JP4409688B2 - 非対称バブルチャンバを有するキャピラリ流体スイッチ及びそのスイッチング方法 - Google Patents

非対称バブルチャンバを有するキャピラリ流体スイッチ及びそのスイッチング方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般に、キャピラリ(毛管)内におけるある流体中に含まれた別の流体の泡の移動に関するものであり、とりわけ、光信号用スイッチ、流体弁、流体ポンプ、及び液体脱気装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明の解決すべき課題】
キャピラリ内の泡は、いくつかの点で有用である。光学装置の場合、泡は、周囲の液体とは異なる屈折率を有しているので、光信号を反射又は屈折させることが可能である。更に、冷えた領域から暖かい領域に泡を押しやる傾向のある温度依存表面張力効果を利用することによって、小さいキャピラリから泡を押し出して、大きいキャピラリ内に送り込む傾向のあるジオメトリ効果を利用することによって、及び、キャピラリ壁を容易に湿潤させる第1の流体の方が、同じ壁を同様には湿潤させない第2の流体の泡よりも存在しやすくする傾向のある湿潤効果を利用することによって、キャピラリ内において泡を移動させることが可能になる。
【0003】
温度に応じた泡の表面張力の変化を利用するキャピラリ装置は、マランゴニ効果としても知られる熱キャピラリ現象によって機能するといわれている(例えば、L.E.Scriven and C.V.Sterling,“The Marangoni Effects,”Nature,V187,p186(1996)を参照されたい)。熱キャピラリ現象を利用した光スイッチング素子に関して発表された最近の研究例には、Makoto Sato,et,al“Waveguide Optical Switch for 8:1 Standby System of Optical Line Terminals,”paper WM16,Technical Digest,OFC’98Optical Fiber Communication Conference and Exhibit,February 22−27,1998,San Jose Convention Center,San Jose,California,pp 194,195がある。マランゴニ効果は、米国特許第5,699,462号“TOTAL INTERNAL REFLECTION OPTICAL SWITCHES EMPLOYING THERMAL ACTIVATION”の発明における光スイッチングのための泡の移動の制御にも利用されている。例えば、該特許の図29に示す、幅がテーパ状になったキャピラリ304をなす実施形態では、泡は抵抗器308で発生するが、キャピラリの幅がテーパ状であるために泡に加えられるジオメトリによって誘発される力を相殺するマランゴニ効果によって、その抵抗器の所定位置に保持される。抵抗器の加熱が終了すると、泡は、抵抗器308からテーパ状のキャピラリ304に沿って図の上方左に向かって移動するが、移動は、ジオメトリ誘発力によって発生する。従って、該特許の図29における装置の動作は、マランゴニ力とジオメトリ誘発力との間の対抗する相殺作用に依存している。
【0004】
本発明の説明から明らかになるように、ジオメトリ効果による力は、マランゴニ効果による力よりもはるかに大きくなる可能性がある。マランゴニ効果が相対的に弱いため、マランゴニ効果を相殺するために米国特許第5,699,462号の図29の装置に取り入れることが意図されたジオメトリ効果は、やはり弱くなければならず、その装置の動作は比較的低速で機械的衝撃による干渉を受けやすい。大きい力を利用して、迅速で且つ安定した光スイッチングをもたらす微小流体装置が、やはり必要とされており、本発明は、その要求を満たすものである。
【0005】
泡は、キャピラリ内における流体流量を制御するための弁素子としても有効である。泡について最低の局所的エネルギーポテンシャルを生じさせる温度効果とジオメトリ効果の何らかの組み合わせによって、泡をキャピラリ内の所定の位置に置くことが可能であり、従って、泡でキャピラリを閉塞するか、又はほとんど閉塞することによって、まわりの流体の流れを妨げることも可能である。例えば、John Evans,et al,“Planar Laminar Mixer”Proceedings of the Tenth annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systems,Nagoya,Japan,January 26−30,1997,IEEE Catalog Number 97CH36021,pp96−101を参照されたい。しかし、Evans他の論文には、その最低の局所的エネルギーから泡を解放する技法に関する教示がない。泡が液体中に溶けた気体から遊離した気体によって構成される場合、こうした泡は、それを生じさせる加熱抵抗器がオフになると、消失することができなくなるため、十分な泡の除去が行えない装置は、「ベーパ・ロック」を被る可能性がある。チャネル内に泡をしっかり拘束し、所望の場合には、反復可能な効率の良い方法で、チャネルから泡を解放して、取り除くための信頼できる技法が、やはり必要とされている。
【0006】
泡は、キャピラリ内におけるポンプ素子としても有効である。キャピラリ又はチャネル内で膨張する泡は、ピストンの働きをしてまわりの流体を押し退けてキャピラリのジオメトリによって決まる方向に移動させる。上述のJohn Evans他による前記論文“Planar Laminar Mixer”では、ピストン素子として室内で交互に行われる泡の膨張及び圧縮が用いられる。前記論文に記載の弁と同様、ピストンとしての泡は、「ベーパ・ロック」を被る可能性がある。所望の場合には、ポンプ室から泡が除去される泡ピストンを用いたポンプが、やはり必要とされており、本発明ではこうしたポンプが教示される。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では、キャピラリの異なる領域における泡に関連したエネルギーポテンシャルの差を利用して、泡の捕捉が所望される場合にはキャピラリのある領域内に泡を捕捉し、このとき望ましくない状態の変化をもたらす可能性のある摂動に抵抗する。エネルギーポテンシャルの差は、ジオメトリ及び/又は材料によって決まる可能性がある。本発明では、エネルギーポテンシャルの差を利用して、所望の場合には、捕捉状態から泡を解放するが、先行技術による装置よりも迅速にそれを行う。本発明は、光スイッチング、流体弁、流体ポンピング、及び、液体脱気に有効である。
【0008】
この装置の動作は、次の通りである。第1の流体を含むキャピラリ内において、例えば、加熱抵抗器を用いて第1の流体を構成する液体を気化させて、第2の流体を構成する蒸気の泡を生じさせるといった、何らかの手段によって、第2の流体の壁で拘束された泡が導入され、キャピラリ内で設計通りに捕捉される。泡は、供給源からの泡(例えば、ガス供給源からの気泡)の注入を含む、電気、化学、電解、空気圧、水圧、光学、慣性、超音波、及び微小流体技法を利用して、導入することも可能である。泡の導入によって、光ビームのスイッチング又は流体チャネルの閉塞といった、第1の所望の事象が実現される。泡は、キャピラリ内の局所エネルギーポテンシャルが最低となるように捕捉されるので、泡を移動させるには、エネルギーを与える必要がある。
【0009】
次に、例えば、加熱抵抗器に対する電力入力を増して、より多くの泡を導入し、これによって、泡のサイズを増すことによって、泡のエネルギーが増大する。泡の成長につれて、そのエネルギーが増大し、その成長につれて、トラップに隣接したキャピラリのエネルギーポテンシャルの設計通りの空間非対称性(ジオメトリ及び/又は材料)に遭遇する。泡は、エネルギーポテンシャルが最低の方向に成長する傾向がある。泡の成長によって、その成長中に泡によって押し退けられる容積の第1の流体のポンピングのような、第2の所望の事象を実現することが可能になる。
【0010】
次に、成長する泡が、最高の準安定エネルギーに達すると、キャピラリ内において設計通りの低空間エネルギーポテンシャル領域に遭遇する。泡を更に成長させると、泡は低空間エネルギーポテンシャル領域内に送り込まれ、泡は位置的に不安定になる。重力エネルギーポテンシャルによるホースを用いた山腹の池から下方の池への水の吸い出しと同様に、泡は、トラップから移動して急速に低空間エネルギーポテンシャル領域内に流入する。泡が移動すると、その移動によって、光ビームのスイッチング又は流体チャネルの閉塞解除といった所望の第3の事象が実現される。
【0011】
実施形態によっては、泡がトラップから離れて下流と定義される方向に進むにつれて、泡によって、その前方の第1の流体の一部が下流に押しやられ、上流と定義される方向からある容積の第1の流体が吸い込まれて、トラップの空間が再充填される場合もある。
【0012】
本発明は、設計通りのエネルギーポテンシャルの非対称性を用いて、泡の捕捉及び泡の移動を実施するので、非対称バブル・チャンバ又は「ABC」と呼ばれる。
【0013】
下記の専門用語は、ABCの様々な空間領域を表すために用いられる。
【0014】
泡が最初に捕捉される捕捉空間は、「ゲート」と呼ばれる。泡がゲートから流出して、入り込む低空間エネルギーポテンシャル領域は、「ドレイン」と呼ばれる。ゲートとドレインの間にある比較的エネルギーポテンシャルの高い領域は、ポテンシャル障壁を構成しており、「障壁」と呼ばれる。泡がゲートを出て、ドレインに流入した後、ゲートを再充填するため、第1の流体が流入する領域は、「ソース」と呼ばれる。第1の流体がソースから流入する装置の通常の動作モードにおいて、ソースはゲートの上流にあり、ゲートは障壁の上流にあり、障壁はドレインの上流にある。ここで、「上流」及び「下流」は第1の流体が流れる通常の方向を表している。
【0015】
ソースは、「ソース・ポテンシャル」と呼ばれる、第1の流体中における壁に拘束された第2の流体の泡に関するエネルギーポテンシャルを備えている。しかし、実施形態によっては、流体によってゲート領域を再充填することが可能な場合、ソースをなくすか、又は塞ぐことが可能なものもある。例えば、装置は、2つの障壁を備えることが可能であり、その一方がソースの働きをすることが可能である。
【0016】
ゲートは、ソース・ポテンシャルより小さい「ゲート・ポテンシャル」と呼ばれる、第1の流体中における壁に拘束された第2の流体の泡に関するエネルギーポテンシャルを備えている。
【0017】
障壁は、ゲート・ポテンシャルより高いが、ソース・ポテンシャルより低い、「障壁ポテンシャル」と呼ばれる、第1の流体中における壁に拘束された第2の流体の泡に関するエネルギーポテンシャルを備えている。
【0018】
ドレインは、ゲート・ポテンシャルより低い、「ドレイン・ポテンシャル」と呼ばれる、第1の流体中における壁に拘束された第2の流体の泡に関するエネルギーポテンシャルを備えている。
【0019】
4つのエネルギーポテンシャル領域間の関係に関する以上の説明から明らかなように、ゲートは、「ポテンシャル井戸」と呼ばれる局所的エネルギーポテンシャルが最低の領域を備えている。
【0020】
キャピラリ内の泡を用いる先行技術による微小流体スイッチは、不安定になる傾向があり、動作速度が遅くなる傾向があった。本発明の場合、最初に泡がポテンシャルの井戸に捕捉されるが、その後、かなりのエネルギーの障壁を克服してそれを井戸の外部に急速に流出することが可能である。従って、本発明のスイッチ、弁、又はポンプを備えたシステムは、安定しており、振動又は温度による意図せぬ摂動に対し抵抗するが、迅速な動作も可能である。
【0021】
明らかに、本発明はサイクル動作が可能であり、動作速度は、まずゲートに泡を送り込むことが可能な速度によって、次に、ゲートからドレインに泡を移動されることが可能な速度によって制限される。
【0022】
更に、この動作は、固体部品の機械的運動によって実施する必要はない。それどころか、ソース、ゲート、障壁、及びドレインのエネルギーポテンシャルは、チャネルのジオメトリによって、又はチャネルと第1の流体と第2の流体の材料組成によって、又はジオメトリと材料組成の組み合わせによって決まる。本発明によれば、例えば、専ら電気加熱によって熱的に制御可能な流体手段によって、泡を送り込み、移動させることが可能になる。
【0023】
本発明の実施形態の1つでは、キャピラリには、水のような液体が充填され、キャピラリの壁は、ガラスのような親水性材料である。小型の電気抵抗器を用いて、水を気化させることによって、蒸気の泡がゲート内に送り込まれる。泡は、ゲートを略満たすのに十分な大きさであり、その導入によって、第1のスイッチング事象が生じる。キャピラリが、米国特許第5,699,462号に解説のような光交差点スイッチの一部である場合、泡の存在によって、第1の光スイッチング事象が生じる。キャピラリが、流体流動システムの一部である場合、泡の存在は、キャピラリ内における流体の流れを阻止する働きをし、したがって、第1の流体スイッチング事象が生じる。いずれの場合も、機械的加速又は液圧の変動のような摂動が生じたとしても、ゲート内で最低の局所的エネルギーポテンシャルが、泡を捕捉する作用をする。こうした親水性の設定の場合、ゲートは、キャピラリの隣接するソース及び障壁部分よりも幅の広い室である。
【0024】
このシステムをその初期状態に戻すような本発明の同じ実施形態に関する第2のスイッチング事象では、抵抗器に対する加熱電力を増大させることによって、泡の体積が増加し、泡がゲート領域と障壁領域を満たし、ドレイン領域内に流入し始めるようになる。次に、膨張した泡が、表面張力によってゲートから吸い出され、キャピラリの隣接する狭い部分(親水性の設定では障壁である)を通って、キャピラリのもっと広い部分(親水性の設定ではドレインを構成する)に送り込まれる。同時に、液体が、上流から、キャピラリの狭い部分(親水性の設定ではソースである)を通って、ゲートを再充填する。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の動作モードを理解するためには、キャピラリ内における泡の動きに関する物理的現象についてある程度詳細に理解しなければならない。この物理的現象について以下に述べることにする。
【0026】
キャピラリは、「キャピラリ力(毛管力)」と呼ばれる、流体の表面張力及び湿潤による力が、重力の場又は他の加速度の生じる場において、流体の密度による力に匹敵するか、又はそれを上回る小寸法のチャネルと定義される。「微小流体」装置は、一般にキャピラリ力が重要な役割を果たす長さ寸法の短い装置である。
【0027】
キャピラリの壁は、第1の流体内における第2の流体の泡を拘束して、泡が移動可能な方向を制御する働きをすることが可能である。第1の流体及び第2の流体は、気体又は液体とすることが可能であるが、2つの気体の混合物は、2つの気体間において泡表面を維持することができないので、第1と第2の流体を両方とも同時に気体にすることはできない。第1の流体及び第2の流体は、物理的形態の異なる同じ物質とすることが可能である。例えば、第1の流体を液体の水とし、第2の流体を水の蒸気とすることが可能である。
【0028】
キャピラリ内の泡は、2つの略対置する側でキャピラリの壁に接触するのに十分な大きさがあれば、「壁に拘束された」と称される。例えば、ある極端な事例では、キャピラリは、円形断面の長い管とすることが可能である。その全周囲でキャピラリ壁に接触するが、管の全長に沿って自由に移動する水中の気泡は、壁に拘束されている。気泡が小さくなり、気泡が接触するキャピラリ壁がその周囲の180度の角度未満になると、もはや壁に拘束されない。
【0029】
もう1つの極端な事例では、キャピラリに、略平行な2枚のガラス板を含むことが可能である。第1の流体は、水であることが可能であり、壁に拘束される泡は、2枚のガラス板間の水中における空気の平坦化ディスクとすることが可能である。この気泡は、ガラス板間の2次元的に自由に移動する。気泡が、ガラス板の一方にしか接触しないほど小さくなると、もはや壁に拘束されない。
【0030】
上述の2つの極端な事例間には、正方形又は矩形の断面のキャピラリといった、多様な断面形状のキャピラリが含まれる。こうしたキャピラリ内の泡は、キャピラリ壁に接触せずにすむ、その断面周囲の連続した角度が180度未満になると、壁に拘束されることになる。
【0031】
「壁に拘束された」という用語は、これまで、高エネルギープラズマ物理現象において用いられてきたが、その分野では、異なる概念を表している。本明細書で提示されたキャピラリ内における泡の壁による拘束の概念は、本発明を記述するうちに生じたものである。キャピラリ壁と接触しないキャピラリ内の泡の部分は、泡の「自由表面」と呼ばれる。固体壁面と接触する泡の部分は、泡の「束縛表面」と呼ばれる。
【0032】
壁に拘束された泡が、キャピラリ内においてもはやどの方向にも自由に移動できない状態に遭遇すると、それは「捕捉された」と称され、泡が捕捉されるキャピラリ内の空間は、「トラップ」と呼ばれる。捕捉された泡は、それにもかかわらず、自由表面を備えることが可能である。
【0033】
気泡のような流体の泡と液体のようなそのまわりの流体の間には、曲率半径rと表面張力σ(T)によって特性を示すことが可能な界面が存在するが、Tは温度であり、従って、σは温度Tの関数である。この表面には、P=2σ(T)/rで示される圧力差が存在する(例えば、Physical Chemistry,Walter J.Moore,fourth edition,Prentice−Hall,Englewood Cliffs,NJ,page 478を参照されたい)。
【0034】
泡表面は、圧力差、表面張力、表面曲率半径、及びキャピラリ壁の湿潤特性のうちの1つ以上を変化させることによって操作可能である。
【0035】
良好な湿潤と不十分な湿潤は、表面に対する流体の平衡接触角によって量子化することが可能である。例えば、クリーンな二酸化珪素ガラス板に接触する空気中の水滴は、平衡接触角がその水滴内で測定すると極めて小さく、ガラス表面は、十分に湿潤されるということになる。しかし、空気中で測定される平衡接触角は、大きく、従って、空気は、水に比べると湿潤が不十分とみなされる。一方、クリーンなガラス板に付いた空気中の水銀滴は、平衡接触角がその水銀滴内で測定すると極めて大きい。ガラス表面は、水銀による湿潤が不十分であるということになり、空気は水銀に比べると湿潤が十分であるとみなされる。
【0036】
水液の場合、良好な湿潤は親水性と呼ばれ、90度未満の平衡接触角を特徴とし、湿潤される材料は、親水性であると表現される。同様に、不十分な湿潤は、疎水性と呼ばれ、90度を超える平衡接触角を特徴とし、湿潤される材料は、疎水性であると表現される。親水性及び疎水性という用語は、任意の流体が、固体壁においてもう1つの混合することのできない流体に合流する位置で、その任意の流体内で測定される平衡接触角を表すため、「親流体性」及び「疎流体性」と一般化することが可能である。
【0037】
泡表面が、固体材料の壁と交差する場合、平衡接触角は、便宜上「流体1」と呼ぶことが可能な泡のまわりの流体と、「流体2」と呼ぶことが可能な泡内の流体の両方に関するその壁の湿潤特性によって決まる。例えば、流体1内で測定される角度が、平衡接触角を超えるか、又は、それ未満になると、泡は、移動して、「前進接触角」又は「後退接触角」を示す傾向がある。
【0038】
泡の表面全域における圧力差は、その表面の曲率半径に逆比例する。圧力差の大きさの一例として、水を気化させると、略100゜C以上の温度の泡が生じる。100゜Cの水の場合、気泡の表面張力は、59ミリニュートン/メートル(mN/m)に等しい。その水中における気泡の半径が25μm(ミクロン)の場合、外部の水に対するその内圧は、約46cmの高さの水柱によって加えられる圧力に等しく、P=2(59mN/m/25μm)=4.72キロパスカル(kPa)に等しい。泡の半径が半分の12.5μmになると、内圧は、2倍の9.44kPaになる。
【0039】
圧力差は、直接、泡の表面張力によっても左右され、表面張力は、温度と共に変動する。例えば、空気中の液体である水の表面張力は、温度が0゜Cから100゜Cに変動すると、約22%低下する、即ち、1゜C当たり0.22%低下する。
【0040】
水中の気泡に関する上述の例から明らかなように、比較的温度変化が大きい場合でも、表面張力の温度依存性による圧力変化は、曲率半径の変化による圧力変化に対して小さくなる可能性がある。従って、曲率半径の制御は、泡を制御するための比較的強力なメカニズムであり、本発明において利用されている。
【0041】
どの流体とも同様に、泡は、エネルギーポテンシャルの高い領域からエネルギーポテンシャルの低い領域に流れる傾向がある。この概念を理解するためには、エネルギーとエネルギーポテンシャルの両方について少し理解しておく必要がある。
【0042】
キャピラリへの泡の送り込みには、第1の流体の一部を押し退けることと、ある容積の第2の流体に置換することが含まれるが、この場合、例えば第1の流体は水とし、第2の流体は、水を気化させて発生させることによって導入される蒸気とすることが可能である。壁に拘束される泡をキャピラリ内に送り込む場合、壁に拘束されない同じ体積の泡を送り込む場合より多くのエネルギーが必要になる。
【0043】
壁に拘束された所定の体積の泡を装置の所定の部分に送り込むのに必要な最低エネルギーは、本明細書において装置のその部分の「エネルギーポテンシャル」又はより簡単に「ポテンシャル」と呼ばれる、空間に依存するエネルギーポテンシャルによって決まる。例えば、泡を送り込むには、キャピラリの所定の部分において、泡の体積の立方センチメートル当たりxジュールのエネルギーを発生することが必要になる可能性がある。量xは、エネルギーポテンシャルである。その領域内の泡が、y立方センチメートルの容積を備えている場合、その泡を送り込むのに必要なエネルギーは、ちょうどx×yになり、ジュールで表される。
【0044】
同じキャピラリ内において隣接するが、異なる位置におけるエネルギーポテンシャルの値が、泡の体積の立方センチメートル当たりzジュールのエネルギーになるものと仮定する。従って、同じ泡の容積yに関して、この第2の領域における泡のエネルギーは、z×yになり、やはりジュールで表される。zがx未満の場合、その全体エネルギーが、第1の位置に比べると第2の位置においてより低くなるので、泡は、第1の位置よりも第2の位置につこうとする。従って、泡がエネルギーポテンシャルが最低の領域を捜し求めようとするのは明らかである。
【0045】
圧力によって泡内に含まれるエネルギーは、その周囲に対する泡の内圧に泡の体積をかけた値にすぎない。従って、圧力は、エネルギーポテンシャルの測度の1つであり、このタイプのエネルギーポテンシャルは、「圧力エネルギーポテンシャル」と呼ぶことが可能である。重力及び温度といった他の要素は、それ自体のエネルギーポテンシャルの一因となる。
【0046】
流体内の壁に拘束された泡に関する領域のエネルギーポテンシャルは、ジオメトリ及び温度の両方による影響を受ける可能性がある。例えば、キャピラリ壁にとって親水性の液体内における気泡の場合、細いキャピラリのエネルギーポテンシャルは、太いキャピラリよりも高くなり、冷えた領域のエネルギーポテンシャルは、暖かい領域よりも高くなる。
【0047】
流体の泡の界面全域にわたる2つの流体間の圧力差は、泡の自由表面の曲率半径に逆比例する。本発明では、このキャピラリシステムにおける関係が利用されている。第1の流体内における壁に拘束された第2の流体の泡に関して、泡の2つの自由表面の端部が、断面が一定でないキャピラリ内にある場合、泡の2つの自由表面の端部における曲率半径が異なる可能性がある。曲率半径の差は、泡によって隔てられた第1の流体の2つの領域間における圧力差に対応しており、その圧力差によって、所望に応じて、泡を移動させることも、或いは加えられる圧力に逆らって泡を所定の位置に維持することも可能である。
【0048】
図1には、これらの原理が例示されているが、本発明の実施形態ではない。この図は、キャピラリの壁を容易に湿潤させる第1の流体内に位置して壁に拘束された第2の流体の泡を含む、可変幅のキャピラリの断面図である。キャピラリの広い部分に外圧を加えて、泡を狭い部分に押し込まない限り、泡は、キャピラリの狭い部分からキャピラリの広い部分に流れる傾向がある。
【0049】
キャピラリ内のこうした壁に拘束された泡にかかる力を物理学的に明らかにすると、次のようになる。
【0050】
泡の自由表面のどのポイントについても、2つの主たる曲率半径に基づいて、即ち、そのポイントにおけるある方向に沿って測定された局所的最大曲率半径rmaxと、rmaxの方向に垂直な方向に沿って測定された局所的最小曲率半径rminに基づいて、局所的曲率半径を定義することが可能である。局所的曲率半径rlocalの大きさは、従って、次の式から求められる
1/rlocal=(1/rmax+1/rmin)/2 (式1)
【0051】
第1の流体内において静止している、壁に拘束された第2の流体の泡の場合、泡の各自由表面は、2つの流体間の界面の表面張力σ、キャピラリの寸法、及び、二流体システムの壁湿潤特性によって定義されるような特性曲率半径を備えている。この特性曲率半径は、「平衡自由表面半径」rf, eと呼ばれる。
【0052】
平衡自由表面半径rf、eは、周知のキャピラリの「有効水力半径」rh, effとは概念的に異なるものである。有効水力半径は、検討される実際のキャピラリと同じ程度の流体の流れに対する抵抗を示す円形断面を備えた仮のキャピラリの半径である。従って、有効水力半径は流体の流れに対するキャピラリの抵抗に関するものであり、キャピラリのジオメトリの特性だけでしかない。これとは対照的に、平衡自由表面半径は、キャピラリのジオメトリの特性、第1と第2の両方の流体の特性、更に、キャピラリ壁の材料特性を加えたものである。平衡自由表面半径は、流体の流れに対する抵抗に関するものではなく、静止している泡表面が特定の位置で形造る形状に関するものである。
【0053】
分かりやすくするため、局所的rf, eを局所的キャピラリジオメトリだけに関連づけて、説明を単純化するが、この単純化された方法は、基本をなす関係がもっと複雑になる可能性があることを承知した上で、下記の論述の大部分において取り入れられている。キャピラリ壁に対する第1の流体の平衡湿潤角が、第1の流体と泡の界面においてゼロの場合、rf, eはキャピラリのジオメトリだけによって決定される。この場合、幅wで高さhの矩形断面を備えたキャピラリについては、下記の通りである、
1/rf, e={1/(w/2)+1/(h/2)}/2=(1/w+1/h)
(式2)
【0054】
従って、泡壁の全域における圧力差ΔPは、下記に等しい。
ΔPf,e=2σ/rf,e=2σ(1/w+1/h) (式3)
【0055】
上記ΔPf,eは、「平衡自由表面差圧」と呼ばれるが、これは、本発明の動作モードを説明するために新たに創り出された用語である。圧力差ΔPf,eも、泡圧力Pbubbleと第1の流体の隣接圧力Pnとの間の圧力差である:
ΔPf, e=Pbubble−Pn=2σ/rf, e (式4)
【0056】
図1の場合、第1の流体(流体1)は、断面図の平面に対して垂直な壁102及び104と、断面図の平面に対して平行な他の2つの壁によって形成されるキャピラリ100内に含まれている。流体1は、2つの領域106及び108に分割される。第2の流体(流体2)は、流体1に混合することができず、自由表面112及び114と、束縛表面116及び118を備えた泡110を形成する。表面112及び114は、異なる平衡自由表面半径rf, eを備えている。流体1は液体とし、一方、流体2は気体とすることが可能であるが(例えば、水中の気泡)、他の構成も可能である(例えば、流体2は、泡を含むことが可能な液体水銀とし、一方、流体1は、空気とすることが可能である)。例証のため、図1には、流体1が位置120、122、124、及び、126でキャピラリ壁に接触する場合の、流体1に関するゼロの平衡湿潤角が示されている。
【0057】
図1において、領域106は、寸法線128で表示の幅w1と、ページの平面に対して垂直な高さhをを備えた矩形断面を有している。領域106における流体1の圧力は、Pnであり、流体1と流体2の間の自由表面112全域における圧力は、次の通りである
ΔP1=Pbubble−Pn=2σ/r1 (式5)
ここで、r1は、自由表面112の平衡自由表面半径(rf,e)であり、次の関係式で定義される:
1/r1=1/w1+1/h (式6)
従って、ΔP1は次のようになる:
ΔP1=Pbubble−Pn=2σ/r1 =2σ(1/w1+1/h)
(式7)
【0058】
やはり図1の場合、領域108は寸法線130で表示の幅w2と領域106の高さに等しいページの平面に対して垂直な高さhを備えた矩形の断面を有している。領域108における流体1の圧力は、Pf2である。自由表面114全域における圧力差は、次の通りである
ΔP2=Pbubble−Pf2=2σ(1/w2+1/h) (式8)
【0059】
温度が一様の場合、泡が移動しなければ、領域106と108との間の圧力差は、下記に等しい:
ΔPf1−ΔPf2=2σ(1/w1−1/w2) (式9)
【0060】
従って、高さは均一であるが、可変幅の矩形キャピラリの場合、キャピラリの高さは、2つの領域106と108の圧力差に影響しない。
【0061】
以上から明らかなように、温度差がなく、移動もないと仮定すると、小さいチャネルから、小さいチャネルが接続されている大きいチャネルに泡を押しやるための圧力が生じる。こうした圧力は、泡が比較的太いキャピラリから比較的細いキャピラリに入り込むのを阻止する働きもする。
【0062】
全ての流体が、キャピラリの壁を十分に湿潤させるわけではない。図2には、表面に関する良好な湿潤と不十分な湿潤という2つの液体による事例が示されている。材料200の表面には、流体の塊202及び204が位置している。一般に、こうした流体の塊は、周囲を空気に包囲された液体とすることもできるが、周囲を液体に包囲された液体又は気体によって周囲を包囲された液体とすることも可能である。論述のため、流体の塊202及び204が空気中における液滴であると仮定する。液滴202は、参照番号206として表示された液滴内において材料200の表面に接触する位置で測定される平衡接触角θeによって特性が明らかになるが、この角度は、90度未満であるため、材料200の表面は、液滴202による湿潤が十分であると判断される。一方液滴204は、参照番号208として表示された、液滴内で測定される平衡接触角θeによって特性が明らかになるが、この角度は、90度を超えるため、材料200の表面は、液滴204による湿潤が不十分であると判断される。
【0063】
以下の解説に関して、「親流体性」及び「疎流体性」という一般化された用語は、流体1が、キャピラリ壁と流体2の泡表面で接触する位置において、流体1内で測定される平衡湿潤角を表している。キャピラリ壁は、流体1内で測定される平衡接触角が90度未満の場合、親流体性であると称され、流体1内で測定される平衡接触角が90度を超える場合、疎流体性であると称される。
【0064】
本発明では、先行技術の装置で用いられた温度に関連した最低の値のエネルギーポテンシャルではなく、ジオメトリに関連した高い値のエネルギーポテンシャルが用いられる。親流体性(及び親水性)システムにおけるエネルギーポテンシャルの大きさの一例として、半径が25μmの断面で完全に親流体性の壁を備えたガラスのキャピラリ内における100゜Cの水について考察することにする。このキャピラリ内における壁に拘束された気泡は、曲率半径が25μmであり、上記計算によれば、内圧はまわりの水より4.72キロパスカル(kPa)高くなる。
【0065】
完全に親流体性の壁を備えた、半径が5μmの円形断面を有するキャピラリ内に、この半径が25μmの泡を押し込もうとすると、泡の平衡自由表面半径(rf,e)は、5μmまで縮小しなければならず、その内圧は高さ約230cmの水柱によって加えられる圧力、即ち、略1/4気圧に等しい23.6kPaになるように、5倍に増大させなければならない。半径5μmのキャピラリに押し込まれる際、泡の両端における曲率半径の差によって、半径25μmの泡内におけるもとの圧力の4倍の、ΔP=(23.6kPa−4.72kPa)=18.9kPaの抵抗圧差が生じる。
【0066】
対照的に、水の表面張力は凍結から気化まで22%しか低下しないので、大気圧における水の表面張力の変化による圧力差の大きさは、決して22%を超えることはできない。この表面張力の変化は、上記式4から明らかなように、マランゴニ効果に原因がある。実際、熱伝導によって、泡全域にわたって温度が均一になりやすいので、小さい泡の全域において10゜Cを超える温度差を維持するのは困難であり、従って、マランゴニ効果を利用して、2.2%を超える圧力差を生じさせるのは困難である。
【0067】
従って、ジオメトリに関連したエネルギーポテンシャルを用いると、マランゴニ効果だけをベースにした、又は、ジオメトリ効果にマランゴニ効果を対峙させることをベースにした泡制御の先行技法に対して、圧力、力、及び、速度に関して略(400%/2.2%)=180%上回る利点がある。本発明では、これらのジオメトリ効果に加えて、湿潤効果を利用することにより、図3乃至図6に示すように、泡の捕捉及び迅速な泡の移動を実現する。
【0068】
本発明は、参考までに本明細書において援用されている、米国特許第5,699,462号の先行発明「TOTAL INTERNAL REFLECTION OPTICAL SWITCHES EMPLOYING THERMALACTIVATION」の光スイッチングに関連した泡の移動の制御に利用することが可能である。米国特許第5,699,462号には、光スイッチングのため、幅の均一なキャピラリ又は可変寸法のキャピラリにおける泡の移動を制御する電気抵抗器の利用について記載がある。要するに、こうした光スイッチ装置の場合、スイッチング素子には、透過状態と反射状態がある。透過状態の場合、屈折率整合液体によって、2つの光導波路の交差点に配置されたギャップが充填され、光は、ギャップを横切って第1の導波路セグメントから第2の導波路セグメントに通過することができる。反射状態の場合、ギャップに送り込まれた泡によって、屈折率整合流体が押し退けられ、ギャップ内において屈折率の不整合が生じるので、光は、第1の導波路セグメントから第3の導波路セグメントに反射され、第1の導波路セグメントから第2の導波路セグメントへの通過が阻止される。米国特許第5,699,462号の場合、泡の移動は、マランゴニ効果だけによって、又は必然的に弱くなるジオメトリ効果をマランゴニ効果で相殺してマランゴニ効果とのバランスをとることによって制御される。
【0069】
図3(a)及び(b)には、米国特許第5,699,462号の実施形態と同様の、光スイッチングのために用いられる本発明の実施形態300が示されているが、強いジオメトリに関連した力を用いるため、本発明は圧力、力、速度、及び、加速抵抗に関して有利である。実施形態300は、主として、光スイッチングを意図したものであるが、本発明の有利な能力である流体弁機能及び流体ポンピング特性も示す。
【0070】
図3(a)は、米国特許第5,699,462号に従って光スイッチングのために用いられる、本発明の特徴を組み込んだ本発明の実施形態300の主表面に対して垂直に見た、図3(b)に示す通りの断面図であり、図3(b)は同じ実施形態の主表面に対して水平に見た、図3(a)に示す通りの断面図である。図3(a)及び(b)において、流体1だけが提示されており、流体2の泡は提示されていない。
【0071】
材料304は、平面光導波路アレイのクラッド部分であり、略矩形断面のキャピラリ312の側壁306及び308と天井310を含んでおり、一方、層314は、キャピラリの床を形成する、炭化珪素のような電気絶縁層である。層314によって、ゲート領域に隣接した層314の下方に位置する電気加熱抵抗器316に対して電気絶縁が施される。
【0072】
材料315は導波路アレイ材料304を基礎をなす層314に結合する変形可能な接着ポリマである。抵抗器316の下の層318は、二酸化珪素のような電気的絶縁及び断熱層である。基板320は機械的支持をもたらすが、装置の動作速度を最高にするため、シリコンのような熱伝導材料とすることが可能である。
【0073】
この実施形態の場合、キャピラリ312には、図3(a)の図面の上方の寸法線322、324、326、及び328によって表示された4つの領域321、323、325、及び、327が含まれている。
【0074】
寸法線322によって、ソース領域321の長さLsourceが指定される。ソース領域321は、図面の視野外にまで延びており、図示しない流体1の入口リザーバに接続しているが、入口リザーバの水圧抵抗は小さいほうが望ましい。
【0075】
寸法線324によって、ゲート領域323の長さLgateが指定される。
【0076】
寸法線326によって、障壁領域325の長さLbarrierが指定される。
【0077】
寸法328によって、ドレイン領域327の長さLdrainが指定される。ドレイン領域327は図面の視野外にまで延びており、不図示の流体1の出口リザーバに接続しているが、出口リザーバの水圧抵抗は小さいほうが望ましい。
【0078】
ソース領域321の幅wsourceは、寸法線330によって指定される。ゲート領域323の幅wgateは、寸法線332によって指定される。障壁領域325の幅wbarrierは、寸法線334によって指定される。ドレイン領域327の幅wdrainは、寸法線336によって指定され、この実施形態の場合、障壁領域からの距離が増すにつれて拡大する。個々の幅間の関係は、次のように示される
source<wbarrier<wgate<wdrain (式10)
この実施形態の場合、構造を簡略化するため、キャピラリの高さhは均一で図3(b)の寸法線338によって指定される。理解しておくべきは、領域の断面積が異なり、結果として、所望のエネルギーポテンシャル差が生じる限りにおいて、キャピラリの個々の領域内におけるキャピラリの高さは、均一である必要はないということである。ソース領域、ゲート領域、障壁領域、及び、ドレイン領域を備えるキャピラリが、略平面の導波路アレイを伝搬する光信号のスイッチングに用いられる場合、光が入射され、そこから出射するキャピラリ壁は、フラットであって、光信号が伝搬する平面に対して垂直であることが望ましい。
【0079】
図3(a)には、光導波路のコア領域340、342、344、及び346と、光信号348が示されている。図3(b)では、導波路コア領域340及び342の交差部分が、1つの物体として表示されている。
【0080】
光信号348は、コア領域340からゲート領域324に入射して、ゲート領域を横断し、コア領域346を通って出射する。空間302を占める流体1と導波路コア領域の材料の屈折率がうまく整合する場合、光信号が被る損失はほとんどない。
【0081】
図4(a)には、本発明の同じ実施形態に関する図3(a)と同じ図が示されているが、流体2の泡402が導入されている。この実施形態の場合、流体2は、液体である流体1を気化させることによって生じた蒸気である。気化は、電気的に抵抗器316を加熱することによって実施される。抵抗器に対する電気的接続は示されていないが、シリコン製造技術の技術者には明らかである。
【0082】
図4(b)には、図4(a)に示された通りの断面図が描かれているが、泡402が導入されている点を除けば、図3(b)と同じである。泡は、図3(a)において寸法線332で示されたゲート領域の幅wgateによって決まるエネルギーが最低の位置に置かれる。
【0083】
図4に提示された泡は、隣接する導波路コア領域340、342、344、及び、346との屈折率整合が不十分であるため、光信号448は、泡402と導波路コア領域340及び342との界面404から反射される。ゲート領域を通過し、導波路コア領域346を通って出射する光信号348とは対照的に、光信号448は、反射されて、導波路コア領域342を通って出射する。泡402の存在に起因する信号348と448の差は、本発明のこの実施形態に関する所望の第1のスイッチング事象とみなされる。
【0084】
留意すべきは、泡402の存在は、本発明の実施形態における光スイッチングの主たる目的を実現するだけでなく、図4(a)の領域406と408の間における流体1の流れを阻止する働きもする。泡402が存在すると、流体1は、図4(b)の狭いギャップ410、412、414、及び416を通って流れるしかない。周知のように、流体の流れに対するチャネルの抵抗は、そのチャネルの有効水力半径の4乗として変化する。ギャップ410、412、414、及び416は、流体1が通過可能な「ブロー・バイ」経路を構成するが、これらの経路は、泡が存在しない時、有効水力半径がキャピラリより小さくなり、これらのブロー・バイ経路の流体抵抗は、極めて大きいので、泡402は、極めて有効な栓を形成するように見える。従って、図示の実施形態は、領域406と408の間の流れに対する流体弁の働きをすることも可能である。
【0085】
不等式10は、この一般に親流体性実施形態における装置の所望の動作にとって重要である。上記式2に関連して式10を用いると、下記のようになることが分かる:
r f, e ,source<r f, e, barrier<r f, e, gate<r f, e, drain
(式11)
【0086】
式11を上記式4に関連して用いることによって、図3及び4の装置の各領域に壁に拘束された泡を送り込むのに必要な特性平衡自由表面差圧を計算することが可能になる。
ΔP f, e' source>ΔP f, e, barrier>ΔP f, e, gate>ΔP f, e, drain
(式12)
【0087】
式12の各項は、流体1に対する壁に拘束された流体2の泡内における差圧を表している。泡の湾曲方向は、流体1から離れて流体2に向かうので、式12における各項は、流体1における圧力を超える流体2内の圧力を表している。
【0088】
上述のように、圧力は、エネルギーポテンシャルの測度である。重力のような他のエネルギーポテンシャル源を無視すると、式12によって示される圧力順序づけを用いて、1つの差圧をもう1つの差圧から減じることによって、4つの領域間におけるエネルギーポテンシャル差を規定することが可能である。こうした検討を加えることによって、下記のような、4つの領域におけるエネルギーポテンシャルの順序づけが得られる:
Πsource>Πbarrier>Πgate>Πdrain (式13)
【0089】
式13では、エネルギーポテンシャルを表すのに、ギリシャ文字の記号Π(大文字の「パイ」)が選択されている。ゲートが、エネルギーポテンシャルがゼロと定義される基準点として選択されると、例えば、Πsource=ΔP f, e, source−ΔP f, e, gateになる。
【0090】
式13によって、本発明の動作に必要なエネルギーポテンシャル関係が定義される。式13は、特定の実施形態に関して導き出されたが、本発明の全ての実施形態に当てはまる一般的な結果であり、実際、本発明を構想した観点の1つである。
【0091】
図5には、式13によって表される図3及び図4の実施形態に関するエネルギーポテンシャル分布500が描かれている。軸502は、キャピラリチャネルに沿った距離であり、軸504は、そのチャネルにおける壁に拘束された泡に関するエネルギーポテンシャルである。寸法線322、324、326、及び328は、図3の寸法線に対応する。各領域毎に、流体1内の壁に拘束された流体2の泡を送り込むのに必要なエネルギーは、2つの流体間の圧力差に泡の体積を掛けることによって求められ、ポテンシャルは、ただ単に式7によって得られる泡の差圧にすぎない。エネルギーポテンシャル522は、Πsourceであり、エネルギーポテンシャル524はΠgateであり、エネルギーポテンシャル526はΠbarrierであり、エネルギーポテンシャル528はΠdrainである。軸504のゼロ・ポイントは、Πgate=0になるように任意に選択される。
【0092】
ゲート・エネルギーポテンシャル524、Πgateは、まわりのエネルギーポテンシャル(即ち、ソース・エネルギーポテンシャル522及び障壁エネルギーポテンシャル526)のいずれよりも低いので、ゲート領域は、ポテンシャルの井戸を構成することは明らかである。また、泡をエネルギーポテンシャル準位526まで上昇させるのに十分なエネルギーが加えられると、泡は、エネルギーポテンシャルが低下するように、即ち、圧力が同等に低下するように、ドレイン・エネルギーポテンシャル528の方向に流れようとするのも明らかである。
【0093】
図5において、エネルギーポテンシャル528、Πdrainは、障壁領域326からの距離が増すにつれて低下するが、これは、以下において明らかになるように、迅速なスイッチングにとって有利であるが、本発明の基本動作にとって必要ではない。本発明は、同様とはいかないが、エネルギーポテンシャルがドレイン領域内で距離に関して一定であっても、機能する。
【0094】
以上によって、図6に示す本発明の動作の時間的変化を理解するのに必要な背景が明らかになる。
【0095】
図6(a)乃至(f)は、光スイッチングに用いられる本発明の実施形態の主表面に対して垂直に見た断面図である。この実施形態300は、図3及び図4に示すものと同じであり、300〜499の範囲内で参照番号が付けられた構成は、図3及び図4のものと同じである。
【0096】
図6(a)は図3(a)に対応する。
【0097】
図6(b)は、図4(a)に対応する。泡402は、自由表面602及び604と、束縛表面606及び608を備えている。表面602及び604の曲率半径は等しく、下記のように表される
1/rf, e, gate=(1/wgate+1/h) (式14)
【0098】
図6(b)に対応する時間に、泡402によって、キャピラリ内における流体1の下流と上流の両方への流れが阻止され、従って、第1の流体弁機能が実施されるが、これは、本発明の有利な能力である。
【0099】
図6(c)の場合、抵抗器316に加えられる電力は、図4(a)及び図6(b)において加えられる電力に比べて増大しているので、泡の体積が増大している。障壁エネルギーポテンシャルΠbarrierは、ソース・エネルギーポテンシャルΠsourceより低いので、泡は、障壁の方向に成長し、自由表面610は、右に移動して障壁領域に入り込む。自由表面610及び612は、下記によって表されるように、曲率半径が等しい
1/rf, e, barrier=(1/wbarrier+1/h) (式15)
【0100】
図6(b)と図6(c)の間の時間期間において、障壁領域内の体積の流体1が、障壁領域からドレイン領域内にポンプ作用で送りこまれる。このポンプ作用は、本発明の有利な能力である。
【0101】
図6(c)に示す状態の場合、泡は、まだ、エネルギーポテンシャルの井戸内に捕捉されており、キャピラリに沿った加速のような摂動による移動に抵抗する。
【0102】
泡が、それぞれ2つ以上の自由表面の支持に関連したエネルギーを必要とするような2つ以上の泡の塊に分割することなく、単一の塊としての凝集を維持する場合、泡のエネルギーが最低になるのは明らかである。従って、泡は、何らかの高エネルギー事象によって破裂しない限り、1つ凝集性単体のままでいようとする傾向があり、キャピラリ内における流動中に2つ以上の泡に分裂しようとはしない。
【0103】
図6(d)の場合、抵抗器316に加えられる電力は、図6(c)において加えられる電力に比べて増大している。泡がエネルギーポテンシャル障壁を通過し始める時には、泡の自由表面614及び616は、曲率半径がrf, e, barrierからrf, e. gateに増大し、泡は準安定ポイントに達している。更に体積を増すと、不安定になり、ドレイン領域に流入する。
【0104】
図6(e)には、抵抗器316に加えられる電力が、図6(d)において加えられる電力に比べてインクリメンタルに増大した後の装置の状態が示されている。泡は、不安定になっているので、ドレイン領域に流入し始める。自由表面618は、半径が表面620より大きいので、下流方向に泡を移動させる圧力差が生じる。図6(d)及び(e)に示す状態間のある時点において、加熱抵抗器に対する電力の供与を終了することが可能であるが、泡はやはりドレイン領域に吸い込まれる。光信号448は、やはり反射しているように図示されているが、実際には、光コア領域340は、もはや、泡402によって壁306に沿って完全にはカバーされておらず、従って、このスイッチング遷移期間中に、ある程度の光の散乱が生じる可能性がある。
【0105】
泡が、図6(d)におけるその位置から図6(e)における位置に向かって移動すると、流体1の下流への流れの阻止が解除され、従って、本発明の流体弁能力の第2の態様が実施される。しかし、流体1の上流への流れは、以下に述べる図6(f)の時間に後続する時間まで、依然として阻止されている。
【0106】
図6(f)には、移動する泡が、ゲートの光スイッチング領域を出た後の、装置の状態が示されている。光信号348は、もう一度、導波路コア領域340から導波路コア領域346に移動し、本発明のこの実施形態に関する第2の所望の光スイッチング事象が、実現された。自由表面622は、自由表面624よりも半径が大きく、従って、泡は引き続きドレイン領域に送り込まれる。
【0107】
更に、好都合なことには、自由表面622は、半径が図6(e)の自由表面620より大きいので、泡は図6(e)に対応する時間から図6(f)に対応する時間まで加速する。この加速によって、スイッチング時間が短縮され、装置の動作速度が上昇する。この利点は、障壁領域からの距離が増すにつれてドレイン領域を拡大することによって得られる。
【0108】
図6(f)に示す時点において、泡はまだ壁に拘束されている。泡は、図6(f)の時間に後続する時間において、引き続き、障壁領域から離れるので、図6(d)の時間に後続する時間において阻止が解除された流体1の下流への流れに加えて、流体1の上流への流れの阻止を完全に解除するため、最終的にはドレイン領域内においてキャピラリの1つ以上の壁との接触を必ず持続できなくなる。
【0109】
こうした完全な阻止解除は、本発明の流体弁能力のもう1つの有利な特徴であり、少なくとも5つのやり方で実現可能である。第1に、泡は、ドレイン領域の幅が障壁領域からの距離が増すにつれて広くなるということだけのために、ドレイン領域の壁との接触を維持できなくなる可能性がある。第2に、泡は、ほとんど、液体の流体1を気化させることによって生じた蒸気から構成される場合、蒸気を生じさせた熱源から離れるにつれて収縮する傾向があり、従って、ドレイン領域の1つ以上の壁から離れようとする。第3に、泡は、ほとんど液体の流体1内の溶液から遊離して、その泡を生じた気体から構成される場合、やはり、流体1がより多くの気体を溶解させることが可能であるようなより冷えた領域に遭遇すると、収縮する傾向がある。泡は、気体と蒸気の混合物である場合には、冷えると急速に収縮して蒸気が液体に変わり、更にその気体成分が液体に溶解するにつれて、より緩やかに収縮しようとする可能性ある。第4に、泡はドレイン領域が接続されている流体1の出口リザーバに入り込み、リザーバへの流入につれて、ドレイン領域の壁から離れる可能性がある。第5に、泡は、例えば、流体2を通過させるが、流体1を通過させないフィルタ、膜、細孔等との遭遇といった、流体1の部分からそれを分離する何らかの手段によって、ドレイン領域から抽出することが可能である。
【0110】
ABC装置のスイッチング動作の電力雑音余裕は、泡を図6(b)に示す状態に維持するのに必要な電力と図6(d)におけるような準安定ポイントに達するのに必要な電力の差と定義される。ローバストな装置の動作の場合、電力雑音余裕は、環境的影響によるところの予測される揺らぎより大きいことが望ましい。障壁領域の容積が増すにつれて、電力雑音余裕が大きくなるのは明らかである。実施形態300の場合、障壁領域325の容積は、Vbarrier=(h×wbarrier×Lbarrier)として計算することが可能であり、ゲートの容積は、Vgate=(h×wgate×Lgate)として計算することが可能である。(Vgate+Vbarrier)/Vgateで示される比によって、様々な設計選択に関する相対的雑音余裕が表示される。
【0111】
キャピラリに沿った加速に対する泡402の抵抗は、泡の移動を阻止する働きをする2つの領域間の接合部における平衡自由表面半径の比によって決まる。ソース領域とゲート領域、又はゲート領域と障壁領域といった2つの領域間の接合部での流れの方向において泡に対して持続可能な単位面積当たりの力は、ただ単に、その2つの領域間における平衡自由表面圧力の差、即ち、エネルギーポテンシャル差にすぎない。加速のための泡の単位面積当たりの局所有効質量は、泡の長さに、流体1と流体2の密度差を掛けたものにすぎない。従って、泡をポテンシャルの井戸から押し退けない場合の最大持続可能加速は、エネルギーポテンシャル差、密度差、及び泡の長さを掛け合わせることによって得られる。
【0112】
以上の説明では、流体のモーメンタム効果がほとんど役割を果たさない、本発明の実施形態300の低周波数の準静的動作だけしか考慮されていない。当該技術者には明らかなように、周波数が高くなると、流体のモーメンタム効果が生じ、最終的には、流体のモーメンタム効果と熱効果の両方によって、本発明の高いほうの動作周波数が制限される。
【0113】
実施形態300は、この明細書作成時点における本発明の望ましい実施態様とみなされる。例えば、実施形態300によるスイッチング時間は、流体1がシクロヘキサンの場合、図6(d)の状態と図6(f)の状態間における遷移について、3ミリ秒未満であることが分かった。例えば、実施形態300の典型的な寸法は、h=50μm、wsource=15μm、Lsource=250μm、wgate=18μm、Lgate=90μm、wbarrier=18μm、Lbarrier=30μm、wdrain>30μm、及び、Ldrain=170μmである。
【0114】
図3、図4、及び図6に示す実施形態300の場合、壁306及び308は、光信号348及び448の伝搬平面に対して略垂直であり、これは光の透過及び反射のために有利である。他の実施形態では、円形、楕円形、又は本発明の範囲を逸脱することなく、多角形を含む様々な断面形状を備えたキャピラリが造られ、利用される。例えば、1つの基板内にエッチングされたテーパ状のトレンチに、フラットな第2の基板をかぶせて、本発明の他の実施形態において用いることができる、略台形の断面のキャピラリを形成することが可能である。キャピラリが連続した壁を備える必要はない。セグメント化壁、その全長に沿って連続したグルーブを備える壁、或いは、間隔の密な柱のアレイでも、泡を壁で拘束し、同時に、式13の所望のエネルギーポテンシャル関係が得られるようにする働きが可能である。
【0115】
本発明の他の実施形態は、疎流体性キャピラリにおいて機能することが可能である。図7には、こうした疎流体性実施形態700の断面図が例示されている。流体2の泡702は、流体1による不十分な湿潤が施された、材料704のキャピラリ壁によって拘束されている。例えば、流体1は液体水銀とし、流体2は空気とすることが可能であり、一方、材料704はガラスとすることが可能である。泡702は、弁716を介して送り込まれる。弁716は、機械的弁とすることもできるし、それ自体独立したABC装置とすることもできるし、或いは、独立した流体装置とすることも可能である。いずれにせよ、スイッチング、弁機能、及び、ポンピングに関する実施形態700の内部動作は、純粋に流体的であり、泡を送り込む手段は、あまり重要ではない。
【0116】
キャピラリには、ソース領域721、ゲート領域723、障壁領域725、及びドレイン領域727が含まれている。疎流体性の実施形態に関する個々の領域の有効自由表面半径間において必要な関係は、次のように表される:
f, e, source>rf, e, barrier>rf, e, gate>rf, e, drain
(式16)
【0117】
こうした疎流体性の実施形態の場合、流体2の泡の湾曲方向が、図3の親流体性の実施形態とは逆であり、従って、流体2の壁に拘束された泡内の圧力は、流体1よりも低くなる。
【0118】
流体2は、気体と液体のいずれかとすることが可能であり、従って、弁716を介したその導入は、気圧と液圧のいずれかの性質となる。
【0119】
泡が気体で、その内圧が流体1よりも低い場合、単純に、泡は崩壊するものと予測されるが、流体1内のより高い圧力は、泡内の気体の塊によって支持されるのではなく、泡の界面における拘束表面張力によって支持されるので、そういうことにはならない。
【0120】
実施形態700の場合、差圧の符号が実施形態300の場合と比べると逆になり、式4による各差圧はゼロ未満になる。各差圧の大きさによって、下記の関係式が満たされる
|ΔP f, e, source |<|ΔP f, e, barrier |<|ΔP f, e, gate |<|ΔP f, e, drain | (式17)
【0121】
式17において、垂直線の括弧||は、差圧の絶対値(大きさ)を表している。任意の2つの差圧間における減算の符号は、2つの領域のエネルギーポテンシャル差を計算するため、実施形態300との比較で逆にしなければならないので、式13によって示されるエネルギーポテンシャルの関係は、それにもかかわらず、実施形態700に関して実現される。従って、例えば、実施形態700の場合、ゲート領域が、エネルギーポテンシャルがゼロであると定義される基準点として選択されると、Πsource=ΔPf, e, gate−ΔPf, e, sourceになる。
【0122】
実施形態700の動作は、実施形態300の動作と類似している。泡は、ゲート領域723に送り込まれて、エネルギーの入力につれて成長し、障壁領域725を充填し、不安定になって流出してドレイン領域727に入り込む。図示の泡702の状態は、準安定状態であり、ドレイン領域に向かって更に成長すると、不安定になって、ドレイン領域に流入する。従って、図7の実施形態700の状態は、時間的に、図6(d)の実施形態300の状態に対応する。
【0123】
ドレイン領域727の幅は、障壁領域725からの距離が増すにつれて狭くなるので、泡702は、ただ単に、キャピラリが実施形態300の場合と同様に広くなったからといって、その移動につれてキャピラリ壁から離れることはできない。従って、実施形態700の場合、流体1の自由な流れを回復するために利用可能なメカニズムが、上記実施形態300よりも少なくとも1つ少なくなる。
【0124】
本発明の他の実施形態は、ジオメトリの差ではなく、表面湿潤特性の差を用いることも可能である。図8には、ソース領域、ゲート領域、障壁領域、及びドレイン領域を通じて、ジオメトリは一様であるが、式13の関係が、異なる材料の利用によって実現される、本発明の実施形態800が例示されている。
【0125】
図8(a)には、4つの領域の異なる平衡自由表面半径を明らかにするため、装置800の4つの領域における4つの壁に拘束された泡が例示されている。ソース領域802、ゲート領域804、障壁領域806、及び、ドレイン領域808は、それぞれ、材料810、812、814、及び、816による壁を備えており、それぞれ、壁に拘束された泡818、820、822、及び、824を含んでいる。実施形態800において、壁は、一般に、親流体性であるが、湿潤特性は、式11で示された平衡自由表面半径間の関係を意図に従って実現するため、変化する。
【0126】
図8(b)には、実施形態800の基本動作がABC装置として例示されている。流体2の単一の泡826は、例えば、レーザ・ビームによって加熱される吸収材料の小片とすることが可能な泡発生器828によって生じる。自由表面830及び832は、障壁領域の平衡自由表面半径rf, e, barrierによって決まる等しい曲率半径を備えている。泡は、ゲート領域と障壁領域の両方を満たしており、泡の体積がインクリメンタルに増大すると、泡が障壁領域808に侵入し、ゲート領域804から出て行くことになる準安定ポイントにある。図8(b)に示す実施形態800の例示の状態は、従って、図6に示す実施形態300の状態及び図7に示す実施形態700の状態に対応する。
【0127】
図9には、液体から溶解した気体を除去するために用いられる、本発明の親流体性の実施形態900が例示されている。図9(a)は平面断面図であり、図9(b)は側方断面図である。泡902には、加熱器906によって液体904から遊離した溶解気体と、加熱器906によって発生した液体904の蒸気が含まれている。複数のソース領域の隘路908、910、及び912によって、液体904のゲート領域914への流入が可能になる。泡をドレイン領域918内に流入させ、従って、液体流920の近くから除去するのに十分なエネルギーが追加されるまで、障壁916によって泡902は捕捉されている。液体904の流れ920は、それがポイント922から装置に流入する溶解気体内の位置では満たされていても良いが、ポイント924から流出する溶解気体内の位置では少なくなる。当然明らかなように、例証のため、3つのソース領域の隘路908、910、及び、912だけしか示されていないが、実際には、溶解気体を液体904から効率よく除去するためには、並列に作用する多くのソース領域隘路が存在することが望ましく、更に、溶解気体の濃度を効率よく低下させるため、流れ920に対して実施形態900のような装置の複数例を直列に配置することも可能である。
【0128】
実施形態900の構造の詳細は、次の通りである。材料926は、リソグラフィ手段でグルーブを形成することによって、キャピラリの側壁を形成することが可能な、フォトレジスト又は感光性エポキシといった写真形成可能なポリマとすることが可能である。材料928は、材料926の上に結合されて、キャピラリの天井を形成するガラス層とすることが可能である。層930は、加熱器930を被う二酸化珪素のような電気的絶縁材料である。層932は、二酸化珪素のような電気的絶縁層で、且つ断熱層であり、基板934は、シリコンのような熱伝導性材料である。
【0129】
本発明は、主として、熱キャピラリ現象、即ち、マランゴニ効果に依存するのではなく、代わりに、主として、キャピラリのジオメトリと材料の特性に依存して、泡の移動を制御するものである。曲率半径のジオメトリ効果が、表面張力に対する温度効果よりもはるかに大きくなるように設計することができるので、本発明は、マランゴニ現象が、その動作を助けるか、又は妨げるかに関係なく、上述の300及び700のような実施形態において機能する。ただし、マランゴニ効果は、泡がゲートから流出する方向を選択するため、本発明の複数ドレイン・バージョンにおいて二次制御効果として用いることも可能である。
【0130】
図10には、複数障壁領域1002及び1004と、複数ドレイン領域1006及び1008を備えた親流体性実施形態1000の略平面断面図が示されている。実施形態1000のために設定された材料は、実施形態900のものと同じにすることが可能であるが、これは必要ではない。
【0131】
加熱器1010は、ゲート1014領域内において泡1012を発生するが、この泡は、比較的高いエネルギーポテンシャルによって障壁領域1002、障壁領域1004、及びソース領域1016に捕捉される。障壁領域1002及び1004は、同じ平衡自由表面半径を備えるように設計されているが、製造上のばらつきによって、ほとんど必ずといえるほど半径が多少異なることになる。従って、泡は、ほとんど必ず、障壁領域1002及び1004の一方又はもう一方を通って、ゲート領域1016を出るが、同時に両方を通ることはまずほとんどない。
【0132】
しかし、上記式4を検討すれば分かるように、マランゴニ効果を利用すれば、泡の表面張力を局所的に弱めることによって、一方の障壁領域における平衡自由表面圧力をもう一方の障壁領域に対して低下させることが可能になる。流体1内で測定される平衡接触角θeは、温度に対して略一定であり、キャピラリのジオメトリと連係して、障壁領域内における平衡自由表面半径rf, eが温度に対して略一定になるようにする。しかし、表面張力σは、温度上昇につれて弱まり、従って、平衡自由表面圧力ΔPf, eも、温度上昇につれて低下する。障壁領域の一方、例えば、1002が、加熱器1018によって加熱されるが、加熱器1020は冷えたままの場合、平衡自由表面圧力ΔPf, eは、障壁領域1002内において低下し、従って、その障壁領域のエネルギーポテンシャルは、障壁領域1004に対して低下する。従って、泡1014にとっては、障壁領域1004を通るよりも、障壁領域1002を通ってゲート領域1014から流出するほうが容易になる。
【0133】
ソース領域1016は、上述の実施形態におけるように、液体の再充填経路の働きをすることも可能である。しかし、障壁領域1004を通るドレイン領域1008からの流れを逆にするのに制約がなければ、やはり、或いは代わりに、ドレイン領域1008、障壁領域1004を通ってゲート1014に流入する再充填を実施することも可能である。従って、実施形態1000の場合、障壁領域は、ソース領域として機能することも可能である、即ち、局所的加熱手段によって、ソース領域と障壁領域の機能的役割を逆にすることが可能である。こうした実施形態の場合、ソース領域1016は、塞ぐか又はなくすことが可能であり、障壁領域の一方又はもう一方がソース領域の働きをするので、装置は、やはり機能を果たすことが可能である。図12には、図10と同様の実施形態が示されているが、ソース領域1016が存在しない。図12の実施形態の場合、障壁領域の一方(図10の障壁領域1002及び1004と同様の)は、ソース領域として機能することが可能である。位置1216(図10のソース1016の位置に対応する)において、固体材料が、ゲート領域の壁を形成している。
【0134】
好都合なことに、実施形態1000は、低速で故障しやすくサイズを小さくするのが困難な可能性のある自在ゲート又は他の機械式弁のような固体可動部を利用せずに、流体の移動方向を制御することが可能である。
【0135】
図11には、2つのABC装置1102及び1104がタンデムに配置されて、領域1106に、上流のABC1102の障壁領域と、下流のABC1104のソース領域の両方が含まれ、領域1108に、上流のABC装置1102のドレイン領域と、下流のABC装置1104のゲート領域の両方が含まれるようになっている、本発明の実施形態1100が示されている。この構成は、下流のABC装置のゲート領域1108への泡の注入、及び、そのゲート領域からの泡の抽出が、同じタイプのメカニズムによって行われるので、ABC装置1104の動作にとって有利な可能性がある。
【0136】
泡1110は、例えば流体1を構成する水を電解して、流体2を構成する酸素と水素の混合気にするような1組の電極とすることが可能な泡発生器1114を用いて、上流のABC装置のゲート領域1112においてあらかじめ発生させられる。
【0137】
泡1110は、更に、上流のABCの障壁領域1106を満たすか、又は、略満たすために、エネルギー入力によって体積を増大させることが可能であり、これによって、泡は、エネルギーが準安定ポイントをわずかに下回るほどになる。従って、泡はエネルギー入力を少し追加することによって、下流のABC装置1104のゲート領域1108に迅速に注入することが可能になる。例えば、下流のABC1104への泡1110の注入は、微小流体手段によって実施される。好都合なことには、準安定ポイントにある場合、泡1110の体積は、下流ABC1104のゲート領域1108の容積に等しくなるように設計することができるので、最初に、ゲート領域1108に注入されると、泡によって該領域が完全に満たされることになる。
【0138】
下流ABC装置1104の場合、泡は、例えば、加熱抵抗器とすることが可能な構成要素1116によって維持される。上記実施形態300におけるのと同様に、構成要素1116に対する電力を増すと、泡のサイズが大きくなり、最終的に、泡が障壁領域1118を通って流出し、下流のABC1104のドレイン領域1120に入り込むと、第2のスイッチング動作を生じることになる。
【0139】
上記の実施形態300(図3)、700(図7)、800(図8)、及び、900(図9)では、泡の注入、泡の維持、及び、泡の成長の全ての態様を一元的に可能にする加熱抵抗器、弁、又はレーザで加熱される小片といった装置例が示されている。対照的に、実施形態1000(図10)及び1100(図11)には、分割された泡移動機能が示されている。実施形態1000の場合、加熱器1010は、泡を発生して泡をゲート領域内で維持し、一方加熱器1018は、泡の成長方向に制御を加え、更に、熱を発生して泡の体積の増大を助けることも可能である。実施形態1100の場合、泡は、発生器1114によって発生し、上流のABC装置1102によって下流のゲート領域1108に送り込まれ、構成要素1116によって維持されて、更に、同じ構成要素1116によって体積が増大させられる。従って、上記実施形態には、一元化泡制御機能と分割泡制御機能の例が示されており、また、泡の発生、注入、維持、成長、及び移動に用いることが可能な熱、空気圧、水圧、光学、電解、及び、微小流体メカニズムの例が示されている。当該技術者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、例えば、超音波攪拌による気泡の発生といった、泡の発生、注入、維持、成長、及び、移動に関する他のメカニズムを思いつくことであろう。
【0140】
以上の例は、流体1に対して親流体性か、又は流体1に対して疎流体性の実施形態に関連したものである。しかし、当該技術者であれば、本開示に基づいて、親流体性部分と疎流体性部分を混合した実施形態を実施することが可能である。
【0141】
流体の様々なジオメトリ、様々な材料、及び、様々な組み合わせを利用して、本発明を実施することが可能である。下記の表1には、可能性のあるいくつかのABC実施形態の例が示されている。これらの実施形態は、制限するものと解釈すべきではなく、むしろ例証となるものである。
【0142】
【表1】
Figure 0004409688
【0143】
表1において、「親流体性」ジオメトリは、流体1内で測定される平衡接触角が90度未満で、式12の圧力関係式が満たされる、上述の実施形態300と同様である。「疎流体性」ジオメトリは、流体1内で測定される平衡接触角が90度を超え、式17の圧力関係式が満たされる上述の実施形態700と同様である。「湿潤」ジオメトリは、ジオメトリの変動ではなく、壁面材料の湿潤特性の変動によって、式13のエネルギーポテンシャル関係を実現する、実施形態800と同様である。当然明らかなように、本発明の全ての実施形態において、湿潤特性は、ABC装置の機能性にとって重要である。
【0144】
上述の実施形態は、全て例示のため、単一平面にソース領域、ゲート領域、障壁領域、及び、ドレイン領域が配置されているが、これは、マイクロエレクトロニクスの世界では熟知されているリソグラフィ技法を利用して、単一平面に構成要素を製作するのが容易であるためである。しかし、領域の共平面性は本発明の要件ではない。例えば、図3に示すような実施形態300に修正を加えて、ソース領域が、材料304ではなく、材料315内に形成されるようにするのは、簡単なことである。図13(a)及び13Bには、こうした実施形態が例示されている。図13(a)の場合、ゲート領域が、スイッチング装置1300の異なる平面にあるので、ソース領域がゲート1306に接続されているところは見えない。位置1330(図4の位置406のような実施形態におけるソース領域の位置に対応する)は、単なる固体材料である。実施形態1300の場合、ソース領域1350は、ゲート領域1306及び下流チャネルの配向に対して直角になるようにゲート領域1306に接続されている。ソース領域1350の反対側にある、ゲート領域1306のもう一方の側における空間1315は、固体材料によって閉塞されている。図14には、実施形態1300と同様の実施形態1400が示されているが、位置1430に、独立したソース領域が存在しない。独立したソース領域1350が存在する実施形態1300とは対照的に、実施形態1400の場合、キャピラリのいずれかの側に層1408が存在する。この極端な事例の場合、流体1の再充填は、移動する泡と行き違う漏出流によって可能になる。泡1402が、ゲート領域1404からドレイン領域1406に流れる際、流体1は、ドレイン領域からゲート領域への上流方向におけるブロー・バイ経路1410、1412、1414、及び、1416に流入することによって、ゆっくりとゲート領域1404を再充填することが可能である。
【0145】
当該技術者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書で考察した以外の本発明の応用例を思いつくことであろう。こうした応用例は、とりわけ、遺伝子工学(ゲノミクス)、蛋白質工学(プロテオミクス)、化学分析、生物医学、光学、及び微小流体学の分野において生まれるものと予測される。こうした応用例は、例えばABC装置に生じるエネルギーポテンシャルに対する補助、対抗、又は修正のため、加速又は遠心力のような慣性手段のような他のエネルギーポテンシャル源を用いることが可能である。例えば、遠心力によって、捕捉した泡の体積を増すことなく、そのエネルギーを増大させることが可能になる。疎流体性システムに用いることが可能な疎流体性壁材料の一例としては、例えば、デュポン社製のテフロンのようなポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。
【0146】
本発明の以上の実施形態について、詳細に解説して例示してきたが、もちろん、当該技術者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、修正を加えることが可能である。更に、泡の移動に関する科学的理論について上述したが、本発明の応用例は、どの特定の理論にも依存するものではなく、当該技術者による実施が可能である。
【0147】
本発明を上述の実施形態に即して説明すると、本発明は、光スイッチ300であって、(a)ソース領域321、ゲート領域323、障壁領域325、及び、ドレイン領域327を有し、前記ソース領域321、前記ゲート領域323、前記障壁領域325、及び前記ドレイン領域327がこの順序で空間的に相互接続されているキャピラリ312にして、該キャピラリ312内の前記ソース領域321、前記ゲート領域323、前記障壁領域325、及び前記ドレイン領域327が異なるエネルギーポテンシャルを備えていることと、前記キャピラリ312にある流体とは異なる液体が充填されている場合に、前記異なるエネルギーポテンシャルが壁に拘束された前記流体の泡402を前記キャピラリ312に送り込むことに関連し、前記ソース領域321のエネルギーポテンシャルは前記障壁領域325のエネルギーポテンシャルよりも高く、前記障壁領域324のエネルギーポテンシャルは前記ゲート領域323のエネルギーポテンシャルよりも高く、前記ゲート領域323のエネルギーポテンシャルは前記ドレイン領域327のエネルギーポテンシャルよりも高く設定されるキャピラリ312と、(b)前記ゲート領域323と交差する第1の光路340及び第2の光路346であって、前記ゲート領域323に前記キャピラリ312に整合する屈折率の液体が充填されている場合に、前記第1の光路340内の光信号が前記ゲート領域323を通過して前記第2の光路346に達することが可能となるよう構成される第1の光路340及び第2の光路346と、(c)前記液体とは屈折率が異なる前記流体の前記泡402を前記ゲート領域323に送り込んで、前記ゲート領域の液体を変位させ、これによって前記第1の光路340と前記第2の光路346との間における光の伝達を阻止する泡供給器316が含まれており、前記泡402のエネルギーを増大すると、前記ゲート領域323と前記ドレイン領域327との間におけるエネルギーポテンシャル差のために、前記泡402が下流に移動し、前記ゲート領域323に前記ソース領域321からの前記液体が再充填されて、前記第1の光路340と前記第2の光路346との間の光の伝達が回復することを特徴とする光スイッチ300を提供する。
【0148】
好ましくは、更に、第3の光路342が含まれていて、気相の泡がゲート領域323を略満たしている場合、光信号が、ゲート領域323から第3の光路342内に略全反射されるようになっている。
【0149】
好ましくは、更に、第3の光路342が含まれていて、気相の泡がゲート領域323を略満たしている場合、光信号が、ゲート領域323から第3の光路342内に略全反射されるようになっており、且つ、第4の光路344が含まれていて、ゲート領域323に液体が充填されている場合、第2の光信号が、第3の光路342と第4の光路344の間のゲートを通過することができるようになっている。
【0150】
好ましくは、前記異なるエネルギーポテンシャルが、概ね前記キャピラリ312の距離に応じた前記キャピラリのジオメトリの変動によって生じることと、前記流体と前記液体の両方のキャピラリ湿潤特性が、前記キャピラリ312の距離に関して略一定である。
【0151】
好ましくは、前記ソース領域321、前記ゲート領域323、前記障壁領域325、及び前記ドレイン領域327が、高さが略一様で幅の異なる略矩形の断面を備えていることと、前記ゲート領域323はゲート幅を有し、前記障壁領域325は前記ゲート幅より狭い障壁幅を備え、前記ドレイン領域327は前記ゲート幅より広いドレイン幅を備え、前記ソース領域321は前記障壁幅より狭いソース幅を備える。
【0152】
好ましくは、前記第1の光路340は第1の導波路を経由し、前記第2の光路346は第2の導波路を経由することと、前記導波路がそれぞれ前記ゲート領域323まで延びるゲート領域接触部分を備えていることと、前記ゲート領域323に前記液体が充填されている透過状態の間、前記導波路の前記ゲート領域接触部分間における光通信のために前記光路の各々のアライメントがとられるが、前記ゲート領域323にほとんど液体がない場合、前記光路340と346間における光の透過はほとんど生じないよう構成される。
【0153】
好ましくは、前記泡供給器316に、前記ゲート領域323に隣接した電気抵抗加熱器が含まれており、前記キャピラリ312が前記液体で満たされると、光信号の光路を制御するため、加熱によって前記液体内に前記ゲート領域323の容積を略満たす壁に拘束された気相の前記泡402を生じさせることが可能になり、前記泡402が前記ゲート領域323を略満たすと光信号の通過が阻止されることと、このようにして前記電気抵抗加熱器によって気相の前記泡402の体積を増すことによって、前記ゲート領域323及び前記障壁領域325の両方を満たし、前記ドレイン領域327に送り込むことが可能になることと、このようにして気相の前記泡402の体積を更に増すことによって、前記泡を前記ゲート領域323から前記ドレイン領域327に移動させることが可能になる。
【0154】
好ましくは、前記電気抵抗加熱器に、2つのユニット、即ち、気相の前記泡を生じさせるためのユニット1114と、前記液体を加熱して気相の前記泡の体積が増し、前記ゲート領域1108及び前記障壁領域1118の両方を満たして、前記ドレイン領域1120に入り込むようにするための他のユニットが含まれていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の光スイッチ1100。
【0155】
更に本発明は、光スイッチングの方法であって、(a)ソース領域321、光学領域323、障壁領域325、及びドレイン領域327がその空間順序で接続されており、前記ソース領域321、前記光学領域323、前記障壁領域325、及び前記ドレイン領域327が異なるエネルギーポテンシャルを備えており、該異なるエネルギーポテンシャルは、前記キャピラリ312に液体が充填されている場合に、壁に拘束された流体の泡402を前記キャピラリ312に送り込むことに関連しており、前記異なるエネルギーポテンシャルに関して、(i)前記ソース領域321のエネルギーポテンシャルは、前記障壁領域325のエネルギーポテンシャルより高くなり、(ii)前記障壁領域325のエネルギーポテンシャルは、前記光学領域323のエネルギーポテンシャルより高くなり、(iii)前記光学領域323のエネルギーポテンシャルは、前記ドレイン領域327のエネルギーポテンシャルより高くなるように順序づけられ、前記キャピラリ312内における前記液体が充填された前記光学領域323を介して、1つの光路340からもう1つの光路346に光を透過する工程と、(b)前記光学領域323内に前記流体の前記泡402を送り込んで拘束し、前記光学領域323の前記泡402のエネルギーが、前記光学領域323から前記ドレイン領域327に流出するのに必要なエネルギーより低くなるようにし、前記泡402によって前記光学領域323の光の透過が阻止されるようにする工程と、(c)引き続き、前記泡402のエネルギーを増大させ、前記光学領域323と前記ドレイン領域327とのエネルギーポテンシャルの差によって、前記光学領域323から前記泡402を送り出す工程と、(d)前記泡402が前記光学領域323から流出するにつれて、前記ソース領域321から前記光学領域323に前記液体を流入させ、1つの経路340ともう1つの経路346の間における光の伝達を回復させる工程とが含まれている。
【0156】
好ましくは、前記流体の移動を制御するための装置300であって、(a)その内部にエネルギーポテンシャルの異なる領域321、323、325、327を備えるキャピラリ312であって、前記エネルギーポテンシャルが、前記キャピラリ312に第2の流体と混合することのできない第1の流体が充填されている場合に、壁に拘束された前記第2の流体の前記泡402をキャピラリ312に送り込むことに関連しており、前記ソース領域321、前記ゲート領域323、前記障壁領域325、及び前記ドレイン領域327を含む領域が、その空間順序で接続されて、前記エネルギーポテンシャルに関して、
(i)前記ソース領域321のエネルギーポテンシャルは、前記障壁領域325のエネルギーポテンシャルより高くなり、(ii)前記障壁領域325のエネルギーポテンシャルは、前記ゲート領域323のエネルギーポテンシャルより高くなり、(iii)前記ゲート領域323のエネルギーポテンシャルが、前記ドレイン領域327のエネルギーポテンシャルより高くなるように順序づけられるキャピラリ312と、(b)前記ゲート領域323に前記第2の流体の前記泡402を送り込む泡供給器316と、(c)前記泡402のエネルギーを増大させて、前記ゲート領域323と前記ドレイン領域327との間におけるエネルギーポテンシャルの障壁を克服し、前記ゲート領域323と前記ドレイン領域327との間におけるエネルギーポテンシャルの差によって、前記泡が前記ゲート領域323から前記障壁領域を越えて前記ドレイン領域327に送り込まれるようにする電源316が含まれている。
【図面の簡単な説明】
【図1】泡の異なる自由表面に2つの異なる曲率半径を備えた、キャピラリ内の泡を示す概略図である。
【図2】良好な表面湿潤及び不十分な表面湿潤を例証した、表面上の液滴を示す断面図である。
【図3】(a)は、光スイッチングに用いられる本発明の実施形態の平面断面図であり、(b)は(a)の実施形態の断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、それぞれ泡が存在する場合の図3(a)及び図3(b)の実施形態を示す図である。
【図5】図3及び4の実施形態の個々の領域におけるエネルギーポテンシャルの概略図である。
【図6】(a)乃至(f)は、図3及び4の実施形態に関するスイッチング動作の進展を示す略平面図である。
【図7】流体に対して疎流体性のキャピラリ壁を含む本発明の実施形態に関する断面図である。
【図8】(a)は、ジオメトリではなく、キャピラリ材料の特性を用いて、エネルギーポテンシャルにおける所望の非対称性を生じさせる、本発明の実施形態の略平面図であり、(b)は、キャピラリ材料の特性を用いて、エネルギーポテンシャルにおける所望の非対称性を生じさせる、加熱器を備えた本発明の実施形態の略平面図である。
【図9】(a)及び(b)は、熱的液体脱気装置として用いられる本発明の実施形態を相違する方向の断面として示す図である。
【図10】マランゴニ効果を利用して、2つの障壁領域のどちらか泡の出口経路の働きをするほうを制御する、本発明の実施形態の平面図である。
【図11】下流のABC装置のスイッチング遷移速度を最高にするため、2つのABC装置がタンデムに配置された本発明の実施形態の断面図である。
【図12】ソース領域のない本発明の実施形態に関する平面図である。
【図13】(a)は、異なる平面に配置された領域を備える本発明の実施形態の平面断面図であり、(b)は、(a)の平面に対して直角をなす平面において描かれた、(a)の実施形態に関する断面図である。
【図14】(a)は、独立したソース領域のない本発明の実施形態に関する平面断面図であり、(b)は、(a)のライン14B−14Bに沿った断面図である。
【符号の説明】
300 光スイッチ
312 キャピラリ
316 泡供給器
321 ソース領域
323 ゲート領域
325 障壁領域
327 ドレイン領域
340 第1の光路
342 第3の光路
344 第4の光路
346 第2の光路
402 泡
1108 ゲート領域
1114 泡発生ユニット
1118 障壁領域
1120 ドレイン領域

Claims (10)

  1. 光スイッチであって、
    (a)ソース領域(321)、ゲート領域(323)、障壁領域(325)、及びドレイン領域(327)を含み、前記ソース領域(321)、前記ゲート領域(323)、前記障壁領域(325)、及び前記ドレイン領域(327)がこの順序で空間的に相互接続されているキャピラリ(312)であって、該キャピラリ(312)内の前記ソース領域(321)、前記ゲート領域(323)、前記障壁領域(325)、及び前記ドレイン領域(327)が異なるエネルギーポテンシャルを備え、前記キャピラリ(312)が、領域のエネルギーポテンシャルが壁に拘束された所定の体積の泡を前記キャピラリの領域に送り込むのに必要な最低エネルギーであるように流体とは異なる液体で充填されている場合に、前記異なるエネルギーポテンシャルが壁に拘束された前記流体の泡(402)を前記キャピラリ(312)に送り込むことに関連し、前記ソース領域(321)のエネルギーポテンシャルが前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルよりも高く、前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルが前記ゲート領域(323)のエネルギーポテンシャルよりも高く、前記ゲート領域(323)のエネルギーポテンシャルが前記ドレイン領域(327)のエネルギーポテンシャルよりも高い、キャピラリと、
    (b)前記ゲート領域(323)と交差する第1の光路(340)及び第2の光路(346)であって、前記ゲート領域(323)が前記キャピラリ(312)に整合する屈折率の液体で充填される場合に、前記第1の光路(340)内の光信号が前記ゲート領域(323)を通過して前記第2の光路(346)に達することが可能である、第1の光路及び第2の光路と、
    (c)前記液体とは屈折率が異なる前記流体の泡(402)を前記ゲート領域(323)に導入して、前記ゲート領域の液体を変位させ、これによって前記第1の光路(340)と前記第2の光路(346)との間における光の伝達を阻止する泡供給器(316)であって、前記ゲート領域(323)に隣接した電気抵抗加熱器を含む、泡供給器(316)と、
    (d)前記ゲート領域(323)と前記ドレイン領域(327)との間におけるエネルギーポテンシャルの差に起因して、前記泡(402)を下流に移動させると共に、前記ゲート領域(323)を前記ソース領域(321)からの前記液体で再充填することにより、前記第1の光路(340)と前記第2の光路(346)との間の光の伝達を回復するように、前記泡(402)のエネルギーを増大させるための手段とを含む、光スイッチ。
  2. 第3の光路(342)を含み、気相の泡が前記ゲート領域(323)を満たしている場合、光信号が、前記ゲート領域(323)から前記第3の光路(342)内に全反射されるようになっている、請求項1に記載の光スイッチ。
  3. 第3の光路(342)を含み、気相の泡が前記ゲート領域(323)を満たしている場合、光信号が、前記ゲート領域(323)から前記第3の光路(342)内に全反射されるようになっており、第4の光路(344)を含み、ゲート領域(323)が液体で充填されている場合、第2の光信号が、前記第3の光路(342)と前記第4の光路(344)との間のゲートを通過することができるようになっている、請求項1に記載の光スイッチ。
  4. 前記異なるエネルギーポテンシャルが、前記キャピラリ(312)の距離に応じた前記キャピラリのジオメトリの変動によって生じ、前記流体と前記液体の両方のキャピラリ湿潤特性が、前記キャピラリ(312)の距離に関して一定である、請求項1乃至3のいずれか一つの請求項に記載の光スイッチ。
  5. 前記ソース領域(321)、前記ゲート領域(323)、前記障壁領域(325)、及び前記ドレイン領域(327)が、高さが一様で幅の異なる矩形の断面を備えており、前記ゲート領域(323)がゲート幅を有し、前記障壁領域(325)が前記ゲート幅より狭い障壁幅を有し、前記ドレイン領域(327)が前記ゲート幅より広いドレイン幅を有し、前記ソース領域(321)が前記障壁幅より狭いソース幅を有する、請求項1乃至4のいずれか一つの請求項に記載の光スイッチ。
  6. 前記第1の光路(340)が第1の導波路を経由し、前記第2の光路(346)が第2の導波路を経由し、前記導波路のそれぞれが前記ゲート領域(323)まで延びるゲート領域接触部分を有し、前記ゲート領域(323)が前記液体で充填されている透過状態の間、前記キャピラリ(312)の前記ゲート領域(323)を介した前記導波路の前記ゲート領域接触部分間での光通信のために前記導波路の各々が整合されるが、前記ゲート領域(323)に液体がない場合、前記光路(340、346)の間における光の透過が生じない、請求項1乃至5のいずれか一つの請求項に記載の光スイッチ。
  7. 前記キャピラリ(312)が前記液体で満たされる場合、光信号の光路を制御するために、加熱によって前記液体内に前記ゲート領域(323)の容積を満たす壁に拘束された気相の泡(402)を生じさせることが可能になり、前記気相の泡(402)が前記ゲート領域(323)を満たす場合に光信号の通過が阻止され、前記電気抵抗加熱器(316)によって前記気相の泡の体積を増すことによって、前記ゲート領域(323)及び前記障壁領域(325)の両方を満たし、前記ドレイン領域(327)に送り込むことが可能になり、前記気相の泡(402)の体積を更に増すことによって、前記泡を前記ゲート領域(323)から前記ドレイン領域(327)に移動させることが可能になる、請求項1乃至6のいずれかに記載の光スイッチ。
  8. 前記電気抵抗加熱器が、2つのユニット、即ち、前記気相の泡を生じさせるための第1のユニット(1114)と、前記液体を加熱して前記気相の泡の体積を増大させて、前記ゲート領域(1108)及び前記障壁領域(1118)の両方を満たして、前記ドレイン領域(1120)に入り込むようにするための第2のユニット(1116)からなる、請求項7に記載の光スイッチ。
  9. 光スイッチングの方法であって、
    (a)ソース領域(321)、光学領域(323)、障壁領域(325)、及びドレイン領域(327)を含むキャピラリ(312)内において液体で充填された前記光学領域(323)を介して、一方の光路(340)から別の光路(346)に光を透過し、前記ソース領域(321)、前記光学領域(323)、前記障壁領域(325)、及び前記ドレイン領域(327)がその空間順序で接続されて、前記キャピラリ(312)内で異なるエネルギーポテンシャルを有し、前記キャピラリ(312)が、領域のエネルギーポテンシャルが壁に拘束された所定の体積の泡を前記キャピラリの領域に送り込むのに必要な最低エネルギーであるように液体で充填されている場合に、前記エネルギーポテンシャルは、壁に拘束された流体の泡(402)を前記キャピラリ(312)に送り込むことに関連しており、前記異なるエネルギーポテンシャルに関して、
    (i)前記ソース領域(321)のエネルギーポテンシャルは、前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルより高く、
    (ii)前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルは、前記光学領域(323)のエネルギーポテンシャルより高く、
    (iii)前記光学領域(323)のエネルギーポテンシャルは、前記ドレイン領域(327)のエネルギーポテンシャルより高くなるように順序づけられ、
    (b)前記光学領域(323)に隣接した電気抵抗加熱器を用いて、前記光学領域(323)内に前記流体の泡(402)を導入して拘束し、前記光学領域(323)の前記泡(402)のエネルギーが、前記光学領域(323)から前記ドレイン領域(327)に流出するのに必要なエネルギーより低くなるようにし、前記泡(402)によって前記光学領域(323)の光の透過が阻止され、
    (c)引き続き、前記泡(402)のエネルギーを増大させ、前記光学領域(323)と前記ドレイン領域(327)との間のエネルギーポテンシャルの差によって、前記光学領域(323)から前記泡(402)を送り出し、
    (d)前記泡(402)が前記光学領域(323)から流出するにつれて、前記ソース領域(321)から前記光学領域(323)に前記液体を流入させ、前記一方の光路(340)と前記別の光路(346)との間における光の伝達を回復させることを含む、光スイッチングの方法。
  10. 流体の移動を制御するための装置(300)であって、
    (a)内部にエネルギーポテンシャルの異なる領域(321、323、325、327)を有するキャピラリ(312)であって、前記キャピラリ(312)が、領域のエネルギーポテンシャルが壁に拘束された所定の体積の泡を前記キャピラリの領域に送り込むのに必要な最低エネルギーであるように第2の流体と混合することのできない第1の流体で充填されている場合に、前記エネルギーポテンシャルが、壁に拘束された前記第2の流体の泡(402)をキャピラリ(312)に送り込むことに関連しており、前記領域がソース領域(321)、ゲート領域(323)、障壁領域(325)、及びドレイン領域(327)を含み、前記ソース領域(321)、前記ゲート領域(323)、前記障壁領域(325)、及び前記ドレイン領域(327)がその空間順序で接続されており、前記エネルギーポテンシャルに関して、
    (i)前記ソース領域(321)のエネルギーポテンシャルが、前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルより高く、
    (ii)前記障壁領域(325)のエネルギーポテンシャルが、前記ゲート領域(323)のエネルギーポテンシャルより高く、
    (iii)前記ゲート領域(323)のエネルギーポテンシャルが、前記ドレイン領域(327)のエネルギーポテンシャルより高くなるように順序づけられる、キャピラリ(312)と、
    (b)前記ゲート領域(323)に前記第2の流体の泡(402)を導入するための泡供給器(316)であって、前記ゲート領域(323)に隣接した電気抵抗加熱器を含む、泡供給器(316)と、
    (c)前記ゲート領域(323)と前記ドレイン領域(327)との間におけるエネルギーポテンシャルの差によって、前記泡が前記ゲート領域(323)から前記障壁領域を越えて前記ドレイン領域(327)に送り込まれるように、前記ゲート領域(323)と前記ドレイン領域(327)との間におけるエネルギーポテンシャルの障壁を克服するために前記泡(402)のエネルギーを増大させるための手段とを含む、装置。
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