以下、場合により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
先ず、本発明の金属細線の製造方法に用いられるメソ多孔体薄膜について説明する。
前記メソ多孔体薄膜は、メソサイズの連続した細孔構造を有する薄膜である。このようなメソ多孔体薄膜の膜厚は1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合、光還元法によって金属イオンを還元させる際に、金属イオンを還元するために必要な光が薄膜の内部にまで透過しにくくなるため、金属細線が薄膜内部において形成されにくくなる傾向がある。
また、前記メソ多孔体薄膜の細孔の中心細孔直径は1〜50nmであることが好ましい。中心細孔直径が1nm未満の場合、原料溶液が細孔内に導入されにくくなるため、金属細線の形成が困難となる傾向があり、中心細孔直径が50nmを超える場合、薄膜の空隙率が大きくなるため、薄膜の強度が不十分となる傾向があるとともに、十分な細さを有する金属細線の形成が困難となる傾向がある。
なお、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径に対してプロットした細孔径分布曲線の最大ピークにおける細孔直径である。ここで、前記細孔径分布曲線は、以下の方法により求めることができる。すなわち、メソ多孔体薄膜を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
また、本発明にかかるメソ多孔体薄膜は、X線回折測定において1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。このようなX線回折のピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
更に、本発明にかかるメソ多孔体薄膜の細孔は、薄膜内で特定方向に配向していることが好ましく、配向度が90%以上であることがより好ましい。また、細孔の連続長さが100μm以上であることが好ましい。細孔がこのような配向度や連続長さを有することによって、原料溶液が毛管現象により高密度に導入されやすく、十分な長さを有する金属細線をより確実に得ることができる。なお、前記配向度とは特定の結晶軸が面内の同一方向に揃っている度合いであり、配向度が90%以上であるとは、薄膜内の細孔結晶方位の乱れが少なく、ほぼ一方向に伸びている状態を示している。このような配向度はXRD分析による特定方位の回折ピーク強度から求めることができる。また、前記連続長さは透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することで求めることができる。
本発明にかかるメソ多孔体薄膜において、前記の細孔はメソ多孔体薄膜の表面のみならず内部にも連続して形成されている。この細孔構造としては、例えば、2d−ヘキサゴナル構造(P6mm)、3d−ヘキサゴナル構造(P63/mmc)、キュービック構造(Ia3d、Pm3n又はFm3m)、ラメラ、不規則構造等が挙げられるが、中でも2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造、キュービック構造が好ましく、2d−ヘキサゴナル構造が特に好ましい。
ここで、薄膜がヘキサゴナルの細孔構造を有するとは、薄膜の細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki,et al., J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,680,1993;S.Inagaki,et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449,1996;Q.Huo,et al.,Science,268,1324,1995参照)。また、薄膜がキュービックの細孔構造を有するとは、薄膜中の細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli,et al.,Chem.Mater.,6,2317,1994;
Q.Huo,et al.,Nature,368,317,1994参照)。
なお、薄膜がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造を有する場合は、細孔の全てがこれらの規則的細孔構造である必要はない。すなわち、薄膜は、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造と不規則的細孔構造の両方を有していてもよい。しかしながら、全ての細孔のうち80%以上がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造となっていることが好ましい。
このような細孔を有するメソ多孔体薄膜は、無機系骨格の細孔壁、又は、有機/無機ハイブリッド系骨格の細孔壁を有している。
ここで、本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機系骨格を有する場合、該無機系骨格はシリケート等の無機酸化物の高分子主鎖からなる。シリケート基本骨格中のケイ素原子に代える原子、あるいはシリケート骨格に付加する原子としては、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素等を挙げることができる。
本発明にかかるメソ多孔体薄膜を構成し得るその他の無機系骨格としては、非Si系のジルコニア、チタニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化スズ、酸化ハフニウム、アルミナ等の無機酸化物、あるいはそれらの無機酸化物からなる基本骨格中に前記のシリケート骨格に付加する原子を組み込んだ複合酸化物が挙げられる。
なお、本発明においては、このような無機系の基本骨格の側鎖に種々の有機基等が付与されていてもよい。かかる側鎖としては、チオール基あるいはチオール基を含む有機基、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。
本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機/有機ハイブリッド系骨格を有する場合は、金属原子を含む高分子主鎖に、1又は2以上の炭素原子を含む有機基が、該炭素原子において前記主鎖を構成する金属原子に直接あるいは酸素原子を介して結合している。この有機基と高分子主鎖との結合は、1点であっても2点以上であってもよい。また、かかる主鎖の形態は特に限定されないが、具体的には、直鎖状、網目状、分岐鎖状等の各種形態をとることができる。
前記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖における金属原子は、特に限定されないが、具体的には、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウム、チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムであり、より好ましくはケイ素である。本発明においては、前記の各種金属原子のうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖において、炭素原子は、1又は2以上の炭素原子を備えた有機基の形態で含まれる。この有機基中の1又は2以上の炭素原子が、前記主鎖を構成する金属原子に1点あるいは2点以上で結合される。前記有機基と前記金属原子との結合部位は、有機基の末端でもよく、末端以外の他の部位であってもよい。
前記無機/有機ハイブリッド系骨格の有機基については特に限定されないが、具体的には、アルキル鎖、アルケニル鎖、ビニル鎖、アルキニル鎖、シクロアルキル鎖、ベンゼン環、ベンゼン環を含む炭化水素等の各種炭化水素基の他、各種水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等の有機官能基と1又は2以上の炭素原子を備えた化合物に由来する有機基等、各種のものを使用することができる。有機基は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、前記無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖と2点以上で結合される有機基としては、好ましくはアルキル鎖由来の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜5の鎖状アルキル鎖由来の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、具体的には、メチレン基(−CH2CH2−)等のアルキレン鎖を挙げることができる。また、好ましい有機基として、フェニレン基(−C6H4−)を挙げることができる。
前記無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子として、前記の金属原子及び炭素原子の他に、更に他の原子を含めることができる。ここで、前記無機/有機ハイブリッド系骨格を構成する他の原子については特に限定されないが、好ましくは金属原子と金属原子との間に位置される酸素原子であり、酸素原子を含む場合に形成される結合としては、具体的には、Si−O、Al−O、Ti−O、Nb−O、Sn−O、Zr−O等が挙げられる。なお、これらの結合は、ポリシロキサン、ポリアロキサン等の各種遷移金属のポリメタロキサンに含まれる金属原子と酸素原子との結合に対応する。本発明においては、無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖に含まれるこれらの結合は、1種であってもよく、あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。また、前記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖には、窒素、イオウ、各種ハロゲン等の原子が含まれていてもよい。
なお、このような無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子に結合する側鎖部分には、各種金属原子、有機官能基、無機官能基が付加されていてもよい。無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖を構成する原子の側鎖官能基としては、例えば、チオール基、カルボキシル基、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、フェニル基、アミノ基、ビニル基等を有するものが好ましい。
上述したような無機系骨格又は無機/有機ハイブリッド系骨格を有するメソ多孔体薄膜の中でも、本発明においてはシリカメソ多孔体薄膜を用いることが好ましい。
このようなメソ多孔体薄膜の作製方法について、シリカメソ多孔体薄膜の場合を例として説明する。
前記シリカメソ多孔体薄膜は、シリコンアルコキシド等のシリカ源を酸性溶媒中で反応せしめシリコンアルコキシド部分重合体を含む液体を得る部分重合工程と、前記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤溶液とを接触せしめ、前記シリコンアルコキシド部分重合体と前記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる複合体形成工程と、前記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる薄膜形成工程と、を含む製造方法により作製されることが好ましい。以下、シリカ源としてシリコンアルコキシドを用いた場合について各工程について説明する。
前記部分重合工程においては、シリコンアルコキシドを酸性溶媒中で反応せしめることにより、シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体が得られる。ここで、シリコンアルコキシドとは下記一般式(1)で表されるものである。
一般式:A(4−a)−Si−(O−R)a ・・・(1)
[式(1)中、Rは炭化水素基を表し、Aは水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は炭化水素基を表し、aは1〜4の整数を表す。]
前記一般式(1)中、Rで表される炭化水素基としては、例えば、鎖式、環式、脂環式の炭化水素基を挙げることができる。このような炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜5の鎖式アルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。また、Aが炭化水素基である場合、その炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が2〜10のアルケニル基、フェニル基、置換フェニル基を挙げることができる。前記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドは1種のみ用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドとしては、結晶性の良好なシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、Si(OCH3)4で表されるテトラメトキシシラン(TMOS)、及びSi(OC2H5)4で表されるテトラエトキシシラン(TEOS)を用いることが好ましい。
前記シリコンアルコキシドが有するアルコキシル基(−O−R)は酸性条件下で加水分解を受け水酸基(−OH)となり、その水酸基部分が縮合して高分子量化する。なお、シリコンアルコキシドがアルコキシル基以外に水酸基やハロゲン原子を有している場合はこれらの官能基が加水分解反応に寄与する場合もありうる。したがって、シリコンアルコキシド部分重合体とは、加水分解反応および縮合反応によって得られる重合体であって、アルコキシル基(−O−R)及び/又は水酸基(−OH)の一部が未反応のまま残存している重合体を意味する。
前記シリコンアルコキシド部分重合体は、シリコンアルコキシドを酸性溶媒(塩酸、硝酸等の水溶液又はアルコール溶液等)中で攪拌することにより得ることができる。なお、前記酸性溶媒に含まれる酸としては、前記の酸の他にホウ酸、臭素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸が挙げられ、これらのうちの2種以上を混合して用いることもできる。シリコンアルコキシドのアルコキシル基の加水分解反応はpHが低い領域で起こりやすいことから、系のpHを低くすることにより部分重合を促進することが可能である。なお、部分重合工程における反応温度は、例えば、15〜25℃とすることができ、反応時間は30〜90分とすることができる。
次に、複合体形成工程においては、前記部分重合工程により得られたシリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤とを接触せしめ、前記シリコンアルコキシド部分重合体と前記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる。
このような界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。
前記界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式CnH2n+1(OCH2CH2)mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。
また、このような界面活性剤としては、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、あるいはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物を用いることもできる。
更に、このような界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)x(PO)y(EO)xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
前記のトリブロックコポリマーとしては、(EO)19(PO)29(EO)19、(EO)13(PO)70(EO)13、(EO)5(PO)70(EO)5、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、(EO)106(PO)70(EO)106、(EO)100(PO)39(EO)100、(EO)19(PO)33(EO)19、(EO)26(PO)36(EO)26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。前記のトリブロックコポリマーは1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーも使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)x(PO)y)2NCH2CH2N((PO)y(EO)x)2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
このような界面活性剤の中では、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、アルキルトリメチルアンモニウム[CpH2p+1N(CH3)3]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニム中のアルキル基の炭素数は8〜18であることがより好ましい。このようなものとしては、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
前記シリコンアルコキシド部分重合体と前記界面活性剤とを接触せしめる場合には、前記シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体に界面活性剤をそのまま添加してもよく、また、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等に溶かして界面活性剤溶液とした後に添加してもよい。更に、前記界面活性剤溶液には酸を加えて、好ましい酸性雰囲気としてもよい。このような酸は、前記酸性溶媒に用いられる酸と同様のものを用いることが可能である。
前記部分重合工程により得られた液体に前記界面活性剤又は界面活性剤溶液を添加すると、溶液中で界面活性剤はミセルを形成する。このミセルが超分子鋳型となり、シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤ミセルとの複合体が形成される。このような界面活性剤ミセルの内部にはシリコンアルコキシド部分重合体が入り込まないため、ミセルの内部は最終生成物であるシリカメソ多孔体薄膜における細孔部分となる。したがって、界面活性剤の分子鎖長を変化させることにより、シリカメソ多孔体薄膜の細孔径を制御することができる。
前記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤のモル比は、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜が得られることから、シリコンアルコキシド0.1molに対して界面活性剤は0.005〜0.02molであることが好ましい。また、前記複合体形成工程は、例えば、10〜30℃において30〜90分攪拌することにより行うことができる。また、このときの溶媒の量は、シリコンアルコキシド0.1molに対して0.2〜10molの割合で混合することが好ましく、溶媒中に水が最低0.2molあることがより好ましい。このような溶媒の量が、前記下限値未満であるとシリコンアルコキシドが鎖状に縮合することが困難となる傾向にあり、前記上限値を超えると前記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド濃度および溶液の粘度が低下し、前記複合体を含む液体を基板に付着せしめる際にハジキが見られ均一な薄膜が形成しにくくなる傾向にある。
前記複合体形成工程における前記複合体を含む液体は、酸の濃度が0.00057〜0.0086eq/lであり、且つ、前記複合体を含む液体の酸の含有量がシリコンアルコキシド0.1molに対して2.3×10−4〜3.8×10−4molであることが好ましい。以下、特に断らない限り、酸の濃度とは前記複合体を含む液体中の酸の濃度であり、酸の含有量とは前記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド0.1molに対する酸の物質量とする。前記酸の濃度は0.00059〜0.0080eq/lであることがより好ましく、また前記酸の含有量は2.4×10−4〜3.5×10−4molであることがより好ましい。このような条件において作製されたシリカメソ多孔体薄膜は、結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度に特に優れたものであり、金属細線の作製に好適である。このような酸の含有量が前記下限値未満であると、加水分解速度、重縮合速度が遅くなり、シリカメソ多孔体薄膜の作製が困難となる傾向があり、また、前記上限値を超えると、得られるシリカ多孔体薄膜における結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度が不十分となる傾向がある。
また、前記複合体の組成により、得られるシリカメソ多孔体薄膜の結晶構造を制御することができる。例えば、シリコンアルコキシドとしてテトラメトキシシランを用い、界面活性剤として塩化アルキルトリメチルアンモニウムを用いた場合においては、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.04〜0.15molとすることにより結晶構造をヘキサゴナルとすることが可能となる。一方で、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.15〜0.19molとすることにより結晶構造をキュービックとすることが可能となる。
次に、薄膜形成工程を説明する。薄膜形成工程においては、前記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる。薄膜化の方法は特に制限はなく、例えば、前記複合体を含む液体を基板上に付着又は塗布せしめることによって厚さの均一な膜の形成が可能となる。このような基板としては、前記複合体を含む液体が付着又は塗布可能なものであれば、形状や材質は特に制限はなく、例えば、金属、樹脂等からなる板状成型物やフィルム等が挙げられる。基板の表面には、ある一定の周期性をもって溝や突起物等が形成されていてもよく、平坦であってもよい。
複合体を含む液体を基板に塗布する場合は、その方法は特に制限されず、各種のコーティング方法が採用可能である。例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等を用いて塗布することができる。また、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等も可能である。
前記薄膜形成工程において、前記複合体を含む液体を薄膜化する際の相対湿度は特に制限はないが、50%以上であると結晶性がより向上し好ましい。
前記複合体を含む液体を基板等に塗布する場合、その塗布厚は、その濃度により適宜選択可能である。熱収縮時のひずみによるワレを防止するために、また塗布後の加熱乾燥を効率的に行うために塗布厚は薄い方が好ましく、例えば、未乾燥状態(複合体を含む液体の状態)で10μm以下であることが好ましい。
また、薄膜形成工程の前に複合体を含む液体に溶媒を添加する溶媒添加工程を更に含むことが好ましい。溶媒を添加することにより、複合体を含む液体の粘度や固形分が低下するため、薄膜化したときに得られる膜厚を薄くすることができる。また、薄膜化途中に液体の粘度変化を少なくすることができ、得られるシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性を向上させることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒としては特に制限はないが、例えば、水やアルコールが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を用いることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒の量は特に制限されないが、添加後の液体の粘度が10Pa・s以下になるような量であることが好ましく、5Pa・s以下となるような量であることが更に好ましい。
基板に塗布する等の方法により薄膜化した後、得られた薄膜を風乾及び/又は加熱乾燥して複合体を反応させることにより、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を形成させる。加熱乾燥時には、例えば、70〜150℃、より好ましくは100〜120℃の加熱を行い、シリコンアルコキシド部分重合体の縮合反応を進めて三次元的な架橋構造を形成させる。この結果、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜が得られる。加熱乾燥の時間は、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の結晶性を高めるための時間と経済的問題を鑑みて、例えば20〜80分とすることができる。
薄膜形成工程において得られる界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の膜厚は、1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合はシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性が悪くなる傾向にある。
界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の中心細孔直径は、高い結晶性及び適度な比表面積を有した薄膜が得られることから、1〜50nmであることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜10nmであることが更に好ましい。
また、薄膜形成工程の後に、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去しシリカメソ多孔体薄膜を得る界面活性剤除去工程を更に含むことが好ましい。界面活性剤を除去する方法としては特に制限はないが、例えば、焼成による方法や水やアルコール等の溶媒で処理する方法を用いることができる。焼成による方法においては、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を300〜1000℃、好ましくは300〜600℃で焼成する。加熱時間は30分程度でもよいが、完全に界面活性剤成分を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。前記焼成は空気中で行うことが可能であり、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。また、前記焼成は酸素濃度0.1%〜25%の酸素含有雰囲気で、且つ、300〜600℃で焼成することが好ましい。
溶媒を用いて界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去する場合は、例えば、界面活性剤の溶解性の高い溶媒中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬する。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン等を使用することができる。
陽イオン性の界面活性剤を用いる場合は、少量の塩酸を添加したエタノール又は水中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬し、50〜70℃で加熱する方法を用いることができる。この方法により、陽イオン界面活性剤を抽出することができる。陰イオン性の界面活性剤を用いる場合は、陰イオンを添加した溶媒中で界面活性剤を抽出することができる。また、非イオン性の界面活性剤を用いた場合は、溶媒のみで抽出することが可能である。なお、抽出時に超音波を印加することも可能である。
以上説明したような界面活性剤が除去されたシリカメソ多孔体薄膜は、後述する金属細線形成の鋳型(ホスト材料)として好適に用いることができる。
次に、本発明の金属細線の製造方法にかかる非多孔膜について説明する。
本発明において、前記メソ多孔体薄膜の表面上に形成させる非多孔膜としては、緻密でナノサイズでの空隙のない化学的に安定な膜が好ましい。このような非多孔膜としては、例えば、CVD法或いはSOG法(Spin On Glass)による緻密なSiO2膜(USG膜(Undoped Silica Glass)と呼ばれる)、SiN膜等を挙げることができ、このような非多孔膜であれば、現在のシリコンプロセスと相性がよく、製造コストが安くなる。また、非多孔膜としては、W、Au等の金属膜及びTiN、SiC等の複合膜も使用することができる。
このようにして形成される非多孔膜の膜厚としては100〜500nmであることが好ましい。膜厚が100nm未満である場合には、金属イオンを含有する原料溶液が流出したり、金属の析出を防止する効果が得られにくい傾向があり、膜厚が500nmを超える場合には、光の透過性が低下していまい、光還元法を用いる場合に金属イオンの還元が十分に行われにくくなる傾向がある。
次に、本発明の金属細線の製造方法にかかる原料溶液について説明する。
前記原料溶液は、金属イオンを含有する溶液であり、金属塩を溶媒に溶解させることで得ることができる。前記金属塩としては特に制限されないが、例えば、8族の金属、9族の金属、10族の金属、11族の金属、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ヒ素(As)、錫(Sn)、鉛(Pb)等の金属の塩又は錯塩が挙げられる。このような前記金属塩の中でも貴金属の塩又は錯塩が好ましく、白金の塩又は錯塩が特に好ましい。また、前記金属塩としては、白金の塩又は錯塩である場合を例として、H2PtCl6、Pt(NO2)2(NH3)2、[Pt(NH3)6]Cl4、H2Pt(OH)6、PtCl2(NH3)2、Pt(NH3)4Cl2、Pt(NH3)4(OH)2、Pt(NH3)4(OH)4、K2PtCl4、PtCl4、PtCl2等が具体的に挙げられる。前記溶媒としては、例えば、水、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
また、本発明においては、前記原料溶液中に更に還元剤を溶媒として含有させることが好ましい。前記還元剤としては、常温で高い蒸気圧を有する有機系材料が好ましく、例えば、低分子量アルコール、芳香族系材料、ケトン類が挙げられる。このような還元剤は、紫外線を照射すると分解して活性水素を生成し、このようにして生成された活性水素が高い還元力を発揮する傾向にあるためである。すなわち、このような還元剤を原料溶液中に含有させることによって、金属イオンの還元をより効率的且つ確実に行うことができる傾向にある。また、このような還元剤の種類を選択することで、還元速度及び細孔内部での金属の成長を制御することが可能となる。なお、還元剤の選択は金属種及び用いる原料に対して好適なものを選ぶことが重要であり、具体的な組み合わせとしては、塩化白金酸に対してメタノールを選択する例が挙げられる。
前記原料溶液における前記金属塩の濃度としては、1〜50wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。金属塩の濃度が1wt%未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内への金属イオンの導入量が減少するため、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、金属塩の濃度が50wt%を超える場合には、原料溶液が酸性になり過ぎてメソ多孔体薄膜の骨格の崩壊が発生し、金属細線の形成が困難となる傾向がある。
また、前記原料溶液における前記還元剤の濃度は10〜80vol%であることが好ましい。還元剤の濃度が前記下限値未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元が十分に行われず、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、還元剤の濃度が前記上限値を超える場合には、相対的に金属塩の濃度が減少するため、上述したように高密度で十分な長さを有する金属細線を形成することが困難となる傾向にある。
次に、図面を参照しながら、本発明の金属細線の製造方法ついて説明する。
本発明の金属細線の製造方法は、(A)連続した細孔構造を有するメソ多孔体薄膜の表面上に非多孔膜を形成せしめる工程と、(B)前記非多孔膜の特定部位に、メソ多孔体薄膜中の細孔と外部とを導通させる原料溶液供給口を形成せしめる工程と、(C)前記原料溶液供給口に金属イオンを含有する原料溶液を供給し、毛管現象により前記原料溶液を前記原料溶液供給口から前記細孔内に導入せしめる工程と、(D)前記細孔内に導入された原料溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線を形成せしめる工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
本発明においては、先ず、(A)工程として、連続した細孔構造を有するメソ多孔体薄膜の表面上に非多孔膜を形成せしめる。
図1は、このような(A)工程によってメソ多孔体薄膜1の表面上に非多孔膜2が形成された状態を表すメソ多孔体薄膜1の表面近傍付近の概略断面図である。
このような非多孔膜2を形成させる方法は特に制限されず、例えば、平坦化効果の高いSOG法やプラズマCVD法により緻密な非多孔膜を形成する方法を挙げることができる。なお、非多孔膜2としては、メソ多孔体膜との密着性の高いものであることが好ましい。このようにして前記メソ多孔体薄膜1の表面上に非多孔膜2を形成させることで、外部とメソ多孔体薄膜の細孔との接続を不能とさせることができる。
次に、(B)工程として、前記非多孔膜の特定部位に、メソ多孔体薄膜中の細孔と外部とを導通させる原料溶液供給口を形成せしめる。
図2は、このような(B)工程によってメソ多孔体薄膜1中の細孔3と外部とを導通させる原料溶液供給口4を形成せしめた状態を表すメソ多孔体薄膜1の表面近傍付近の概略断面図である。
ここで、非多孔膜の特定部位とは、金属細線を製造する際に多孔体薄膜の細孔内における金属結晶の成長を開始させるために選択した部位であって、多孔体薄膜の細孔の方向性に応じて適宜選択される部位をいう。このようにして選択された部位に原料溶液供給口を形成せしめることで、メソ多孔体薄膜の所望の範囲に金属細線を形成させることが可能となる。すなわち、原料溶液供給口より原料溶液を供給することで、一方向に連続で金属結晶の成長をさせることが可能となり、原料溶液供給口から一定の範囲内(好ましくは、前記特定部位を中心として半径1〜1000ミクロン程度)にのみ選択的に金属結晶を成長させることが可能となる。なお、本発明においては、メソ多孔体薄膜の表面上に非多孔薄膜が形成されているため、原料溶液供給口以外に細孔と外部とが導通していないため、前記一定の範囲以外の領域には金属細線は生成しない。
非多孔膜2の特定部位にメソ多孔体薄膜1の細孔内と外部とを導通させる原料溶液供給口4を形成せしめる方法としては特に制限されず、例えば、イオンエッチング法(RIE)等を用いることができる。このような原料溶液供給口4を形成せしめる方法としては、具体的には、プラズマ中にて反応性ガス(CF4、CCl4等)の活性種を非多孔膜2の表面に反応させて揮発性を有する非多孔膜と前記ガスとの反応生成物(CF4、CCl4等のハロゲンガスを用いた場合にはハロゲン化合物)を生成させ、これを非多孔膜2の表面から脱離させることによりエッチングする方法等が挙げられる。
また、イオンエッチング法を用いる場合において、投入する電力の大きさ、反応中のガス圧、および反応ガスのガス流量等の諸条件は、用いる装置の種類及びエッチング行う非多層膜2の状態等に依存する。そして、ガス圧等が最適な条件の下では、原料溶液供給口4の形状は、ほぼ垂直な壁を持つ垂直性の良いものとなる。なお、エッチング処理の最終工程において、エッチング壁を保護している析出物を取り除く02アッシング処理を行うことで、側壁に着いた析出物を取り除けると共に、細孔3の細孔内表面を改質させることができる。このような処理に際し、特定の処理時間をとることで原料溶液供給口4から一定距離まで改質することが可能となる。
このようにして形成される前記原料溶液供給口4の口径は特に制限されず、その口径が10〜100000nm程度であることが好ましい。原料溶液供給口の口径が前記下限未満では、前記原料溶液供給時に十分な量の前記原料溶液が供給しにくくなる傾向にある。
次に、(C)工程として、記原料溶液供給口に金属イオンを含有する原料溶液を供給し、毛管現象により前記原料溶液を前記原料溶液供給口から前記細孔内に導入せしめる。
図3は、前記原料溶液供給口4に金属イオンを含有する原料溶液5を供給し、毛管現象により前記原料溶液5を前記原料溶液供給口4から前記細孔3内の導入せしめA1方向に金属細線6が連続成長しているメカニズムを現す概略断面図である。
前記毛管現象は、液体中に毛細管を立てると水面が管内を上昇し又は下降する現象であり、本発明においてこの現象を利用することによって、前記原料溶液5をメソ多孔体薄膜1の細孔3内に高密度に導入することができるとともに、前記原料溶液5の供給不足が生じることなく連続的に原料溶液5を供給することが可能となるため、細孔内に十分な長さを有する金属細線を高密度に形成することが可能となる。
また、前記原料溶液5を供給する前に、メソ多孔体薄膜1の細孔3内を真空引きをすることが好ましい。このような真空引きを行なうことで、原料溶液5の拡散を妨げる各種ガスや有機成分の吸着物除去することが可能となり、原料溶液5が前記細孔3内部により拡散し易くなる傾向にある。さらに、前記真空引きの際の圧力は特に制限されないが10−2torr以下とすることが好ましい。
そして、(D)工程として、前記細孔内に導入された原料溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線を形成せしめる。
このような金属イオンを還元する方法は特に制限されず、光還元法であっても熱還元手法であってもよく、適宜公知の還元方法を用いることができる。なお、このような還元方法の中でも、原料溶液5を導入しながら光還元を行なうことで、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元による金属細線6の成長が連続的に行われ、途中で不連続部分が発生することなく十分に長い金属細線6を細孔内に高密度に形成することができることから、光の照射による光還元法を用いることが好ましい。
ここで、光還元法によって金属イオンを還元する際には、金属イオン近傍に還元剤を存在せしめることが好ましい。還元剤としては、上述したように、メタノールやエタノール等のアルコール等が挙げられ、原料溶液5中に含有させることが好ましく、金属イオンの還元時には、このような還元剤を蒸気として金属イオン近傍に存在せしめることがより好ましい。なお、還元剤を蒸気として存在せしめる方法としては、液体として導入した後加熱することで蒸気とする方法や、外部より蒸気として流入させる方法等が挙げられる。
さらに、光還元法によって金属イオンを還元する際には、前記メソ多孔体薄膜1に照射する光は、紫外線であることが好ましく、その波長としては140〜360nmであることがより好ましく、200〜300nmであることが特に好ましい。このような光を照射する光源としては、UVランプ又はレーザー等を使用することができる。また、照射する光の光強度としては、1〜200mW/cm2であることが好ましく、5〜20mW/cm2であることがより好ましい。光を照射することによって、還元剤を効率的に分解して活性なHラジカルを生成することができ、このHラジカルの強い還元作用により、細孔3内に導入された原料溶液5中の金属イオンを0価の金属まで還元することができる。
このような光の照射は、細孔3内に導入される前の原料溶液5に照射することなくメソ多孔体薄膜1及び細孔3内に導入された原料溶液5に対してのみ照射することが好ましい。また、メソ多孔体薄膜における光の照射条件を制御したり、光の照射位置を移動させたりすること等により、金属細線の成長状態を精密に制御したり、金属細線を特定の面積部にのみ成長させたり、特定方向に異方的に成長させたりといったことが可能となる。
また、光還元法による金属イオンの還元は、密封した容器内で行うことが好ましい。このように容器を密封することによって、還元剤を蒸気として細孔内の金属イオン近傍により確実に存在せしめることが可能となる。ここで、還元剤は、飽和蒸気圧の10〜100%の蒸気圧で存在せしめることが好ましく、50〜100%の蒸気圧で存在せしめることがより好ましい。このような密封状態で金属イオンの還元を行うことにより、光による還元剤の分解によるHラジカルの生成がより効率的に行われるとともに、Hラジカルと細孔内の金属イオンとが接触しやすくなり、金属イオンをより効率的且つ確実に還元することができる傾向にある。
このような光の照射時間は特に制限されないが、8〜100時間程度照射することが好ましい。また、金属細線を形成するための前記一連の工程における温度は特に制限されないが、20〜70℃程度で行うことが好ましい。なお、前記照射時間や温度は、必要とする金属細線の長さや密度等に応じて適宜調整することができる。
以上説明したような(A)〜(D)工程を経ることで、金属細線を製造することが可能である。なお、本発明においては、金属細線を形成する前に成長を止めることで金属粒子を得てもよい。
また、本発明においては、前記(A)〜(D)工程の後に、前記原料溶液の供給を停止し、前記原料溶液供給口からガスを圧入することにより、前記細孔内に形成された金属細線を、該細孔内の奥に向けて移動せしめる工程を更に含ませて金属細線を製造することができる。
このようなガスとしては、水又は低分子量アルコールが好ましく、有機溶媒(アセトン、ケトン類)を用いることができる。このようなガスを圧入し、ガスを拡散させることで、メソ多孔体薄膜の細孔内部に生成した金属細線(或いは金属量子ドット)を連続した領域ごとに押し出す形で所望の位置まで移動させることが可能となる。
ここで、図4〜6を参照しながら、前記工程について説明する。図4〜6は、前記工程を段階的に示した概略図である。図4に示した状態では、原料溶液供給口10から原料溶液を供給して一定の距離まで金属結晶11が形成されている。このように金属細線11が形成された後に、原料溶液供給口10から原料の供給をせずにガスを圧入して前記細孔9内へ前記ガスを拡散させる。図5に示した状態では、A2方向に前記ガスが圧入され、A3方向に金属細線11が移動している。そして、移動位置を所望の位置で停止させたい場合には、本処理の前に半導体パターン加工技術により準備した非多孔質の停止層12(ストッパ)を用意することで、形成された金属細線11を所望の位置に止めることが可能である。図6で示された状態では、停止層12により金属細線11が停止させられている。なお、このような工程によって金属細線を移動させることが可能な距離は、数ミクロンから数センチまでとすることが可能である。
また、このように金属細線の移動させた後、再度同様の操作を繰り返し行ない金属細線を製造することで、一度の結晶成長では達成することができない、超長距離での連続成長を実現させることが可能である。また、このような再成長を行う際に、元の金属Aイオンとは異なる金属Bイオンを含有する原料溶液をもちいることで、金属Aと金属Bとの接合した構造の金属細線や、金属Aと金属Bとを繰り返したABAB構造を有する金属細線を製造することも可能である。さらに、後処理をすることでAとBとを合金とすることが可能な場合には、ナノ細孔内で合金の成長を行なうことが可能となる。なお、このような手法を応用することで、高密度LSIのナノ配線として多層配線内深くに埋め込まれた特定部位に金属細線を接続することも可能となる。
以上説明したような本発明の製造方法によれば、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に得ることができる。また更に、本発明の金属細線の製造方法によれば、製造条件等を適宜調整することで金属細線の成長を制御することができ、所望の長さの金属細線若しくは金属粒子を得ることができる。
また、本発明によって得られた金属細線は、超格子構造体として周期性の高い3次元構造を形成させることが可能となるため、位置のゆらぎや周期の乱れに敏感な量子効果素子へ応用する場合の動作不良を劇的に改善することが可能となる。更に、本発明によって得られた金属細線は、量子効果素子として通常の半導体プロセスで素子化することが可能である。また、本発明によって得られた金属細線は、ナノ細線の集合体として配線として用いることも可能であり、メソ多孔体薄膜及び非多孔膜を溶かすことで、金属細線を単体として取り出すことも可能であり、触媒、金属多孔質電極材等としても利用可能である。このように本発明の製造方法によって製造される金属細線は、その両端に電極をつけることで使用する量子素子や触媒等の用途に好適に用いることができる。
1…メソ多孔性薄膜、2…USG膜、3…メソ多孔性薄膜の細孔、4…原料溶液供給口、5…原料溶液、6…金属細線、7…メソ多孔性薄膜、8…USG膜、9…メソ多孔性薄膜の細孔、10…原料溶液供給口、11…金属細線、12…停止層(ストッパ)、A1…金属細線の成長方向を示す矢印、A2…ガス圧入方向を示す矢印、A3…金属細線の移動方向を示す矢印。