JP4420754B2 - 電解法による排水処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、懸濁物質、油分、シアン化合物、重金属などの各種の汚濁物質を含む排水を処理する技術、特に、これらの汚濁物質の中でもシアン化合物を含む排水を処理するのに適した技術に関する。
より詳しくは、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いて汚濁物質を含む排水を電解し、その電解により浮上分離した物質を除去して処理する電解法による排水処理方法に関する。
例えば、シアン化合物を含む排水を処理する方法として、従来、アルカリ塩素法や電解酸化法による酸化分解が用いられてきた。
しかし、酸化分解による処理の場合、その対象がシアンイオンに限定され、鉄錯体のような安定なシアン化合物の処理には有効でないことが知られている。
そこで、現在、紺青法あるいは亜鉛白法といった凝集沈殿法が主に使われており、凝集沈殿法は、懸濁物質を含む排水でも処理可能であるなど有効な技術である(凝集沈殿法に言及した適切な特許文献は見当たらない)。
しかしながら、凝集沈殿法は、多量の凝集剤を添加する必要があり、そのため、排水処理後に多量の汚泥が発生するという問題があるばかりか、非常に複雑かつ大規模な処理設備が必要となって、少量の排水が発生する場合や、短期間だけ排水が発生するような場合にそのような設備を設置することは困難となり、このようなケースでは産業廃棄物として処理されることが多いのが実態であった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いる電解浮上分離法についての検討を行った。
その結果、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いて汚濁物質を含む排水を電解し、その電解により浮上分離した物質を除去する排水処理方法では、比較的小規模な処理設備で済み、その上、たとえ汚濁物質中に鉄錯体のような安定なシアン化合物が含まれていても、シアンを所望どおりに除去できることが明らかとなった。
しかし、排水中にアルミニウムイオンが多量に溶出するため、電解処理後の排水に顕著な濁りが生じ、その濁りが排水の水質基準を上回るために、電解処理後の排水をそのまま外部へ放出することができないという新たな課題が浮上した。
本発明は、このような経過を経て完成に至ったもので、その目的は、比較的小規模な処理設備で、しかも、たとえ汚濁物質中に安定なシアン化合物が含まれていても、シアンを所望どおりに除去でき、かつ、電解処理後の排水をそのまま放出することも可能な電解法による排水処理方法を提供することにある。
本発明の第1の特徴構成は、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いて汚濁物質を含む排水を電解し、その電解により浮上分離した物質を除去して処理する電解法による排水処理方法であって、前記汚濁物質がシアン化合物を含み、前記アルミニウムイオンを溶出する電極による電解処理を一次電解処理として、その一次電解処理後の処理排水に不溶性の電極を用いて前記処理排水を二次電解し、その二次電解により浮上分離した物質を除去して処理するところにある。
本発明の第1の特徴構成によれば、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いて汚濁物質を含む排水を電解し、その電解により浮上分離した物質を除去して処理するので、比較的小規模な処理設備で済み、凝集剤も不要もしくは少量で済むために汚泥発生量が少なく、しかも、汚濁物質がシアン化合物を含むので、後述する実験結果から明らかなように、たとえ汚濁物質中に鉄錯体のような安定なシアン化合物が含まれていても、有害なシアンを所望どおりに除去できる。
そして、そのアルミニウムイオンを溶出する電極による電解処理を一次電解処理として、一次電解処理後の処理排水に不溶性の電極を用いて処理排水を二次電解し、その二次電解により浮上分離した物質を除去して処理するので、二次電解処理後の処理排水に生じる濁りが抑制される。
つまり、一次電解処理後の処理排水中には、一次電解処理時に溶出したアルミニウムイオンが多量に含まれており、そのアルミニウムイオンが二次電解時において有効に消費されるので、二次電解によってシアンのみならず、懸濁物質、油分、重金属などの各種の汚濁物質の除去が促進されるとともに、二次電解処理後の処理排水に生じる濁りが抑制され、場合によっては、その二次電解処理後の処理排水をそのまま外部へ放出することも可能となる。
本発明の第2の特徴構成は、上述した排水処理方法において、前記汚濁物質を含む排水のpHを3以下に調整して前記一次電解処理を実行するところにある。
本発明の第2の特徴構成によれば、汚濁物質を含む排水のpHを3以下に調整して一次電解処理を実行するので、後述する実験結果から明らかなように、シアンをはじめとして、各種の汚濁物質をより一層効率良く除去することができる。
本発明の電解法による排水処理方法につき、その実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の電解法による排水処理方法に使用する装置は、図1の原理図に示すように、懸濁物質、油分、シアン化合物、重金属などの各種の汚濁物質を含む排水Wを収容する一次電解槽1と、その一次電解槽1内で電解処理した後の一次処理排水W1を収容する二次電解槽2を備えている。
一次電解槽1内には、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極、具体的には、アルミニウム製の陽極と陰極で構成される一対の電極3が多数対配置されて、一次電解用電源4に接続され、二次電解槽2内には、一次処理排水W1に不溶性の電極、具体的には、チタン(Ti)と白金(Pt)の合金からなる陽極とステンレスからなる陰極で構成される一対の電極5が多数対配置されて、二次電解用電源6に接続されている。
一次電解槽1は、側面視においてほぼ直角三角形に近い形状を有し、その直角部分を挟む一辺をほぼ水平方向に向け、他辺をほぼ垂直方向に向けて配置され、多数対のアルミニウム製の電極3が、一次電解槽1の一側方である垂直壁に沿って、かつ、その上方の一部を排水Wの水面から突出させて配置されるとともに、上下方向に抜き差し自在に構成されている。
その一次電解槽1の内部は、分離板7によって上方に位置する循環部8と下方に位置する沈降部9に分離され、循環部8側に電極3が配置されるとともに、循環促進用の傾斜板8aが複数枚配置されて、電極3の下方に排水Wの流入口10が設けられ、沈降部9の下方に一次処理排水W1の流出口11が設けられている。
二次電解槽2も、一次電解槽1と概ね同じような形状を有していて、一次処理排水W1に不溶性の電極5が、その二次電解槽2内の比較的下方に配置されている。
その二次電解槽2において、その側方には一次処理排水W1の流入口12が設けられ、下方には二次処理排水W2の流出口13が設けられていて、二次電解槽2の流入口12と一次電解槽1の流出口11が、連通路14を介して互いに連通接続されている。
その一次電解槽1の流入口10には、ポンプ15を介してpH調整容器16が連通接続され、pH調整容器16には、pHセンサ17aを有するpH調整装置17や攪拌具18などが設けられ、供給管19から排水Wが供給されるように構成されている。
そして、一次電解槽1の上方には、一次電解処理により排水W上に浮上分離した物質M1を除去するレーキ状の第1掻き取り装置20が排水Wの水面に沿って往復移動自在に設けられ、二次電解槽2の上方には、二次電解処理により一次処理排水W1上に浮上分離した物質M2を除去するレーキ状の第2掻き取り装置21が一次処理排水W1の水面に沿って往復移動自在に設けられている。
ただし、実際の実施に際しては、図2に示すように、一次電解槽1と二次電解槽2が互いに隣接する状態で並設され、かつ、第1掻き取り装置20と第2掻き取り装置21がひとつのレーキ部材により構成されて、ひとつの動力源により一体的に往復移動するように構成されている。
つぎに、この電解法による排水処理装置の作用を説明するとともに、電解法による排水処理方法について言及する。
まず、処理すべき排水Wは、供給管19からpH調整容器16に供給されて、排水WのpHが調整される。具体的には、pH調整容器16内の排水Wに対してpH調整装置17から塩酸が添加され、pHセンサ17aによりpH値を検出しながら攪拌具18で攪拌されて、例えば、排水WがpH3程度に調整される。
pH3程度に調整された排水Wは、ポンプ15の作動により流入口10から一次電解槽1内に供給され、循環部8において傾斜板8aの作用により循環されながら、アルミニウム製の電極3により一次電解処理される。
この一次電解処理においては、アルミニウム製の電極3から溶出したアルミニウムイオンによる凝集作用と発生気泡による浮上分離作用によって汚濁物質が分離して浮上し、その排水W上に浮上分離した物質(フロック)M1が、第1掻き取り装置20により掻き取り除去され、物質M1が除去された後の一次処理排水W1は、流出口11から連通路14を通流し、流入口12を経て二次電解槽2内に供給される。
一次処理排水W1は、二次電解槽2内において循環されながら、チタンと白金の合金からなる一次処理排水W1に不溶性の電極5により二次電解処理される。
この二次電解処理では、電極5の表面における酸化分解と発生気泡による浮上分離作用で汚濁物質が分離して浮上し、その浮上分離した物質(フロック)M2が、第2掻き取り装置21により掻き取り除去され、二次電解処理後の二次処理排水W2は、流出口13を通って装置外へ排出され、必要な場合には適当な処理が施され、必要がなければそのまま外部へ放出される。
本発明による排水処理方法の効果を確認するため、種々の実験を行ったので、その一部について言及する。
一次電解槽1として、図1の右側に示すようなほぼ直角三角形に近い形状の電解槽を準備し、一次電解用の電極3として、厚さ3mm、面積1440cm2(このうち、液中面積は1340cm2)のアルミニウム製電極を使用した。
一次電解槽1への排水Wの流入速度は100L/hr(1.7L/min)とし、電極間空隙の容積が13Lであることから、電極との接触時間は7.8minであった。
排水Wとしての試料は、地中から採取した地下水にフェロシアン化カリウムを添加し、シアン濃度が10mg−CN/Lとなるように調整したものを用いた。ただし、地下水の状況等によってシアン濃度が変動することから、実験の度に原水を採取し、原水中のシアン濃度を分析した。
試料液中のシアン濃度は、液中の懸濁物質中に含まれるシアンも含むシアン濃度を測定することとし、JIS−K0102「工場排水試験方法」38.1.2全シアン(pH2以下で発生するシアン化水素)に従って蒸留し、全自動シアン測定装置(アナテック・ヤナコ製T−CN501)を使用して、38.4イオン電極法に従って定量した。
まず、原水pH、電流、電極間隔(電圧)をパラメータとし、図3の図表に示す各条件について実験を行った。
一次電解槽へ100L/hrの流速で原水を供給し、条件3、すなわち、原水のpHを調整することなく処理を行った。このときの原水のpHは7であった。その結果、3時間後には大量のフロックが取水口に蓄積し、全く処理できない状態となった。このとき、原水中シアン濃度9.38mg−CN/Lに対し、6.5時間処理後の処理水中シアン濃度は7.72mg−CN/Lとほとんどシアン化合物が除去できていないことが明らかとなった。
そこで、原水に塩酸を添加し、pHを3に調整した後、一次電解槽へ供給した。その結果、24時間後でもフロックがあまり析出せず、6.5時間処理後のシアン濃度も10.08から1.19mg−CN/Lとなってかなりの改善が見られた。これは、溶出したアルミニウムイオンが下記[数1]の反応により水酸化アルミニウムと平衡状態になるが、pH4以上ではほとんどアルミニウムイオンの状態で存在することができないのに対し、pH3ではかなり高濃度のアルミニウムイオンが液中に存在し、これが凝集剤としての働きをするためであると考えられる。
(数1)
Al3++3OH-←→Al(OH)3
しかし、この条件においても取水口に徐々にフロックが蓄積しており、また、処理水中のシアン濃度も排水基準の1mg−CN/Lを超過していることから、十分な処理性能を持っているとは言えない。
このような経過を経て、アルミニウム製の電極による一次電解処理だけでは確実に目標の水質まで処理することは困難と判断し、アルミニウム製の電極で処理した後の一次処理排水をその一次処理排水に不溶性の電極で二次電解処理することとした。
その際に使用したのが図1および図2に示した装置であり、アルミニウム製の電極による一次電解槽と不溶性の電極による二次電解槽を一体化させ、両方の槽の液面に浮上分離した物質をひとつの掻き取り装置で同時に掻き取ることのできる構造とした。
このような装置に原水を流速100L/hrで供給し、一次側電極へ20A(電圧約8V)、二次側電極へ4A(電圧約7V)の電流を流して電解処理した結果、二次処理排水はほぼ無色透明の状態まで処理され、6時間半処理後のシアン濃度は0.28mg−CN/Lと排水基準を大きく下回るレベルまで除去することができた。
上述のように、排水基準を下回る水質を得られる装置が完成したのを受け、条件を変えて処理することにより処理水質に影響を与えるパラメータを明らかにした。
なお、原水pH3、電流20A、電極間隔33mmを標準の条件とし、これまでに実施した処理条件を図3の図表に示し、その結果を図4の図表および図5の図表に示す。
この実験の結果は以下の通りであった。
(1)電流を10Aにすると、二次処理排水のシアン濃度が1.42mg−CN/Lと高くなった。
(2)原水pH無調整(pH7)ではほとんど処理できず、pH4でも二次処理排水のシアン濃度が1.98mg−CN/Lと排水基準を下回ることができなかった。
(3)電極間隔を縮め電圧を3Vにすると、標準条件と同じ20Aの電流を流しているにもかかわらず、二次処理排水濃度が2.83mg−CN/Lと高くなった。
以上の結果から、以下のことが明らかとなった。
(1)電流値は100L/hrの排水に対し10Aでは不十分であり、20Aで十分である。
(2)排水のpHは3以下にすることが好ましい。
(3)電圧は高いほうが好ましく、電圧5V以下では十分な処理性能が得られない。低い電圧で十分な処理性能が得られない理由は、電圧が低いと十分な水の電気分解が起こらず、生成したフロックを浮上させるために十分な気泡が発生しないためと考えられる。
その他、浮上分離した物質の発生量なども測定し、その発生量などを図4の図表に併記した。例えば、その物質は、標準の条件で排水1m3当たり9.23kg発生した。この物質は、気泡を多く含むために比重が0.35と軽く、含水率は96.7%であった。
また、条件1において排水基準を大幅に下回る水質の処理排水を得ることに成功したことを受け、同条件により24時間連続処理を行った。
その結果、原水中シアン濃度9.01mg−CN/Lに対して24時間後の二次処理排水中シアン濃度が0.21mg−CN/Lとなり、長時間連続的に処理しても高い処理性能が維持されることが確認できた。
以上の結果をまとめると、鉄シアン錯体のような安定なシアン化合物を含む排水を処理する技術として、電解浮上分離法を活用した排水処理技術の開発を行い、主としてアルミニウムイオンを溶出する電極により一次電解処理を行った後、不溶性電極により二次電解処理を行うというこれまでにない新規な処理装置を開発するに至った。
原水のpHを3以下に調整した後に処理することにより、10mg−CN/Lという高濃度の鉄シアン錯体を含む排水を排水基準を大きく下回るレベルまで処理することができ、また、原水pH以外に処理性能に影響を与える因子として電流、電圧があることが明らかとなった。
電解浮上分離法には、排水中に含まれる有害イオン以外に油分や懸濁物質を同時に除去できるという特徴があり、これらの物質で複合汚染された排水の処理に多大な威力を発揮するものと期待され、また、凝集沈殿法と比較して大幅にコンパクトな装置とすることが可能であることから、これまで産業廃棄物として廃棄されていたような小規模の排水処理現場への適用に有効である。
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、一次電解用の電極としてアルミニウム製の陽極と陰極で構成された一対の電極を示したが、少なくとも陽極のみがアルミニウム製の電極またはアルミニウムイオンを溶出する電極であればよく、本明細書においては、これらを含めて「主としてアルミニウムイオンを溶出する電極」と総称する。
また、このアルミニウムイオンを溶出する電極3の一部を排水Wの水面から上方へ突出させて上下方向に抜き差し自在に構成した例を示したが、上下方向に抜き差し自在であれば、必ずしも電極3の一部を排水Wの水面から上方へ突出させる必要はない。例えば、電極3を上方から吊下げ支持したり、電極3から上方に向けて取り替え用の把持部を連設すれば、電極3全体を排水Wの水面下に位置させることもでき、さらに、把持部などがなくても、各種の工具類を使用して水面下に位置する電極3を上下方向に抜き差しして取り替えることもできる。
(2)先の実施形態では、二次電解用の電極としてチタンと白金の合金からなる陽極とステンレスからなる陰極で構成される一対の電極を示したが、電極から何も溶出せず気泡のみを発生する電極の対であればよく、本明細書においては、これらを含めて「一次処理排水に不溶性の電極」と総称する。
電解法による排水処理装置の原理図 電解法による排水処理装置の斜視図 実験の条件を示す図表 実験の結果を示す図表 実験の結果を示す図表
符号の説明
1 一次電解槽
2 二次電解槽
3 主としてアルミニウムイオンを溶出する電極
5 処理排水に不溶性の電極
14 連通路
20,21 掻き取り装置
M1,M2 電解処理により浮上分離した物質
W 汚濁物質を含む排水
W1 処理排水

Claims (2)

  1. 主としてアルミニウムイオンを溶出する電極を用いて汚濁物質を含む排水を電解し、その電解により浮上分離した物質を除去して処理する電解法による排水処理方法であって、
    前記汚濁物質がシアン化合物を含み、前記アルミニウムイオンを溶出する電極による電解処理を一次電解処理として、その一次電解処理後の処理排水に不溶性の電極を用いて前記処理排水を二次電解し、その二次電解により浮上分離した物質を除去して処理する電解法による排水処理方法。
  2. 前記汚濁物質を含む排水のpHを3以下に調整して前記一次電解処理を実行する請求項1に記載の電解法による排水処理方法。
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