JP4424569B2 - 造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材およびその製造方法 - Google Patents
造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材、詳しくは、自動車のラジエータ、ヒータなど、ろう付けによって接合される熱交換器の流体通路構成材(チューブ材)として好適に使用でき、とくに溶接偏平管として造管された場合における造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ラジエータやヒータコアなど、自動車用熱交換器のチューブ材としては、JIS A3003合金、同3005合金、同3205合金などのAl―Mn系合金を芯材とし、該芯材の一方の面にJIS BA4343合金、同4045合金、同4047合金、同4104合金などのAl―Si系合金からなるろう材をクラッドし、他の面にAl―Zn系合金やAl−Zn―Mg系合金からなる犠牲陽極材をクラッドしたアルミニウム合金の3層クラッド材が使用されている。
【0003】
Al−Si系のろう材は、チューブとフインとの接合、チューブとヘッダープレートとのろう付けのためにクラッドされるものであり、ろう付け方法としては、不活性ガス雰囲気中でフッ化物系フラックスを用いて行うろう付け方法が一般的に適用されるが、真空ろう付け方法が採用されることもある。一方、犠牲陽極材はチューブの内面を構成し、熱交換器の使用中に作動流体と接して犠牲陽極作用を発揮して、芯材の孔食発生や隙間腐食を防止する。
【0004】
自動車のラジエータやヒータなどに使用されるチューブ(偏平管)は、ろう材/芯材/犠牲陽極材からなる上記3層クラッド板材を、所定の幅で帯状に切断して溶接偏平管用素材とし、この素材を犠牲陽極材を内側にして管状に成形加工しながら素材の端面を突き合わせて連続的に溶接した後、溶接部のビードを切削除去し、ついで偏平管状に成形加工して所定の寸法とし、さらに所定の長さに切断加工することにより製造される。
【0005】
近年、環境問題、さらには省エネルギー、低コスト化に対する要求から、自動車の軽量化が推進されており、これに伴って自動車用熱交換器に対する軽量化も強く要求され、チューブ材などの熱交換器構成材料をさらに薄肉化することが必要となってきている。しかしながら、ラジエータやヒーターに用いられるチューブ材を薄肉化し、特定の強度を維持するために各種の元素を添加すると耐食性が損なわれたり、材料の薄肉化に起因して溶接扁平管の造管性が悪くなり、熱交換器の生産性が著しく阻害され、熱交換器の耐久性に問題が生じる。
【0006】
通常、自動車のラジエータやヒータなどに使用されるチューブ(偏平管)の製造においては、管形状に曲成する成形加工、端面の突合わせ溶接、溶接部のビード削除、偏平管への成形加工、所定寸法への切断加工は連続ラインを使用して、100m/分程度の高速条件下で行われる。そのため、造管された溶接偏平管の溶接部には各種の欠陥が発生して品質上の問題が生じ易く、従って、とくに高品質、高生産性の観点から、造管性に優れた材料が望まれている。
【0007】
溶接偏平管の造管性の向上を図る方法として、例えばブレージングシートの製法を改善したり(特開平7−286250号公報)、芯材の結晶粒径を制御したり(特開平8−283891号公報)することにより溶接性を改善する方法や、ブレージングシートの強度特性を限定したり(特開平4−66292号公報)、耳率を制御したり(特開平4−276039号公報)することにより、溶接偏平管の切断性を改善する方法が提案されている。上記の各手段により溶接偏平管の造管性はある程度改善することができるが、材料の薄肉化に伴って使用される材料によっては、造管性の良否にバラツキが生じることがあり、製品歩留まりの向上、コスト低減の観点から、造管性についてより一層の向上が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、当該技術分野における上記従来の問題点を解消し、薄肉化された熱交換器の作動流体通路構成材料を開発するために、造管性、ろう付け性、耐食性、強度特性に対する合金成分とその組み合わせの効果、素材組織の影響などについて多角的な実験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、造管性に優れ、すなわち、管形状への曲成加工、端面の突合わせ溶接を安定して行うことができ、さらに耐食性、強度特性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の請求項1による造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材は、芯材の一方の面に犠牲陽極材をクラッドし、他方の面にAl−Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、芯材はMn:0.6〜2.0%、Cu:0.3〜1.0%、Si:0.06%以上0.5%未満、Fe:0.01〜0.4%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成され、犠牲陽極材は、Zn:0.5〜4.0%、In:0.005〜0.1%、Sn:0.01〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにSi:0.01〜0.5%、Fe:0.01〜0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成され、芯材のマトリックスが繊維組織であり、クラッド材の引張り強さが170〜260MPaであり、管形状に曲成し、突合わせ溶接して溶接偏平管に成形し、作動流体通路に用いることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2による造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材は、請求項1において、芯材が、さらにTi:0.06〜0.35%を含有することを特徴とし、本発明の請求項3による造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材は、請求項1または2において、芯材が、さらにMg:0.06〜0.4%を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4による造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材は、請求項1〜3のいずれかにおいて、犠牲陽極材が、さらにMg:0.5〜2.5%を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5による造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金クラッド材を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有する芯材と犠牲陽極材、および前記Al−Si系のろう材の鋳塊を、必要に応じて均質化処理した後、それぞれ所定の厚さまで熱間圧延し、ついで芯材、犠牲陽極材およびろう材を組み合わせて、熱間圧延によりクラッド材とし、さらに所定の厚さまで冷間圧延した後、焼鈍および冷間圧延を経て製造し、該焼鈍を芯材の再結晶温度より低い温度で行うことを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の造管性および耐食性に優れた熱交換機用高強度アルミニウム合金クラッド材を構成する各成分の限定理由およびその作用について以下に詳述する。
【0014】
<芯材合金構成成分>
Mnは、芯材の強度を向上させるよう機能する。Mnの好ましい含有量は0.6〜2.0%の範囲であり、その含有量が0.6%未満では十分な効果が得られず、2.0%を越えると鋳造時に粗大な化合物が生成し、素材の圧延加工性が劣化して健全な材料が得難くなる。
【0015】
Cuは、芯材の強度を高めると共にその電位を貴にすることにより、犠牲陽極材およびろう材との電位差を大きくし、犠牲陽極材の防食効果およびろう材の犠牲陽極効果による防食作用を増大させ、クラッド材の耐食性の向上に寄与する。また、芯材中のCuは、ろう付け加熱の際に犠牲陽極材中およびろう材中に拡散して、なだらかな濃度勾配を形成する。その結果、芯材側の電位が貴となり、犠牲陽極材およびろう材の表面側の電位が卑となって、犠牲陽極材中およびろう材中になだらかな電位勾配が形成され、腐食形態を横広がりの全面腐食型にする。Cuの好ましい含有量は0.3〜1.0%であり、含有量が0.3%未満ではその効果が十分ではなく、1.0%を越えると融点が低下して、ろう付け時に局部的な溶融が生じるおそれがある。
【0016】
Siは、芯材の強度を高める作用を有するが、0.5%以上含有すると、とくに厳しい腐食環境下で長期間使用された場合、芯材が腐食し、貫通腐食に至ることがあるため、0.5%未満とするのが好ましい。好ましい含有範囲は0.06%以上0.5%未満である。
【0017】
Feは、アルミニウム地金に不純物として含有されるものであるが、アルミニウム母材に対してカソードとして作用するため、芯材の耐食性を低下させるよう作用する。従って、その含有量は極力低く押さえることが望ましいが、Feの含有量が極めて少ない高純度のアルミニウム地金は、コスト高であり実用に供し得ないから、実用上その弊害を許容しうる範囲としてFeの含有量は、0.01〜0.4%とする。
【0018】
Tiは、芯材の耐食性をより一層向上させるよう機能する。すなわち、Tiは濃度の高い領域と低い領域とに分かれ、それらが板厚方向に交互に分布して層状となり、Ti濃度の低い領域が高い領域に比較して優先的に腐食することにより、腐食形態が層状となるため板厚方向への腐食の進行が妨げられ、その結果、材料の耐孔食性が向上する。Tiの好ましい含有量は、0.06〜0.35%の範囲であり、その含有量が0.06%未満ではその効果が十分でなく、0.35%を越えると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、素材の圧延加工性が阻害され、健全な材料が得難くなる。
【0019】
Mgは、芯材の強度を高めるよう作用する。Mgの好ましい含有量は0.06〜0.4%の範囲であり、その含有量が0.06%未満では十分な効果が得られず、0.4%を越えると、Siと反応してMg2 Siを生成し耐食性を顕著に劣化させる。
【0020】
その他の元素して、Zn、Cr、Zrなどの不可避不純物元素は、本発明の効果の妨げない範囲において芯材中に含有することが容認される。但し、Znは、芯材の電位を卑にし、犠牲陽極材およびろう材との電位差を小さくして耐食性の低下を招くので、その含有量を0.2%以下に制限することが望ましい。また、CrおよびZrは、組織の微細化を図るなどの目的で添加することを妨げないが、加工性を害するおそれがあるため、その含有量を0.3%以下に制限することが好ましい。
【0021】
<ろう材合金構成成分>
本発明におけるろう材合金としては、Al−Si系、AlーSi―Mg系、Al―Si―Mg―Bi系、Al−Si―Mg―Be系、Al−Si-Bi系、Al−Si―Be系、Al−Si―Bi―Be系などのAl−Si系合金からなるろう材、例えばJIS BA4343合金(Al―7.5%Si)、同4045合金(Al―10%Si)、4047合金(Al―12%Si)、4104合金(Al―10%Si―1.5%Mg−0.1%Bi)など、従来公知のアルミニウム合金の中から適宜選択される。
【0022】
上記ろう材には、ろう付け性を改善することを目的として、少量の、例えば0.2%以下のBi、Be、Sr、Li、Naのうちから選ばれた1種または2種以上の元素を含有させることができる。また、ろう材の電位を卑にすることにより、芯材に対するろう材の電位差を大きくして、ろう材に犠牲陽極効果を与えてクラッド材の耐食性を向上させることを目的として、少量のZn、InおよびSnのうちの1種または2種以上含有させてもよい。
【0023】
<犠牲陽極材合金構成成分>
Znは、犠牲陽極材の電位を卑にして、犠牲陽極材に、芯材に対する優れた犠牲陽極効果を付与し、クラッド材の腐食の形態を全面腐食型にして、孔食や隙間腐食を抑制するよう機能する。Znの好ましい含有量は0.5〜4.0%の範囲であり、その含有量が0.5%未満では十分な効果が得られず、4.0%を越えて含有するとその効果が飽和して、それ以上の効果が期待できないと共に、犠牲陽極材そのものの自己耐食性が低下して腐食消耗が増大するため、犠牲陽極効果が長期にわたって持続できない。
【0024】
Inは、犠牲陽極材の電位を卑にして、犠牲陽極材に、芯材に対する優れた犠牲陽極効果を付与し、クラッド材の腐食の形態を全面腐食型にして、孔食や隙間腐食を抑制するよう機能する。好ましいInの含有量は、0.005〜0.1%の範囲であり、その含有量が0.005%未満では所望の効果が期待できず、含有量が0.1%を越えると、自己耐食性が低下して犠牲陽極材の腐食消耗が増大し、また、圧延加工性も低下する。
【0025】
Snも、犠牲陽極材の電位を卑にして、犠牲陽極材に、芯材に対する優れた犠牲陽極効果を付与し、クラッド材の腐食の形態を全面腐食型にして、孔食や隙間腐食を抑制するよう機能する。好ましいSnの含有量は、0.01〜0.1%の範囲であり、その含有量が0.01%未満では所望の効果が期待できず、含有量が0.1%を越えると、自己耐食性が低下して犠牲陽極材の腐食消耗が増大し、また、圧延加工性も低下する。
【0026】
SiおよびFeは、アルミニウム地金に不純物として存在し、いずれも、アルミニウム母材に対してカソードとして作用し自己耐食性を低下させる。従って、それらの含有量は、Si0.5%以下、Fe0.5%以下に制限することが望ましい。しかしながら、SiおよびFeの含有量を極端に低く押さえた高純度のアルミニウム地金は、コスト高で実用に供し得ないため、本発明においては、それらの許容範囲を共に0.01〜0.5%に限定する。
【0027】
Mgは、クラッド材の強度を高めるよう作用する。好ましいMgの含有量は、0.5〜2.5%の範囲であり、その含有量が0.5%未満では十分な効果が得られず、2.5%を越えると素材の圧延加工性が妨げられ、健全な材料が得難くなる。
【0028】
その他の元素として、Mn、Cu、Cr、Zr、Tiなどは、本発明の効果の妨げとならない範囲において含まれてもよい。但し、MnおよびCuは、犠牲陽極材の電位を貴にし、芯材との電位差を小さくして犠牲陽極効果を低下させるので、それぞれの含有量を0.3%以下に制限することが望ましく、また、Cr、ZrおよびTiの各元素は、素材の結晶粒径を制御することを目的に添加することを妨げないが、加工性を害するおそれがあるためそれぞれ0.3%を超えない範囲で添加することが望ましい。
【0029】
<芯材の組織>
本発明において、芯材マトリックスの組織は繊維組織とすることが重要な要件である。芯材マトリックスを繊維組織とすることにより、造管工程におけるクラッド材の管形状への成形加工性や端面の突き合わせ溶接性が良好となり、造管における形状や品質のバラツキを低減することができる。芯材の組織が再結晶組織や繊維組織と再結晶組織との混合組織の場合には、造管工程におけるクラッド材の管形状への成形加工性が不均一となることがあり、それに起因してその後の端面の突き合わせ溶接性が低下するため、溶接欠陥が発生し易くなり、造管後の溶接偏平管の耐圧強度が低下するなど、品質上のバラツキが大きくなって、製造歩留まりや生産性が低下する。なお、芯材マトリックスを繊維組織とするための手法としては、アルミニウム合金クラッド材製造時の焼鈍処理温度を、芯材合金の再結晶温度よりも低い温度に調整する方法を採用するのが好ましい。
【0030】
<クラッド材の強度>
本発明においては、造管前におけるアルミニウム合金クラッド材の引張り強さを170〜260MPaの範囲に調整することが重要である。造管前のクラッド材の引張り強さは、造管工程におけるクラッド材の管形状への成形加工性および端面の突き合わせ溶接性に影響する。引張り強さが170MPa未満では管形状への成型加工時に局部変形が生じ易く、突き合わせ溶接が難しくなり、260MPaを越えると、管形状への成型加工時のスプリングバック大きくなって、突き合わせ溶接が困難になり、健全な溶接扁平管が得難くなる。なお、クラッド材の強度を上記の強度に調整するための手法としては、クラッド材を製造する際の焼鈍処理温度、冷間圧延の加工度を調整する方法を採用することができる。
【0031】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は、芯材、犠牲陽極材およびろう材を構成するアルミニウム合金を、例えば半連続鋳造法により造塊し、必要に応じて均質化処理した後、それぞれ所定の厚さまで熱間圧延し、ついで各材料を組み合わせ、常法に従って熱間圧延によりクラッド材とし、さらに所定の厚さまで冷間圧延した後、必要により焼鈍および冷間圧延を繰り返すという工程を経て製造される。
【0032】
本発明の構成によれば、芯材マトリックスを繊維組織にすることによりクラッド材の成形性と溶接性を向上させ、芯材中に含有されるMn、Cuの作用によりろう付け後の強度を高め、Si含有量を調整して厳しい環境下での耐食性を維持し、不純物としてのFeの含有量を制限すると共にTiを含有させて自己耐食性を向上させ、さらに、犠牲陽極材中のZn、In、Snの添加量を調整することにより、犠牲陽極効果を付与してクラッド材の耐食性を一層向上させ、特に、溶接偏平管の造管性および耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材とすることができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しながらさらに具体的に説明する。なお、本実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
実施例1
連続鋳造法により、表1に示す組成を有する芯材用アルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊を均質化処理した後、厚さ25mmに面削して芯材素材とした。また、表2に示す組成を有する犠牲陽極材用アルミニウム合金およびろう材用合金、JIS 4045(Al―10%Si)を、芯材用合金と同様に鋳造、面削した後、熱間圧延を施し、それぞれ厚さ3mmの皮材とし、ついでこのろう材および犠牲陽極材を、上記芯材の両面に重ね合わせて熱間圧延を行い、厚さ3mmのクラッド材を得た。その後、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延を行って、厚さ0.25mmの3層のクラッド材(調質H14材)を作製した。なお、該クラッド材の組織および引張り強さは、中間焼鈍温度および冷間圧延の加工度を調整することにより変化させた。
【0035】
上記の工程により得られたクラッド材(以下、試験材)について、引張り試験を行った。また、試験材を、ろう材表面側から板厚方向に研磨して芯材表面を露出させ、芯材表面のミクロ組織を顕微鏡で観察することにより芯材の組織を調査した。
【0036】
さらに、試験材を、ろう付け条件と同様に、フッ化物系ろう付け加熱処理(以下、NB加熱)として、フッ化物系フラックス(濃度3%)を塗布した後、窒素ガス雰囲気中、600℃で5分間の加熱を行い、加熱後の試験材について引張り試験を行なった。
【0037】
造管性の評価については、試験材を所定の幅寸法で帯状に切断し、溶接偏平管の連続製造装置を用いて、幅16mm、高さ(厚さ)1.8mmの溶接偏平管に造管した後、溶接偏平管内部の耐圧試験を実施して、耐圧強度(破壊強度)が5.0MPa(50Kgf/cm2 )以上のものを造管性良好(○)と評価し、耐圧強度が5.0MPa未満で造管性が不安定、あるいは造管が困難なものを造管性不良(×)と評価した。
【0038】
内面側(犠牲陽極材側)の耐食性の評価については、単板のろう付け加熱試験片について、外面側(ろう材側)をシールした後、Cl- 100ppm、SO4 2-100ppm、HCO3 - 100ppm、Cu2+10ppmを含む水溶液中に浸漬して、80℃で8時間加熱し、その後室温まで放冷しながら16時間放置というサイクルを繰り返し、12週間の試験を実施した後、内面側からの最大腐食深さを測定することによって行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
試験、測定および評価結果を表3に示す。表3にみられるように、本発明に従う試験材(クラッド材)No.1〜16はいずれも、素材の組織がすべて繊維状であり、素材の引張り強さは170MPa以上で、優れた造管性を示した。また、内面側浸漬試験後の最大腐食深さは、0.05〜0.12mmと浅く、内面側の耐食性が優れていることを示している。ろう付け後に相当する引張り強さは、いずれも140MPa以上の優れた強度を示した。なお、本発明に従って作製されたクラッド材はいずれも、素材の圧延加工性などの製造性に問題がないことが確認された。
【0043】
比較例1
表4に示す組成を有する芯材用アルミニウム合金を、実施例1と同様にして造塊、均質化処理、面削して芯材素材とし、表5に示す組成を有する犠牲陽極材用アルミニウム合金およびろう材用合金、JIS 4045を、実施例1と同様にして造塊、面削、熱間圧延して3.0mm厚さの皮材とし、ろう材および犠牲陽極材を芯材の両面に重ね合わせ、実施例1と同じ工程を経て、厚さ0.25mmの3層クラッド材(調質H14材)を得た。得られたクラッド材を試験材として実施例1と同一の方法に従って、各種の試験、測定、評価を行った、結果を表6および表7に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
表6および表7に示すように、本発明の条件を外れた試験材No.17〜39はいずれも、熱交換器用クラッド材として十分な性能をそなえていない。すなわち試験材No.17は、犠牲陽極材中のZn、InおよびSnの含有量が少ないため、犠牲陽極効果が不十分で耐食性が劣り、内面側の腐食試験で貫通孔が生じた。また、犠牲陽極材用合金のFe含有量が極めて少ない高純度アルミニウム地金を採用したため、コストが高く実用に供し得ないものであった。
【0049】
試験材No.18、19は、犠牲陽極材中のSiおよびFeの含有量が多いため、自己耐食性が低下して内面側の腐食試験で貫通孔が生じた。試験材No.20〜22は、犠牲陽極材中のZn、In、Snの含有量が多いため、内面側の腐食試験後の犠牲陽極材の腐食消耗が激しく、犠牲陽極効果が長期に持続しない。
【0050】
試験材No.23は、犠牲陽極材中のMg含有量が多いため、素材の圧延が困難となり健全な材料が得られず、試験材No.24は、芯材のMn含有量が少ないため、NB加熱後の引張り強さが低下し、試験材No.25は、芯材のMn含有量が多すぎるため素材の圧延加工が困難となり、健全な材料が得られなかった。
【0051】
試験材No.26は、芯材がJIS 3003合金材に相当し、芯材中のCu含有量が少ないため、NB加熱後の引張り強さが低く、また、耐食性も低下し、内面側の腐食試験で貫通孔が生じた。試験材No.27は、芯材中のCuの含有量が多すぎるため、ろう付け時の加熱により芯材に局部溶融が生じた。
【0052】
試験材No.28は、芯材中のSi含有量が少ないため、NB加熱後の引張り強さが低く、試験材No.29は、芯材中のSi含有量が多いため、内面側の腐食試験において貫通孔が生じた。試験材No.30は、芯材合金中のFe含有量の極めて少ない高純度アルミニウム地金を採用したため、コスト高となり実用的でなく、試験材No.31は、Fe含有量が多すぎて耐食性が劣り、内面側の腐食試験で貫通孔が生じた。
【0053】
試験材No.32は、芯材中のTi含有量が少ないため、内面側腐食試験による最大腐食深さが、本発明による3層クラッド材と比較して深く、耐食性に問題が残り、試験材No.33は、芯材中のTiの含有量が多すぎるため、素材の圧延が困難となり健全な材料が得られない。
【0054】
試験材No.34は、芯材中のMgの含有量が少ないため、NB加熱後の引張り強さが低く、試験材No.35は、芯材中のMgの含有量が多すぎるため耐食性が低下して、内面側の腐食試験で貫通孔が生じた。
【0055】
試験材No.36と37は、芯材の組織が再結晶組織のため,突き合わせ溶接が困難で、造管性が不安定となり耐圧強度に不足を生じた。試験材No.38は、素材の引張り強さが低く、突き合わせ溶接が困難となり、造管性が低下して健全な溶接偏平管が得られなかった。また、試験材No.39は、素材の引張り強さが高すぎるために突き合わせ溶接が難しく造管が困難となり、健全な溶接偏平管が得られなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、素材の強度を最適化すると共に、芯材マトリックスの組織を繊維状に制御し、且つ芯材および犠牲陽極材成分の最適化を図ることにより、優れた造管性および耐食性を達成した熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材およびその製造方法が提供される。当該アルミニウム合金クラッド材は、自動車用熱交換器の作動流体通路構成材料として好適に使用することができ、材料のより一層の薄肉化が可能となり、ラジエータ、ヒータなどの熱交換器の生産性の向上、軽量化、長寿命化が達成可能となる。
Claims (5)
- 芯材の一方の面に犠牲陽極材をクラッドし、他方の面にAl−Si系のろう材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、芯材はMn:0.6〜2.0%(重量%、以下同じ)、Cu:0.3〜1.0%、Si:0.06%以上0.5%未満、Fe:0.01〜0.4%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成され、犠牲陽極材は、Zn:0.5〜4.0%、In:0.005〜0.1%、Sn:0.01〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにSi:0.01〜0.5%、Fe:0.01〜0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成され、芯材のマトリックスが繊維組織であり、クラッド材の引張り強さが170〜260MPaであり、管形状に曲成し、突合わせ溶接して溶接偏平管に成形し、作動流体通路に用いることを特徴とする造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材。
- 芯材が、さらにTi:0.06〜0.35%を含有することを特徴とする請求項1に記載の造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材。
- 芯材が、さらにMg:0.06〜0.4%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材。
- 犠牲陽極材が、さらにMg:0.5〜2.5%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金クラッド材を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有する芯材と犠牲陽極材、および前記Al−Si系のろう材の鋳塊を、必要に応じて均質化処理した後、それぞれ所定の厚さまで熱間圧延し、ついで芯材、犠牲陽極材およびろう材を組み合わせて、熱間圧延によりクラッド材とし、さらに所定の厚さまで冷間圧延した後、焼鈍および冷間圧延を経て製造し、該焼鈍を芯材の再結晶温度より低い温度で行うことを特徴とする造管性および耐食性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム合金クラッド材の製造方法。
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