JP2004263246A - 金属細線の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に製造することが可能な金属細線の製造方法を提供すること。
【解決手段】連続した細孔2構造を有するメソ多孔体薄膜1の少なくとも一縁部を、金属イオンを含有する金属イオン溶液3に接触せしめ、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光5を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線6を形成せしめることを特徴とする金属細線の製造方法。
【選択図】 図1
【解決手段】連続した細孔2構造を有するメソ多孔体薄膜1の少なくとも一縁部を、金属イオンを含有する金属イオン溶液3に接触せしめ、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光5を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線6を形成せしめることを特徴とする金属細線の製造方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属細線の製造方法に関し、より詳しくは、量子素子及び触媒等に好適な金属細線の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
細孔を有する多孔体内に金属細線及び金属粒子を鋳型合成する研究は、近年盛んに行われている。このような金属細線においては、細く長い金属細線を得ることが要求されている。このような金属細線及び金属粒子は、物性や化学反応性において特異な挙動を示すと考えられ、規則的に配列した金属細線及び金属粒子を合成することでナノデバイス等の磁性材料や記憶媒体への応用等が期待されている。また、金属が微粒子化しているため、粒子の表面に存在する原子の割合の増加に伴って表面の特異性がマクロな物性として発現し、バルクの金属とは異なる特性を示すことから触媒等への応用も期待されている。
【0003】
このような金属細線及び微粒子を製造する方法としては、数十ナノメートルから数千ナノメートルの領域のマクロ細孔を有するポーラスアルミナ等の多孔体へ金属を導入する場合、蒸着法、CVD法、めっき法等の方法が適用可能であり、上記方法により細孔内へ金属を導入してマクロサイズの金属細線及び金属粒子が得られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、数ナノメートルから数十ナノメートルの領域のメソ細孔を有するシリカメソ多孔体等のメソ多孔体を鋳型として用い、その細孔内に高密度に金属を導入することは上記方法では困難であり、数ナノメートルから数十ナノメートルの領域の細さを有する金属細線を得ることが困難であった。
【0004】
このような問題を改善するため、特開平10−130013号公報(特許文献2)には、平均直径が1〜50nm、平均アスペクト比が3以上の金属細線を得る方法として、中心細孔直径が1.3〜10nmの細孔を有する粉末状のメソ多孔体を鋳型として用い、液相、固相又は気相でクラスター原料溶液とメソ多孔体とを混合することで細孔内にクラスター原料溶液を導入した後にこれを還元することで細孔内にクラスターを析出させる方法が記載されている。しかしながら、上記公報に記載された方法では、十分な長さを有する金属細線を得ることが困難であった。
【0005】
また、非特許文献1及び非特許文献2には、薄膜形態のメソ多孔体の細孔内へ金属を導入した例が記載されている。しかしながら、上記文献に記載された例においては、得られた金属はその粒子間に間隙又は不連続部分が存在し、金属粒子又はアスペクト比の低い金属細線の形態のものであり、十分な長さを有する金属細線は得られていなかった。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−78769号公報
【特許文献2】
特開平10−130013号公報
【非特許文献1】
Y. Plyuto, et al., Chem. Commun., 1999, 1653
【非特許文献2】
A. Fukuoka, et al., Nano Lett., 2002, 2(7), 793−795
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に製造することが可能な金属細線の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、メソ多孔体薄膜を鋳型として用い、毛管現象を利用してメソ多孔体薄膜の細孔内に金属イオン溶液を導入しつつ、導入された金属イオン溶液中の金属イオンを光照射により還元することによって、細孔内にメソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を形成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の金属細線の製造方法は、連続した細孔構造を有するメソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を、金属イオンを含有する金属イオン溶液に接触せしめ、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線を形成せしめることを特徴とする方法である。
【0010】
また、本発明の金属細線の製造方法において、前記金属イオン溶液が還元剤を更に含有していることが好ましく、前記金属イオンの還元が密封された容器内で行われることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属細線の製造方法において、前記メソ多孔体薄膜における前記金属イオン溶液に接触せしめる前記一縁部は、前記細孔の開口端部を含む縁部であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明の金属細線の製造方法において、前記メソ多孔体薄膜の膜厚は1μm以下であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、場合により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の金属細線の製造方法にかかるメソ多孔体薄膜について説明する。
【0015】
上記メソ多孔体薄膜は、メソサイズの連続した細孔構造を有する薄膜であり、膜厚が1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合、金属イオンを還元するために必要な光が薄膜の内部にまで透過しにくくなるため、金属細線が薄膜内部において形成されにくくなる傾向がある。
【0016】
また、上記メソ多孔体薄膜の細孔の中心細孔直径は1〜50nmであることが好ましい。中心細孔直径が1nm未満の場合、金属イオン溶液が細孔内に導入されにくくなるため、金属細線の形成が困難となる傾向があり、中心細孔直径が50nmを超える場合、薄膜の空隙率が大きくなるため、薄膜の強度が不十分となる傾向があるとともに、十分な細さを有する金属細線の形成が困難となる傾向がある。
【0017】
なお、上記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径に対してプロットした細孔径分布曲線の最大ピークにおける細孔直径である。ここで、上記細孔径分布曲線は、以下の方法により求めることができる。すなわち、メソ多孔体薄膜を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0018】
また、本発明にかかるメソ多孔体薄膜は、X線回折測定において1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。このようなX線回折のピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0019】
更に、本発明にかかるメソ多孔体薄膜の細孔は、薄膜内で特定方向に配向していることが好ましく、配向度が90%以上であることがより好ましい。また、細孔の連続長さが100μm以上であることが好ましい。細孔がこのような配向度や連続長さを有することによって、金属イオン溶液が毛管現象により高密度に導入されやすく、十分な長さを有する金属細線をより確実に得ることができる。なお、上記配向度とは特定の結晶軸が面内の同一方向に揃っている度合いであり、配向度が90%以上であるとは、薄膜内の細孔結晶方位の乱れが少なく、ほぼ一方向に伸びている状態を示している。このような配向度はXRD分析による特定方位の回折ピーク強度から求めることができる。また、上記連続長さは透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することで求めることができる。
【0020】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜において、上記の細孔はメソ多孔体薄膜の表面のみならず内部にも連続して形成されている。この細孔構造としては、例えば、2d−ヘキサゴナル構造(P6mm)、3d−ヘキサゴナル構造(P63/mmc)、キュービック構造(Ia3d、Pm3n又はFm3m)、ラメラ、不規則構造等が挙げられるが、中でも2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造、キュービック構造が好ましく、2d−ヘキサゴナル構造が特に好ましい。
【0021】
ここで、薄膜がヘキサゴナルの細孔構造を有するとは、薄膜の細孔の配置が六方構造であることを意味する(S. Inagaki, et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 680, 1993; S. Inagaki, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 69, 1449, 1996; Q. Huo et al., Science, 268, 1324, 1995 参照)。また、薄膜がキュービックの細孔構造を有するとは、薄膜中の細孔の配置が立方構造であることを意味する(J. C. Vartuli et al., Chem. Mater., 6, 2317, 1994; Q. Huo et al., Nature, 368, 317, 1994 参照)。
【0022】
なお、薄膜がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造を有する場合は、細孔の全てがこれらの規則的細孔構造である必要はない。すなわち、薄膜は、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造と不規則的細孔構造の両方を有していてもよい。しかしながら、全ての細孔のうち80%以上がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造となっていることが好ましい。
【0023】
このような細孔を有するメソ多孔体薄膜は、無機系骨格の細孔壁、又は、有機/無機ハイブリッド系骨格の細孔壁を有している。
【0024】
ここで、本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機系骨格を有する場合、該無機系骨格はシリケート等の無機酸化物の高分子主鎖からなる。シリケート基本骨格中のケイ素原子に代える原子、あるいはシリケート骨格に付加する原子としては、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素等を挙げることができる。
【0025】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜を構成し得るその他の無機系骨格としては、非Si系のジルコニア、チタニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化スズ、酸化ハフニウム、アルミナ等の無機酸化物、あるいはそれらの無機酸化物からなる基本骨格中に上記のシリケート骨格に付加する原子を組み込んだ複合酸化物が挙げられる。
【0026】
なお、本発明においては、このような無機系の基本骨格の側鎖に種々の有機基等が付与されていてもよい。かかる側鎖としては、チオール基あるいはチオール基を含む有機基、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。
【0027】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機/有機ハイブリッド系骨格を有する場合は、金属原子を含む高分子主鎖に、1又は2以上の炭素原子を含む有機基が、該炭素原子において上記主鎖を構成する金属原子に直接あるいは酸素原子を介して結合している。この有機基と高分子主鎖との結合は、1点であっても2点以上であってもよい。また、かかる主鎖の形態は特に限定されないが、具体的には、直鎖状、網目状、分岐鎖状等の各種形態をとることができる。
【0028】
上記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖における金属原子は、特に限定されないが、具体的には、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウム、チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムであり、より好ましくはケイ素である。本発明においては、上記の各種金属原子のうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
このような無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖において、炭素原子は、1又は2以上の炭素原子を備えた有機基の形態で含まれる。この有機基中の1又は2以上の炭素原子が、上記主鎖を構成する金属原子に1点あるいは2点以上で結合される。上記有機基と上記金属原子との結合部位は、有機基の末端でもよく、末端以外の他の部位であってもよい。
【0030】
上記無機/有機ハイブリッド系骨格の有機基については特に限定されないが、具体的には、アルキル鎖、アルケニル鎖、ビニル鎖、アルキニル鎖、シクロアルキル鎖、ベンゼン環、ベンゼン環を含む炭化水素等の各種炭化水素基の他、各種水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等の有機官能基と1又は2以上の炭素原子を備えた化合物に由来する有機基等、各種のものを使用することができる。有機基は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、上記無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖と2点以上で結合される有機基としては、好ましくはアルキル鎖由来の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜5の鎖状アルキル鎖由来の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、具体的には、メチレン基(−CH2CH2−)等のアルキレン鎖を挙げることができる。また、好ましい有機基として、フェニレン基(−C6H4−)を挙げることができる。
【0032】
上記無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子として、上記の金属原子及び炭素原子の他に、更に他の原子を含めることができる。ここで、上記無機/有機ハイブリッド系骨格を構成する他の原子については特に限定されないが、好ましくは金属原子と金属原子との間に位置される酸素原子であり、酸素原子を含む場合に形成される結合としては、具体的には、Si−O、Al−O、Ti−O、Nb−O、Sn−O、Zr−O等が挙げられる。なお、これらの結合は、ポリシロキサン、ポリアロキサン等の各種遷移金属のポリメタロキサンに含まれる金属原子と酸素原子との結合に対応する。本発明においては、無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖に含まれるこれらの結合は、1種であってもよく、あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。また、上記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖には、窒素、イオウ、各種ハロゲン等の原子が含まれていてもよい。
【0033】
なお、このような無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子に結合する側鎖部分には、各種金属原子、有機官能基、無機官能基が付加されていてもよい。無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖を構成する原子の側鎖官能基としては、例えば、チオール基、カルボキシル基、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、フェニル基、アミノ基、ビニル基等を有するものが好ましい。
【0034】
上述したような無機系骨格又は無機/有機ハイブリッド系骨格を有するメソ多孔体薄膜の中でも、本発明においてはシリカメソ多孔体薄膜を用いることが好ましい。
【0035】
このようなメソ多孔体薄膜の作製方法について、シリカメソ多孔体薄膜の場合を例として説明する。
【0036】
上記シリカメソ多孔体薄膜は、シリコンアルコキシド等のシリカ源を酸性溶媒中で反応せしめシリコンアルコキシド部分重合体を含む液体を得る部分重合工程と、上記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤溶液とを接触せしめ、上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる複合体形成工程と、上記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる薄膜形成工程と、を含む製造方法により作製されることが好ましい。以下、シリカ源としてシリコンアルコキシドを用いた場合について各工程について説明する。
【0037】
上記部分重合工程においては、シリコンアルコキシドを酸性溶媒中で反応せしめることにより、シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体が得られる。ここで、シリコンアルコキシドとは下記一般式(1)で表されるものである。
【0038】
A(4−a)−Si−(O−R)a ・・・(1)
[式(1)中、Rは炭化水素基を表し、Aは水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は炭化水素基を表し、aは1〜4の整数を表す。]
上記一般式(1)中、Rで表される炭化水素基としては、例えば、鎖式、環式、脂環式の炭化水素基を挙げることができる。このような炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜5の鎖式アルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。また、Aが炭化水素基である場合、その炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が2〜10のアルケニル基、フェニル基、置換フェニル基を挙げることができる。上記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドは1種のみ用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドとしては、結晶性の良好なシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、Si(OCH3)4で表されるテトラメトキシシラン(TMOS)、及びSi(OC2H5)4で表されるテトラエトキシシラン(TEOS)を用いることが好ましい。
【0040】
上記シリコンアルコキシドが有するアルコキシル基(−O−R)は酸性条件下で加水分解を受け水酸基(−OH)となり、その水酸基部分が縮合して高分子量化する。なお、シリコンアルコキシドがアルコキシル基以外に水酸基やハロゲン原子を有している場合はこれらの官能基が加水分解反応に寄与する場合もありうる。したがって、シリコンアルコキシド部分重合体とは、加水分解反応および縮合反応によって得られる重合体であって、アルコキシル基(−O−R)及び/又は水酸基(−OH)の一部が未反応のまま残存している重合体を意味する。
【0041】
上記シリコンアルコキシド部分重合体は、シリコンアルコキシドを酸性溶媒(塩酸、硝酸等の水溶液又はアルコール溶液等)中で攪拌することにより得ることができる。なお、上記酸性溶媒に含まれる酸としては、上記の酸の他にホウ酸、臭素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸が挙げられ、これらのうちの2種以上を混合して用いることもできる。シリコンアルコキシドのアルコキシル基の加水分解反応はpHが低い領域で起こりやすいことから、系のpHを低くすることにより部分重合を促進することが可能である。なお、部分重合工程における反応温度は、例えば、15〜25℃とすることができ、反応時間は30〜90分とすることができる。
【0042】
次に、複合体形成工程においては、上記部分重合工程により得られたシリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤とを接触せしめ、上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる。
【0043】
このような界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。
【0044】
上記界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式CnH2n+1(OCH2CH2)mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。
【0045】
また、このような界面活性剤としては、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、あるいはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物を用いることもできる。
【0046】
更に、このような界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)x(PO)y(EO)xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0047】
上記のトリブロックコポリマーとしては、(EO)19(PO)29(EO)19、(EO)13(PO)70(EO)13、(EO)5(PO)70(EO)5、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、(EO)106(PO)70(EO)106、(EO)100(PO)39(EO)100、(EO)19(PO)33(EO)19、(EO)26(PO)36(EO)26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。上記のトリブロックコポリマーは1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーも使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)x(PO)y)2NCH2CH2N((PO)y(EO)x)2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0049】
このような界面活性剤の中では、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、アルキルトリメチルアンモニウム[CpH2p+1N(CH3)3]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニム中のアルキル基の炭素数は8〜18であることがより好ましい。このようなものとしては、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
【0050】
上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とを接触せしめる場合には、上記シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体に界面活性剤をそのまま添加してもよく、また、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等に溶かして界面活性剤溶液とした後に添加してもよい。更に、上記界面活性剤溶液には酸を加えて、好ましい酸性雰囲気としてもよい。このような酸は、上記酸性溶媒に用いられる酸と同様のものを用いることが可能である。
【0051】
上記部分重合工程により得られた液体に上記界面活性剤又は界面活性剤溶液を添加すると、溶液中で界面活性剤はミセルを形成する。このミセルが超分子鋳型となり、シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤ミセルとの複合体が形成される。このような界面活性剤ミセルの内部にはシリコンアルコキシド部分重合体が入り込まないため、ミセルの内部は最終生成物であるシリカメソ多孔体薄膜における細孔部分となる。したがって、界面活性剤の分子鎖長を変化させることにより、シリカメソ多孔体薄膜の細孔径を制御することができる。
【0052】
上記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤のモル比は、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜が得られることから、シリコンアルコキシド0.1molに対して界面活性剤は0.005〜0.02molであることが好ましい。また、上記複合体形成工程は、例えば、10〜30℃において30〜90分攪拌することにより行うことができる。また、このときの溶媒の量は、シリコンアルコキシド0.1molに対して0.2〜10molの割合で混合することが好ましく、溶媒中に水が最低0.2molあることがより好ましい。このような溶媒の量が、上記下限値未満であるとシリコンアルコキシドが鎖状に縮合することが困難となる傾向にあり、上記上限値を超えると上記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド濃度および溶液の粘度が低下し、上記複合体を含む液体を基板に付着せしめる際にハジキが見られ均一な薄膜が形成しにくくなる傾向にある。
【0053】
上記複合体形成工程における上記複合体を含む液体は、酸の濃度が0.00057〜0.0086eq/lであり、且つ、上記複合体を含む液体の酸の含有量がシリコンアルコキシド0.1molに対して2.3×10−4〜3.8×10−4molであることが好ましい。以下、特に断らない限り、酸の濃度とは上記複合体を含む液体中の酸の濃度であり、酸の含有量とは上記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド0.1molに対する酸の物質量とする。上記酸の濃度は0.00059〜0.0080eq/lであることがより好ましく、また上記酸の含有量は2.4×10−4〜3.5×10−4molであることがより好ましい。このような条件において作製されたシリカメソ多孔体薄膜は、結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度に特に優れたものであり、金属細線の作製に好適である。このような酸の含有量が上記下限値未満であると、加水分解速度、重縮合速度が遅くなり、シリカメソ多孔体薄膜の作製が困難となる傾向があり、また、上記上限値を超えると、得られるシリカ多孔体薄膜における結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度が不十分となる傾向がある。
【0054】
また、上記複合体の組成により、得られるシリカメソ多孔体薄膜の結晶構造を制御することができる。例えば、シリコンアルコキシドとしてテトラメトキシシランを用い、界面活性剤として塩化アルキルトリメチルアンモニウムを用いた場合においては、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.04〜0.15molとすることにより結晶構造をヘキサゴナルとすることが可能となる。一方で、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.15〜0.19molとすることにより結晶構造をキュービックとすることが可能となる。
【0055】
次に、薄膜形成工程を説明する。薄膜形成工程においては、上記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる。薄膜化の方法は特に制限はなく、例えば、上記複合体を含む液体を基板上に付着又は塗布せしめることによって厚さの均一な膜の形成が可能となる。このような基板としては、上記複合体を含む液体が付着又は塗布可能なものであれば、形状や材質は特に制限はなく、例えば、金属、樹脂等からなる板状成型物やフィルム等が挙げられる。基板の表面には、ある一定の周期性をもって溝や突起物等が形成されていてもよく、平坦であってもよい。
【0056】
複合体を含む液体を基板に塗布する場合は、その方法は特に制限されず、各種のコーティング方法が採用可能である。例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等を用いて塗布することができる。また、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等も可能である。
【0057】
上記薄膜形成工程において、上記複合体を含む液体を薄膜化する際の相対湿度は特に制限はないが、50%以上であると結晶性がより向上し好ましい。
【0058】
上記複合体を含む液体を基板等に塗布する場合、その塗布厚は、その濃度により適宜選択可能である。熱収縮時のひずみによるワレを防止するために、また塗布後の加熱乾燥を効率的に行うために塗布厚は薄い方が好ましく、例えば、未乾燥状態(複合体を含む液体の状態)で10μm以下であることが好ましい。
【0059】
また、薄膜形成工程の前に複合体を含む液体に溶媒を添加する溶媒添加工程を更に含むことが好ましい。溶媒を添加することにより、複合体を含む液体の粘度や固形分が低下するため、薄膜化したときに得られる膜厚を薄くすることができる。また、薄膜化途中に液体の粘度変化を少なくすることができ、得られるシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性を向上させることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒としては特に制限はないが、例えば、水やアルコールが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を用いることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒の量は特に制限されないが、添加後の液体の粘度が10Pa・s以下になるような量であることが好ましく、5Pa・s以下となるような量であることが更に好ましい。
【0060】
基板に塗布する等の方法により薄膜化した後、得られた薄膜を風乾及び/又は加熱乾燥して複合体を反応させることにより、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を形成させる。加熱乾燥時には、例えば、70〜150℃、より好ましくは100〜120℃の加熱を行い、シリコンアルコキシド部分重合体の縮合反応を進めて三次元的な架橋構造を形成させる。この結果、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜が得られる。加熱乾燥の時間は、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の結晶性を高めるための時間と経済的問題を鑑みて、例えば20〜80分とすることができる。
【0061】
薄膜形成工程において得られる界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の膜厚は、1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合はシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性が悪くなる傾向にある。
【0062】
界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の中心細孔直径は、高い結晶性及び適度な比表面積を有した薄膜が得られることから、1〜50nmであることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜10nmであることが更に好ましい。
【0063】
また、薄膜形成工程の後に、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去しシリカメソ多孔体薄膜を得る界面活性剤除去工程を更に含むことが好ましい。界面活性剤を除去する方法としては特に制限はないが、例えば、焼成による方法や水やアルコール等の溶媒で処理する方法を用いることができる。焼成による方法においては、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を300〜1000℃、好ましくは300〜600℃で焼成する。加熱時間は30分程度でもよいが、完全に界面活性剤成分を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。上記焼成は空気中で行うことが可能であり、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。また、上記焼成は酸素濃度0.1%〜25%の酸素含有雰囲気で、且つ、300℃〜600℃で焼成することが好ましい。
【0064】
溶媒を用いて界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去する場合は、例えば、界面活性剤の溶解性の高い溶媒中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬する。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン等を使用することができる。
【0065】
陽イオン性の界面活性剤を用いる場合は、少量の塩酸を添加したエタノール又は水中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬し、50〜70℃で加熱する方法を用いることができる。この方法により、陽イオン界面活性剤を抽出することができる。陰イオン性の界面活性剤を用いる場合は、陰イオンを添加した溶媒中で界面活性剤を抽出することができる。また、非イオン性の界面活性剤を用いた場合は、溶媒のみで抽出することが可能である。なお、抽出時に超音波を印加することも可能である。
【0066】
以上説明したように、界面活性剤が除去されたシリカメソ多孔体薄膜は、後述する金属細線形成の鋳型(ホスト材料)として好適である。
【0067】
次に、本発明の金属細線の製造方法にかかる金属イオン溶液について説明する。
【0068】
上記金属イオン溶液は、金属イオンを含有する溶液であり、金属塩を溶媒に溶解させることによって得ることができる。上記金属塩としては、例えば、遷移金属の塩又は錯塩が挙げられ、中でも貴金属の塩又は錯塩が好ましく、白金の塩又は錯塩が特に好ましい。上記金属塩としては、白金の塩又は錯塩である場合を例として、H2PtCl6、Pt(NO2)2(NH3)2、[Pt(NH3)6]Cl4、H2Pt(OH)6、PtCl2(NH3)2、Pt(NH3)4Cl2、Pt(NH3)4(OH)2、Pt(NH3)4(OH)4、K2PtCl4、PtCl4、PtCl2等が具体的に挙げられる。上記溶媒としては、例えば、水、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
また、本発明においては、上記金属イオン溶液中に更に還元剤を溶媒として含有させることが好ましい。上記還元剤としては、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられるが、これらの中でもアルコールが好ましい。このような還元剤を金属イオン溶液中に含有させることによって、光の照射による金属イオンの還元をより効率的且つ確実に行うことができる傾向にある。
【0070】
上記金属イオン溶液における上記金属塩の濃度は、1〜50wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。金属塩の濃度が1wt%未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内への金属イオンの導入量が減少するため、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、金属塩の濃度が50wt%を超える場合には、金属イオン溶液が酸性になり過ぎてメソ多孔体薄膜の骨格の崩壊が発生し、金属細線の形成が困難となる傾向がある。また、上記金属イオン溶液における上記還元剤の濃度は10〜80vol%であることが好ましい。還元剤の濃度が前記下限値未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元が十分に行われず、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、還元剤の濃度が前記上限値を超える場合には、相対的に金属塩の濃度が減少するため、上述したように高密度で十分な長さを有する金属細線を形成することが困難となる傾向にある。
【0071】
次に、本発明の金属細線の製造方法ついて説明する。
【0072】
本発明の金属細線の製造方法においては、先ず、上記メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を、上記金属イオン溶液に接触せしめる。
【0073】
ここで、金属イオン溶液に接触せしめる部分は、メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部であればよく、複数の縁部を同時に又は前後して接触せしめてもよい。なお、本発明における上記一縁部とは、メソ多孔体薄膜における少なくとも一辺(一側面)とその周辺部を含む部分を示している。
【0074】
また、メソ多孔体薄膜における金属イオン溶液に接触せしめる一縁部は、特定方向に配向した細孔の開口端部を含む縁部であることが好ましい。このような一縁部を金属イオン溶液に接触せしめることによって、毛管現象が十分に発現し、細孔内への金属イオン溶液の導入をより効率的且つ確実に行うことができるとともに、十分な長さを有する金属細線を形成しやすくなる傾向にある。なお、上記開口端部とは、連続した細孔の端部であって、メソ多孔体薄膜の表面に開口している部分を示す。
【0075】
メソ多孔体薄膜の一縁部を金属イオン溶液に接触せしめる操作は、例えば、光を透過可能な部分を有する容器に金属イオン溶液を入れ、更にその容器内にメソ多孔体を入れることによって行うことができる。また、容器に入れる金属イオン溶液の量は特に制限されないが、メソ多孔体薄膜と金属イオン溶液とが接触する表面積が、メソ多孔体薄膜の全表面積の1〜50%程度となるように調整することが好ましい。接触する表面積の割合が前記下限値未満である場合には、毛管現象が十分に発現しにくくなり、細孔内への金属イオン溶液の導入を効率的に行うことが困難となる傾向にあり、接触する表面積の割合が前記上限値を超える場合には、メソ多孔体薄膜表面の光照射可能な部分が減少してしまい、十分な長さを有する金属細線を得ることが困難となる傾向にある。なお、最適な接触表面積の割合はメソ多孔体薄膜や金属イオン溶液の種類によっても変動するため、使用するメソ多孔体薄膜及び金属イオン溶液に応じて適宜調整することが好ましい。
【0076】
本発明の金属細線の製造方法においては、上述したように前記メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を前記金属イオン溶液に接触せしめることで、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液が導入される。
【0077】
上記毛管現象は、液体中に毛細管を立てると水面が管内を上昇し又は下降する現象であり、本発明においてこの現象を利用することによって、金属イオン溶液をメソ多孔体薄膜の細孔内に高密度に導入することができるとともに、金属イオン溶液の供給不足が生じることなく連続的に金属イオン溶液を供給することが可能となるため、細孔内に十分な長さを有する金属細線を高密度に形成することが可能となる。
【0078】
本発明の金属細線の製造方法においては、上述したように前記細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元し、前記細孔内に金属細線を形成せしめる。
【0079】
ここで、図面を参照しながら、本発明の金属細線の製造方法における金属細線の形成状態について説明する。
【0080】
図1は、本発明の金属細線の製造方法において、メソ多孔体薄膜の細孔内に金属細線が段階的に形成される様子を示した模式図である。図1(a)に示した状態では、メソ多孔体薄膜を金属イオン溶液2に接触せしめることにより、金属イオン溶液2が毛管現象によって細孔1内に導入されている。
【0081】
図1(b)及び(c)に示した状態では、細孔1内の金属イオン溶液2に光が照射され、金属イオン溶液2中の金属イオンが還元されて金属3が徐々に析出している。このとき、金属3の析出により金属イオン溶液2中の金属イオンは減少するが、本発明においては金属イオンの還元と金属イオン溶液の導入とが同時に行われていることにより、金属イオン溶液2の連続的な供給が可能となり、金属イオンが不足することなく連続的に金属3を析出せしめることが可能となる。
【0082】
なお、図1(a)の状態は、金属細線の製造条件や必要とする金属細線の長さ等によって必要に応じて実施される状態であり、本発明においては、初めから図1(b)の状態としてもよい。
【0083】
図1(d)は、図1(b)及び(c)の状態を経て金属3が細孔を埋め尽くすまで成長した状態を示している。本発明においては、図1(d)の状態まで金属細線を成長せしめてもよいが、必要とする金属細線の長さや密度等に応じて、図1(c)から図1(d)の間の状態で成長を止めて所望の金属細線を得ることができる。なお、本発明においては、金属細線を形成する前に成長を止めることで金属粒子を得てもよい。
【0084】
このように、光の照射による金属イオンの還元を、金属イオン溶液を導入しながら行うことによって、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元による金属細線の成長が連続的に行われ、途中で不連続部分が発生することなく十分に長い金属細線を細孔内に高密度に形成することができる。
【0085】
ここで、金属イオンを還元する際には、金属イオン近傍に還元剤を存在せしめることが好ましい。還元剤としては、上述したように、メタノールやエタノール等のアルコール等が挙げられ、金属イオン溶液中に含有させることが好ましく、金属イオンの還元時には、このような還元剤を蒸気として金属イオン近傍に存在せしめることがより好ましい。なお、還元剤を蒸気として存在せしめる方法としては、液体として導入した後加熱することで蒸気とする方法や、外部より蒸気として流入させる方法等が挙げられる。
【0086】
上記メソ多孔体薄膜に照射する光は、紫外線であることが好ましく、その波長としては140〜360nmであることがより好ましく、200〜300nmであることが特に好ましい。このような光を照射する光源としては、UVランプ又はレーザー等を使用することができる。また、照射する光の光強度としては、1〜200mW/cm2であることが好ましく、5〜20mW/cm2であることがより好ましい。光を照射することによって、還元剤を効率的に分解して活性なHラジカルを生成することができ、このHラジカルの強い還元作用により、細孔内に導入された金属イオン溶液中の金属イオンを0価の金属まで還元することができる。
【0087】
ここで、光の照射は、細孔内に導入される前の金属イオン溶液に照射することなくメソ多孔体薄膜及び細孔内に導入された金属イオン溶液に対してのみ照射することが好ましい。また、メソ多孔体薄膜における光の照射条件を制御したり、光の照射位置を移動させたりすること等により、金属細線の成長状態を精密に制御したり、金属細線を特定の面積部にのみ成長させたり、特定方向に異方的に成長させたりといったことが可能となる。
【0088】
また、このような光の照射による金属イオンの還元は、密封した容器内で行うことが好ましく、上記容器の開口部をパラフィルム等で蓋をすること等により密封状態とすることができる。このように容器を密封することによって、還元剤を蒸気として細孔内の金属イオン近傍により確実に存在せしめることが可能となる。ここで、還元剤は、飽和蒸気圧の10〜100%の蒸気圧で存在せしめることが好ましく、50〜100%の蒸気圧で存在せしめることがより好ましい。このような密封状態で金属イオンの還元を行うことにより、光による還元剤の分解によるHラジカルの生成がより効率的に行われるとともに、Hラジカルと細孔内の金属イオンとが接触しやすくなり、金属イオンをより効率的且つ確実に還元することができる傾向にある。
【0089】
本発明の金属細線の製造方法において、光の照射時間は特に制限されないが、8〜100時間程度照射することが好ましい。また、金属細線を形成するための上記一連の工程における温度は特に制限されないが、20〜70℃程度で行うことが好ましい。なお、上記照射時間や温度は、必要とする金属細線の長さや密度等に応じて適宜調整することができる。
【0090】
また、本発明の金属細線の製造方法において、メソ多孔体薄膜を金属イオン溶液に接触せしめる前に、メソ多孔体薄膜の表面にあらかじめ被覆層(ブロック層)を設けることが好ましい。上記被覆層は、細孔内への金属イオン溶液の導入を妨げないように、メソ多孔体薄膜における金属イオン溶液に接触せしめる一縁部と該一縁部に対向する縁部とを除く表面上に設けることが好ましい。このような被覆層を設けることにより、メソ多孔体薄膜表面に金属が析出することを防止することができる。
【0091】
上記被覆層としては、金属の析出を防止するためにメソ多孔体薄膜との密着性が高く、且つ、緻密で空隙がなく化学的に安定な膜であることが好ましい。このような被覆層として具体的には、CVD法やSOG法(Spin On Glass)によって形成される、SiO2膜(USG膜)、SiN膜、WやAu等の金属膜、TiN膜、SiC膜等が挙げられる。
【0092】
また、上記被覆層の膜厚は100〜500nmであることが好ましい。膜厚が100nm未満である場合には、上述したような金属イオン溶液の流出や金属の析出を防止する効果が得られにくい傾向があり、膜厚が500nmを超える場合には、光の透過性が低下していまい、金属イオンの還元が十分に行われにくくなる傾向がある。
【0093】
以上説明したような本発明の金属細線の製造方法によれば、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に得ることができる。また更に、本発明の金属細線の製造方法によれば、製造条件等を適宜調整することで金属細線の成長を制御することができ、所望の長さの金属細線若しくは金属粒子を得ることができる。このような金属細線は、その両端に電極をつけることで使用する量子素子や触媒等の用途に好適に用いることができる。
【0094】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(シリカメソ多孔体薄膜の作製)
テトラメトキシシラン(Si(OCH3)4、以下「TMOS」という)15.22g(0.10mol)にHCl水溶液(a)4.1mlを静かに添加し、マグネチック・スターラ(回転速度200rpm/min)を用いて1時間攪拌することによりTMOS部分重合体を含む溶液を得た。次に、界面活性剤であるトリブロックコポリマー(EO)20(PO)70(EO)20(アルドリッチ社製、製品名P123)7.2g、H2O10ml及びEtOH10mlを混合し、マグネチック・スターラで攪拌しながら50℃に加温して上記界面活性剤を溶解させた。その後、室温まで自然冷却し、HCl水溶液(b)100μlを更に加えて混合することにより界面活性剤溶液を得た。
【0096】
上記TMOS部分重合体を含む溶液に界面活性剤溶液を加えて20分間攪拌した。その後、H2O/EtOH=20ml/20ml混合溶媒を加え、マグネチック・スターラの回転速度を300rpm/minに上昇させて20分間攪拌することにより、TMOSと界面活性剤とからなる複合体を含む溶液(以下「TMOS複合体溶液」という)を調製した。なお、HCl水溶液(a)としてはH2O4mlに対して2規定のHCl水溶液を100μl加えて調製したものを用い、HCl水溶液(b)としては2規定のHCl水溶液を用いた。
【0097】
次に、基板引き上げ装置(SIGMA社製;SG SP 26−100)をビニールBOX内(温度22℃、湿度30%)に設置し、ディップコーティング法で薄膜形成工程を行った。前記装置を用いて基板をTMOS複合体溶液中へ20mm/minの速度で浸漬し、溶液内で30秒静置した後20mm/minの速度で引き上げた。基板には、希フッ酸(HF:H2O=1:50)で表面処理を行ったシリコンウェハ(2cm×5cm)を用いた。次に、TMOS複合体溶液が付着した基板を室温で24時間風乾し、更に100℃で1時間乾燥した。その後、1リットル/min大気流通下において、昇温速度100℃/hで25℃から400℃まで昇温し、400℃の温度で4時間焼成することにより、膜厚が0.4μmの2d−ヘキサゴナル構造の基板付きシリカメソ多孔体薄膜を得た。
【0098】
(金属細線の作製)
得られた基板付きシリカメソ多孔体薄膜を、10mm×45mmの短冊状に細孔構造の配向方向と長手方向とがほぼ平行となるように切断して短冊状薄膜を作製した。次いで、15wt%H2PtCl6水溶液:EtOH:H2Oを体積比1:2:2で混合して調製した金属イオン溶液を1ml入れた20mm×10mm×45mmの透明石英セルに、短冊状薄膜を石英セルの一方の壁に立てかけるようにして入れて、短冊状薄膜の短手方向の縁部を金属イオン溶液に浸漬した。この石英セルの開口部をパラフィルムで蓋をして密封し、毛管現象により短冊状薄膜の細孔内に金属イオン溶液を導入しつつ、石英セルの壁を通して短冊状薄膜に波長256nmのUVランプ(ウシオ社製;UXM−500SX)の光を、短冊状薄膜表面における光強度が7mW/cm2となるように40℃で24時間照射して白金イオン(Pt4+)を還元し、短冊状薄膜の細孔内に白金細線を形成せしめた。
【0099】
以上の結果、図2の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(日本電子社製;JEM2000EXにて撮影)に示すように、シリカメソ多孔体薄膜の細孔内に不連続部分が生じることなく高密度に白金細線が形成されており、それらの大半は平均直径8nm、長さ1μm以上の白金細線であることが確認された。
【0100】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によりシリカメソ多孔体薄膜からなる短冊状薄膜を作製した。得られた短冊状薄膜に安全カミソリを用いて、細孔構造の配向方向に対し斜めに0.5mm間隔の傷をつけて細孔の開口部を設けた。その短冊状薄膜を温度制御できる真空ポンプ(真空機工社製;GVD−050A)を備えた真空装置に入れ、室温で24時間真空乾燥した。次に、15wt%H2PtCl6水溶液:EtOH:H2Oを体積比1:2:2で混合して調製した金属イオン溶液中に、真空乾燥したシリカメソ多孔体薄膜を全体が漬かるように浸漬し、超音波洗浄器(エスエヌディ社製;US−1)中で超音波分散を10分間行い、そのまま24時間静置した。短冊状薄膜を引き上げ、薄膜表面に付着した金属イオン溶液を拭き取った後、再度真空装置に短冊状薄膜を入れ、室温で24時間真空乾燥した。その後、真空装置内に蒸気圧10Torrの水蒸気を10分間導入して薄膜を曝し、次いで蒸気圧10Torrのメタノールの蒸気を10分間導入して薄膜を曝すことにより、還元剤蒸気をシリカメソ多孔体薄膜の細孔内に導入した。還元剤が導入された薄膜に波長256nmのUVランプの光を、短冊状薄膜表面における光強度が7mW/cm2となるように70℃で72時間照射して白金イオン(Pt4+)を還元した。その後、残留ガスを除去するために室温で6時間真空乾燥した。
【0101】
以上の結果、図3の透過型電子顕微鏡写真に示すように、シリカメソ多孔体薄膜の細孔内に白金細線が形成されているものの、不連続部分が多く、その大半が平均直径6nm、長さ30nm以下の白金細線であり、細線にならず白金微粒子の状態のものも多く存在していることが確認された。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の金属細線の製造方法によれば、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に得ることができる。また更に、本発明の金属細線の製造方法によれば、製造条件等を適宜調整することで金属細線の成長を制御することができ、所望の長さの金属細線若しくは金属粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)はそれぞれメソ多孔体薄膜の細孔内において金属細線が形成される様子を段階的に示した模式図である。
【図2】実施例1で得られた金属(白金)細線の透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を示す図である。
【図3】比較例1で得られた金属(白金)細線の透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を示す図である。
【符号の説明】
1・・・メソ多孔体薄膜、2・・・細孔、3・・・金属イオン溶液、4・・・金属粒子、5・・・光、6・・・金属細線。
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属細線の製造方法に関し、より詳しくは、量子素子及び触媒等に好適な金属細線の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
細孔を有する多孔体内に金属細線及び金属粒子を鋳型合成する研究は、近年盛んに行われている。このような金属細線においては、細く長い金属細線を得ることが要求されている。このような金属細線及び金属粒子は、物性や化学反応性において特異な挙動を示すと考えられ、規則的に配列した金属細線及び金属粒子を合成することでナノデバイス等の磁性材料や記憶媒体への応用等が期待されている。また、金属が微粒子化しているため、粒子の表面に存在する原子の割合の増加に伴って表面の特異性がマクロな物性として発現し、バルクの金属とは異なる特性を示すことから触媒等への応用も期待されている。
【0003】
このような金属細線及び微粒子を製造する方法としては、数十ナノメートルから数千ナノメートルの領域のマクロ細孔を有するポーラスアルミナ等の多孔体へ金属を導入する場合、蒸着法、CVD法、めっき法等の方法が適用可能であり、上記方法により細孔内へ金属を導入してマクロサイズの金属細線及び金属粒子が得られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、数ナノメートルから数十ナノメートルの領域のメソ細孔を有するシリカメソ多孔体等のメソ多孔体を鋳型として用い、その細孔内に高密度に金属を導入することは上記方法では困難であり、数ナノメートルから数十ナノメートルの領域の細さを有する金属細線を得ることが困難であった。
【0004】
このような問題を改善するため、特開平10−130013号公報(特許文献2)には、平均直径が1〜50nm、平均アスペクト比が3以上の金属細線を得る方法として、中心細孔直径が1.3〜10nmの細孔を有する粉末状のメソ多孔体を鋳型として用い、液相、固相又は気相でクラスター原料溶液とメソ多孔体とを混合することで細孔内にクラスター原料溶液を導入した後にこれを還元することで細孔内にクラスターを析出させる方法が記載されている。しかしながら、上記公報に記載された方法では、十分な長さを有する金属細線を得ることが困難であった。
【0005】
また、非特許文献1及び非特許文献2には、薄膜形態のメソ多孔体の細孔内へ金属を導入した例が記載されている。しかしながら、上記文献に記載された例においては、得られた金属はその粒子間に間隙又は不連続部分が存在し、金属粒子又はアスペクト比の低い金属細線の形態のものであり、十分な長さを有する金属細線は得られていなかった。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−78769号公報
【特許文献2】
特開平10−130013号公報
【非特許文献1】
Y. Plyuto, et al., Chem. Commun., 1999, 1653
【非特許文献2】
A. Fukuoka, et al., Nano Lett., 2002, 2(7), 793−795
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に製造することが可能な金属細線の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、メソ多孔体薄膜を鋳型として用い、毛管現象を利用してメソ多孔体薄膜の細孔内に金属イオン溶液を導入しつつ、導入された金属イオン溶液中の金属イオンを光照射により還元することによって、細孔内にメソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を形成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の金属細線の製造方法は、連続した細孔構造を有するメソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を、金属イオンを含有する金属イオン溶液に接触せしめ、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線を形成せしめることを特徴とする方法である。
【0010】
また、本発明の金属細線の製造方法において、前記金属イオン溶液が還元剤を更に含有していることが好ましく、前記金属イオンの還元が密封された容器内で行われることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属細線の製造方法において、前記メソ多孔体薄膜における前記金属イオン溶液に接触せしめる前記一縁部は、前記細孔の開口端部を含む縁部であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明の金属細線の製造方法において、前記メソ多孔体薄膜の膜厚は1μm以下であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、場合により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の金属細線の製造方法にかかるメソ多孔体薄膜について説明する。
【0015】
上記メソ多孔体薄膜は、メソサイズの連続した細孔構造を有する薄膜であり、膜厚が1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合、金属イオンを還元するために必要な光が薄膜の内部にまで透過しにくくなるため、金属細線が薄膜内部において形成されにくくなる傾向がある。
【0016】
また、上記メソ多孔体薄膜の細孔の中心細孔直径は1〜50nmであることが好ましい。中心細孔直径が1nm未満の場合、金属イオン溶液が細孔内に導入されにくくなるため、金属細線の形成が困難となる傾向があり、中心細孔直径が50nmを超える場合、薄膜の空隙率が大きくなるため、薄膜の強度が不十分となる傾向があるとともに、十分な細さを有する金属細線の形成が困難となる傾向がある。
【0017】
なお、上記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径に対してプロットした細孔径分布曲線の最大ピークにおける細孔直径である。ここで、上記細孔径分布曲線は、以下の方法により求めることができる。すなわち、メソ多孔体薄膜を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0018】
また、本発明にかかるメソ多孔体薄膜は、X線回折測定において1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。このようなX線回折のピークは、そのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0019】
更に、本発明にかかるメソ多孔体薄膜の細孔は、薄膜内で特定方向に配向していることが好ましく、配向度が90%以上であることがより好ましい。また、細孔の連続長さが100μm以上であることが好ましい。細孔がこのような配向度や連続長さを有することによって、金属イオン溶液が毛管現象により高密度に導入されやすく、十分な長さを有する金属細線をより確実に得ることができる。なお、上記配向度とは特定の結晶軸が面内の同一方向に揃っている度合いであり、配向度が90%以上であるとは、薄膜内の細孔結晶方位の乱れが少なく、ほぼ一方向に伸びている状態を示している。このような配向度はXRD分析による特定方位の回折ピーク強度から求めることができる。また、上記連続長さは透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することで求めることができる。
【0020】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜において、上記の細孔はメソ多孔体薄膜の表面のみならず内部にも連続して形成されている。この細孔構造としては、例えば、2d−ヘキサゴナル構造(P6mm)、3d−ヘキサゴナル構造(P63/mmc)、キュービック構造(Ia3d、Pm3n又はFm3m)、ラメラ、不規則構造等が挙げられるが、中でも2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造、キュービック構造が好ましく、2d−ヘキサゴナル構造が特に好ましい。
【0021】
ここで、薄膜がヘキサゴナルの細孔構造を有するとは、薄膜の細孔の配置が六方構造であることを意味する(S. Inagaki, et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 680, 1993; S. Inagaki, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 69, 1449, 1996; Q. Huo et al., Science, 268, 1324, 1995 参照)。また、薄膜がキュービックの細孔構造を有するとは、薄膜中の細孔の配置が立方構造であることを意味する(J. C. Vartuli et al., Chem. Mater., 6, 2317, 1994; Q. Huo et al., Nature, 368, 317, 1994 参照)。
【0022】
なお、薄膜がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造を有する場合は、細孔の全てがこれらの規則的細孔構造である必要はない。すなわち、薄膜は、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造と不規則的細孔構造の両方を有していてもよい。しかしながら、全ての細孔のうち80%以上がヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔構造となっていることが好ましい。
【0023】
このような細孔を有するメソ多孔体薄膜は、無機系骨格の細孔壁、又は、有機/無機ハイブリッド系骨格の細孔壁を有している。
【0024】
ここで、本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機系骨格を有する場合、該無機系骨格はシリケート等の無機酸化物の高分子主鎖からなる。シリケート基本骨格中のケイ素原子に代える原子、あるいはシリケート骨格に付加する原子としては、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、スズ、鉛、バナジウム、ホウ素等を挙げることができる。
【0025】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜を構成し得るその他の無機系骨格としては、非Si系のジルコニア、チタニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化スズ、酸化ハフニウム、アルミナ等の無機酸化物、あるいはそれらの無機酸化物からなる基本骨格中に上記のシリケート骨格に付加する原子を組み込んだ複合酸化物が挙げられる。
【0026】
なお、本発明においては、このような無機系の基本骨格の側鎖に種々の有機基等が付与されていてもよい。かかる側鎖としては、チオール基あるいはチオール基を含む有機基、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。
【0027】
本発明にかかるメソ多孔体薄膜が無機/有機ハイブリッド系骨格を有する場合は、金属原子を含む高分子主鎖に、1又は2以上の炭素原子を含む有機基が、該炭素原子において上記主鎖を構成する金属原子に直接あるいは酸素原子を介して結合している。この有機基と高分子主鎖との結合は、1点であっても2点以上であってもよい。また、かかる主鎖の形態は特に限定されないが、具体的には、直鎖状、網目状、分岐鎖状等の各種形態をとることができる。
【0028】
上記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖における金属原子は、特に限定されないが、具体的には、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウム、チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムであり、より好ましくはケイ素である。本発明においては、上記の各種金属原子のうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
このような無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖において、炭素原子は、1又は2以上の炭素原子を備えた有機基の形態で含まれる。この有機基中の1又は2以上の炭素原子が、上記主鎖を構成する金属原子に1点あるいは2点以上で結合される。上記有機基と上記金属原子との結合部位は、有機基の末端でもよく、末端以外の他の部位であってもよい。
【0030】
上記無機/有機ハイブリッド系骨格の有機基については特に限定されないが、具体的には、アルキル鎖、アルケニル鎖、ビニル鎖、アルキニル鎖、シクロアルキル鎖、ベンゼン環、ベンゼン環を含む炭化水素等の各種炭化水素基の他、各種水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等の有機官能基と1又は2以上の炭素原子を備えた化合物に由来する有機基等、各種のものを使用することができる。有機基は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、上記無機/有機ハイブリッド系骨格の高分子主鎖と2点以上で結合される有機基としては、好ましくはアルキル鎖由来の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜5の鎖状アルキル鎖由来の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、具体的には、メチレン基(−CH2CH2−)等のアルキレン鎖を挙げることができる。また、好ましい有機基として、フェニレン基(−C6H4−)を挙げることができる。
【0032】
上記無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子として、上記の金属原子及び炭素原子の他に、更に他の原子を含めることができる。ここで、上記無機/有機ハイブリッド系骨格を構成する他の原子については特に限定されないが、好ましくは金属原子と金属原子との間に位置される酸素原子であり、酸素原子を含む場合に形成される結合としては、具体的には、Si−O、Al−O、Ti−O、Nb−O、Sn−O、Zr−O等が挙げられる。なお、これらの結合は、ポリシロキサン、ポリアロキサン等の各種遷移金属のポリメタロキサンに含まれる金属原子と酸素原子との結合に対応する。本発明においては、無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖に含まれるこれらの結合は、1種であってもよく、あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。また、上記無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖には、窒素、イオウ、各種ハロゲン等の原子が含まれていてもよい。
【0033】
なお、このような無機/有機ハイブリット系骨格の高分子主鎖を構成する原子に結合する側鎖部分には、各種金属原子、有機官能基、無機官能基が付加されていてもよい。無機/有機ハイブリッド系骨格の主鎖を構成する原子の側鎖官能基としては、例えば、チオール基、カルボキシル基、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、フェニル基、アミノ基、ビニル基等を有するものが好ましい。
【0034】
上述したような無機系骨格又は無機/有機ハイブリッド系骨格を有するメソ多孔体薄膜の中でも、本発明においてはシリカメソ多孔体薄膜を用いることが好ましい。
【0035】
このようなメソ多孔体薄膜の作製方法について、シリカメソ多孔体薄膜の場合を例として説明する。
【0036】
上記シリカメソ多孔体薄膜は、シリコンアルコキシド等のシリカ源を酸性溶媒中で反応せしめシリコンアルコキシド部分重合体を含む液体を得る部分重合工程と、上記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤溶液とを接触せしめ、上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる複合体形成工程と、上記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる薄膜形成工程と、を含む製造方法により作製されることが好ましい。以下、シリカ源としてシリコンアルコキシドを用いた場合について各工程について説明する。
【0037】
上記部分重合工程においては、シリコンアルコキシドを酸性溶媒中で反応せしめることにより、シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体が得られる。ここで、シリコンアルコキシドとは下記一般式(1)で表されるものである。
【0038】
A(4−a)−Si−(O−R)a ・・・(1)
[式(1)中、Rは炭化水素基を表し、Aは水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は炭化水素基を表し、aは1〜4の整数を表す。]
上記一般式(1)中、Rで表される炭化水素基としては、例えば、鎖式、環式、脂環式の炭化水素基を挙げることができる。このような炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜5の鎖式アルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。また、Aが炭化水素基である場合、その炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が2〜10のアルケニル基、フェニル基、置換フェニル基を挙げることができる。上記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドは1種のみ用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるシリコンアルコキシドとしては、結晶性の良好なシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、Si(OCH3)4で表されるテトラメトキシシラン(TMOS)、及びSi(OC2H5)4で表されるテトラエトキシシラン(TEOS)を用いることが好ましい。
【0040】
上記シリコンアルコキシドが有するアルコキシル基(−O−R)は酸性条件下で加水分解を受け水酸基(−OH)となり、その水酸基部分が縮合して高分子量化する。なお、シリコンアルコキシドがアルコキシル基以外に水酸基やハロゲン原子を有している場合はこれらの官能基が加水分解反応に寄与する場合もありうる。したがって、シリコンアルコキシド部分重合体とは、加水分解反応および縮合反応によって得られる重合体であって、アルコキシル基(−O−R)及び/又は水酸基(−OH)の一部が未反応のまま残存している重合体を意味する。
【0041】
上記シリコンアルコキシド部分重合体は、シリコンアルコキシドを酸性溶媒(塩酸、硝酸等の水溶液又はアルコール溶液等)中で攪拌することにより得ることができる。なお、上記酸性溶媒に含まれる酸としては、上記の酸の他にホウ酸、臭素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸が挙げられ、これらのうちの2種以上を混合して用いることもできる。シリコンアルコキシドのアルコキシル基の加水分解反応はpHが低い領域で起こりやすいことから、系のpHを低くすることにより部分重合を促進することが可能である。なお、部分重合工程における反応温度は、例えば、15〜25℃とすることができ、反応時間は30〜90分とすることができる。
【0042】
次に、複合体形成工程においては、上記部分重合工程により得られたシリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤とを接触せしめ、上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とからなる複合体を形成せしめる。
【0043】
このような界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。
【0044】
上記界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式CnH2n+1(OCH2CH2)mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。
【0045】
また、このような界面活性剤としては、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、あるいはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物を用いることもできる。
【0046】
更に、このような界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)x(PO)y(EO)xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0047】
上記のトリブロックコポリマーとしては、(EO)19(PO)29(EO)19、(EO)13(PO)70(EO)13、(EO)5(PO)70(EO)5、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、(EO)106(PO)70(EO)106、(EO)100(PO)39(EO)100、(EO)19(PO)33(EO)19、(EO)26(PO)36(EO)26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。上記のトリブロックコポリマーは1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーも使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)x(PO)y)2NCH2CH2N((PO)y(EO)x)2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0049】
このような界面活性剤の中では、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜を得ることができることから、アルキルトリメチルアンモニウム[CpH2p+1N(CH3)3]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニム中のアルキル基の炭素数は8〜18であることがより好ましい。このようなものとしては、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
【0050】
上記シリコンアルコキシド部分重合体と上記界面活性剤とを接触せしめる場合には、上記シリコンアルコキシド部分重合体を含む液体に界面活性剤をそのまま添加してもよく、また、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等に溶かして界面活性剤溶液とした後に添加してもよい。更に、上記界面活性剤溶液には酸を加えて、好ましい酸性雰囲気としてもよい。このような酸は、上記酸性溶媒に用いられる酸と同様のものを用いることが可能である。
【0051】
上記部分重合工程により得られた液体に上記界面活性剤又は界面活性剤溶液を添加すると、溶液中で界面活性剤はミセルを形成する。このミセルが超分子鋳型となり、シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤ミセルとの複合体が形成される。このような界面活性剤ミセルの内部にはシリコンアルコキシド部分重合体が入り込まないため、ミセルの内部は最終生成物であるシリカメソ多孔体薄膜における細孔部分となる。したがって、界面活性剤の分子鎖長を変化させることにより、シリカメソ多孔体薄膜の細孔径を制御することができる。
【0052】
上記シリコンアルコキシド部分重合体と界面活性剤のモル比は、結晶性の高いシリカメソ多孔体薄膜が得られることから、シリコンアルコキシド0.1molに対して界面活性剤は0.005〜0.02molであることが好ましい。また、上記複合体形成工程は、例えば、10〜30℃において30〜90分攪拌することにより行うことができる。また、このときの溶媒の量は、シリコンアルコキシド0.1molに対して0.2〜10molの割合で混合することが好ましく、溶媒中に水が最低0.2molあることがより好ましい。このような溶媒の量が、上記下限値未満であるとシリコンアルコキシドが鎖状に縮合することが困難となる傾向にあり、上記上限値を超えると上記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド濃度および溶液の粘度が低下し、上記複合体を含む液体を基板に付着せしめる際にハジキが見られ均一な薄膜が形成しにくくなる傾向にある。
【0053】
上記複合体形成工程における上記複合体を含む液体は、酸の濃度が0.00057〜0.0086eq/lであり、且つ、上記複合体を含む液体の酸の含有量がシリコンアルコキシド0.1molに対して2.3×10−4〜3.8×10−4molであることが好ましい。以下、特に断らない限り、酸の濃度とは上記複合体を含む液体中の酸の濃度であり、酸の含有量とは上記複合体を含む液体中のシリコンアルコキシド0.1molに対する酸の物質量とする。上記酸の濃度は0.00059〜0.0080eq/lであることがより好ましく、また上記酸の含有量は2.4×10−4〜3.5×10−4molであることがより好ましい。このような条件において作製されたシリカメソ多孔体薄膜は、結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度に特に優れたものであり、金属細線の作製に好適である。このような酸の含有量が上記下限値未満であると、加水分解速度、重縮合速度が遅くなり、シリカメソ多孔体薄膜の作製が困難となる傾向があり、また、上記上限値を超えると、得られるシリカ多孔体薄膜における結晶性、細孔の表面の平滑性、耐酸性及び細孔の配向度が不十分となる傾向がある。
【0054】
また、上記複合体の組成により、得られるシリカメソ多孔体薄膜の結晶構造を制御することができる。例えば、シリコンアルコキシドとしてテトラメトキシシランを用い、界面活性剤として塩化アルキルトリメチルアンモニウムを用いた場合においては、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.04〜0.15molとすることにより結晶構造をヘキサゴナルとすることが可能となる。一方で、テトラメトキシシランの物質量を1molとしたときに、塩化アルキルトリメチルアンモニウムの物質量を0.15〜0.19molとすることにより結晶構造をキュービックとすることが可能となる。
【0055】
次に、薄膜形成工程を説明する。薄膜形成工程においては、上記複合体を含む液体を薄膜化し乾燥することによりシリカメソ多孔体薄膜を形成せしめる。薄膜化の方法は特に制限はなく、例えば、上記複合体を含む液体を基板上に付着又は塗布せしめることによって厚さの均一な膜の形成が可能となる。このような基板としては、上記複合体を含む液体が付着又は塗布可能なものであれば、形状や材質は特に制限はなく、例えば、金属、樹脂等からなる板状成型物やフィルム等が挙げられる。基板の表面には、ある一定の周期性をもって溝や突起物等が形成されていてもよく、平坦であってもよい。
【0056】
複合体を含む液体を基板に塗布する場合は、その方法は特に制限されず、各種のコーティング方法が採用可能である。例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等を用いて塗布することができる。また、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等も可能である。
【0057】
上記薄膜形成工程において、上記複合体を含む液体を薄膜化する際の相対湿度は特に制限はないが、50%以上であると結晶性がより向上し好ましい。
【0058】
上記複合体を含む液体を基板等に塗布する場合、その塗布厚は、その濃度により適宜選択可能である。熱収縮時のひずみによるワレを防止するために、また塗布後の加熱乾燥を効率的に行うために塗布厚は薄い方が好ましく、例えば、未乾燥状態(複合体を含む液体の状態)で10μm以下であることが好ましい。
【0059】
また、薄膜形成工程の前に複合体を含む液体に溶媒を添加する溶媒添加工程を更に含むことが好ましい。溶媒を添加することにより、複合体を含む液体の粘度や固形分が低下するため、薄膜化したときに得られる膜厚を薄くすることができる。また、薄膜化途中に液体の粘度変化を少なくすることができ、得られるシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性を向上させることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒としては特に制限はないが、例えば、水やアルコールが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を用いることができる。溶媒添加工程において複合体を含む液体に添加する溶媒の量は特に制限されないが、添加後の液体の粘度が10Pa・s以下になるような量であることが好ましく、5Pa・s以下となるような量であることが更に好ましい。
【0060】
基板に塗布する等の方法により薄膜化した後、得られた薄膜を風乾及び/又は加熱乾燥して複合体を反応させることにより、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を形成させる。加熱乾燥時には、例えば、70〜150℃、より好ましくは100〜120℃の加熱を行い、シリコンアルコキシド部分重合体の縮合反応を進めて三次元的な架橋構造を形成させる。この結果、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜が得られる。加熱乾燥の時間は、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の結晶性を高めるための時間と経済的問題を鑑みて、例えば20〜80分とすることができる。
【0061】
薄膜形成工程において得られる界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の膜厚は、1μm以下であることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。膜厚が1μmを超える場合はシリカメソ多孔体薄膜の細孔配列の均一性が悪くなる傾向にある。
【0062】
界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜の中心細孔直径は、高い結晶性及び適度な比表面積を有した薄膜が得られることから、1〜50nmであることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜10nmであることが更に好ましい。
【0063】
また、薄膜形成工程の後に、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去しシリカメソ多孔体薄膜を得る界面活性剤除去工程を更に含むことが好ましい。界面活性剤を除去する方法としては特に制限はないが、例えば、焼成による方法や水やアルコール等の溶媒で処理する方法を用いることができる。焼成による方法においては、界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を300〜1000℃、好ましくは300〜600℃で焼成する。加熱時間は30分程度でもよいが、完全に界面活性剤成分を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。上記焼成は空気中で行うことが可能であり、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。また、上記焼成は酸素濃度0.1%〜25%の酸素含有雰囲気で、且つ、300℃〜600℃で焼成することが好ましい。
【0064】
溶媒を用いて界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜から界面活性剤を除去する場合は、例えば、界面活性剤の溶解性の高い溶媒中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬する。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン等を使用することができる。
【0065】
陽イオン性の界面活性剤を用いる場合は、少量の塩酸を添加したエタノール又は水中に界面活性剤を含有したシリカメソ多孔体薄膜を浸漬し、50〜70℃で加熱する方法を用いることができる。この方法により、陽イオン界面活性剤を抽出することができる。陰イオン性の界面活性剤を用いる場合は、陰イオンを添加した溶媒中で界面活性剤を抽出することができる。また、非イオン性の界面活性剤を用いた場合は、溶媒のみで抽出することが可能である。なお、抽出時に超音波を印加することも可能である。
【0066】
以上説明したように、界面活性剤が除去されたシリカメソ多孔体薄膜は、後述する金属細線形成の鋳型(ホスト材料)として好適である。
【0067】
次に、本発明の金属細線の製造方法にかかる金属イオン溶液について説明する。
【0068】
上記金属イオン溶液は、金属イオンを含有する溶液であり、金属塩を溶媒に溶解させることによって得ることができる。上記金属塩としては、例えば、遷移金属の塩又は錯塩が挙げられ、中でも貴金属の塩又は錯塩が好ましく、白金の塩又は錯塩が特に好ましい。上記金属塩としては、白金の塩又は錯塩である場合を例として、H2PtCl6、Pt(NO2)2(NH3)2、[Pt(NH3)6]Cl4、H2Pt(OH)6、PtCl2(NH3)2、Pt(NH3)4Cl2、Pt(NH3)4(OH)2、Pt(NH3)4(OH)4、K2PtCl4、PtCl4、PtCl2等が具体的に挙げられる。上記溶媒としては、例えば、水、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
また、本発明においては、上記金属イオン溶液中に更に還元剤を溶媒として含有させることが好ましい。上記還元剤としては、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられるが、これらの中でもアルコールが好ましい。このような還元剤を金属イオン溶液中に含有させることによって、光の照射による金属イオンの還元をより効率的且つ確実に行うことができる傾向にある。
【0070】
上記金属イオン溶液における上記金属塩の濃度は、1〜50wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。金属塩の濃度が1wt%未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内への金属イオンの導入量が減少するため、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、金属塩の濃度が50wt%を超える場合には、金属イオン溶液が酸性になり過ぎてメソ多孔体薄膜の骨格の崩壊が発生し、金属細線の形成が困難となる傾向がある。また、上記金属イオン溶液における上記還元剤の濃度は10〜80vol%であることが好ましい。還元剤の濃度が前記下限値未満である場合には、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元が十分に行われず、十分な長さを有する金属細線を細孔内に高密度に形成することが困難となる傾向にあり、還元剤の濃度が前記上限値を超える場合には、相対的に金属塩の濃度が減少するため、上述したように高密度で十分な長さを有する金属細線を形成することが困難となる傾向にある。
【0071】
次に、本発明の金属細線の製造方法ついて説明する。
【0072】
本発明の金属細線の製造方法においては、先ず、上記メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を、上記金属イオン溶液に接触せしめる。
【0073】
ここで、金属イオン溶液に接触せしめる部分は、メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部であればよく、複数の縁部を同時に又は前後して接触せしめてもよい。なお、本発明における上記一縁部とは、メソ多孔体薄膜における少なくとも一辺(一側面)とその周辺部を含む部分を示している。
【0074】
また、メソ多孔体薄膜における金属イオン溶液に接触せしめる一縁部は、特定方向に配向した細孔の開口端部を含む縁部であることが好ましい。このような一縁部を金属イオン溶液に接触せしめることによって、毛管現象が十分に発現し、細孔内への金属イオン溶液の導入をより効率的且つ確実に行うことができるとともに、十分な長さを有する金属細線を形成しやすくなる傾向にある。なお、上記開口端部とは、連続した細孔の端部であって、メソ多孔体薄膜の表面に開口している部分を示す。
【0075】
メソ多孔体薄膜の一縁部を金属イオン溶液に接触せしめる操作は、例えば、光を透過可能な部分を有する容器に金属イオン溶液を入れ、更にその容器内にメソ多孔体を入れることによって行うことができる。また、容器に入れる金属イオン溶液の量は特に制限されないが、メソ多孔体薄膜と金属イオン溶液とが接触する表面積が、メソ多孔体薄膜の全表面積の1〜50%程度となるように調整することが好ましい。接触する表面積の割合が前記下限値未満である場合には、毛管現象が十分に発現しにくくなり、細孔内への金属イオン溶液の導入を効率的に行うことが困難となる傾向にあり、接触する表面積の割合が前記上限値を超える場合には、メソ多孔体薄膜表面の光照射可能な部分が減少してしまい、十分な長さを有する金属細線を得ることが困難となる傾向にある。なお、最適な接触表面積の割合はメソ多孔体薄膜や金属イオン溶液の種類によっても変動するため、使用するメソ多孔体薄膜及び金属イオン溶液に応じて適宜調整することが好ましい。
【0076】
本発明の金属細線の製造方法においては、上述したように前記メソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を前記金属イオン溶液に接触せしめることで、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液が導入される。
【0077】
上記毛管現象は、液体中に毛細管を立てると水面が管内を上昇し又は下降する現象であり、本発明においてこの現象を利用することによって、金属イオン溶液をメソ多孔体薄膜の細孔内に高密度に導入することができるとともに、金属イオン溶液の供給不足が生じることなく連続的に金属イオン溶液を供給することが可能となるため、細孔内に十分な長さを有する金属細線を高密度に形成することが可能となる。
【0078】
本発明の金属細線の製造方法においては、上述したように前記細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元し、前記細孔内に金属細線を形成せしめる。
【0079】
ここで、図面を参照しながら、本発明の金属細線の製造方法における金属細線の形成状態について説明する。
【0080】
図1は、本発明の金属細線の製造方法において、メソ多孔体薄膜の細孔内に金属細線が段階的に形成される様子を示した模式図である。図1(a)に示した状態では、メソ多孔体薄膜を金属イオン溶液2に接触せしめることにより、金属イオン溶液2が毛管現象によって細孔1内に導入されている。
【0081】
図1(b)及び(c)に示した状態では、細孔1内の金属イオン溶液2に光が照射され、金属イオン溶液2中の金属イオンが還元されて金属3が徐々に析出している。このとき、金属3の析出により金属イオン溶液2中の金属イオンは減少するが、本発明においては金属イオンの還元と金属イオン溶液の導入とが同時に行われていることにより、金属イオン溶液2の連続的な供給が可能となり、金属イオンが不足することなく連続的に金属3を析出せしめることが可能となる。
【0082】
なお、図1(a)の状態は、金属細線の製造条件や必要とする金属細線の長さ等によって必要に応じて実施される状態であり、本発明においては、初めから図1(b)の状態としてもよい。
【0083】
図1(d)は、図1(b)及び(c)の状態を経て金属3が細孔を埋め尽くすまで成長した状態を示している。本発明においては、図1(d)の状態まで金属細線を成長せしめてもよいが、必要とする金属細線の長さや密度等に応じて、図1(c)から図1(d)の間の状態で成長を止めて所望の金属細線を得ることができる。なお、本発明においては、金属細線を形成する前に成長を止めることで金属粒子を得てもよい。
【0084】
このように、光の照射による金属イオンの還元を、金属イオン溶液を導入しながら行うことによって、メソ多孔体薄膜の細孔内における金属イオンの還元による金属細線の成長が連続的に行われ、途中で不連続部分が発生することなく十分に長い金属細線を細孔内に高密度に形成することができる。
【0085】
ここで、金属イオンを還元する際には、金属イオン近傍に還元剤を存在せしめることが好ましい。還元剤としては、上述したように、メタノールやエタノール等のアルコール等が挙げられ、金属イオン溶液中に含有させることが好ましく、金属イオンの還元時には、このような還元剤を蒸気として金属イオン近傍に存在せしめることがより好ましい。なお、還元剤を蒸気として存在せしめる方法としては、液体として導入した後加熱することで蒸気とする方法や、外部より蒸気として流入させる方法等が挙げられる。
【0086】
上記メソ多孔体薄膜に照射する光は、紫外線であることが好ましく、その波長としては140〜360nmであることがより好ましく、200〜300nmであることが特に好ましい。このような光を照射する光源としては、UVランプ又はレーザー等を使用することができる。また、照射する光の光強度としては、1〜200mW/cm2であることが好ましく、5〜20mW/cm2であることがより好ましい。光を照射することによって、還元剤を効率的に分解して活性なHラジカルを生成することができ、このHラジカルの強い還元作用により、細孔内に導入された金属イオン溶液中の金属イオンを0価の金属まで還元することができる。
【0087】
ここで、光の照射は、細孔内に導入される前の金属イオン溶液に照射することなくメソ多孔体薄膜及び細孔内に導入された金属イオン溶液に対してのみ照射することが好ましい。また、メソ多孔体薄膜における光の照射条件を制御したり、光の照射位置を移動させたりすること等により、金属細線の成長状態を精密に制御したり、金属細線を特定の面積部にのみ成長させたり、特定方向に異方的に成長させたりといったことが可能となる。
【0088】
また、このような光の照射による金属イオンの還元は、密封した容器内で行うことが好ましく、上記容器の開口部をパラフィルム等で蓋をすること等により密封状態とすることができる。このように容器を密封することによって、還元剤を蒸気として細孔内の金属イオン近傍により確実に存在せしめることが可能となる。ここで、還元剤は、飽和蒸気圧の10〜100%の蒸気圧で存在せしめることが好ましく、50〜100%の蒸気圧で存在せしめることがより好ましい。このような密封状態で金属イオンの還元を行うことにより、光による還元剤の分解によるHラジカルの生成がより効率的に行われるとともに、Hラジカルと細孔内の金属イオンとが接触しやすくなり、金属イオンをより効率的且つ確実に還元することができる傾向にある。
【0089】
本発明の金属細線の製造方法において、光の照射時間は特に制限されないが、8〜100時間程度照射することが好ましい。また、金属細線を形成するための上記一連の工程における温度は特に制限されないが、20〜70℃程度で行うことが好ましい。なお、上記照射時間や温度は、必要とする金属細線の長さや密度等に応じて適宜調整することができる。
【0090】
また、本発明の金属細線の製造方法において、メソ多孔体薄膜を金属イオン溶液に接触せしめる前に、メソ多孔体薄膜の表面にあらかじめ被覆層(ブロック層)を設けることが好ましい。上記被覆層は、細孔内への金属イオン溶液の導入を妨げないように、メソ多孔体薄膜における金属イオン溶液に接触せしめる一縁部と該一縁部に対向する縁部とを除く表面上に設けることが好ましい。このような被覆層を設けることにより、メソ多孔体薄膜表面に金属が析出することを防止することができる。
【0091】
上記被覆層としては、金属の析出を防止するためにメソ多孔体薄膜との密着性が高く、且つ、緻密で空隙がなく化学的に安定な膜であることが好ましい。このような被覆層として具体的には、CVD法やSOG法(Spin On Glass)によって形成される、SiO2膜(USG膜)、SiN膜、WやAu等の金属膜、TiN膜、SiC膜等が挙げられる。
【0092】
また、上記被覆層の膜厚は100〜500nmであることが好ましい。膜厚が100nm未満である場合には、上述したような金属イオン溶液の流出や金属の析出を防止する効果が得られにくい傾向があり、膜厚が500nmを超える場合には、光の透過性が低下していまい、金属イオンの還元が十分に行われにくくなる傾向がある。
【0093】
以上説明したような本発明の金属細線の製造方法によれば、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に得ることができる。また更に、本発明の金属細線の製造方法によれば、製造条件等を適宜調整することで金属細線の成長を制御することができ、所望の長さの金属細線若しくは金属粒子を得ることができる。このような金属細線は、その両端に電極をつけることで使用する量子素子や触媒等の用途に好適に用いることができる。
【0094】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(シリカメソ多孔体薄膜の作製)
テトラメトキシシラン(Si(OCH3)4、以下「TMOS」という)15.22g(0.10mol)にHCl水溶液(a)4.1mlを静かに添加し、マグネチック・スターラ(回転速度200rpm/min)を用いて1時間攪拌することによりTMOS部分重合体を含む溶液を得た。次に、界面活性剤であるトリブロックコポリマー(EO)20(PO)70(EO)20(アルドリッチ社製、製品名P123)7.2g、H2O10ml及びEtOH10mlを混合し、マグネチック・スターラで攪拌しながら50℃に加温して上記界面活性剤を溶解させた。その後、室温まで自然冷却し、HCl水溶液(b)100μlを更に加えて混合することにより界面活性剤溶液を得た。
【0096】
上記TMOS部分重合体を含む溶液に界面活性剤溶液を加えて20分間攪拌した。その後、H2O/EtOH=20ml/20ml混合溶媒を加え、マグネチック・スターラの回転速度を300rpm/minに上昇させて20分間攪拌することにより、TMOSと界面活性剤とからなる複合体を含む溶液(以下「TMOS複合体溶液」という)を調製した。なお、HCl水溶液(a)としてはH2O4mlに対して2規定のHCl水溶液を100μl加えて調製したものを用い、HCl水溶液(b)としては2規定のHCl水溶液を用いた。
【0097】
次に、基板引き上げ装置(SIGMA社製;SG SP 26−100)をビニールBOX内(温度22℃、湿度30%)に設置し、ディップコーティング法で薄膜形成工程を行った。前記装置を用いて基板をTMOS複合体溶液中へ20mm/minの速度で浸漬し、溶液内で30秒静置した後20mm/minの速度で引き上げた。基板には、希フッ酸(HF:H2O=1:50)で表面処理を行ったシリコンウェハ(2cm×5cm)を用いた。次に、TMOS複合体溶液が付着した基板を室温で24時間風乾し、更に100℃で1時間乾燥した。その後、1リットル/min大気流通下において、昇温速度100℃/hで25℃から400℃まで昇温し、400℃の温度で4時間焼成することにより、膜厚が0.4μmの2d−ヘキサゴナル構造の基板付きシリカメソ多孔体薄膜を得た。
【0098】
(金属細線の作製)
得られた基板付きシリカメソ多孔体薄膜を、10mm×45mmの短冊状に細孔構造の配向方向と長手方向とがほぼ平行となるように切断して短冊状薄膜を作製した。次いで、15wt%H2PtCl6水溶液:EtOH:H2Oを体積比1:2:2で混合して調製した金属イオン溶液を1ml入れた20mm×10mm×45mmの透明石英セルに、短冊状薄膜を石英セルの一方の壁に立てかけるようにして入れて、短冊状薄膜の短手方向の縁部を金属イオン溶液に浸漬した。この石英セルの開口部をパラフィルムで蓋をして密封し、毛管現象により短冊状薄膜の細孔内に金属イオン溶液を導入しつつ、石英セルの壁を通して短冊状薄膜に波長256nmのUVランプ(ウシオ社製;UXM−500SX)の光を、短冊状薄膜表面における光強度が7mW/cm2となるように40℃で24時間照射して白金イオン(Pt4+)を還元し、短冊状薄膜の細孔内に白金細線を形成せしめた。
【0099】
以上の結果、図2の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(日本電子社製;JEM2000EXにて撮影)に示すように、シリカメソ多孔体薄膜の細孔内に不連続部分が生じることなく高密度に白金細線が形成されており、それらの大半は平均直径8nm、長さ1μm以上の白金細線であることが確認された。
【0100】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によりシリカメソ多孔体薄膜からなる短冊状薄膜を作製した。得られた短冊状薄膜に安全カミソリを用いて、細孔構造の配向方向に対し斜めに0.5mm間隔の傷をつけて細孔の開口部を設けた。その短冊状薄膜を温度制御できる真空ポンプ(真空機工社製;GVD−050A)を備えた真空装置に入れ、室温で24時間真空乾燥した。次に、15wt%H2PtCl6水溶液:EtOH:H2Oを体積比1:2:2で混合して調製した金属イオン溶液中に、真空乾燥したシリカメソ多孔体薄膜を全体が漬かるように浸漬し、超音波洗浄器(エスエヌディ社製;US−1)中で超音波分散を10分間行い、そのまま24時間静置した。短冊状薄膜を引き上げ、薄膜表面に付着した金属イオン溶液を拭き取った後、再度真空装置に短冊状薄膜を入れ、室温で24時間真空乾燥した。その後、真空装置内に蒸気圧10Torrの水蒸気を10分間導入して薄膜を曝し、次いで蒸気圧10Torrのメタノールの蒸気を10分間導入して薄膜を曝すことにより、還元剤蒸気をシリカメソ多孔体薄膜の細孔内に導入した。還元剤が導入された薄膜に波長256nmのUVランプの光を、短冊状薄膜表面における光強度が7mW/cm2となるように70℃で72時間照射して白金イオン(Pt4+)を還元した。その後、残留ガスを除去するために室温で6時間真空乾燥した。
【0101】
以上の結果、図3の透過型電子顕微鏡写真に示すように、シリカメソ多孔体薄膜の細孔内に白金細線が形成されているものの、不連続部分が多く、その大半が平均直径6nm、長さ30nm以下の白金細線であり、細線にならず白金微粒子の状態のものも多く存在していることが確認された。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の金属細線の製造方法によれば、メソサイズの細さと十分な長さとを有する金属細線を効率的且つ確実に得ることができる。また更に、本発明の金属細線の製造方法によれば、製造条件等を適宜調整することで金属細線の成長を制御することができ、所望の長さの金属細線若しくは金属粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)はそれぞれメソ多孔体薄膜の細孔内において金属細線が形成される様子を段階的に示した模式図である。
【図2】実施例1で得られた金属(白金)細線の透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を示す図である。
【図3】比較例1で得られた金属(白金)細線の透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を示す図である。
【符号の説明】
1・・・メソ多孔体薄膜、2・・・細孔、3・・・金属イオン溶液、4・・・金属粒子、5・・・光、6・・・金属細線。
Claims (5)
- 連続した細孔構造を有するメソ多孔体薄膜の少なくとも一縁部を、金属イオンを含有する金属イオン溶液に接触せしめ、毛管現象により前記メソ多孔体薄膜の細孔内に前記金属イオン溶液を導入しつつ、前記メソ多孔体薄膜に光を照射して前記細孔内に導入された前記金属イオン溶液中の前記金属イオンを還元することにより、前記細孔内に金属細線を形成せしめることを特徴とする金属細線の製造方法。
- 前記金属イオン溶液が還元剤を更に含有していることを特徴とする、請求項1記載の金属細線の製造方法。
- 前記金属イオンの還元が密封された容器内で行われることを特徴とする、請求項1又は2記載の金属細線の製造方法。
- 前記メソ多孔体薄膜における前記金属イオン溶液に接触せしめる前記一縁部は、前記細孔の開口端部を含む縁部であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の金属細線の製造方法。
- 前記メソ多孔体薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の金属細線の製造方法。
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JP2003054655A JP2004263246A (ja) | 2003-02-28 | 2003-02-28 | 金属細線の製造方法 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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US11776710B2 (en) | 2018-03-09 | 2023-10-03 | Dai Nippon Printing Co., Ltd. | Electroconductive film, sensor, touch panel, and image display device |
-
2003
- 2003-02-28 JP JP2003054655A patent/JP2004263246A/ja active Pending
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