、脂肪酸エステル、脂肪酸石鹸あるいは高級アルコールまたは脂肪酸の酸化エチレン付加物である非イオン型界面活性剤などを用いることによって高めることができるが、これらの成分を多量に、例えば油剤成分中80重量%以上用いると、カード通過性の悪化、油剤の粘着性が高いことによるローラー巻きつきの発生、および帯電防止能の更なる低下などが起こるため、上記改良剤の使用量に制限がある。
【0005】
さらに、上記したアルキルリン酸エステル、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、動植物油、脂肪酸エステル、および非イオン型界面活性剤は、いずれも、基油として用いられるシリコーンに透明に相溶せず、帯電防止能等の性能が現れなかったり、安定性に欠けるなどの重大な欠点を有している。
【0006】
また、最近は、種々のシリコーン系添加剤を用いることも試みられるようになり、その代表的なものとしては、例えば、下記一般式:
【0007】
【化2】
Figure 0004427149
で示されるポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。
しかし、これらのポリエーテル変性シリコーンは、オキシアルキレン基又はポリオキシアルキレンエーテル基がジメチルシロキサン骨格中にランダムに結合しているため、基油のシリコーンとの相溶性が低く、充分な性能を発現するのに必要な量のポリエーテル変性シリコーンを用いようとすると、基油とポリエーテル変性シリコーンとの相溶性を上げるための相溶化剤が必要不可欠であり、実際に油剤として使用する際、ジオクチルフタレート等のエステル類やイソステアリルアルコール等のアルコール類を相溶化剤として10〜30%程度添加すると、合成繊維に対して膨潤または黄変等を起こし繊維品質の低下を招くといった欠点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した従来のシリコーン処理剤を含む繊維処理用油剤が有する欠点を解決するために、保存安定性が良く、相溶化剤を用いる必要がなく、帯電防止性、カード通過性および繊維束の集束性に優れ、かつローラー巻きつきや繊維同士の膠着がなく、さらに容易に洗い落とすことができる、シリコーン処理剤を含む合成繊維処理用油剤を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、基油としてのオルガノポリシロキサン(A)を主成分として含有する基油に、特定の分子構造を有する直鎖状変性シリコーン(B)を添加・配合すると、(A)と(B)の両成分が互いに相溶し、その結果、これら(A)(B)の両成分を含有する組成物が合成繊維処理用油剤、特にヤング率が低く非常に伸びやすいため、整経、編立て等の後加工工程等で取り扱いの難しいポリウレタン弾性繊維処理用油剤として、優れた性能を示すことを見い出した。そして、本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、オルガノポリシロキサン(A)を主成分とする基油に、次の一般式(1):
【0011】
【化3】
Figure 0004427149
(式中、Rは脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基又はYを表し、Yは炭素−ケイ素結合を介して隣接ケイ素原子に、そして酸素原子を介してポリオキシアルキレンブロックに結合している2価の有機基を表し、Yは直接結合または炭素原子数1ないし20の2価の炭化水素基を表し、Zは反応性を有する官能基を表し、Rは水素原子又はRを表し、aは2〜100の整数を表し、mは1〜50の整数を表し、nは0〜50の整数を表し、ポリエチレンオキシブロック(CO)とポリプロピレンオキシブロック(CO)とからなるポリオキシアルキレンブロック中における前者の占める割合は25重量%以上であり、シロキサンブロックは共重合体の50〜99重量%を構成する。)で表される直鎖状変性シリコーン(B)を添加してなる合成繊維処理用油剤が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、直鎖状変性シリコーン(B)の添加量は、オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、0.1〜20重量部の範囲にあることを特徴とする上記に記載の合成繊維処理用油剤が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、オルガノポリシロキサン(A)を主成分とする基油に、上記直鎖状変性シリコーン(B)に加えて、さらに膠着防止剤(C)、相溶化剤(D)及び帯電防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種の添加剤を添加することを特徴とする上記のいずれかに記載の合成繊維処理用油剤が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.オルガノポリシロキサン(A)
本発明の合成繊維処理用油剤においては、オルガノポリシロキサン(A)は、基油を構成する主成分として用いられ、その構造は、直鎖状、分岐状、環状、網状、立体網状等のいずれのものであってよいが、直鎖状および環状のものが好適である。特に望ましいオルガノポリシロキサンは、ジメチルポリシロキサンであるが、そのメチル基の一部は、他のアルキル基、フェニル基等の一価の有機基で置換されていてもよい。
オルガノポリシロキサンの重合度は、特に制限されないが、好ましくは150以下である。また粘度は、本発明の合成繊維処理用油剤が30℃で500mm/s以下となるようなものであれば、任意でよいが、通常は5〜50mm/s程度の低粘度のものが繊維の摩擦低減の点から望ましい。
【0016】
さらに、本発明においては、上記オルガノポリシロキサン(A)に、必要に応じて鉱物油、配合油剤、或いは繊維用潤滑剤等を配合して使用することができ、その際、好適な鉱物油としては、その粘度が30℃で4〜50mm/s程度である低粘度のものがオルガノポリシロキサン(A)の場合と同じ理由から望ましい。特に精製流動パラフィンは、ポリウレタン弾性繊維を黄変、膨潤させることがなく、好ましいものである。
【0017】
2.直鎖状変性シリコーン(B)
本発明において使用される直鎖状変性シリコーン(B)は、次の一般式(1):
【0018】
【化4】
Figure 0004427149
(式中、Rは脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基又はYを表し、Yは炭素−ケイ素結合を介して隣接ケイ素原子に、そして酸素原子を介してポリオキシアルキレンブロックに結合している2価の有機基を表し、Yは直接結合または炭素原子数1ないし20の2価の炭化水素基を表し、Zは反応性を有する官能基を表し、Rは水素原子又はRを表し、aは2〜100の整数を表し、dは0〜20の整数を表し、mは1〜50の整数を表し、nは0〜50の整数を表し、ポリエチレンオキシブロック(CO)とポリプロピレンオキシブロック(CO)とからなるポリオキシアルキレンブロック中における前者の占める割合は25重量%以上であり、シロキサンブロックは共重合体の50〜99重量%を構成する。)で表されるものである。
【0019】
上記の式(1)中、Yで表される2価の炭化水素基の例は、次式:−R −、−R −CO−、−R −NHCO−、−R −NHCONHR −NHCO−又は−R −OOCNH−R −NHCO−(式中、R は2価のアルキレン基、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を表し、R は2価のアルキレン基、例えばR に対して例示した上記の基又は2価のアリーレン基、例えば−C−、−C−C−、−C−CH−C−、−C−CH(CH)−C−等を表す)で表される基である。基Yの好適な例としては、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−、−CHCHCHCH−、−(CHCO−、−(CHNHCO−、−(CHNHCONHCNHCO−、又は−(CHOOCNHCNHCO−等が挙げられる。特に好ましいYは、2価のアルキレン基、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−等であり、なかでも−CHCH(CH)CH−が最も好ましい。また、Rは、互いに独立して脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基、フェニル基、フェネチル基等であり、なかでもメチル基、エチル基及びフェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。Yは、直接結合又は炭素原子数1〜20の二価炭化水素基であり、Yに対して挙げたものと同じ物が例示でき、なかでも−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−等が好ましい。さらに、Zは、反応性を有する官能基、例えばアミノ基、アンモニウム基、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アシル基、メルカプト基、メタクリロ基、イソシアネート基、ウレイド基、ビニル基、アミド基、イミド基、イミノ基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトリル基、オキシム基、アゾ基、ヒドラゾン基、アルコキシ基、(例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アルコキシシリル基(例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等)等を有する基が挙げられる。上記したYとZからなる−Y基の具体的な例として、例えば、次式
【0020】
【化5】
Figure 0004427149
の基等を挙げることができるが、特にこれに限定されるものではない。それらの基のうち、アミノ基は、黄変防止のため、酸無水物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等で予め封鎖しておいてもよい。
【0021】
aは、2〜100の整数であるが、その好ましい範囲は20〜60、さらに好ましい範囲は30〜50の整数である。aが100を超えると、粘性が大きくなり過ぎるため製糸性が不良となり、一方、2未満であると、膠着防止効果が低下し、相溶性が不良となって綾崩れが起こるため好ましくない。
また、dは、0〜20の整数であるが、その好ましい範囲は0〜10、さらに好ましい範囲は0〜5の整数である。
【0022】
さらに、mは1〜50の整数を表し、nは0〜50の整数を表し、ポリエチレンオキシブロック(CO)とポリプロピレンオキシブロック(CO)とからなるポリオキシアルキレンブロック中における前者の占める割合は25重量%以上である。ポリエチレンオキシブロックの占める割合が25重量%未満であると、油剤処理された合成繊維は優れた帯電防止性を示さないため、望ましくない。本発明において、式中のシロキサンブロックは、直鎖状変性シリコーンの50〜99重量%、好ましくは65〜90重量%を構成する。そして、直鎖状変性シリコーン(B)の分子量は、好ましくは20万以下、より好ましくは2万以下である。
【0023】
本発明の直鎖状変性シリコーン(B)は、工業的に供給される化学材料であってもよいが、従来公知の製法によっても製造することができる。その代表的な製法の1つは、以下に示すように、ポリオキシアルキレン(C)と両末端反応性ジオルガノポリシロキサン(D)とを用いた縮重合反応である。
上記反応に用いられるポリオキシアルキレン(C)としては、例えば、次式:
【0024】
【化6】
Figure 0004427149
(式中、m及びnは上記式(1)に対して定義したものと同じ意味を表し、αはCH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、OCNCNHCO−又は水素原子等の反応性基を表す。)で表される両末端反応性ポリオキシアルキレンが挙げられる。
一方、上記の両末端反応性ジオルガノポリシロキサン(D)としては、例えば、次式:
【0025】
【化7】
Figure 0004427149
(式中、R 、Y 、Z 、及びaは上記式(1)に対して定義したものと同じ意味を表し、βのうちの1つは基αと反応性を有する基、他方はα又はRを表す。)で表される両末端反応性ジオルガノポリシロキサンが挙げられる。特に、αがCH=C(CH)−CH −である化合物と、βが−Hである化合物とを塩化白金酸等の触媒存在下で反応させる方法が好ましい。
そして、その際、両末端反応性ジオルガノポリシロキサン(D)としては、一般式:
【0026】
【化8】
Figure 0004427149
(式中、RはRの内で反応性のない基を、R、R、a、及びβは前記と同じ意味を表す。)
で表されるジオルガノポリシロキサンと、一般式:
【0027】
【化9】
Figure 0004427149
(式中、R、Y、Z、a及びβは前記と同じ意味を表す。)で表されるジオルガノポリシロキサンとの混合物を使用することが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明で用いられる直鎖状変性シリコーン(B)の末端封鎖基は、特に限定されないが、上記方法により製造した場合には、末端が、次式:
【0029】
【化10】
Figure 0004427149
(式中、R、Y、Z、R及びaは上記式(1)に対して定義したものと同じ意味を表す。)で表される基のシリコーン系ブロック交互共重合体を得ることができる。
また、これらの末端封鎖基の反応性基を利用してさらに他の化合物を付加させてもよい。例えば、前者の式で表される末端基に対してはアリルグリシジルエーテル、アリルアミン、1−オクテン等を白金触媒存在下で付加させてもよい。
【0030】
上記の反応は、公知の技術を用いて行うことができる。例えば、この反応は、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ジオキサン、THF等のエーテル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系、脂肪族炭化水素系、塩素化炭化水素系の有機溶剤中又は無溶媒で行われる。また、反応温度は、通常30〜150℃であり、塩化白金酸等の触媒を用い反応させることができるが、この製造法に限定されるものではない。
【0031】
本発明の直鎖状変性シリコーン(B)は、フェノール類、ヒドロキノン類、ベンゾキノン類、芳香族アミン類、及びビタミン類等の酸化防止剤を入れ、酸化に対する安定性を増加させることができる。かかる酸化防止剤としては、例えば、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)、ビタミンC及びEなどを用いることができる。このとき、使用する酸化防止剤の添加量は、精製された直鎖状変性シリコーンに対し10〜1000ppm、好ましくは50〜500ppmである。
【0032】
本発明の合成繊維処理用油剤においては、直鎖状変性シリコーン(B)は、前述した要件を満たす限り、1種類で用いても又は2種類以上を同時に用いてもよい。
そして、本発明の直鎖状変性シリコーン(B)は、オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、0.1〜20重量部、好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは、3〜10重量部の割合で配合することが望ましい。その配合割合が0.1重量部以下であると、膠着防止効果に劣り、一方、20重量部を超えると粘性が大きくなりすぎて製糸性が不良となるといった問題が生じるから望ましくない。
【0033】
3.合成繊維処理用油剤
本発明の油剤においては、オルガノポリシロキサン(A)を主成分とする基油に対し、上記直鎖状変性シリコーン(B)成分のほかに、さらに膠着防止剤(C)、相溶化剤(D)、帯電防止剤(E)、燃焼抑制剤、着色剤、滑剤、撥水剤、柔軟剤、風合改良剤、耐性プレスレジン等の慣用の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0034】
膠着防止剤(C)としては、金属石鹸、変性シリコーンオイル類等が例示される。金属石鹸は、一般にステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が使用されるが、中でもステアリン酸マグネシウムは膠着防止、平滑性が優れるため、よく使用される。使用量は、原油安定性、スカム、膠着防止性等の関係から、ベース処理剤全量の5%以下が望ましい。
変性シリコーンオイル類としては、アルキル変性シロキサンレジン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン類、ポリオキシアルキレン変性シリコーンオイル等が例示される。これらの変性シロキサン類は、ベース処理剤(基油)全量に対し5重量%以下が適当である。
【0035】
本発明において、相溶化剤(均一化剤)の使用は、必ずしも必要でないが、他の成分との相溶性あるいは混合するペース処理剤(基油)の種類と直鎖状変性シリコーン(B)の種類や所要配合量によっては、なお少量の相溶化剤の使用が望ましい場合がある。そのような場合であっても、従来より著しくその使用量を低減することができる。相溶化剤の好ましい使用量は、処理剤全量に対して0〜20重量%、特に0〜5重量%である。
相溶化剤(D)としては、アルコール類、例えばヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール等;エステル類、例えばジオクチルセバケート、ジラウリルフタレート、イソオクチルステアレート、イソプロピルミリステート等が例示される。
【0036】
さらに、前述したように、本発明の油剤は、合成繊維の中でも特にポリウレタン弾性繊維の処理に適しているが、その際、後加工工程における他の性能、例えば編み針等でのスカムの防止、トリコットでの経筋防止等を補助するために他の変性シリコーンを併用してもよい。このような変性シリコーンの例としては、アミノ変性シリコーン、変性シリコーンレジン等が挙げられる。
【0037】
本発明の油剤は、合成繊維の紡糸工程において、紡糸後、糸が巻き取られるまでの任意の位置でローラ給油やノズル給油で糸に対して付与させることができるが、ポリウレタン弾性繊維の場合には、紡糸口から吐出された糸が巻き取られるまでの間でオイリングローラーに接触させる方法や定量的に吐出されるノズルで給油する方法等が用いられる。
そして、本発明の油剤は、糸に対して通常2〜10重量%、好ましくは3〜6重量%付着される。
こうして得られたポリウレタン繊維は、紡糸直後でも適度な繊維/繊維間および繊維/金属間の平滑性を有し、かつ、経時後でも良好な膠着防止性を有している。さらに、チーズ使用時は、綾崩れ等も生じないので安定な操業性を得ることができる。
【0038】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、以下の実施例においてメチル基は、Meと示すこともある。
【0039】
直鎖状変性シリコーン(B)の合成例
合成例1
直鎖状変性シリコーンの原料となるポリオキシアルキレン(C)として、式:CH=C(CH)CHO(CO)14CHC(CH)=CHのジメタリルポリエーテル、また、ジオルガノポリシロキサン(D)として、式:
【0040】
【化11】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(MD20M’)と、式:
【0041】
【化12】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(M'D20M')とのモル比6:1の混合物を準備した。次に、機械的攪拌機、凝縮器、温度計および窒素送入口を備えた1000mlの4つ口フラスコ中に、上記ジメタリルポリエーテル37.1g(0.05モル)、上記ポリシロキサン(MD20M')122.1g(0.075モル)、上記ポリシロキサン(M'D20M')20.2g(0.0125モル)およびトルエン110gを仕込み、オイルバスで加熱して、フラスコ内液の温度が70〜80℃となるように維持した。その後、フラスコ内液に白金含量が2ppmとなるように塩化白金酸を添加し、ヒドロシリル化反応を行った。この反応の終了は、サンプリングした反応液1.0gをKOH/エタノール溶液50gと混合、攪拌した時に水素ガスが全く発生しないことによって判定した。最後に、反応混合物をNaHCOで中和し、濾過し、ロータリーエバポレーターにより110℃/10Paでトルエンを留去すると、式:MeSi(OSiMe 21 O(CO)14(MeSiO) 21 SiMe(以下、BABと簡易に表記する場合もある)で表される分子量3998の直鎖状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体と、式:MeSi(OSiMe 21 O(CO)14(MeSiO) 21 SiMeO(CO)14(MeSiO) 21 SiMe(以下、BABABと簡易に表記する場合もある)で表される分子量6354の直鎖状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体との混合物170.0gが得られ、混合物中における前者(BAB)と後者(BABAB)のモル比は、2:1であった。なお、得られた反応生成物をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したところ、未反応のジメタリルポリエーテルは、全量に対して0.5重量%以下であった。
【0042】
合成例2
直鎖状変性シリコーンの原料となるポリオキシアルキレン(C)として、式:CH=C(CH)CHO(CO)14CHC(CH)=CHのジメタリルポリエーテル、また、ジオルガノポリシロキサン(D)として、式:
【0043】
【化13】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(MD40M’)と、式:
【0044】
【化14】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(M'D40M')とのモル比2:3の混合物を準備した。次に、機械的攪拌機、凝縮器、温度計および窒素送入口を備えた1000mlの4つ口フラスコ中に、上記ジメタリルポリエーテル74.2g(0.10モル)、上記ポリシロキサン(MD40M')155.40g(0.05モル)、上記ポリシロキサン(M'D40M')232.05g(0.075モル)およびトルエン170gを仕込み、オイルバスで加熱して、フラスコ内液の温度が70〜80℃となるように維持した。その後、フラスコ内液に白金含量が2ppmとなるように塩化白金酸を添加し、ヒドロシリル化反応を行った。この反応の終了は、サンプリングした反応液1.0gをKOH/エタノール溶液50gと混合、攪拌した時に水素ガスが全く発生しないことによって判定した。最後に、反応混合物をNaHCOで中和し、濾過し、ロータリーエバポレーターにより110℃/10Paでトルエンを留去すると、式:MeSi(OSiMe 41 O(CO)14(MeSiO) 41 SiMeO(CO)14(MeSiO) 41 SiMeO(CO)14(MeSiO) 41 SiMeO(CO)14(MeSiO) 41 SiMe(以下、BABABABABと簡易に表記する場合もある)で表される分子量18466の直鎖状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体450gが得られた。
【0045】
合成例3
直鎖状変性シリコーンの原料となるポリオキシアルキレン(C)として、式:CH=C(CH)CHO(CO)14CHC(CH)=CHのジメタリルポリエーテル、また、ジオルガノポリシロキサン(D)として、式:
【0046】
【化15】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(MD40M’)と、式:
【0047】
【化16】
Figure 0004427149
のポリシロキサン(M'D40M')とのモル比2:1の混合物を準備した。次に、機械的攪拌機、凝縮器、温度計および窒素送入口を備えた1000mlの4つ口フラスコ中に、上記ジメタリルポリエーテル37.1g(0.05モル)、上記ポリシロキサン(MD40M')155.40g(0.05モル)、上記ポリシロキサン(M'D40M')77.35g(0.025モル)およびトルエン110gを仕込み、オイルバスで加熱して、フラスコ内液の温度が70〜80℃となるように維持した。その後、フラスコ内液に白金含量が2ppmとなるように塩化白金酸を添加し、ヒドロシリル化反応を行った。この反応の終了は、サンプリングした反応液1.0gをKOH/エタノール溶液50gと混合、攪拌した時に水素ガスが全く発生しないことによって判定した。最後に、反応混合物をNaHCOで中和し、濾過し、ロータリーエバポレーターにより110℃/10Paでトルエンを留去すると、式:MeSi(OSiMe 41 O(CO)14(MeSiO) 41 SiMeO(CO)14(MeSiO) 41 SiMeO(CO)14(MeSiO) 41 SiMe(以下、BABABと簡易に表記する場合もある)で表される分子量10794の直鎖状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレンブロック共重合体260gが得られた。
【0048】
実施例1
合成例1、合成例2又は合成例3で得られた直鎖状変性シリコーンとジメチルポリシロキサン(25℃における粘度:10mm/s)との−5℃および25℃における相溶性を調査するために、両者を試験管中で混合したところ、いずれの温度でも任意の割合で混和し、透明でかつ均一な溶液となった。しかも、得られた溶液は、0℃の温度下で3ヶ月放置しても安定であった。
一方、式:
【0049】
【化17】
Figure 0004427149
で表される市販の変性シリコーンの場合は、ジメチルポリシロキサンとの相溶性が十分ではなかった。
【0050】
実施例2
(1)油剤の調製
市販のポリウレタン弾性糸(14de)をn−ヘプタンを使用して超音波洗浄法で連続脱脂し、ノーオイル糸を調製した後、以下のような組成の油剤(ポリウレタン弾性繊維処理用油剤)をフィラメント重量に対して約5%付与した。
【0051】
油剤A(本発明)
ジメチルポリシロキサン(粘度:10mm/s、25℃) 97
合成例1で得られた反応混合物(粘度:370mm/s、25℃) 3
(油剤粘度:10.3mm/s、25℃)
油剤B(本発明)
ジメチルポリシロキサン(粘度:10mm/s、25℃) 90
合成例1で得られた反応混合物(粘度:370mm/s、25℃) 10
(油剤粘度:12.4mm/s、25℃)
油剤C(本発明)
ジメチルポリシロキサン(粘度:10mm/s、25℃) 98
合成例2で得られた反応物(粘度:5400mm/s、25℃) 2
(油剤粘度:12.1mm/s、25℃)
油剤D(本発明)
ジメチルポリシロキサン(粘度:10mm/s、25℃) 95
合成例3で得られた反応物(粘度:1200mm/s、25℃) 5
(油剤粘度:14.6mm/s、25℃)
油剤E(比較例)
ジメチルポリシロキサン(粘度:10mm/s、25℃) 97
実施例1の市販の変性シリコーン(粘度:2500mm/s、25℃) 3
(油剤粘度:17.3mm/s、25℃)
なお、上記各油剤の配合比率は、いずれも重量比である。本発明の油剤組成は、上記実施例記載の処方に限定されるものではない。
【0052】
(2)摩擦係数測定
上記各油により処理されたポリウレタン弾性糸の走行糸を摩擦体に直角に掛け、一端に荷重(TI=7g)をつるし、他端をUゲージを30mm/分で移動し、摩擦体との間に生じる摩擦力(μs)とスティックスリップ(R)を測定した。 その測定結果を下記の表1に示した。
【0053】
【表1】
Figure 0004427149
【0054】
これらの結果から以下のことがわかる。まず、比較例の油剤Eは、繊維/繊維間および繊維/セラミック間の摩擦低減効果に劣り、それに関連すると考えられる後加工工程におけるガイド等の摩擦抵抗のため、編物、織物の品質(経筋、ストリーク等)にも劣る。これは、オルガノポリシロキサンと変性シリコーンと相溶性が劣るための相分離による不均一化が原因と考えられる。これに対し、本発明に係る実施例の油剤A〜Dは、繊維/繊維間および繊維/セラミック間の摩擦低減効果に優れている。
【0055】
(3)帯電圧測定
ポリエステルステープル(1.5d,38mm)に対して、下記紡績油剤を浸漬給油法によって、0.15重量%給油したポリエステルステープルを20℃で湿度40%または80%の条件で一昼夜エージングして平衡水分量にした後、次の試験条件でカード試験を行った。その試験結果を下記の表2に示した。
【0056】
カード試験条件:小型フラットカードを使用し、以下の条件で測定した(温度20℃,湿度40%)。
・紡出速度:7m/分
・綿量:30gを紡出し、ウエッブの発生帯電量とシリンダー巻きつきを測定した。
・発生帯電量:紡出時のウエッブの発生帯電量を集電式1位差測定器で測定した。
・シリンダー巻きつき:綿量30gを紡出した時のシリンダーへの巻きつき幅を測定した。
【0057】
【表2】
Figure 0004427149
【0058】
これらの結果から以下のことがわかる。まず、比較例の油剤Eは、帯電防止性に劣り、それに関連すると考えられる高温高湿下のローラー巻きつきが多く、カード通過性にも劣る。これは、オルガノポリシロキサンと変性シリコーンとの相溶性が劣るための相分離による不均一化が原因と考えられる。これに対し、本発明に係る実施例の油剤A〜Dは、帯電防止性やカード通過性に優れている。
【0059】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明において必須成分の直鎖状変性シリコーンは、基油のシリコーンと任意の割合で相溶しかつ優れた帯電防止性を有するため、かかる直鎖状変性シリコーンを配合した油剤は、保存安定性が良く、相溶化剤を用いる必要がなく、帯電防止性、カード通過性および繊維束の集束性に優れ、かつローラー巻きつきや繊維同士の膠着がなく、さらに容易に洗い落とすことができるという利点を有する。そのため、本発明の油剤は、これらの利点を活かし、合成繊維、特にポリウレタン弾性糸処理用油剤として有用である。

Claims (3)

  1. オルガノポリシロキサン(A)を主成分とする基油に、
    一般式(1):
    Figure 0004427149
    (式中、Rは脂肪族不飽和を含まない1価の炭化水素基又はYを表し、Yは炭素−ケイ素結合を介して隣接ケイ素原子に、そして酸素原子を介してポリオキシアルキレンブロックに結合している2価の有機基を表し、Yは直接結合または炭素原子数1ないし20の2価の炭化水素基を表し、Zは反応性を有する官能基を表し、Rは水素原子又はRを表し、aは2〜100の整数を表し、mは1〜50の整数を表し、nは0〜50の整数を表し、ポリエチレンオキシブロック(CO)とポリプロピレンオキシブロック(CO)とからなるポリオキシアルキレンブロック中における前者の占める割合は25重量%以上であり、シロキサンブロックは共重合体の50〜99重量%を構成する。)で表される直鎖状変性シリコーン(B)を添加してなる合成繊維処理用油剤。
  2. 上記直鎖状変性シリコーン(B)の添加量は、オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、0.1〜20重量部の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の合成繊維処理用油剤。
  3. さらに、膠着防止剤(C)、相溶化剤(D)及び帯電防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種の添加剤を添加することを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成繊維処理用油剤。
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