JP4416928B2 - ジェット推進型滑走艇 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水流を後方に噴出してその反動で水上を航行する小型滑走艇( Personal Watercraft(パーソナルウォータークラフト); PWCとも呼ばれる) 等のジェット推進型の滑走艇に関し、特にスロットルをOFF操作したときにも、ステアリング機能を維持できるジェット推進型滑走艇に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
所謂ジェット推進型の滑走艇は、レジャー用,スポーツ用としてあるいはレスキュー用として、近年多用されている。このジェット推進型の滑走艇では、一般的に艇の底面に設けられた吸水口から吸い込んだ水を、ウォータージェットポンプで加圧・加速して噴射口から後方へ噴射することによって船体を推進させる。
【0003】
そして、このジェット推進型の滑走艇の場合、上記ウォータージェットポンプの噴射口の後方に配置したステアリングノズルを左右に揺動させることによって、後方への水の噴射方向を左右に変更することによって、艇を右側あるいは左側に操舵する。
【0004】
また、後進させる場合には、上記ステアリングノズルの後方に昇降可能に配置したリバース用のデフレクターを降下させて、ステアリングノズルから後方に向けて噴射した水流の向きを前方に変更させて、その反動で後進させるよう構成されている。
【0005】
従って、このような構成のジェット推進型の滑走艇の場合、前進の場合および後進の場合にも、スロットルを全閉近くまで閉じてウォータージェットポンプからの水の噴射量が減少すると、艇を転向させるために利用できる推力(操舵のために利用できる推力)も同時に減少し、スロットルを再び開くまでは、艇を操舵する能力が減少する。
【0006】
このような現況に鑑みて、本出願人は、スロットルを全閉近くまで閉じてウォータージェットポンプからの水の噴射量が減少しても、メカニカル的に、操舵する能力を維持できる操舵用のステアリング部材を備えたジェット推進型の滑走艇を提供した(特願2000−6708号)。
【0007】
また、上記ジェット推進型滑走艇の場合、部品点数が多くなって、構造が複雑となり、従って、重量が増加することに鑑みて、スロットルのOFF操作とステアリングの所定角度以上の操作等を検出して、一時的にエンジン回転数を上昇させて、スロットルのOFF操作によるウォータージェットポンプからの水の噴射量の減少があっても、操舵機能を維持できるようなジェット推進型滑走艇を提供している(特願2000−173232号)。
【0008】
本発明は、このような現況のもと、スロットルをOFF操作した場合でも、艇を操舵することが維持できるジェット推進型滑走艇において、より円滑に艇が操舵できるようなジェット推進型滑走艇を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本第1の発明は、上記課題を、以下のような構成からなるジェット推進型滑走艇によって解決することができる。即ち、
本第1の発明にかかるジェット推進型滑走艇は、ウォータージェットポンプで加圧・加速された水を後方の噴射口から噴射しその反動によって推進し、操舵とともに、スロットルをOFF操作したときに、そのステアリングの操舵とスロットルOFF操作を検知して、一時的にエンジンの回転数を上昇させることによって、スロットルのOFF操作時に操舵機能を維持できるよう構成されたジェット推進型の滑走艇において、
上記エンジンの回転数を上昇させる制御の開始に際し、そのときのエンジンのトルクと、エンジンの回転数の上昇により生じるトルクとの差が、所定値以上である場合に、該エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすように制御することを特徴とする。
【0010】
また、本第2の発明にかかるジェット推進型滑走艇は、ウォータージェットポンプで加圧・加速された水を後方の噴射口から噴射しその反動によって推進し、操舵とともに、スロットルをOFF操作したときに、そのステアリングの操舵とスロットルOFF操作を検知して、一時的にエンジンの回転数を上昇させることによって、スロットルのOFF操作時に操舵機能を維持できるよう構成されたジェット推進型の滑走艇において、
上記エンジンの回転数を上昇させる制御の開始に際し、そのときの船速と、エンジンの回転数の上昇により生じる船速との差が、所定値以上である場合に、該エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすように制御することを特徴とする。
【0011】
しかして、このように構成されたジェット推進型滑走艇によると、オフ・スロットル・ステアリングモード制御時の、エンジンの回転数の上昇に要する時間が長くなることから、艇の操舵が緩やかにおこなわれる。従って、オフ・スロットル・ステアリングモード制御時の艇の旋回が円滑に実行されることになる。
なお、本明細書において、スロットル開度検知センサーからスロットルがOFF操作された旨の信号と、ステアリング位置検知センサーからステアリングが操作されている信号が得られたときに、一時的にエンジンの回転数を上昇させて、操舵機能を維持するような制御を、「オフ・スロットル・ステアリングモード制御」という。また、本明細書において、スロットルの「OFF操作」とは、スロットルが「閉」側に所定量以上操作される動作をいう。
【0012】
また、上記第1又第2の発明にかかるジェット推進型滑走艇において、エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの複数の気筒のうちの一部の気筒の燃焼を所定期間だけおこなわないよう、つまり一部の気筒の所謂「間引き」運転をするよう制御することによって、実現することができ、この構成の場合には、次にスロットルをONにした場合にも速やかにエンジン回転数を上昇させることができる構成となる。
【0013】
また、上記第1又第2の発明にかかるジェット推進型滑走艇において、エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの複数の気筒のうちの一部の気筒について、点火時期と噴射期間の少なくともいずれか一方を、時間をかけて変更することによっておこなうことによっても、実現することができる。
【0014】
また、上記第1又第2の発明にかかるジェット推進型滑走艇において、エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの複数の各気筒のそれぞれの回転数が順次上昇するよう制御することによっても実現することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態にかかるジェット推進型滑走艇およびそれに最適な船速検知装置について、小型滑走艇を例に挙げて、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施形態にかかるジェット推進型滑走艇の制御関係の構成を示すブロック図、図2は図1のブロック図に示すエンジンコントロールユニットの構成を模式図的に表したブロック図、図3は図1のブロック図に示す構成要素のオフ・スロットル・ステアリングモード制御の制御内容を示すフローチャート、図4は図2に示す船速検知の検知プログラムの内容を示すフローチャート、図10は本発明の実施形態にかか小型滑走艇の全体側面図、図11は図10の平面図、図12は図10のステアリング近傍の部分拡大断面図、図13はステアリング部分の要部の分解斜視図、図14は図1のブロック図に示す構成を実際のエンジンとの関連で表した図である。
【0017】
図10,図11において、Aは船体で、この船体Aは、ハルHとその上方を覆うデッキDから構成され、これらハルHとデッキDを全周で接続する接続ラインはガンネルラインGと呼ばれ、この実施例では、このガンネルラインGは、この小型滑走艇の喫水線Lより上方に位置している。
【0018】
そして、上記デッキDの中央よりやや後部には、図11に図示するように、船体Aの上面に長手方向に延びる平面視において略長方形の開口部16が形成され、図10,図11に図示するように、この開口部16上方に騎乗用のシートSが配置されている。
【0019】
また、エンジンEは、上記シートS下方のハルHとデッキDに囲まれた横断面形状が「凸」状の空間20内に配置される。
このエンジンEは、多気筒(この実施例では3気筒)のエンジンEで、図10に図示するように、クランクシャフト10bが船体Aの長手方向に沿うような向きで搭載されており、このクランクシャフト10bの出力端は、プロペラ軸15を介して、インペラ21が取着されているウォータージェットポンプPのポンプ軸側に、一体的に回転可能に連結されている。そして、このインペラ21は、その外周方が、ポンプケーシング21Cで覆われ、小型滑走艇の底面に設けられた給水口17から取り入れた水を吸水通路を介して取り込んで、ウォータージェットポンプPで加圧・加速して、通水断面積が後方にゆくに従って小さくなったポンプノズル(噴出部)21Rを通って、後端の噴射口21Kから吐出して、推進力を得るよう構成されている。
【0020】
なお、図10において、21Vは整流するための静翼である。また、図10,図11おいて、10はステアリング操作手段である操舵用のハンドルで、このハンドル10を左右に操作することによって、上記ポンプノズル21R後方のステアリングノズル18を左右に揺動させて、ウォータージェットポンプPの稼働時に、艇を所望の方向に操舵できるよう構成されている。
【0021】
また、図10に図示するように、上記ステアリングノズル18の上後方には、水平に配置された揺動軸19aを中心に下方に揺動可能に、ボウル形状のリバース用のデフレクター19が配置され、このデフレクター19をステアリングノズル18後方の下方位置へ揺動動作させることによって、ステアリングノズル18から後方に吐出される水を前方に転向させて、後進できるよう構成されている。
【0022】
また、図10,図11において、12は後部デッキで、この後部デッキ12には、開閉式のハッチカバー29が設けられ、ハッチカバー29の下方に小容量の収納ボックス(図示せず)が形成されている。また、図10あるいは図11において、23は前部ハッチカバーで、このハッチカバー23の下方には備品等を収納するボックス(図示せず)が設けられている。また、この前部ハッチカバー23の上方には、別のハッチカバー25が配置されて、二層式のハッチカバーが形成され、上記ハッチカバー25には、後端面に設けられた開口(図示せず)からその内部にライフジャケット等を収納することができるようになっている。
【0023】
ところで、本発明の実施例にかかる小型滑走艇では、図12,図13に図示するように、上記ハンドル10の回転軸10A部分には、回転側と固定側に、近接スイッチで構成されるステアリング位置検知センサーSpが配置されている。この実施例では、ステアリング位置検知センサーSpは、回転側に円板状の部材の一部に永久磁石40を配設するとともに、固定側に二箇所、上記永久磁石40が近接するとONになるセンサー41を配置した構成のものによって形成されている。また、このステアリング位置検知センサーSpは、上記構成のものに代えて、ポテンショメータによって構成することもできる。
また、図14に図示するように、エンジンEの吸気通路3に配置されているバタフライバルブ51に近接して、スロットル開度検知センサーSbが配置されている。
さらに、図14に図示するように、クランク軸Crの近傍には、エンジン回転数検知センサーSeが配置されている。
そして、図1に図示するように、上記ステアリング位置検知センサーSp,スロットル開度検知センサーSb,およびエンジン回転数検知センサーSeは、それぞれ、信号線 (電線) によって、エンジンコントロールユニットEcに接続されており、これら各センサーで検知した信号を、このエンジンコントロールユニットEcに伝達するよう構成されている。
そして、このエンジンコントロールユニットEcは、信号線(電線)によって、エンジンEのシリンダヘッドHcに配置されている燃料噴射装置Feに接続されている。また、このエンジンコントロールユニットEcは、信号線(電線)によって、点火コイルIcに接続されている。
そして、点火コイルIcは、電線(高圧電気コード)によって、点火プラグIpに接続されている。なお、図14において、4は燃料タンク、5は燃料昇圧ポンプを示す。
【0024】
ところで、上記エンジンコントロールユニットEcは、この実施例では、マイクロコンピュータによって構成されており、このエンジンコントロールユニットEcには、図2に模式図的に図示するように、プログラム(ソフトウエア)の形態で、船速検知装置Dsが形成されており、またこの船速検知装置Dsには、船速を演算によって検知する船速演算手段Dcを備え、さらに、エンジン回転数と船速との関係を予めテーブルの形態にした船速検出テーブルTsが該エンジンコントロールユニットEcのメモリの中に格納されている。さらに、エンジンコントロールユニットEcのメモリの中には、エンジン回転数の加速・減速と補正値との関係を予めテーブルの形態にした補正テーブルTcが格納されている。
また、このエンジンコントロールユニットEcには、プログラム(ソフトウエア)の形態で、エンジンのトルクを検知するトルク検知装置Dtが形成されており、そして、このトルク検知装置Dtには、該トルクを演算によって検知するトルク演算手段Dkを備え、さらに、エンジン回転数とトルクとの関係を予めテーブルの形態にしたトルク検出テーブルTkが該エンジンコントロールユニットEcのメモリの中に格納されている。
さらに、上記エンジンコントロールユニットEcには、オフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなうためのプログラムが格納されている。
【0025】
しかして、このように構成された本発明の実施例にかかるジェット推進型滑走艇は、以下のように、エンジン回転数からトルクおよび船速を検知して、スロットルをOFF操作し且つ所定角度以上操舵したときに、そのときのトルクあるいは船速に合わせて、制御する時間を延ばして、艇が円滑に旋回するよう、オフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこない、スロットルをOFF操作にかかわらずステアリング機能を維持することができる。以下、上記本発明の実施例にかかる構成の作用とともに、上記エンジンコントロールユニットEcに内蔵されているメモリに記録されているオフ・スロットル・ステアリングモード制御のプログラムの内容(制御の内容)について、図3,図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0026】
図4のフローチャートに図示するように、ジェット推進型滑走艇である小型滑走艇が滑走している状態において、そのときのトルクおよび船速をエンジン回転数から以下のように検知することができる。即ち、
図5に図示するように、得ようとする時点からそれ以前の所定期間(この場合、t6 〜t1 )における一定時間Δt毎のエンジン回転数に関するデータを上記エンジン回転数検知センサーSeから検知する(ステップ1a(S1a))。つまり、常に現時点とそれ以前の上記所定期間(この場合:t6 〜t1 )内のエンジン回転数を一定間隔Δt(Δt=tn+1 −tn )毎にエンジンコントロールユニットEcのメモリ内に記憶するよう構成されている。
【0027】
そして、これら検知したエンジン回転数に関するデータについて、順次そのデータとその直前に得られた前のデータ、例えばt1 とt2 のエンジン回転数に関する各データの差分ΔS1 を得る差分処理を所定時間(この実施例ではt1 〜t6 )にわたっておこなう(ステップ2a(S2a))。
【0028】
次に、その差分処理した時系列的なデータから、どの程度の加速あるいは減速がおこなわれているか、もしくは定常状態なのかのを判定するとともに、上記所定期間(この場合:t6 〜t1 )における各差分ΔS1 〜ΔS5 を積算(ΣΔSn )する。(ステップ3a(S3a))。
【0029】
次に、上記判定結果に基づいて、図6(a)に図示する補正テーブルを兼備した船速検出テーブルから、基本船速値と補正値を求める(ステップ4a(S4a))。具体的には、例えば、図6(a)に概念的に示すように、得ようとする時点t6 のエンジン回転数R6 における基本船速値Ss6得る。そして、次に、上記各差分ΔS1 〜ΔS5 を積算(ΣΔSn )した積算値(補正値に該当)によって補正する。例えば、積算値Sscが「正」の値であると、図6(a)に図示するように、上記基本船速値Ss6から下方にその積算値Sscに対応する分だけ移動させた(減算した)位置の値(船速)が、得ようとする計算船速値SsRとなり、その移動させた量が、補正値となる。つまり、加速の程度が大きい程、基本船速値Ss6に比べて、計算船速値SsRが低い方向にずれることになる。また、上記差分の積算値が負の値の場合、図6(a)において、上記基本船速値Ss6から上方にその積算値分だけ移動させた(加算した)位置の値(船速)が、得ようとする計算船速値SsRとなる。つまり、減速の程度が大きい程、基本船速値Ss6に比べて、計算船速値SsRが高い方向にずれることになる。また、定常状態の場合には、上記積算値(補正値)はゼロとなり、この場合には、上記基本船速値Ss6と計算船速値SsRとが等しくなる。
従って、実際の状況をイメージすれば判るように、例えば所定期間においてエンジン回転数の加速が大きいときには、船体の慣性に起因して、エンジン回転数の加速の程度と実際の船速の増速との差は大きくなる。つまり、ゆっくり加速すると、エンジン回転数の加速程度と船速の増速程度は一致することから、その差は少なくなる。
また、上記補正テーブルを兼ねた船速検出テーブルは、各種の艇に固有のものとなることから、予め、船速,エンジン回転数等を計測する計測装置等を用いて、その艇で実走し、エンジン回転数と船速との関係を、複数の、程度の異なるエンジン回転数の加速状態と減速状態、およびエンジン回転数の変化に対して船速の変化に遅れ状態のない緩慢な加速状態(減速状態)を、求めることによって作成しておく。具体的には、例えば、図6(a)に図示するように、最大加速状態におけるときの、エンジン回転数の変化と船速の変化を求め(図6(a)の線AcMAX 参照)、且つ、最大減速状態におけるときのエンジン回転数の変化と船速の変化を求め(図6(a)の線Ad MAX 参照)、さらに、エンジン回転数の変化に対して船速の変化に遅れ状態のない緩慢な加速状態(減速状態)を求める(図6(a)の線Am 参照)。そして、上記補正値については、図6(b)の表に図示するように、縦軸に補正量を、横軸に上記差分を積算した積算値をとって、これら補正量と積算値との関係を求めておく。そして、このように求めた補正値は、図6(a)に図示する基本船速値に対して、その基本船速における線Ad MAX 又は線Ac MAX を用いて、最大加速あるいは最大減速と上記積算値との割合を求めて、上述したように、図6(a)における補正量を算出することができる。
【0030】
そして、トルクの検知については、図4のフローチャートに図示するように、上記船速の検知におけるステップ3aにおける判定において、減速状態なのか、それ以外の状態なのかをチェックする(ステップ5a(S5a)。そして、減速状態以外の場合、つまり加速状態又は定常状態のときには、予めエンジンについて求められているエンジン回転数とトルクとのテーブルに基づいて、そのときのエンジン回転数におけるトルクの値を求める(ステップ6a(S6a)。
一方、減速状態であるときには、その減速の程度に応じて上記トルクの値から減算する補正をおこなう(ステップ7a(S7a)。この減速の程度と補正すべき減算の値については、エンジンおよびプロペラ軸とウォータージェットポンプの特性として、予め求めて、テーブルの形態で記憶させておけばよい。
【0031】
なお、船速を求める際の補正値は、上記実施例では図6(a),(b)に示すテーブルを用いて算出するよう構成されているが、これに代えて、エンジン回転数の加速あるいは減速の程度をパラメータとする方程式を用いて、求めるよう構成してもよい。
【0032】
そして、上記検知した船速およびトルクを用いて以下にのべる制御開始時の船速に合った円滑なオフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなうことができる。つまり、
図3のフローチャートに図示するように、
例えば、ライダーが小型滑走艇のスロットルをOFF操作すると、上記スロットル開度検知センサーSbが、そのOFF操作を検知(ステップ1(S1))し、その信号を、上記エンジンコントロールユニットEcに伝達する。
【0033】
そして、このような状態において、ライダーが、上記ハンドル10を右あるいは左に所定角度(この実施例では、回転角度にして、左右にそれぞれ略20度程度)操作すると、上記ステアリング位置検知センサーSpが、その操舵動作を検知したか否かチェックし(ステップ2(S2))、検知したらその信号を、上記エンジンコントロールユニットEcに伝達する。
【0034】
次に、エンジンコントロールユニットEcは、上述のようにトルク(あるいは船速(計測船速))を求めデータとして使用する(ステップ3(S3))。
【0035】
次に、エンジンコントロールユニットEcは、図7に図示する図表(この実施例では、オフ・スロットル・ステアリング制御時 (スロットルをOFF操作した時) のトルク(あるいは図示しないが「船速」)と、オフ・スロットル・ステアリングモード制御によって生じるエンジン回転数の上昇に伴って発生するトルク(あるいは船速)との差によって、該オフ・スロットル・ステアリングモード制御を実行するか否かを決定するテーブル)に従って、そのときのトルクの差が所定値以上か否か判断する(ステップ4(S4))。
そして、トルク(あるいは船速)の差が所定値以上であれば、オフ・スロットル・ステアリングモード制御によって上昇させる所定のエンジン回転数(例えば、3000rpm)までへの達成時間を延長するような制御をおこなう(ステップ5(S5))。図示すると図8に模式図的に図示するように、通常の場合破線で表されるようなオフ・スロットル・ステアリングモード制御を、実線で表すように長い時間をかけてオフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなう。
一方、トルク(あるいは船速)の差が所定値以上でなければ、図8の破線で示すような通常どおりの達成時間でおこなわるオフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなう(ステップ6(S6))。
そして、上記オフ・スロットル・ステアリングモード制御が終了すると、ステップ7の通常運転状態(オフ・スロットル・ステアリングモード制御でない運転状態)に戻る(ステップ7(S7))。
【0036】
オフ・スロットル・ステアリングモード制御によってエンジン回転数を上昇させるのに要する時間を長く延ばすか否かの判断対象となるパラメータは、上述のように、トルクの差と船速の差のいずれかであってもよいが、具体的には、トルクの差、あるいは船速の差が、いずれの場合にも、加速度に換算して、所定値以上にならないように設定することが実際の体感上から好ましい実施形態となる。
ところで、上記ステップ5において、「上昇させる所定のエンジン回転数(例えば、3000rpm)までへの達成時間を延長する」ためには、種々の手法が考えられる。
例えば、点火時期および燃料供給時期(噴射時期)の変更(時期を早める方向への変更)を、通常のオフ・スロットル・ステアリングモード制御では瞬時(正確には0.01〜0.002秒程度)におこなうのに対して、0.2〜0.6秒かけておこなうことによって実施できる。従って、通常瞬時に、例えばエンジン回転数が3000rpmまで上昇するのに対して、0.2〜0.6秒の期間をもって徐々にエンジン回転数が3000rpmまで上昇することになる。また、上記「所定のエンジン回転数までへの達成時間を延長する」のに、燃料の噴射量を減少させることによっておこなうこともできる。そして、上記点火時期および燃料供給時期(噴射時期)の変更あるいは噴射量の減少は、一度におこなってもよいし、あるいは各気筒毎に順次実施することによっておこなってもよい。
また、別の手法としては、例えば、図9に6つの例を表すように点火又は燃料の供給を一時的に止めることによって、複数のエンジンの気筒のうち、その一部の気筒の燃焼を所定期間だけ、例えば、0.2〜0.6秒間だけ止めてもよい。つまり、所定期間だけ所謂「間引き」運転してもよい。
このように燃焼を止める手法としては、図9に図示する如く、各気筒(この実施例では♯1〜♯3の3気筒)について、点火を止めたり、あるいは燃料の噴射を止めたり、あるいは点火と燃料の噴射の両方を止めたりすることが考えられる。なお、図9において、「○」は実行を、「×」は止めることを意味する。
【0037】
上述のように、所定以上にトルクの差あるいは船速の差がある場合には、上記構成からなるオフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなうことによって、艇が所定以上の加速度をもって旋回するようなことはない。従って、ライダーにとって、スムーズな体感を有する艇の旋回動作となる。
【0038】
ところで、上記オフ・スロットル・ステアリングモード制御の内容(所定の回転数に一時的にエンジン回転数を上昇させる制御)については、この実施例では、燃料噴射タイミングと点火タイミングを変更(この実施例では、例えば、タイミングを早くする。)して、エンジンEを一時的に所定の回転数まで上昇させている。なお、このとき、上記タイミングの変更とともに、燃料噴射量を変更(例えば「増加」)させるような制御をおこなってよい。
【0039】
また、上記所定の回転数は、小型滑走艇の特性(旋回特性あるいは船形に起因する特性)等に鑑み決定するが、この実施例では、3000rpmに設定している。この設定値は、適宜設定値(例えば,2500〜3500rpm)に決定されればよい。
【0040】
そして、この実施例では、トルクの差あるいは船速の差が、所定値以上の値の場合に、一義的に定めた時間だけ長く延ばすよう構成しているが、これに代えて、それらトルクあるいは船速の差の量に比例して、延ばす時間を変えるような構成にしてもよく、かかる場合には、より細やかな艇の動作を得ることができる。
【0041】
そして、このように構成された、本ジェット推進型滑走艇によると、上記スロットル開度検知センサーSb、エンジン回転数検知センサーSeおよびエンジンコントロールユニットEcを構成するマイクロコンピュータは、従来のジェット推進型滑走艇にも具備されていることから、単に近接スイッチからなるステアリング位置検知センサーSpのみを新たに設け、且つ上記エンジンコントロールユニットEcの制御プログラムを変更して実現できる。
【0042】
さらに、上記一時的にエンジン回転数を上昇させる「オフ・スロットル・ステアリングモード制御」を、エンジンがアイドリング領域(例えば、800〜2000rpm)のときには、実行させないよう構成してもよい。このように構成すると、余分な推進力が不要のときにエンジン回転数がアイドリング領域から上昇することがない点で、好ましい実施形態となる。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、従来既に具備している機器を最大限利用して、簡単な構成で且つ重量を増加させることなく、スロットルをOFF操作した場合でも、操舵を維持することができるのは勿論のこと、さらに、艇をそのときの状態に合わせて円滑に旋回させることができるジェット推進型滑走艇を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態にかかるジェット推進型滑走艇の制御関係の構成を示すブロック図である。
【図2】 図1のブロック図に示すエンジンコントロールユニットの構成を模式図的に表したブロック図である。
【図3】 図1のブロック図に示す構成要素のオフ・スロットル・ステアリングモード制御の制御内容を示すフローチャートである。
【図4】 図2に示す船速検知の検知プログラムの内容を示すフローチャートである。
【図5】 縦軸にエンジン回転数と横軸に時間をとってエンジン回転数の変化と各時間(Δt)毎の差分を表した図である。
【図6】 (a)は縦軸に船速と横軸にエンジン回転数をとって、エンジン回転数から基本船速値と補正値を求めるためのテーブル(補正テーブルを兼ねた船速検出テーブル)、(b)は縦軸に補正値と横軸に差分を積算した積算値をとって、補正値と積算値の関係を表した表である。
【図7】 縦軸にエンジンのトルクと横軸にエンジン回転数をとって、オフ・スロットル・ステアリングモード制御時の状態と該オフ・スロットル・ステアリングモード制御によって達成される状態を示す図表である。
【図8】 縦軸に点火時期および噴射時期を、横軸に時間をとって、達成する時間を長く延ばしておこなうオフ・スロットル・ステアリングモード制御を実線で、通常のオフ・スロットル・ステアリングモード制御を破線で模式図的に表した図表である。
【図9】 達成する時間を長く延ばしてオフ・スロットル・ステアリングモード制御をおこなう各種手法を表した表である。
【図10】 本発明の実施形態にかかる小型滑走艇の全体側面図である。
【図11】 図4に示す小型滑走艇の全体平面図である。
【図12】 ステアリング位置検知センサーの配置位置と構成を示す、図4のステアリング近傍の部分拡大断面図である。
【図13】 図6に示すステアリング位置検知センサーの配置位置とその近傍の構成を示す、ステアリング部分の要部の分解斜視図である。
【図14】 図1に示す制御関係の構成を実際のエンジンとの関連で表した図である。
【符号の説明】
P……ウォータージェットポンプ
21K……噴射口
E……エンジン
Sp……ステアリング位置検知センサー
Sb……スロットル開度検知センサー
Claims (5)
- ウォータージェットポンプで加圧・加速された水を後方の噴射口から噴射しその反動によって推進し、操舵とともに、スロットルをOFF操作したときに、そのステアリングの操舵とスロットルOFF操作を検知して、一時的にエンジンの回転数を上昇させることによって、スロットルのOFF操作時に操舵機能を維持できるよう構成されたジェット推進型の滑走艇において、
上記エンジンの回転数を上昇させる制御の開始に際し、そのときのエンジンのトルクと、該エンジンの回転数の上昇により生じるトルクとの差が、所定値以上である場合に、該エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすように制御することを特徴とするジェット推進型滑走艇。 - ウォータージェットポンプで加圧・加速された水を後方の噴射口から噴射しその反動によって推進し、操舵とともに、スロットルをOFF操作したときに、そのステアリングの操舵とスロットルOFF操作を検知して、一時的にエンジンの回転数を上昇させることによって、スロットルのOFF操作時に操舵機能を維持できるよう構成されたジェット推進型の滑走艇において、
上記エンジンの回転数を上昇させる制御の開始に際し、そのときの船速と、エンジンの回転数の上昇により生じる船速との差が、所定値以上である場合に、該エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすように制御することを特徴とするジェット推進型滑走艇。 - 前記エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの複数の気筒のうちの一部の気筒の燃焼を所定期間だけおこなわないよう制御することを特徴とする請求項1又は2記載のジェット推進型滑走艇。
- 前記エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの複数の気筒のうちの一部の気筒について、点火時期と噴射期間の少なくともいずれか一方を時間をかけて変更することによっておこなうことを特徴とする請求項1又は2記載のジェット推進型滑走艇。
- 前記エンジンの回転数の上昇に要する時間を長く延ばすのに、エンジンの回転数が上昇するような制御を複数の各気筒に対して順次実施することを特徴とする請求項1又は2記載のジェット推進型滑走艇。
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