JP4414034B2 - クラスター生成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板上にクラスターを堆積させて薄膜を形成するために用いられ、レーザーアブレーションによる原子クラスター生成装置に関わる。
【0002】
【従来の技術】
従来のクラスター生成装置としては、図9に示されているように、一般に大出力パルスレーザー101と、ターゲット材料102と、ターゲットホルダー103と、ヘリウム等不活性ガス供給源104と、スキマー105とを備えており、これら全体は、真空チャンバー内に収められているものが知られている。
【0003】
パルスレーザーをターゲット材料102に照射することによってターゲット材料102を蒸発させる。蒸発原子は不活性ガス中でクラスターを形成し、不活性ガス源と真空との圧力差によって生ずる流れによって、クラスタービームとなる。下流に設置されたスキマー105は、軸方向速度を持つクラスターだけを取り出す機能を持っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の装置では、ターゲット102がパルスレーザーに照射される時間は有限であり、ターゲット102から蒸発する時刻の相違によって成長したクラスターサイズが異なるという欠点があった。質量分析実験によると、クラスターサイズ分布の広がりは観測時間の長さの影響を受け、観測時間が長いほどサイズ分布の広がりは大きくなる。したがって、レーザー照射後に、クラスターをサンプリングする時間を短く制限すればサイズの揃ったクラスターを得ることができるが、従来の装置のままでは、均一なクラスタービームの十分なフラックスが得られなかった(図9において、生成した大小の粒径のクラスタCが模式的に示されている)。
【0005】
図10は、クラスター粒子の滞留時間と生成粒子サイズ分布の関係を示すものである。これは、上記従来装置で実施した実験により得られたものである。図10によると、滞留時間が大きい範囲で、クラスター粒子分布はほぼ一定になることが分かる。一方、滞留時間が短い範囲では、滞留時間が短いほど粒子分布は小さくなる。したがって、粒子分布の小さなクラスター、すなわち、サイズの揃ったクラスターを得るためには、クラスターの生成過程を時間的に規定する必要が生じることが理解できる。
【0006】
したがって、十分なフラックスを持つ、サイズの揃ったクラスタービームを得る装置が必要となる。
【0007】
今、得ようとしているクラスターのサイズ、内部エネルギー及び電子状態は、クラスターが生成する場の初期熱力学状態及びその後のクラスターの成長過程における熱力学状態によって一意的に決まる。したがって、サイズの揃った大フラックスのクラスタービームを発生させるには、クラスターが生成する場の熱力学条件を均一にするとともに、そのような場を一定時間持続させることが必要となる。
【0008】
本発明の目的は、上述のように、時間的及び空間的に均一な熱力学条件を実現する具体的なクラスター生成装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明によるクラスター生成装置は、内部にクラスター生成空間を有する冷却されたセルと、該セルはレーザー入射口と、該レーザー入射口に対向して設けられた開口部とを備え、前記開口部に間挿されたホルダーと、該ホルダーは前記セル開口部に密封して装着され、前記クラスター生成空間内に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給手段と、該不活性ガス供給手段から供給される不活性ガスは前記開口部から層流状態で前記クラスター生成空間部に供給され、前記ホルダーに設けられたターゲット材料を蒸発させるためのレーザー手段と、前記レーザー手段によって前記ターゲット材料を蒸発させて、該蒸気と前記層流とが接する接触面で衝撃波を発生させ、該衝撃波を反射させて生じる反射衝撃波が該蒸気と衝突する衝突面にクラスター生成領域を形成するクラスター生成手段とを備えるものである。
上記装置によれば、不活性ガスを満たしたクラスター生成空間において、クラスターの原料となるターゲットを蒸発させて、ターゲットの蒸発原子が膨張する状態を生じさせ、膨張する領域と、膨張により不活性ガス領域中に生じた衝撃波または衝撃波がクラスター生成空間の壁に反射した反射衝撃波とにより、それらの混合領域であるクラスター生成領域を形成し、クラスター生成領域内でクラスターを生成させ、生成したクラスターをクラスター生成空間から外部空間に取り出すことが可能となる。
【0010】
上記クラスター装置において、ターゲットから蒸発するガスと不活性ガスとの混合領域は、反射衝撃波と接触面の干渉によって生じる。この混合領域は、空間および時間的に熱力学的条件が均一に維持されるため、従来よりもサイズの揃ったクラスターを、十分なフラックスともに取出すことができる。
【0014】
上記クラスター生成装置において、レーザを、クラスター生成空間と外部を連絡する導入孔を通じて外部からの導入する線状光とすることが好ましい。
【0015】
さらに、ターゲットを、位置あるいは向きを微調整可能な可動部に配置することが好ましい。
【0016】
また、導入孔は、冷却手段により冷却されることが好ましい。
【0017】
また、導入孔は、低熱膨張材料あるいは高融点材料、もしくは低熱膨張材料かつ高融点材料に設けられていることが好ましい。
【0018】
また、反射板の形状は、ターゲット方向に対して曲面による凹部をなしていることが好ましい。
【0019】
さらに、上記曲面は、ターゲット表面またはその付近を焦点の1つとした回転楕円体の表面の一部であることが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照してつぎに説明する
図1を参照すると、クラスター生成装置は、レーザ発生装置11、スキマー12および装置ボディ13を備えている。これらのレーザ発生装置11、スキマー12および装置ボディ13は、図示しない真空チャンバ内に収容されている。
【0021】
レーザ発生装置11からは、YAGレーザービームが照射される。スキマー12は、コーン形状のスリット14を有しており、軸方向にのみ並進速度をもつガスの流れを取出すためのものである。
【0022】
装置ボディ13は、図2に詳細に示すように、クラスター生成空間21を有しかつ液体窒素によって冷却されることにより冷却セルを形成している。クラスター生成空間21を挟んで左側にはターゲットチャンバ22が設けられるとともに、その右側には反射板23がはめ込み状に設けられている。
【0023】
ターゲットチャンバ22は、左端開口水平筒状のもので、その左端開口縁部に環状座24を有しかつその右端にクラスター生成空間21に連通させられた円形状窓25を有している。ターゲットチャンバ22からは不活性ガス通路26が上向きに設けられ、これには、不活性ガス供給管27が接続されている。不活性ガス供給管27には流量調整弁28およびピラニゲージ29が備えられている。
【0024】
ターゲットチャンバ22には球状ホルダ31が座24に摺接させられるように収容されている。ホルダ31には段付ターゲット孔32がホルダ中心を貫通するように形成されている。ターゲット孔32には、シリコンでつくられた段付丸棒状ターゲット33、圧縮コイルばね34およびばね押え35が順次挿入されている。ターゲット33の先端面は、ホルダ31の外面とほぼ面一となって、窓25を通じて、クラスター生成空間21内に臨ませられている。ばね押え35には回転軸36が連接されている。回転軸36は、水平線、すなわちレーザ光軸に対し4度程度傾斜させられており(図3にθ1で示す)、この状態を保持して360度回転しうるとともに、軸方向に移動自在となされている。これに対応して、ターゲット33の表面はレーザー光軸に直角になるように4度程度傾斜させて(図3にθ2で示す)、緩やかな円錐を描く傘状になっている。これにより、ターゲット表面におけるレーザーの照射位置を少しずつずらせるようになっている。
【0025】
ターゲットチャンバ22周面とこれと相対するホルダ31外面の間には横断面略三角形状の環状ガス溜り41が形成されている。ガス溜り41は、断面を絞られた狭い流路制限通路42によつて窓25を介してクラスター生成空間21に通じている。
【0026】
反射板23は、垂直円板状に形成されたものである。反射板23の内側面には球状凹所51が形成されるとともに、凹所51の底には水平丸孔状導孔52が形成されている。凹所51および導孔52は、ホルダ31の中心を通る水平線と同心状となされている。反射板23の材料は衝撃波加熱を受けて熱膨張をする可能性があり、一方、冷却セル13は冷却されるために、薄肉の衝撃波反射板23が変形するおそれがある。これを防ぐために、反射板23の材料として低熱膨張材料を使用してある。
【0027】
図示しないが、回転軸36は、セラミックス軸受を介してカップリングにつながっている。このカップリングの一方の端は回転導入機につながっており、ターゲット33を360°回転することができ、ターゲット33表面におけるレーザーの照射位置を調整することができる。回転導入機のフランジは、ベローズを介してチャンバーの導入ポートにつながっており、ベローズの伸縮を通じてターゲットを退避させることができる。
【0028】
レザービームの条件としては、ターゲット33を瞬時にアブレーションさせるパワーおよびエネルギーが必要であり、パルス状のものが適している。一方、導孔52を通過させられるようにレーザービームを絞れることも必要である。それには、YAGレーザービームが適している。
【0029】
レーザーをターゲット33に照射する前に、レーザーが反射板23の導孔52を通過していることを確認する必要がある。ターゲットホルダー31を退避させると、直線導入機に取付けられたセラミックス反射鏡を挿入することができる。レーザーが通過したことは、このセラミックス反射板にレーザースポットが照射していることを確認すればよい。
【0030】
ターゲットホルダー31は、ターゲット33の位置決めおよび不活性ガスの封じ込めの観点から冷却セル13の座24に密着させて使用する。このため、密着部は摩耗をするので、ターゲットホルダー31の表面は、銀イオンプレーティングによって保護されている。
【0031】
また、不活性ガスをクラスター生成空間21に供給するにあたって、不活性ガスの流入量と流出量を等しくすることによって、同空間21内の状態を乱さないようにし、均一な熱力学条件を維持する必要がある。この目的は、制限通路42によって達成される。
【0032】
図1(a)および(b)には、レーザーが照射するタイミングおよびクラスタービームが取り出されるタイミングが模式的に示されている。
【0033】
レーザー発生器11から照射されたレーザーは、導孔52を通じてクラスター生成空間21内に導き入れられる。
【0034】
図1(a)では、レーザーがターゲット33に照射し、ターゲット33から蒸発原子がまさに飛び出そうとしているところである。この時、クラスター生成空間21内には、供給管27を通じて不活性ガスが定常的に流入しており、その内部は1〜10Torr程度の圧力に保持されている。クラスター生成空間21外は真空が維持されている。レーザーの照射はパルス状であり、照射時間は数ナノ秒から数十ナノ秒のオーダーである。
【0035】
図1(b)では、レーザーの照射が終わってクラスタービームが発生したところである。レーザーの照射によって、ターゲット材料が急激に蒸発・膨張するためにクラスター生成空間21内に衝撃波が発生する。この衝撃波は反射板23で反射して反射衝撃波となり、進行方向を反転させる。衝撃波の後方には、ターゲット材料の蒸発ガスと不活性ガスの境界である接触面が続いているが、この接触面は反射衝撃波と干渉して一定時間定在する。この時、接触面近傍で蒸発ガスと不活性ガスの混合領域が形成され、この領域で蒸発ガスは急冷却を受けて結晶化しクラスターとなる。しかも、この混合領域は高速気流によって作られているため拡散現象に支配されず、均一な熱力学条件を持つ閉じ込め領域となっている。したがって、この領域からは均一サイズの結晶核が生成され、クラスタービームとしてさらに膨張過程を経過する間にも均一なクラスター成長をすることが予測される。
【0036】
図1(b)において、衝撃波がWとして示されている。衝撃波Wは、蒸発直後では球面の一部として広がるが、反射板23の近くまで達すると、ほぼ垂直な平面となる。
【0037】
以上のように、レーザーの照射方向と直角方向に反射板を設けることによって、発生する衝撃波を媒介として均一な熱力学条件を作り出すことができる。クラスター生成領域において、均一な熱力学的条件を作り出す、すなわち、その領域において、不活性ガスの圧力、密度、温度を均一にすることにより、クラスターの粒径、クラスターの内部エネルギーおよびクラスターの電子状態を均一化するための必要条件が満たされる。
【0038】
図4は、ターゲット試料の蒸発原子と不活性ガスの混合領域の推移状況の解析結果を示すもので、上記した接触面と衝撃波の様子をコンピュータシミュレーションして得たものである。図4において、横軸にターゲット先端面からの距離が示されている。また、縦軸方向に、上から順に時間の経過とともに進行する状態の変化が示されている。
【0039】
最初に、衝撃波が不活性ガス中を左から右へ進行する。これは、t41〜t1477までの間に、接触面および衝撃波が右に進む様子として示されている。次に、衝撃波は右側の壁で反射する。t1477で衝撃波が反射衝撃波となっている。この反射衝撃波は、後から続く蒸発原子と不活性ガスの境界面の進行を押しとどめる役割を果たし、境界面は一時的に停滞する。クラスター生成はこの境界領域で行われるため、ここに密度の高いクラスター生成領域が生じることになる。接触面と反射衝撃波を示す曲線の間にクラスタ生成領域が形成され、この領域は、その後、t3333の時点まで持続している。
【0040】
つぎに、図5を参照して、反射板の変形例を示す。以下の実施例において、上記実施例と対応する部分には同一の符号を付すものとする。
【0041】
この変形例においては、反射板61の凹所62は、回転楕円面状を呈している。楕円63の一方の焦点Aは、ターゲット33表面上にあり、その他方の焦点Bは、反射衝撃波の収束点にある。
【0042】
このように形成した反射板61は、レーザーアブレーションによって発生した衝撃波を反射させ、効率良く閉じ込め領域を形成するために、凹所62の回転楕円面で反射した衝撃波は一点(回転楕円体の焦点B)に収束しようとし、後方に続く接触面と干渉して三次元的な閉じ込め領域を作る。均一なサイズを持つクラスターはこの領域で集中的に作られる。
【0043】
回転楕円体の大きさは、つぎの観点から決定される。楕円は、二つの焦点間距離2a0と、焦点から楕円の頂点までの距離s0によって決まる。距離2a0とは、ターゲット表面から反射衝撃波の収束点までの軸方向距離である。これは、後述する“空間の厚み”の決定方法と同様に決定される。s0は、反射板の導孔から反射衝撃波の収束点までの距離である。これらの数値を指定すると、軸と直角方向の大きさは自動的に決定される。s0が小さすぎると楕円の短軸が非常に小さくなり、クラスター生成に寄与する反射衝撃波の強度が小さくなる。
【0044】
基本的に回転楕円面は、平面波として入射してきた衝撃波を焦点に収束させるものである。したがって、楕円の短軸が長すぎると入射してくる衝撃波波面の曲率が無視できなくなり、結局反射衝撃波の収束は弱まってしまうことになる。
【0045】
図6に、反射板のさらなる変形例が示されている。この変形例では、反射板71の内側面の中央に球状の内側凹所72が形成されるとともに、これを取り囲むように環状の外側凹所73が形成されている。
【0046】
内側凹所72は、上記楕円面凹所62に相当する。外側凹所73は、回転楕円面以外の壁で反射した衝撃波の影響が中心部に及ぶのを防ぐためである。外側凹所73が無いと、内側凹所72に向かう流れが生じる可能性があるが、これが外側凹所73により防止される。この外側凹所73は、大きい程、また、深い程よいが、無限には大きくできないので、どこかで妥協する必要がある。
【0047】
図7に、反射板のさらなる変形例が示されている。この変形例による反射板81では、上記上記楕円面に相当する凹所82の底に、導孔52を取り囲んで内方に突出させられた水平筒状部83が設けられている。筒状部83の高さは、凹所82の深さに相当する。筒状部83の存在により、凹所82の底からではなく、そこから隔てられたところ、上記楕円面の一方の焦点B付近からターゲット材料をクラスター生成空間21外に排出することができる。
【0048】
つぎに、本発明の理解を深めるために、上記した従来技術との対比を含め、本発明の利点を様々な角度から検証する。
【0049】
図8に、クラスタ粒子数の分布を、従来装置と本発明装置を対比させて示している。クラスターのサイズ分布の広がりは、一般に△N/Nによって評価される。ここで、Nはサイズ分布におけるクラスター構成分子の平均値、△Nはサイズ分布の半値幅である。従来装置では△N/N=0.5であるが、本発明装置では△N/N=0.01が目標である。この目標値については、従来技術の項で説明した図10に、目標値:△N/N=0.01として示されている。
【0050】
反射板の材料の具体例としては、モリブデンが挙げられる。モリブデンを使用することによって、熱応力が例えばステンレス鋼の場合の半分程度に低下する。モリブデンを使う理由は、これが低熱膨張材料だからというだけではなく、モリブデンは高融点材料の代表であり、耐熱材料として一般に用いられるからである。モリブデンと同種の金属として、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、タングステン(W)が挙げられる。これらはいずれも、線熱膨張係数が小さく、本発明での反射板の材料として使用できる可能性がある。
【0051】
制限通路42の具体例を検討する。この通路42の目的は、冷却セル31内側の空間21内の不活性ガスの状態を乱さないことである。
【0052】
上記本発明装置では、冷却セル13への配管27を一本としている。これを直接冷却セルに結合すると、冷却セル内空間のガスを乱してしまい、幾何学的に非対称な流れが生じてしまう。本発明では、制限通路42を設けることによって球状ホルダー31と冷却セル13の間に環状のガス溜り41を作つている。このガス溜り41の環状流路のコンダクタンスは、制限通路42のコンダクタンスより大きく設計されている。このことによって、ガスは最初ガス溜り41に充満し、その後、制限通路42を通して緩やかにクラスター生成空間21の方に流れていく。こうして、軸対称の流れが生じ、衝撃波の進行方向に直角の流れは生じにくくなる。衝撃波の進行方向と直角な流れは衝撃波の形状を乱す可能性があるため、均一の熱力学条件をつくるために好ましくない。一方、クラスター生成の条件を時間的に均一にするためには、この空間13内のガス圧を一定に維持する必要がある。この目的で、不活性ガスの流路には流量調整弁28を装着している。流量調整弁28に送る制御信号としては、厳密には冷却セル13内部の空間の気圧データを送らなければならない。しかし、ガス配管の圧力損失を、通常行われている管内流れの計算により考察すると、本発明の条件下では配管による圧力勾配は小さく、流量調整弁付近での圧力をモニターしてもよいことが分かる。
【0053】
上述のように、制限通路42と流量調整弁28によって、空間21内の不活性ガスを乱さず、一定気圧を維持することがでる。
【0054】
クラスターを停滞させる”狭い空間”(混合領域)を作るにためには、次の注意事項が重要である。反射板の導孔の径と、その空間内の気圧をどれくらいにするかで”狭い空間”の幅と厚みが決定される。それは、以下の項目が基準となる。
【0055】
(1)クラスターが生成される空間で流れに乱流が生じないこと。
【0056】
(2)反射衝撃波が受ける反射板の導孔の影響が十分小さいこと。
【0057】
上記項目(1)については、ヘリウムガスのレイノルズ数を計算することによる。レイノルズ数とは、流れが層流になるか、乱流になるかの規準値である。
【0058】
上記本発明装置を対象として、穴径が0.2mm、気圧が10Torr、空間の直径が60mmの場合、レイノルズ数は0.9になる。乱流になるのは、2300以上であるから、この場合の設計値は適切である。
【0059】
孔径、気圧及び空間の直径のいずれも、これらの数値が大きいほどレイノルズ数は大きくなる。しかし、穴径も機械加工の立場からは限界があり、気圧もあまり下げると衝撃波が形成されなくなる。空間があまり小さいと、生成したクラスターが側壁に付着したり、衝撃波が側壁で反射して流れ場を乱す等の問題がある。実際には、これらの事項を勘案して設計値を決めていく必要がある。
【0060】
クラスター生成空間の空間の厚み、即ち衝撃波の進行方向の長さが短ければ、衝撃波と接触面が分離しないうちに現象が終了してしまうことになる。衝撃波は三次元的に拡大するので、距離が長すぎれば衝撃波は弱まってやがては消滅する。
【0061】
今、簡単のため、一次元問題を考える。一次元問題では、波はすべて平面波を意味する。一般に、衝撃波前後の圧力比が大きいほど衝撃波の速度は大きい。したがって、レーザーによって同じ蒸発エネルギーを与えた場合、空間内の気圧が低いほど衝撃波の速度は大きくなる。反射衝撃波と接触面はこのような衝撃波に伴なって生ずるので、当然これらの現象も気圧の影響を受ける。クラスターを生成する領域は反射衝撃波と接触面の干渉位置付近に生じるので、この位置は空間内の気圧に関係する。空間の厚みは、この干渉現象が起こる位置とタイミングを考慮して決定する。具体的には、”狭い空間”の厚みは、現象がマイクロ秒のオーダーになるように決定している。例えば、ヘリウムガス中でマッハ10の衝撃波が発生すると、その速度は約10000m/sである。これを1μsのオーダーで捉えるには10mmの距離が必要となる。
【0062】
一方、反射衝撃波と接触面の干渉のタイミング及び位置に対する気圧の影響については正確にはわかっていない。また、反射衝撃波と接触面の干渉は、それぞれの音響インピーダンスによって様相を変える複雑な現象である。このような現象の理解には、今後の研究が不可欠である。ところで、仮に、反射衝撃波と接触面の干渉問題がわかったとしても、レーザーの蒸発エネルギーにばらつきがあるため、干渉位置及びタイミングを予測することは依然として困難である。そこで、少なくとも位置を予測できるようにしておくことが好ましい。
【0063】
上記したように、反射板の形状を回転楕円体(の一部)にして反射衝撃波の位置を規定することにした。回転楕円体の焦点に収束させた反射衝撃波によって接触面を押しとどめるようにすると、反射衝撃波と接触面の干渉位置、即ち、クラスターの生成領域の位置を幾何学的に規定することができる。しかも、反射衝撃波の収束効果によって、接触面が反射衝撃波を通過することなく、確実に停滞させることが期待できる。
【0064】
つぎに、上記項目(2)の問題を検討する。理想的な反射衝撃波を得るためには、反射板に導孔を明けない方がよいのはもちろんである。しかし、レーザーを通すために導孔を明ける必要がある。
【0065】
導孔を明けると反射衝撃波の形状が乱される。ところが、乱された反射衝撃波が伝播とともにその形状を修復していくことは、一般に、経験的に知られている。換言すると、導孔により、形状を乱された反射衝撃波が伝播とともに平面波に修復されていく。反射衝撃波が平面波に修復される距離は、おおよそオリフィスの径のオーダーではないかと思われる。本発明では反射板から数mm程度離れた現象を問題としているが、上述のことから考えて、0.2mm程度の穴は、現象に大きな影響を与えないと考えられる。
【0066】
【発明の効果】
この発明によれば、ターゲット材料にレーザを照射してターゲット材料を蒸発させ、この時に発生する衝撃波を反射板で反射させて狭い空間内で停滞させ、これにより、クラスター発生に関わる熱力学的条件を時間的および空間的に均一化し、このような条件下でクラスターを発生させているから、サイズの揃ったクラスターを生成するこができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるクラスター生成装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1の一部拡大断面図である。
【図3】図2の一部拡大断面図である。
【図4】クラスター生成過程を示す説明図である。
【図5】同装置の反射板の変形例を示す図2相当の断面図である。
【図6】同反射板のさらなる変形例を示す断面図および斜視図である。
【図7】同反射板のさらなる変形例を示す断面図およびし斜視図である。
【図8】クラスターの分布状態を示すグラフである。
【図9】従来装置を示す構成図であるる。
【図10】クラスタ粒子の大きさを滞留時間との関係で示すグラフである。
【符号の説明】
13 装置ボディ
21 クラスター生成空間
23 反射板
31 ホルダ
33 ターゲット
52 導孔
Claims (1)
- 内部にクラスター生成空間を有する冷却されたセルと、該セルはレーザー入射口と、該レーザー入射口に対向して設けられた開口部とを備え、前記開口部に間挿されたホルダーと、該ホルダーは前記セル開口部に密封して装着され、前記クラスター生成空間内に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給手段と、該不活性ガス供給手段から供給される不活性ガスは前記開口部から層流状態で前記クラスター生成空間部に供給され、前記ホルダーに設けられたターゲット材料を蒸発させるためのレーザー手段と、前記レーザー手段によって前記ターゲット材料を蒸発させて、該蒸気と前記層流とが接する接触面で衝撃波を発生させ、該衝撃波を反射させて生じる反射衝撃波が該蒸気と衝突する衝突面にクラスター生成領域を形成するクラスター生成手段とを備えるクラスター生成装置。
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